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足の裏のほくろ:知っておきたい基礎知識から診断・治療まで完全ガイド

はじめに

お風呂上がりに何気なく足の裏を見た時、黒いほくろを発見して「これは大丈夫なのだろうか?」と不安になったことはありませんか。テレビや雑誌で「足の裏のほくろは危険」という情報を目にして、心配になる方も多いでしょう。

確かに、足の裏は日本人に多い悪性黒色腫(メラノーマ)の好発部位として知られており、注意が必要な部位です。しかし、すべての足の裏のほくろが危険というわけではありません。日本人の約7〜10%の方が足の裏にほくろを持っているとされており、その大多数は良性のものです。

大切なのは、正しい知識を持って適切に判断し、必要に応じて専門医の診察を受けることです。本記事では、足の裏のほくろについて、基礎知識から見分け方、診断・治療法まで、皆様が安心して日常生活を送れるよう、分かりやすく解説いたします。

足の裏のほくろの基礎知識

ほくろとは

ほくろは医学的には「色素性母斑」や「母斑細胞性母斑」と呼ばれる良性の皮膚腫瘍です。皮膚の中にあるメラニン色素を産生する細胞(メラノサイト)や、それから由来する母斑細胞が集まってできています。

ほくろは全身のどこにでもできる可能性があり、その形状も平らなものから盛り上がったもの、色も薄い茶色から濃い黒色まで様々です。多くのほくろは生まれつきあるか、成長とともに現れる良性のもので、健康に害を与えることはありません。

足の裏のほくろの特徴

足の裏は体重を支え、歩行時に常に刺激を受ける特殊な部位です。そのため、足の裏にできるほくろには以下のような特徴があります:

1. 発生頻度 日本人の約7〜10%が足の裏にほくろを持っているとされています。これは決して珍しいことではありません。

2. 形状の特徴 足の裏は皮膚が厚く、特有の皮溝(しわのような線)と皮丘(盛り上がった部分)があります。良性のほくろは通常、皮溝部分に沿って色素が分布します。

3. 慢性的な刺激 歩行による摩擦や圧迫など、慢性的な機械的刺激を受けやすい部位です。近年の研究では、特に外部からの機械的刺激を受けやすい箇所にメラノーマが発生しやすいことが示されています。

4. 発見の遅れ 足の裏は自分で観察しにくい部位であるため、変化に気づくのが遅れがちです。そのため、定期的なセルフチェックが重要になります。

悪性黒色腫(メラノーマ)とは

メラノーマの基本的な特徴

悪性黒色腫(メラノーマ)は、皮膚のメラニン色素を産生するメラノサイトががん化した悪性腫瘍です。「ほくろのがん」とも呼ばれ、皮膚がんの中でも特に悪性度が高く、進行が早いという特徴があります。

主な特徴:

  • 進行が極めて早い(1〜2ヵ月で全身状態が変わることもある)
  • 早期にリンパ節や他の臓器に転移しやすい
  • 皮膚がんの中で最も死亡率が高い
  • 早期発見・早期治療により良好な予後が期待できる

日本人のメラノーマの特徴

日本人のメラノーマには、欧米人とは異なる特徴があります:

1. 発症頻度

  • 日本人の発症率:10万人あたり1〜2人(年間約1,500〜2,000例)
  • 欧米人と比較して約10分の1の発症率
  • 希少がんに分類される

2. 発生部位の違い

  • 日本人:足の裏が最多(約30〜40%)、手のひら、爪の周囲など末端部に多い
  • 欧米人:体幹部が最多、足の裏は約2%のみ

3. 病型の違い 日本人に最も多いのは「末端黒子型メラノーマ」で、足の裏、手のひら、爪の周囲に発生します。これは40〜50歳代に多く発症し、初期は平らなシミのような外観を呈します。

メラノーマの4つの病型

メラノーマは発生部位や形態により、以下の4つのタイプに分類されます:

1. 末端黒子型(日本人に最多)

  • 足の裏、手のひら、爪の周囲に発生
  • 平らなほくろ状から始まり、中央に盛り上がった塊ができる
  • 40〜50歳代に多い

2. 結節型

  • 固く盛り上がった塊として現れる
  • 全身どこにでも発生
  • 40〜50歳代に多い

3. 表在拡大型

  • 平たく広がるタイプ
  • 幅広い年齢層で発生
  • 欧米人に最多

4. 悪性黒子型

  • 高齢者の顔面に多い
  • 不規則な形のシミが徐々に拡大
  • 中央が膨らんでくる

良性のほくろと悪性黒色腫の見分け方

ABCDEルール

皮膚科専門医が推奨する「ABCDEルール」は、悪性黒色腫を早期発見するための重要な指標です。以下の5項目のうち、1つでも該当する場合は専門医の診察を受けることをお勧めします。

A(Asymmetry:非対称性)

  • 良性のほくろ:左右対称で円形または楕円形
  • メラノーマ:形が非対称で、いびつ

B(Border:境界)

  • 良性のほくろ:境界がはっきりしている
  • メラノーマ:境界がギザギザ、ぼやけている

C(Color:色調)

  • 良性のほくろ:色が均一
  • メラノーマ:淡褐色から真っ黒まで様々な色が混在

D(Diameter:直径)

  • 良性のほくろ:通常6mm以下
  • メラノーマ:6mm以上(特に7mm以上は要注意)

E(Evolving:変化)

  • 良性のほくろ:あまり変化しない
  • メラノーマ:大きさ、形、色が変化する

足の裏特有の診断ポイント

足の裏のほくろには、特有の診断ポイントがあります:

1. 皮溝・皮丘パターン

  • 良性のほくろ:皮溝(溝の部分)に沿って色素が分布
  • メラノーマ:皮丘(盛り上がった部分)に色素沈着

2. ダーモスコピー所見 専門医が使用するダーモスコピーでは、以下の所見が重要です:

  • 良性:規則的な線状または網目状の色素沈着
  • 悪性:不規則なパターン、皮丘への色素沈着

注意すべき症状

以下のような症状が見られる場合は、速やかに専門医を受診してください:

  • 急な変化:1〜2ヵ月で急に大きくなった
  • 色の変化:色が濃くなった、複数の色が混在している
  • 形の変化:形がいびつになった
  • 表面の変化:出血、びらん、かさぶたができた
  • 自覚症状:かゆみ、痛み、違和感がある
  • 新たな出現:中年以降に新しくできた

セルフチェックの方法

基本的なセルフチェックの手順

定期的なセルフチェックは、早期発見のために非常に重要です。月に1回程度、以下の手順で確認しましょう:

1. 環境を整える

  • 明るい場所で行う
  • 大きな鏡と手鏡を用意
  • 必要に応じて家族に協力してもらう

2. 足の裏の観察

  • 体重をかけない状態で足の裏全体を観察
  • 指の間、爪の周囲も忘れずにチェック
  • 両足を比較して違いを確認

3. 記録を残す

  • 気になるほくろは写真撮影
  • 大きさを定規で測定
  • 日付を記録して変化を追跡

チェックポイント

サイズの測定

  • 定規を使って正確に測定
  • 縦と横の長さを記録
  • 6mm以上のものは要注意

色の観察

  • 単一色か複数色が混在しているか
  • 周囲との境界の明瞭さ
  • 色の濃淡の変化

形の確認

  • 左右対称性
  • 境界の規則性
  • 全体的な形状

変化の記録

  • 前回との比較
  • 成長速度
  • その他の変化

セルフチェックの限界と注意点

セルフチェックは重要ですが、以下の点にご注意ください:

  • 専門診断の代用にはならない:疑わしい場合は必ず専門医を受診
  • 見落としの可能性:足の裏の細かい部分は見落としやすい
  • 過度な心配は禁物:多くの足の裏のほくろは良性
  • 定期的な実施:一度だけでなく、継続的に行うことが重要

医療機関での診断・検査

皮膚科での診察の流れ

足の裏のほくろで皮膚科を受診した際の一般的な流れをご説明します:

1. 問診

  • ほくろの発見時期
  • 大きさや色の変化
  • 自覚症状の有無
  • 家族歴
  • 既往歴

2. 視診

  • 肉眼による観察
  • 全身の皮膚の確認
  • 他のほくろとの比較

3. ダーモスコピー検査

  • 専用の拡大鏡による詳細観察
  • 色素のパターン分析
  • 血管構造の確認

ダーモスコピー検査について

検査の概要 ダーモスコピーは、皮膚表面を10〜20倍に拡大して観察する検査です。皮膚表面の乱反射を防ぎながら、内部構造を詳細に観察できます。

検査の特徴

  • 無痛性:痛みは全くありません
  • 非侵襲的:皮膚を傷つけることなく検査
  • 即座の結果:その場で結果を確認
  • 保険適用:3割負担で約200〜700円
  • 高い診断精度:肉眼診断と比較して診断精度が大幅に向上

検査の流れ

  1. 検査用ジェルを患部に塗布
  2. ダーモスコープを皮膚に接触
  3. 拡大画像を観察・分析
  4. 必要に応じて画像を保存

皮膚生検について

ダーモスコピーでも診断が困難な場合、皮膚生検を行うことがあります:

生検の種類

  • 部分生検:病変の一部を採取
  • 全切除生検:病変全体を切除

生検の流れ

  1. 局所麻酔の実施
  2. 病変部の切除
  3. 病理検査機関への提出
  4. 1〜2週間後に結果説明

生検の注意点

  • メラノーマが疑われる場合、部分生検は慎重に判断
  • 可能な限り全切除生検が推奨される
  • 万一メラノーマの場合、すぐに適切な治療を開始

画像検査

メラノーマと診断された場合、転移の有無を調べるため以下の検査を行います:

  • CT検査:胸腹部の転移検索
  • MRI検査:脳転移の検索
  • PET-CT検査:全身の転移検索
  • センチネルリンパ節生検:最初に転移するリンパ節の検査

治療法

良性ほくろの治療

良性のほくろは基本的に治療の必要はありませんが、以下の場合に除去を検討します:

除去を検討する場合

  • 美容的な理由
  • 靴による慢性的な刺激
  • 出血を繰り返す
  • 患者の希望

除去方法

  1. ラジオ波メス(高周波メス)
    • 高周波エネルギーでほくろを削り取る
    • 止血効果があり出血が少ない
    • 瘢痕形成のリスクが低い
  2. くりぬき法
    • 円形の器具でほくろをくり抜く
    • 小さな傷跡
    • 深い部分まで除去可能
  3. メスによる切除
    • ほくろとその周囲を切除
    • 縫合が必要
    • 大きなほくろに適用
  4. 炭酸ガスレーザー
    • レーザーによる蒸散
    • 浅いほくろに適用

悪性黒色腫(メラノーマ)の治療

メラノーマと診断された場合の治療は、病期に応じて決定されます:

外科的治療

  • 原発巣の切除:病変から安全域を確保して切除
  • センチネルリンパ節生検:最初に転移するリンパ節の検査
  • リンパ節郭清術:転移が確認された場合のリンパ節切除

薬物療法

  • 分子標的薬:BRAF阻害薬、MEK阻害薬
  • 免疫チェックポイント阻害薬:ニボルマブ、ペムブロリズマブ
  • 従来の抗がん剤:ダカルバジン等

放射線療法

  • 術後補助療法
  • 転移巣の治療
  • 症状緩和

治療成績と予後

メラノーマの予後は早期発見が鍵となります:

厚さ別5年生存率

  • 1mm以下:ほぼ100%
  • 1〜2mm:約90%
  • 2〜4mm:約80%
  • 4mm以上:約60%

病期別5年生存率

  • ステージ0:ほぼ100%
  • ステージI:約95%
  • ステージII:約80%
  • ステージIII:約60%
  • ステージIV:約25%

予防と日常生活での注意点

予防策

紫外線対策

  • 日焼け止めクリームの使用
  • 帽子、長袖の着用
  • 日陰での活動を心がける
  • 紫外線の強い時間帯(10時〜14時)の外出を避ける

機械的刺激の軽減

  • 適切なサイズの靴の選択
  • クッション性のある靴下の着用
  • 足に合わない靴の長時間着用を避ける
  • 定期的な足のケア

定期的な観察

  • 月1回のセルフチェック
  • 年1回の皮膚科受診(ハイリスク者)
  • 写真による記録

日常生活での注意点

足のケア

  • 清潔に保つ
  • 乾燥を防ぐ
  • 過度な刺激を避ける
  • 適切な爪の切り方

生活習慣

  • バランスの取れた食事
  • 適度な運動
  • 十分な睡眠
  • ストレス管理

定期検診

  • 気になる変化があれば早期受診
  • 家族歴がある場合は定期的な専門医受診
  • 他の部位のほくろも含めた全身チェック

よくある質問

Q1. 足の裏のほくろは必ず除去すべきですか?

A1. いいえ、すべての足の裏のほくろを除去する必要はありません。良性と診断されたほくろは基本的に治療の必要がなく、経過観察で十分です。ただし、以下の場合は除去を検討します:

ダーモスコピーで判断が困難な場合
継続的な刺激を受けている場合
患者さんの不安が強い場合
美容的な理由

Q2. 子供の足の裏にほくろがあります。心配ですか?

A2. 子供にメラノーマが発生することは極めて稀です。子供のほくろは成長とともに大きくなったり、色が濃くなったりすることがありますが、これは生理的な変化であることがほとんどです。ただし、急激な変化や不規則な形状の場合は、念のため皮膚科専門医にご相談ください。

Q3. ほくろをいじったり傷つけたりするとがんになりますか?

A3. 良性のほくろを刺激することで直接がん化するという明確な医学的根拠はありません。しかし、もともと悪性であったメラノーマを刺激することで、出血や増殖を促進する可能性があります。気になるほくろはむやみに触らず、専門医の診察を受けることをお勧めします。

Q4. 妊娠中にほくろが変化しました。問題ありますか?

A4. 妊娠中はホルモンの影響でほくろの色が濃くなったり、大きくなったりすることがあります。これは生理的な変化であることが多いですが、急激な変化や不規則な形状変化の場合は、専門医にご相談ください。妊娠中でもダーモスコピー検査は安全に受けられます。

Q5. 家族にメラノーマの人がいます。遺伝しますか?

A5. メラノーマの約10%は家族性(遺伝性)とされています。家族歴がある場合は発症リスクが高くなるため、以下の対策をお勧めします:

定期的な皮膚科受診
より厳重なセルフチェック
紫外線対策の徹底
早期の専門医相談

Q6. ダーモスコピー検査はどこで受けられますか?

A6. ダーモスコピー検査は多くの皮膚科で実施されていますが、すべての医療機関で行っているわけではありません。受診前に電話で確認することをお勧めします。また、検査には皮膚科専門医の十分な経験と知識が必要なため、専門医がいるクリニックでの受診をお勧めします。

まとめ

足の裏のほくろについて、基礎知識から診断・治療まで包括的にご説明しました。重要なポイントを以下にまとめます:

知っておくべき基本事項

  • 日本人の約7〜10%が足の裏にほくろを持っている
  • 大多数は良性で、過度な心配は不要
  • 日本人のメラノーマの約30〜40%が足の裏に発生
  • 早期発見により良好な予後が期待できる

早期発見のために

  • 月1回のセルフチェックを習慣化
  • ABCDEルールを活用した観察
  • 変化があれば早期の専門医受診
  • ダーモスコピー検査による正確な診断

適切な対応

  • 自己判断せず、専門医の診断を受ける
  • 良性と診断されれば過度な心配は不要
  • 悪性の場合は適切な治療により良好な予後が期待
  • 定期的なフォローアップの継続

予防策

  • 紫外線対策の徹底
  • 機械的刺激の軽減
  • 定期的な皮膚の観察
  • 健康的な生活習慣の維持

足の裏のほくろに関して不安を感じている方は、まず正しい知識を持つことから始めましょう。そして、気になる変化があれば迷わず皮膚科専門医にご相談ください。早期発見・早期治療により、多くの場合で良好な結果を得ることができます。

アイシークリニック渋谷院では、包括的な皮膚診療を提供しております。足の裏のほくろに関してご心配な点がございましたら、お気軽にご相談ください。皆様の健康な日常生活をサポートするため、最新の医学知識と技術を用いて、丁寧な診療を心がけております。

参考文献

  1. 日本皮膚科学会・日本皮膚悪性腫瘍学会. 皮膚がん診療ガイドライン第4版 メラノーマ診療ガイドライン2025
  2. 国立がん研究センター がん情報サービス. メラノーマ(悪性黒色腫)
  3. 日本皮膚科学会. メラノーマ(ほくろのがん)Q&A
  4. がん研有明病院 皮膚腫瘍科. 悪性黒色腫(メラノーマ)
  5. 東邦大学. 皮膚がんの早期発見で覚えておきたいこと~ほくろと悪性黒色腫(メラノーマ)の5つの見分け方~
  6. 慶應義塾大学病院 KOMPAS. 悪性黒色腫
  7. 日本医学会医学用語辞典Web版

本記事は2025年9月時点の医学的知見に基づいて作成されています。診断・治療に関しては、必ず医療機関を受診し、医師の指導を受けてください。

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務