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前立腺マッサージとは?医学的効果と正しい知識を医師が解説

はじめに

前立腺マッサージは、泌尿器科領域において長い歴史を持つ医療行為の一つです。近年、インターネット上で様々な情報が流れていますが、正確な医学的知識に基づいた情報は意外と少ないのが現状です。

本記事では、アイシークリニック渋谷院の視点から、前立腺マッサージの医学的意義、効果、リスク、そして注意点について、一般の方にも理解しやすいように詳しく解説していきます。前立腺の健康は男性のQOL(生活の質)に大きく関わる重要なテーマです。正しい知識を身につけることで、適切な判断ができるようになるでしょう。

前立腺とは?基礎知識を理解する

前立腺の構造と位置

前立腺は、男性にのみ存在する生殖器官の一つで、膀胱の下部、直腸の前方に位置する栗の実大(通常は約20g)の臓器です。尿道を取り囲むように存在しており、精液の一部を産生する重要な役割を担っています。

前立腺は以下の4つのゾーンに区分されます:

  1. 末梢帯(peripheral zone): 前立腺の約70%を占め、前立腺がんの好発部位として知られています
  2. 移行帯(transition zone): 尿道周囲に位置し、前立腺肥大症が発生しやすい領域です
  3. 中心帯(central zone): 射精管周囲の領域で、前立腺の約25%を占めます
  4. 前方線維筋性間質(anterior fibromuscular stroma): 前立腺の前方部分で、主に筋組織から構成されています

前立腺の機能

前立腺の主な機能は、精液の約20〜30%を占める前立腺液の分泌です。前立腺液には以下のような重要な成分が含まれています:

  • PSA(前立腺特異抗原): 精液を液化させる酵素
  • 亜鉛: 精子の運動性を維持する働き
  • クエン酸: 精液にエネルギーを供給
  • アルカリ性物質: 膣内の酸性環境から精子を保護

これらの成分により、精子の生存と受精能力が維持されています。

前立腺に関連する主な疾患

前立腺は、加齢とともに様々な疾患が発生しやすくなる臓器です。主な疾患として以下が挙げられます:

前立腺炎: 細菌感染や非細菌性の炎症により、排尿痛、頻尿、会陰部痛などの症状が現れます。急性前立腺炎と慢性前立腺炎に分類されます。

前立腺肥大症(BPH): 50歳以上の男性の約半数に見られる良性の疾患で、前立腺が肥大することで尿道が圧迫され、排尿障害が生じます。

前立腺がん: 日本人男性のがんの中で罹患率が上昇している疾患で、早期発見・早期治療が重要です。

これらの疾患の中で、特に慢性前立腺炎の治療において、前立腺マッサージが補助的な治療法として用いられることがあります。

前立腺マッサージの医学的意義と歴史

前立腺マッサージの歴史的背景

前立腺マッサージは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、慢性前立腺炎の治療法として欧米で広く行われていました。当時は抗生物質が開発される前であり、前立腺マッサージによって前立腺内の炎症性分泌物を排出させることが、重要な治療手段の一つとされていました。

<a href=”https://www.urol.or.jp/”>日本泌尿器科学会</a>の歴史資料によれば、日本でも1950年代から1980年代にかけて、慢性前立腺炎の保存的治療として前立腺マッサージが比較的頻繁に実施されていました。

現代医学における位置づけ

現代では、抗生物質や抗炎症薬などの薬物療法が発達したことにより、前立腺マッサージの臨床的必要性は以前と比べて低下しています。しかし、厚生労働省が監修する医療情報でも言及されているように、一部の慢性前立腺炎患者において、補助的な治療手段として現在でも実施されることがあります。

特に、以下のようなケースで検討されることがあります:

  1. 慢性非細菌性前立腺炎: 薬物療法のみでは症状が改善しない場合
  2. 前立腺うっ血: 長期間の射精がない場合や骨盤内の血流障害がある場合
  3. 診断目的: 前立腺液の採取による細菌検査や炎症マーカーの測定

医学的エビデンスの現状

前立腺マッサージの有効性に関する医学的エビデンスは、実のところ限定的です。2000年代以降の複数の臨床研究では、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)に対する前立腺マッサージの効果について、様々な結果が報告されています。

一部の研究では症状の改善が報告されている一方で、プラセボ効果との区別が困難であるという指摘もあります。そのため、現代の泌尿器科診療ガイドラインでは、前立腺マッサージは第一選択の治療法としては推奨されておらず、あくまで補助的な治療オプションとして位置づけられています。

前立腺マッサージの方法と手順

医療機関で行われる前立腺マッサージ

医療機関における前立腺マッサージは、泌尿器科専門医または訓練を受けた医療従事者によって実施されます。一般的な手順は以下の通りです:

1. 事前準備

  • 患者さんの病歴と症状を詳しく聴取します
  • 直腸診や超音波検査で前立腺の状態を確認します
  • 感染症の有無を検査し、急性炎症がないことを確認します
  • 処置の説明と同意を得ます

2. 体位の確認 患者さんは通常、以下のいずれかの体位をとります:

  • 膝胸位(膝と胸を台につけ、臀部を高くする姿勢)
  • 側臥位(横向きに寝て、膝を胸に引き寄せる姿勢)
  • 砕石位(仰向けで両足を上げる婦人科的体位)

3. 実施手順

  • 医師は潤滑剤を使用したグローブをした指(通常は人差し指)を直腸内に挿入します
  • 直腸壁越しに前立腺を触知し、前立腺の中心から外側に向けて、やさしく圧迫するようにマッサージします
  • 通常、片側5〜10回程度、両側で合計10〜20回程度のストロークを行います
  • 処置時間は通常1〜3分程度です

4. 事後処置

  • 前立腺液が尿道から排出された場合は、これを採取して検査に提出することがあります
  • 処置後の注意事項を説明します
  • 必要に応じて、抗生物質や抗炎症薬を処方します

処置の頻度と期間

医療機関で行われる前立腺マッサージの頻度は、患者さんの症状や状態によって異なりますが、一般的には週1〜2回程度、4〜8週間継続することが多いです。ただし、これはあくまで目安であり、個々の患者さんの状態に応じて調整されます。

自己による前立腺マッサージについて

インターネット上では、自己で行う前立腺マッサージについての情報も見られますが、医学的には以下の理由から推奨されていません:

  1. 解剖学的知識の不足: 適切な位置や強さの判断が困難です
  2. 衛生管理の問題: 感染リスクが高まります
  3. 組織損傷のリスク: 過度な力を加えることで、直腸粘膜や前立腺を傷つける可能性があります
  4. 病態の悪化: 急性炎症がある場合、細菌が血流に入り敗血症を引き起こす危険があります

前立腺に関する症状がある場合は、自己判断で対処せず、必ず泌尿器科専門医を受診することが重要です。

前立腺マッサージの期待される効果

慢性前立腺炎症状の緩和

前立腺マッサージによって期待される主な効果の一つは、慢性前立腺炎に伴う以下の症状の緩和です:

排尿症状の改善

  • 頻尿(日中・夜間)
  • 残尿感
  • 排尿時痛
  • 尿線の勢いの低下

疼痛症状の改善

  • 会陰部痛(陰嚢と肛門の間の痛み)
  • 下腹部痛
  • 腰痛
  • 射精時痛

前立腺マッサージにより、前立腺内に貯留した炎症性分泌物や細菌が排出されることで、これらの症状が軽減する可能性があると考えられています。

前立腺のうっ血解消

長期間の性的禁欲や骨盤内の血流障害により、前立腺にうっ血が生じることがあります。前立腺マッサージは、このうっ血を解消し、前立腺の血流を改善する効果が期待されます。

血流が改善することで:

  • 炎症性物質の排出が促進される
  • 組織への酸素・栄養供給が改善される
  • 前立腺機能の正常化が促される

といった効果が考えられます。

前立腺液の排出促進

前立腺マッサージによって前立腺液の排出が促進されることで、以下の効果が期待できます:

  1. 細菌や炎症性物質の除去: 前立腺内に停滞している細菌や炎症性サイトカインなどが排出されます
  2. 前立腺管の開通: 詰まっていた前立腺管が開通し、分泌物の正常な排出経路が回復します
  3. 新たな前立腺液の産生促進: 古い前立腺液が排出されることで、新鮮な前立腺液の産生が促されます

診断的価値

治療目的だけでなく、前立腺マッサージには診断的価値もあります。マッサージ後に排出される前立腺液を採取し、以下の検査を行うことができます:

  • 細菌培養検査: 細菌性前立腺炎の原因菌の同定
  • 白血球数の測定: 炎症の程度の評価
  • PSA値の測定: 前立腺の状態の評価

これらの検査結果は、適切な治療方針の決定に役立ちます。

効果の個人差

ただし、これらの効果には個人差が大きいことを理解しておく必要があります。一部の患者さんでは顕著な症状改善が見られる一方で、効果が限定的であったり、まったく効果が感じられない患者さんもいます。

また、前立腺マッサージの効果は、通常は一時的なものであり、根本的な治療ではないという点も重要です。慢性前立腺炎の治療には、薬物療法、生活習慣の改善、場合によっては心理的サポートなど、包括的なアプローチが必要です。

前立腺マッサージのリスクと注意点

医学的リスクと合併症

前立腺マッサージは比較的安全な処置とされていますが、以下のようなリスクや合併症の可能性があります:

1. 細菌の血中散布(菌血症) 前立腺に細菌感染がある状態でマッサージを行うと、細菌が血流に入り込み、菌血症や敗血症を引き起こす可能性があります。特に急性前立腺炎の場合は絶対禁忌です。

2. 疼痛と不快感 処置中および処置後に、以下のような症状が現れることがあります:

  • 会陰部の痛み
  • 直腸の不快感
  • 一時的な排尿痛の増強
  • 射精時痛

3. 出血 直腸粘膜や前立腺組織が損傷することで、以下の出血が見られることがあります:

  • 血便
  • 血尿
  • 血精液症(精液に血が混じる)

4. 尿閉 前立腺の腫脹により、一時的に尿道が圧迫され、排尿困難や尿閉が生じることがあります。

5. 前立腺炎症状の一時的悪化 マッサージ刺激により、一時的に炎症反応が強まり、症状が悪化することがあります。

前立腺マッサージが禁忌となる状態

以下の状態では、前立腺マッサージは禁忌(行ってはいけない)とされています:

絶対禁忌

  • 急性前立腺炎
  • 急性尿路感染症
  • 前立腺膿瘍
  • 前立腺がんが疑われる場合

相対禁忌(慎重な判断が必要)

  • 前立腺肥大症が高度な場合
  • 出血傾向がある場合(抗凝固薬服用中など)
  • 痔核や直腸疾患がある場合
  • 重度の骨盤痛がある場合

これらの禁忌事項を無視して前立腺マッサージを行うと、重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、必ず泌尿器科専門医による診察と判断が必要です。

処置後の注意事項

前立腺マッサージを受けた後は、以下の点に注意が必要です:

  1. 安静: 処置当日は激しい運動を避け、できるだけ安静にします
  2. 水分摂取: 十分な水分を摂取し、排尿を促すことで、前立腺から排出された物質を体外に排出します
  3. 性行為の制限: 処置後2〜3日は性行為や射精を避けることが推奨されます
  4. 症状の観察: 発熱、強い痛み、血尿などの異常な症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診します
  5. アルコール制限: 処置後数日間は、アルコール摂取を控えることが望ましいです

長期的な影響について

前立腺マッサージを適切な頻度と方法で行う限り、長期的な有害作用は報告されていません。ただし、過度に頻繁な実施や不適切な手技による反復刺激は、慢性的な炎症を引き起こす可能性があるため注意が必要です。

前立腺マッサージが推奨されるケース

慢性非細菌性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)

慢性非細菌性前立腺炎は、細菌感染が確認されないにもかかわらず、前立腺炎様の症状が3ヶ月以上持続する状態を指します。日本性機能学会の診療ガイドラインでも言及されているように、この病態に対しては以下の場合に前立腺マッサージが検討されることがあります:

  1. 薬物療法で十分な改善が得られない場合 抗炎症薬やα遮断薬などの標準的な薬物療法を4〜8週間継続しても、症状の改善が不十分な患者さんに対して、補助的治療として検討されます。
  2. 前立腺うっ血が疑われる場合 デジタル直腸診や超音波検査で前立腺の腫大やうっ血所見が認められる場合、マッサージによるうっ血解消が期待できます。
  3. 排尿後症状が顕著な場合 排尿後の残尿感や会陰部不快感が強い患者さんでは、前立腺液の排出促進により症状が改善する可能性があります。

慢性細菌性前立腺炎

慢性細菌性前立腺炎は、前立腺に細菌感染が持続している状態です。この場合、抗生物質治療が主体となりますが、以下の条件を満たす場合に限り、前立腺マッサージが補助的に用いられることがあります:

  1. 適切な抗生物質治療が開始されている まず抗生物質による治療を開始し、急性炎症が落ち着いてから、マッサージを検討します。
  2. 前立腺結石や前立腺管の閉塞がある場合 抗生物質だけでは前立腺深部に届きにくい場合、マッサージにより感染巣の排出を促すことで、治療効果が向上する可能性があります。
  3. 繰り返す尿路感染症 前立腺が感染の貯留部位となっている場合、定期的なマッサージにより再発予防に役立つことがあります。

前立腺液の採取が必要な場合

診断目的で、前立腺液を採取する必要がある場合に前立腺マッサージが実施されます:

  1. 細菌性前立腺炎の原因菌同定
  2. 前立腺炎の炎症の程度の評価
  3. PSA値の測定
  4. 前立腺内の薬物濃度の測定

前立腺マッサージが第一選択とならないケース

一方で、以下のような場合には、前立腺マッサージは第一選択の治療とはなりません:

  • 前立腺肥大症: α遮断薬や5α還元酵素阻害薬などの薬物療法、必要に応じて手術療法が優先されます
  • 前立腺がん: 早期発見・早期治療が重要であり、マッサージは推奨されません
  • 急性前立腺炎: 抗生物質による治療が基本であり、マッサージは禁忌です

前立腺の健康を保つための生活習慣

前立腺マッサージだけでなく、日常生活での以下のような習慣が、前立腺の健康維持に重要です。

適度な水分摂取

1日1.5〜2リットルの水分摂取を心がけることで:

  • 尿路の洗浄効果が得られます
  • 尿の濃縮を防ぎ、膀胱・前立腺への刺激を軽減します
  • 細菌の増殖を抑制します

ただし、夜間頻尿がある方は、夕方以降の水分摂取を控えめにすることも考慮します。

バランスの取れた食生活

前立腺の健康に良いとされる栄養素:

リコピン: トマト、スイカなどに含まれ、抗酸化作用があります

亜鉛: 牡蠣、赤身肉、ナッツ類に豊富で、前立腺機能の維持に重要です

セレン: 魚介類、ナッツ類に含まれ、前立腺がんのリスク低減との関連が報告されています

ビタミンE: ナッツ類、植物油に含まれ、抗酸化作用があります

大豆イソフラボン: 大豆製品に含まれ、前立腺肥大の予防効果が期待されています

逆に、以下は控えめにすることが推奨されます:

  • 過度のアルコール摂取
  • カフェインの過剰摂取
  • 刺激の強い香辛料
  • 高脂肪食

適度な運動

定期的な運動は、骨盤内の血流を改善し、前立腺の健康維持に役立ちます:

  1. ウォーキング: 1日30分程度の歩行
  2. スクワット: 骨盤底筋を鍛える効果があります
  3. 骨盤底筋体操(ケーゲル体操): 前立腺周囲の筋肉を強化します
  4. ストレッチング: 骨盤内の血流改善に効果的です

ただし、長時間の自転車運転は前立腺への圧迫が強くなるため、注意が必要です。

ストレス管理

慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群では、ストレスが症状を悪化させる要因となることが知られています。以下のようなストレス管理が重要です:

  • 十分な睡眠(1日7〜8時間)
  • リラクゼーション法(深呼吸、瞑想など)
  • 趣味や娯楽の時間を持つ
  • 必要に応じて心理カウンセリングを受ける

規則正しい排尿・排便習慣

  • 尿意を我慢しすぎない
  • 排尿時は焦らず、十分に排出する
  • 便秘を避ける(前立腺への圧迫を軽減)
  • 長時間座りっぱなしを避ける

適度な性生活

定期的な射精は、前立腺液の停滞を防ぎ、前立腺の健康維持に役立つと考えられています。ただし、過度な禁欲も過度な性行為も避け、個人に適した頻度を保つことが大切です。

よくある質問(FAQ)

Q1: 前立腺マッサージは痛いですか?

A: 適切に行われる前立腺マッサージは、通常、強い痛みを伴うものではありません。多くの患者さんは、軽度の圧迫感や違和感を感じる程度です。ただし、前立腺に強い炎症がある場合や、過度の力が加わった場合は痛みを感じることがあります。処置中に強い痛みを感じた場合は、すぐに医師に伝えることが重要です。

Q2: 前立腺マッサージの効果はいつ頃実感できますか?

A: 効果の発現には個人差があります。一部の患者さんは1〜2回の処置後に症状の改善を感じますが、多くの場合は4〜8週間(週1〜2回の処置)継続して初めて効果が実感できることが多いです。2〜3ヶ月継続しても効果が感じられない場合は、他の治療法を検討することが推奨されます。

Q3: 前立腺マッサージを受けた後、性機能に影響はありますか?

A: 適切に行われる前立腺マッサージが、長期的な性機能障害を引き起こすことは通常ありません。むしろ、慢性前立腺炎による性機能障害(射精痛、勃起障害など)が改善されることで、性機能が向上する可能性があります。ただし、処置直後2〜3日は、射精痛や血精液症などが見られることがあるため、性行為は控えることが推奨されます。

Q4: 前立腺マッサージは保険適用ですか?

A: 前立腺マッサージは、慢性前立腺炎の治療として医療機関で行われる場合、保険適用となります。診療報酬点数は医療機関によって異なる場合がありますので、詳細は受診される医療機関にお問い合わせください。

Q5: 前立腺マッサージを受けられない人はいますか?

A: はい、以下のような方は前立腺マッサージを受けることができません:

  • 急性前立腺炎の方
  • 前立腺がんの疑いがある方
  • 前立腺膿瘍がある方
  • 急性尿路感染症の方
  • 重度の痔核や直腸疾患がある方
  • 出血傾向が強い方(抗凝固薬服用中など)

これらに該当する場合は、まず適切な治療を優先する必要があります。

Q6: 自宅で自分で前立腺マッサージをしても良いですか?

A: 医学的には推奨されません。理由としては:

  1. 適切な位置や力加減の判断が困難
  2. 衛生管理が不十分になりやすい
  3. 直腸や前立腺を傷つけるリスクがある
  4. 病態を悪化させる可能性がある

前立腺に関する症状がある場合は、必ず泌尿器科専門医を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。

Q7: 前立腺マッサージと前立腺がんの関係は?

A: 適切な診断のもとで行われる前立腺マッサージが、前立腺がんを引き起こすことはありません。むしろ、前立腺がんが疑われる場合は、前立腺マッサージは禁忌とされています。50歳以上の男性(家族歴がある場合は40歳以上)は、定期的な前立腺がん検診(PSA検査)を受けることが推奨されています。

Q8: 前立腺マッサージの代替となる治療法はありますか?

A: はい、慢性前立腺炎に対しては以下のような治療法があります:

  • 薬物療法(抗生物質、抗炎症薬、α遮断薬など)
  • 温熱療法
  • 骨盤底筋リラクゼーション
  • バイオフィードバック療法
  • 生活習慣の改善
  • 心理療法

これらの治療法を組み合わせた包括的なアプローチが、現代では主流となっています。

前立腺マッサージ以外の前立腺炎治療法

前立腺マッサージは、慢性前立腺炎治療の一つの選択肢ですが、現代医学では様々な治療法が確立されています。

薬物療法

抗生物質: 細菌性前立腺炎の場合、原因菌に有効な抗生物質を4〜8週間(場合によってはそれ以上)投与します。よく使用される薬剤には、フルオロキノロン系、テトラサイクリン系などがあります。

α遮断薬: 前立腺や膀胱頸部の平滑筋を弛緩させ、排尿症状を改善します。タムスロシン、シロドシンなどが使用されます。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): 炎症と痛みを軽減します。

抗コリン薬: 過活動膀胱症状(頻尿、尿意切迫感)がある場合に使用されます。

漢方薬: 猪苓湯、竜胆瀉肝湯などが補助的に使用されることがあります。

物理療法

温熱療法: 経直腸的マイクロ波治療や温水坐浴により、前立腺の血流を改善し、症状を緩和します。

骨盤底筋リラクゼーション: 理学療法士の指導のもと、骨盤底筋の緊張を緩和する運動やマッサージを行います。

バイオフィードバック療法: 骨盤底筋の緊張をモニターしながら、リラクゼーション技術を学びます。

心理的アプローチ

慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群では、心理的要因が症状の慢性化に関与していることが多いため、以下のようなアプローチが有効です:

  • 認知行動療法
  • ストレス管理技法
  • リラクゼーション訓練
  • マインドフルネス瞑想

生活習慣の改善

  • 規則正しい生活リズム
  • バランスの取れた食事
  • 適度な運動
  • 十分な水分摂取
  • アルコール・カフェインの制限
  • 長時間の座位を避ける

これらの治療法を適切に組み合わせることで、多くの患者さんで症状の改善が期待できます。

まとめ

前立腺マッサージは、慢性前立腺炎の補助的治療法として、長い歴史を持つ医療行為です。本記事で解説したように、以下の点を理解しておくことが重要です:

前立腺マッサージの位置づけ

  • 現代医学では第一選択の治療法ではなく、補助的な治療オプションとして位置づけられています
  • 薬物療法などの標準的治療で効果が不十分な場合に検討されます
  • 診断目的(前立腺液の採取)でも実施されます

期待される効果

  • 慢性前立腺炎症状の緩和(排尿症状、疼痛症状)
  • 前立腺のうっ血解消
  • 前立腺液の排出促進
  • ただし、効果には個人差があり、すべての患者さんに有効とは限りません

リスクと注意点

  • 適切に行われれば比較的安全な処置ですが、合併症のリスクもあります
  • 急性前立腺炎、前立腺がん疑い例などでは禁忌です
  • 必ず泌尿器科専門医による診察と判断のもとで実施する必要があります
  • 自己判断での実施は推奨されません

包括的アプローチの重要性 前立腺の健康維持には、前立腺マッサージだけでなく:

  • 適切な薬物療法
  • 生活習慣の改善
  • ストレス管理
  • 定期的な運動
  • バランスの取れた食事

など、包括的なアプローチが重要です。

医療機関への相談 前立腺に関する症状(排尿困難、頻尿、会陰部痛など)がある場合は、自己判断せず、早めに泌尿器科専門医を受診することが大切です。適切な診断を受けることで、個々の患者さんに最適な治療法を選択することができます。

参考文献・情報源

  1. 日本泌尿器科学会 – 前立腺疾患に関する診療ガイドライン
  2. 厚生労働省 – 泌尿器科疾患の統計データおよび治療指針
  3. 日本性機能学会 – 慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の診療ガイドライン
  4. 日本超音波医学会 – 前立腺超音波検査の標準的評価法
  5. 日本排尿機能学会 – 排尿障害の診断と治療に関する指針
  6. 医学書院「標準泌尿器科学」- 前立腺疾患の基礎知識と治療法
  7. 南江堂「泌尿器科診療ガイドライン」- エビデンスに基づく前立腺炎治療
  8. 中山書店「前立腺疾患診療マニュアル」- 前立腺マッサージの実際の手技と注意点

※本記事の情報は2025年時点での医学的知見に基づいています。医療情報は日々更新されますので、最新の情報については医療機関にご相談ください。


免責事項: 本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療を目的とするものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診し、専門医の診察を受けてください。

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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