粉瘤

耳たぶのしこりが気になる方へ|原因・症状・治療法を専門医が徹底解説

ふとした瞬間に耳たぶを触っていたら、小さなしこりを発見して不安になった経験はありませんか。耳たぶのしこりは多くの方が経験する身近な症状ですが、その原因はさまざまです。痛みを伴わない小さなものから、赤く腫れて痛むものまで、症状の現れ方も千差万別です。

このコラムでは、耳たぶにできるしこりの種類や原因、適切な対処法について、形成外科の専門的な視点から詳しく解説していきます。しこりを見つけて心配されている方が、正しい知識を身につけ、適切な医療機関を受診する際の参考にしていただければ幸いです。


目次

  1. 耳たぶのしこりとは何か
  2. 耳たぶにしこりができる主な原因
  3. 粉瘤(アテローム)について詳しく知る
  4. 脂肪腫とは
  5. ケロイド・肥厚性瘢痕について
  6. リンパ節の腫れとしこり
  7. その他の原因となる疾患
  8. しこりの症状と見分け方
  9. 放置するとどうなるのか
  10. 医療機関を受診すべきタイミング
  11. 検査と診断の流れ
  12. 治療法について
  13. 手術後の経過とケア
  14. よくある質問と回答
  15. まとめ

1. 耳たぶのしこりとは何か

医学的に「しこり」とは、正常な組織とは異なる硬さや弾力を持つ塊状の病変を指します。触診で確認できる硬結、腫瘤、結節などがこれに該当し、耳たぶのしこりもこの定義に当てはまります。

耳たぶは医学用語で「耳垂(じすい)」と呼ばれ、軟骨を含まない柔らかい組織で構成されています。皮脂腺や汗腺が存在し、ピアスなどの装飾品をつける部位としても身近な場所です。この耳たぶは、実は粉瘤をはじめとする皮膚腫瘍ができやすい部位の一つとして知られています。

耳たぶのしこりは、その性質によっていくつかのタイプに分類されます。触ったときに動くものと動かないもの、痛みを伴うものと伴わないもの、急速に大きくなるものとゆっくり成長するものなど、さまざまな特徴があります。これらの特徴を観察することは、しこりの原因を推測する上で重要な手がかりとなります。

2. 耳たぶにしこりができる主な原因

耳たぶにしこりができる原因は多岐にわたります。最も頻度が高いのは粉瘤(ふんりゅう)で、次いで脂肪腫、ケロイド・肥厚性瘢痕、リンパ節の腫れなどが挙げられます。それぞれの原因によって、しこりの特徴や治療法が異なりますので、正確な診断を受けることが大切です。

代表的な原因を大きく分類すると以下のようになります。

良性腫瘍によるものとしては、粉瘤(表皮嚢腫)、脂肪腫、石灰化上皮腫などがあります。

炎症性・瘢痕性病変としては、ケロイド、肥厚性瘢痕、毛嚢炎、せつ(おでき)などがあります。

リンパ系の病変としては、リンパ節炎、リンパ節腫脹などがあります。

外傷・異物反応によるものとしては、ピアスホール周囲の肉芽組織、金属アレルギー反応などがあります。

その他としては、血管腫、神経線維腫などの比較的まれな疾患もあります。

これらの原因の中でも、耳たぶのしこりとして最も多く見られるのが粉瘤です。次の章から、それぞれの原因について詳しく解説していきます。

3. 粉瘤(アテローム)について詳しく知る

粉瘤とは何か

粉瘤は、皮膚の中にできる良性の腫瘍で、正式には「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」と呼ばれます。アテローム、アテローマという別名もあります。皮膚の一部が袋状に変化し、その内部に古い角質や皮脂が蓄積することで、徐々にしこりとして成長していきます。

日本皮膚科学会の解説によると、粉瘤のほとんどは表皮嚢腫と呼ばれるタイプで、毛穴の上方部分(毛漏斗部)が皮膚の内側に陥入して袋状の構造物を形成すると考えられています。この袋の内側は皮膚の表面(表皮)と同じ構造をしているため、通常の皮膚と同様に角質を産生し続けます。ただし、袋の中には出口がないため、角質や皮脂がどんどん溜まっていき、しこりとして大きくなるのです。

粉瘤の特徴

耳たぶにできた粉瘤には、いくつかの特徴的な所見が見られます。

まず、皮膚の下にコロコロとした丸いしこりが触れます。大きさは数ミリメートルから数センチメートルまでさまざまで、耳たぶでは比較的小さいものが多い傾向にあります。しこりは周囲の組織と癒着せず、皮膚を動かすとしこりも一緒に動く「可動性」があることが特徴です。

典型的な粉瘤では、しこりの中央に小さな黒い点(開口部・コメド)が見られます。この開口部は袋が皮膚表面とつながっている部分で、押すと白から黄色がかったチーズ状の内容物が出てくることがあります。この内容物は独特の不快な臭いを伴うことが多く、これも粉瘤を見分ける特徴の一つです。

なぜ耳たぶにできやすいのか

粉瘤は体のどこにでもできる可能性がありますが、特に顔、首、背中、そして耳たぶや耳の後ろにできやすいとされています。これらの部位は皮脂腺が比較的多く存在する場所であることが関係していると考えられます。

耳たぶに粉瘤ができやすい理由としては、以下のような要因が挙げられます。

皮脂腺が密集している部位であること、ピアスの穴などによる小さな外傷が起きやすいこと、イヤホンやマスクの紐など外部からの刺激を受けやすいこと、などです。

特にピアスホールと粉瘤の関係については、ピアスを開けた際に表皮細胞が皮膚の内側に入り込み、そこから粉瘤が発生することがあると報告されています。

粉瘤ができる原因

粉瘤がなぜできるのか、その詳しい原因は実ははっきりとわかっていません。日本皮膚科学会のQ&Aでも、「ほとんどのアテロームの原因、つまり、なぜ袋状構造物ができるのかについては未だはっきりわかっていません」と説明されています。

よく「不潔にしているから粉瘤ができる」と誤解されることがありますが、これは正確ではありません。角質や皮脂が袋の中に溜まるという現象から、清潔にしていないことが原因と思われがちですが、衛生状態と粉瘤の発生には直接的な関係はないとされています。

一方で、外傷や手術痕から粉瘤ができるケースがあることは知られています。手足にできる粉瘤の中には、小さな傷をきっかけに発生し、ヒトパピローマウイルス(イボのウイルス)が関与しているものもあります。また、体質的な要因も関係していると考えられており、繰り返し粉瘤ができやすい方がいらっしゃいます。

炎症を起こした粉瘤

通常、粉瘤は痛みを伴わない無症状のしこりですが、細菌感染を起こすと「炎症性粉瘤」または「感染性粉瘤」と呼ばれる状態になります。この状態になると、しこりが急激に大きくなり、赤く腫れ上がって強い痛みや熱感を伴うようになります。

炎症性粉瘤になる原因は主に2つあります。一つは、粉瘤の開口部から細菌が侵入して感染を起こすケースです。もう一つは、袋が皮膚の下で破裂し、内容物が周囲の組織に漏れ出すことで異物反応による炎症が起きるケースです。後者の場合は厳密には感染ではありませんが、同様の炎症症状を呈します。

炎症を起こした粉瘤を放置すると、膿が溜まって破裂したり、周囲の組織に炎症が広がったりすることがあります。一時的に膿が出て症状が落ち着くこともありますが、袋自体が残っているため、再発を繰り返すことが多いです。

4. 脂肪腫とは

脂肪腫の特徴

脂肪腫は、皮下脂肪組織が増殖してできる良性腫瘍で、軟部組織腫瘍の中で最も多く見られる疾患です。成熟した脂肪細胞が薄い膜(被膜)に包まれて塊を形成しており、触るとぷにぷにとした柔らかい感触が特徴です。

粉瘤としばしば混同されますが、両者にはいくつかの違いがあります。脂肪腫は粉瘤よりも深い位置(皮下組織)に発生することが多く、触ると消しゴムのように柔らかく感じます。また、粉瘤に見られるような中央の開口部(黒い点)はなく、皮膚の表面の色も通常は変化しません。押すと皮膚の下で滑らかに動く感触があり、内容物が出てきたり、臭いがしたりすることもありません。

脂肪腫ができやすい部位と年齢

脂肪腫は体のどこにでもできる可能性がありますが、首、肩、背中、大腿、臀部などに多く発生します。耳たぶよりは耳の後ろの首に近い部分など、脂肪組織が豊富な部位にできやすい傾向があります。

発症しやすい年齢は40〜60歳とされ、わずかに男性に多いという報告もありますが、幅広い年代で発生します。また、肥満、糖尿病、高脂血症などを持つ方にできやすい傾向があるとも言われています。

脂肪腫の経過

脂肪腫は非常にゆっくりと成長するため、気づいたときには既にかなり大きくなっていることがあります。しかし、粉瘤のように炎症を起こして急激に悪化することは稀です。痛みもほとんどありませんが、大きくなって神経を圧迫すると、しびれや違和感を感じることがあります。

脂肪腫は自然に消えることはなく、薬で治すこともできないため、治療が必要な場合は手術で摘出することになります。

5. ケロイド・肥厚性瘢痕について

ケロイドと肥厚性瘢痕の違い

外傷や手術、ピアスなどによって皮膚に傷ができると、通常は数か月かけて徐々に目立たなくなっていきます。しかし、何らかの原因で創傷治癒の過程に異常が生じると、傷跡が赤く盛り上がり、硬くなってしまうことがあります。これがケロイドや肥厚性瘢痕と呼ばれる状態です。

ケロイドと肥厚性瘢痕は見た目が似ていますが、医学的には異なる疾患と考えられています。肥厚性瘢痕は、もともとの傷の範囲を超えて広がることはなく、その部位で盛り上がります。時間が経つと自然に軽快することもあります。

一方、ケロイドは傷の範囲を越えて周囲の正常な皮膚にまで徐々に広がっていく特徴があります。自然に治ることはほとんどなく、進行性の経過をたどります。また、かゆみや痛みなどの自覚症状を伴うことが多いのもケロイドの特徴です。

耳たぶとケロイド

耳たぶは、前胸部、肩、背中などと並んで、ケロイドができやすい好発部位の一つとして知られています。特にピアスを開けた後にケロイドが発生するケースが多く見られます。

ピアスケロイドは、ピアスを開けた際の外傷がきっかけとなり、ケロイド体質の方で過剰な治癒反応が起こることで発生します。ピアスホールがなかなか安定せず、ジクジクした状態が続くと、慢性的な炎症からケロイドへと進行するリスクが高まります。

ケロイドは体質的な要素が強く関与しており、同じような傷を負っても、ケロイドができる人とできない人がいます。また、同じ方でも思春期から30歳くらいまでの時期にできやすく、高齢になるとできにくくなる傾向があります。

ケロイドの治療

ケロイドの治療は、保存的治療と外科的治療に分けられます。保存的治療としては、ステロイド軟膏や貼付剤の使用、ステロイドの局所注射、圧迫療法、シリコンゲルシートの貼付、内服薬(トラニラスト)の服用などがあります。

外科的治療としては、ケロイドを切除する手術がありますが、かつてはケロイドにメスを加えると再発・悪化すると言われていました。現在では、切除術と術後の放射線照射を組み合わせることで、再発率を低く抑えることができるようになっています。耳のピアスケロイドは、保存的治療に抵抗性を示すことが多く、手術が第一選択となる場合があります。

6. リンパ節の腫れとしこり

リンパ節炎とは

耳たぶの周囲や耳の後ろには、リンパ節が存在しています。リンパ節は体内に侵入した細菌やウイルスなどの病原体から体を守る免疫システムの一部であり、感染症にかかると腫れることがあります。

リンパ節炎は、このリンパ節が細菌やウイルスの感染によって炎症を起こした状態です。風邪や咽頭炎、中耳炎、虫歯、歯肉炎などの感染症に伴って、首や耳周辺のリンパ節が腫れることがよくあります。

リンパ節が腫れると、耳たぶの下や周辺にしこりのようなものが触れるようになります。腫れたリンパ節は押すと痛みがあり、発熱やのどの痛みなど、原因となっている感染症の症状を伴うことが多いです。

リンパ節炎とその他のしこりの違い

リンパ節炎によるしこりは、粉瘤や脂肪腫とはいくつかの点で異なります。まず、感染症に伴って急に出現し、原因となる感染症が治れば自然に縮小することが多いです。また、しこりに痛みや圧痛があることが多く、皮膚の下で動きにくいことがあります。

リンパ節の腫れは良性のことがほとんどですが、稀に悪性リンパ腫などの悪性疾患が原因となることもあります。しこりが硬い、2センチ以上の大きさになる、2週間以上持続する、徐々に大きくなるなどの場合は、念のため医療機関を受診することをお勧めします。

7. その他の原因となる疾患

毛嚢炎・せつ(おでき)

毛嚢炎は、毛穴(毛包)に細菌が感染して炎症を起こした状態です。せつ(おでき)は、毛嚢炎がさらに進行し、皮膚の深い部分まで炎症が及んだものを指します。

これらは比較的小さなしこりですが、押すと痛みがあり、赤く腫れます。軽症であれば自然に治ることもありますが、症状が強い場合は抗生物質の内服や切開排膿が必要になることがあります。

血管腫・血腫

血管腫は血管の異常増殖による腫瘍で、耳たぶに発生することは比較的稀ですが、赤みを帯びたしこりとして現れることがあります。また、外傷によって皮下に血液が貯留し、血腫を形成することもあります。

石灰化上皮腫

石灰化上皮腫は、毛を産生する細胞(毛母細胞)から発生する良性の皮膚腫瘍です。10代までの若い方の顔、首、腕にできやすいとされています。触ると石や骨片のように非常に硬い塊として感じられ、粉瘤や脂肪腫とは明らかに触感が異なります。

耳瘻孔

耳瘻孔(じろうこう)は、生まれつき耳の付け根付近に小さな穴が開いている状態です。この穴は皮膚の中で袋状につながっており、感染を起こすと腫れや痛みを生じることがあります。

悪性腫瘍

非常に稀ではありますが、耳たぶに悪性腫瘍が発生することもあります。基底細胞癌、扁平上皮癌、悪性黒色腫などの皮膚癌は、急速に大きくなる、硬くて動かない、いびつな形をしている、皮膚と強く癒着している、潰瘍を形成しているなどの特徴があります。このような所見がある場合は、早急に医療機関を受診してください。

8. しこりの症状と見分け方

痛みの有無による分類

耳たぶのしこりにおいて、痛みの有無は原因を推測する上で重要な手がかりになります。

痛みがないしこりの代表例としては、感染を起こしていない粉瘤、脂肪腫、成熟した肥厚性瘢痕などがあります。これらは通常、炎症を伴わない限り痛みはありませんが、圧迫や摩擦により一時的に不快感を感じることはあります。

一方、痛みを伴うしこりとしては、炎症性粉瘤、ケロイド、リンパ節炎、毛嚢炎・せつ、感染を伴う病変などがあります。痛みがある場合は、炎症や感染の存在を示唆しており、早めの医療介入が必要な場合があります。

可動性による分類

しこりを指で触れたときに、皮膚の下で動くかどうかも重要な所見です。

可動性があるしこり(触ると動く)としては、粉瘤、脂肪腫、良性の皮下腫瘍などがあります。これらは周囲の組織との癒着が少なく、触診で容易に動かすことができます。

可動性が乏しいしこり(動きにくい)としては、ケロイド、リンパ節炎、悪性腫瘍などがあります。周囲の組織と癒着していたり、深い位置に存在していたりすると、動きにくくなります。

その他の特徴

しこりの大きさや成長速度も重要です。数か月から数年かけてゆっくり大きくなるものは良性であることが多いですが、数週間で急速に増大する場合は注意が必要です。

皮膚の色の変化も観察しましょう。炎症を起こしている場合は赤くなり、血管腫では赤紫色を呈することがあります。悪性腫瘍では色素沈着や潰瘍形成が見られることがあります。

9. 放置するとどうなるのか

粉瘤を放置した場合

粉瘤は良性腫瘍であり、放置しても直ちに命に関わることはありません。しかし、粉瘤は自然に治ることがなく、時間とともに少しずつ大きくなる傾向があります。

小さいうちは気にならなくても、耳たぶで大きくなると見た目が気になったり、イヤホンがしにくくなったり、睡眠時に枕に当たって不快に感じたりするなど、日常生活に支障をきたすことがあります。

また、いつ炎症を起こすか予測できないという問題もあります。突然細菌感染を起こして赤く腫れ上がり、強い痛みを生じることがあります。炎症を起こした状態では、すぐに手術で摘出することができず、まず切開排膿などの処置を行い、炎症が落ち着いてから改めて手術を行う必要があります。

大きくなってから手術を行うと、傷跡も大きくなってしまいます。耳は人目につきやすい場所ですので、小さいうちに治療した方が、身体的・精神的な負担が少なくて済みます。

脂肪腫を放置した場合

脂肪腫も良性腫瘍であり、急いで治療する必要がないことが多いです。しかし、自然に消えることはなく、年齢とともに少しずつ大きくなる傾向があります。

大きくなると見た目の問題だけでなく、周囲の神経を圧迫してしびれや痛みを生じることがあります。また、大きくなるほど手術の際の傷が大きくなります。

ケロイドを放置した場合

ケロイドは自然に治ることはなく、放置すると徐々に広がっていきます。かゆみや痛みなどの症状も持続し、生活の質を低下させます。早期に適切な治療を開始することで、進行を抑えることができます。

炎症性病変を放置した場合

炎症を起こしている粉瘤や感染症を放置すると、症状が悪化して膿が溜まったり、周囲の組織に炎症が広がったりする可能性があります。適切な時期に治療を受けることが重要です。

10. 医療機関を受診すべきタイミング

耳たぶにしこりを見つけても、すべてのケースで慌てて受診する必要はありません。しかし、以下のような症状がある場合は、できるだけ早く医療機関を受診することをお勧めします。

まず、しこりに痛みや熱感がある場合です。炎症や感染を起こしている可能性があります。次に、しこりが急速に大きくなっている場合です。数週間で目に見えて大きくなる場合は注意が必要です。

また、しこりが赤く腫れている、膿や血が出る場合も早めの受診が望ましいです。さらに、しこりが硬くて動かない、いびつな形をしている場合は悪性腫瘍の可能性も考慮する必要があります。

発熱やのどの痛みなど全身症状を伴う場合はリンパ節炎の可能性があり、原因疾患の治療が必要です。そして、何週間経っても小さくならない、むしろ大きくなっている場合も受診を検討してください。

何科を受診すべきか

耳たぶのしこりで受診を検討する診療科は、主に皮膚科と形成外科です。どちらの科でも耳たぶのできものを診察することができますが、それぞれに得意分野があります。

皮膚科は皮膚の疾患全般を専門とし、しこりの診断や内科的治療を行います。まずは皮膚科で診断を受け、必要に応じて他科を紹介してもらうのが一般的な流れです。

形成外科は皮膚や皮下組織の手術を専門とし、粉瘤や脂肪腫の摘出手術、ケロイドの治療などを得意としています。傷跡をできるだけ目立たなくする技術に長けており、見た目を重視する方にも適しています。

また、痛みを伴うしこりでリンパ節炎や中耳炎などが疑われる場合は、耳鼻咽喉科の受診が適切なこともあります。

11. 検査と診断の流れ

問診と視診・触診

医療機関を受診すると、まず医師による問診が行われます。いつ頃からしこりに気づいたか、大きさの変化はあるか、痛みやかゆみなどの症状はあるか、ピアスの有無や過去の外傷歴などについて質問されます。

続いて視診と触診が行われます。しこりの大きさ、形、硬さ、可動性、皮膚の色の変化、開口部の有無などを詳しく観察します。経験豊富な医師であれば、視診・触診だけでも多くの場合は診断をつけることができます。

画像検査

より詳しい情報が必要な場合は、画像検査が行われます。

超音波検査(エコー検査)は、しこりの内部構造を詳しく観察できる非侵襲的な検査です。しこりの大きさや深さ、内部の性状、周囲組織との関係などがわかります。粉瘤と脂肪腫の鑑別や、良性・悪性の判断に役立ちます。

CT検査やMRI検査は、より詳細な画像情報が必要な場合に実施されます。特にMRI検査は脂肪腫の診断において信頼性が高く、悪性腫瘍との鑑別にも有用です。

ダーモスコピー検査

ダーモスコピー(皮膚鏡検査)は、皮膚の表面を拡大して観察する検査です。特殊な拡大鏡を用いて、肉眼では見えない皮膚の構造や色素のパターンを詳しく調べることができます。

病理検査

確定診断のためには、組織を採取して顕微鏡で調べる病理検査が必要になることがあります。手術で摘出した腫瘍は通常、病理検査に提出され、良性であることを確認します。悪性が強く疑われる場合は、手術前に一部の組織を採取する生検が行われることもあります。

12. 治療法について

粉瘤の治療

粉瘤の根本的な治療は手術による摘出です。袋状の構造(嚢腫壁)を完全に取り除かない限り、再発する可能性があります。薬だけでは治すことができません。

痛みがなく炎症を起こしていない粉瘤であれば、外来での日帰り手術が可能です。手術方法は主に2種類あります。

切開法(従来法)は、粉瘤の直径に合わせて皮膚を紡錘形に切開し、袋ごと摘出して縫合する方法です。袋を確実に取り出せるため再発が少ないのが利点ですが、傷跡がやや大きくなります。

くり抜き法(へそ抜き法)は、粉瘤の中央に小さな穴(4〜5ミリ程度)を開け、そこから内容物と袋を取り出す方法です。傷跡が小さく目立ちにくいのが利点ですが、袋が残ってしまい再発するリスクがやや高くなります。耳たぶのような目立つ部位では、くり抜き法が選択されることが多いです。

炎症を起こしている場合は、まず切開して膿を排出し、抗生物質の投与などで炎症を抑えます。炎症が落ち着いてから、改めて袋を摘出する手術を行います。

脂肪腫の治療

脂肪腫は通常、症状がなければ経過観察でも問題ありません。ただし、自然に消えることはないため、見た目が気になる場合や、大きくなって支障をきたす場合は手術で摘出します。

手術は粉瘤と同様に、局所麻酔下での日帰り手術が可能なことが多いです。腫瘍の上の皮膚を切開し、被膜ごと摘出して縫合します。脂肪腫は被膜に包まれているため、きれいに摘出できれば再発は稀です。

ケロイドの治療

ケロイドの治療は、保存的治療と外科的治療を組み合わせて行われることが多いです。

保存的治療としては、ステロイド外用薬(軟膏、クリーム、テープ剤)の使用、ステロイドの局所注射、シリコンゲルシートの貼付、圧迫療法、抗アレルギー薬(トラニラスト)の内服などがあります。

これらの治療で効果が不十分な場合や、耳のピアスケロイドのように保存的治療に抵抗性の場合は、手術による切除が検討されます。ただし、ケロイドは再発しやすいため、手術後も放射線照射やステロイド注射などを併用して再発を予防することが重要です。

リンパ節炎の治療

リンパ節炎は、原因となる感染症の治療が基本です。細菌感染が原因であれば抗生物質の内服、ウイルス感染が原因であれば対症療法を行います。原因疾患が治れば、リンパ節の腫れも自然に引いていきます。

13. 手術後の経過とケア

手術当日から翌日

粉瘤や脂肪腫の摘出手術は、通常30分から1時間程度で終わります。手術中は局所麻酔を行うため痛みは感じません。

手術当日は、入浴や患部を濡らすことは避け、シャワー浴程度に留めます。飲酒は控えてください。食事は普通に摂って構いませんが、激しい運動は避けましょう。翌日は傷の確認と消毒のために通院が必要になることが多いです。

抜糸まで

縫合した傷は、約1週間後に抜糸を行います。この間、傷口を清潔に保ち、医師の指示に従って消毒や軟膏塗布を行います。傷口が濡れないように注意し、激しい運動は控えます。

傷跡の経過

抜糸後の傷は、最初は赤みがあり目立ちますが、数か月から1年ほどかけて徐々に白く薄くなり、目立たなくなっていきます。耳たぶは比較的傷が目立ちにくい部位とされています。

傷跡をきれいにするためには、術後の紫外線対策が重要です。また、傷跡用の保護テープを使用することで、きれいな傷跡を目指すことができます。ケロイド体質の方は、術後の管理(テープ療法、ステロイド注射など)を厳密に行うことが再発予防に重要です。

再発について

粉瘤は袋を完全に摘出できれば再発はほとんどありませんが、不完全な摘出や自分で潰した場合は再発のリスクが高まります。脂肪腫も完全摘出すれば同じ場所での再発は稀です。ケロイドは体質的要因が強いため、手術後も再発の可能性があり、厳密な術後管理が必要です。

14. よくある質問と回答

Q: 耳たぶのしこりは自然に治りますか?

A: しこりの種類によって異なります。リンパ節炎など感染による一時的な腫れは、原因疾患の治癒とともに改善します。しかし、粉瘤、脂肪腫、ケロイドなどの腫瘍性病変は、自然に消失することはほとんどありません。むしろ時間とともに徐々に大きくなる傾向があります。

Q: しこりを自分で潰しても大丈夫ですか?

A: お勧めしません。自分で潰すと、一時的に内容物が出て小さくなることはありますが、袋が残っているため再発します。また、不適切な処置により細菌感染を起こしたり、傷跡が残ったりするリスクがあります。必ず医療機関で適切な治療を受けてください。

Q: しこりをマッサージしても良いですか?

A: 自己判断でのマッサージはお勧めしません。特に感染が疑われる場合や悪性の可能性がある場合は、刺激により症状が悪化したり、病変が拡大したりする可能性があります。医師の診断を受けてから適切な対処法を相談してください。

Q: ピアスをしていてもしこりができますか?

A: はい、ピアスに関連したしこりは比較的よく見られます。ピアスホールの感染、金属アレルギー、ケロイド形成などが原因となることがあります。ピアスホールの周囲にしこりができた場合は、早めに医師に相談することをお勧めします。

Q: 手術の傷跡は目立ちますか?

A: 個人差はありますが、耳たぶは比較的傷の治りが良く、目立ちにくい部位です。特にくり抜き法では2〜6ミリ程度の小さな傷で済むことが多く、時間とともに目立たなくなります。ケロイド体質の方は術後管理を徹底することで、目立ちにくい傷跡を目指します。

Q: 手術後、ピアスはいつからできますか?

A: 術後の傷が完全に治癒し、安定するまで待つ必要があります。通常は数か月程度ですが、ケロイド体質の方はさらに慎重な対応が必要です。担当医と相談の上、適切な時期を判断してください。

Q: 子供の耳たぶにしこりができました。大丈夫でしょうか?

A: 小児の耳たぶのしこりも、成人と同様の原因で発生することがあります。ただし、成長期特有の変化や先天性の病変の可能性もあるため、小児の場合は特に早めの専門医受診をお勧めします。

Q: 粉瘤は悪性化することはありますか?

A: 粉瘤は良性腫瘍であり、悪性化することは極めて稀です。ただし、非常に稀なケースとして、長期間放置された大きな粉瘤から悪性腫瘍が発生したという報告はあります。また、悪性腫瘍を粉瘤と誤認して放置するリスクもあるため、気になるしこりは医師の診察を受けることをお勧めします。

Q: 保険は適用されますか?

A: 粉瘤や脂肪腫の摘出手術、ケロイドの治療など、医学的に必要な治療には健康保険が適用されます。ただし、美容目的のみの治療は保険適用外となる場合があります。詳しくは受診時にご確認ください。

15. まとめ

耳たぶのしこりは、粉瘤、脂肪腫、ケロイド、リンパ節炎など、さまざまな原因によって生じます。その多くは良性であり、適切な治療を受ければ完治が期待できます。

しこりを見つけたときは、痛みの有無、可動性、大きさの変化などを観察することが大切です。痛みや腫れが強い場合、急速に大きくなる場合、2週間以上続く場合などは、自己判断で放置せず、皮膚科や形成外科を受診することをお勧めします。

粉瘤や脂肪腫は自然に治ることはなく、放置すると徐々に大きくなります。小さいうちに治療すれば、手術の傷も小さくて済みます。特に炎症を起こす前の段階で治療を受けることで、よりスムーズな経過が期待できます。

当院では、経験豊富な形成外科専門医が、耳たぶのしこりをはじめとするさまざまな皮膚疾患の診療を行っています。気になるしこりがある方は、お気軽にご相談ください。丁寧な診察を行い、一人ひとりに適した治療法をご提案いたします。


参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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