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耳垢(耳あか)の正しい知識と対処法 | 専門医が解説

はじめに

「耳掃除は気持ちいいから毎日している」「耳垢が気になって仕方ない」という方は少なくありません。しかし、実は耳垢には重要な役割があり、過度な耳掃除はかえって耳の健康を損なう可能性があることをご存じでしょうか。

本記事では、耳垢とは何か、その役割や種類、正しい耳のケア方法について、医学的な根拠に基づいて詳しく解説します。耳垢でお悩みの方、正しい耳掃除の方法を知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。

耳垢(じこう)とは

耳垢の定義と成分

耳垢(じこう)は、医学用語では「耳垢(じこう)」または「耵聹(ていねい)」と呼ばれます。一般的には「耳あか」「みみあか」として知られています。

耳垢は、外耳道(耳の穴から鼓膜までの通路)にある耳垢腺(じこうせん)と皮脂腺から分泌される分泌物に、はがれ落ちた皮膚の角質や外部から入り込んだほこりなどが混ざり合ってできたものです。

耳垢の主な成分は以下の通りです:

  • 脂質: 耳垢腺と皮脂腺からの分泌物
  • タンパク質: 剥がれ落ちた角質細胞
  • 塩分: 汗腺からの分泌物
  • リゾチーム: 抗菌作用を持つ酵素
  • 免疫グロブリン: 免疫に関わる物質
  • その他: ほこり、異物など

耳垢の重要な役割

多くの方が「耳垢は不要なゴミ」と考えがちですが、実は耳垢には私たちの耳を守る重要な役割があります。

1. 保護作用

耳垢に含まれる脂質成分が外耳道の皮膚を保護し、乾燥を防ぎます。また、外耳道の皮膚を酸性に保つことで、細菌や真菌の繁殖を抑制します。

2. 抗菌・殺菌作用

耳垢にはリゾチームという抗菌物質や免疫グロブリンが含まれており、細菌やウイルスの侵入を防ぐバリア機能を果たしています。耳垢のpHは弱酸性(pH 4.0〜5.0程度)に保たれており、この酸性環境が病原体の繁殖を抑えています。

3. 異物の捕獲と排出

耳垢の粘着性により、ほこりや小さな虫などの異物が外耳道に入り込んだ際にキャッチし、鼓膜に達するのを防ぎます。

4. 自浄作用

外耳道の皮膚は奥から入口に向かって移動する性質(遊走運動)があり、耳垢も自然に外側へと排出される仕組みになっています。この自浄作用により、通常は特別な掃除をしなくても耳垢は自然に排出されます。

耳垢の種類

耳垢には大きく分けて「湿型(しっけい)」と「乾型(かんけい)」の2つのタイプがあります。これは遺伝的に決まっており、生涯変わることはありません。

湿型耳垢(湿性耳垢)

湿型耳垢は、茶褐色で湿り気があり、粘性のあるキャラメル状やペースト状の耳垢です。英語では「wet type」と呼ばれます。

特徴:

  • 色: 茶色、黄褐色、濃い茶色
  • 性状: 湿っている、ねっとりしている、べたべたしている
  • 粘性: 高い
  • においがやや強いことがある

乾型耳垢(乾性耳垢)

乾型耳垢は、灰白色で乾燥しており、カサカサとした粉状やフレーク状の耳垢です。英語では「dry type」と呼ばれます。

特徴:

  • 色: 白色、灰色、薄い黄色
  • 性状: 乾燥している、パサパサしている、粉を吹いたような感じ
  • 粘性: 低い
  • においが少ない

耳垢の型を決める遺伝子

耳垢の型は、16番染色体上にある「ABCC11遺伝子」の変異によって決まることが分かっています。この遺伝子は、耳垢腺からの分泌物の性質をコントロールしています。

日本を含む東アジア人では乾型が多く、日本人の約70〜80%が乾型、約20〜30%が湿型と言われています。一方、欧米人やアフリカ系の人々では湿型が多数派です。

遺伝形式は以下の通りです:

  • 湿型の遺伝子が優性(顕性)
  • 乾型の遺伝子が劣性(潜性)
  • 両親が湿型でも乾型の子が生まれる可能性がある
  • 両親が乾型なら子も乾型になる

耳垢の型による影響

耳垢の型によって、耳掃除の方法や頻度、注意点が異なります。

湿型の場合:

  • 耳垢が外耳道に付着しやすい
  • 耳垢栓塞(じこうせんそく)になりやすい傾向
  • 定期的なケアが必要な場合がある
  • ワキガ体質と関連があることが多い(ABCC11遺伝子が共通)

乾型の場合:

  • 耳垢が自然に剥がれ落ちやすい
  • 自浄作用が働きやすい
  • 過度な耳掃除は不要

耳垢がたまる原因

耳垢は通常、外耳道の自浄作用により自然に排出されますが、以下のような原因で耳垢がたまりやすくなることがあります。

1. 過度な耳掃除

皮肉なことに、耳掃除をしすぎることで耳垢がたまりやすくなります。

  • 耳掃除により外耳道の皮膚が傷つき、炎症を起こす
  • 炎症により耳垢腺の分泌が増加する
  • 耳垢を奥に押し込んでしまう
  • 自浄作用のための皮膚の移動を妨げる

2. 外耳道の形状

外耳道の形には個人差があり、以下のような特徴がある方は耳垢がたまりやすい傾向があります。

  • 外耳道が狭い
  • 外耳道がS字状に曲がっている
  • 外耳道に段差や凹凸がある

3. イヤホンやヘッドホンの使用

長時間のイヤホンやヘッドホンの使用は、以下の理由で耳垢がたまりやすくなります。

  • 外耳道の入口を塞ぐことで、耳垢の自然排出を妨げる
  • 外耳道内の湿度が上がり、耳垢腺の分泌が促進される
  • 耳垢を奥に押し込んでしまう

4. 補聴器の使用

補聴器を使用している方は、イヤホンと同様の理由で耳垢がたまりやすくなります。補聴器使用者は定期的に耳鼻咽喉科で耳垢除去を受けることが推奨されます。

5. 耳栓の常用

水泳選手や工事現場で働く方など、耳栓を常用している場合も耳垢がたまりやすくなります。

6. 高齢

加齢により以下の変化が起こり、耳垢がたまりやすくなります。

  • 外耳道の皮膚の遊走運動が低下
  • 耳垢が硬くなる
  • 外耳道が狭くなる
  • 自浄作用が低下する

7. 皮膚疾患

湿疹やアトピー性皮膚炎、乾癬などの皮膚疾患がある方は、外耳道でも同様の症状が出ることがあり、耳垢の分泌が増加することがあります。

8. 遺伝的要因(湿型耳垢)

前述の通り、湿型耳垢の方は乾型に比べて耳垢がたまりやすい傾向があります。

耳垢栓塞(じこうせんそく)とは

定義と症状

耳垢栓塞とは、耳垢が外耳道に詰まって栓をした状態のことです。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会でも取り上げられる一般的な疾患です。

主な症状:

  1. 難聴・耳閉感: 最も多い症状で、耳が詰まった感じや聞こえにくさを感じます
  2. 耳鳴り: キーンという音や、ザーッという音が聞こえることがあります
  3. 耳の痛み: 耳垢が膨張して外耳道を圧迫すると痛みが生じます
  4. かゆみ: 耳垢栓塞の初期症状として現れることがあります
  5. めまい: 耳垢が鼓膜を圧迫している場合に起こることがあります
  6. : 外耳道の刺激により反射的に咳が出ることがあります(Arnold神経反射)

耳垢栓塞が起こりやすい状況

以下のような状況で耳垢栓塞が発生しやすくなります。

プールや入浴後

乾燥した耳垢が水分を吸収して膨張し、外耳道を塞いでしまうことがあります。特に乾型耳垢の方が夏場のプール後に急に聞こえが悪くなるケースが多く見られます。

耳掃除後

耳掃除により耳垢を奥に押し込んでしまい、鼓膜近くで耳垢栓塞を作ってしまうことがあります。

長期間耳掃除をしていない場合

特に湿型耳垢の方で、長期間耳掃除をしていない場合に大きな耳垢栓塞ができることがあります。

耳垢栓塞の合併症

耳垢栓塞を放置すると、以下のような合併症が起こる可能性があります。

  • 外耳炎: 耳垢により外耳道の皮膚が傷つき、感染を起こす
  • 鼓膜炎: 耳垢が鼓膜を圧迫・刺激し、炎症を起こす
  • 聴力低下: 長期間の耳垢栓塞により伝音難聴が続く
  • 平衡感覚の異常: 耳垢による鼓膜への圧迫が続くことで起こる

正しい耳掃除の方法

基本原則:「耳掃除は最小限に」

耳鼻咽喉科の専門医の間では「耳掃除はしない方がよい」というのが現在の見解です。外耳道には自浄作用があるため、健康な耳であれば耳掃除は基本的に不要です。

しかし、「全く耳掃除をしないのは不安」という方も多いでしょう。そこで、どうしても耳掃除をしたい場合の安全な方法をご紹介します。

耳掃除の頻度

  • 推奨頻度: 2週間〜1ヶ月に1回程度
  • 毎日の耳掃除は厳禁: 外耳道の皮膚を傷つけ、感染症のリスクが高まります

安全な耳掃除の方法

1. 準備するもの

  • 綿棒(乳児用の細いものが安全)
  • または、耳かき(先端が丸く滑らかなもの)
  • 明るい照明(できればペンライトなど)
  • 鏡(誰かに見てもらう場合は不要)

2. 掃除の範囲

重要なルール: 「見える範囲だけ」

  • 外耳道入口から1cm程度まで(耳の入口付近のみ)
  • 外耳道の奥(見えない部分)は掃除しない
  • 「耳かきは小指の第一関節まで」が目安

3. 具体的な手順

綿棒を使用する場合:

  1. 綿棒を水で軽く湿らせる(湿型の場合)、または乾いたまま使う(乾型の場合)
  2. 耳の穴の入口付近を軽く拭き取るようにする
  3. 綿棒を回転させながら優しく使う
  4. 押し込まない、こすらない
  5. 1回の掃除で両耳それぞれ1〜2本の綿棒で十分

耳かきを使用する場合:

  1. 耳介(耳たぶ)を後ろ上方に軽く引っ張り、外耳道をまっすぐにする
  2. 耳かきを外耳道に沿わせて、優しく入れる
  3. 入口付近の耳垢を優しくかき出す
  4. 力を入れない、深く入れない
  5. 何度も繰り返さない

子どもの耳掃除

子どもの耳掃除は特に注意が必要です。

注意点:

  • 3歳未満の乳幼児は自宅での耳掃除を避ける
  • 動く可能性があるため、無理に掃除しない
  • 定期的に耳鼻咽喉科を受診して除去してもらう
  • どうしても自宅で行う場合は、入口付近を綿棒で軽く拭く程度にとどめる

高齢者の耳掃除

高齢者は耳垢が硬くなりやすく、自浄作用も低下しているため、定期的に医療機関での耳垢除去を受けることをおすすめします。

やってはいけない耳掃除

以下の行為は耳に重大なダメージを与える可能性があるため、絶対に避けてください。

1. 毎日の耳掃除

外耳道の皮膚は非常に薄くデリケートです。毎日の耳掃除は皮膚を傷つけ、以下のような問題を引き起こします。

  • 外耳炎
  • 耳垢腺の分泌亢進(逆に耳垢が増える)
  • 外耳道湿疹
  • 慢性的なかゆみ

2. 深く掃除する

「耳垢は奥にあるから、奥まで掃除しなければ」と考えるのは危険です。

リスク:

  • 鼓膜損傷(鼓膜穿孔)
  • 耳小骨の損傷
  • 耳垢を鼓膜近くに押し込む
  • 外耳道の皮膚損傷

特に鼓膜穿孔は、難聴や耳鳴り、めまいなどの重篤な症状を引き起こす可能性があります。

3. 硬い道具の使用

金属製の耳かきや、先端が尖った道具の使用は危険です。

避けるべき道具:

  • 先端が尖った金属製耳かき
  • ヘアピン、つまようじ、マッチ棒
  • ボールペンのキャップ
  • 指の爪

これらの硬い道具は、外耳道の皮膚を簡単に傷つけてしまいます。

4. 耳かきの長時間使用

「気持ちいいから」と長時間耳かきを続けることは、外耳道の皮膚を過度に刺激し、炎症を引き起こします。

5. イヤーキャンドルの使用

イヤーキャンドル(耳の穴に円錐形のキャンドルを挿入し、火をつけて耳垢を吸い出すという民間療法)は、効果がないだけでなく、以下のリスクがあります。

  • 熱傷(やけど)
  • 耳への蝋の流入
  • 鼓膜損傷
  • 外耳道閉塞

多くの医学会で危険性が指摘されており、使用は推奨されていません。

6. 耳掃除専用機器の誤った使用

市販の耳掃除用カメラや吸引機器を使用する場合も、使用方法を誤ると耳を傷つける可能性があります。必ず取扱説明書を読み、適切に使用してください。

7. 他人の耳掃除

家族やパートナーの耳掃除を代わりにしてあげることは、以下の理由から推奨されません。

  • 外耳道の奥行きが分かりにくい
  • 力加減が難しい
  • 突然動かれた際に対応できない
  • 鼓膜を傷つけるリスクが高い

どうしても他人の耳掃除をする場合は、入口付近を軽く拭く程度にとどめましょう。

8. 水や液体での洗浄

家庭で水や液体を使って耳の中を洗浄することは推奨されません。

リスク:

  • 水が耳の奥に残り、外耳炎の原因になる
  • 鼓膜に穴が開いている場合、中耳炎を起こす
  • 耳垢を奥に押し込む

医療機関では専用の器具と技術を使って安全に洗浄を行いますが、家庭で同様のことを行うのは危険です。

耳垢で受診すべきタイミング

以下のような症状がある場合は、耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。

1. 難聴・耳閉感がある

  • 片耳または両耳が聞こえにくい
  • 耳が詰まった感じが続く
  • 音がこもって聞こえる

これらの症状は耳垢栓塞の典型的な症状です。ただし、中耳炎や突発性難聴など他の疾患の可能性もあるため、早めの受診が必要です。

2. 耳の痛みやかゆみがある

  • 耳の奥が痛い
  • 耳の中がかゆくて仕方ない
  • 耳を触ると痛い

耳垢による刺激や、外耳炎を起こしている可能性があります。

3. 耳だれ(耳漏)が出る

耳から液体や膿が出ている場合は、外耳炎や中耳炎の可能性があります。早急に受診してください。

4. 耳鳴りやめまいがある

耳垢栓塞により耳鳴りやめまいが起こることがあります。ただし、メニエール病など他の疾患の可能性もあるため、専門医の診察が必要です。

5. 耳掃除後に症状が出た

耳掃除の後に上記のような症状が現れた場合は、鼓膜損傷や外耳道損傷の可能性があります。できるだけ早く受診してください。

6. 自分で除去できない耳垢がある

大きな耳垢が見えているが自分では取れない、または取ろうとして痛みが出た場合は、無理をせず医療機関で除去してもらいましょう。

7. 補聴器や耳栓を常用している

補聴器や耳栓を常用している方は、3〜6ヶ月に1回程度、定期的に耳鼻咽喉科で耳垢除去を受けることをおすすめします。

8. 高齢者や子ども

高齢者や小さな子どもは自浄作用が十分に働かなかったり、自分で症状を訴えられなかったりするため、定期的な受診が推奨されます。

医療機関での耳垢除去

耳垢除去の方法

医療機関では、以下のような方法で耳垢を除去します。

1. 器具による除去

耳鏡(じきょう)下での除去:

  • 耳鏡で外耳道と耳垢を観察しながら行う
  • 耳垢鉗子(じこうかんし)という専用の器具で耳垢をつかみ取る
  • 耳垢が硬い場合は、複数回に分けて少しずつ除去する

顕微鏡下での除去:

  • より精密な除去が必要な場合に行う
  • 拡大して見ながら安全に除去できる
  • 鼓膜近くの耳垢や、小児の耳垢除去に適している

2. 吸引による除去

  • 専用の吸引管を使って耳垢を吸い取る方法
  • 柔らかい耳垢や耳だれと一緒に除去する場合に有効
  • 痛みが少ない

3. 洗浄による除去

耳洗浄(じせんじょう):

  • 微温湯(体温程度の水)を専用の注射器や洗浄器で外耳道に注入
  • 水流により耳垢を流し出す
  • 硬い耳垢の場合、事前に点耳薬で軟化させることがある

注意事項:

  • 鼓膜に穴が開いている場合は行えない
  • 水が苦手な方には向かない
  • まれに一時的なめまいが起こることがある

耳垢除去の流れ

  1. 問診: 症状や耳掃除の習慣などを確認
  2. 診察: 耳鏡や顕微鏡で外耳道と鼓膜を観察
  3. 除去: 適切な方法で耳垢を除去
  4. 確認: 除去後に外耳道と鼓膜の状態を確認
  5. 説明: 今後の注意点や耳のケア方法について説明

耳垢除去にかかる時間と費用

所要時間:

  • 通常: 5〜15分程度
  • 大きな耳垢栓塞の場合: 20〜30分程度

費用(保険適用の場合):

  • 3割負担: 約600〜1,000円程度(初診料含む)
  • 1割負担: 約200〜400円程度

※費用は医療機関や処置内容により異なります。

耳垢除去の痛み

多くの場合、耳垢除去はほとんど痛みを伴いません。ただし、以下のような場合には多少の不快感や痛みを感じることがあります。

  • 外耳道に炎症がある場合
  • 耳垢が鼓膜に強く付着している場合
  • 外耳道が非常に狭い場合

痛みに敏感な方や不安がある方は、事前に医師に相談しましょう。状況によっては麻酔薬を使用することも可能です。

耳垢除去後の注意点

  1. 当日は耳を触らない: 除去後の外耳道は刺激に敏感になっています
  2. 入浴: 当日から可能ですが、耳に水が入らないように注意
  3. プール: 2〜3日は控える
  4. 点耳薬: 医師から処方された場合は指示通りに使用
  5. 再受診: 症状が改善しない場合や新たな症状が出た場合は再受診

耳垢に関するよくある質問(Q&A)

Q1. 耳垢は本当に掃除しなくてもよいのですか?

A: 基本的には耳掃除は不要です。耳には自浄作用があり、耳垢は自然に外に排出されます。ただし、湿型耳垢の方や外耳道の形状により耳垢がたまりやすい方、補聴器を使用している方などは、定期的に医療機関で除去してもらうことをおすすめします。

Q2. 耳がかゆい時はどうすればよいですか?

A: 耳のかゆみの原因は様々です。

  • 耳垢によるもの: 医療機関で耳垢を除去してもらう
  • 外耳道湿疹: 耳掃除のしすぎが原因のことが多い。耳掃除を控え、必要に応じてステロイド外用薬を使用
  • 真菌感染: 抗真菌薬による治療が必要
  • アレルギー: 原因物質の除去と抗アレルギー薬の使用

いずれの場合も、かゆみがあるからといって耳かきで刺激するのは逆効果です。耳鼻咽喉科を受診しましょう。

Q3. 耳掃除の後、耳が聞こえにくくなりました。どうすればよいですか?

A: 以下の可能性が考えられます。

  1. 耳垢を奥に押し込んだ: 耳垢栓塞の状態
  2. 鼓膜を傷つけた: 鼓膜穿孔の可能性
  3. 外耳道を傷つけた: 腫れにより外耳道が狭くなっている

いずれも早急に耳鼻咽喉科を受診する必要があります。特に耳の痛みや耳だれを伴う場合は、できるだけ早く受診してください。

Q4. 子どもの耳掃除はいつから自分でできますか?

A: 一般的に、小学校高学年(10歳前後)くらいから自分で耳掃除ができるようになります。ただし、正しい方法を教え、見守ることが重要です。それまでは、保護者が入口付近を軽く拭く程度にとどめるか、定期的に耳鼻咽喉科で除去してもらうことをおすすめします。

Q5. 耳垢が多いのですが、何か病気でしょうか?

A: 耳垢の量には個人差があります。湿型耳垢の方は乾型に比べて量が多く見えることがあります。ただし、急に耳垢の量が増えた場合は、以下の可能性があります。

  • 外耳炎により耳垢腺の分泌が増加
  • 外耳道湿疹
  • 耳掃除のしすぎによる刺激

耳垢の量が気になる場合や、他の症状を伴う場合は、耳鼻咽喉科を受診しましょう。

Q6. 耳垢が臭いのですが、大丈夫でしょうか?

A: 耳垢にはある程度のにおいがあるのが普通です。特に湿型耳垢は乾型に比べてにおいが強い傾向があります。これは耳垢に含まれる脂質成分や細菌によるものです。

ただし、以下のような場合は注意が必要です。

  • 急に悪臭がするようになった: 外耳炎や中耳炎の可能性
  • 耳だれを伴う: 感染症の可能性
  • 痛みやかゆみを伴う: 炎症がある可能性

においが気になる場合や、他の症状がある場合は耳鼻咽喉科を受診しましょう。

Q7. 耳垢の色が変わったのですが、問題ありますか?

A: 耳垢の色には個人差があり、また食事や体調によっても多少変化することがあります。

正常範囲内の色:

  • 黄色、茶色、濃い茶色(湿型)
  • 白色、灰色、薄い黄色(乾型)

注意が必要な色:

  • 赤色、茶褐色: 出血している可能性
  • 緑色、黄緑色: 感染症(緑膿菌など)の可能性
  • 黒色: 真菌感染やカビの可能性

色の変化と共に、痛み、かゆみ、耳だれなどの症状がある場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診してください。

Q8. 片耳だけ耳垢が多いのですが、なぜですか?

A: 片耳だけ耳垢が多い原因としては、以下が考えられます。

  1. 外耳道の形状の違い: 左右で外耳道の形が異なり、片方が耳垢がたまりやすい
  2. 習慣的な刺激: 寝る時の向きや電話をかける耳など、片方を刺激する習慣がある
  3. イヤホンの使用: 片耳だけイヤホンを使う習慣がある
  4. 外耳炎: 片耳だけ炎症を起こしている

明らかな左右差がある場合や、症状を伴う場合は医療機関を受診しましょう。

Q9. 耳垢除去は痛いですか?

A: 通常、医療機関での耳垢除去はほとんど痛みを伴いません。医師は耳鏡や顕微鏡で観察しながら、慎重に除去します。

多少の不快感を感じることはありますが、痛みというほどではない場合がほとんどです。ただし、以下の場合は痛みを感じやすくなります。

  • 外耳道に炎症がある
  • 耳垢が鼓膜に強く癒着している
  • 外耳道が非常に狭い

痛みに不安がある方は、事前に医師に相談することをおすすめします。

Q10. 耳垢は何歳くらいから出るのですか?

A: 耳垢は赤ちゃんの時から分泌されています。新生児でも耳垢はありますが、外耳道が小さく観察しにくいため、気づきにくいことがあります。

乳幼児の耳垢は柔らかく、自然に排出されやすいため、無理に除去する必要はありません。もし気になる場合は、小児科や耳鼻咽喉科で相談しましょう。

Q11. 耳垢がないのですが、問題ありますか?

A: 乾型耳垢の方で耳掃除をしていない場合、耳垢が非常に薄く粉状で目立たないことがあります。これは正常です。

また、外耳道の自浄作用が非常に良好に働いている場合も、目に見える耳垢が少ないことがあります。

ただし、以下のような症状がある場合は注意が必要です。

  • 耳の乾燥感が強い
  • かゆみがある
  • 皮膚が剥がれやすい

これらの症状がある場合は、外耳道の乾燥や湿疹の可能性があるため、耳鼻咽喉科を受診しましょう。

Q12. 妊娠中や授乳中でも耳垢除去はできますか?

A: 妊娠中や授乳中でも、通常の耳垢除去は問題なく行えます。器具や吸引による除去は、母体や赤ちゃんに影響を与えません。

ただし、以下の点に注意が必要です。

  • 洗浄: つわりがある時期は、水流によりめまいや吐き気を感じることがある
  • 点耳薬: 使用する場合は、医師に妊娠・授乳中であることを伝える

不安な点があれば、遠慮なく医師に相談してください。

耳垢と他の疾患との関係

耳垢と外耳炎

外耳炎は、外耳道の皮膚に炎症が起こる疾患です。耳垢と外耳炎には密接な関係があります。

耳掃除による外耳炎:

  • 過度な耳掃除により外耳道の皮膚が傷つく
  • 傷ついた部分から細菌や真菌が侵入
  • 炎症を起こし、外耳炎が発症

症状:

  • 耳の痛み(特に耳を引っ張ったり、押したりすると痛い)
  • 耳のかゆみ
  • 耳だれ
  • 難聴

外耳炎を予防するためには、過度な耳掃除を避けることが最も重要です。

耳垢と中耳炎

耳垢自体は中耳炎の直接的な原因にはなりませんが、以下のような関連があります。

  1. 診察の妨げ: 耳垢栓塞があると鼓膜が観察できず、中耳炎の診断が遅れる
  2. 治療の妨げ: 点耳薬が鼓膜に到達しない
  3. 合併: 外耳炎と中耳炎を同時に起こすことがある

特に小児は中耳炎を起こしやすいため、定期的に耳鼻咽喉科で耳垢除去を受けることが推奨されます。

耳垢とワキガ(腋臭症)

前述の通り、耳垢の型を決めるABCC11遺伝子は、ワキガ(腋臭症)とも関連しています。

関連性:

  • 湿型耳垢の方の約80〜90%がワキガ体質
  • 乾型耳垢の方はほとんどワキガ体質ではない

これは、ABCC11遺伝子が耳垢腺だけでなく、アポクリン汗腺(ワキガの原因となる汗腺)の働きにも関与しているためです。

ただし、湿型耳垢だからといって必ずワキガのにおいがあるわけではありません。体質には個人差があります。

耳垢と補聴器

補聴器を使用している方は、耳垢に関する以下の問題が起こりやすくなります。

問題点:

  1. 耳垢がたまりやすい: 補聴器が外耳道の出口を塞ぐため
  2. 補聴器の故障: 耳垢が補聴器内部に入り込む
  3. 音質の低下: 耳垢により補聴器のマイクや音の出口が塞がれる
  4. ハウリング: 耳垢栓塞により補聴器からの音が反響する

対策:

  • 3〜6ヶ月に1回、定期的に耳鼻咽喉科で耳垢除去を受ける
  • 補聴器の定期的な清掃とメンテナンス
  • 補聴器店と耳鼻咽喉科の両方で定期的にチェックを受ける

耳の健康を保つための生活習慣

耳垢だけでなく、耳全体の健康を保つために、以下のような生活習慣を心がけましょう。

1. 過度な耳掃除を避ける

繰り返しになりますが、これが最も重要です。耳には自浄作用があることを理解し、必要以上に耳掃除をしないようにしましょう。

2. イヤホン・ヘッドホンの適切な使用

  • 音量: 最大音量の60%以下に設定
  • 時間: 1日1時間以内を目安に
  • 清潔: イヤホンは定期的に清掃する
  • 共用を避ける: 他人とイヤホンを共用しない

3. 耳への水の侵入を防ぐ

入浴時:

  • 耳の穴に直接シャワーをかけない
  • シャンプーや石鹸が耳に入らないよう注意

プール・海水浴:

  • 耳栓を使用する
  • 泳いだ後は頭を傾けて水を出す
  • タオルで優しく拭く(綿棒は不要)

4. 耳への刺激を避ける

  • 騒音の大きい環境では耳栓やイヤーマフを使用
  • 耳を強く押したり引っ張ったりしない
  • 綿棒や耳かきで長時間刺激しない

5. 全身の健康管理

耳の健康は全身の健康と関連しています。

  • バランスの取れた食事: ビタミンやミネラルを十分に摂取
  • 十分な睡眠: 疲労は耳の免疫力を低下させる
  • ストレス管理: ストレスは突発性難聴などのリスク因子
  • 禁煙: 喫煙は難聴のリスクを高める
  • 適度な運動: 血行改善により耳の健康も保たれる

6. 定期的な健康診断

  • 年に1回程度、健康診断で聴力検査を受ける
  • 耳に症状がなくても、気になることがあれば耳鼻咽喉科を受診
  • 高齢者や補聴器使用者は定期的に耳鼻咽喉科を受診

7. 耳の異常に早く気づく

以下のような症状に気づいたら、早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。

  • 聞こえにくさ
  • 耳鳴り
  • 耳の痛み
  • 耳のかゆみが続く
  • 耳だれ
  • めまい
  • 耳の閉塞感

季節ごとの耳のケア

季節によって耳のトラブルも変化します。季節ごとの注意点を理解しておきましょう。

春(3月〜5月)

特徴:

  • 花粉症の季節
  • 気温の変化が大きい

注意点:

  • 花粉症により耳のかゆみが出ることがある
  • 鼻をかみすぎると耳に圧がかかり、中耳炎のリスクが高まる
  • アレルギー性外耳炎に注意

対策:

  • 花粉症の薬を適切に使用
  • 鼻は片方ずつ優しくかむ
  • 耳をかきすぎない

夏(6月〜8月)

特徴:

  • 高温多湿
  • プールや海水浴の機会が増える

注意点:

  • 外耳炎(プール熱)が増加
  • 耳垢栓塞(水により耳垢が膨張)が増加
  • カビ(真菌)による外耳炎

対策:

  • プール後は耳の水をよく出す
  • 綿棒で耳の中を拭かない(逆効果)
  • 湿気の多い環境では耳を乾燥させる
  • エアコンの風が直接耳に当たらないようにする

秋(9月〜11月)

特徴:

  • 気温の低下
  • 乾燥が始まる

注意点:

  • 外耳道の乾燥
  • 秋の花粉症

対策:

  • 保湿を心がける
  • 乾燥しすぎた環境を避ける
  • 加湿器の使用

冬(12月〜2月)

特徴:

  • 低温・乾燥
  • 風邪が流行

注意点:

  • 外耳道の乾燥とかゆみ
  • 風邪から中耳炎への移行
  • 暖房による乾燥

対策:

  • 適度な湿度を保つ(50〜60%)
  • 風邪を引いたら早めに治療
  • マスクの使用
  • 耳を冷やさない(耳あてなどを使用)

まとめ

耳垢は単なる「不要なゴミ」ではなく、耳を守る重要な役割を果たしています。主なポイントをまとめます。

耳垢の重要な役割

  • 外耳道の保護
  • 抗菌・殺菌作用
  • 異物の捕獲
  • 自然な自浄作用

正しい耳のケア

  • 耳掃除は最小限に(2週間〜1ヶ月に1回程度)
  • 見える範囲だけを掃除
  • 深く掃除しない
  • 毎日の耳掃除は避ける

避けるべき行為

  • 毎日の耳掃除
  • 深い部分の掃除
  • 硬い道具の使用
  • 長時間の耳かき
  • イヤーキャンドル

受診すべきタイミング

  • 難聴・耳閉感がある
  • 耳の痛みやかゆみが続く
  • 耳だれが出る
  • 耳掃除後に症状が出た
  • 自分で除去できない耳垢がある

医療機関での耳垢除去

  • 安全で痛みの少ない処置
  • 専門的な器具と技術
  • 保険適用(3割負担で約600〜1,000円程度)

耳の健康を保つためには、「過度な耳掃除をしない」ことが最も重要です。耳垢が気になる場合や症状がある場合は、自己判断で処理せず、専門医に相談することをおすすめします。

正しい知識を持って耳のケアを行い、健康な耳を保ちましょう。

参考文献・情報源

本記事の作成にあたり、以下の信頼できる情報源を参考にしました。

  1. 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 – 耳鼻咽喉科に関する専門的な医学情報
  2. 厚生労働省 – 国民の健康に関する公的情報
  3. 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) – 科学技術に関する信頼性の高い情報
  4. 日本医師会 – 医療に関する総合的な情報

※本記事は医学的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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