はじめに
陰部のヒリヒリとした痛みや不快感は、多くの方が一度は経験したことがある症状です。しかし、デリケートな部位であるがゆえに、誰かに相談しづらく、一人で悩んでしまう方も少なくありません。
陰部のヒリヒリ感は、軽度の皮膚刺激から感染症まで、さまざまな原因で起こります。適切な対処をすれば改善できるケースが多い一方で、放置すると症状が悪化したり、パートナーへの感染リスクがある場合もあります。
この記事では、陰部のヒリヒリ感の主な原因、症状の見分け方、受診のタイミング、治療法、そして日常生活でできる予防策まで、皮膚科専門医の視点から詳しく解説します。
陰部のヒリヒリ感とは
症状の特徴
陰部のヒリヒリ感は、人によって感じ方が異なりますが、一般的には以下のような感覚として表現されます。
- ピリピリとした刺すような痛み
- 焼けるような熱感
- チクチクとした不快感
- かゆみを伴う痛み
- 触れると痛い(接触痛)
これらの症状は、外陰部(陰唇、陰茎、陰嚢など)、会陰部、肛門周囲など、デリケートゾーン全体に現れることがあります。
症状が現れやすいタイミング
陰部のヒリヒリ感は、以下のようなタイミングで起こりやすい傾向があります。
- 排尿時や排便時
- 入浴時やシャワー時
- 下着との摩擦時
- 性行為の後
- 生理前後や生理中
- 新しい下着や衣類を着用した時
- ボディソープや洗剤を変えた後
陰部のヒリヒリ感の主な原因
陰部のヒリヒリ感を引き起こす原因は多岐にわたります。ここでは、代表的な原因を詳しく見ていきましょう。
1. 接触皮膚炎(かぶれ)
接触皮膚炎は、陰部のヒリヒリ感の最も一般的な原因の一つです。
刺激性接触皮膚炎 石鹸、ボディソープ、洗剤、生理用品、避妊具、香料などの刺激物質が皮膚に直接触れることで起こります。陰部の皮膚は他の部位よりも薄くデリケートなため、刺激を受けやすい特徴があります。
アレルギー性接触皮膚炎 ラテックス(ゴム製品)、香料、防腐剤、金属(下着の金具など)などに対するアレルギー反応として起こります。初回の接触では症状が出ず、繰り返し接触することで発症することが特徴です。
2. カンジダ症(カンジダ性外陰腟炎)
カンジダ症は、カンジダ・アルビカンスという真菌(カビ)が原因で起こる感染症です。
主な症状
- 強いかゆみ
- ヒリヒリとした痛み
- 白いおりものの増加(カッテージチーズ状)
- 外陰部の赤み、腫れ
- 性交痛
カンジダ菌は常在菌の一種で、通常は問題を起こしませんが、体調不良、抗生物質の使用、免疫力の低下などで異常増殖することがあります。特に女性に多く見られ、日本皮膚科学会によれば、成人女性の約75%が一生に一度は経験するとされています。
3. 細菌性腟症
腟内の細菌バランスが崩れることで起こる状態です。
主な症状
- 魚臭いおりものの増加
- 灰色がかったおりもの
- 軽度のヒリヒリ感やかゆみ
- 排尿時の不快感
細菌性腟症は性感染症ではありませんが、性行為によって発症リスクが高まることがあります。
4. 性感染症(STI)
性感染症の中には、陰部のヒリヒリ感を引き起こすものがあります。
性器ヘルペス 単純ヘルペスウイルス(主に2型)による感染症で、以下の症状が特徴的です。
- 強いヒリヒリ感や痛み
- 水疱や潰瘍の形成
- 排尿時の激しい痛み
- 発熱、リンパ節の腫れ(初感染時)
トリコモナス症 トリコモナス原虫による感染症で、以下の症状が見られます。
- 泡状の黄緑色のおりもの
- 強いかゆみとヒリヒリ感
- 悪臭を伴うおりもの
- 性交痛
淋菌感染症 淋菌による感染症で、以下の症状が現れます。
- 黄色や緑色の膿性のおりもの
- 排尿時の痛みやヒリヒリ感
- 外陰部の腫れや赤み
厚生労働省の統計によれば、性感染症は若年層を中心に増加傾向にあり、早期発見・早期治療が重要です。
5. 外陰部痛症(外陰痛)
外陰部痛症は、明確な原因がないにもかかわらず、慢性的な痛みやヒリヒリ感が続く状態です。
主な特徴
- 3ヶ月以上続く慢性的な痛み
- 焼けるような、ヒリヒリとした痛み
- 性交痛
- 座位時の痛み
- 触れると痛い(アロディニア)
外陰部痛症の原因は完全には解明されていませんが、神経の過敏性、筋肉の緊張、心理的要因などが関与していると考えられています。
6. 皮膚疾患
陰部にも、他の部位と同様にさまざまな皮膚疾患が発症することがあります。
湿疹
- 赤み、ヒリヒリ感、かゆみ
- 乾燥やカサカサした皮膚
- ひどい場合は皮膚が裂ける
乾癬
- 境界明瞭な赤い斑
- 銀白色の鱗屑(通常の乾癬とは異なり、陰部では鱗屑が目立たないこともある)
- かゆみやヒリヒリ感
扁平苔癬
- 紫がかった丘疹
- 白い網状の模様
- 痛みやヒリヒリ感
- 癒着や瘢痕形成のリスク
7. 摩擦や外傷
物理的な刺激による皮膚のダメージも、ヒリヒリ感の原因となります。
原因となる行為
- きつい下着や衣類の着用
- 過度な洗浄やこすり洗い
- 性行為時の摩擦
- 自転車やバイクの長時間の運転
- 除毛や脱毛処理
8. 更年期に伴う変化
女性の場合、更年期によるホルモンバランスの変化も陰部のヒリヒリ感の原因となります。
萎縮性腟炎(腟の萎縮) エストロゲン(女性ホルモン)の減少により、腟粘膜が薄くなり、乾燥しやすくなる状態です。
主な症状
- 乾燥感とヒリヒリ感
- 性交痛
- 軽い出血
- 頻尿や排尿痛
日本産科婦人科学会によれば、閉経後の女性の約40〜50%が萎縮性腟炎を経験するとされています。
9. その他の原因
糖尿病 高血糖状態が続くと、カンジダ症などの感染症にかかりやすくなり、陰部のヒリヒリ感の原因となることがあります。
免疫抑制状態 HIV感染症、抗がん剤治療、免疫抑制剤の使用などにより免疫力が低下すると、さまざまな感染症のリスクが高まります。
ストレスや心理的要因 強いストレスや不安は、皮膚のバリア機能を低下させたり、痛みの感じ方を変化させたりすることがあります。
症状別の見分け方
陰部のヒリヒリ感だけでは原因を特定することは難しいですが、伴う症状によってある程度の予測が可能です。
おりものの変化を伴う場合
白いカッテージチーズ状のおりもの + 強いかゆみ → カンジダ症の可能性が高い
魚臭い灰色のおりもの → 細菌性腟症の可能性
泡状の黄緑色のおりもの + 悪臭 → トリコモナス症の可能性
黄色や緑色の膿性のおりもの → 淋菌感染症やクラミジア感染症の可能性
水疱や潰瘍を伴う場合
小さな水疱が集まって、破れると潰瘍になる + 強い痛み → 性器ヘルペスの可能性が高い
皮膚の変化を伴う場合
赤み、腫れ、カサカサ → 接触皮膚炎や湿疹の可能性
紫がかった丘疹や白い網状の模様 → 扁平苔癬の可能性
境界明瞭な赤い斑 → 乾癬の可能性
慢性的な症状の場合
3ヶ月以上続く原因不明の痛み → 外陰部痛症の可能性
更年期の女性で乾燥感を伴う → 萎縮性腟炎の可能性
受診のタイミングと診療科
こんな時は早めに受診を
以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
- 症状が1週間以上続く、または悪化している
- 強い痛みで日常生活に支障がある
- 水疱や潰瘍ができている
- おりものの量、色、においに明らかな異常がある
- 発熱を伴う
- 排尿時や性行為時に強い痛みがある
- 出血を伴う
- パートナーにも症状がある
- 妊娠している、または妊娠の可能性がある
受診する診療科
陰部のヒリヒリ感で受診する際は、以下の診療科が適しています。
女性の場合
- 婦人科・産婦人科:おりものの異常、性感染症、更年期症状などに対応
- 皮膚科:皮膚疾患全般、アレルギー、かぶれなどに対応
男性の場合
- 泌尿器科:性感染症、尿路系の症状などに対応
- 皮膚科:皮膚疾患全般、アレルギー、かぶれなどに対応
迷った場合は、まず皮膚科を受診するとよいでしょう。必要に応じて適切な診療科へ紹介してもらえます。
受診時に伝えること
スムーズな診断のために、以下の情報を医師に伝えましょう。
- 症状が始まった時期
- 症状の変化(悪化、改善など)
- おりものの有無や特徴
- 性行為の有無とタイミング
- 最近変えた製品(石鹸、洗剤、生理用品など)
- 現在使用している薬
- 過去の病歴(糖尿病、アレルギーなど)
- 生理周期との関連
- パートナーの症状の有無
恥ずかしいと感じるかもしれませんが、正確な診断には詳細な情報が重要です。医師は日常的にこうした相談を受けており、プライバシーにも十分配慮しますので、安心して相談してください。
診断方法
医療機関では、以下のような検査や診察が行われます。
問診
症状の詳細、発症時期、経過、生活習慣などについて質問されます。
視診
外陰部の状態を目で確認します。赤み、腫れ、水疱、潰瘍、皮疹などの有無をチェックします。
内診(女性の場合)
腟鏡を使用して腟内を観察し、おりものの状態や腟粘膜の状態を確認します。
検査
おりもの検査(顕微鏡検査) おりものを採取し、顕微鏡で観察します。カンジダ、トリコモナス、細菌などの有無を確認できます。
細菌培養検査 感染症の原因となる細菌を特定するための検査です。結果が出るまで数日かかります。
性感染症検査 淋菌、クラミジア、ヘルペスウイルスなどの検査を行います。検査方法は原因菌により異なります。
アレルギー検査(パッチテスト) アレルギー性接触皮膚炎が疑われる場合、原因物質を特定するためのテストを行うことがあります。
組織検査(生検) 皮膚疾患が疑われる場合や、悪性腫瘍を除外する必要がある場合に行われます。
治療法
治療法は原因によって異なります。ここでは主な治療法を紹介します。
接触皮膚炎(かぶれ)の治療
基本的な対処
- 原因物質の回避
- 刺激の少ない製品への変更
- 適切な保湿
薬物療法
- ステロイド外用薬:炎症を抑える
- 保湿剤:皮膚バリア機能を回復させる
- 抗ヒスタミン薬(内服):かゆみを抑える
治療期間は症状の程度により異なりますが、通常1〜2週間で改善します。
カンジダ症の治療
抗真菌薬による治療
- 腟錠や腟剤:直接腟内に挿入する薬
- 外用薬(クリームや軟膏):外陰部に塗布
- 内服薬:症状が重い場合や再発を繰り返す場合
治療期間は通常7〜14日程度です。症状が改善しても、処方された薬は最後まで使い切ることが重要です。
再発予防 カンジダ症は再発しやすい特徴があります。以下の点に注意しましょう。
- 通気性の良い下着を着用
- 腟内の洗浄は避ける
- 抗生物質の適切な使用
- 免疫力の維持
細菌性腟症の治療
抗菌薬による治療
- メトロニダゾール:内服薬または腟剤
- クリンダマイシン:腟剤
治療期間は通常7日間です。アルコールとの併用を避ける必要がある薬もあるため、医師の指示に従ってください。
性感染症の治療
性器ヘルペス
- 抗ウイルス薬(内服):アシクロビル、バラシクロビルなど
- 鎮痛薬:痛みが強い場合
- 局所の冷却:症状緩和のため
初感染の場合は7〜10日間の治療が一般的です。再発の場合は短期間の治療で済むことが多いです。
トリコモナス症
- メトロニダゾール(内服)
- パートナーも同時に治療することが重要
淋菌感染症
- 抗生物質(注射):セフトリアキソンなど
- クラミジアとの混合感染が多いため、同時に治療することが一般的
重要な注意点
- パートナーも同時に検査・治療を受けることが重要
- 治療中は性行為を避ける
- 治癒確認の検査を受ける
外陰部痛症の治療
外陰部痛症の治療は複合的なアプローチが必要です。
薬物療法
- 局所麻酔薬:リドカインゲルなど
- 三環系抗うつ薬:神経性の痛みを軽減(少量から開始)
- 抗けいれん薬:ガバペンチンなど
物理療法
- 骨盤底筋のリハビリテーション:理学療法士による指導
- バイオフィードバック療法
心理療法
- 認知行動療法:痛みへの対処法を学ぶ
- カウンセリング:不安やストレスの軽減
生活習慣の改善
- ゆったりした綿の下着の着用
- 刺激物の回避
- 適度な運動
治療には時間がかかることが多く、忍耐強く取り組むことが重要です。
皮膚疾患の治療
湿疹
- ステロイド外用薬:炎症を抑える
- 保湿剤:皮膚バリア機能を回復
- 免疫抑制外用薬:タクロリムス軟膏など(ステロイドが使えない場合)
乾癬
- ビタミンD3外用薬
- ステロイド外用薬
- 免疫抑制薬(内服):重症例
- 生物学的製剤:難治例
扁平苔癬
- ステロイド外用薬:高力価のもの
- 免疫抑制外用薬:タクロリムス軟膏
- ステロイド内服:重症例
萎縮性腟炎の治療
ホルモン療法
- エストロゲン腟剤:局所的にホルモンを補充
- 全身性ホルモン補充療法(HRT):更年期症状全般に対して
非ホルモン療法
- 腟保湿剤:ヒアルロン酸配合の製品など
- 潤滑ゼリー:性交痛の軽減
レーザー治療 近年、腟レーザー治療(フラクショナルCO2レーザー)が選択肢の一つとなっています。腟粘膜のコラーゲン生成を促進し、潤いを取り戻す効果が期待されます。
日常生活でできる予防と対策
陰部のヒリヒリ感を予防し、症状を悪化させないために、以下の対策を実践しましょう。
適切な洗浄方法
洗いすぎに注意 陰部は自浄作用があるため、過度な洗浄は逆効果です。腟内の洗浄は基本的に不要です。
推奨される洗浄方法
- ぬるま湯でやさしく洗う
- 使用する場合は、低刺激性・弱酸性のソープを選ぶ
- ゴシゴシこすらず、手でやさしく洗う
- 香料や防腐剤の少ない製品を選ぶ
- 洗浄後はしっかりすすぐ
- タオルで強くこすらず、押さえるように水分を取る
下着の選び方
通気性を重視
- 綿100%の下着を選ぶ
- ゆったりしたサイズを選ぶ
- きつい下着やガードルの長時間着用は避ける
- 化学繊維やレースの下着は避ける(または綿の裏地付きを選ぶ)
清潔を保つ
- 毎日交換する
- 汗をかいたらこまめに着替える
- 洗剤は低刺激性のものを選ぶ
- しっかりすすぐ(洗剤残りを防ぐ)
- 日光でしっかり乾燥させる
生理用品の選び方と使い方
こまめな交換
- ナプキンは2〜3時間ごとに交換
- タンポンは4〜6時間ごとに交換(長時間の使用は避ける)
製品の選択
- 肌にやさしい素材の製品を選ぶ
- 香料付きの製品は避ける
- 肌に合わない場合は、別のブランドや種類を試す
- 布ナプキンや月経カップなども選択肢の一つ
性行為時の注意点
適切な潤滑
- 十分な前戯で自然な潤滑を促す
- 必要に応じて潤滑ゼリーを使用する
- 水性の潤滑剤を選ぶ(油性は避ける)
コンドームの使用
- 性感染症予防のためコンドームを使用
- ラテックスアレルギーがある場合は、ポリウレタン製を選ぶ
- 適切なサイズを選ぶ
清潔を保つ
- 性行為前後にシャワーを浴びる
- 性行為後は排尿する(尿路感染症の予防)
除毛・脱毛時の注意
処理方法の選択
- カミソリよりも電気シェーバーの方が肌への刺激が少ない
- 脱毛クリームは陰部に使用できないものが多いため注意
- 脱毛処理後は保湿を忘れずに
専門施設の利用
- VIO脱毛は、医療機関や専門サロンの利用を検討
- 自己処理による肌トラブルのリスクを減らせる
生活習慣の改善
通気性の確保
- タイトなズボンやスキニージーンズの長時間着用を避ける
- 長時間座りっぱなしを避け、適度に立ち上がる
- 就寝時はゆったりしたパジャマやナイトウェアを着る
免疫力の維持
- バランスの取れた食事
- 十分な睡眠
- 適度な運動
- ストレス管理
湿度管理
- 汗をかいたらこまめに着替える
- 運動後はすぐにシャワーを浴びる
- 湿った水着や運動着は早めに着替える
健康管理
定期検診
- 婦人科検診(女性):子宮頸がん検診、性感染症検査など
- 健康診断:糖尿病など全身疾患のチェック
早期発見・早期治療
- 症状が出たら早めに受診
- 自己判断で市販薬を使い続けない

よくある質問(FAQ)
軽度の皮膚刺激やかぶれであれば、原因を取り除くことで数日から1週間程度で自然に改善することもあります。しかし、1週間以上症状が続く場合や、症状が悪化する場合は医療機関を受診してください。感染症や皮膚疾患の場合は、適切な治療が必要です。
市販薬でも一時的な症状緩和は可能ですが、原因を特定せずに使用すると、症状を悪化させたり、治療を遅らせたりする可能性があります。特に、ステロイド外用薬を自己判断で使用すると、感染症を悪化させることがあります。医師の診断を受けてから適切な治療を始めることをおすすめします。
Q3. 性感染症かもしれないと思ったら、どうすればいいですか?
性感染症が疑われる場合は、できるだけ早く医療機関を受診してください。性感染症は放置すると不妊症などの原因になることがあります。また、パートナーにも感染している可能性があるため、パートナーにも検査・治療を受けてもらうことが重要です。性感染症の診断や治療にはプライバシーに配慮した対応が行われますので、安心して相談してください。
Q4. 妊娠中に陰部がヒリヒリする場合はどうすればいいですか?
妊娠中はホルモンバランスの変化により、カンジダ症などの感染症にかかりやすくなります。妊娠中でも使用できる安全な治療薬がありますので、我慢せずに産婦人科を受診してください。自己判断で市販薬を使用することは避けましょう。
Q5. 再発を繰り返す場合はどうすればいいですか?
カンジダ症や外陰部痛症など、再発を繰り返す疾患もあります。再発を繰り返す場合は、以下の点を確認しましょう。
- 治療を途中でやめていないか
- 生活習慣に問題がないか
- 他の病気(糖尿病など)が隠れていないか
- 正しい診断が行われているか
医師と相談しながら、再発予防策を検討しましょう。
Q6. パートナーにも症状がある場合はどうすればいいですか?
パートナーにも症状がある場合は、性感染症の可能性があります。両者が同時に検査・治療を受けることが重要です。片方だけ治療しても、再びパートナーから感染してしまう「ピンポン感染」が起こる可能性があります。
Q7. 陰部のヒリヒリ感と性行為の関係は?
性行為は陰部のヒリヒリ感の原因になることも、悪化要因になることもあります。
原因となる場合
- 性感染症の感染
- 摩擦による刺激
- コンドームや潤滑剤へのアレルギー
- 不十分な潤滑
悪化要因となる場合 既に炎症や感染症がある状態で性行為を行うと、症状が悪化したり、治癒が遅れたりすることがあります。
症状がある時は性行為を控え、治療を優先しましょう。
Q8. 更年期と関係がありますか?
はい、更年期は陰部のヒリヒリ感と密接に関係しています。エストロゲン(女性ホルモン)の減少により、腟粘膜が薄くなり、乾燥しやすくなります(萎縮性腟炎)。これにより、ヒリヒリ感、性交痛、頻尿などの症状が現れます。
ホルモン補充療法や腟保湿剤などの治療法がありますので、更年期世代の方で症状がある場合は、婦人科を受診してください。
Q9. 男性でも陰部のヒリヒリ感は起こりますか?
はい、男性でも陰部のヒリヒリ感は起こります。主な原因としては以下が挙げられます。
- 接触皮膚炎(かぶれ)
- 真菌感染症(カンジダ、白癬など)
- 性感染症(ヘルペス、淋菌、クラミジアなど)
- 包皮炎・亀頭包皮炎
- 皮膚疾患(湿疹、乾癬など)
症状が続く場合は、泌尿器科または皮膚科を受診してください。
Q10. 子どもにも陰部のヒリヒリ感は起こりますか?
はい、子どもでも陰部のヒリヒリ感は起こります。主な原因は以下の通りです。
- おむつかぶれ
- 石鹸やボディソープによる刺激
- 下着やズボンによる摩擦
- 不適切な洗浄方法
- カンジダ症
- 蟯虫感染(肛門周囲のかゆみ)
子どもの場合、症状を正確に伝えられないことがあるため、保護者が注意深く観察することが重要です。症状が続く場合は、小児科または皮膚科を受診してください。
陰部のヒリヒリ感と心理的側面
陰部のヒリヒリ感は、身体的な症状だけでなく、心理的な側面も考慮する必要があります。
心理的影響
慢性的な陰部の症状は、以下のような心理的影響を及ぼすことがあります。
- 不安やストレス:「重い病気ではないか」という不安
- 抑うつ:慢性的な痛みによる気分の落ち込み
- 性生活への影響:性交痛による性行為への不安や回避
- 自尊心の低下:「自分の体がおかしい」という感覚
- 人間関係への影響:パートナーとの関係性の変化
- 社会生活への影響:仕事や日常生活への集中困難
心理的要因による症状
ストレスや不安が強いと、実際に痛みの感じ方が変化したり、症状が悪化したりすることがあります。これは、ストレスが以下のような影響を及ぼすためです。
- 免疫力の低下
- 皮膚バリア機能の低下
- 痛覚の過敏化
- 筋肉の緊張(骨盤底筋など)
心と体の両面からのアプローチ
慢性的な症状の場合、身体的な治療だけでなく、心理的なサポートも重要です。
- カウンセリング:不安やストレスへの対処
- リラクゼーション技法:深呼吸、瞑想、ヨガなど
- 認知行動療法:痛みに対する考え方や行動パターンの修正
- サポートグループ:同じ悩みを持つ人との交流
一人で悩まず、医師やカウンセラーに相談することで、症状の改善だけでなく、生活の質(QOL)の向上にもつながります。
陰部のヒリヒリ感に関する誤解と正しい知識
陰部の症状については、さまざまな誤解や迷信があります。ここでは、よくある誤解と正しい知識を紹介します。
誤解1:「腟内を石鹸で洗わないと不潔」
正しい知識 腟は自浄作用があり、自然に清潔を保つことができます。腟内を石鹸で洗うと、正常な細菌バランスを崩し、かえって感染症のリスクを高めます。外陰部のみをぬるま湯でやさしく洗うだけで十分です。
誤解2:「おりものがあるのは異常」
正しい知識 おりものは腟の正常な分泌物で、腟を清潔に保つ役割があります。透明〜白色で無臭または軽い酸っぱい臭いのおりものは正常です。異常なのは、色(黄色、緑色、灰色)、量の急激な増加、強い臭い、かゆみや痛みを伴う場合です。
誤解3:「性感染症は性行為でしか感染しない」
正しい知識 多くの性感染症は性行為で感染しますが、カンジダ症や細菌性腟症は性行為がなくても発症することがあります。また、公衆浴場のタオルや便座からの感染は極めて稀ですが、ヘルペスなどは接触感染の可能性があります。
誤解4:「症状が治まったら治療は終了」
正しい知識 症状が改善しても、感染症が完全に治癒していない場合があります。処方された薬は、症状が消えても最後まで使い切ることが重要です。自己判断で治療を中断すると、再発や耐性菌の発生につながる可能性があります。
誤解5:「陰部の症状は加齢とともに仕方がない」
正しい知識 更年期による萎縮性腟炎など、加齢に伴う変化はありますが、適切な治療で改善できます。「年齢のせい」と諦めず、婦人科を受診することで、生活の質を大きく改善できる可能性があります。
まとめ
陰部のヒリヒリ感は、多くの人が経験する可能性がある症状ですが、その原因は多岐にわたります。軽度の皮膚刺激から感染症、慢性的な疾患まで、さまざまな可能性を考慮する必要があります。
重要なポイント
- 早めの受診:症状が1週間以上続く、悪化する、強い痛みがある場合は早めに医療機関を受診しましょう。
- 正確な診断:自己判断で市販薬を使用せず、医師の診断を受けることが重要です。
- 適切な治療:原因に応じた適切な治療を受け、処方された薬は最後まで使い切りましょう。
- 予防策の実践:日常生活での適切なケア(洗浄方法、下着の選び方、生活習慣など)が予防につながります。
- パートナーとの協力:性感染症が疑われる場合は、パートナーも同時に検査・治療を受けることが重要です。
- 心理的サポート:慢性的な症状の場合は、身体的治療だけでなく、心理的なサポートも重要です。
陰部のヒリヒリ感は、決して恥ずかしい症状ではありません。適切な治療を受けることで、多くの場合改善が期待できます。一人で悩まず、早めに医療機関を受診し、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
参考文献
本記事の作成にあたり、以下の信頼性の高い情報源を参考にしました。
- 日本皮膚科学会 公式ウェブサイト
https://www.dermatol.or.jp/ - 日本産科婦人科学会 公式ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/ - 日本性感染症学会 公式ウェブサイト
http://jssti.umin.jp/ - 厚生労働省 公式ウェブサイト
https://www.mhlw.go.jp/ - 国立感染症研究所 公式ウェブサイト
https://www.niid.go.jp/ - 日本女性心身医学会 公式ウェブサイト
http://www.jspog.com/
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の症状に対する診断や治療を行うものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務