健康診断や人間ドックで「血小板が多い」と指摘されて、驚いた経験はありませんか。血小板は私たちの体で重要な役割を担っている血液成分のひとつですが、多すぎても少なすぎても体に影響を及ぼす可能性があります。
本記事では、血小板が多い状態について、その原因から症状、検査方法、治療法まで詳しく解説します。血小板の数値が気になる方、健康診断で指摘を受けた方は、ぜひ参考にしてください。
目次
- 血小板とは?その役割と働き
- 血小板の基準値と正常範囲
- 血小板が多い状態とは(血小板増加症)
- 血小板が多くなる原因
- 血小板が多いときの症状
- 血小板増加による合併症リスク
- 血小板が多いときの検査と診断
- 血小板増加症の治療法
- 日常生活で気をつけること
- 何科を受診すべきか
- よくある質問
- まとめ
- 参考文献
1. 血小板とは?その役割と働き
血小板は、赤血球や白血球と並ぶ血液中の重要な成分のひとつです。直径約2〜4マイクロメートルという非常に小さな細胞片であり、骨の中心部にある骨髄で作られています。
血小板の主な役割は「止血」です。私たちがケガをして血管が傷ついたとき、血小板は傷口に素早く集まり、お互いにくっつき合って血栓と呼ばれる塊を形成します。この血栓が傷口を塞ぐことで、出血を止める働きをしています。これを一次止血といいます。
さらに、血液中の凝固因子という成分が働いて血栓をより強固なものにし、かさぶたが形成されます。これが二次止血と呼ばれる過程です。このように、血小板は私たちの体を出血から守る重要な役割を担っています。
血小板は骨髄に存在する巨核球という大きな細胞から作られます。巨核球の細胞質の一部がちぎれて血液中に放出されたものが血小板です。血小板の寿命はおよそ7〜10日程度で、古くなった血小板は主に脾臓や肝臓で分解されます。
健康な状態では、血小板の産生と分解のバランスが保たれ、血液中の血小板数は一定の範囲内に維持されています。しかし、何らかの原因でこのバランスが崩れると、血小板が多すぎたり少なすぎたりする状態になります。
2. 血小板の基準値と正常範囲
血小板数の基準値は、医療機関や検査施設によって若干の違いがありますが、一般的には以下のように定められています。
血小板数の正常範囲は、血液1マイクロリットル(μL)あたり15万〜40万個程度とされています。検査結果によっては「15〜40×10⁴/μL」と表記されることもあります。
日本人間ドック学会の2020年度の基準値では、14.5万〜32.9万/μLを正常範囲とし、40万/μL以上を精密検査の対象としています。これは、異常の可能性がある方を早期に発見するための設定です。
また、医療機関によっては45万/μL以下を正常範囲としているところもあり、施設によって基準が異なる場合があります。そのため、検査結果を見る際には、その施設の基準値と照らし合わせて判断することが大切です。
血小板数は個人差があり、年齢や性別、体調によっても変動します。また、同じ人でも日によって数値が変わることがあるため、1回の検査結果だけで判断せず、複数回の検査結果を見て総合的に評価することが推奨されています。
血小板数が基準範囲を超えて高い場合を「血小板増加症」または「血小板増多症」と呼び、逆に低い場合を「血小板減少症」と呼びます。いずれの場合も、原因を調べて適切な対応をとることが重要です。
3. 血小板が多い状態とは(血小板増加症)
血小板が多い状態は「血小板増加症」または「血小板増多症」と呼ばれます。一般的には、血小板数が45万/μL以上になると血小板増加症と判断されます。
血小板増加症は、その原因によって大きく2つのタイプに分類されます。
ひとつは一次性血小板増加症です。これは骨髄自体に異常があり、血小板を作りすぎてしまう状態です。本態性血小板血症、真性多血症、原発性骨髄線維症、慢性骨髄性白血病などの骨髄増殖性腫瘍が含まれます。
もうひとつは二次性血小板増加症(反応性血小板増加症)です。これは骨髄以外の病気や状態に反応して、血小板が増加する状態です。感染症、慢性炎症、鉄欠乏性貧血、手術後、悪性腫瘍などが原因となります。
二次性血小板増加症の場合、血小板数は一般的に100万/μL以下にとどまることが多く、原因となる疾患を治療することで血小板数は正常に戻ることが期待されます。一方、一次性血小板増加症では血小板数が100万/μLを超えることも珍しくありません。
血小板が多いだけでは通常は自覚症状がないため、健康診断や他の病気の検査で偶然発見されることがほとんどです。そのため、定期的な健康診断を受けることが早期発見につながります。
4. 血小板が多くなる原因
血小板が多くなる原因は多岐にわたります。大きく分けて、骨髄自体に問題がある一次性と、骨髄以外に原因がある二次性の2種類があります。
二次性(反応性)血小板増加症の原因
二次性血小板増加症は、他の病気や状態に対する体の反応として血小板が増加するものです。臨床現場で見られる血小板増加症の多くはこのタイプです。
感染症による血小板増加は、比較的よく見られるパターンです。発熱を伴う細菌感染症やウイルス感染症などで、体の免疫反応の一部として血小板が増加することがあります。この場合、感染症が治ると血小板数も正常に戻ります。
鉄欠乏性貧血も血小板増加の重要な原因のひとつです。月経のある女性に特に多く見られます。血小板と赤血球は共通の前駆細胞から作られるため、鉄欠乏により赤血球産生に変化が生じると、血小板の産生にも影響が及ぶと考えられています。鉄剤の補充により貧血が改善すると、血小板数も速やかに正常範囲に戻ります。
慢性炎症性疾患も血小板増加の原因となります。関節リウマチ、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、結核、サルコイドーシスなどの慢性炎症があると、炎症性サイトカインが骨髄の巨核球を刺激し、血小板産生が増加します。
悪性腫瘍(がん)も血小板増加を引き起こすことがあります。腫瘍が産生するサイトカインや、腫瘍による慢性炎症状態が原因と考えられています。
手術後や大量出血後にも、一時的に血小板が増加することがあります。これは体が失われた血液成分を補おうとする生理的な反応です。
脾臓摘出後も血小板増加の原因となります。脾臓は古くなった血小板を処理する臓器であるため、脾臓がなくなると血小板の分解が減り、血小板数が増加します。
一次性血小板増加症の原因
一次性血小板増加症は、骨髄の造血幹細胞に異常が生じ、血小板が過剰に産生される状態です。骨髄増殖性腫瘍と呼ばれる疾患群に分類されます。
本態性血小板血症は、血小板を作る骨髄の巨核球が腫瘍性に増殖し、血小板が異常に増加する病気です。約50%の患者さんでJAK2遺伝子の変異が認められ、その他にCALR遺伝子やMPL遺伝子の変異を持つ患者さんもいます。これらの遺伝子変異により、血小板産生のシグナルが恒常的に活性化され、血小板が過剰に作られ続けます。発症率は10万人あたり1〜2.5人程度で比較的まれな病気です。診断時の平均年齢は60歳ですが、30代の女性にも発症のピークがあります。
真性多血症は、主に赤血球が異常に増加する病気ですが、白血球や血小板も増加することがあります。90%以上の患者さんでJAK2遺伝子の変異が認められます。血液がドロドロになり、血栓症のリスクが高まります。
原発性骨髄線維症は、骨髄内に線維組織が増殖し、正常な造血機能が阻害される病気です。初期には血小板や白血球が増加することがありますが、進行すると逆に血球が減少します。
慢性骨髄性白血病は、白血球が主に増加する病気ですが、血小板増加を伴うことがあります。フィラデルフィア染色体と呼ばれる特徴的な染色体異常が認められます。
これらの一次性血小板増加症は、腫瘍性の疾患であるため、専門医による適切な診断と治療が必要です。
5. 血小板が多いときの症状
血小板が多い状態でも、多くの場合は自覚症状がありません。そのため、健康診断や他の病気の検査で血液検査を受けた際に偶然発見されることがほとんどです。
しかし、血小板数が著しく増加したり、長期間高い状態が続いたりすると、以下のような症状が現れることがあります。
血栓傾向による症状
血小板が増加すると、血液が固まりやすくなり、血栓(血の塊)ができやすくなります。血栓が血管を塞ぐと、その部位によってさまざまな症状が現れます。
頭痛やめまいは、脳の血管に微小な血栓ができることで起こります。視力障害や一時的な視野の異常も見られることがあります。
手足のしびれや痛み、腫れは、四肢の血管に血栓ができた場合に起こります。特に「肢端紅痛症」と呼ばれる症状では、手足の先端部分に発赤、熱感、チクチクするような痛みが現れます。
胸痛や息切れは、心臓や肺の血管に血栓ができた可能性を示唆する症状です。このような症状がある場合は、緊急の受診が必要です。
出血傾向による症状
一見矛盾するようですが、血小板数が100万/μLを超えるほど著しく増加すると、逆に出血しやすくなることがあります。
これは、血小板数が極端に多くなると、血小板同士をくっつける「のり」の役割を果たすフォン・ヴィレブランド因子という成分が消費されてしまい、正常な止血機能が働かなくなるためです。このような状態を「後天性フォン・ヴィレブランド病」と呼びます。
出血傾向の症状としては、皮膚に青あざ(皮下出血)ができやすい、歯茎からの出血、鼻血が出やすい、月経量が多くなるなどが挙げられます。
全身症状
本態性血小板血症などの骨髄増殖性腫瘍では、以下のような全身症状が現れることがあります。
倦怠感や疲労感を感じやすくなることがあります。脾臓が腫れると、左上腹部の違和感や張り感を覚えることもあります。また、かゆみ、体重減少、発熱などの症状が現れる場合もあります。
ただし、これらの症状は血小板増加症に特有のものではなく、他の疾患でも見られる可能性があります。気になる症状がある場合は、医療機関を受診して検査を受けることをお勧めします。
6. 血小板増加による合併症リスク
血小板が多い状態を放置すると、さまざまな合併症のリスクが高まります。最も重要なのは血栓症のリスクです。
血栓症
血小板は出血を止める働きをしますが、増えすぎると血管内で不必要な血栓を形成しやすくなります。血栓が血管を塞ぐと、その先の組織に血液が届かなくなり、深刻な障害を引き起こす可能性があります。
脳梗塞は、脳の血管に血栓が詰まることで起こります。突然の手足の麻痺やしびれ、言葉が出にくくなる、視野が欠ける、激しい頭痛などの症状が現れます。脳梗塞は命に関わる病気であり、後遺症が残ることも少なくありません。
心筋梗塞は、心臓に血液を送る冠動脈に血栓が詰まることで起こります。激しい胸の痛みや圧迫感、息苦しさ、冷や汗などの症状が現れます。心筋梗塞も命に関わる重篤な病気です。
肺血栓塞栓症は、肺の血管に血栓が詰まる病気です。足の静脈にできた血栓(深部静脈血栓症)が血流に乗って肺に運ばれることで起こります。突然の息切れ、胸痛、咳、血痰などの症状が現れます。
深部静脈血栓症は、足の深い部分の静脈に血栓ができる病気です。片方の足の急な腫れ、痛み、発赤、熱感などが特徴です。
出血性合併症
先述したように、血小板数が100万/μLを超えるほど著しく増加すると、出血傾向が現れることがあります。消化管出血、脳出血などの重篤な出血を起こす可能性もあります。
疾患の進行
本態性血小板血症などの骨髄増殖性腫瘍では、長期間の経過の中で、骨髄線維症や急性白血病に移行することがあります。骨髄線維症への移行率は4〜9%程度、急性白血病への移行率は約1%程度と報告されています。
ただし、適切な治療と定期的な経過観察を行えば、多くの患者さんは長期にわたり安定した状態を維持でき、健常者と同等の寿命が期待できるとされています。
二次性血小板増加症の場合は、血栓症のリスクは一次性に比べて低いとされています。しかし、血小板数が著しく高い場合や、動脈硬化などの血栓リスク因子を持っている場合は注意が必要です。
7. 血小板が多いときの検査と診断
血小板が多いと指摘された場合、その原因を特定するためにさまざまな検査が行われます。
血液検査
まず行われるのが血液検査です。血小板数だけでなく、赤血球数、白血球数、ヘモグロビン値なども同時に測定し、全体的な血液の状態を評価します。
血小板数は日によって変動することがあるため、1回の検査結果だけで判断せず、再検査で持続的に高いことを確認することが重要です。一時的な感染症や出血後などでは、一過性に血小板が増加することがあります。
鉄欠乏性貧血の有無を調べるために、血清鉄、フェリチン、総鉄結合能などの鉄関連の検査も行われます。鉄欠乏性貧血があれば、それが血小板増加の原因である可能性があります。
炎症の程度を調べるために、CRP(C反応性タンパク)などの炎症マーカーも測定されます。
遺伝子検査
本態性血小板血症などの骨髄増殖性腫瘍が疑われる場合、遺伝子検査が行われます。
JAK2遺伝子変異の検査は特に重要です。本態性血小板血症の約50%、真性多血症の95%以上でJAK2 V617F変異が認められます。
CALR遺伝子変異は、本態性血小板血症の20〜30%で認められ、JAK2変異のない患者さんの多くで検出されます。
MPL遺伝子変異は、本態性血小板血症の約1〜3%で認められます。
これらの遺伝子変異が見つかった場合、骨髄増殖性腫瘍である可能性が高くなります。約90%の本態性血小板血症患者さんでは、JAK2、CALR、MPLのいずれかの変異が陽性となります。
慢性骨髄性白血病を除外するために、BCR-ABL遺伝子(フィラデルフィア染色体)の検査も行われます。
骨髄検査
確定診断のために骨髄検査が行われることがあります。骨髄穿刺や骨髄生検により、骨髄の状態を直接調べます。
骨髄検査では、巨核球(血小板の元になる細胞)の数や形態、骨髄の線維化の有無、異常細胞の有無などを評価します。
本態性血小板血症では、核の過分葉を持つ大型で成熟した巨核球の増加が特徴的です。一方、原発性骨髄線維症では異型のある巨核球の集簇や骨髄の線維化が見られます。この両者の鑑別は予後に影響するため重要です。
画像検査
脾臓の大きさを調べるために、腹部エコー検査やCT検査が行われることがあります。骨髄増殖性腫瘍では脾臓が腫れることがあります。
診断基準
本態性血小板血症の診断には、WHO(世界保健機関)の診断基準が用いられます。2016年のWHO診断基準では、以下の大基準をすべて満たすか、大基準の1〜3と小基準を満たす場合に診断されます。
大基準は、末梢血血小板数が45万/μL以上であること、骨髄検査所見が合致すること、他の骨髄系腫瘍の診断基準を満たさないこと、JAK2、CALR、MPL遺伝子のいずれかに変異を有することの4つです。
小基準は、クローナルマーカーの存在、または反応性の血小板増加ではないことが証明できることです。
診断には、反応性(二次性)血小板増加症の除外も重要です。感染症、炎症性疾患、鉄欠乏性貧血、悪性腫瘍などがないかを調べ、これらが原因であれば二次性と判断されます。
8. 血小板増加症の治療法
血小板増加症の治療は、原因や血小板数、症状、合併症のリスクなどを総合的に判断して決定されます。
二次性血小板増加症の治療
二次性血小板増加症の場合、基本的に血小板の数自体を直接コントロールする治療は行われません。治療の中心は、原因となっている疾患や状態の改善にあります。
感染症が原因であれば、適切な抗生物質や抗ウイルス薬による治療を行います。感染症が治れば、血小板数も自然に正常に戻ります。
鉄欠乏性貧血が原因であれば、鉄剤の補充が行われます。貧血が改善すれば、血小板数も速やかに正常範囲に戻ります。
慢性炎症性疾患が原因であれば、その疾患に対する適切な治療を行います。炎症がコントロールされれば、血小板数も改善します。
悪性腫瘍が原因であれば、がんの治療が優先されます。がんが寛解すれば、血小板数も正常化することが期待されます。
二次性血小板増加症では、血小板数が100万/μL以下にとどまることが多く、血小板の機能は正常であるため、重度の動脈疾患がない限り、血栓症や出血のリスクは一次性に比べて低いとされています。
一次性血小板増加症の治療
本態性血小板血症などの一次性血小板増加症の治療は、血栓症や出血の予防が主な目的です。現時点では、この病気を完治させる治療法は確立されていません。
リスク分類による治療方針
治療方針は、血栓症のリスク分類に基づいて決定されます。年齢、血栓症の既往、JAK2遺伝子変異の有無、心血管リスク因子(喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症)などが評価されます。
低リスク(60歳未満で血栓症の既往がない)の場合は、定期的な経過観察を行います。JAK2変異がある場合や心血管リスク因子がある場合は、低用量アスピリンの内服を考慮します。
高リスク(60歳以上または血栓症の既往がある)の場合は、低用量アスピリンの投与に加えて、血小板数を減らす細胞減少療法を行います。
抗血小板療法
低用量アスピリン(バイアスピリンなど)は、血小板の凝集を抑え、血栓ができるのを防ぐ効果があります。一般的には1日81〜100mg程度の低用量が使用されます。
ただし、血小板数が極端に高い(100万/μL以上)場合は、後天性フォン・ヴィレブランド病を合併している可能性があり、アスピリンによってかえって出血リスクが高まることがあります。この場合は、アスピリンの投与前にフォン・ヴィレブランド因子活性を測定し、活性が低下している場合はアスピリンの使用を控えます。
細胞減少療法
血小板数を減らすための薬物療法です。高リスクの患者さんや、低リスクでも血小板数が著しく高い場合に行われます。
ヒドロキシカルバミド(商品名:ハイドレア)は、最も広く使用されている薬剤です。骨髄での血球産生を抑制することで、血小板数を減らします。抗がん剤に分類されますが、通常の用量では吐き気や脱毛などの副作用はほとんどありません。ただし、皮膚潰瘍などの皮膚症状が出ることがあります。また、長期使用による二次発がんのリスクが指摘されているため、若年者(40歳未満)への使用は控えられる傾向があります。
アナグレリド(商品名:アグリリン)は、巨核球の成熟を阻害することで血小板産生を抑制する薬剤です。日本では2014年に承認されました。ヒドロキシカルバミドと比べて二次発がんのリスクが低いとされ、若年者にも使用されます。ただし、動悸、不整脈、頭痛、体液貯留などの副作用に注意が必要です。
インターフェロンα製剤は、骨髄増殖性腫瘍に対する効果が認められていますが、日本では本態性血小板血症に対しては保険適用外です。妊娠を希望する患者さんや、他の薬剤が使用できない場合に検討されることがあります。
その他の治療
JAK阻害剤であるルキソリチニブ(商品名:ジャカビ)は、骨髄線維症や真性多血症に対して承認されていますが、他の治療に抵抗性を示す本態性血小板血症に対しても有効性が示唆されています。
緊急時や手術前に血小板数を急速に下げる必要がある場合には、血小板アフェレーシス(血小板を除去する処置)が行われることがあります。ただし、効果は一時的であり、通常は薬物療法と併用されます。
治療の目標は血栓症や出血を予防することであり、必ずしも血小板数を正常値まで下げることではありません。定期的な血液検査で血小板数をモニタリングしながら、個々の患者さんに適した治療を継続していきます。
9. 日常生活で気をつけること
血小板が多い状態、特に本態性血小板血症などの一次性血小板増加症と診断された場合、日常生活でいくつかの点に注意することが大切です。
血栓症の予防
血小板が多い状態では血栓ができやすくなるため、血栓症のリスクを下げる生活習慣を心がけましょう。
適度な水分摂取を心がけましょう。脱水状態になると血液が濃くなり、血栓ができやすくなります。特に運動時や暑い日には、こまめに水分を補給しましょう。
禁煙は非常に重要です。喫煙は血栓症のリスクを約4倍に高めるとされています。本態性血小板血症の患者さんには禁煙が強く推奨されています。
適度な運動を取り入れましょう。運動は血液の循環を改善し、血栓のリスクを下げる効果があります。ウォーキングなどの有酸素運動が推奨されます。ただし、血小板数が100万/μLを超えている場合は、出血のリスクがあるため、激しい運動や衝撃の強い運動は控えたほうがよいでしょう。運動の程度については主治医に相談してください。
長時間同じ姿勢でいることは避けましょう。長時間座っていたり、飛行機で長距離移動したりする場合は、定期的に足を動かしたり、歩いたりして血液の循環を促しましょう。
生活習慣病の管理
高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病は、血栓症のリスクを高めます。これらの病気がある場合は、適切な治療を受けて管理することが大切です。
バランスの取れた食事を心がけましょう。野菜、果物、魚、全粒穀物を積極的に摂り、脂質や塩分、糖質の過剰摂取を避けます。オメガ3脂肪酸を多く含む青魚(サーモン、サバ、イワシなど)は、血液の流れを良くする効果があるとされています。
適正体重の維持も重要です。肥満は動脈硬化や血栓症のリスク因子です。食事管理と運動により、適正体重を維持しましょう。
過度な飲酒は避けましょう。アルコールの過剰摂取は血液を濃くする原因となります。適量を守り、週に1〜2日は休肝日を設けることが推奨されます。
出血への注意
血小板数が著しく高い場合や、出血傾向がある場合は、ケガに注意しましょう。
転倒や打撲に気をつけ、危険な場所での活動は避けましょう。歯磨きは柔らかい歯ブラシを使い、歯茎を傷つけないようにしましょう。
出血が止まりにくい、皮下出血が増えた、血尿や血便があるなどの症状があれば、すぐに主治医に相談してください。
薬の服用について
処方された薬は指示通りに服用しましょう。自己判断で薬を中止したり、用量を変えたりしないでください。
市販の解熱鎮痛薬(特にNSAIDs)は、胃腸の出血リスクを高めることがあるため、使用前に主治医に相談してください。
サプリメントの中には、血液をサラサラにする作用があるものもあります。新しいサプリメントを始める前には、主治医に相談することをお勧めします。
定期的な受診
自覚症状がなくても、定期的に医療機関を受診し、血液検査を受けることが大切です。病気の進行や合併症の早期発見につながります。
気になる症状があれば、すぐに主治医に相談しましょう。特に、急な頭痛、胸痛、息切れ、手足のしびれや麻痺、片足の急な腫れなどは、緊急の受診が必要なサインです。
妊娠について
本態性血小板血症の女性が妊娠を希望する場合は、事前に主治医とよく相談することが重要です。
ヒドロキシカルバミドやアナグレリドは胎児への影響が懸念されるため、妊娠中は使用できません。男女とも、妊娠を希望する3〜6ヵ月前にはこれらの薬の服用を中止する必要があります。
適切な対策なしに妊娠・出産した場合、流産や死産のリスクが健康な女性の約3倍になるという報告もあります。専門医の指導のもとで妊娠・出産を計画することが大切です。
10. 何科を受診すべきか
血小板が多いと指摘された場合、まずは内科を受診することをお勧めします。かかりつけ医がいる場合は、そちらに相談するのもよいでしょう。
内科で血液検査を行い、血小板増加が持続しているか、他の血球にも異常がないかを確認します。二次性血小板増加症が疑われる場合は、原因となる疾患の検査や治療が行われます。
血液の病気が疑われる場合や、より詳しい検査が必要な場合は、血液内科を受診することになります。血液内科は、血液に関する疾患を専門的に診療する内科の一分野です。
血液内科では、遺伝子検査や骨髄検査などの専門的な検査を行い、正確な診断を行います。本態性血小板血症などの骨髄増殖性腫瘍と診断された場合は、血液内科での継続的な治療と経過観察が必要になります。
血液内科は専門性が高く、すべての医療機関にあるわけではありません。お近くに血液内科がない場合は、かかりつけ医や一般内科から専門医を紹介してもらうことができます。
健康診断で精密検査を指示された場合は、健診機関に問い合わせて、どの医療機関を受診すればよいか相談することもできます。

11. よくある質問
血小板が多い状態を放置することはお勧めできません。軽度の増加であっても、原因を調べることが大切です。二次性であれば原因疾患の治療が必要ですし、一次性であれば血栓症のリスク管理が必要になります。まずは医療機関を受診し、適切な検査を受けてください。
ほとんどの場合、血小板増加症に遺伝的要素はありません。本態性血小板血症でみられる遺伝子変異は、生まれつきのものではなく、後天的に発生したものです。ただし、ごくまれに家族性の血小板増加症が存在することが報告されています。
Q. 食事で血小板を減らすことはできますか?
食事だけで血小板数を直接減らすことは難しいですが、血栓症のリスクを下げるために健康的な食生活を心がけることは重要です。野菜、果物、魚、全粒穀物を中心としたバランスの取れた食事が推奨されます。過剰な塩分、脂質、アルコールの摂取は避けましょう。
Q. 運動しても大丈夫ですか?
基本的に、適度な運動は血液循環を改善し、健康に良い影響を与えます。ウォーキングやストレッチなどの軽い運動から始めるとよいでしょう。ただし、血小板数が100万/μLを超えている場合は、出血のリスクがあるため、激しい運動や衝撃の強いスポーツは控えたほうがよいでしょう。運動の程度については、主治医に相談してください。
Q. ストレスで血小板が増えることはありますか?
慢性的なストレスは体内の炎症反応を強め、血小板数の増加に寄与する可能性があります。ストレス管理やリラクゼーション、十分な睡眠をとることは、全身の健康維持に役立ちます。
Q. 血小板増加症は治りますか?
二次性血小板増加症の場合、原因となる疾患を治療することで血小板数は正常に戻ることが期待されます。本態性血小板血症などの一次性血小板増加症は、現時点では完治させる治療法はありませんが、適切な治療により血栓症や出血のリスクを管理し、長期にわたり安定した状態を維持することができます。
Q. 血小板が多いとがんの可能性がありますか?
血小板増加は、悪性腫瘍(がん)に関連することがありますが、必ずしもがんの兆候ではありません。がん以外の多くの原因(感染症、炎症、鉄欠乏性貧血など)でも血小板は増加します。詳細な検査で原因を特定することが重要です。
12. まとめ
血小板が多い状態(血小板増加症)は、さまざまな原因によって引き起こされます。感染症、炎症、鉄欠乏性貧血などに反応して一時的に増加する二次性と、骨髄の異常によって持続的に増加する一次性があります。
血小板が多いだけでは通常自覚症状はありませんが、血栓症のリスクが高まるため、放置せずに医療機関を受診して原因を調べることが大切です。
二次性血小板増加症の場合は、原因疾患の治療により血小板数の改善が期待できます。一次性血小板増加症(本態性血小板血症など)の場合は、血栓症のリスクに応じた治療を行い、長期的な管理を続けることで、多くの患者さんが健康な生活を送ることができます。
日常生活では、禁煙、適度な運動、バランスの取れた食事、適切な水分摂取など、血栓症を予防するための生活習慣を心がけましょう。また、定期的な受診と血液検査で経過を観察し、異常があれば早めに対処することが重要です。
血小板の数値が気になる方、健康診断で異常を指摘された方は、お早めに医療機関を受診されることをお勧めします。
参考文献
- 血小板増多症の症状・原因・治療法 – 前田クリニック
- 血小板数の正常値と血小板増加症について – ハレノテラス すこやか内科クリニック
- 血小板増加(血小板が多い) – イーストヘマトロジークリニック
- 本態性血小板血症の症状・診断・治療 – 上野御徒町こころみクリニック
- 本態性血小板血症 FAQ – 骨髄増殖性腫瘍.net(ノバルティス ファーマ株式会社)
- 本態性血小板血症 – MSDマニュアル家庭版
- 反応性血小板増加症(二次性血小板血症) – MSDマニュアル プロフェッショナル版
- 本態性血小板血症の診断 – 日本血栓止血学会誌
- 本態性血小板血症の治療 – 日本血栓止血学会誌
- MPN-JAPAN 本態性血小板血症について
- 血液検査 – 東京大学保健センター
- なぜ鉄欠乏性貧血で血小板数が増加するのか? – 芦屋駅前小野内科クリニック
- 血液がサラサラになる食べ物・飲み物とは? – 日暮里・三河島内科クリニック
- 血栓症ガイドブック – 日本血栓止血学会
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務