はじめに
淋病(りんびょう)は、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)という細菌によって引き起こされる性感染症(STI)です。日本国内では毎年約8,000〜9,000人の新規感染者が報告されており、特に20代から30代の若年層に多く見られます。
女性の淋病には特有の問題があります。それは、感染しても約80%の方が無症状であるという点です。そのため、感染に気づかないまま放置してしまい、深刻な合併症を引き起こすケースが少なくありません。このコラムでは、女性における淋病の症状、診断方法、治療法、そして予防策について、医学的根拠に基づいて詳しく解説していきます。
淋病とは?基礎知識
淋菌感染症の概要
淋病は、淋菌という細菌が尿道、子宮頸管、直腸、咽頭、眼などの粘膜に感染することで発症します。この細菌は温かく湿った環境を好み、粘膜の接触を通じて人から人へと感染します。
淋菌は体外では非常に弱い細菌で、乾燥や温度変化にも弱く、体外に出るとすぐに死滅します。そのため、トイレの便座や浴槽、タオルなどを介して感染することはほとんどありません。感染経路は主に性的接触に限定されます。
日本における現状
厚生労働省の性感染症報告によると、淋菌感染症は感染症法に基づく五類感染症として、診断した医師に届出義務があります。2019年以降、報告数は増加傾向にあり、特に若年層での感染が目立ちます。
また、近年では薬剤耐性を持つ淋菌(薬剤耐性淋菌)の出現が世界的な問題となっており、日本でも治療に苦慮するケースが報告されています。
女性における淋病の特徴
なぜ女性は気づきにくいのか
女性の淋病が特に問題視される最大の理由は、無症状または軽症のケースが非常に多いという点です。具体的には以下のような特徴があります。
無症状率の高さ
研究によると、淋菌に感染した女性の約70〜80%は自覚症状がないとされています。これは男性の無症状率(約10〜20%)と比較すると、圧倒的に高い数値です。
この違いが生じる理由は、女性の生殖器の構造にあります。男性の場合、淋菌は主に尿道に感染し、排尿時の強い痛みや膿の排出といった明確な症状を引き起こします。一方、女性の場合は子宮頸管に感染することが多く、この部位には痛覚神経が少ないため、感染しても気づきにくいのです。
症状があっても軽微
症状が現れる場合でも、その多くは「おりものがいつもより少し多い」「ちょっとした違和感がある」程度の軽微なもので、日常的な体調変化や生理前の症状と区別がつきにくいことがあります。
放置による深刻なリスク
無症状であることは一見問題ないように思えますが、実際には深刻なリスクをはらんでいます。感染に気づかずに放置すると、淋菌は徐々に上行性に広がり、子宮内膜、卵管、骨盤内へと感染が拡大していきます。
感染経路と感染リスク
主な感染経路
淋病は主に以下の経路で感染します。
性行為による感染
最も一般的な感染経路は、感染者との性的接触です。具体的には:
- 膣性交: 最も一般的な感染経路です。感染者との無防備な性交により、淋菌が粘膜を通じて伝播します。
- オーラルセックス(口腔性交): 咽頭淋菌感染の主な原因です。口腔内に淋菌が感染すると、咽頭炎を引き起こすことがあります。
- アナルセックス(肛門性交): 直腸への淋菌感染を引き起こします。
垂直感染(母子感染)
妊娠中の女性が淋菌に感染している場合、出産時に産道を通過する際に新生児の目に感染し、淋菌性結膜炎(新生児膿漏眼)を引き起こす可能性があります。これは適切に治療しないと失明に至ることもある深刻な状態です。
感染しやすい状況
以下のような状況では、淋病の感染リスクが高まります。
- コンドームを使用しない性交渉
- 複数の性的パートナーがいる
- 新しい性的パートナーとの関係
- 他の性感染症に罹患している(特にクラミジアとの重複感染が多い)
- 過去に性感染症の経験がある
女性に現れる症状
初期症状
淋菌に感染してから症状が現れるまでの期間(潜伏期間)は、通常2〜7日程度です。ただし、前述の通り、多くの女性は無症状であることを念頭に置く必要があります。
症状が現れる場合、初期には以下のような症状が見られることがあります。
おりものの変化
- 量の増加: 通常よりおりものの量が多くなります
- 色の変化: 黄色や黄緑色のおりものが見られることがあります
- においの変化: 悪臭を伴うことがあります
- 性状の変化: 膿のような粘性のあるおりものになることがあります
排尿時の症状
- 排尿痛: 排尿時に軽い痛みや焼けるような感覚を覚えることがあります
- 頻尿: トイレに行く回数が増えることがあります
- 尿道口の発赤: 尿道の出口が赤く腫れることがあります
その他の初期症状
- 外陰部の不快感: かゆみや刺激感を感じることがあります
- 性交時の不快感: 性交時に痛みを感じることがあります
- 下腹部の軽い違和感: 重だるい感じや鈍痛を感じることがあります
進行した場合の症状
淋菌感染を放置すると、感染が上行性に広がり、より深刻な症状を引き起こします。
骨盤内炎症性疾患(PID)
淋菌が子宮頸管から子宮内膜、卵管、卵巣、骨盤腔へと広がると、骨盤内炎症性疾患(Pelvic Inflammatory Disease: PID)を引き起こします。これは淋病の最も深刻な合併症の一つで、以下のような症状が現れます。
- 強い下腹部痛: 特に両側の下腹部に強い痛みを感じます
- 発熱: 38度以上の高熱が出ることがあります
- 悪心・嘔吐: 吐き気や嘔吐を伴うことがあります
- 性交痛: 性交時に強い痛みを感じます
- 不正出血: 生理以外の時期に出血することがあります
PIDは早期に適切な治療を受けないと、卵管の閉塞や癒着を引き起こし、不妊症や子宮外妊娠のリスクを大幅に高めます。
卵管炎と卵管周囲炎
淋菌が卵管に感染すると、卵管炎を引き起こします。炎症が進むと卵管の内側が傷つき、癒着や閉塞が起こります。この状態が慢性化すると:
- 不妊症: 卵管が閉塞することで、卵子と精子が出会えなくなり、妊娠が困難になります
- 子宮外妊娠: 卵管が部分的に閉塞している場合、受精卵が子宮まで到達できず、卵管内で着床する子宮外妊娠のリスクが高まります
研究によると、PIDを1回経験すると不妊症のリスクが約12%、2回で約25%、3回以上で約50%以上に上昇するとされています。
バルトリン腺炎
バルトリン腺は膣の入口付近にある分泌腺で、ここに淋菌が感染するとバルトリン腺炎を引き起こします。症状としては:
- 膣の入口付近の腫れ
- 強い痛み
- 歩行困難
- 座るときの痛み
バルトリン腺炎が進行すると膿瘍(膿のたまり)を形成し、外科的な切開排膿が必要になることがあります。
咽頭淋菌感染
オーラルセックスにより、咽頭(のど)に淋菌が感染することがあります。咽頭淋菌感染は以下のような特徴があります。
- 無症状が非常に多い: 90%以上が無症状とされています
- 症状がある場合: のどの痛み、違和感、扁桃腺の腫れなど、通常の風邪と区別がつきにくい症状
- 診断の困難さ: 通常の内科や耳鼻咽喉科では見逃されることが多い
- 感染源となるリスク: 本人は気づかないまま、性的パートナーへ感染を広げてしまう可能性
直腸淋菌感染
アナルセックスや、膣からの分泌物が直腸に入ることで、直腸に淋菌が感染することがあります。
- 無症状が多い: 多くの場合、症状が現れません
- 症状がある場合: 肛門のかゆみ、痛み、出血、膿のような分泌物、排便時の痛みなど
播種性淋菌感染症(DGI)
非常にまれですが、淋菌が血液を通じて全身に広がると、播種性淋菌感染症(Disseminated Gonococcal Infection: DGI)を引き起こします。
- 関節炎: 特に手首、足首、膝などの関節に痛みや腫れが生じます
- 皮膚症状: 手足に小さな水疱や膿疱、赤い斑点が現れます
- 発熱: 全身の発熱を伴います
- 腱鞘炎: 腱の炎症を引き起こすことがあります
DGIは迅速な治療が必要な重篤な状態です。
妊娠と淋病
妊娠中の淋病のリスク
妊娠中に淋病に感染している、または感染した場合、母体と胎児の両方に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
母体への影響
- 早産のリスク増加: 淋菌感染は早産のリスクを高めます
- 前期破水: 破水が予定日より早く起こるリスクが上昇します
- 羊膜感染症: 羊水や羊膜に感染が広がる可能性があります
- 産後の子宮内膜炎: 出産後に子宮内膜の感染症を起こしやすくなります
新生児への影響
感染した母親から生まれる新生児には、以下のようなリスクがあります。
- 新生児淋菌性結膜炎(淋菌性眼炎): 出産時に産道を通過する際に、新生児の目に淋菌が感染します。生後2〜5日で発症し、目の充血、腫れ、大量の膿の排出などの症状が現れます。適切に治療しないと角膜に傷がつき、失明に至ることもあります
- 早産・低出生体重児: 母体の感染により、早産や低体重で生まれるリスクが高まります
- 新生児敗血症: まれですが、新生児の血液中に淋菌が侵入し、重篤な感染症を引き起こすことがあります
妊娠中の検査と治療の重要性
日本では、妊娠初期の検査項目に性感染症のスクリーニングが含まれています。淋病が発見された場合、妊娠中でも使用できる安全な抗生物質(セフトリアキソンなど)で治療を行います。
妊娠を計画している方、または妊娠の可能性がある方は、事前に性感染症の検査を受けることが推奨されます。
診断方法
いつ検査を受けるべきか
以下のような場合は、淋病の検査を受けることを強く推奨します。
- 無防備な性交渉があった後
- 性的パートナーが淋病と診断された
- 性感染症の症状(おりものの異常、排尿痛、下腹部痛など)がある
- 定期的な性感染症のスクリーニングとして(複数のパートナーがいる場合など)
- 新しい性的パートナーができた時
- 妊娠を計画している、または妊娠している
検査のタイミング
性的接触から2〜7日後には検査が可能です。ただし、咽頭感染の場合は少し期間を置く方が検出率が高まることがあります。
検査方法
核酸増幅検査(NAAT)
現在、最も推奨される検査方法は核酸増幅検査(Nucleic Acid Amplification Test: NAAT)です。この検査法は以下のような特徴があります。
- 高い感度と特異度: 淋菌のDNAを増幅して検出するため、非常に正確です
- 非侵襲的: 尿検査や自己採取の膣スワブで検査が可能です
- 複数の部位の検査: 子宮頸管、咽頭、直腸など、複数の部位から検体を採取できます
- クラミジアとの同時検査: 多くの場合、クラミジアも同時に検査できます
検体の採取方法
- 子宮頸管スワブ: 内診時に子宮頸管から綿棒で検体を採取します
- 膣スワブ: 自己採取も可能で、膣の入口付近から検体を採取します
- 尿検査: 初尿(排尿開始時の尿)を採取します。女性の場合、尿検査の感度は子宮頸管・膣スワブよりやや低いことがあります
- 咽頭スワブ: のどの奥から綿棒で検体を採取します
- 直腸スワブ: 肛門から綿棒を挿入して検体を採取します
培養検査
培養検査は、淋菌を実際に培養して同定する方法です。
- 薬剤感受性試験が可能: 培養できた淋菌に対して、どの抗生物質が効果的かを調べることができます
- 薬剤耐性淋菌の検出: 治療が効かない薬剤耐性淋菌を特定できます
- 欠点: 結果が出るまでに数日かかる、検体の輸送や保存に注意が必要、感度がNAATより低い
グラム染色検査
顕微鏡で淋菌を直接観察する方法です。
- 即日結果: その場で結果がわかります
- 男性の尿道感染に有効: 男性の症状のある尿道炎では感度が高いですが、女性では感度が低く、推奨されません
包括的な性感染症検査の重要性
淋病に感染している場合、他の性感染症にも同時に感染している可能性があります。特にクラミジアとの重複感染は非常に多く(30〜50%)、HIV、梅毒、B型肝炎などの検査も同時に受けることが推奨されます。
治療方法
治療の基本原則
淋病の治療には抗生物質を使用します。治療における重要なポイントは以下の通りです。
- 早期治療: 診断されたらすぐに治療を開始します
- 確実な服薬: 処方された抗生物質を指示通りに完全に服用します
- 性交渉の禁止: 治療中および治療後1週間は性交渉を避けます
- パートナーの治療: 性的パートナーも必ず検査・治療を受ける必要があります
推奨される治療法
日本性感染症学会の「性感染症診断・治療ガイドライン」に基づく標準的な治療法を紹介します。
第一選択薬:セフトリアキソン
現在、最も推奨される治療法は、**セフトリアキソン(商品名:ロセフィンなど)**の筋肉注射または点滴静注です。
- 投与方法: 1回1g(体重や感染部位によって0.5〜1g)を筋肉注射または点滴静注
- 利点:
- 1回の投与で治療が完了
- 高い有効性(90%以上)
- 服薬コンプライアンスの問題がない
- 咽頭淋菌にも有効
- 副作用: 注射部位の痛み、アレルギー反応(まれ)
代替治療薬
セフトリアキソンが使用できない場合、以下の代替薬が検討されます。
- スペクチノマイシン(筋肉注射): ただし咽頭淋菌には効果が低い
- セフィキシム(経口薬): 以前は広く使用されていましたが、耐性菌の増加により現在はあまり推奨されません
- アジスロマイシン(経口薬): 単独使用は推奨されず、併用療法として使用されることがあります
クラミジアとの同時治療
淋病とクラミジアの重複感染が非常に多いため、クラミジアの検査結果が出る前でも、クラミジアに対する治療薬(アジスロマイシン1g単回投与など)を併用することが推奨される場合があります。
薬剤耐性淋菌の問題
近年、抗生物質に対する耐性を持つ淋菌(薬剤耐性淋菌)の出現が世界的な問題となっています。
耐性菌の現状
- ペニシリン系: 1980年代から耐性が広まり、現在はほとんど使用されていません
- キノロン系(ニューキノロン系): 2000年代に耐性が急速に広まり、日本では使用が推奨されていません
- セフィキシム: 耐性菌の増加により、治療効果が低下しています
- アジスロマイシン: 一部で耐性が報告されています
- セフトリアキソン: 現在最も有効ですが、一部で治療失敗例が報告されています
耐性菌への対応
- 適切な薬剤選択: 最新のガイドラインに基づいた治療を行う
- 確実な治療確認: 治療後2〜4週間後に再検査を行う
- 培養検査: 治療が失敗した場合、培養検査で薬剤感受性を調べる
- 専門医への相談: 治療が効かない場合は、性感染症の専門医に相談する
治療後のフォローアップ
治癒確認検査(Test of Cure)
通常、症状のある感染症や咽頭・直腸感染では、治療後2〜4週間後に再検査を行い、治癒を確認することが推奨されます。
再感染のリスク
治療後3〜6ヶ月以内に再感染するケースが多いことが報告されています。主な原因は:
- パートナーが未治療のまま
- 新たな感染源との接触
- 不十分な予防策
そのため、治療後3ヶ月程度での再検査も推奨されています。
治療中の注意点
性交渉の禁止
治療開始から少なくとも1週間、症状がある場合は症状が完全に消失するまで性交渉を控える必要があります。
飲酒について
抗生物質の種類によっては、アルコールとの相互作用がある場合があります。治療中の飲酒については、医師の指示に従ってください。
症状の改善と完治の違い
症状が改善しても、淋菌が完全に消失しているとは限りません。処方された薬を最後まで飲みきり、必要に応じて治癒確認検査を受けることが重要です。
予防方法
コンドームの正しい使用
淋病を含む多くの性感染症の予防には、コンドームの正しい使用が最も効果的です。
コンドーム使用のポイント
- 最初から最後まで使用: 性交の開始から終了まで、一貫してコンドームを使用します
- 正しい装着方法: 空気が入らないように正しく装着します
- オーラルセックスでも使用: 咽頭淋菌の予防のため、オーラルセックス時もコンドームやデンタルダムを使用します
- 新しいものを使用: 1回の性交ごとに新しいコンドームを使用します
- 適切な保管: 直射日光や高温を避け、財布などで長期間持ち歩かない
- 劣化の確認: 使用期限を確認し、破れやひび割れがないかチェックします
コンドームの限界
コンドームは非常に有効な予防法ですが、100%の予防効果があるわけではありません。正しく使用しても破れたり外れたりすることがあります。
定期的な検査
特に以下のような方は、定期的な性感染症検査を受けることが推奨されます。
- 複数の性的パートナーがいる
- 新しい性的パートナーができた
- 性産業に従事している
- パートナーが他の人とも性的関係を持っている可能性がある
- 過去に性感染症に罹患したことがある
定期検査の頻度は個人の状況によりますが、3〜6ヶ月ごとが目安です。
パートナーとのコミュニケーション
性感染症の予防には、パートナーとの誠実なコミュニケーションが欠かせません。
- 性感染症の既往歴: お互いの性感染症の検査歴や既往について話し合う
- 検査の共有: 新しい関係を始める前に、双方が検査を受ける
- 症状の報告: 何か症状が出たら、すぐにパートナーに伝える
- 予防方法の相談: コンドーム使用などの予防方法について話し合う
特定のパートナーとの関係
長期的で相互に性的に排他的な関係(双方が他の人と性的関係を持たない関係)にあるカップルは、性感染症のリスクが低くなります。ただし、関係を始める前に双方が検査を受けることが重要です。
妊娠を計画している方へ
妊娠を希望する場合は、妊娠前に性感染症の検査を受けることを強く推奨します。未治療の淋病は妊娠や胎児に悪影響を及ぼす可能性があるためです。
リスクの高い行動の回避
以下のような行動は淋病の感染リスクを高めます。
- 不特定多数との性的接触
- コンドームを使用しない性交渉
- アルコールや薬物の影響下での性行為(判断力が低下するため)
パートナーへの告知と対応
自分が感染した場合
淋病と診断された場合、過去60日以内に性的接触があったすべてのパートナーに連絡し、検査と治療を受けるよう伝える必要があります。これは「接触者通知(パートナー・ノーティフィケーション)」と呼ばれます。
告知の重要性
- パートナーの健康保護: パートナーも感染している可能性が高く、早期治療が必要です
- 再感染の防止: パートナーが未治療のままだと、自分が再び感染してしまいます
- 感染の拡大防止: パートナーからさらに他の人への感染を防ぎます
告知の方法
直接伝えることが難しい場合、以下のような方法もあります。
- 医療機関や保健所のサポート: 匿名でパートナーに通知してくれるサービスを利用する
- 文書や電話での連絡: 直接会わなくても伝えることができます
告知の際のポイント
- 感染経路を非難しない: 誰が感染源かを追及するのではなく、双方の健康保護に焦点を当てる
- 早期検査・治療の重要性を伝える: 無症状でも検査が必要であることを説明する
- 一緒に対処する姿勢: 二人で問題に取り組む姿勢を示す
パートナーが感染した場合
性的パートナーが淋病と診断された場合、症状がなくても必ず検査を受ける必要があります。
- 速やかに医療機関を受診する
- 検査結果が出るまで性交渉を控える
- 陽性であれば直ちに治療を開始する
- 治療中は性交渉を避ける

よくある質問
A: いいえ、淋病は自然に治ることはありません。適切な抗生物質による治療が必要です。放置すると感染が広がり、深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
A: いいえ、淋病に対する免疫はつきません。治療後も再び感染する可能性があります。予防策を継続することが重要です。
Q3: 生理中でも検査や治療は受けられますか?
A: 生理中でも検査は可能ですが、検体の質が影響を受ける可能性があるため、できれば生理が終わってから受けることが推奨されます。治療は生理中でも問題なく受けられます。
Q4: 検査は保険適用されますか?
A: 症状がある場合や、パートナーが感染している場合など、医学的に必要と判断された場合は保険適用となります。無症状で自主的に検査を受ける場合は自費診療となることがあります。費用は医療機関によって異なりますが、保険適用で数千円程度、自費診療で5,000円〜10,000円程度が目安です。
Q5: 淋病の検査は痛いですか?
A: 検査方法によります。子宮頸管からの検体採取は多少の不快感がありますが、強い痛みはありません。尿検査や自己採取の膣スワブは痛みはほとんどありません。
Q6: 治療後、いつから性交渉を再開できますか?
A: 治療開始から少なくとも1週間後、症状が完全に消失してからです。また、パートナーも治療を完了している必要があります。可能であれば、治癒確認検査で陰性を確認してからの方が安全です。
Q7: 妊娠中に淋病と診断されました。治療は赤ちゃんに影響しませんか?
A: 妊娠中に使用される抗生物質(セフトリアキソンなど)は、適切に使用すれば胎児への影響はほとんどありません。むしろ、未治療のまま放置する方が母体と胎児の両方に大きなリスクとなります。医師の指示に従って治療を受けてください。
Q8: 淋病とクラミジアの違いは何ですか?
A: どちらも性感染症で症状が似ていますが、原因となる細菌が異なります(淋病は淋菌、クラミジアはクラミジア・トラコマチス)。治療に使用する抗生物質も異なり、両方に同時感染することも多いため、通常は両方の検査を同時に行います。
Q9: コンドームを使用していたのに感染しました。なぜですか?
A: コンドームは正しく使用すれば感染リスクを大幅に減らせますが、100%ではありません。使用方法が不適切だったり、性交の途中から装着したり、オーラルセックスで使用しなかったりした場合に感染することがあります。また、まれにコンドームが破れることもあります。
Q10: 他の性感染症の検査も同時に受けるべきですか?
A: はい、推奨されます。淋病に感染している場合、他の性感染症にも感染しているリスクが高まります。特にクラミジア、HIV、梅毒、B型肝炎などの検査を同時に受けることが推奨されます。
まとめ
淋病は女性にとって「見えない脅威」ともいえる性感染症です。約80%が無症状であるため、感染に気づかないまま放置し、不妊症などの深刻な合併症を引き起こすリスクがあります。
重要なポイント
- 無症状でも感染している可能性がある: 症状がなくても、リスクのある行動があった場合は検査を受けましょう
- 早期発見・早期治療が重要: 淋病は適切な抗生物質で治療できます。早く見つければ合併症も防げます
- パートナーも一緒に治療: 自分だけでなく、パートナーも検査・治療を受けることが再感染防止に不可欠です
- 予防が最も重要: コンドームの正しい使用と定期的な検査で、感染リスクを大幅に減らせます
- 妊娠前・妊娠中は特に注意: 母体と胎児の健康のために、適切な検査と治療が必要です
最後に
性感染症について話すことは恥ずかしいと感じる方もいるかもしれません。しかし、淋病は決して珍しい病気ではなく、誰にでも感染する可能性があります。重要なのは、感染した場合に適切に対処することです。
少しでも心配なことがあれば、躊躇せずに医療機関を受診してください。早期発見・早期治療により、あなた自身とパートナーの健康を守ることができます。
参考文献
- 厚生労働省「性感染症報告数」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/index.html
- 国立感染症研究所「淋菌感染症とは」 https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/523-gonorrhea.html
- 日本性感染症学会「性感染症 診断・治療ガイドライン2020」
- 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020」
- 厚生労働省検疫所「FORTH 淋菌感染症について」 https://www.forth.go.jp/
- 日本感染症学会「抗菌薬使用のガイドライン」
本記事は医学的な情報提供を目的としており、特定の症状や治療法について個別の医学的アドバイスを提供するものではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務