夏になると増える虫刺されのトラブル。「蚊に刺されただけ」と思っていたら、翌朝には腕がパンパンに腫れていた、という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。虫刺されは日常的なトラブルですが、放置すると「とびひ」や「蜂窩織炎」といった皮膚感染症に進行するリスクがあり、決して軽視できません。特にお子さんの場合は大人より症状が強く出やすく、注意が必要です。本記事では、虫刺されで腫れがひどくなる原因や、虫の種類別の症状の特徴、正しい対処法や治療法、さらに跡を残さないためのケア方法まで、皮膚科の観点からわかりやすく解説します。
目次
- 虫刺されとは?医学的な定義
- 虫刺されでひどい腫れが起こるメカニズム
- 虫刺されの症状を「写真」で確認する際の注意点
- 虫の種類別|症状と腫れ方の特徴
- 即時型反応と遅延型反応の違い
- 子どもの虫刺されは特に注意が必要
- 虫刺されが悪化するとどうなる?合併症のリスク
- 虫刺されの応急処置と正しい対処法
- 病院を受診すべき症状と受診のタイミング
- 皮膚科で行われる治療法
- 市販薬の選び方とセルフケア
- 虫刺されの跡を残さないためのケア
- 虫刺されの予防法
- まとめ
- 参考文献
1. 虫刺されとは?医学的な定義
虫刺されは、医学的には「虫刺症(ちゅうししょう)」と呼ばれ、虫に「刺される」「咬まれる」「吸血される」ことで起こる皮膚炎の総称です。原因となる虫は多岐にわたり、蚊やブヨ、アブ、ノミ、ダニなどの吸血する虫、ハチやアリなど刺す虫、ムカデやクモなど咬む虫、さらに毛虫のように触れるだけで皮膚炎を起こす虫もいます。
皮膚炎を引き起こす主な虫としては、以下のものが挙げられます。
吸血する虫:蚊、ブヨ(ブユ)、アブ、ノミ、ダニ(イエダニ、マダニ)、トコジラミなど
刺す虫:ハチ(ミツバチ、アシナガバチ、スズメバチ)、アリなど
咬む虫:ムカデ、クモなど
触れると皮膚炎を起こす虫:毛虫(チャドクガ、イラガなど)
虫刺されによる症状は、刺された虫の種類や個人の体質、刺された回数などによって大きく異なります。軽い場合はかゆみや小さな赤みだけで済みますが、ひどい場合には広範囲の腫れ、水ぶくれ、発熱、さらにはアナフィラキシーショックといった命に関わる症状を引き起こすこともあります。
2. 虫刺されでひどい腫れが起こるメカニズム
虫に刺されたとき、なぜ皮膚が腫れたり、かゆくなったりするのでしょうか。そのメカニズムを理解しておくことで、適切な対処ができるようになります。
アレルギー反応による炎症
虫刺されで起こる腫れやかゆみの多くは、虫の唾液や毒素に対する「アレルギー反応」によるものです。蚊やブヨなどの吸血する虫は、血を吸う際に唾液を皮膚に注入します。この唾液には血液を固まりにくくする成分が含まれていますが、私たちの体はこれを「異物」として認識し、免疫反応を起こします。
この免疫反応によって「ヒスタミン」などの化学物質が放出され、血管が拡張して赤みや腫れ、かゆみが生じるのです。
刺激反応
一方で、ハチやムカデのように強い毒を持つ虫に刺された場合は、毒液そのものの化学的な刺激によって、刺された直後から激しい痛みや腫れが生じます。これは「刺激反応」と呼ばれ、アレルギー反応とは異なるメカニズムで起こります。
腫れがひどくなりやすい人の特徴
虫刺されに対する反応には個人差があり、同じ虫に刺されても軽い症状で済む人もいれば、パンパンに腫れ上がる人もいます。以下のような方は、症状が強く出やすい傾向があります。
アレルギー体質の方
免疫機能が未発達な乳幼児や小さなお子さん
過去に同じ虫に何度も刺された経験がある方
皮膚のバリア機能が低下している方(アトピー性皮膚炎など)
特に小さなお子さんは、免疫システムが発達段階にあるため、大人よりも強い反応が出やすく、指や耳を刺されると、その部位全体がパンパンに腫れることも珍しくありません。
3. 虫刺されの症状を「写真」で確認する際の注意点
インターネットで「虫刺され 腫れ ひどい 写真」などと検索すると、さまざまな画像が表示されます。症状を比較して何の虫に刺されたのか推測したくなる気持ちは理解できますが、写真だけで判断することにはいくつかの注意点があります。
写真と実際の症状は異なることが多い
虫刺されの症状は、撮影時の照明や角度、カメラの性能によって見え方が大きく変わります。また、腫れ方や赤みの程度は時間の経過とともに変化するため、写真の撮影タイミングによっても印象が異なります。さらに、同じ虫に刺されても人によって症状の現れ方は千差万別です。
自己判断のリスク
写真を見て「蚊に刺されただけだろう」と自己判断し、適切な治療を受けなかったために症状が悪化するケースも少なくありません。特に以下のような場合は、写真での比較ではなく、速やかに医療機関を受診することをお勧めします。
腫れが直径5センチ以上に広がっている
痛みが強い、または熱を持っている
発熱や倦怠感など全身症状がある
膿が出ている、または水ぶくれができている
刺された虫が不明
医療機関受診時は写真が役立つ
一方で、医療機関を受診する際には、刺された直後の状態や、原因となった虫の写真があると診断の助けになります。虫の種類によって治療法が異なる場合もあるため、可能であれば虫そのものを保管するか、スマートフォンで撮影しておくとよいでしょう。
4. 虫の種類別|症状と腫れ方の特徴
虫刺されの症状は、刺した虫の種類によって特徴が異なります。ここでは、日本で虫刺されの原因となりやすい虫について、それぞれの症状の特徴を解説します。
蚊(カ)
日本で最も身近な虫刺されの原因です。国内にはヒトスジシマカ(ヤブ蚊)やアカイエカなど約130種類の蚊が生息しています。
症状の特徴:刺された直後から、赤く盛り上がった膨疹(ぼうしん)ができ、強いかゆみを伴います。通常は数時間から1日程度で症状は落ち着きます。
注意点:乳幼児は翌日以降に腫れが強くなる「遅延型反応」が起こりやすく、まぶたや耳たぶなど柔らかい部位を刺されると、パンパンに腫れることがあります。また、掻き壊すと「とびひ」に進行するリスクがあるため注意が必要です。
まれに「蚊刺過敏症(ぶんしかびんしょう)」といって、蚊に刺されたあとに高熱やリンパ節の腫れなどの全身症状が出る体質の方もいます。このような症状がある場合は、必ず皮膚科を受診してください。
ブヨ(ブユ・ブト)
体長2〜4ミリほどの小型のハエに似た虫で、高原や山間部の渓流沿いに多く生息しています。朝夕に活動が活発になり、特に足首やすねの周辺を刺されやすいです。
症状の特徴:刺されている最中は痛みをほとんど感じないため、気づかないことが多いです。半日から1日経過してから、激しいかゆみと赤い腫れが現れます。蚊よりも症状が強く、腫れが直径1センチ以上になることも珍しくありません。刺し口には小さな出血点が見られるのが特徴です。
注意点:症状は1〜2週間続くことがあり、人によっては1か月以上かゆみや腫れが残る場合もあります。掻きむしると硬いしこり(結節性痒疹)が残ることがあるため、早めの治療が重要です。
ダニ
ダニには大きく分けて、室内に生息するイエダニやツメダニと、野外に生息するマダニがあります。
イエダニ:畳やカーペット、布団、ネズミの巣などに生息し、夜間に吸血します。わき腹、下腹部、太ももの内側など、衣服に覆われた柔らかい部位を刺されることが多いです。
症状の特徴:刺されてから数時間〜翌日に、強いかゆみを伴う赤い丘疹(きゅうしん)が現れます。1週間程度症状が続くことがあります。
マダニ:山間部や草むら、公園などの屋外に生息します。吸血時に頭部(口器)を皮膚に深く食い込ませるため、簡単には離れません。
症状の特徴:吸血中は痛みを感じにくく、入浴時などに発見されることが多いです。
注意点:マダニは「ライム病」「日本紅斑熱」「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」などの感染症を媒介する可能性があります。マダニが付着しているのを発見しても、無理に引き抜くと口器が皮膚に残って炎症の原因になります。必ず医療機関で除去してもらいましょう。
ハチ(蜂)
ミツバチ、アシナガバチ、スズメバチなどが代表的です。特にスズメバチは攻撃性と毒性が強く、注意が必要です。
症状の特徴:刺された瞬間から激しい痛みを感じ、数分以内に患部が赤く腫れ上がります。熱感を伴い、腫れはかなり大きくなることもあります。ミツバチは刺した後に毒針が皮膚に残ることがあります。
注意点:ハチに刺されると体内にハチ毒に対する抗体ができ、2回目以降に刺された際にアナフィラキシーショックを起こすリスクがあります。過去にハチに刺されて強いアレルギー反応が出た方は、「エピペン」という自己注射薬を携帯しておくことが推奨されます。
刺された後に全身のじんましん、顔やのどの腫れ、息苦しさ、めまい、血圧低下などの症状が現れた場合は、直ちに救急車を呼んでください。
ムカデ
夜行性で、梅雨時から夏にかけて家の中に侵入することがあります。
症状の特徴:鋭い顎(牙)で咬まれると、刺された直後から激しい痛みが生じます。咬まれた部位には2つの小さな傷跡(牙の跡)が見られ、周囲が赤く腫れます。痛みは数時間で軽くなることが多いですが、翌日以降にさらに腫れが増すこともあります。
注意点:まれにアナフィラキシーショックを起こすことがあるため、じんましんや息苦しさなどの全身症状が出た場合は速やかに医療機関を受診してください。応急処置として、咬まれた直後に43〜46度程度のお湯(やけどしない程度)で5分以上洗い流すと、毒の酵素活性が低下して痛みが和らぐとされています。40度以下だと逆効果になることがあるため注意が必要です。
毛虫(チャドクガ・イラガなど)
チャドクガやイラガの幼虫(毛虫)には、有毒な毛(毒針毛・毒棘)があり、直接触れたり、風で飛ばされた毛に触れたりすることで皮膚炎を起こします。
症状の特徴:赤く小さな発疹が多数出現し、強いかゆみや痛みを伴います。毛虫本体に触れなくても、洗濯物に付着した毒針毛や、木の下を通っただけで症状が出ることもあります。
注意点:患部を掻くと毒針毛が広がり、発疹の範囲が拡大します。まずセロハンテープなどで皮膚に付着した毒針毛を取り除き、水で洗い流してから冷やしましょう。刺された時に着ていた衣服は洗濯してください。
ノミ
ペットに寄生することが多く、室内で人を刺すこともあります。
症状の特徴:刺された直後は気づかないことが多く、1〜2日後に強いかゆみを伴う赤いブツブツが現れます。足首から膝下にかけて刺されることが多く、中央がやや凹んだ水ぶくれになることもあります。
注意点:ペットを飼っている場合は、ペットのノミ駆除も同時に行う必要があります。
トコジラミ(ナンキンムシ)
近年、海外からの持ち込みなどで再び増加傾向にあります。ベッドや家具の隙間に潜み、夜間に吸血します。
症状の特徴:寝ている間に首や腕、手など露出部を刺されます。赤いブツブツが出現し、強いかゆみを伴います。
注意点:一般的な殺虫剤に抵抗性を持つ個体も多いため、発生した場合は専門の駆除業者への相談が必要になることがあります。
5. 即時型反応と遅延型反応の違い
虫刺されによるアレルギー反応は、「即時型反応」と「遅延型反応」の2つに分けられます。この2つの反応を理解しておくと、症状の経過に慌てずに対処できます。
即時型反応
刺された直後〜数時間以内に症状が現れる反応です。ヒスタミンという物質が放出されることで、かゆみ、赤み、腫れ(膨疹)が生じます。症状は比較的軽く、数時間で自然に治まることがほとんどです。
遅延型反応
刺されてから数時間〜1、2日後に症状が現れる反応です。免疫細胞が刺された部位に集まり、炎症物質を放出することで起こります。即時型反応よりも症状が強く出ることが多く、硬いしこりを伴う腫れやかゆみが生じます。症状が数日から1週間以上続くこともあります。
年齢による反応の違い
興味深いことに、虫刺されに対する反応のパターンは年齢によって変化します。
乳幼児:遅延型反応が主に現れます。そのため、刺された翌日にパンパンに腫れることが多いです。
幼児期〜青年期:即時型反応と遅延型反応の両方が現れます。
成人:即時型反応が主体となり、遅延型反応は弱くなります。
高齢者:アレルギー反応自体が起こりにくくなり、刺されても症状が軽いか、ほとんど反応しないこともあります。
お子さんの虫刺されが翌日になってひどく腫れるのは、この遅延型反応によるものです。「昨日刺されたのに、今日になって急に腫れてきた」という場合も、新たに刺されたわけではなく、遅延型反応が出てきたと考えられます。
6. 子どもの虫刺されは特に注意が必要
小さなお子さんの虫刺されは、大人とは異なる特徴があり、より注意深い対応が必要です。
子どもは症状が強く出やすい
前述のとおり、乳幼児は免疫システムが発達段階にあるため、虫刺されに対して強い反応を示しやすいです。大人なら小さな赤みで済むようなところでも、お子さんの場合はまぶたや耳がパンパンに腫れ上がることがあります。
掻きむしりによる二次感染のリスク
子どもはかゆみを我慢することが難しく、無意識のうちに患部を掻きむしってしまいます。掻き壊した傷口から細菌が侵入すると、「とびひ」(伝染性膿痂疹)や「蜂窩織炎」といった皮膚感染症に進行するリスクがあります。
予防のポイント
お子さんの爪を短く切り、やすりで角を丸くしておく
患部にパッチ剤や絆創膏を貼って保護する
かゆみ止めの薬を早めに塗布する
ひどく掻いてしまう場合は、ミトンなどで手を覆う
子どもに多い「ストロフルス」
乳幼児が虫に刺されたあとに、非常に強いかゆみを伴う特徴的な発疹が現れることがあります。これは「ストロフルス」と呼ばれ、刺した虫の唾液成分に対する過敏反応です。幼児期から小学校低学年に多く見られ、年齢とともに徐々に少なくなります。
保護者の方へ
お子さんが虫に刺された場合は、以下の点に注意して経過を観察してください。
腫れや赤みの範囲が広がっていないか
発熱していないか
機嫌が悪い、ぐったりしているなど普段と様子が違わないか
患部がじゅくじゅくしたり、膿が出たりしていないか
これらの症状がある場合は、速やかに小児科または皮膚科を受診しましょう。
7. 虫刺されが悪化するとどうなる?合併症のリスク
「たかが虫刺され」と放置したり、掻き壊したりすると、以下のような合併症を引き起こすことがあります。
とびひ(伝染性膿痂疹)
虫刺されを掻き壊した傷口から、黄色ブドウ球菌や溶血性連鎖球菌などの細菌が感染して起こる皮膚感染症です。
症状:患部がじゅくじゅくとただれ、水疱や膿疱ができます。感染力が強く、掻いた手で触った他の部位や、他の人にも広がります。特に夏場の子どもに多く見られます。
治療:抗生物質の外用薬や内服薬が必要です。患部を清潔に保ち、触らないようにすることが大切です。
蜂窩織炎(ほうかしきえん)
虫刺されの傷口から細菌が侵入し、皮膚の下の脂肪組織にまで炎症が広がった状態です。
症状:患部が広範囲に赤く腫れ、熱を持ち、痛みを伴います。触ると硬く感じることが多いです。重症化すると発熱や悪寒などの全身症状が現れることもあります。
治療:抗生物質の点滴や内服による治療が必要です。放置すると敗血症に進行することもあるため、早急な受診が必要です。
結節性痒疹(けっせつせいようしん)
虫刺されを繰り返し掻いているうちに、硬いしこり(結節)ができてしまう状態です。
症状:強いかゆみを伴う硬いしこりが、数か月から年単位で残ります。
治療:ステロイド外用薬や抗ヒスタミン薬の内服などで治療しますが、完治までに時間がかかることがあります。
アナフィラキシー
ハチやムカデなど毒性の強い虫に刺された場合、まれに重篤なアレルギー反応であるアナフィラキシーを起こすことがあります。
症状:刺されてから数分〜30分以内に、全身のじんましん、顔やのどの腫れ、息苦しさ、血圧低下、意識障害などが現れます。
対応:直ちに救急車を呼んでください。「エピペン」を持っている場合はすぐに使用し、その後も必ず医療機関を受診します。
8. 虫刺されの応急処置と正しい対処法
虫に刺されたときは、以下の手順で適切に対処しましょう。
ステップ1:患部を洗浄する
まず、刺された部位を流水と石鹸で優しく洗い、付着した汚れや虫の唾液成分を洗い流します。清潔に保つことで、細菌感染のリスクを減らせます。水ぶくれができて汁が出ている場合も、消毒液を直接塗るより、まず洗浄することが大切です。
ステップ2:患部を冷やす
洗浄後、冷たい濡れタオルや保冷剤(タオルで包んだもの)で患部を10〜15分程度冷やします。冷却することで血管が収縮し、腫れやかゆみを和らげることができます。ただし、氷を直接長時間当てると凍傷の恐れがあるため避けてください。
ステップ3:薬を塗布する
かゆみや腫れがある場合は、市販の虫刺され薬を塗りましょう。軽症であれば抗ヒスタミン成分を含む薬で十分ですが、腫れが強い場合はステロイド成分を含む薬が効果的です。
ステップ4:掻かない工夫をする
かゆみがあっても、絶対に掻かないことが重要です。掻くと皮膚を傷つけ、症状が悪化したり、細菌感染を起こしたりするリスクが高まります。
掻かないためのポイント
患部を冷やす(かゆみを感じにくくなる)
絆創膏やパッチ剤で患部を覆う
爪を短く切っておく
手袋やミトンを着用する(特に就寝時)
虫別の注意点
ハチに刺された場合:ミツバチに刺された場合は、毒針が残っていることがあります。毒嚢(どくのう)を圧迫しないよう、ピンセットや硬いカードなどで横から払うように取り除きます。
マダニに咬まれた場合:無理に引き抜くと口器が皮膚に残るため、医療機関で除去してもらいましょう。
毛虫に触れた場合:セロハンテープで皮膚に付着した毒針毛を取り除いてから洗浄します。
9. 病院を受診すべき症状と受診のタイミング
虫刺されの多くは自宅でのケアで改善しますが、以下のような症状がある場合は、医療機関を受診することをお勧めします。
すぐに受診すべき症状(緊急性が高い)
ハチに刺された後、息苦しさ、めまい、吐き気、全身のじんましんなどが現れた
意識がもうろうとしている、ぐったりしている
顔やのどが腫れて呼吸しづらい
血圧が低下している
これらはアナフィラキシーの可能性があり、直ちに救急車を呼ぶ必要があります。
早めに受診すべき症状
腫れが直径5センチ以上に広がっている、または広がり続けている
3日以上経っても症状が改善しない、または悪化している
患部が熱を持って硬くなっている
膿が出ている、または水ぶくれがある
発熱、悪寒、リンパ節の腫れなど全身症状がある
夜眠れないほどのかゆみや痛みがある
刺された箇所がじゅくじゅくして広がっている(とびひの疑い)
マダニに咬まれた(感染症のリスクがある)
何科を受診すればよい?
基本的には皮膚科を受診します。ただし、お子さんの場合は小児科でも対応可能です。発熱など全身症状がある場合は、幅広い観点から診察してもらえる小児科や内科がよいでしょう。
受診時には、できれば原因となった虫の写真や実物があると、診断の助けになります。
10. 皮膚科で行われる治療法
皮膚科では、症状に応じて以下のような治療が行われます。
ステロイド外用薬
虫刺されの治療の基本は、炎症を抑えるステロイド外用薬です。ステロイドには身体の免疫反応を抑制する効果があり、腫れやかゆみを和らげます。症状の強さに応じて、適切な強さのステロイド外用薬が処方されます。
市販薬より処方薬の方が効果が高く、症状に応じた適切な選択ができます。通常、1週間程度の使用で改善することが多いです。
抗ヒスタミン薬
かゆみが強い場合は、抗ヒスタミン薬の内服薬が処方されることがあります。ヒスタミンの働きを抑えることで、かゆみや腫れを軽減します。眠気を催す副作用があるものもあるため、使用時は注意が必要です。
ステロイド内服薬
腫れがひどい場合や、広範囲に症状が出ている場合は、短期間のステロイド内服薬が処方されることがあります。
抗生物質
掻き壊して細菌感染を起こしている場合(とびひ、蜂窩織炎など)は、抗生物質の外用薬や内服薬が必要です。自己判断で使用を中断せず、処方されたとおりに最後まで使い切ることが大切です。
その他の治療
マダニの除去:マダニが皮膚に付着している場合は、医療機関で専門的に除去します。
エピペンの処方:過去にハチに刺されてアナフィラキシーを起こしたことがある方には、自己注射薬「エピペン」が処方されることがあります。
11. 市販薬の選び方とセルフケア
軽症の虫刺されであれば、市販薬でセルフケアすることも可能です。ただし、市販薬を使っても改善しない場合や、症状が悪化する場合は、自己判断を続けずに医療機関を受診しましょう。
市販薬の成分と選び方
抗ヒスタミン成分
かゆみを抑える効果があります。ジフェンヒドラミンなどが代表的です。軽いかゆみに適しています。
ステロイド成分
炎症を抑える効果があり、赤みや腫れが強い場合に効果的です。市販薬にはデキサメタゾン、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾンなどが配合されています。
アンテドラッグステロイド(患部で効果を発揮した後、低活性物質に変化するタイプ)は、ステロイド特有の副作用を起こしにくいとされています。
清涼成分
メントールやカンフルなどの清涼成分は、塗った直後にスーッとした清涼感を与え、かゆみを和らげます。
症状別のおすすめ
かゆみだけの軽症の場合:抗ヒスタミン成分を含むかゆみ止め(軟膏・クリーム・ローションなど)
赤みや腫れを伴う場合:ステロイド成分を含む虫刺され薬
ブヨ・毛虫・ムカデなど症状が強い場合:ステロイド成分を含む市販薬(症状が強い場合は皮膚科受診を推奨)
使用上の注意
使用説明書をよく読んで、正しい用法・用量を守る
5〜6日使用しても改善しない場合は皮膚科を受診する
傷口がじゅくじゅくしている場合は、ステロイドを塗ると悪化することがあるため、医療機関を受診する
顔への使用は避けるか、使用する場合は弱めのステロイドを選ぶ
使い慣れない薬でかぶれることもあるため、異常を感じたら使用を中止する
12. 虫刺されの跡を残さないためのケア
虫刺されの後、茶色いシミのような跡が残ってしまうことがあります。これは「炎症後色素沈着」と呼ばれ、虫刺されによる炎症から皮膚を修復する過程でメラニン色素が沈着して起こるものです。
なぜ跡が残るのか
皮膚に炎症が起こると、メラニンを作る細胞(メラノサイト)が活性化され、メラニン色素が増加します。通常、このメラニンは肌のターンオーバー(新陳代謝)によって徐々に排出され、数か月〜半年程度で目立たなくなります。
しかし、以下のような場合は色素沈着が濃くなったり、長く残ったりすることがあります。
患部を掻きむしって炎症がひどくなった
紫外線を浴びた
炎症が長引いた
色素沈着を防ぐためのポイント
早めに炎症を抑える:症状が出たら早めにステロイド外用薬などで炎症を抑え、治療期間を短くすることが大切です。
絶対に掻かない:掻き壊すと炎症が悪化し、色素沈着が濃くなります。
紫外線を避ける:炎症が起きている部位に紫外線が当たると、メラノサイトがより活発になり、色素沈着が濃くなります。衣服や絆創膏で患部を覆い、紫外線を防ぎましょう。
患部をこすらない:洗顔やボディケアの際も、患部を強くこすらないようにしましょう。
すでに色素沈着してしまった場合
色素沈着は時間とともに自然に薄くなっていきますが、気になる場合は皮膚科に相談しましょう。以下のような治療法があります。
保湿ケア:ヘパリン類似物質などでターンオーバーを促進する
内服薬:ビタミンC、L-システイン、トラネキサム酸など
外用薬:ハイドロキノン、トレチノインなど
美容皮膚科的治療:ケミカルピーリング、レーザー治療など
13. 虫刺されの予防法
虫刺されを防ぐには、まず虫に刺されない環境を整え、刺されない工夫をすることが大切です。
虫よけ剤(忌避剤)を活用する
虫よけ剤の有効成分には、主に「ディート」と「イカリジン」の2種類があります。
ディート(DEET)
長い歴史があり、幅広い虫に効果があります。蚊、ブヨ、アブ、マダニ、ノミ、イエダニ、トコジラミ、ツツガムシなど、多くの吸血性害虫に忌避効果があります。
ただし、小児への使用には制限があります。
生後6か月未満:使用禁止
生後6か月〜2歳未満:1日1回まで
2歳〜12歳未満:1日1〜3回まで
顔には使用しない
ディート30%の高濃度製品は12歳以上が対象です。
イカリジン
2015年に日本で承認された比較的新しい成分で、年齢制限や使用回数の制限がありません。皮膚への刺激が少なく、においも少ないため、お子さんや敏感肌の方にも使いやすいです。
効果がある虫:蚊、ブヨ、アブ、マダニ
ディートより対象害虫の範囲は狭いですが、日常的な虫よけには十分な効果があります。
虫よけ剤使用のポイント
皮膚の露出部にムラなく塗り伸ばす
スプレータイプは顔に直接噴霧しない(手に取ってから塗る)
汗で流れたら塗り直す
お子さんには大人が塗布する
服装での予防
野外活動の際は、長袖・長ズボンを着用して肌の露出を減らす
足首やサンダル履きの足の甲は刺されやすいので注意
蚊は黒い色に寄りやすいため、明るい色の服を選ぶ
帽子や手袋も活用する
環境対策
室内:網戸を設置し、虫の侵入を防ぐ。燻煙殺虫剤でダニやノミを駆除する。寝具を清潔に保ち、定期的に天日干しや掃除機がけを行う。
屋外:水たまりは蚊の発生源になるため、ベランダの受け皿や庭の水たまりを放置しない。ハチの巣や毛虫のいる木には近づかない。
イエダニの場合:床下や天井裏のネズミが発生源になるため、ネズミの駆除が必要。
トコジラミの場合:市販の殺虫剤が効きにくいことがあるため、専門の駆除業者への相談が推奨される。

14. まとめ
虫刺されは日常的に起こるトラブルですが、放置すると「とびひ」や「蜂窩織炎」といった皮膚感染症に進行するリスクがあり、決して軽視できません。特にお子さんは症状が強く出やすく、掻き壊しによる二次感染のリスクも高いため、注意が必要です。
虫刺されの対処法のポイントをまとめると、以下のとおりです。
まず患部を洗浄し、冷やす
症状に応じて市販薬を使用する(腫れが強い場合はステロイド配合のもの)
絶対に掻かない
5〜6日しても改善しない場合、または腫れがひどい場合は皮膚科を受診する
アナフィラキシーの症状が出たら直ちに救急車を呼ぶ
虫よけ剤や服装の工夫で予防する
虫刺されの症状でお困りの場合は、お気軽にご相談ください。症状に応じた適切な治療法をご提案いたします。
参考文献
- 虫刺されQ&A|公益社団法人日本皮膚科学会
- 虫刺され(虫刺症)原因・症状・治療法|池田模範堂
- 虫除け剤(忌避剤・虫除けスプレーなど)の基礎知識|池田模範堂
- 赤ちゃん・子どもの虫刺され|池田模範堂
- 虫刺されの症状・治療法|田辺三菱製薬ヒフノコトサイト
- 虫刺され痕を残さないためのケア方法|田辺三菱製薬ヒフノコトサイト
- 虫刺され(虫刺症)|第一三共ヘルスケア ひふ研
- 虫刺され|大正健康ナビ
- 虫さされチェック|アース害虫駆除なんでも事典
- 子どものための虫刺され予防|東京都こどもセーフティプロジェクト
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務