はじめに
皮膚にできる「ほくろ」や「しみ」。日常的によく見かけるものですが、その中には命に関わる危険性を持つものも存在します。それが**メラノーマ(悪性黒色腫)**です。
メラノーマは皮膚がんの中でも特に悪性度が高く、転移しやすい特徴を持っています。しかし同時に、早期に発見し適切な治療を行えば、高い生存率が期待できるがんでもあります。
この記事では、メラノーマの生存率について、病期別のデータや生存率に影響を与える要因、早期発見の重要性などを、一般の方にもわかりやすく解説していきます。自分や家族の健康を守るために、ぜひ最後までお読みください。
メラノーマとは?基礎知識を理解する
メラノーマの定義と発生メカニズム
メラノーマは、皮膚のメラニン色素を作る「メラノサイト(色素細胞)」ががん化して発生する悪性腫瘍です。一般的には「悪性黒色腫」や「メラノーマ」と呼ばれています。
メラノサイトは皮膚の基底層に存在し、紫外線から皮膚を守るためにメラニン色素を産生しています。このメラノサイトの遺伝子に異常が生じると、無秩序に増殖を始め、悪性腫瘍へと変化することがあります。
他の皮膚がんとの違い
皮膚がんには主に以下の3種類があります:
- 基底細胞がん – 最も多いタイプで、進行は遅く転移もまれ
- 有棘細胞がん – 比較的転移しやすいが、早期発見で治療可能
- メラノーマ(悪性黒色腫) – 最も悪性度が高く、転移しやすい
メラノーマは皮膚がん全体の数%程度の発生率ですが、皮膚がんによる死亡の大部分を占めているのが現状です。これは、メラノーマが他の皮膚がんと比較して、リンパ節や他の臓器に転移しやすい特徴を持つためです。
日本におけるメラノーマの現状
日本皮膚科学会の統計によると、日本では年間約4,000人がメラノーマと診断されており、その数は年々増加傾向にあります。
メラノーマは欧米人に多い疾患として知られていますが、日本人でも決して稀な病気ではありません。特に日本人の場合、足の裏や爪、粘膜などに発生しやすいという特徴があり、これは欧米人とは異なるパターンです。
年齢別では50歳以上での発症が多いですが、若年層でも発症することがあり、全年齢層で注意が必要です。男女比はほぼ同等で、性別による大きな差は見られません。
メラノーマの病期分類|TNM分類とステージング
メラノーマの生存率を理解するためには、まず病期(ステージ)分類について知る必要があります。がんの進行度を示す病期は、治療方針の決定や予後の予測に重要な役割を果たします。
TNM分類とは
メラノーマの病期は、国際的に標準化されたTNM分類に基づいて決定されます。TNMとは以下の3つの要素を表しています:
- T(Tumor:腫瘍) – 原発腫瘍の厚さや潰瘍の有無
- N(Node:リンパ節) – リンパ節転移の有無と個数
- M(Metastasis:転移) – 遠隔転移の有無
腫瘍の厚さ(ブレスロー厚)
メラノーマの予後を決定する最も重要な因子の一つが「ブレスロー厚」です。これは腫瘍が皮膚表面から垂直方向にどれだけ深く浸潤しているかを示す指標で、ミリメートル単位で測定されます。
ブレスロー厚による分類:
- 1mm以下 – 薄いメラノーマ(予後良好)
- 1.01〜2.0mm – 中間的な厚さ
- 2.01〜4.0mm – やや厚いメラノーマ
- 4.0mm超 – 厚いメラノーマ(予後不良)
一般的に、腫瘍が薄ければ薄いほど予後は良好で、厚くなるほど転移のリスクが高まり、予後が悪化します。
病期(ステージ)の分類
TNM分類を組み合わせて、メラノーマは0期からIV期までの5段階に分類されます:
ステージ0(上皮内メラノーマ)
- メラノーマが表皮内にとどまっている最も早期の状態
- 転移のリスクはほぼなし
ステージI
- 腫瘍の厚さが2mm以下で、リンパ節転移なし
- IA期:1mm以下で潰瘍なし
- IB期:1mm以下で潰瘍あり、または1〜2mmで潰瘍なし
ステージII
- 腫瘍の厚さが2mmを超える、または潰瘍を伴う
- リンパ節転移はなし
- IIA期、IIB期、IIC期に細分化
ステージIII
- 所属リンパ節への転移がある
- または皮膚内転移、衛星病変がある
- IIIA期、IIIB期、IIIC期、IIID期に細分化
ステージIV
- 遠隔臓器への転移がある
- 肺、肝臓、脳、骨などへの転移
メラノーマの生存率|病期別データを詳しく解説
5年生存率とは
がん治療の成績を示す指標として、「5年生存率」が広く用いられています。これは、がんと診断されてから5年後に生存している患者さんの割合を示すものです。
5年生存率が重要視される理由は、多くのがんでは診断後5年間再発がなければ、その後の再発リスクが大幅に低下するためです。ただし、メラノーマの場合は5年以降も再発する可能性があるため、長期的なフォローアップが必要です。
病期別5年生存率
日本皮膚科学会および国立がん研究センターのデータに基づく、メラノーマの病期別5年生存率は以下の通りです:
ステージ0(上皮内メラノーマ)
- 5年生存率: ほぼ100%
- 上皮内にとどまっている段階で発見されれば、完治が期待できます
ステージI
- 5年生存率: 約90〜95%
- IA期:95〜98%
- IB期:90〜95%
- 早期発見により極めて良好な予後が期待できます
ステージII
- 5年生存率: 約70〜85%
- IIA期:85〜90%
- IIB期:75〜85%
- IIC期:70〜75%
- 腫瘍が厚くなるにつれて予後はやや低下しますが、適切な治療で高い生存率が維持されます
ステージIII
- 5年生存率: 約40〜70%
- IIIA期:65〜70%
- IIIB期:50〜60%
- IIIC期:40〜50%
- IIID期:30〜40%
- リンパ節転移がある段階では、予後は大きく低下します
ステージIV
- 5年生存率: 約10〜30%
- 遠隔転移がある場合、予後は厳しくなりますが、近年の免疫療法や分子標的療法の進歩により、生存率は向上傾向にあります
10年生存率について
メラノーマは5年以降も再発する可能性があるため、10年生存率も重要な指標となります:
- ステージI: 85〜90%
- ステージII: 60〜75%
- ステージIII: 30〜50%
- ステージIV: 10%未満
これらのデータから、早期発見の重要性と、長期的なフォローアップの必要性が理解できます。
生存率データの解釈における注意点
生存率のデータを見る際には、以下の点に注意が必要です:
- 統計データである: 個々の患者さんの予後は、年齢、全身状態、治療への反応など、様々な要因によって異なります
- 過去のデータ: 生存率は過去に治療を受けた患者さんのデータに基づいており、現在の治療成績はより向上している可能性があります
- 新しい治療法の影響: 近年開発された免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬により、特に進行期メラノーマの予後は大きく改善しています
- 日本人特有の傾向: 日本人のメラノーマは欧米人と発生部位や病型が異なるため、欧米のデータをそのまま当てはめることはできません
生存率に影響を与える重要な要因
メラノーマの生存率は、病期だけでなく、様々な要因によって影響を受けます。ここでは主な予後因子について解説します。
1. 腫瘍の厚さ(ブレスロー厚)
前述の通り、ブレスロー厚はメラノーマの最も重要な予後因子です。腫瘍が1mm以下の場合、5年生存率は95%以上と非常に良好ですが、4mmを超えると生存率は大きく低下します。
この差は、腫瘍が厚くなるほど血管やリンパ管に侵入しやすくなり、転移のリスクが高まるためです。
2. 潰瘍の有無
メラノーマに潰瘍(かいよう)が形成されている場合、予後は悪化します。潰瘍の存在は、腫瘍の増殖が速く、悪性度が高いことを示唆しています。
同じ厚さの腫瘍でも、潰瘍がある場合とない場合では、病期分類が一段階異なり、生存率にも差が生じます。
3. リンパ節転移の程度
リンパ節転移の有無と個数は、予後に大きく影響します:
- 転移リンパ節なし: 予後良好
- 微小転移(顕微鏡的転移): 予後はやや不良
- 肉眼的転移(触診可能): 予後不良
- 複数個の転移: 転移個数が増えるほど予後は悪化
- 節外浸潤: リンパ節から周囲組織へ浸潤している場合、さらに予後不良
4. 遠隔転移の部位
ステージIVのメラノーマでも、転移部位によって予後が異なります:
比較的予後が良い転移部位:
- 皮膚、皮下組織
- 肺のみへの転移
- 遠隔リンパ節
予後が悪い転移部位:
- 脳
- 肝臓
- 骨
- 複数臓器への転移
5. 病理組織学的サブタイプ
メラノーマにはいくつかのサブタイプがあり、それぞれ予後が異なります:
表在拡大型(Superficial Spreading Melanoma)
- 日本人に最も多いタイプ
- 比較的予後良好
結節型(Nodular Melanoma)
- 急速に深部に浸潤
- 予後不良の傾向
末端黒子型(Acral Lentiginous Melanoma)
- 日本人に特徴的で、足の裏や爪に好発
- 発見が遅れやすく、予後はやや不良
悪性黒子型(Lentigo Maligna Melanoma)
- 高齢者の顔面に好発
- 緩徐に進行し、比較的予後良好
6. 年齢と性別
一般的に、以下の傾向が報告されています:
- 年齢: 若年者の方が高齢者よりも予後が良好な傾向がありますが、若年発症の場合は進行が早いケースもあります
- 性別: 女性の方が男性よりもやや予後が良いとされています
7. 発生部位
メラノーマの発生部位も予後に影響します:
予後が比較的良い部位:
- 四肢
- 体幹
予後がやや悪い部位:
- 頭頸部
- 粘膜
- 手足の末端部(爪下など)
日本人に多い足底のメラノーマは、発見が遅れやすいため予後が悪化する傾向があります。
8. 遺伝子変異の種類
近年の研究により、メラノーマの遺伝子変異のタイプが予後や治療選択に影響することが明らかになっています:
- BRAF遺伝子変異: 約半数のメラノーマで認められ、分子標的薬の効果が期待できます
- NRAS遺伝子変異: 予後がやや不良とされています
- c-Kit遺伝子変異: 粘膜や末端のメラノーマに多く、特定の治療薬が有効です
9. 患者の全身状態
がん治療における共通の予後因子として、患者さんの全身状態(PS: Performance Status)も重要です。全身状態が良好であれば、より強力な治療が可能となり、予後の改善が期待できます。
早期発見が生存率を大きく左右する理由
早期発見の圧倒的な重要性
メラノーマの生存率データから明らかなように、早期発見こそが生存率を大きく左右する最も重要な要因です。
ステージ0やステージIで発見された場合、5年生存率は90%以上と非常に高く、ほぼ完治が期待できます。一方、ステージIVまで進行してしまうと、5年生存率は10〜30%まで低下してしまいます。
なぜ早期発見が難しいのか
メラノーマの早期発見が難しい理由には以下があります:
- 初期症状が乏しい: 痛みやかゆみなどの自覚症状がほとんどありません
- 通常のほくろとの区別が難しい: 見た目が普通のほくろと似ていることがあります
- 発生部位が見えにくい: 日本人に多い足底や爪、粘膜は日常的にチェックしにくい部位です
- 知識不足: メラノーマに関する認識が十分に広まっていません
早期発見のための具体的方法
ABCDEルール
メラノーマの疑わしい病変を見分けるための国際的な基準として「ABCDEルール」があります:
A (Asymmetry: 非対称性)
- 病変を中心で二分したときに、左右が非対称
- 正常なほくろは左右対称の円形や楕円形
B (Border: 境界)
- 境界が不明瞭でギザギザしている
- 正常なほくろは境界が明瞭
C (Color: 色調)
- 黒色、茶色、赤色、白色など複数の色が混在
- 正常なほくろは均一な色調
D (Diameter: 直径)
- 直径が6mm以上
- ただし、小さくても危険なメラノーマも存在
E (Evolving: 変化)
- 大きさ、形、色が変化している
- 新たに出血や隆起が生じた
セルフチェックの方法
月に1回程度、全身の皮膚をチェックする習慣をつけましょう:
- 明るい場所で: 十分な照明の下で観察
- 鏡を活用: 手鏡と姿見を使って、背中や頭皮もチェック
- 家族の協力: 自分では見えない部位は家族に見てもらう
- 記録を残す: スマートフォンで写真を撮って変化を記録
- 特に注意すべき部位:
- 足の裏(特に土踏まず、かかと)
- 爪の下
- 手のひら
- 頭皮
- 粘膜(口腔内、外陰部など)
定期的な皮膚科検診
以下に該当する方は、定期的な皮膚科検診を推奨します:
- 多数のほくろがある
- 大きなほくろ(直径5mm以上)がある
- 家族にメラノーマの既往がある
- 過去に強い日焼けの経験がある
- 免疫抑制剤を使用している
- 50歳以上
皮膚科専門医による検診では、ダーモスコピー(皮膚表面拡大観察装置)を用いて、より詳細な観察が可能です。
メラノーマの治療法と生存率への影響
手術療法
原発巣の切除
メラノーマの基本的な治療は外科的切除です。切除範囲は腫瘍の厚さによって決定されます:
- 上皮内メラノーマ: 病変から5mm離して切除
- 1mm以下: 病変から1cm離して切除
- 1〜2mm: 病変から1〜2cm離して切除
- 2mm以上: 病変から2cm離して切除
十分な切除マージンを確保することで、局所再発のリスクを低減できます。
センチネルリンパ節生検
ステージIB以上のメラノーマでは、センチネルリンパ節生検が推奨されます。センチネルリンパ節とは、原発巣から最初にリンパ液が流れ込むリンパ節のことで、ここに転移がなければ他のリンパ節への転移の可能性は極めて低いと判断できます。
転移が認められた場合は、追加のリンパ節郭清や補助療法が検討されます。
薬物療法
免疫チェックポイント阻害薬
近年、メラノーマ治療に革命をもたらしたのが免疫チェックポイント阻害薬です。これは、がん細胞が免疫システムから逃れるために使用している「ブレーキ」を解除し、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにする治療法です。
主な薬剤:
- ニボルマブ(オプジーボ®): 抗PD-1抗体
- ペムブロリズマブ(キイトルーダ®): 抗PD-1抗体
- イピリムマブ(ヤーボイ®): 抗CTLA-4抗体
これらの薬剤により、進行期メラノーマの5年生存率は従来の10%未満から30%以上へと大幅に改善しました。
分子標的薬
BRAF遺伝子変異を持つメラノーマ(約半数)に対しては、分子標的薬が有効です:
- BRAF阻害薬: ダブラフェニブ、ベムラフェニブなど
- MEK阻害薬: トラメチニブ、コビメチニブなど
通常、BRAF阻害薬とMEK阻害薬を併用することで、高い奏効率が得られます。
化学療法
免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬が使用できない場合、または効果が不十分な場合に化学療法が選択されます。代表的な薬剤はダカルバジン(DTIC)です。
放射線療法
メラノーマは放射線抵抗性とされていますが、以下の場合に放射線療法が検討されます:
- 切除不能な局所病変
- 脳転移
- 骨転移による疼痛緩和
- 手術後の補助療法
補助療法(術後補助療法)
ステージIII以上のメラノーマでは、手術後に再発を予防する目的で補助療法が行われます:
- ニボルマブ: 再発リスクを30〜40%低減
- ペムブロリズマブ: 同様に再発リスクを低減
- ダブラフェニブ+トラメチニブ(BRAF変異陽性の場合): 再発リスクを約50%低減
補助療法により、無再発生存期間が有意に延長することが証明されています。
治療の選択と生存率
適切な治療法の選択は生存率に大きく影響します。現在では、腫瘍の遺伝子検査を行い、個々の患者さんに最適な治療法を選択する「精密医療(プレシジョンメディシン)」が進んでいます。
メラノーマ治療の最新動向
免疫療法の進化
免疫チェックポイント阻害薬の登場により、メラノーマ治療は大きく変わりました。現在もさらなる進化が続いています:
- 併用療法の最適化: 異なる免疫チェックポイント阻害薬の併用により、効果の向上が期待されています
- 新規免疫チェックポイント分子の発見: LAG-3、TIM-3などの新たな標的分子が研究されています
- がんワクチン療法: 個別化がんワクチンの臨床試験が進行中です
分子標的療法の発展
BRAF/MEK阻害薬以外にも、新たな標的分子に対する治療薬の開発が進んでいます:
- c-Kit阻害薬: 粘膜型や末端型メラノーマに有効性が期待されています
- NRAS阻害薬: 開発が進められています
複合療法の研究
免疫療法と分子標的療法、化学療法などを組み合わせた複合療法の研究が活発に行われており、さらなる生存率の向上が期待されています。
個別化医療の推進
遺伝子解析技術の進歩により、個々の腫瘍の特性に基づいた治療選択が可能になっています。これにより、より効果的で副作用の少ない治療が実現しつつあります。
予防と早期発見のための実践的アドバイス
紫外線対策の重要性
紫外線はメラノーマの主要な危険因子の一つです。以下の対策を日常的に実践しましょう:
- 日焼け止めの使用:
- SPF30以上、PA+++以上の日焼け止めを使用
- 2〜3時間おきに塗り直す
- 曇りの日や冬季も忘れずに使用
- 衣服による防御:
- 長袖シャツや長ズボンの着用
- UVカット素材の衣類を選ぶ
- 帽子(つばの広いもの)を着用
- 時間帯の配慮:
- 紫外線が強い10時〜14時の外出を避ける
- 日陰を活用する
- サングラスの着用:
- UVカット機能のあるサングラスで目を保護
- 日焼けマシンの使用を避ける:
- 美容目的の人工的な日焼けは避けましょう
生活習慣での注意点
- ほくろの観察習慣:
- 月1回のセルフチェック
- 変化に気づいたら即座に受診
- 外傷の予防:
- ほくろを繰り返し刺激しない
- 足底のほくろは靴ずれに注意
- 免疫機能の維持:
- バランスの良い食事
- 適度な運動
- 十分な睡眠
- ストレス管理
受診すべきタイミング
以下の症状がある場合は、速やかに皮膚科を受診してください:
- ほくろが急に大きくなった
- ほくろの色が変化した(濃くなる、薄くなる、複数の色が混在)
- ほくろの形が変わった(非対称、境界が不明瞭)
- ほくろから出血した
- ほくろに潰瘍ができた
- ほくろの周囲に小さな黒い点が出現した
- ほくろにかゆみや痛みがある
- 爪に黒い縦線が出現し、広がっている
- 新たに出現した黒色病変が気になる
高リスク群への推奨
以下に該当する方は、より積極的な予防と検診が推奨されます:
- 家族歴: 血縁者にメラノーマの既往がある
- 多発性のほくろ: 50個以上のほくろがある
- 大型のほくろ: 直径5mm以上のほくろが複数ある
- 異型母斑症候群: 異型のほくろが多数ある
- 免疫抑制状態: 臓器移植後や免疫抑制剤使用中
- 過去の日焼け歴: 若年期に水疱ができるほどの強い日焼けの経験
これらの方は、年1〜2回の皮膚科専門医による全身チェックを受けることをお勧めします。
メラノーマと診断されたら知っておきたいこと
診断後の心構え
メラノーマと診断されたら、まず深呼吸をして落ち着きましょう。確かに深刻な病気ですが、早期であれば高い確率で治癒が期待できます。
大切なのは以下の点です:
- 正確な情報を得る: 信頼できる医療機関や公的機関からの情報を参考にしましょう
- 主治医との信頼関係: 疑問点は遠慮なく質問し、納得して治療を受けましょう
- セカンドオピニオンの活用: 必要に応じて他の専門医の意見も聞きましょう
- 家族や友人のサポート: 一人で抱え込まず、周囲のサポートを受けましょう
治療中の生活
治療中も可能な限り通常の生活を維持することが大切です:
- 仕事との両立: 治療スケジュールに合わせて調整しましょう
- 適度な運動: 体調に合わせて無理のない範囲で
- 栄養管理: バランスの良い食事を心がけましょう
- 心のケア: 不安やストレスは遠慮なく医療チームに相談しましょう
フォローアップの重要性
治療後も定期的なフォローアップが不可欠です:
ステージI〜II:
- 最初の2年間: 3〜6ヶ月ごと
- 3〜5年目: 6〜12ヶ月ごと
- 5年以降: 年1回
ステージIII〜IV:
- 最初の2年間: 3ヶ月ごと
- 3〜5年目: 3〜6ヶ月ごと
- 5年以降: 6〜12ヶ月ごと
フォローアップでは、視診・触診、リンパ節の確認、画像検査などが行われます。
再発への備え
メラノーマは再発の可能性がある病気です。再発の早期発見のために:
- 自己観察: 全身の皮膚を定期的にチェック
- 症状の把握: 新たなしこりや腫れ、持続する咳や息切れなどに注意
- 定期検診の徹底: スケジュール通りに受診
- 異常を感じたら即座に連絡: 次回予約を待たずに相談

よくある質問(FAQ)
A: メラノーマの約10%は家族性とされており、特定の遺伝子変異が関与していることがあります。血縁者にメラノーマの既往がある場合、発症リスクは約2倍になるとされています。ただし、大多数は散発性(遺伝でない)です。家族歴がある方は、より注意深い観察と定期検診が推奨されます。
A: 予防的なほくろの除去は一般的には推奨されていません。多くのメラノーマは既存のほくろからではなく、正常な皮膚から新たに発生します。ただし、ABCDEルールに該当する疑わしいほくろや、異型母斑(前がん病変の可能性)については、医師の判断で切除が推奨される場合があります。
A: 小児のメラノーマは非常にまれですが、発症することはあります。特に思春期以降に発症リスクが上昇します。先天性の巨大色素性母斑や、家族性メラノーマ症候群の子供は高リスク群です。子供の場合も、ほくろの変化に注意し、疑わしい場合は皮膚科を受診しましょう。
A: 治療費は病期や治療内容によって大きく異なります。日本では健康保険が適用されるため、患者さんの自己負担は通常3割です。早期のメラノーマで手術のみの場合は数万円程度ですが、進行期で免疫療法や分子標的薬を使用する場合は、高額療養費制度を利用しても月額数万円から十数万円の自己負担となる可能性があります。具体的な費用については、医療ソーシャルワーカーに相談することをお勧めします。
A: メラノーマの既往がある方は、紫外線対策がより重要になります。完全に日光を避ける必要はありませんが、日焼け止めの使用、防護衣の着用、日中の強い日差しを避けるなど、徹底した対策が必要です。適度な日光浴は骨の健康などに必要ですが、過度な紫外線曝露は再発リスクを高める可能性があります。
A: 統計的な生存率は過去のデータに基づいており、個々の患者さんの予後を正確に予測するものではありません。近年の免疫療法や分子標的療法の進歩により、進行期メラノーマの予後は大きく改善しています。実際に、ステージIVでも長期生存される患者さんが増えています。最新の治療法を含めた総合的な治療計画について、専門医とよく相談してください。
まとめ|早期発見と適切な治療で高い生存率を
メラノーマは確かに悪性度の高い皮膚がんですが、早期に発見し適切な治療を行えば、高い生存率が期待できる疾患です。
この記事の重要ポイント:
- 早期発見が最も重要: ステージIまでに発見されれば5年生存率は90%以上
- 病期が進むほど予後は厳しくなる: ステージIVでは5年生存率が10〜30%に低下
- 腫瘍の厚さが重要: 1mm以下の早期発見が理想的
- 定期的なセルフチェック: ABCDEルールを活用した月1回のチェック習慣
- 疑わしい変化があれば即受診: 早期受診が予後を大きく改善
- 紫外線対策の徹底: 日焼け止め、防護衣、日陰の活用
- 治療法は進歩している: 免疫療法や分子標的療法により予後が改善
- 定期的なフォローアップ: 治療後も長期的な観察が必要
ご自身の健康を守るために、今日からセルフチェックを始めましょう。そして、少しでも気になることがあれば、遠慮なく専門医にご相談ください。
参考文献
本記事は以下の信頼性の高い情報源を参考に作成しました:
- 日本皮膚科学会「皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン」
https://www.dermatol.or.jp/ - 国立がん研究センター がん情報サービス「メラノーマ(悪性黒色腫)」
https://ganjoho.jp/public/cancer/melanoma/ - 厚生労働省「がん対策情報」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/index.html - 日本癌治療学会「がん診療ガイドライン」
https://www.jsco-cpg.jp/ - 国立がん研究センター中央病院「メラノーマ診療」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/ - 日本臨床腫瘍学会
https://www.jsmo.or.jp/
※本記事の情報は2025年時点のものです。医療情報は日々更新されますので、最新の情報については専門医にご相談ください。
※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりとなるものではありません。具体的な症状や治療については、必ず医療機関を受診し、専門医にご相談ください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務