褥瘡(じょくそう)、いわゆる「床ずれ」は、長時間同じ体勢でいることで皮膚が圧迫され、血流が低下して組織が壊死してしまう状態です。一度発生すると治療が難しく、患者さんの生活の質を大きく下げることから、予防と早期治療が非常に重要とされています。その褥瘡の治療において欠かせないのが「ドレッシング材」です。ドレッシング材とは、傷口を覆うための医療用材料のことで、傷の状態や部位、滲出液の量などによって選ぶべき種類が異なります。適切なドレッシング材を選ぶことが、褥瘡の治癒スピードや患者さんの快適性に直結するため、介護・医療の現場では非常に重要なスキルとなっています。この記事では、褥瘡治療に使われるドレッシング材の種類と特徴、そして選び方のポイントをわかりやすく解説します。
目次
- 褥瘡(床ずれ)とは何か
- ドレッシング材の役割と重要性
- モイストヒーリング(湿潤療法)とは
- 褥瘡のドレッシング材の主な種類
- 褥瘡の深さ(ステージ)とドレッシング材の選び方
- 滲出液の量による選び方
- 部位による選び方のポイント
- 感染が疑われる場合のドレッシング材
- ドレッシング材の交換頻度と注意点
- ドレッシング材を使用する際の注意事項
- まとめ
この記事のポイント
褥瘡のドレッシング材はハイドロコロイド・フォーム・アルギン酸塩など多種あり、傷のステージ・滲出液量・感染の有無に応じた選択と定期的な見直しが治癒の鍵となる。圧迫除去や栄養管理との併用が不可欠。
🎯 褥瘡(床ずれ)とは何か
褥瘡とは、骨の突出部位や関節部など、体重がかかりやすい部分の皮膚が長時間にわたって圧迫されることで発生する皮膚潰瘍です。圧力によって血液の循環が妨げられると、組織への酸素や栄養の供給が絶たれ、細胞が壊死します。これが床ずれの発生メカニズムです。
褥瘡が発生しやすい部位は、仙骨部(お尻の真ん中あたり)、踵(かかと)、坐骨部、肩甲骨、後頭部などです。寝たきりや車椅子を使用する方に多く見られますが、手術後の安静期間中や意識障害がある患者さんにも発生します。
褥瘡の重症度は「ステージ分類」や「NPUAP(米国褥瘡諮問委員会)の分類」などによって評価されます。日本ではDESIGN-Rという評価ツールが広く用いられており、傷の深さ、滲出液の量、大きさ、炎症や感染の有無などを点数化して治療の方向性を決定します。
初期のステージでは皮膚が赤くなる程度ですが、進行すると皮膚が破れ、さらには皮下脂肪や筋肉、骨に達するほどの深い潰瘍になることもあります。こうした重篤な状態になると治療期間が非常に長くなるため、早期発見と適切なケアが求められます。
Q. 褥瘡のドレッシング材にはどんな種類がある?
褥瘡治療に使われるドレッシング材には、ハイドロコロイド、ハイドロゲル、フォーム(ポリウレタン)、アルギン酸塩、ハイドロファイバー、ポリウレタンフィルム、銀含有製品などがある。それぞれ吸収力や湿潤保持機能が異なり、傷の状態に応じた使い分けが治癒の鍵となる。
📋 ドレッシング材の役割と重要性
ドレッシング材は、傷口を保護し、治癒を促進するための医療材料です。かつては「傷は乾燥させるほうが良い」という考え方が主流でしたが、現在は傷口を適度に湿潤した状態に保つ「モイストヒーリング(湿潤療法)」が科学的根拠に基づく標準的な治療法として確立されています。
ドレッシング材の主な役割は以下のとおりです。
- 傷口を外部の細菌や異物から保護する
- 適切な湿潤環境を維持し、細胞の増殖を促進する
- 過剰な滲出液を吸収して傷周囲の皮膚を守る
- 壊死組織の自己融解を促す
- 痛みを軽減する
- ドレッシング交換時の傷への刺激を最小限にする
ドレッシング材は単に「傷を覆うもの」ではなく、傷の治癒プロセスに積極的に関わる医療材料です。そのため、傷の状態に合ったものを選ぶことが、治癒を大きく左右します。特に褥瘡の場合、傷の状態が刻々と変化するため、その都度適切な材料に変更していくことが必要です。
💊 モイストヒーリング(湿潤療法)とは
モイストヒーリングとは、傷口を適度な湿潤状態に保つことで治癒を促進させる治療法です。1962年にジョージ・ウィンター博士が「傷を湿った状態に保つことで治癒が早まる」という研究成果を発表したことが起源とされています。
乾燥した傷では、細胞が移動するために乾いたかさぶたの下に水分を補いながら進む必要があり、治癒に余分な時間がかかります。一方、湿潤環境では細胞が傷口の表面をスムーズに移動できるため、治癒のスピードが上がることが確認されています。
また、湿潤環境では傷から分泌される滲出液の中に、細胞増殖に必要な成長因子や免疫細胞が含まれているため、傷の治癒に有利に働きます。さらに、かさぶたができないため、ドレッシング交換時に傷口を傷つけるリスクが低くなります。
湿潤環境が過度になると傷周囲の皮膚が浸軟(ふやけた状態)してしまい、感染のリスクが高まります。そのため、「適切な湿潤環境を維持する」という点が重要で、それを実現するのがドレッシング材の役割です。
Q. 褥瘡のステージ別にドレッシング材はどう選ぶ?
ステージIの発赤段階ではフォームやフィルムで保護し、ステージIIの浅い潰瘍にはハイドロコロイドが適する。ステージIIIの深い潰瘍にはアルギン酸塩やハイドロファイバー、ステージIVの骨露出例では感染の有無に応じて銀含有ドレッシングや高吸収素材を使用する。
🏥 褥瘡のドレッシング材の主な種類
褥瘡の治療に使用されるドレッシング材には、素材や機能によってさまざまな種類があります。それぞれの特徴を正しく理解することが、適切な選択の第一歩です。
🦠 ハイドロコロイドドレッシング
ハイドロコロイドドレッシングは、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの親水性ポリマーとゴムや接着剤を組み合わせた材料で作られたドレッシング材です。傷の滲出液を吸収してゲル化し、湿潤環境を自然に形成します。
代表的な製品としては「デュオアクティブ」「コムフィール」などがあります。
特徴としては、自己接着性があるためテープで固定する必要がない点、粘着力が強く水や汗に強い点、交換頻度が少なく済む点(3〜7日に1回程度)などが挙げられます。滲出液が少ない浅い褥瘡に適しています。一方で、感染が疑われる傷や滲出液が多い傷には適しておらず、透過性が低いため傷の状態の観察がしにくいというデメリットもあります。
👴 ハイドロゲルドレッシング
ハイドロゲルドレッシングは、水分を高濃度に含んだゲル状の素材でできており、乾燥した傷や壊死組織を潤す効果があります。壊死組織を軟化させて自己融解(オートリシス)を促す作用があるため、壊死組織の除去(デブリードメン)が必要な褥瘡に使われることが多いです。
代表的な製品には「グラニュゲル」「インテグラ」などがあります。チューブ入りのジェルタイプとシートタイプがあり、形状に合わせた使い分けが可能です。
注意点としては、外から水分を補給する素材のため滲出液が多い傷には向いておらず、二次ドレッシングとして別の素材で覆う必要がある場合が多い点です。また、感染した傷への単独使用は推奨されていません。
🔸 フォームドレッシング(ポリウレタンフォーム)
フォームドレッシングは、ポリウレタンを素材とした海綿状の構造を持つドレッシング材です。滲出液の吸収能力が高く、適度な湿潤環境を保ちながら余分な水分を蒸発させる機能を持っています。
代表的な製品には「メピレックス」「ティエール」「アルゴダーム」などがあります。
褥瘡の中でも中等量から多量の滲出液がある場合に特に適しており、踵や骨突出部への使用に向いた形状のものも販売されています。クッション性があるため圧力分散の効果も期待でき、褥瘡の予防目的にも使われます。接着タイプと非接着タイプがあり、交換頻度は3〜5日に1回程度です。
💧 アルギン酸塩ドレッシング
アルギン酸塩ドレッシングは、海藻から抽出されたアルギン酸を素材とするドレッシング材です。非常に高い吸収力を持ち、滲出液を吸収するとゲル化して傷口にフィットします。また、止血効果があるため出血を伴う褥瘡にも使用されます。
代表的な製品には「ソーブサン」「カルトスタット」「アクアセル」などがあります。シートタイプやリボンタイプがあり、ポケット状の深い傷にはリボンタイプを充填して使用します。
アルギン酸塩ドレッシングは自己接着性がないため、二次ドレッシングが必要です。乾燥した傷には不向きで、滲出液が多量な傷や深い褥瘡に向いています。ゲル化した際の除去は生理食塩水で洗い流すことで行います。
✨ ハイドロファイバードレッシング
ハイドロファイバードレッシングは、カルボキシメチルセルロース(CMC)繊維で作られた不織布タイプのドレッシング材です。アルギン酸塩ドレッシングと同様に高吸収力を持ち、ゲル化して傷にフィットします。感染傷にも使用できる銀含有タイプ(「アクアセルAg」など)も存在します。
アルギン酸塩ドレッシングとの大きな違いは、吸収した液体を外部に漏出させにくい「ロックアウト」機能です。周囲の正常な皮膚を浸軟から守る効果が高い点が特徴です。
📌 ポリウレタンフィルムドレッシング
ポリウレタンフィルムドレッシングは、薄い半透明のフィルム素材のドレッシング材です。防水性と透湿性を兼ね備えており、酸素と水蒸気は通しますが液体は通しません。透明なため、貼ったまま傷の状態を観察することができます。
代表的な製品には「テガダーム」「オプサイト」などがあります。
吸収能力がほとんどないため、浅くて滲出液がほとんどない褥瘡や、他のドレッシング材を固定するための二次ドレッシングとして使用されます。また、皮膚が赤くなった初期の褥瘡の保護にも使われます。剥がす際に皮膚を傷つけるリスクがあるため、特に高齢者の脆弱な皮膚への使用には注意が必要です。
▶️ 銀含有ドレッシング材
銀イオンには抗菌作用があることから、感染した褥瘡や感染リスクの高い傷に使用されるのが銀含有ドレッシング材です。ハイドロファイバータイプやフォームタイプなど、さまざまな素材に銀を含有させた製品が存在します。
代表的な製品には「アクアセルAg」「メピレックスAg」「アルゴダームSilver」などがあります。
銀含有ドレッシングは、感染を制御するために短期間使用するものであり、感染が落ち着いたら通常のドレッシング材に移行します。長期間の使用は銀の耐性菌を生み出すリスクがあるため、適切なタイミングでの変更が必要です。
🔹 コラーゲンドレッシング材
コラーゲンドレッシング材は、ウシやブタ由来のコラーゲンを素材とするドレッシング材で、慢性創傷の治癒促進に使用されます。コラーゲンが成長因子を傷口にとどめる役割を果たし、新しい組織の形成を促します。なかなか治癒しない難治性褥瘡に使われることがあります。
⚠️ 褥瘡の深さ(ステージ)とドレッシング材の選び方
褥瘡の深さ(ステージ)はドレッシング材を選ぶ際の重要な指標の一つです。日本では日本褥瘡学会のDESIGN-R評価が使われますが、国際的にはNPUAP/EPUAP分類(ステージI〜IV)が広く用いられています。ここではステージ別の選択の考え方を解説します。
📍 ステージI(皮膚の発赤のみ)
ステージIは、皮膚に圧迫を加えても色が変化しない発赤(non-blanchable erythema)が見られる段階で、皮膚の損傷はまだ起きていません。この段階では傷口を保護し、これ以上悪化させないことが目的となります。
この段階では、ポリウレタンフィルムドレッシングやフォームドレッシングを保護目的で使用することが多いです。体圧分散や体位変換も並行して行い、悪化を防ぐことが最優先です。
💫 ステージII(真皮に達する浅い潰瘍)
ステージIIは、表皮や真皮が部分的に失われた浅い開放創の状態です。水疱ができる場合もあります。滲出液は少量から中等量で、湿潤環境を維持することが治癒を促します。
この段階では、ハイドロコロイドドレッシングが最も多く使用されます。滲出液が少ない場合に特に適しており、貼りっぱなしにできるため交換時の刺激が最小限になります。滲出液が中等量ある場合はフォームドレッシングが選択肢になります。
🦠 ステージIII(全層皮膚欠損)
ステージIIIは、皮下脂肪組織が露出するほどの深い潰瘍です。壊死組織が存在する場合もあり、ポケット形成(傷口よりも深部が広がっている状態)が見られることもあります。滲出液は中等量から多量になる場合が多いです。
この段階では、アルギン酸塩ドレッシングやハイドロファイバードレッシングが適しています。壊死組織がある場合はハイドロゲルドレッシングを使用して自己融解を促すこともあります。ポケット状の深い部分にはリボンタイプのアルギン酸塩ドレッシングを充填する方法が取られます。
👴 ステージIV(骨・腱・筋肉の露出)
ステージIVは最も重篤な状態で、骨や腱、筋肉が露出しています。感染のリスクが高く、治療には長期間かかります。外科的処置(デブリードメンや皮弁術など)が必要になる場合も多いです。
ドレッシング材としては、感染の有無に応じて銀含有ドレッシングや高吸収力のアルギン酸塩ドレッシング、ハイドロファイバードレッシングなどが使用されます。適切な専門医による治療方針の決定が不可欠です。
🔍 滲出液の量による選び方
ドレッシング材を選ぶ際に最も重要な指標の一つが、傷から出る滲出液(しみ出てくる体液)の量です。滲出液の量に合ったドレッシング材を選ばないと、過剰な湿潤や乾燥が起こり、治癒が妨げられます。
🔸 滲出液が少ない場合(乾燥〜少量)
傷が乾燥気味であったり、滲出液がほとんど出ていない場合は、水分を補う機能を持つハイドロゲルドレッシングが適しています。また、ハイドロコロイドドレッシングも少量の滲出液に対して優れた効果を発揮します。ポリウレタンフィルムドレッシングも滲出液が非常に少ない浅い傷に使用できます。
💧 滲出液が中等量の場合
中等量の滲出液がある場合は、ハイドロコロイドドレッシングやフォームドレッシングが適しています。フォームドレッシングは吸収力と保水力を両立しており、さまざまな滲出液量に対応できる汎用性の高い素材です。
✨ 滲出液が多量の場合
滲出液が多い場合は、高吸収力のアルギン酸塩ドレッシングやハイドロファイバードレッシングが選ばれます。これらは大量の液体を吸収してゲル化し、傷周囲の皮膚を浸軟から守ります。また、交換頻度が上がる可能性があるため、皮膚への刺激を考慮した粘着力の弱いものを選ぶことも重要です。
滲出液の量は治療経過とともに変化するため、定期的に評価を行い、ドレッシング材の種類を適宜変更していくことが必要です。
Q. 感染が疑われる褥瘡にはどのドレッシング材が適切?
感染が疑われる褥瘡には、銀イオンの広域抗菌作用を持つ銀含有ドレッシング材(アクアセルAgやメピレックスAgなど)が推奨される。MRSAや緑膿菌などの多剤耐性菌にも効果があるとされる一方、感染収束後は通常のドレッシング材へ移行し、長期使用による耐性菌リスクを避けることが重要だ。
📝 部位による選び方のポイント
褥瘡が発生した体の部位によっても、ドレッシング材の選択が変わってきます。形状や曲面への追従性、固定のしやすさなどが部位によって異なるためです。
📌 仙骨部(お尻の中央)
仙骨部は褥瘡が最も発生しやすい部位です。おむつや寝具との摩擦・ずれが生じやすく、排泄物で汚染されるリスクもあります。防水性が高く、フィット感のあるハイドロコロイドドレッシングが好まれます。仙骨部専用に成形されたドレッシング材も市販されており、テープと皮膚の間への排泄物の侵入を防ぎやすい形状になっています。
▶️ 踵(かかと)
踵は丸みを帯びた形状のため、ドレッシング材が剥がれやすい部位です。踵の形に合わせて設計された専用フォームドレッシングやハイドロコロイドドレッシングが使用されます。また、踵にかかる圧力を分散させるためのクッション材との併用も行われます。寝位中のベッドとの接触面になるため、クッション性の高いフォームドレッシングが特に有用です。
🔹 耳介部・後頭部
耳介部や後頭部は形状が複雑で、一般的なドレッシング材では密着させにくい部位です。薄型でフレキシブルなドレッシング材や、小さなサイズのものが選ばれます。フォームドレッシングの薄型製品や、薄いハイドロコロイドドレッシングが適しています。
📍 指・足趾(足の指)
指や足趾は細い形状のため、通常のドレッシング材では対応が難しい場合があります。アルギン酸塩やハイドロゲルを詰めた上にフィルムで固定する方法や、専用の指用ドレッシング材を使用します。血流障害を伴う場合は特に注意が必要で、圧迫を避けた固定が求められます。
💡 感染が疑われる場合のドレッシング材

褥瘡が感染している場合、あるいは感染のリスクが高い場合は、通常のドレッシング材とは異なる対応が必要です。感染した傷では、細菌が傷の治癒を妨げるバイオフィルム(細菌の集合体)を形成することがあります。
感染の兆候としては、傷周囲の発赤・腫脹・熱感・疼痛の増強、悪臭のある膿性の滲出液、傷の進行停止などが挙げられます。こうした症状がある場合は、感染対応のドレッシング材への切り替えを検討します。
感染が疑われる場合に使用されるドレッシング材として最も代表的なのが、銀含有ドレッシング材です。銀イオンは広域抗菌スペクトルを持ち、多剤耐性菌(MRSA、緑膿菌など)にも効果があるとされています。アクアセルAg、メピレックスAg、アルゴダームSilverなどの製品が広く使われています。
また、ヨード含有ドレッシング材(カデックス軟膏など)も感染創に使用されることがあります。ヨードは強い抗菌作用を持ちますが、甲状腺疾患のある患者さんや長期使用には注意が必要です。
なお、感染している傷にハイドロコロイドドレッシングや閉鎖性の高いフィルムドレッシングを使用すると、嫌気性菌の増殖を促す可能性があるため、一般的には推奨されていません。感染の制御が確認されてから通常のドレッシング材に移行することが基本的な考え方です。
感染が重篤な場合や全身症状がある場合は、ドレッシング材だけでの対応ではなく、全身的な抗菌薬治療が必要になります。専門医への相談が必須です。
Q. ドレッシング材だけで褥瘡は治癒できる?
ドレッシング材のみで褥瘡が治癒することはない。体位変換や体圧分散寝具による圧迫除去、タンパク質・ビタミンCを含む栄養管理、皮膚の清潔保持、基礎疾患のコントロールを組み合わせた総合的なアプローチが不可欠であり、ドレッシング材は局所環境を整える一要素に過ぎない。
✨ ドレッシング材の交換頻度と注意点
ドレッシング材の交換頻度は、使用するドレッシング材の種類と傷の状態によって異なります。適切な交換頻度を守ることが、治癒の促進と感染予防に重要です。
💫 交換頻度の目安
ハイドロコロイドドレッシングは通常3〜7日に1回の交換で済みます。フォームドレッシングは3〜5日に1回程度が目安ですが、滲出液が多い場合はより頻繁な交換が必要です。アルギン酸塩ドレッシングとハイドロファイバードレッシングは滲出液の量に応じて1〜3日に1回程度です。ハイドロゲルドレッシングは1〜3日に1回が一般的です。ポリウレタンフィルムドレッシングは3〜7日に1回ですが、滲出液が多い場合は剥がれやすくなります。
ただし、これらはあくまで目安であり、実際の交換タイミングは傷の状態、滲出液の量、ドレッシングのはがれや汚染の程度によって判断します。
🦠 交換時の注意点
ドレッシング材の交換時には、いくつかの重要な注意点があります。
まず、ドレッシング材を剥がす際は傷への刺激を最小限にするため、端から少しずつゆっくりと剥がします。皮膚が脆弱な高齢者の場合は、粘着力を弱めるリムーバーの使用を検討します。
次に、ドレッシング交換時には傷口を観察し、治癒の経過や感染の兆候を確認します。傷の大きさ、深さ、滲出液の色・量・臭い、傷周囲の皮膚の状態などを記録しておくことが重要です。
また、傷口の洗浄には生理食塩水や微温湯を使用し、消毒薬(ポビドンヨードや過酸化水素水など)の日常的な使用は避けます。これらの消毒薬は細菌だけでなく、傷の治癒に必要な細胞も傷つけることが知られているためです。
さらに、ドレッシングの固定には粘着テープを使用しますが、テープ剥離時の皮膚ダメージ(MARSI:医療関連皮膚損傷)を防ぐために、低刺激性のテープやシリコン系粘着剤のテープを選ぶことが推奨されています。
📌 ドレッシング材を使用する際の注意事項
ドレッシング材を適切に使用するために、知っておくべき注意事項があります。
👴 定期的な再評価が必要
褥瘡の状態は治療経過によって変化します。最初に選んだドレッシング材が治癒の全過程において最適とは限りません。傷が改善してきたら滲出液が減少し、よりシンプルなドレッシング材に変更できる場合があります。逆に、感染が起きた場合は銀含有ドレッシングへの切り替えが必要になります。定期的に傷の状態を評価し、ドレッシング材の選択を見直すことが重要です。
🔸 アレルギーに注意する
ドレッシング材の素材に対してアレルギー反応が起きる場合があります。使用後に傷周囲の皮膚に発赤、かゆみ、発疹などが見られた場合は、アレルギー反応の可能性を疑い、使用を中止して医師や看護師に相談します。ハイドロコロイドドレッシングのアクリル系粘着剤やアルギン酸塩のカルシウムなどがアレルギーの原因になることがあります。
💧 コスト・在宅での入手性を考慮する
医療機関では様々な種類のドレッシング材が使用できますが、在宅療養の場合は医療保険の適用範囲や薬局・医療機器業者からの入手しやすさも考慮する必要があります。在宅での褥瘡ケアでは、訪問看護師や在宅医と相談しながら、入手可能で患者の状態に合った材料を選択することが現実的な対応となります。
✨ 介護者への指導が不可欠
在宅介護環境では、家族や介護者がドレッシング交換を行う場合があります。正しい交換方法を習得していないと、感染リスクが高まったり傷を悪化させたりする可能性があります。訪問看護師や外来の看護師から適切な指導を受けることが必要です。また、異常を発見した場合にすぐに医療者に連絡できる体制を整えておくことも重要です。
📌 ドレッシング材だけでは治癒しない
ドレッシング材は褥瘡治療の重要な一要素ですが、それだけで褥瘡が治癒するわけではありません。体位変換や体圧分散寝具の使用による圧迫除去、栄養管理(特にタンパク質やビタミンCの補給)、皮膚の清潔保持、失禁管理、基礎疾患のコントロールなどを組み合わせた総合的なアプローチが不可欠です。ドレッシング材は傷の局所環境を整えるものであり、全身的な治療・ケアと並行して行うものであることを理解しておくことが大切です。
▶️ 専門家への相談を忘れずに
褥瘡の治療は専門的な知識を要します。特にステージIII以上の深い褥瘡や、感染を伴う褥瘡、なかなか治癒しない難治性褥瘡は、皮膚科や形成外科などの専門医による診療が必要です。自己判断でドレッシング材を選択・変更することは、状態を悪化させるリスクがあります。医師や看護師、特に褥瘡ケアの専門家である皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC看護師)などと連携しながら治療を進めることが大切です。
👨⚕️ 【医師コメント】
高桑康太 医師(当院治療責任者)より
「褥瘡のドレッシング材の選択において、傷の深さや滲出液の量だけでなく、患者さんの生活環境や介護力なども含めた総合的な評価を大切にしています。最近の傾向として、在宅療養中の方からご相談をいただくケースも増えており、訪問看護師や介護スタッフと連携しながら、その方の状況に合った現実的なケアプランをご提案が必要です。ドレッシング材はあくまで治療の一要素であり、体圧分散や栄養管理などと組み合わせた包括的なアプローチが褥瘡の治癒への近道ですので、「どのケアが正しいのか不安」と感じた際は医療機関へご相談ください。」
🎯 よくある質問
ドレッシング材の種類によって異なります。ハイドロコロイドやポリウレタンフィルムは3〜7日に1回、フォームドレッシングは3〜5日に1回、アルギン酸塩やハイドロゲルは1〜3日に1回が目安です。ただし、滲出液の量や傷の状態によって変わるため、実際の交換タイミングは都度判断することが重要です。
日常的な消毒薬(ポビドンヨードや過酸化水素水など)の使用は推奨されていません。これらは細菌だけでなく、傷の治癒に必要な細胞も傷つけることが知られています。傷口の洗浄には生理食塩水や微温湯を使用するのが適切です。
感染が疑われる場合は、銀含有ドレッシング材(アクアセルAgやメピレックスAgなど)が代表的な選択肢です。銀イオンは広域抗菌作用を持ち、多剤耐性菌にも効果があるとされています。なお、感染創へのハイドロコロイドやフィルムドレッシングの使用は菌の増殖を促す可能性があるため避けるべきです。
在宅ケアでは、正しいドレッシング交換方法を訪問看護師などから事前に習得することが不可欠です。また、医療保険の適用範囲や入手しやすい材料を医師と相談して選ぶことも大切です。異常を発見した際にすぐ医療者へ連絡できる体制を整えておくことも重要なポイントです。
ドレッシング材のみで治癒することはありません。体位変換や体圧分散寝具による圧迫除去、タンパク質やビタミンCを含む栄養管理、皮膚の清潔保持、基礎疾患のコントロールなど、総合的なアプローチが不可欠です。ドレッシング材は傷の局所環境を整える一要素であり、全身的なケアと組み合わせて初めて効果を発揮します。
📋 まとめ
褥瘡のドレッシング材は、ハイドロコロイド、ハイドロゲル、フォーム、アルギン酸塩、ハイドロファイバー、ポリウレタンフィルム、銀含有製品など、多岐にわたる種類があります。それぞれに異なる特徴と適応があり、一つのドレッシング材がすべての状況に最適というわけではありません。
ドレッシング材を選ぶ際には、褥瘡の深さ(ステージ)、滲出液の量、感染の有無、部位、患者さんの全身状態などを総合的に評価する必要があります。そして、治癒の経過に合わせて定期的に見直しを行うことが重要です。
また、ドレッシング材の使用は褥瘡治療の一部に過ぎず、圧迫の除去や栄養管理、全身的なケアと組み合わせて初めて効果を発揮します。在宅での褥瘡ケアを行う場合は、医師や訪問看護師、皮膚・排泄ケア認定看護師など専門家の指導のもとで行うことが安全で効果的です。
褥瘡は予防が最善策ですが、一度発生した場合は早期から適切なドレッシング材を選択し、正しいケアを継続することで治癒を目指すことができます。疑問や不安がある場合は、ためらわずに医療機関を受診し、専門家に相談することをお勧めします。
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📚 参考文献
- 日本皮膚科学会 – 褥瘡の定義・分類・治療に関するガイドライン、ドレッシング材の選択基準、モイストヒーリングの科学的根拠など
- 日本形成外科学会 – 褥瘡の外科的治療(デブリードメン・皮弁術)や深部潰瘍のステージ別治療方針、感染創への対応に関する情報
- 厚生労働省 – 褥瘡の予防・管理に関する診療報酬上の取り扱い、介護・医療現場における褥瘡対策の指針・通知
監修者医師
高桑 康太 医師
保有資格
ミラドライ認定医
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
- 皮膚腫瘍・皮膚外科領域で15年以上の臨床経験と30,000件超の手術実績を持ち、医学的根拠に基づき監修を担当
- 専門分野:皮膚腫瘍、皮膚外科、皮膚科、形成外科
- 臨床実績(2024年時点) 皮膚腫瘍・皮膚外科手術:30,000件以上、腋臭症治療:2,000件以上、酒さ・赤ら顔治療:1,000件以上
- 監修領域 皮膚腫瘍(ほくろ・粉瘤・脂肪腫など)、皮膚外科手術、皮膚がん、一般医療コラムに関する医療情報
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務