お正月の風物詩である餅ですが、毎年高齢者の窒息事故が多発しています。消費者庁の統計によると、餅による窒息死亡事故の約9割が65歳以上の高齢者で、特に1月に集中して発生しています。しかし、適切な予防策を講じることで、こうした事故は防ぐことができます。本記事では、高齢者が餅を安全に楽しむための具体的な予防法から、万が一の際の応急処置まで、医学的な観点から詳しく解説します。ご家族で過ごすお正月を安心して迎えるために、ぜひ最後までお読みください。
目次
- 高齢者の餅による窒息事故の現状
- なぜ高齢者は餅で窒息しやすいのか
- 餅による窒息を防ぐための具体的な予防法
- 安全に餅を食べるための調理法と食べ方
- 窒息が起きたときの応急処置
- 窒息リスクの高い方が避けるべき食品
- 家族ができる見守りとサポート
- よくある質問
- まとめ
📊 高齢者の餅による窒息事故の現状
餅による窒息事故は、日本特有の深刻な問題として長年認識されてきました。ここでは、統計データをもとに事故の実態を明らかにし、なぜ対策が必要なのかを解説します。
📈 統計から見る餅窒息事故の実態
厚生労働省の人口動態統計によると、食品による窒息死亡者数は年間約4,000人以上にのぼり、そのなかでも餅は特に危険な食品として知られています。消費者庁の分析では、餅による窒息事故の発生件数は1月が突出して多く、年間発生件数の約3分の1が正月三が日に集中しています。
年齢別に見ると、65歳以上の高齢者が全体の約9割を占めており、特に80歳以上の方での発生率が高くなっています。性別では男性の方がやや多い傾向にありますが、これは食べる速度や一口の大きさに関連していると考えられています。
⏰ 事故が起きやすい時期と状況
餅による窒息事故は、正月の1月1日から3日の間に最も多く発生します。この時期は普段餅を食べない方も食べる機会が増え、また家族が集まって食事をする際に会話しながら食べることで注意力が散漫になりやすいという要因があります。
時間帯としては、朝食時と昼食時に事故が多く報告されています。特に元旦の朝、お雑煮を食べる際の事故が目立ちます。また、独居の高齢者が一人で食事をしている際に発生すると、発見が遅れて重症化するケースも少なくありません。
⚕️ 事故後の経過と重症度
餅による窒息は、発生から数分で意識を失い、適切な処置がなければ死に至る可能性がある緊急事態です。気道が完全に塞がれた場合、脳への酸素供給が途絶え、4〜6分程度で不可逆的な脳障害が生じるとされています。
救急搬送されたケースでも、心肺停止状態で発見された場合の救命率は非常に低く、たとえ救命できても重度の後遺症が残ることが多いのが現実です。だからこそ、事故を未然に防ぐ予防策が何よりも重要になります。
❓ なぜ高齢者は餅で窒息しやすいのか
高齢者が餅で窒息しやすい背景には、加齢に伴うさまざまな身体機能の変化があります。これらのメカニズムを理解することで、より効果的な予防策を講じることができます。
🦷 咀嚼機能の低下
加齢とともに歯の喪失や義歯の使用が増え、咀嚼(そしゃく)能力が低下します。天然歯と比較して義歯の咀嚼効率は約30〜40%低下するとされており、食べ物を十分に細かく噛み砕くことが難しくなります。
餅は粘着性が高く、しっかり噛まないと小さくならない特性があります。咀嚼機能が低下した状態で餅を食べると、十分に噛み砕かれないまま飲み込もうとしてしまい、喉に詰まるリスクが高まります。
👄 嚥下機能の低下
嚥下(えんげ)とは、食べ物を口から胃へ送り込む一連の動作のことです。高齢になると、この嚥下に関わる筋肉や神経の機能が低下し、スムーズに飲み込むことが難しくなります。
具体的には、舌の動きが緩慢になり、食べ物を喉の奥へ送り込む力が弱くなります。また、喉頭(こうとう)の位置が下がることで、食道と気管の分岐点での振り分けがうまくいかなくなり、誤嚥(ごえん)のリスクが高まります。
💧 唾液分泌の減少
唾液は食べ物を湿らせて飲み込みやすくする重要な役割を担っています。しかし、加齢に伴い唾液の分泌量は減少し、口腔内が乾燥しやすくなります。これを口腔乾燥症(ドライマウス)といい、70歳以上の約30%が何らかの症状を抱えているとされています。
唾液が少ない状態で餅を食べると、餅の表面が滑らかにならず、喉への移動がスムーズにいきません。また、多くの高齢者が服用している降圧剤や抗うつ薬、抗ヒスタミン薬などの薬剤も、副作用として唾液分泌を減少させることがあります。
🫁 咳反射の低下
異物が気道に入りそうになったとき、通常は反射的に咳をして排出しようとします。この咳反射は、窒息を防ぐための重要な防御機構です。しかし、高齢者ではこの反射が鈍くなっていることが多く、餅が喉に詰まりかけても十分な咳ができずに窒息に至るケースがあります。
🧠 認知機能の影響
認知症や軽度認知障害がある場合、食事中の注意力が低下し、食べる速度の調整や一口の量の調節が難しくなることがあります。また、餅を十分に噛まずに飲み込んでしまったり、口の中に食べ物が残っているのに次の一口を入れてしまったりすることも、窒息リスクを高める要因となります。
🛡️ 餅による窒息を防ぐための具体的な予防法
餅による窒息事故は、適切な予防策を講じることで大幅にリスクを減らすことができます。ここでは、実践しやすい具体的な予防法を詳しく紹介します。
✂️ 餅を小さく切ってから食べる
最も基本的かつ効果的な予防法は、餅を小さく切ってから食べることです。通常の切り餅を4等分から6等分程度に小さくカットすることで、万が一喉に詰まっても気道を完全に塞ぐリスクを減らせます。
切り方のポイント:
- 一口で無理なく噛めるサイズ(約2cm角以下)にする
- 切った後も表面に切り込みを入れて噛み切りやすくする
- 高齢者本人が切るのが難しい場合は、家族が事前に準備する
🦷 よく噛んでからゆっくり飲み込む
餅は最低でも30回以上噛んでから飲み込むことが推奨されています。十分に噛むことで、餅が唾液と混ざって柔らかくなり、飲み込みやすくなります。
安全な食べ方のポイント:
- 「一口入れたら箸を置く」習慣をつける
- 時間に余裕を持って食事する
- 慌てて食べることを避ける
💧 食べる前に水分を摂る
餅を食べる前に、お茶や水などで口の中と喉を潤しておくことが重要です。口腔内が乾燥していると、餅が喉に張り付きやすくなるためです。
水分摂取のポイント:
- 食事前にコップ1杯程度の水分を摂る
- 食事中も適宜水分を摂りながら食べる
- 必ず飲み込んでから水分を摂る(口に餅がある状態では危険)
🏠 食事に集中できる環境をつくる
テレビを見ながら、会話をしながらの「ながら食べ」は、注意力が散漫になり窒息のリスクを高めます。特に餅のような詰まりやすい食品を食べるときは、食事に集中できる静かな環境を整えることが大切です。
👨👩👧👦 一人での食事を避ける
高齢者が餅を食べる際は、できるだけ家族や介護者など誰かが一緒にいる状況で食べることが望ましいです。万が一窒息が起きた場合、早期に発見して応急処置を行うことで、命を救える可能性が大きく高まります。
🍽️ 安全に餅を食べるための調理法と食べ方
調理法を工夫することで、餅の窒息リスクを大幅に軽減することができます。ここでは、高齢者でも安全に餅を楽しめる具体的な調理法と食べ方を紹介します。
🔥 柔らかく調理する方法
餅を柔らかく調理することで、噛み切りやすく、喉に詰まりにくくなります。
調理法のポイント:
- 茹でる方法: 水から茹でて、沸騰してから2〜3分茹でる
- 電子レンジ: 餅がかぶる程度の水と一緒に500Wで1分30秒〜2分加熱
- 焼き餅: 焼きすぎず、柔らかさを保つ
🍲 おすすめの餅料理
安全性の高い餅料理:
- お雑煮: 汁物なので水分と一緒に摂取できる
- きなこ餅・あんころ餅: 表面がコーティングされ滑りやすい
- おしるこ・ぜんざい: 汁気があるため嚥下しやすい
注意が必要な料理:
- 磯辺焼き: 海苔が喉に張り付きやすい
🥄 市販の嚥下食用餅の活用
近年、嚥下機能が低下した方でも食べられる介護食用の餅が各メーカーから販売されています。これらの製品は、通常の餅と比べて粘りが少なく、口の中でほどけやすい特性を持っています。
🚨 窒息が起きたときの応急処置
予防策を講じていても、万が一の事態は起こりえます。窒息が発生した際の適切な応急処置を知っておくことは、命を救うために非常に重要です。
👀 窒息のサインを見逃さない
窒息の典型的なサイン:
- 突然咳き込む
- 声が出なくなる
- 顔色が青紫色になる(チアノーゼ)
- 喉を両手でつかむ動作(チョークサイン)
- 息ができない様子で苦しがる
- 意識がなくなる
📞 まずは119番通報を
窒息を発見したら、まず119番に通報することが重要です。応急処置を行いながらでも通報は可能であり、電話口の指示を受けながら処置を行うこともできます。
✋ 意識がある場合の応急処置(背部叩打法)
背部叩打法の手順:
- 窒息者の横に立つ
- 一方の手で胸部を支えながら前かがみの姿勢にさせる
- 手の付け根(手掌基部)で肩甲骨の間を強く4〜5回叩く
- 異物が排出されるか、意識がなくなるまで繰り返す
🤲 意識がある場合の応急処置(腹部突き上げ法)
背部叩打法で異物が出ない場合は、腹部突き上げ法(ハイムリック法)を行います。
手順:
- 窒息者の後ろに回り、両腕を脇の下から回して抱きかかえる
- 片方の手で握りこぶしを作り、みぞおちに当てる
- もう一方の手で握りこぶしを包み込む
- 素早く手前上方に向かって圧迫する
🆘 意識がない場合の応急処置
窒息者の意識がなくなった場合は、すぐに心肺蘇生法(CPR)を開始します。
手順:
- 平らな場所に仰向けに寝かせる
- 気道を確保(頭部後屈顎先挙上法)
- 口の中の見える異物を取り除く
- 胸骨圧迫を開始(5cm程度の深さ、1分間に100〜120回)
- 救急隊到着まで継続
⚠️ 窒息リスクの高い方が避けるべき食品
餅以外にも、高齢者にとって窒息リスクの高い食品があります。これらを知っておくことで、日常的な食事でも安全性を高めることができます。
🍡 粘着性の高い食品
粘着性が高く喉に張り付きやすい食品:
- だんご
- 白玉
- ういろう
- わらび餅
- フランスパン
- 食パンの耳
🐙 噛み切りにくい食品
弾力があり噛み切りにくい食品:
- こんにゃく
- いか・たこ
- 厚切りの肉
- こんにゃくゼリー
🥜 口の中でバラバラになりやすい食品
気道に入りやすい特性がある食品:
- ピーナッツ、アーモンドなどのナッツ類
- ごま
- そぼろ状の食品
- ゆで卵の黄身
- カステラ
👨👩👧👦 家族ができる見守りとサポート
高齢者の安全な食事を支えるためには、家族の見守りとサポートが欠かせません。ここでは、家族ができる具体的な取り組みを紹介します。
👁️ 食事の様子を観察する
高齢者と一緒に食事をする際は、さりげなく食べ方を観察することが大切です。
チェックポイント:
- 食べる速度が速すぎないか
- 一口の量が多すぎないか
- よく噛まずに飲み込んでいないか
- むせることが増えていないか
🏠 食環境を整える
安全に食事ができる環境を整えることも重要です:
- 明るく静かな食卓の設置
- 正しい姿勢での食事ができる椅子・テーブルの調整
- 持ちやすく滑りにくい食器の選択
🍳 調理法を工夫する
高齢者向けの調理の工夫:
- 食材を柔らかく調理する
- 一口大に切る
- とろみをつける
- 肉は薄切りにして繊維を断つ
- 野菜は十分に加熱する
- 魚は骨を丁寧に取り除く
🆘 応急処置の知識を身につける
家族全員が窒息時の応急処置を知っておくことが、万が一の際に命を救う鍵となります。各地域で開催されている救命講習に参加し、実際に人形を使って練習しておくことをおすすめします。
🏥 医療機関との連携
高齢者の嚥下機能に不安がある場合は、かかりつけ医や歯科医師、言語聴覚士などの専門家に相談することが大切です。嚥下機能の評価を受け、適切な食形態や食べ方についてアドバイスをもらうことで、より安全な食生活を送ることができます。

❓ よくある質問
適切な予防策を講じれば、高齢者でも餅を楽しむことができます。小さく切る、よく噛む、水分と一緒に摂るなどの対策を行い、家族の見守りのもとで食べることで窒息リスクを大幅に軽減できます。ただし、嚥下機能が著しく低下している方や、認知症が進行している方の場合は、医師や専門家に相談のうえ判断してください。
一口で無理なく噛めるサイズとして、約2cm角以下が目安です。通常の切り餅であれば、4等分から6等分程度に切ることをおすすめします。嚥下機能の状態によってはさらに小さくする必要があるため、普段の食事の様子を見ながら調整してください。
入れ歯を使用していても餅を食べることは可能ですが、咀嚼効率が低下しているため、より注意が必要です。入れ歯がしっかり合っているか確認し、餅は小さく切り、十分に噛んでから飲み込むようにしてください。入れ歯の調子が悪い場合は、餅を食べることを控えるか、事前に歯科医で調整してもらうことをおすすめします。
掃除機での異物除去は推奨されていません。吸引力が不十分であったり、逆に気道や口腔内を傷つけるリスクがあるためです。また、正しく使用できないことで応急処置が遅れる原因にもなります。窒息時は背部叩打法や腹部突き上げ法など、医学的に有効性が確認されている方法で対応してください。
最近の介護食用餅は、味や食感が大幅に改良されており、通常の餅と遜色ない製品が多く販売されています。粘りを抑えながらも餅らしい風味を保っているため、お雑煮やきなこ餅など通常の調理法で楽しむことができます。まずは少量から試してみて、食べやすさを確認されることをおすすめします。
📝 まとめ
高齢者の餅による窒息事故は、適切な予防策を講じることで防ぐことができます。本記事で紹介した予防法のポイントをまとめます。
まず、餅は必ず小さく切り、よく噛んでからゆっくり飲み込むことが基本です。食べる前に水分を摂って口を潤し、食事に集中できる環境で食べましょう。できるだけ一人での食事は避け、家族や介護者が見守る中で食べることが望ましいです。
調理法としては、茹でるなどして柔らかく仕上げ、汁物と一緒に食べることでリスクを軽減できます。嚥下機能に不安がある場合は、市販の介護食用餅の活用も検討してください。
万が一の窒息に備え、家族全員が応急処置(背部叩打法、腹部突き上げ法)を習得しておくことも重要です。各地域で開催されている救命講習への参加をおすすめします。
お正月は家族が集まり、餅を食べる機会が増える時期です。この記事で紹介した予防策を実践し、安全で楽しいお正月をお過ごしください。
📚 参考文献
監修者医師
高桑 康太 医師
保有資格
ミラドライ認定医
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
- 皮膚腫瘍・皮膚外科領域で15年以上の臨床経験と30,000件超の手術実績を持ち、医学的根拠に基づき監修を担当
- 専門分野:皮膚腫瘍、皮膚外科、皮膚科、形成外科
- 臨床実績(2024年時点) 皮膚腫瘍・皮膚外科手術:30,000件以上、腋臭症治療:2,000件以上、酒さ・赤ら顔治療:1,000件以上
- 監修領域 皮膚腫瘍(ほくろ・粉瘤・脂肪腫など)、皮膚外科手術、皮膚がん、一般医療コラムに関する医療情報
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
高齢者の嚥下機能低下は複数の要因が重なって起こります。特に服薬の副作用は見過ごされがちですが、口腔乾燥を引き起こす薬剤は非常に多く、餅の窒息リスクを高める重要な要因の一つです。薬の見直しや口腔ケアの充実も、窒息予防の重要な対策となります。