はじめに
「この辛い症状、いつまで続くのだろう」「更年期が終わるサインはあるの?」
更年期の真っ只中にいる多くの女性が、このような疑問や不安を抱えています。ホットフラッシュや倦怠感、イライラといった症状に日々悩まされながら、いつ終わりを迎えられるのかが見えないことは、精神的にも大きな負担となるものです。
本記事では、更年期の終わりに現れるサインや身体の変化、そして更年期を乗り越えた後の生活について、医学的な根拠に基づいて詳しく解説します。更年期は必ず終わりを迎えます。正しい知識を持つことで、この時期を少しでも前向きに過ごしていただければ幸いです。
更年期と閉経の基礎知識
更年期とは
更年期とは、閉経前後の約10年間を指す医学用語です。日本産科婦人科学会によると、「閉経の前後5年間を更年期といい、この期間に現れる多種多様な症状の中で、器質的変化に起因しない症状を更年期症状と呼び、これらの症状の中で日常生活に支障をきたす病態を更年期障害とする」と定義されています。
日本人女性の平均閉経年齢は約50歳前後とされているため、一般的には45~55歳くらいが更年期にあたります。ただし、個人差が大きく、40代前半で閉経を迎える方もいれば、50代後半まで月経が続く方もいらっしゃいます。
閉経の定義
閉経とは、月経が来ない状態が12ヶ月以上続いた際に、1年前を振り返って判断されるものです。つまり、リアルタイムで「今日が閉経日」と知ることはできず、後から振り返って初めて「あの時が閉経だった」とわかる仕組みになっています。
厚生労働省の女性の健康推進室のデータによれば、日本人女性の平均閉経年齢は50.5歳ですが、これには個人差があり、閉経年齢は過去の歴史書からの報告でもほぼ50歳前後と記されており、時代を超えて変わらない普遍的な現象であることがわかっています。
プレ更年期とポスト更年期
更年期を理解する上で、関連する時期についても知っておくことが大切です。
プレ更年期とは、30代後半~40代半ば頃を指し、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が減り始め、閉経に向けて心身に変化が現れ始める時期です。この時期から月経周期の変化や、軽度の更年期症状を感じる方もいらっしゃいます。
ポスト更年期とは、更年期が過ぎた時期のことで、閉経から5年経過した50代後半以降にあたります。この時期には更年期症状が落ち着き、身体が新しいホルモンバランスに適応した状態になります。
更年期の終わりに明確なサインはあるのか
結論:はっきりとした終わりのサインはない
多くの方が期待されるような、「これが更年期の終わりです」という明確なサインは、残念ながら存在しません。更年期は期間で区切られているため、更年期の終わりの明確なサインというものはないのが実情です。
これは、女性ホルモン(エストロゲン)の減少が、一直線に下がっていくのではなく、「減ったと思ったら増えて」「安定したと思ったらまた減って」というゆらぎを繰り返しながら低下していくためです。エストロゲンが安定すれば症状が落ち着き、減少すれば症状が出るという波を繰り返すため、終わりのタイミングを正確に判断することは困難なのです。
更年期が終わる目安
はっきりとしたサインはありませんが、いくつかの目安はあります。
時期的な目安としては、50代後半~60代前半くらいになると、更年期障害による症状が治まる人が多いとされています。閉経から4~5年が経過した頃から、倦怠感がなくなって体が楽になり、趣味などを楽しめるようになる方が増えるようです。
身体的な変化としては、更年期症状が徐々に軽減していき、身体が新しいホルモンバランスに慣れてきたと感じられることが、終わりに近づいているサインといえるでしょう。
更年期症状のピークと緩和の過程
症状のピークは閉経前後2年間
一般的に、閉経の前後2年間は更年期の不調がピークになると言われています。この時期が最もつらいと感じる方が多いのは、エストロゲンの変動が原因です。
更年期では卵巣の機能が低下しており、脳の視床下部が「もっと分泌せよ」と指令を出しても、卵巣が十分に反応できない日とわずかしか反応できない日が生じます。そのため、脳の指令と卵巣の反応にギャップが生じ、エストロゲンの分泌が不安定になるのです。
この不安定な状態に身体が慣れていない時期が、更年期のピークとなります。脳がパニック状態になることで自律神経が乱れ、さまざまな更年期症状を引き起こします。
身体が慣れる過程
更年期症状は、エストロゲンの急激な変動に身体が慣れるまでの期間に現れます。オムロン式美人によると、「女性ホルモンの急激な低下に体が慣れるまでの期間」であり、50代後半~60歳前半ぐらいになると症状が治まる人が多いとされています。
つまり、更年期症状が徐々に軽くなってきたと感じられる場合、それは身体がエストロゲンの低下に適応してきた証拠であり、更年期の終わりが近づいているサインと考えることができます。
症状の個人差
更年期症状の期間には大きな個人差があります。通常5年以内に症状が収まる方が多いですが、中には10年以上続く方もいらっしゃいます。
また、厚生労働省の女性の健康推進室ヘルスケアラボによると、36歳から55歳の女性1358名のうち、更年期に更年期障害のような症状を持っている人は52.3%、50代女性では72.2%であったという調査結果があります。つまり、症状の程度や有無には大きな個人差があることがわかります。
更年期の代表的な症状と変化
血管運動神経症状
**ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)**は、更年期の代表的な症状です。突然顔が熱くなり、大量の汗をかくこの症状は、エストロゲンの減少により体温調節機能が乱れることで起こります。
閉経前は月経血の量が一時的に多くなったり、レバーのような血の塊が出るといった「大暴れ状態」になることもあります。女性ホルモンの分泌が不安定になる更年期は、子宮内膜がうまくはがれずに厚くなりすぎることがあるためです。
身体症状
- 倦怠感・疲れやすさ:何をしても体のだるさがとれない状態が続きます
- 肩こり・腰痛:日本人女性に特に多い症状です
- 頭痛:片頭痛や緊張型頭痛が悪化することがあります
- 関節痛:特に手指の関節に痛みを感じることがあります
- めまい・動悸:自律神経の乱れによって生じます
- 冷え:血行不良により手足の冷えを感じやすくなります
精神症状
- イライラ:些細なことで怒りっぽくなる
- 不安感:漠然とした不安を感じやすくなる
- 気分の落ち込み:抑うつ気分やうつ症状
- 不眠:寝つきが悪い、夜中に目が覚めるなど
- 集中力の低下:仕事や家事の効率が落ちる
日本女性心身医学会によると、更年期障害の症状は大きく3つに分類され、①血管運動神経症状、②身体症状、③精神症状のいずれも、エストロゲンの低下だけでなく、対人関係などストレスフルな環境因子、ストレスを感じやすい性格などの心理的因子が複合的に影響することにより生じるとされています。
更年期が終わった後の身体の変化
ポジティブな変化
更年期を終えた多くの女性が、「更年期が終わったら前よりも元気になった」と感じています。
閉経して4~5年過ぎた頃から、以下のような変化を実感する方が増えます:
- 倦怠感がなくなる:長く続いた疲れやだるさから解放される
- 体が軽くなる:肩こりや関節の痛みが軽減される
- 趣味を楽しめる:やる気が戻り、アクティブに活動できるようになる
- 精神的に安定する:イライラや不安が減り、穏やかな気持ちで過ごせる
注意すべき健康リスク
一方で、閉経後はエストロゲンがほぼ分泌されなくなるため、新たな健康リスクに注意が必要です。
骨粗鬆症のリスク
エストロゲンの急激な減少により、骨密度が低下し、骨の質も劣化します。閉経後、1年に2~3%ずつ骨量が減り、10年後には20%も減少するといわれています。特に閉経直後から3年間は年間約3~3.5%の減少を示すため、この時期は特に注意が必要です。
脂質異常症のリスク
大塚製薬の健康情報によると、女性の総コレステロールとLDLコレステロールは50歳頃に急激に上昇し、HDLコレステロールは50歳以後に低下する傾向があります。これにより、動脈硬化、高血圧、脳卒中などのリスクが高まります。
心血管疾患のリスク
エストロゲンには血管を保護する働きがあるため、閉経後は心臓・血管の病気が増えてきます。高血圧、高血糖、高コレステロールといった「3高リスク」にも注意が必要です。
萎縮性膣炎
閉経後も繰り返し出現しやすい症状として、黄色のおりもの、外陰部の乾燥感、掻痒感を伴う萎縮性膣炎があります。これは性交痛の原因にもなります。
更年期症状への対処法と治療
生活習慣の改善
更年期症状の予防や緩和には、健康的な生活習慣が効果的です。
食生活の見直し
- 1日3回の食事を規則正しく摂る
- 大豆製品を積極的に:納豆、豆腐、豆乳などに含まれる大豆イソフラボンは、エストロゲンと似た分子構造を持ち、体内でエクオールに変換されることで女性ホルモンと同様の働きをします
- カルシウムの摂取:骨粗鬆症予防のため、乳製品や小魚を意識的に摂る
- バランスの取れた栄養:偏った食事を避け、多様な食品を摂取する
運動習慣
適度な運動は、更年期症状の軽減だけでなく、骨密度の維持や筋力低下の予防にも効果的です。ウォーキングや軽いジョギング、ストレッチなど、無理のない範囲で続けられる運動を選びましょう。
質の良い睡眠
睡眠不足は更年期症状を悪化させる原因の一つです。就寝時間を一定にし、寝室の環境を整えることで、質の良い睡眠を心がけましょう。
医療機関での治療
症状が重く、日常生活に支障をきたす場合は、我慢せずに婦人科を受診することが大切です。
ホルモン補充療法(HRT)
日本産科婦人科学会によると、ホルモン補充療法は、減少したエストロゲンを補う治療法で、特にホットフラッシュ・発汗・不眠などの症状に有効です。また、骨粗鬆症や心血管疾患の予防効果も期待できます。
HRTで用いるホルモン剤には、飲み薬、貼り薬、塗り薬など、いくつものタイプがあります。子宮を有する場合はエストロゲンと黄体ホルモンを併用し、子宮摘出後の方はエストロゲン単独で投与します。
かつてHRTによる乳がんのリスクが強調された時期がありましたが、現在では、HRTによる乳がんのリスクは飲酒など生活習慣による乳がんのリスクと同程度かそれ以下であることが分かっています。
漢方療法
体力や体質に合わせた漢方薬の投与により、心と体のバランスを整えることができます。更年期障害で処方されることが多い漢方薬には、以下のようなものがあります:
- 当帰芍薬散:体力が弱く、貧血や冷え症の傾向がある方に
- 加味逍遥散:体力が弱くて疲れやすく、不安や不眠といった精神面の症状がある方に
- 桂枝茯苓丸:体力が中等度あり、のぼせや下腹部の抵抗・圧痛がある方に
その他の治療法
精神症状が強い場合は、抗うつ剤や睡眠剤などの薬を使うこともあります。また、環境要因が強い場合はカウンセリングや認知行動療法などの心理療法も有効です。
受診のタイミング
以下のような場合は、早めに婦人科を受診することをおすすめします:
- 症状が重く、日常生活や仕事に支障が出ている
- 不正出血がある
- 症状が長期間続いている
- 他の病気の可能性が心配
- 更年期症状かどうか判断できない
厚生労働省の女性の健康推進室によれば、更年期の症状でつらい期間は5年程度ともいわれており、治療によりその5年を乗り切ることができます。我慢せずに適切な治療を受けることが、更年期離職を防ぐためにも重要です。
更年期を前向きに過ごすために
更年期は人生の転換期
人生100年時代といわれる現代では、女性の平均寿命は87歳を超え、ポスト更年期は「第二の人生」ともいえる大切な期間です。閉経後の人生が昔に比べて極端に長くなっている今、更年期は単なる体調不良の時期ではなく、これからの人生を見直し、生活パターンをシフトさせる重要な転換期と捉えることができます。
自分を大切にする時期
更年期症状は、自分の身体と向き合い、健康について考え直す良い機会でもあります。忙しい日常の中で後回しにしがちだった自分自身のケアに、この時期こそ時間を使ってみてはいかがでしょうか。
- 趣味や好きなことに時間を使う:更年期が終わると、再び趣味を楽しめるようになる方が多くいます
- 人との繋がりを大切にする:家族や友人とのコミュニケーションが、精神的な支えになります
- 新しいことに挑戦する:更年期後の人生を豊かにするため、新しい学びや活動を始めるのも良いでしょう
職場での理解と配慮
40~50代の更年期世代の女性は、キャリアも長く知識も経験も豊富な貴重な人材です。更年期症状による離職は、本人にとっても職場にとっても大きな損失です。
職場としては、更年期について基本的な情報を共有し、体調の悪いときに活用できる制度(フレックスタイム、リモートワーク、休暇制度など)を整備することが重要です。女性従業員自身も、症状が重い場合は治療を受けるという行動につなげることで、仕事と治療を両立することができます。

まとめ:更年期の終わりと新しい人生の始まり
更年期の終わりのサイン
更年期の終わりに明確なサインはありませんが、以下のような変化が見られた場合、更年期の終わりが近づいている可能性があります:
- 症状の軽減:ホットフラッシュやイライラなどの症状が徐々に軽くなってきた
- 身体が楽になる:倦怠感が減り、活動的に動けるようになってきた
- 精神的な安定:気分の波が穏やかになり、落ち着いて過ごせるようになった
- 時期的な目安:閉経から4~5年が経過している(50代後半以降)
大切なのは我慢しないこと
更年期症状は個人差が大きく、軽い方もいれば日常生活に支障をきたすほど重い方もいらっしゃいます。「更年期だから仕方ない」と我慢せず、つらい場合は早めに婦人科を受診して適切な治療を受けることが大切です。
ホルモン補充療法や漢方薬などの治療により、症状が大きく改善することも多くあります。また、骨密度検査や血液検査などで、閉経後の健康リスクを早期に把握し、予防することも可能です。
更年期は必ず終わる
更年期の真っ只中にいると、「この辛さがいつまで続くのだろう」と不安になることもあるでしょう。しかし、更年期は必ず終わりを迎えます。多くの女性が、更年期を乗り越えた後、「前よりも元気になった」「自分の時間を楽しめるようになった」と感じています。
更年期は、女性の身体が次のライフステージへと移行するための準備期間です。この時期を健康的に過ごすことが、その後の人生の質を大きく左右します。正しい知識を持ち、適切なケアを行い、必要に応じて医療の力も借りながら、更年期を前向きに乗り越えていきましょう。
参考文献
※本記事の情報は2025年11月時点のものです。症状が気になる方は、お気軽に当院までご相談ください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務