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痰が絡む咳が続くときに考えられる原因と対処法|いつ受診すべきかも解説

「風邪をひいたあと、なかなか痰が絡む咳が治らない」「熱はないのに痰が出て咳が続いている」とお悩みではありませんか?

痰が絡む咳は、私たちの体が気道に入った異物や病原体を排出しようとする大切な防御反応です。しかし、その症状が長引いたり、痰の色や量に変化があったりする場合は、何らかの病気が隠れている可能性があります。

本記事では、痰が絡む咳の原因やメカニズム、痰の色から分かる体のサイン、考えられる疾患、受診の目安、自宅でできる対処法まで詳しく解説します。症状が気になる方は、ぜひ参考にしてください。


目次

  1. 痰が絡む咳とは
  2. 痰と咳が出るメカニズム
  3. 痰の色から分かる体のサイン
  4. 痰が絡む咳の原因となる主な疾患
  5. こんな症状があれば病院へ|受診の目安
  6. 医療機関で行われる検査と診断
  7. 痰が絡む咳の治療法
  8. 自宅でできる対処法と痰の上手な出し方
  9. 痰が絡む咳を予防するために
  10. よくある質問(Q&A)
  11. まとめ
  12. 参考文献

1. 痰が絡む咳とは

1-1. 痰が絡む咳(湿性咳嗽)と乾いた咳(乾性咳嗽)の違い

咳は医学的に「咳嗽(がいそう)」と呼ばれ、痰を伴うかどうかによって大きく2種類に分類されます。

痰が絡む咳は「湿性咳嗽(しっせいがいそう)」と呼ばれ、気管支炎や肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの感染症や慢性炎症が原因で、気道に溜まった粘液を排出しようとして起こります。咳をすると「ゴロゴロ」とした感じがあり、実際に痰が出ることが特徴です。

一方、痰が絡まない咳は「乾性咳嗽(かんせいがいそう)」と呼ばれ、咳喘息やアレルギー性鼻炎、胃食道逆流症などが原因となります。喉や胸のムズムズ感、空咳が続くのが特徴で、痰はほとんど出ません。

この咳の性質を見極めることは、原因疾患を早期に発見することにつながる重要なポイントです。

1-2. 痰とは何か

痰は、気道の粘膜から分泌される粘液に、吸い込んだほこりや細菌、ウイルス、気道の細胞などが混ざり合ったものです。健康な状態でも気道では少量の粘液が作られていますが、通常は無意識のうちに飲み込まれるため、痰として意識されることはありません。

しかし、風邪やアレルギーなどで気道に炎症が起きると、粘液の分泌量が増加し、痰として自覚されるようになります。痰を排出することは、気道に入った異物や病原体を体外に追い出すための重要な防御機能です。


2. 痰と咳が出るメカニズム

2-1. 気道の防御システム

私たちが呼吸をするとき、空気は鼻や口から入り、咽頭、喉頭、気管、気管支を経て肺に届きます。この空気の通り道である気道の表面は、粘液を分泌する「杯細胞(さかずきさいぼう)」と、細かい毛のような構造を持つ「線毛細胞」で覆われています。

気道に入り込んだほこりや細菌、ウイルスなどの異物は、まず粘液によって捕らえられます。その後、線毛が一定のリズムで波打つように動くことで、異物を含んだ粘液は喉の方向へと運ばれていきます。この仕組みを「粘液線毛輸送系」といい、気道を清潔に保つ重要な防御システムです。

2-2. 痰が増える仕組み

風邪のウイルスや細菌が気道に感染すると、体はこれらの病原体と戦うために免疫反応を起こします。すると気道の粘膜に炎症が生じ、粘液を分泌する杯細胞の働きが活発になります。

また、炎症によって気道粘膜がむくんだり、線毛の動きが低下したりすることで、粘液がスムーズに排出されにくくなります。その結果、気道に痰が溜まりやすくなり、これを排出しようとして咳が出るのです。

2-3. 咳の役割

咳は、気道に溜まった痰や異物を体外に排出するための防御反応です。咳をするときは、まず大きく息を吸い込み、声帯を閉じて胸腔内の圧力を高めます。そして声帯を開くと同時に、圧縮された空気が一気に気道から吐き出され、痰や異物が外に押し出されます。

つまり、痰が絡む咳は体が正常に機能している証拠ともいえます。ただし、痰の量や色、咳の持続期間によっては、何らかの病気のサインである可能性があるため注意が必要です。


3. 痰の色から分かる体のサイン

痰の色は、体の中で何が起きているかを知るための重要な手がかりになります。痰の色や性状を観察することで、ある程度どのような状態にあるのかを推測することができます。

3-1. 透明~白色の痰

健康な方の痰は、通常無色透明から白色です。透明な痰は、軽い風邪の初期や治りかけ、気管支喘息の発作時などで見られることがあります。比較的炎症が軽い段階で、呼吸器に細菌感染がない場合に多く見られます。

また、アレルギー性鼻炎や喘息の方は、透明で粘り気のある痰が出やすい傾向があります。

3-2. 黄色の痰

痰が黄色くなるのは、白血球(特に好中球)が増えて炎症が起きているサインです。好中球に多く含まれる「ペルオキシダーゼ」という酵素の色調により、痰が黄色味を帯びます。

ウイルスや細菌に感染した場合、好中球は炎症部位に動員されて病原体と戦います。その過程で好中球が増加し、その残骸と痰が混ざることで黄色くなるのです。

風邪やウイルス感染、細菌感染の可能性が考えられ、慢性気管支炎や気管支拡張症の方では普段からこのような痰が出ることもあります。

3-3. 緑色の痰

緑色の痰は、さらに炎症が進んだサインです。細菌感染が強く疑われる状態で、慢性的な副鼻腔炎や気管支炎などで見られることがあります。緑膿菌などの特定の細菌に感染している場合にも緑色の痰が出ることがあります。

緑色や濃い黄色の痰(膿性痰)が続く場合は、医療機関を受診して適切な治療を受けることが大切です。

3-4. 茶色・赤色・ピンク色の痰

痰に血液が混じると、茶色や赤色、ピンク色になることがあります。

茶色や赤錆色の痰は、肺や気道からの出血が考えられ、肺結核や肺炎、肺がんなどの疑いもあります。鮮やかな赤色の痰は、出血して間もない状態を示し、気道や肺からの出血の可能性があるため、早急に医療機関を受診する必要があります。

風邪をひいたときに激しく咳をすることで、喉の奥の血管が傷つき、痰に血が混じることもありますが、繰り返し血痰が出る場合は必ず医師に相談してください。

3-5. 痰の観察ポイント

日本呼吸器学会のガイドラインでは、痰の色が濃くなったり、量がいつもより多くなったりした場合は、感染の可能性があるとされています。普段から痰の色や性状を観察しておくことで、早めに感染の状態を見つけることができます。

特に慢性的な呼吸器疾患をお持ちの方は、体調が良いときの痰の色をよく覚えておき、変化があった場合には早めに主治医に相談することが重要です。


4. 痰が絡む咳の原因となる主な疾患

痰が絡む咳が続く場合、さまざまな疾患が原因として考えられます。ここでは代表的な疾患について解説します。

4-1. 風邪(感冒)・急性上気道炎

風邪は、鼻や喉などの上気道にウイルスが感染することで起こります。主な原因ウイルスはライノウイルス、コロナウイルス(通常の風邪の原因となるもの)、アデノウイルスなどです。

症状は鼻水、鼻詰まり、喉の痛み、咳、発熱などで、初期は乾いた咳が多いですが、その後痰を伴う湿った咳に変わることもあります。通常は1週間程度で症状が治まりますが、咳だけが数週間続くこともあります。

4-2. 急性気管支炎

急性気管支炎は、ウイルスや細菌が気管支に感染して炎症を起こす病気です。原因の約9割はウイルス(ライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルスなど)で、そのほか肺炎マイコプラズマや肺炎クラミジア、百日咳菌なども原因となります。

主な症状は咳と痰で、発熱を伴うこともありますが、必ずしも発熱するわけではありません。日本呼吸器学会の情報によると、急性気管支炎の症状は通常数日から数週間で改善しますが、細菌の二次感染を起こすと痰の量が増加し、膿性となることがあります。

4-3. 肺炎

肺炎は、細菌やウイルスなどの病原体が肺胞に感染して炎症を起こした状態です。風邪や気管支炎と比べて症状が重く、38度以上の高熱が数日間持続し、悪寒や全身倦怠感、呼吸困難感を伴うことがあります。

痰は黄色や緑色、鉄さび色になることが多く、量も増えます。特に高齢者や持病がある方は重症化しやすいため、早めの対応が大切です。

肺炎を引き起こす主な病原体には、肺炎球菌、インフルエンザ菌、肺炎マイコプラズマなどがあります。

4-4. 気管支喘息

気管支喘息は、気道に慢性的な炎症が起き、さまざまな刺激に対して気道が敏感になり、発作的に気道が狭くなることを繰り返す病気です。日本呼吸器学会によると、日本では子どもの8~14%、大人では9~10%が喘息を持っているとされています。

発作的に咳や痰が出て、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音(喘鳴)を伴って息苦しくなることが特徴です。喘息の痰は透明から白色で、粘り気が強いことが多いです。症状は夜間や早朝に出やすく、季節の変わり目や冷気、香りなどで誘発されることもあります。

4-5. 慢性閉塞性肺疾患(COPD)

COPDは、タバコの煙などの有害物質を長年吸い込むことが原因で、肺の空気の通りが悪くなり、息切れ、咳、痰などの症状を起こす病気です。日本呼吸器学会の情報では、日本では40歳以上の約12人に1人、推定で530万人以上がCOPDの患者であると考えられています。

COPDの症状は咳や痰の持続から始まり、重症化すると息切れ(呼吸困難)を起こすようになります。ありふれた症状がゆっくりと進行するため、気づいたときには重症化しているケースも少なくありません。痰は白色や黄色で、朝方に特に多く出ることが特徴です。

4-6. 慢性副鼻腔炎・後鼻漏

慢性副鼻腔炎は、副鼻腔に持続的な炎症が起きる病気で、鼻水、鼻詰まりや痰の絡みが慢性的に続きます。副鼻腔に溜まった膿性の鼻汁が喉の奥に流れ落ちる「後鼻漏(こうびろう)」により、痰が増えたように感じることがあります。

特に朝や横になったときに症状が強くなることがあり、痰が絡む咳の原因が実は鼻の病気だったということも珍しくありません。

4-7. 気管支拡張症

気管支拡張症は、気管支が異常に拡張し、そこに細菌が溜まりやすくなる状態です。慢性的な咳と痰が主な症状で、痰は大量で、膿状のものが混じることがあります。

繰り返す感染や炎症によって気管支壁が傷つき、正常な構造が失われることで発症します。

4-8. 肺結核・肺がん

長期間痰が絡む咳が続く場合、肺結核や肺がんなどの重大な病気が隠れている可能性もあります。

肺結核の症状は、咳、痰、微熱などで風邪と似ています。進行すると血痰や胸の痛みを伴うこともあります。肺がんの初期症状として咳や痰が出ることがありますが、自覚症状がない場合も多いです。

これらの疾患は早期発見が非常に重要ですので、症状が長引く場合は必ず医療機関を受診してください。


5. こんな症状があれば病院へ|受診の目安

痰が絡む咳が出ていても、すべてのケースで医療機関を受診する必要があるわけではありません。しかし、以下のような場合は早めに受診することをおすすめします。

5-1. 咳の持続期間による目安

日本呼吸器学会の「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン」では、咳を持続期間により以下のように分類しています。

咳が3週間未満で風邪などの症状に伴っており、痰以外の症状がなく自然に軽快傾向にある場合は、様子を見ても良いでしょう。しかし、3週間以上咳が続く場合は、感染症以外の原因(咳喘息、COPD、慢性副鼻腔炎など)が考えられるため、医療機関の受診をおすすめします。

また、8週間以上続く咳は「慢性咳嗽」と呼ばれ、肺がんや肺結核の疑いもあるため、必ず医療機関を受診してください。

5-2. すぐに受診すべき症状

以下のような症状がある場合は、様子を見ずにすぐに医療機関を受診してください。

まず、高熱(38度以上)が数日間続く場合は、肺炎などの重篤な感染症の可能性があります。息苦しさ、呼吸困難がある場合は、肺炎や気管支喘息の発作など、緊急性の高い状態の可能性があります。

痰に血が混じる(血痰)場合は、肺結核や肺がん、気管支拡張症などの可能性があり、早急な検査が必要です。茶色や緑色など濃い色の痰が続く場合は、細菌感染が強く疑われます。

胸の痛みがある場合や、食欲がない、体重が減ったといった全身症状を伴う場合も、早めに受診することが大切です。

5-3. 特に注意が必要な方

高齢者、乳幼児、持病(糖尿病、心臓病、呼吸器疾患など)をお持ちの方、免疫力が低下している方は、症状が重症化しやすい傾向があります。これらに該当する方は、症状が軽くても早めに医療機関に相談することをおすすめします。

また、高齢者の場合、発熱や咳、痰などの典型的な症状が目立たないこともあります。普段と比べて元気がない、食欲がない、活動性が低下しているなど、気になる変化があれば受診しましょう。

5-4. 何科を受診すべきか

痰が絡む咳が続く場合、まずは内科や呼吸器内科を受診することをおすすめします。特に、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や気管支喘息、肺炎などの診断と治療が必要になることがあるため、呼吸器専門医のいる医療機関であればより専門的な検査・治療を受けることができます。

痰が鼻水や鼻詰まりなど鼻の症状と関係している場合や、喉に違和感がある場合は、耳鼻咽喉科が適していることもあります。


6. 医療機関で行われる検査と診断

痰が絡む咳で医療機関を受診した場合、原因を特定するためにさまざまな検査が行われます。

6-1. 問診と身体診察

まず、いつから症状が出ているか、咳や痰の性状(色、量、粘り気など)、発熱の有無、息苦しさの有無、喫煙歴、アレルギーの有無、服用中の薬などについて詳しく聞かれます。

身体診察では、聴診器を使って呼吸音を確認します。肺炎の場合は「ボコボコ」という水泡音が、気管支喘息の場合は喘鳴が聴取されます。痰が気管に絡んでいる場合は、「ロンカス」と呼ばれる低い音が聞こえることもあります。

6-2. 胸部レントゲン検査・CT検査

胸部レントゲン検査は、肺炎や肺がん、肺結核などの病変を確認するために行われます。肺炎や肺がんの場合、胸部レントゲンで異常な影が見られることがあります。

より詳しい検査が必要な場合は、胸部CT検査が行われます。CT検査では、気管支拡張症や気管支壁の肥厚、副鼻腔に溜まった膿なども確認することができます。

6-3. 血液検査

血液検査では、炎症の程度や感染症の有無を調べます。肺炎では白血球や炎症反応(CRP)の上昇が見られます。気管支喘息や咳喘息などのアレルギー疾患では、好酸球やダニ・ハウスダストなどの特異的IgE抗体の上昇が見られることがあります。

6-4. 喀痰検査

痰の中に含まれる細菌や異常な細胞を調べる検査です。細菌培養検査では、原因となっている細菌を特定し、有効な抗菌薬を選択するために行われます。細胞診は、がん細胞があるかどうかを調べる検査で、肺がんの診断に有用です。

結核が疑われる場合は、喀痰の抗酸菌検査が行われます。

6-5. 呼吸機能検査

スパイロメトリーと呼ばれる検査で、肺活量や息を吐く力などを測定します。COPDや気管支喘息の診断に重要な検査です。気管支喘息では、気道が狭くなっているか、気管支拡張薬で改善するかといったことを調べます。


7. 痰が絡む咳の治療法

痰が絡む咳の治療は、原因となっている疾患に応じて異なります。

7-1. 原因疾患の治療

痰が絡む咳の治療の基本は、咳を生じる原因となっている病気を探し、その病気に対する治療を行うことです。原因となる病気が良くなれば、咳止め薬を使わなくても咳は改善します。

細菌感染による気管支炎や肺炎の場合は、原因菌に応じた抗菌薬(抗生物質)が処方されます。ウイルス感染の場合は、インフルエンザなど一部のウイルスを除いて特効薬がないため、対症療法が中心となります。

気管支喘息の場合は、気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬が治療の中心となります。COPDの場合は、気管支拡張薬(LAMA、LABA)などの吸入薬が使用されます。

7-2. 去痰薬(きょたんざい)

原因によらず痰の絡みを改善する目的で、去痰薬が使用されることがあります。去痰薬は、痰の粘度を下げて排出を促進したり、気道の線毛運動を活性化して排痰能力を高めたりする働きがあります。

代表的な去痰薬には、カルボシステイン(ムコダイン)、アンブロキソール(ムコソルバン)などがあります。これらの薬は、痰の症状を改善するために広く使用されています。

7-3. 鎮咳薬(ちんがいやく)について

咳止め薬(鎮咳薬)は、脳から出る「咳を出させる命令」を止める働きがあります。ただし、痰が出る咳の場合は、原則として咳止め薬は使用しません。

これは、咳が止まることで痰が気道に溜まり、呼吸がうまくできなくなったり、細菌が繁殖して感染が悪化したりする可能性があるためです。痰が絡む咳の場合は、咳止めではなく去痰薬を使用するのが一般的です。

7-4. その他の治療

副鼻腔炎による後鼻漏が原因の場合は、鼻の炎症を抑える治療や鼻洗浄が効果的です。逆流性食道炎が原因の場合は、胃酸を抑える薬が処方されます。

アレルギーが関与している場合は、抗アレルギー薬が使用されることもあります。


8. 自宅でできる対処法と痰の上手な出し方

医療機関での治療と併せて、自宅でも症状を和らげるためのケアを行うことが大切です。

8-1. こまめな水分補給

痰を出しやすくするためには、こまめな水分補給が重要です。水分を十分に摂ることで、痰が柔らかくなり、排出しやすくなります。1日を通して水やお茶などを少量ずつこまめに飲む習慣をつけましょう。

温かい飲み物やスープは、喉を温め加湿する効果もあり、痰の排出を助けます。ただし、炭酸飲料はお腹を膨らませるため避けた方が良いでしょう。

8-2. 室内の加湿

乾燥した空気は気道を刺激し、痰の絡みや咳の炎症を悪化させる原因となります。室内の湿度を50~60%程度に保つことで、気道粘膜の乾燥を防ぎ、呼吸が楽になることがあります。

加湿器を使用したり、濡れタオルを室内に干したりすることで湿度を上げることができます。

8-3. 痰の上手な出し方

独立行政法人環境再生保全機構の情報によると、以下の方法で痰を出しやすくすることができます。

まず、深呼吸を2~3回繰り返します。肺から十分に息を吐き出した後に深く吸い込むと、より効果的です。痰が上がってきそうになったら、大きく息を吸って「ハーッ!ハーッ!」と口から勢いよく息を吐き出します(ハフィング)。

痰が喉の近くまで上がってきたら、「ゴホン!」と咳をして吐き出します。咳は3回までにとどめ、それ以上行うと疲れてしまいます。

また、咳をするときに両手を脇の下に当てて押さえると、気道の空気の流れが速くなり、痰を排出しやすくなります。

排痰は疲れやすいため、1日2~3回、1回20分以内を目安にしましょう。朝起きたときや就寝前など、時間を決めて行うと効果的です。

8-4. 姿勢の工夫

横向きに寝たり、上体を少し起こした姿勢をとったりすることで、痰が出やすくなることがあります。介助者がいる場合は、背中をリズミカルに叩く「タッピング」も痰の排出を助けます。

8-5. 口腔ケアの重要性

口腔内が不潔になると細菌が繁殖しやすくなり、気管支や肺に影響が及ぶことがあります。歯磨きやうがいなどの口腔ケアをこまめに行い、口内を清潔に保つことが大切です。

口腔ケアによって痰の粘度が下がり、排出しやすくなる効果も期待できます。

8-6. 喉への刺激を避ける

タバコの煙、アルコール、香辛料など刺激の強いものは、気道の炎症を悪化させる可能性があるため避けましょう。冷暖房の風が直接当たらないようにすることも大切です。


9. 痰が絡む咳を予防するために

痰が絡む咳を予防するためには、日常的な感染予防と生活習慣の改善が重要です。

9-1. 感染予防の基本

手洗いやうがいを習慣づけ、ウイルスや細菌の感染を防ぐことが予防の基本です。外出時のマスク着用、咳エチケット(咳やくしゃみをするときはティッシュやハンカチで口と鼻を押さえる)も大切です。

また、インフルエンザや肺炎球菌、新型コロナウイルスなどのワクチン接種も、感染症による重症化を防ぐために有効です。特にCOPDなどの慢性呼吸器疾患をお持ちの方は、感染をきっかけに症状が急激に悪化することがあるため、ワクチン接種が推奨されています。

9-2. 禁煙の重要性

喫煙は、気道の炎症を引き起こし、痰が絡む咳の大きな原因となります。タバコの煙に含まれる有害物質は、気道粘膜を傷つけ、線毛の働きを低下させます。その結果、痰が溜まりやすく、排出されにくい状態になります。

喫煙者は禁煙することで、気道の炎症リスクを減らし、痰の症状を改善できる可能性があります。COPDの予防・進行防止においても、禁煙は最も重要な対策です。

9-3. アレルゲンの回避

気管支喘息やアレルギー性の咳の場合、原因となるアレルゲン(ハウスダスト、ダニ、ペットの毛、カビ、花粉など)を避けることが大切です。こまめな掃除や寝具の洗濯、空気清浄機の使用などが有効です。

9-4. 規則正しい生活習慣

十分な睡眠、バランスの良い食事、適度な運動により、免疫力を高めることが感染予防につながります。特にCOPDでは呼吸に多くのエネルギーを使うため、栄養不足による体力低下をきたしやすく、バランスの良い食事で体重を管理することが大切です。

また、日本呼吸器学会では、身体活動性を向上させること(普段の生活で「じっとしている」状態をなるべく減らして活動的に日々を過ごすこと)も、呼吸器疾患の予防・改善に重要であるとしています。


10. よくある質問(Q&A)

Q1. 痰が絡む咳が2週間以上続いています。風邪ではないのでしょうか?

風邪の症状が治まっているにもかかわらず痰の絡む咳が続く場合、気管支炎、慢性副鼻腔炎(後鼻漏)、喘息、COPDなどの可能性があります。2週間以上続く場合は、医療機関を受診して原因を調べてもらうことをおすすめします。

Q2. 痰が絡むけれど熱はありません。様子を見ても大丈夫ですか?

熱がなくても咳や痰が長引く場合、アレルギー性疾患や喘息のような慢性疾患が隠れていることもあります。1~2週間以上続くようなら一度受診しましょう。

Q3. 痰が絡む咳はアレルギーでも起こりますか?

はい、アレルギー性鼻炎やアトピー咳嗽などが原因で、痰のような粘液が喉に落ちてきて咳が出ることがあります。原因に応じた治療が必要です。

Q4. 朝になると痰が絡みやすいのはなぜですか?

睡眠中は喉や気道の動きが低下し、痰が排出されにくくなります。そのため、朝起きたときに喉に痰が溜まって絡みやすくなります。起床後に水分を摂り、ゆっくりと深呼吸をすることで痰が出やすくなることがあります。

Q5. 痰を出すのが苦手ですが、無理に出さないといけませんか?

痰を気道に溜めたままにすると、その部分で細菌が繁殖する可能性があります。無理に強い咳を繰り返す必要はありませんが、水分を十分に摂り、深呼吸やハフィングなどの方法で、できるだけ痰を排出するようにしましょう。

Q6. 痰が絡む咳で夜眠れません。どうしたらいいですか?

就寝前に部屋を加湿し、温かい飲み物で喉を潤すことで症状が和らぐことがあります。また、上体を少し起こした姿勢で寝ると、痰が喉に溜まりにくくなります。症状がひどい場合は医師に相談し、適切な薬を処方してもらいましょう。

Q7. 子どもの痰が絡む咳が心配です。どうすればいいですか?

子どもは身体が未発達であるため、自分でしっかり痰を排出するのが難しいことがあります。こまめな水分補給(温かい飲み物やスープ)、部屋の加湿が効果的です。通常、子どもの痰絡みの咳は10日以内に50%、25日以内に90%が改善するとされていますが、高熱が続いたり、呼吸が苦しそうだったりする場合は早めに小児科を受診してください。

Q8. 市販の咳止め薬を飲んでもいいですか?

痰が絡む咳の場合、咳止め薬(鎮咳薬)は痰の排出を妨げる可能性があるため、原則として使用しない方が良いとされています。去痰薬(痰を出しやすくする薬)の方が適していますが、原因がわからないまま服用すると逆効果になることもあります。薬剤師や医師に相談してから使用することをおすすめします。


11. まとめ

痰が絡む咳は、体が気道に入った異物や病原体を排出しようとする大切な防御反応です。多くの場合、風邪などの感染症に伴って一時的に現れ、自然に改善します。

しかし、症状が長引いたり、痰の色が黄色や緑色に変化したり、血痰が出たりする場合は、気管支炎、肺炎、気管支喘息、COPD、副鼻腔炎など、さまざまな疾患が原因として考えられます。

特に以下の場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。

  • 咳が3週間以上続く
  • 38度以上の発熱が続く
  • 息苦しさがある
  • 痰に血が混じる
  • 黄色や緑色の濃い痰が出る
  • 体重減少や食欲低下などの全身症状がある

日常生活では、こまめな水分補給、室内の加湿、口腔ケア、禁煙などを心がけ、感染予防のための手洗い・うがいを習慣づけることが大切です。

当院では、痰が絡む咳でお悩みの患者様に対し、丁寧な問診と適切な検査により原因を特定し、一人ひとりに合った治療をご提案しています。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。


12. 参考文献

本記事は、以下の信頼性の高い医療情報を参考に作成しています。

  1. 一般社団法人日本呼吸器学会「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019」 https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20190412145942.html
  2. 一般社団法人日本呼吸器学会「呼吸器Q&A:Q6. 黄色または緑色のたんが出ます」 https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q06.html
  3. 一般社団法人日本呼吸器学会「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」 https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html
  4. 一般社団法人日本呼吸器学会「気管支ぜんそく」 https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-01.html
  5. 一般社団法人日本呼吸器学会「急性気管支炎」 https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-03.html
  6. 独立行政法人環境再生保全機構「痰の観察」 https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/copd/sputum/02.html
  7. 独立行政法人環境再生保全機構「上手な痰の出し方(実践編)」 https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/copd/sputum/03.html
  8. 独立行政法人環境再生保全機構「COPDとぜん息の違い」 https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/copd/qa/01.html
  9. 社会福祉法人恩賜財団済生会「本当にただの風邪? それ、肺炎かもしれません」 https://www.saiseikai.or.jp/medical/column/pneumonia/
  10. 社会福祉法人恩賜財団済生会「気管支肺炎」 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/bronchopneumonia/

※本記事は医療情報の提供を目的としたものであり、診断・治療を行うものではありません。症状が気になる場合は、医療機関を受診してください。

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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