はじめに
「マイコプラズマ肺炎に一度かかったら、もう感染しないですよね?」という質問をよく耳にします。長引く咳や高熱に苦しんだ経験がある方なら、二度とかかりたくないと思うのは当然のことでしょう。しかし、残念ながらマイコプラズマ肺炎は一度感染しても、完全な免疫が生涯続くわけではありません。
2024年には、日本ではマイコプラズマ肺炎の患者数が過去最多レベルに達しており、新型コロナウイルス感染症流行前と比較して40倍以上の報告数となりました。このような流行もまた考えられる中、正しい知識を持って感染予防に努めることが重要です。
この記事では、「マイコプラズマ肺炎に一度かかるとどうなるのか」という疑問を中心に、免疫のメカニズム、再感染のリスク、症状、診断、治療法まで、医学的根拠に基づいた詳しい情報をお届けします。
マイコプラズマ肺炎とは
病原体の特徴
マイコプラズマ肺炎は、「肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)」という特殊な細菌によって引き起こされる呼吸器感染症です。この病原体は、通常の細菌とは異なる特徴を持っています。
最大の特徴は、細胞壁を持たないことです。一般的な細菌は細胞壁を持っていますが、マイコプラズマにはそれがありません。そのため、細胞壁の合成を阻害することで効果を発揮するペニシリン系やセフェム系の抗菌薬は効果がありません。このため、「非定型肺炎」や「異型肺炎」と呼ばれることもあります。
また、マイコプラズマは自己増殖が可能な最小の微生物とされており、そのゲノムサイズは約800kbと非常に小さいのが特徴です。増殖にはコレステロールなど多くの栄養素を必要としますが、人工培地での純培養は可能です。
感染経路と潜伏期間
マイコプラズマ肺炎の主な感染経路は、飛沫感染と接触感染です。感染者の咳やくしゃみによって飛散する唾液や気道分泌物に含まれる病原体を吸い込むことで感染します。また、感染者の分泌物が付着した手で口や鼻、目などに触れることでも感染する可能性があります。
潜伏期間は2~3週間と比較的長いのが特徴です。この長い潜伏期間が、感染経路の特定を困難にし、知らず知らずのうちに感染が広がる一因となっています。家族内や学校、職場などの濃厚接触が多い場所で集団発生がしばしば起こります。
好発年齢と流行パターン
マイコプラズマ肺炎は1年を通じて発生しますが、秋から冬にかけてやや増加する傾向があります。患者の約80%は14歳以下の小児ですが、青年期や成人の報告も決して少なくありません。特に学童期から若年成人に多く見られ、高齢者には比較的少ない感染症です。
かつては4年ごとに大きな流行を繰り返していたため、「オリンピック肺炎」や「五輪病」と呼ばれていました。これは、集団免疫が持続している期間が約4年だったためと考えられています。しかし、2000年以降は大きな周期的流行パターンは見られなくなり、代わりに3~7年程度の間隔で流行が起きることが報告されています。
2020年から2023年にかけては、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う感染対策(マスク着用、手指衛生の励行、人の移動制限など)により、マイコプラズマ肺炎の報告数は激減していました。しかし、2024年5月頃から報告数が急増し、8年ぶりの大流行となっています。
一度かかると免疫がつくのか?
免疫獲得のメカニズム
マイコプラズマ肺炎に感染すると、体内で病原体に対する抗体が産生されます。感染後、まずIgM抗体が発症1週間後頃から上昇し始め、2~3週間でピークに達します。その後、より洗練されたIgG抗体が発症2週間後頃から上昇し、3~4週間でピークとなります。
これらの抗体の働きにより、感染後しばらくの間は再感染しにくい状態になります。一部の研究結果によると、獲得した免疫は約4年間続くと報告されています。そのため、同じシーズン内で再び感染するリスクは比較的低いと考えられます。
免疫の持続期間と限界
しかし、ここで重要なのは、マイコプラズマに対する免疫は「終生免疫」ではないということです。つまり、一度感染したからといって、生涯にわたって感染しないわけではありません。
獲得した抗体は数か月から数年で徐々に減少していきます。免疫を持たない人と比べると感染確率は低くなりますが、抗体が十分に産生されなかった場合や免疫力が低下している場合には、早ければ1年後に再感染する可能性もあります。
愛知県衛生研究所の報告では、「1度かかった人が、再感染することもあり、マイコプラズマ肺炎に対する免疫は終生続くものではありません」と明記されています。これは、医学的に確立された事実といえるでしょう。
再感染時の症状の重さ
「一度感染したことがあれば、二度目は症状が軽くなるのでは?」と期待する方も多いかもしれません。しかし、残念ながら、過去の感染経験が必ずしも症状の軽減につながるとは限りません。
マイコプラズマ肺炎では、病原体そのものよりも、感染に対する免疫反応が過剰に働くことで肺炎が進行すると考えられています。そのため、再感染であっても初回感染と同様に、長引く咳や発熱などの症状に悩まされることがあります。
また、近年では「マクロライド耐性マイコプラズマ肺炎」が増加しており、通常の治療薬が効きにくいケースが増えています。2024年10月時点では、一部の地域でマクロライド耐性率が60%を超えていると報告されており、再感染時にこうした耐性菌に感染した場合、治療が長引く可能性もあります。
再感染のリスクと実態
再感染が起こりやすい状況
マイコプラズマ肺炎の再感染は、以下のような状況で起こりやすくなります。
時間の経過による免疫力の低下 感染から数年が経過し、抗体価が下がってくると、再び感染しやすくなります。特に4年以上経過した後の流行期には注意が必要です。
不完全な免疫獲得 初回感染時に十分な抗体が産生されなかった場合、比較的短期間での再感染のリスクが高まります。軽症で済んだ場合や、無症状感染だった場合などは、十分な免疫が獲得されていない可能性があります。
濃厚接触環境 家族内感染や学校・職場での集団感染が起こっている環境では、ウイルスの曝露量が多くなり、免疫があっても感染する可能性が高まります。特に家族の中で感染者がいる場合、治癒後も近くに感染源がある状況では再感染のリスクが上がります。
免疫力の低下 疲労やストレス、睡眠不足、基礎疾患の悪化などにより全身の免疫力が低下している時期は、マイコプラズマに対する防御力も弱まります。
再燃との違い
再感染と混同されやすいのが「再燃」です。再燃とは、治療が不十分だった場合や免疫力が低下している場合に、初回の感染が完全に治りきらず、再び症状が悪化することを指します。
再燃は治療後1~2週間以内に起こることが多く、特にマクロライド耐性菌の関与が疑われるケースでは注意が必要です。一方、再感染は一度完全に治癒した後、数か月から数年後に新たに病原体に感染することを指します。
臨床的には、抗体価の推移や症状の経過、発症時期などから総合的に判断されますが、両者を明確に区別することは必ずしも容易ではありません。
流行状況と再感染リスク
2024年現在、日本では8年ぶりの大流行が起こっており、国立感染症研究所の報告によれば、定点当たりの患者報告数が1999年以降の最多を記録しています。
この背景には、2020~2023年の新型コロナウイルス感染症流行期に、マスク着用や手洗いなどの感染対策が徹底されていたため、マイコプラズマに対する免疫を持たない成人や小児が増えていたことが考えられます。つまり、過去に一度感染したことがある人でも、数年が経過して免疫が減弱している可能性が高く、現在の流行期には再感染のリスクが高まっているといえます。
マイコプラズマ肺炎の症状
初期症状
マイコプラズマ肺炎の初期症状は、一般的な風邪とよく似ています。
- 発熱: 通常38~39℃の発熱が見られます
- 全身倦怠感: 体のだるさ、疲労感が続きます
- 頭痛: 頭が重い、痛いといった症状が現れます
- 咽頭痛: のどの痛みや違和感を伴うことがあります
これらの初発症状が現れた後、通常3~5日経過してから咳が出始めるのが典型的なパターンです。
特徴的な咳
マイコプラズマ肺炎の最も特徴的な症状は、「長引く頑固な咳」です。
乾性咳嗽 初期には痰を伴わない「コンコン」という乾いた感じの咳が特徴的です。この乾いた咳は、夜間に特に強くなる傾向があり、睡眠の妨げになることも少なくありません。
咳の持続期間 咳は発熱などの他の症状が改善した後も長く続きます。通常、解熱後も3~4週間程度にわたって咳が持続することがあり、中には数か月にわたってしつこい咳に悩まされる人もいます。これは、マイコプラズマによって引き起こされた炎症により、気道が敏感な状態が続いているためです。
咳の変化 経過とともに、乾いた咳から徐々に痰の絡む咳へと変化していくことが一般的です。この変化は回復に向かっているサインともいえますが、咳そのものは長期間続きます。
「歩く肺炎」の意味
マイコプラズマ肺炎は英語で”walking pneumonia”(歩く肺炎)と呼ばれます。これは、肺炎を発症していても比較的症状が軽く、患者が起きて歩けるためです。
実際、咳はあるものの元気そうにしており、全身状態は悪くなく普段通りに学校や会社に通っているケースでも、胸部レントゲン検査を行うと肺に真っ白な影が見つかり、マイコプラズマ肺炎と判明することがあります。
この特性が、知らず知らずのうちに感染を広げてしまう一因となっています。症状が軽いため、本人も周囲も肺炎だと気づかず、日常生活を続けながら病原体を拡散してしまうのです。
その他の症状
マイコプラズマ肺炎では、呼吸器症状以外にも様々な症状が現れることがあります。
- 結膜充血: 目が赤くなることがあります
- 発熱の持続: 発熱が繰り返したり、長く続くことがあります
- 倦怠感の遷延: 体のだるさが1か月程度続くこともあります
完全に回復するまでには通常1か月程度かかるため、その間は無理をせず十分な休息をとることが大切です。
重症化のサインと合併症
多くの場合は軽症で済みますが、一部の患者では重症化し、入院治療が必要になることがあります。また、患者の5~10%未満で以下のような合併症を発症することが報告されています。
呼吸器系の合併症
- 胸膜炎
- 重症肺炎による呼吸不全
中枢神経系の合併症
- 無菌性髄膜炎
- 脳炎
- ギラン・バレー症候群(神経の炎症で手足が動きにくくなる病気)
その他の合併症
- 中耳炎
- 心筋炎、心膜炎
- 溶血性貧血
- スティーブンス・ジョンソン症候群(重篤な皮膚粘膜障害)
特に、経過中に発熱が続き、嘔吐や激しい頭痛が見られる場合は、髄膜炎を起こしている可能性があるため、すぐに医療機関を受診する必要があります。
診断方法
臨床診断の重要性
マイコプラズマ肺炎の診断は、実は容易ではありません。症状だけからマイコプラズマ感染症を確定診断することは困難です。そのため、年齢、病気の経過、レントゲン所見などから総合的に判断することが重要です。
日本呼吸器学会の「成人肺炎診療ガイドライン2024」では、成人におけるマイコプラズマ肺炎とその他の肺炎との鑑別基準が示されています。
細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の鑑別項目
以下の6項目中5項目以上が合致するとマイコプラズマ肺炎を強く疑います。
- 60歳未満である
- 基礎疾患がないか、あっても軽微である
- 頑固な咳がある
- 胸部聴診上の所見に乏しい
- 迅速診断法で原因菌が証明されない(マイコプラズマ抗原または遺伝子検査陽性を除く)
- 末梢白血球数が10,000/μl未満である
2項目以下の場合は細菌性肺炎を強く疑い、3~4項目の場合は鑑別困難または混合感染を考慮します。
胸部画像検査
胸部X線検査 マイコプラズマ肺炎では、胸部レントゲン写真で特徴的な所見が見られることがあります。
- 肺の下部(下肺野)に異常な影が現れることが多い
- 影は扇型に広がり、すりガラス様の陰影を呈する
- 影の形は斑状、線状、帯状、棒状など多彩
乾いた激しい咳が長引く場合は、積極的にレントゲン検査を行って肺炎の有無を調べることが重要です。
CT検査 より詳細な評価が必要な場合には、胸部CT検査が行われます。病初期には多発するスリガラス陰影、気道散布型の小葉中心性粒状影、小葉間隔壁の肥厚(crazy paving appearance)などが見られることがあります。
マイコプラズマ肺炎特有の「すりガラス状陰影」が見られることがあり、一般の細菌性肺炎との鑑別に役立ちます。
検査診断の方法
マイコプラズマ肺炎を確定診断するための検査方法には、いくつかの種類があります。
抗原検査(イムノクロマト法) 迅速診断キットを用いた検査で、咽頭ぬぐい液から15~20分程度で結果が得られます。外来診療で広く用いられていますが、以下のような限界があります。
- 感染初期ではIgM抗体が検出されないことがある
- 成人ではIgM抗体の反応が非常に弱いか、ほとんどないこともある
- 感度は必ずしも高くない
抗体検査(血液検査) 血液中のマイコプラズマに対する抗体(IgM抗体、IgG抗体)を測定する方法です。
- IgM抗体: 発症1週間後頃から上昇し、2~3週でピーク
- IgG抗体: 発症2週間後頃から上昇し、3~4週でピーク
確定診断には、1回目の採血から2週間ほど間隔をあけて再度採血し、IgG抗体がどれだけ増えたかで判断します(通常は4倍以上の上昇を陽性とします)。しかし、実際の臨床現場では治療開始を待つことができないため、抗体検査の結果を待ってから治療を開始することは現実的ではありません。
遺伝子検査(PCR検査、LAMP法、Qプローブ法) 咽頭ぬぐい液や喀痰から病原体の遺伝子を検出する方法で、現時点で最も精度が高い検査方法です。
- 早期診断が可能
- 高い感度と特異度
- マクロライド耐性菌の検出も可能(Qプローブ法)
ただし、咽頭などの上気道には必ずしも菌体数が多くないことや、検査結果が出るまでに時間がかかることなどの課題もあります。
治療法
第一選択薬: マクロライド系抗菌薬
マイコプラズマ肺炎の治療には、主にマクロライド系抗菌薬が使用されます。代表的な薬剤には以下のようなものがあります。
- アジスロマイシン(商品名: ジスロマックなど)
- クラリスロマイシン(商品名: クラリス、クラリシッドなど)
- エリスロマイシン
マクロライド系抗菌薬は、マイコプラズマの蛋白合成を阻害することで効果を発揮します。通常、適切な治療が行われれば、数日から1週間程度で症状の改善が見られます。
マクロライド耐性菌の問題
近年、大きな問題となっているのが「マクロライド耐性マイコプラズマ肺炎」の増加です。
耐性菌の現状 2000年代にマクロライド系抗菌薬の使用が広まって以降、徐々に耐性菌が増加してきました。2024年10月時点では、一部の地域でマクロライド耐性率が60%を超えていると報告されています。
過去のデータによると、耐性菌に感染した場合、マクロライド系抗菌薬で治療しても2日以内に解熱する割合はわずか28%に過ぎません。一方、感受性菌の場合は70%以上が2日以内に解熱します。
耐性菌が疑われる場合の対応 マクロライド系抗菌薬を48時間投与しても解熱が得られない場合、耐性菌の可能性を考慮し、以下の抗菌薬への変更が検討されます。
第二選択薬
ニューキノロン系抗菌薬
- トスフロキサシン(商品名: オゼックスなど)
- レボフロキサシン(商品名: クラビットなど)
ニューキノロン系抗菌薬は、マイコプラズマのDNA複製を阻害することで効果を発揮します。マクロライド耐性菌に対しても有効ですが、小児への使用には慎重な判断が必要です。
テトラサイクリン系抗菌薬
- ミノサイクリン(商品名: ミノマイシンなど)
テトラサイクリン系も耐性菌に対して有効ですが、8歳未満の小児には原則として使用できません。これは、歯の黄色い変色(歯芽の着色)や骨の形成に影響を与える危険性があるためです。
対症療法
抗菌薬による治療と並行して、症状を和らげるための対症療法も重要です。
- 解熱鎮痛薬: 発熱や頭痛、全身倦怠感の軽減
- 鎮咳薬: 咳の緩和
- 去痰薬: 痰の排出を促進
- 水分補給: 脱水予防と気道の保湿
- 加湿: 室内の湿度管理で気道への刺激を軽減
入院治療が必要な場合
多くの場合は外来治療で改善しますが、以下のような場合には入院治療が検討されます。
- 呼吸困難が強い
- 酸素飽和度が低下している
- 経口摂取ができない
- 脱水が進行している
- 合併症を起こしている
- 経過観察が必要な重症例
入院治療では、点滴による抗菌薬投与、酸素投与、水分補給などが行われます。
予防と注意点
基本的な感染予防対策
残念ながら、マイコプラズマ肺炎に対する有効なワクチンは現時点で存在しません。そのため、感染予防には日常的な感染対策が重要となります。
厚生労働省が推奨する基本的な感染対策は、新型コロナウイルス感染症対策として実施されていた方法と同様です。
手洗いの徹底
- 外出後、食事前、トイレ後など、こまめに手を洗う
- 石けんを使って15秒以上、流水でしっかり洗う
- 指の間、爪の間、手首まで丁寧に洗う
マスクの着用
- 流行期には人混みでマスクを着用する
- 咳やくしゃみが出る時は必ずマスクをする
- マスクがない場合は、ティッシュやハンカチ、肘の内側で口を覆う(咳エチケット)
うがい
- 外出後のうがいを習慣化する
- うがい薬を使用すると、より効果的
換気
- 室内の換気を定期的に行う
- 特に人が集まる場所では換気を意識する
体調管理
- 十分な睡眠と休息をとる
- バランスの良い食事を心がける
- 疲労やストレスをためない
流行期の注意点
マイコプラズマ肺炎の流行期には、特に以下の点に注意が必要です。
密接な接触を避ける 家族内や学校、職場などで感染者が出た場合、濃厚接触を避けることで感染リスクを下げることができます。
早期受診 長引く咳や発熱がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。早期診断・早期治療により、重症化を防ぎ、周囲への感染拡大も抑えることができます。
学校や職場での対応 マイコプラズマ肺炎は、学校保健安全法で明示的に出席停止が定められている感染症ではありませんが、学校や施設で重大な流行が起こった場合には、第三種の感染症の「その他の感染症」として緊急的な措置がとられることがあります。
一般的には、厚生労働省の感染症対策ガイドラインでは「発熱や激しい咳が治まっていること」を登園・登校再開の目安としています。ただし、各施設ごとに独自の基準が定められている場合もあるため、確認が必要です。
特に注意が必要な人
以下のような方は、マイコプラズマ肺炎が重症化しやすいため、特に予防に注意が必要です。
基礎疾患のある方
- 喘息: マイコプラズマ感染が喘息発作を誘発する可能性
- COPD(慢性閉塞性肺疾患): 症状が悪化しやすい
- 心疾患: 心筋炎などの合併症リスク
免疫不全患者
- 重症化のリスクが高い
- 通常よりも長期間の治療が必要になる可能性
妊婦
- 胎児への直接的な影響は少ないとされる
- 発熱や低酸素状態が胎児に影響を与える可能性
室内環境の管理
気道が敏感になっている回復期には、以下の環境管理も重要です。
加湿
- 室内の湿度を50~60%程度に保つ
- 加湿器を使用するか、濡れタオルを干す
- 乾燥は咳を悪化させる要因となる
室温管理
- 適切な室温(20~22℃程度)を保つ
- 急激な温度変化を避ける
刺激物の回避
- タバコの煙を避ける
- 強い香りや刺激臭を避ける

よくある質問
A. はい、マイコプラズマ肺炎は何度でも感染する可能性があります。一度感染すると体内で抗体が産生され、数年間(研究によると約4年間)は再感染しにくくなりますが、その免疫は徐々に弱まっていきます。免疫力が低下した状態や、抗体が十分に産生されなかった場合には、早ければ1年後に再感染することもあります。
A. 必ずしも軽くなるとは限りません。マイコプラズマ肺炎の症状の強さは、病原体そのものよりも感染に対する免疫反応の強さに影響されるため、過去の感染経験があっても症状が軽減されるとは限りません。また、近年増加しているマクロライド耐性菌に感染した場合は、治療期間が長引く可能性もあります。
Q3. 完治までにどのくらいかかりますか?
A. 適切な治療を受けた場合、発熱などの症状は数日から1週間程度で改善しますが、咳は解熱後も3~4週間程度続くことが一般的です。完全に回復するまでには通常1か月程度かかります。気道が敏感な状態が続いているため、咳だけが長引くことは珍しくありません。
Q4. 家族に感染者が出た場合、どうすれば良いですか?
A. 家族内感染のリスクは高いため、以下の対策を徹底してください。
- 感染者はマスクを着用する
- タオルや食器を共用しない
- 手洗い、うがいを家族全員が徹底する
- 室内をこまめに換気する
- 感染者の看病をする人を限定する
- 咳や発熱などの症状が出たら、早めに医療機関を受診する
Q5. 子どもがマイコプラズマ肺炎になりました。いつから登校できますか?
A. 法的な就学制限はありませんが、厚生労働省のガイドラインでは「発熱や激しい咳が治まっていること」を登校再開の目安としています。ただし、通っている学校独自の基準がある場合もあるため、必ず学校に確認してください。また、熱が下がっても咳が長引き、睡眠が十分にとれない、食欲がないなどの状態であれば、無理せず自宅で療養を続けることが推奨されます。
Q6. マイコプラズマ肺炎と診断されましたが、薬を飲んで2日経っても熱が下がりません。大丈夫でしょうか?
A. マクロライド系抗菌薬を48時間投与しても解熱が得られない場合、マクロライド耐性菌の可能性があります。必ず処方された医療機関に連絡し、再診を受けてください。必要に応じて、ニューキノロン系やテトラサイクリン系などの別の抗菌薬への変更が検討されます。自己判断で薬を中止したり、他の薬を追加したりすることは避けてください。
Q7. 予防接種はありますか?
A. 現時点では、マイコプラズマ肺炎に対する有効なワクチンは存在しません。そのため、日常的な感染予防対策(手洗い、マスク着用、うがいなど)が重要となります。
Q8. 軽い咳だけで、熱もありません。マイコプラズマ肺炎の可能性はありますか?
A. マイコプラズマ肺炎は「歩く肺炎」とも呼ばれ、比較的症状が軽いのが特徴です。発熱がなく「頑固な咳だけ」という症状の場合もあります。特に流行期に咳が2週間以上続く場合は、医療機関を受診し、胸部レントゲン検査を受けることをお勧めします。
まとめ
マイコプラズマ肺炎は一度感染しても、完全な生涯免疫は得られず、数年後には再感染する可能性がある感染症です。獲得した免疫は約4年間持続するとされていますが、免疫力の低下や不完全な免疫獲得、濃厚接触環境などの条件により、より早期に再感染することもあります。
2024年には、日本では8年ぶりの大流行が起こっており、過去に感染歴のある方でも再感染のリスクが高まっています。特に新型コロナウイルス感染症の流行により、数年間マイコプラズマに曝露されていなかった人が多く、免疫を持たない人口が増えていることが流行の背景にあると考えられます。
マイコプラズマ肺炎の特徴は、長引く頑固な咳、比較的軽い全身症状、そして感染後も長期間にわたる咳の持続です。多くの場合は軽症で済みますが、一部では重症化や合併症を起こすこともあるため、長引く咳や発熱がある場合は早めに医療機関を受診することが重要です。
治療には主にマクロライド系抗菌薬が使用されますが、近年ではマクロライド耐性菌が増加しており、治療に難渋するケースも増えています。48時間経過しても改善が見られない場合は、速やかに医師に相談し、適切な治療薬への変更を検討する必要があります。
現時点で有効なワクチンは存在しないため、予防には日常的な感染対策が不可欠です。手洗い、マスク着用、うがい、換気などの基本的な感染予防対策を徹底し、十分な睡眠と栄養で免疫力を維持することが、再感染予防の基本となります。
「一度かかったから大丈夫」という油断は禁物です。特に流行期には、過去の感染歴にかかわらず、感染予防対策を継続することが大切です。長引く咳などの症状がある場合は、周囲への感染拡大を防ぐためにも、早期に医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。
参考文献
- 厚生労働省「マイコプラズマ肺炎に関するQ&A」
- 国立感染症研究所「IDWR 2024年第35号<注目すべき感染症> マイコプラズマ肺炎」
- 国立感染症研究所「IASR 45(1), 2024【特集】マイコプラズマ肺炎 2023年現在」
- 日本呼吸器学会「マイコプラズマ感染症(マイコプラズマ肺炎)急増にあたり、その対策について」
- 日本小児科学会「マイコプラズマ肺炎流行に対する注意喚起」2024年10月
- 愛知県衛生研究所「マイコプラズマ肺炎」
- 東京都感染症情報センター「マイコプラズマ肺炎」
- 日本マイコプラズマ学会「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」
- Science Portal「マイコプラズマ肺炎、過去最多レベル」2024年10月
免責事項 この記事は医学的な情報提供を目的としたものであり、特定の診断や治療を推奨するものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診察を受けてください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務