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食中毒は何時間後に症状が出る?原因別の潜伏期間と対処法を医師が解説

はじめに

「昨日の夜に食べたものが原因かもしれない」「さっき食べたものですぐにお腹が痛くなった」——食中毒の症状が出たとき、多くの方が「何時間前に食べたものが原因なのか」と疑問に思われるでしょう。

食中毒は、細菌やウイルス、自然毒などに汚染された食品を摂取することで起こる健康被害です。しかし、食中毒の原因となる病原体によって、症状が現れるまでの時間(潜伏期間)は大きく異なります。食後30分で症状が出る場合もあれば、1週間以上経ってから発症するケースもあるのです。

本記事では、アイシークリニック渋谷院が、食中毒の潜伏期間について原因別に詳しく解説します。「いつ食べたものが原因か」を知ることは、適切な対処や予防につながる重要な知識です。

食中毒の潜伏期間とは

潜伏期間の定義

潜伏期間とは、病原体が体内に入ってから、実際に症状が現れるまでの期間のことを指します。食中毒の場合、汚染された食品を食べてから、腹痛や下痢、嘔吐などの症状が出るまでの時間が潜伏期間となります。

この潜伏期間は、原因となる病原体の種類によって大きく異なります。病原体が体内で増殖するスピードや、毒素を産生する仕組みが異なるためです。

なぜ潜伏期間を知ることが重要なのか

潜伏期間を知ることには、以下のような重要な意味があります。

原因食品の特定につながる
症状が出た時間から逆算することで、どの食事が原因だったのかを推測できます。これは、同じ食品を食べた他の人への注意喚起や、食品事業者への報告に役立ちます。

適切な対処ができる
原因菌の種類が推測できれば、症状の経過予測や、医療機関での適切な検査・治療につながります。

二次感染の予防
ノロウイルスなど感染力の強い病原体の場合、家族や周囲の人への感染を防ぐための対策が取れます。

原因別の発症時間と症状

食中毒の原因は、大きく分けて「細菌性」「ウイルス性」「自然毒」「化学物質」の4つに分類されます。ここでは、日本で発生頻度の高い主な原因について、潜伏期間と症状を詳しく見ていきましょう。

細菌性食中毒

黄色ブドウ球菌(1〜6時間)

潜伏期間の特徴
黄色ブドウ球菌による食中毒は、最も潜伏期間が短いタイプの一つです。食後1〜6時間、平均して3時間程度で症状が現れます。

発症メカニズム
この細菌は食品中で増殖する際にエンテロトキシンという毒素を産生します。この毒素は熱に強く、加熱調理しても分解されません。症状は毒素そのものによって引き起こされるため(毒素型)、細菌が体内で増殖する時間が不要で、短時間で発症します。

主な症状

  • 激しい吐き気・嘔吐(最も特徴的)
  • 腹痛
  • 下痢
  • 発熱は軽度または無し

原因となりやすい食品
おにぎり、弁当、サンドイッチ、調理パンなど、手で直接触れる食品に多く見られます。調理する人の手や指に傷があると、そこから細菌が食品に移ることがあります。

回復までの期間
通常は1〜2日で自然に回復することが多いですが、嘔吐による脱水症状には注意が必要です。

サルモネラ属菌(6〜72時間)

潜伏期間の特徴
サルモネラ菌による食中毒の潜伏期間は、6〜72時間と幅がありますが、多くは12〜36時間で発症します。

発症メカニズム
サルモネラ菌は食品とともに体内に入り、腸管内で増殖することで症状を引き起こします(感染型)。そのため、菌が増殖するまでの時間が必要となり、ある程度の潜伏期間があります。

主な症状

  • 腹痛
  • 下痢(水様性から粘血便まで)
  • 発熱(38〜40℃)
  • 嘔吐
  • 頭痛、悪寒

原因となりやすい食品
鶏卵、鶏肉、牛肉などの食肉とその加工品が主な原因です。特に、加熱不十分な卵料理や、生肉を扱った調理器具からの二次汚染に注意が必要です。

回復までの期間
通常は3〜7日で回復しますが、高齢者や乳幼児、免疫力の低下している方では重症化することがあります。

カンピロバクター(2〜7日)

潜伏期間の特徴
カンピロバクターによる食中毒は、潜伏期間が比較的長く、2〜7日、平均して2〜3日で発症します。

発症メカニズム
カンピロバクター菌は少量の菌数(100個程度)でも感染が成立します。腸管内で増殖し、腸管粘膜に侵入することで炎症を引き起こします。

主な症状

  • 下痢(水様便から血便まで)
  • 腹痛(激しい痛みを伴うことも)
  • 発熱(38〜40℃)
  • 頭痛、倦怠感
  • 吐き気

原因となりやすい食品
鶏肉(特に生や加熱不十分なもの)が最も多く、鶏刺し、鶏たたき、レバーなどが原因となります。また、調理時の二次汚染にも注意が必要です。

特記事項
カンピロバクター感染後、数週間してからギラン・バレー症候群という神経疾患を発症することが稀にあります。手足のしびれや力が入らないなどの症状が出た場合は、すぐに医療機関を受診してください。

回復までの期間
通常は1週間程度で回復しますが、症状が強い場合は抗菌薬による治療が必要になることもあります。

腸管出血性大腸菌(O157など)(3〜8日)

潜伏期間の特徴
O157に代表される腸管出血性大腸菌による食中毒は、潜伏期間が3〜8日と長いのが特徴です。多くは3〜5日で発症します。

発症メカニズム
この細菌はベロ毒素(志賀毒素)という強力な毒素を産生します。毒素が腸管粘膜を傷害し、血便などの症状を引き起こします。

主な症状

  • 激しい腹痛
  • 水様性下痢(初期)
  • 血便(鮮血便)
  • 発熱(多くは軽度)
  • 嘔吐

重症化のリスク
溶血性尿毒症症候群(HUS)という重篤な合併症を起こすことがあり、特に小児や高齢者では注意が必要です。HUSを発症すると、急性腎不全、溶血性貧血、血小板減少などが起こり、命に関わることもあります。

原因となりやすい食品
牛肉(特に加熱不十分なもの)、野菜の生食、井戸水などが原因となります。少量の菌数でも感染するため、二次感染にも注意が必要です。

重要な注意点
O157などの腸管出血性大腸菌感染症では、安易に下痢止めを使用すると、毒素が体外に排出されず、HUSなどの合併症のリスクが高まる可能性があります。必ず医療機関を受診してください。

ウェルシュ菌(6〜18時間)

潜伏期間の特徴
ウェルシュ菌による食中毒は、食後6〜18時間、平均して10〜12時間で発症します。

発症メカニズム
ウェルシュ菌は芽胞を形成するため、通常の加熱調理では死滅しません。大量に調理して室温で放置した食品の中で増殖し、食品とともに摂取された菌が腸管内で芽胞を形成する際に毒素を産生します。

主な症状

  • 腹痛(下腹部の痛み)
  • 下痢(水様性)
  • 吐き気(嘔吐は少ない)
  • 発熱はほとんどない

原因となりやすい食品
カレー、シチュー、煮物など、大量に調理して保温または室温で保存した食品に多く見られます。「前日のカレーによる食中毒」などがこれに当たります。

回復までの期間
比較的軽症で、通常は1〜2日で回復します。

腸炎ビブリオ(8〜24時間)

潜伏期間の特徴
腸炎ビブリオによる食中毒は、食後8〜24時間、平均して12時間程度で発症します。

発症メカニズム
腸炎ビブリオは海水中に生息する細菌で、魚介類を介して感染します。増殖スピードが非常に速く(条件が良いと10分で2倍に増殖)、短時間で大量に増えることができます。

主な症状

  • 激しい腹痛
  • 水様性下痢
  • 発熱
  • 嘔吐
  • 頭痛

原因となりやすい食品
刺身、寿司、魚介類の生食が主な原因です。また、魚介類を調理した包丁やまな板から、他の食品に二次汚染することもあります。

予防のポイント
腸炎ビブリオは真水に弱く、4℃以下では増殖できません。魚介類は真水でよく洗い、低温で保存することが重要です。

セレウス菌

セレウス菌による食中毒には、嘔吐型と下痢型の2つのタイプがあり、それぞれ潜伏期間が異なります。

嘔吐型(30分〜6時間)

  • 非常に短い潜伏期間が特徴
  • チャーハン、ピラフ、焼きそばなどの米飯・麺類が原因となりやすい
  • 主な症状:吐き気、嘔吐(黄色ブドウ球菌と似た症状)
  • 比較的軽症で、6〜24時間で回復

下痢型(8〜16時間)

  • 食肉、野菜、スープなどが原因となりやすい
  • 主な症状:下痢、腹痛(嘔吐は少ない)
  • 12〜24時間で回復することが多い

ウイルス性食中毒

ノロウイルス(24〜48時間)

潜伏期間の特徴
ノロウイルスによる食中毒は、感染後24〜48時間で発症します。冬季に多発するのが特徴です。

発症メカニズム
ノロウイルスは小腸の粘膜で増殖し、腸管の機能を低下させます。非常に少量のウイルス(10〜100個程度)でも感染が成立し、感染力が極めて強いのが特徴です。

主な症状

  • 激しい吐き気・嘔吐
  • 下痢(水様性)
  • 腹痛
  • 発熱(軽度、37〜38℃程度)
  • 頭痛、筋肉痛

原因となりやすい食品
カキなどの二枚貝の生食や加熱不十分な調理、感染者が調理した食品などが原因となります。また、人から人への感染も多く見られます。

感染経路

  • 経口感染(汚染された食品や水の摂取)
  • 接触感染(感染者の便や嘔吐物からの感染)
  • 飛沫感染(嘔吐物が飛び散ることによる感染)

回復までの期間と注意点
通常は1〜3日で回復しますが、回復後も1週間〜1ヶ月程度はウイルスが便中に排出され続けます。そのため、回復後も手洗いなどの衛生管理が重要です。

二次感染予防
ノロウイルスは感染力が非常に強く、家庭内や施設内での集団発生が起こりやすいため、以下の対策が重要です。

  • 嘔吐物や便の適切な処理(次亜塩素酸ナトリウムによる消毒)
  • 丁寧な手洗い
  • タオルの共用を避ける
  • トイレの清掃・消毒

自然毒による食中毒

フグ毒(20分〜3時間)

潜伏期間の特徴
フグ毒(テトロドトキシン)による食中毒は、食後20分〜3時間という非常に短時間で発症します。

主な症状と経過

  • 初期:口唇、舌のしびれ
  • 進行すると:手足のしびれ、麻痺
  • 重症例:呼吸困難、意識障害
  • 致死率が高い(重症例では死亡することも)

重要な注意
フグ毒には解毒剤がなく、発症したら直ちに医療機関を受診する必要があります。呼吸管理などの対症療法が治療の中心となります。

キノコ毒

キノコによる食中毒は、含まれる毒成分によって潜伏期間が大きく異なります。

短時間型(30分〜3時間)

  • ムスカリン、ムスカリジンを含むキノコ
  • 症状:嘔吐、下痢、腹痛、発汗、縮瞳
  • 多くは軽症

中間型(6〜12時間)

  • 多くの毒キノコがこのタイプ
  • 症状:嘔吐、下痢、腹痛

長時間型(1〜2日)

  • タマゴテングタケ、ドクツルタケなど(非常に危険)
  • 症状の経過:
    • 初期:激しい嘔吐、下痢
    • 一時的に症状が軽快(偽回復期)
    • その後:肝障害、腎障害が進行
  • 致死率が高い

重要な注意
素人判断で野生のキノコを食べることは絶対に避けてください。「食べられる」と思っていても、有毒なキノコと見分けがつかないことがあります。

症状が出たときの対処法

食中毒の症状が出た場合、適切な対処が重要です。間違った対応は症状を悪化させることもあるため、正しい知識を持つことが大切です。

基本的な対処法

安静にする

まずは安静にして、体力の消耗を防ぎましょう。無理をして動くと、症状が悪化することがあります。

水分補給

最も重要な対処
下痢や嘔吐によって、体内の水分と電解質(ナトリウム、カリウムなど)が失われます。脱水症状を防ぐため、こまめな水分補給が必要です。

適切な水分

  • 経口補水液(OS-1、アクアライトなど)
  • スポーツドリンク
  • 薄めた果汁
  • 白湯、お茶

飲み方のポイント

  • 一度に大量に飲まず、少量ずつ頻繁に飲む
  • 冷たすぎるものは避ける
  • 吐き気がある場合は、スプーン1杯から始める

食事について

絶食は必要か
かつては「下痢のときは絶食」と言われましたが、現在では無理に絶食する必要はないと考えられています。ただし、症状が強いときは無理に食べる必要はありません。

食事再開のタイミング
吐き気が落ち着き、少し食欲が出てきたら、消化の良い食事から始めましょう。

適切な食品

  • おかゆ、うどん
  • バナナ、リンゴ(すりおろし)
  • 白身魚
  • 豆腐
  • ヨーグルト

避けるべき食品

  • 脂っこいもの
  • 刺激の強いもの(香辛料など)
  • 冷たいもの
  • 乳製品(下痢が続いている場合)
  • アルコール、カフェイン

やってはいけないこと

自己判断での下痢止めの使用

下痢は体内の有害な細菌や毒素を排出するための防御反応です。特に、O157などの腸管出血性大腸菌感染症では、下痢止めの使用により毒素が体内に留まり、重症化(溶血性尿毒症症候群)のリスクが高まることがあります。

下痢止めを使用する場合は、必ず医師の判断を仰いでください。

市販の痛み止めの安易な使用

腹痛がひどいからといって、安易に鎮痛剤を服用することは避けましょう。痛みの原因を隠してしまい、重症度の判断が難しくなることがあります。

無理な食事

「食べて体力をつけよう」と無理に食事をすると、かえって胃腸に負担をかけ、症状を悪化させることがあります。

医療機関を受診すべきタイミング

食中毒の多くは軽症で、自宅での安静と水分補給で回復しますが、以下のような場合は必ず医療機関を受診してください。

緊急性の高い症状

以下の症状がある場合は、すぐに医療機関を受診するか、救急車を呼ぶことを検討してください。

脱水症状が進行している

  • 水分を摂取できない
  • 尿が出ない、または極端に少ない
  • 尿の色が濃い
  • 口の中や唇が乾燥している
  • 皮膚のハリがない(つまんだ皮膚が戻りにくい)
  • めまい、ふらつき
  • 意識がもうろうとしている

重症を示唆する症状

  • 血便(真っ赤な血や、黒いタール状の便)
  • 激しい腹痛(痛みが持続する、徐々に強くなる)
  • 高熱(39℃以上)
  • 頻回の嘔吐(水分も摂取できない)
  • 呼吸困難
  • しびれ、麻痺
  • けいれん

特定の病原体が疑われる場合

  • フグやキノコなど、明らかに危険な食品を食べた後
  • 症状が非常に重い
  • 同じ食事をした複数の人が同時に発症した(集団食中毒の可能性)

早めの受診が望ましいケース

以下のような方は、症状が比較的軽度でも早めに医療機関を受診することをお勧めします。

ハイリスク群

  • 乳幼児(特に1歳未満)
  • 高齢者(65歳以上)
  • 妊婦
  • 慢性疾患がある方(糖尿病、腎疾患、肝疾患など)
  • 免疫抑制剤を使用している方
  • ステロイドを長期使用している方

症状が続く場合

  • 下痢や嘔吐が2〜3日以上続く
  • 症状が改善せず、徐々に悪化している
  • 体重が大きく減少した

不安がある場合
「これくらいで受診してもいいのか」と迷う場合でも、心配であれば受診してかまいません。特に小さなお子さんや高齢者の場合は、様子を見すぎることで重症化することもあるため、早めの受診が安心です。

医療機関での検査と治療

検査

医療機関では、必要に応じて以下のような検査が行われます。

便検査
原因となる細菌やウイルスを特定するための検査です。適切な治療方針を決定するのに役立ちます。

血液検査
脱水の程度、電解質のバランス、炎症の程度、腎機能などを評価します。

画像検査
症状が重い場合や、腸閉塞などの合併症が疑われる場合に、腹部レントゲンやCT検査が行われることがあります。

治療

補液療法
脱水が進んでいる場合は、点滴による水分と電解質の補給が行われます。これが最も基本的で重要な治療です。

薬物療法

  • 整腸剤:腸内環境を整える
  • 制吐剤:吐き気を抑える
  • 抗菌薬:細菌性の食中毒で、必要と判断された場合のみ使用
    • すべての食中毒で抗菌薬が必要なわけではありません
    • むしろ、不適切な抗菌薬の使用は、腸内細菌のバランスを崩したり、薬剤耐性菌を増やしたりする可能性があります

入院治療
重症例や、脱水が著しい場合、ハイリスク群の方などは入院が必要になることがあります。

食中毒の予防方法

食中毒の予防には、「つけない」「増やさない」「やっつける」という3原則が重要です。

つけない(清潔)

手洗いの徹底

いつ洗うか

  • 調理前
  • 生肉、生魚、卵を触った後
  • トイレの後
  • おむつ交換の後
  • 動物に触れた後
  • 調理中、他の作業をした後

正しい手洗い方法

  1. 流水で手を濡らす
  2. 石鹸をつけて、手のひら、手の甲、指の間、爪の間、手首まで、最低20秒かけて洗う
  3. 流水でよくすすぐ
  4. 清潔なタオルやペーパータオルで拭く

調理器具の衛生管理

まな板・包丁の使い分け
生肉、生魚用と、野菜・果物用を分けることが理想的です。難しい場合は、野菜・果物を先に切ってから、生肉・生魚を扱うようにしましょう。

洗浄と消毒

  • 使用後はすぐに洗剤でよく洗う
  • 熱湯をかける、または塩素系漂白剤で消毒する
  • よく乾燥させる

スポンジ・ふきんの管理
スポンジやふきんは細菌が繁殖しやすいため、こまめに交換し、使用後は乾燥させましょう。定期的に煮沸消毒や塩素消毒を行うことも有効です。

増やさない(迅速・冷却)

低温での保存

多くの食中毒菌は、10℃以下で増殖が遅くなり、-15℃以下で増殖が停止します(死滅するわけではありません)。

冷蔵庫の適切な使用

  • 庫内温度:10℃以下(できれば5℃以下)
  • 詰め込みすぎない(容量の7割程度)
  • 扉の開閉は短時間で
  • 生鮮食品は購入後すぐに冷蔵庫へ

注意点
ただし、リステリア菌など、低温でも増殖できる菌もあるため、冷蔵保存を過信せず、早めに食べることが大切です。

調理後の迅速な対応

調理後はすぐに食べる
調理後の食品を室温で長時間放置すると、細菌が急速に増殖します。調理後2時間以内に食べるか、冷蔵保存しましょう。

残り物の保存

  • 粗熱を取ってから(30分以内に)冷蔵庫へ
  • 小分けにして保存すると、早く冷える
  • 保存期間は2〜3日以内

時間と温度に注意

危険温度帯
食品の温度が5℃〜60℃の範囲にあると、細菌が最も増殖しやすくなります。この温度帯にある時間をできるだけ短くすることが重要です。

やっつける(加熱)

適切な加熱

中心温度の確認
食品の中心部が75℃で1分間以上(ノロウイルス対策なら85〜90℃で90秒以上)加熱することで、ほとんどの食中毒菌やウイルスは死滅します。

特に注意が必要な食品

  • 鶏肉:カンピロバクター対策
  • 卵:サルモネラ対策
  • ハンバーグ、ミートボールなど:中心部まで火を通す
  • 二枚貝:ノロウイルス対策

電子レンジでの再加熱

電子レンジは加熱ムラが生じやすいため、途中でかき混ぜたり、ラップをかけて加熱したりするなどの工夫が必要です。

作り置きの注意点

再加熱の徹底
一度加熱した食品でも、保存中に細菌が増殖している可能性があります。食べる前にしっかり再加熱しましょう。

特にウェルシュ菌に注意
カレーや煮物などは、再加熱してもウェルシュ菌の芽胞は死滅しません。作ったらすぐに小分けにして冷蔵し、早めに食べきることが重要です。

その他の予防策

食品の選び方

新鮮なものを選ぶ
購入時には、消費期限や賞味期限を確認し、新鮮なものを選びましょう。

食肉・魚介類の購入

  • ドリップ(パックの中の汁)が出ていないもの
  • 色が鮮やかなもの
  • においに異常がないもの

持ち帰り方
生鮮食品は最後に購入し、保冷バッグなどを使ってすぐに持ち帰りましょう。特に夏場は注意が必要です。

外食時の注意

店選び
清潔な店、衛生管理がしっかりしている店を選びましょう。食品衛生の評価制度(食品衛生監視票など)を参考にするのも一つの方法です。

生食のリスク
生肉、生魚、生卵などの生食には一定のリスクがあることを認識し、体調が悪いときや、小さな子ども、妊婦、高齢者は避ける方が無難です。

体調管理

免疫力の維持
十分な睡眠、バランスの良い食事、適度な運動により、免疫力を維持することも、食中毒の予防につながります。

体調不良時の調理を避ける
下痢や嘔吐などの症状がある人は、食品を取り扱う作業を避けましょう。特に、ノロウイルスなどは感染力が強いため、症状がある人が調理すると、食品を介して感染が広がる可能性があります。

季節ごとの注意点

食中毒は年間を通じて発生しますが、季節によって多い原因が異なります。

夏季(6〜9月)

特徴
高温多湿な環境で細菌が増殖しやすくなります。細菌性食中毒が最も多く発生する時期です。

多い原因菌

  • カンピロバクター
  • サルモネラ
  • 腸炎ビブリオ
  • 黄色ブドウ球菌

注意点

  • 食品の低温保存を徹底
  • 調理後はすぐに食べる
  • お弁当は保冷剤を使用し、涼しい場所で保管
  • バーベキューでは、生肉と焼けた肉の箸を使い分ける

冬季(11〜3月)

特徴
ノロウイルスによる食中毒・感染症が多発します。感染力が非常に強く、集団発生が起こりやすい時期です。

注意点

  • カキなどの二枚貝は中心部まで十分に加熱
  • 手洗いの徹底
  • 調理器具の消毒
  • 嘔吐物や便の適切な処理

春・秋

特徴
比較的食中毒の発生は少ない時期ですが、油断は禁物です。運動会や行楽シーズンには、お弁当による食中毒に注意が必要です。

注意点

  • 朝作ったお弁当でも、保冷剤を使用
  • おにぎりはラップを使って握り、素手で触らない
  • 気温が高くなる日は、生野菜や生の果物を避ける

よくある質問

Q1: 食中毒かどうか判断する基準は?

A: 以下のような症状があり、他に原因が思い当たらない場合は、食中毒の可能性があります。

  • 腹痛、下痢、嘔吐、発熱などの症状がある
  • 同じ食事をした人も同様の症状がある
  • 特定の食品を食べた後に症状が出た
  • 普段は健康なのに、突然症状が出た

ただし、これらの症状は他の病気でも起こりうるため、自己判断せず、医療機関を受診することをお勧めします。

Q2: 食中毒は人にうつる?

A: 食中毒の原因によって異なります。

人から人へうつりやすいもの

  • ノロウイルス
  • 赤痢
  • 腸管出血性大腸菌(O157など)

これらは感染力が強く、嘔吐物や便を介して感染が広がることがあります。家族に感染者が出た場合は、手洗いやトイレの消毒などの対策が重要です。

人から人へうつりにくいもの

  • 黄色ブドウ球菌(毒素型)
  • ウェルシュ菌
  • 腸炎ビブリオ

これらは食品中の毒素や菌が原因であり、人から人への感染はほとんどありません。

Q3: 食中毒になったら、会社や学校は休むべき?

A: 症状がある間は、無理せず休養することが重要です。また、原因によっては出席・出勤停止が必要な場合もあります。

出席・出勤停止が必要な場合

  • 腸管出血性大腸菌感染症(O157など):医師が感染のおそれがないと認めるまで
  • 赤痢:医師が感染のおそれがないと認めるまで

ノロウイルスの場合
法律上の出席停止期間は定められていませんが、症状がある間は休み、症状が消失してから1〜2日は自宅療養することが望ましいとされています。

いずれの場合も、職場や学校の規定に従い、医師の診断を受けてから判断しましょう。

Q4: 食中毒予防に効果的な消毒方法は?

A: 原因によって有効な消毒方法が異なります。

一般的な細菌に対して

  • 熱湯消毒(85℃以上で1分間以上)
  • 塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)
  • アルコール(70%以上)

ノロウイルスに対して
ノロウイルスはアルコールが効きにくいため、以下の方法が有効です。

  • 塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム):0.02〜0.1%溶液
  • 熱湯消毒(85℃以上で1分間以上)

消毒液の作り方(次亜塩素酸ナトリウム)

  • 便や嘔吐物の処理:0.1%(1000ppm) 市販の塩素系漂白剤(濃度5%)を50倍に薄める 水500mlに対して漂白剤10ml
  • 調理器具や手すりなどの消毒:0.02%(200ppm) 市販の塩素系漂白剤を250倍に薄める 水500mlに対して漂白剤2ml

Q5: 妊娠中に食中毒になったら、赤ちゃんに影響は?

A: 多くの食中毒は母体の症状にとどまり、直接胎児に影響することは少ないですが、注意が必要な場合もあります。

特に注意が必要なもの

リステリア菌

  • 妊婦は一般の人より約20倍かかりやすい
  • 胎児に感染し、流産や早産、新生児の髄膜炎などを引き起こすことがある
  • ナチュラルチーズ、生ハム、スモークサーモンなどに注意

トキソプラズマ

  • 妊娠中に初感染すると、胎児に先天性トキソプラズマ症を引き起こすことがある
  • 生肉(特に豚肉)、土のついた野菜に注意

脱水に注意
激しい下痢や嘔吐による脱水は、子宮の収縮を引き起こす可能性があります。水分補給を心がけ、症状が強い場合は早めに医療機関を受診してください。

妊娠中は免疫機能が変化し、食中毒のリスクが高まるため、生ものを避けるなど、より慎重な食品管理が必要です。

まとめ

食中毒の発症時間(潜伏期間)は、原因となる病原体によって大きく異なります。

短時間で発症するもの(数時間以内)

  • 黄色ブドウ球菌:1〜6時間
  • セレウス菌(嘔吐型):30分〜6時間
  • フグ毒:20分〜3時間

半日から1日程度で発症するもの

  • サルモネラ:6〜72時間
  • ウェルシュ菌:6〜18時間
  • 腸炎ビブリオ:8〜24時間
  • ノロウイルス:24〜48時間

数日後に発症するもの

  • カンピロバクター:2〜7日
  • 腸管出血性大腸菌(O157など):3〜8日

潜伏期間を知ることで、原因食品の推測や適切な対処につながります。しかし、食中毒の症状は原因によって様々であり、自己判断は危険です。

以下の場合は必ず医療機関を受診してください

  • 血便が出る
  • 激しい腹痛が続く
  • 高熱がある(39℃以上)
  • 水分が摂取できない
  • 尿が出ない、極端に少ない
  • 意識がもうろうとしている
  • 乳幼児、高齢者、妊婦、基礎疾患のある方

予防の3原則「つけない・増やさない・やっつける」を実践しましょう

  • 手洗いの徹底
  • 食品の低温保存
  • 十分な加熱
  • 調理器具の衛生管理
  • 調理後は早めに食べる

食中毒は誰にでも起こりうるものですが、正しい知識と予防対策により、そのリスクを大きく減らすことができます。

少しでも体調に不安を感じたら、我慢せず早めに医療機関を受診することが大切です。


参考文献

本記事は、以下の信頼できる公的機関および医学的根拠に基づいて作成されています。

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  10. 東京都福祉保健局「食中毒を起こす微生物」
    https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/micro/

※本記事の情報は2025年11月時点のものです。最新の情報については、各公的機関のウェブサイトをご確認ください。


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本記事の内容に関するご質問や、実際の症状に関するご相談は、医療機関を受診されることをお勧めします。食中毒が疑われる症状がある場合は、お早めにお近くの医療機関にご相談ください。

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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