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マラセチア毛包炎とは?症状・原因・治療法を専門医が徹底解説

夏になると背中や胸に赤いブツブツができて困っている方は多いのではないでしょうか。「背中ニキビ」や「胸ニキビ」と思い込んでニキビ用の薬を塗っているのに、なかなか治らないという経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。実は、そのブツブツの正体は「ニキビ」ではなく「マラセチア毛包炎」という別の皮膚疾患である可能性があります。

マラセチア毛包炎は、皮膚に常在するマラセチアという真菌(カビの一種)が原因で起こる毛穴の炎症です。見た目がニキビに非常によく似ているため、多くの方がニキビと間違えてしまいますが、原因となる菌が異なるため、一般的なニキビ治療では効果が得られません。正しい診断と適切な治療を受けることで、マラセチア毛包炎は改善が期待できる疾患です。

本記事では、アイシークリニック渋谷院の皮膚科専門医の監修のもと、マラセチア毛包炎の症状から原因、診断方法、治療法、そして予防方法まで、詳しく解説いたします。なかなか治らない背中や胸のブツブツにお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。


目次

  • マラセチア毛包炎とは
  • マラセチア菌について知ろう
  • マラセチア毛包炎の症状と特徴
  • マラセチア毛包炎の原因と発症メカニズム
  • ニキビとマラセチア毛包炎の違い・見分け方
  • マラセチア毛包炎の診断方法
  • マラセチア毛包炎の治療法
  • マラセチア毛包炎の予防法と日常生活での注意点
  • 再発を防ぐために
  • よくある質問
  • まとめ

マラセチア毛包炎とは

マラセチア毛包炎とは、マラセチアと呼ばれる真菌(カビ)が毛包(毛穴の奥にある毛根を包んでいる部分)で異常に増殖し、炎症を起こしてしまう皮膚疾患です。毛包炎とは毛穴に起こる炎症の総称であり、マラセチア菌が原因となって発症するものを特にマラセチア毛包炎と呼びます。

この疾患は「癜風菌性毛包炎」と呼ばれることもあります。これは、マラセチア菌が「癜風(でんぷう)」という皮膚に茶色や白の斑点ができる別の皮膚疾患の原因菌でもあることに由来しています。ただし、同じマラセチア菌が原因であっても、毛包炎と癜風では症状の現れ方が大きく異なります。

マラセチア毛包炎は、皮脂の分泌が多い部位に発症しやすいという特徴があります。具体的には、胸、背中、肩、上腕、首などの体幹部に多くみられます。また、高温多湿の環境で発症しやすいため、汗をかきやすい夏場に症状が悪化する傾向があります。日本のように梅雨から夏にかけて湿度が高くなる地域では、この時期に患者数が増加することが知られています。

マラセチア毛包炎は適切な治療を行えば改善が期待できる疾患ですが、原因となるマラセチア菌は皮膚の常在菌であるため、治療後も再発しやすいという特徴があります。そのため、治療だけでなく、日常生活での予防対策も重要になってきます。

マラセチア菌について知ろう

マラセチア毛包炎の原因となるマラセチア菌について、もう少し詳しく見ていきましょう。

マラセチアは、ヒトを含む恒温動物の皮膚に常在する酵母様の真菌(カビ)の一種です。健康な人の皮膚にも広く存在しており、通常は皮膚の正常なフローラ(常在菌叢)の一部として存在しています。つまり、マラセチア菌がいること自体は決して異常ではなく、私たちの肌に普通に存在している微生物なのです。

マラセチア属真菌は現在14種類に分類されていますが、人間の皮膚から分離される頻度が高いのは、Malassezia globosa(マラセチア・グロボーサ)およびMalassezia restricta(マラセチア・レストリクタ)という種類です。マラセチア毛包炎の主な原因菌もこれらの種類であることが多いとされています。

マラセチア菌の最大の特徴は、発育に脂質を必要とするという点です。このため「脂質好性酵母」とも呼ばれています。マラセチア菌は私たちの皮膚から分泌される皮脂を栄養源として生活しており、特に皮脂の分泌が多い部位、すなわち脂漏部位(頭皮、顔、胸、背中など)に多く存在しています。

マラセチア菌はリパーゼという酵素を産生し、皮脂を分解する働きを持っています。通常、この分解作用は皮膚の環境を整える上で一定の役割を果たしていると考えられています。しかし、何らかの原因でマラセチア菌が異常に増殖すると、皮脂の分解産物である遊離脂肪酸などが過剰に生成され、これが皮膚に刺激を与えて炎症を引き起こすことがあります。また、マラセチア菌に対する免疫反応が起きることで炎症が生じることもあります。

マラセチア菌は、マラセチア毛包炎以外にも、癜風、脂漏性皮膚炎、フケ症などの皮膚疾患に関与していることが知られています。また、近年ではアトピー性皮膚炎の増悪因子としても注目されています。さらに、長期にわたる中心静脈栄養、特に脂質を含む高栄養輸液を受けている易感染患者(主に新生児)において、深在性真菌症を引き起こすことも報告されています。

私たちの皮膚には、マラセチア菌だけでなく様々な常在菌が存在しており、これらの微生物間のバランスは皮膚の健康を維持する上で非常に重要です。マラセチア菌は通常は問題を起こしませんが、このバランスが崩れて増えすぎると、様々な皮膚トラブルの原因となるのです。

マラセチア毛包炎の症状と特徴

マラセチア毛包炎の症状と特徴について詳しく解説します。適切な治療を受けるためには、まず自分の症状がマラセチア毛包炎かどうかを把握することが重要です。

主な症状

マラセチア毛包炎を発症すると、毛穴に一致して赤い小さなポツポツ(丘疹)が現れます。これらのポツポツは直径2〜5mm程度で、一つ一つが独立して存在しています。症状が進行すると、ポツポツの数が増え、同時に白や黄色の膿を持つ膿疱がみられるようになることもあります。

マラセチア毛包炎の特徴的な症状として、かゆみが挙げられます。かゆみの程度は個人差がありますが、多くの患者さんがかゆみを訴えます。特にアトピー性皮膚炎のある方では、マラセチアに対する過敏性を持っていることが多く、ひどくかゆみを感じたり、膨疹(じんましんのような腫れ)ができたりすることがあります。一方、痛みを伴うことはあまりありません。

また、マラセチア毛包炎の皮疹は表面に光沢があることが特徴の一つです。赤みが強く、テカテカと光って見えることが多いです。

好発部位

マラセチア毛包炎は、皮脂の分泌が多い部位に発症しやすいという特徴があります。具体的には以下のような部位によくみられます。

背中(特に上半分)はマラセチア毛包炎が最も多くみられる部位の一つです。背中は汗をかきやすく、自分では見えにくいため、症状に気づきにくいことがあります。「背中ニキビ」と呼ばれている症状の多くは、実はマラセチア毛包炎である可能性があります。

胸(デコルテ)も好発部位です。胸元は衣類で覆われていることが多く、汗が溜まりやすい環境になりがちです。「胸ニキビ」と思っていた症状がマラセチア毛包炎であったというケースも珍しくありません。

その他、肩、上腕、首なども発症しやすい部位です。これらの部位は皮脂腺が発達しており、マラセチア菌が増殖しやすい環境が整っています。

一方、顔面にはあまり発症しないことがマラセチア毛包炎の特徴の一つです。顔にできるニキビの多くはアクネ菌が原因であり、体幹部にできるブツブツがマラセチア毛包炎であることが多いです。ただし、顔面にもマラセチア毛包炎が生じることは稀にあります。

季節性

マラセチア毛包炎には明確な季節性があります。マラセチア菌は高温多湿の環境を好むため、気温と湿度が上昇する梅雨時期から夏場にかけて症状が悪化しやすくなります。汗をかく機会が増えることで、マラセチア菌が増殖しやすい環境が整うためです。

逆に、秋から冬にかけて気温と湿度が下がると、症状が軽減することが多いです。ただし、暖房の効いた室内で過ごすことが多い場合や、運動などで汗をかく機会が多い場合は、季節に関係なく症状が続くこともあります。

皮疹の特徴

マラセチア毛包炎の皮疹には、ニキビとは異なるいくつかの特徴があります。

まず、ポツポツの大きさや外見が均一であることが挙げられます。マラセチア毛包炎では、同じような大きさ・形の赤い丘疹が多数みられ、モノトーンな印象を受けます。一方、ニキビの場合は大小様々な皮疹が混在し、白ニキビ、黒ニキビ、赤ニキビ、膿んだ黄色ニキビなど、様々な段階のものが同時に存在することが多いです。

また、マラセチア毛包炎では白ニキビや黒ニキビに相当する「面皰(めんぽう)」がみられないことも重要な特徴です。面皰とは、毛穴の中に皮脂が詰まった状態のことで、ニキビの初期段階に相当します。マラセチア毛包炎ではこの面皰が形成されないため、毛穴の中心に白や黒の芯(コメド)が見えることがありません。

マラセチア毛包炎の原因と発症メカニズム

マラセチア毛包炎がどのようにして発症するのか、その原因と発症メカニズムについて詳しく見ていきましょう。

発症のメカニズム

マラセチア毛包炎は、皮膚に常在するマラセチア菌が毛包内で異常に増殖することで発症します。通常、マラセチア菌は皮膚表面に存在し、皮脂を分解しながら生活していますが、何らかの原因で毛包内に侵入し、そこで増殖すると炎症が起こります。

マラセチア菌が毛包内で増殖すると、菌体そのものや、菌が産生する酵素(リパーゼなど)によって皮脂が分解されます。この分解産物である遊離脂肪酸などが毛包周囲の組織を刺激し、炎症反応を引き起こします。また、マラセチア菌に対する免疫反応(炎症性サイトカインの産生など)も炎症の原因となります。

発症を促進する要因

マラセチア毛包炎の発症には、様々な要因が関与しています。以下に主な要因を挙げます。

高温多湿の環境は、マラセチア菌の増殖を促進する最も重要な要因の一つです。汗をかきやすい環境や湿気の多い気候では、皮膚表面の水分量が増加し、マラセチア菌が増殖しやすくなります。特に梅雨時期から夏にかけて発症・悪化しやすいのはこのためです。

過度の発汗も重要な要因です。運動後や入浴後に長時間濡れた状態が続くと、マラセチア菌が増殖しやすくなります。また、汗に含まれる成分がマラセチア菌の栄養源となることもあります。

皮脂の過剰分泌も発症を促進します。マラセチア菌は皮脂を栄養源としているため、皮脂分泌が多い人ほどマラセチア菌が増殖しやすくなります。思春期以降の若年層や、皮脂分泌が多い体質の方は発症リスクが高いと言えます。

免疫力の低下も関係しています。ストレス、疲労、睡眠不足、基礎疾患などによって免疫力が低下すると、マラセチア菌の増殖を抑える力が弱まり、発症しやすくなります。

ステロイド外用薬の長期使用も注意が必要です。ステロイド外用薬を長期間にわたって同じ部位に使用すると、皮膚の免疫機能が低下し、マラセチア菌が増殖しやすくなることがあります。特に、湿疹などの治療でステロイドを使用している部位にマラセチア毛包炎が発症することがあり、注意が必要です。

不適切なスキンケアも原因となることがあります。過度の洗浄は皮膚のバリア機能を低下させ、逆に洗浄不足は皮脂や汗の蓄積を招きます。また、油分の多い化粧品やボディクリームの使用は、マラセチア菌の栄養源を増やすことになり、増殖を促進する可能性があります。

衣類の素材や着用習慣も影響します。通気性の悪い素材の衣類を着用したり、汗で濡れた衣類を長時間着用し続けたりすると、皮膚が蒸れてマラセチア菌が増殖しやすい環境が作られます。

感染性について

マラセチア毛包炎は、他人から感染する疾患ではありません。マラセチア菌はもともと誰の皮膚にも存在している常在菌であり、その人の体内での菌の増殖により発症する疾患です。したがって、家族間での感染対策は必要ありません。また、マラセチア毛包炎の患者さんが他の人にうつす心配もありません。

ただし、マラセチア菌は生後間もない頃に、主に母親などとのスキンシップを通じて赤ちゃんの皮膚に定着すると考えられています。一度定着したマラセチア菌は、特殊な治療をしない限り、生涯にわたって皮膚に存在し続けます。

ニキビとマラセチア毛包炎の違い・見分け方

マラセチア毛包炎とニキビ(尋常性ざ瘡)は見た目が非常によく似ているため、間違えやすい疾患です。しかし、原因となる菌が全く異なるため、治療法も異なります。ここでは、両者の違いと見分け方について詳しく解説します。

原因菌の違い

マラセチア毛包炎とニキビの最大の違いは、原因となる菌の種類です。

マラセチア毛包炎は、マラセチアという真菌(カビの一種)が原因で起こります。真菌は細菌とは全く異なる生物であり、細胞の構造や代謝の仕組みが異なります。

一方、ニキビ(尋常性ざ瘡)は、アクネ菌(Cutibacterium acnes、旧名Propionibacterium acnes)という細菌が原因で起こります。アクネ菌も皮膚の常在菌ですが、毛穴が詰まって皮脂が溜まった環境(嫌気性環境)で増殖し、炎症を引き起こします。

この原因菌の違いにより、治療に使用する薬も異なります。ニキビには抗菌薬が効果的ですが、マラセチア毛包炎には抗真菌薬が必要です。ニキビ用の抗菌薬をマラセチア毛包炎に使用しても効果は期待できません。

皮疹の特徴の違い

マラセチア毛包炎とニキビでは、皮疹(ブツブツ)の特徴にいくつかの違いがあります。

皮疹の大きさについて、マラセチア毛包炎では均一な大きさ(2〜3mm程度)の赤い丘疹が特徴的です。一方、ニキビでは数mmから2cm程度まで様々な大きさの皮疹が混在します。

皮疹の多様性について、マラセチア毛包炎では単一の形態の皮疹(均一な赤い丘疹)がみられます。一方、ニキビでは白ニキビ(閉鎖面皰)、黒ニキビ(開放面皰)、赤ニキビ(炎症性丘疹)、膿を持った黄色ニキビ(膿疱)など、様々な段階の皮疹が同時に存在することが多いです。

面皰(コメド)の有無も重要な鑑別点です。ニキビでは、毛穴に皮脂が詰まった「面皰」(白ニキビや黒ニキビ)がみられますが、マラセチア毛包炎では面皰は形成されません。毛穴の中心に白や黒の芯が見える場合はニキビの可能性が高いと言えます。

表面の光沢について、マラセチア毛包炎の皮疹は表面にテカテカとした光沢があることが特徴です。ニキビにはこのような光沢は通常みられません。

好発部位の違い

好発部位(よく発症する場所)にも違いがあります。

マラセチア毛包炎は、主に胸や背中などの体幹部に多くみられます。顔面に発症することは比較的少ないです。

一方、ニキビは顔面に多く発症します。もちろん、胸や背中にもニキビはできますが、顔面が主な発症部位となることが多いです。

したがって、「顔にはほとんどブツブツがないのに、胸や背中にだけ多数のブツブツがある」という場合は、マラセチア毛包炎の可能性を考える必要があります。

自覚症状の違い

自覚症状にも違いがあります。

マラセチア毛包炎では、かゆみを伴うことが多いです。チクチク、ムズムズとしたかゆみを感じることがあります。一方、痛みを伴うことはあまりありません。

ニキビでは、炎症が強い場合に痛みを伴うことがあります。特に膿んだ状態や、深い部分で炎症が起きている場合は痛みが強くなることがあります。かゆみを伴うこともありますが、マラセチア毛包炎ほど顕著ではないことが多いです。

季節性の違い

マラセチア毛包炎には明確な季節性があり、高温多湿になる夏季に悪化しやすいという特徴があります。

一方、ニキビには明確な季節性はなく、通年性の疾患です。ホルモンバランスの変化、ストレス、食生活などの要因により、季節に関係なく症状が変動します。

セルフチェックのポイント

以下の項目に当てはまる場合は、マラセチア毛包炎の可能性があります。

  • 夏場(梅雨時期〜夏)に症状が悪化する
  • 胸や背中など体幹部に多く、顔にはあまりできない
  • 赤いポツポツの大きさが均一で、揃っている
  • 白ニキビや黒ニキビ(毛穴の芯が見えるもの)がない
  • かゆみを伴う
  • 表面に光沢がある
  • ニキビ用の薬を使っても改善しない

これらの項目に多く当てはまる場合は、マラセチア毛包炎の可能性がありますので、皮膚科を受診して正確な診断を受けることをお勧めします。なお、マラセチア毛包炎とニキビが混在していることもあり、自己判断は難しい場合があります。

マラセチア毛包炎の診断方法

マラセチア毛包炎の正確な診断を行うためには、皮膚科専門医による診察と必要に応じた検査が重要です。ここでは、診断に用いられる方法について解説します。

視診

まず、医師が患部を詳細に観察します。発疹の形状、大きさ、分布、色などを確認し、典型的なマラセチア毛包炎の特徴があるかどうかを評価します。また、触診によって皮膚の状態(乾燥、油分の程度など)も確認します。

経験豊富な皮膚科医であれば、視診だけでマラセチア毛包炎とニキビを区別できることも多いです。しかし、判別が難しい場合や確定診断が必要な場合には、以下のような検査を行います。

直接鏡検(KOH法)

直接鏡検は、マラセチア毛包炎の診断に最も重要な検査方法の一つです。患部から採取した検体(丘疹の内容物など)を水酸化カリウム(KOH)溶液で処理し、顕微鏡で観察します。

マラセチア毛包炎の場合、顕微鏡下で小型の胞子(酵母形のマラセチア)が多数観察されます。癜風の場合は菌糸も観察されますが、マラセチア毛包炎では主に胞子形態で検出されることが多いです。

マラセチアの胞子は気泡などと区別しにくいことがあるため、ズームブルーなどの染色液で染色してから観察することが推奨されています。染色により、マラセチアの胞子がより明確に確認できるようになります。

ウッド灯検査

ウッド灯検査は、特殊な紫外線ランプ(ウッド灯)を使用して行う検査です。暗室で患部にウッド灯を当てると、マラセチアが存在する部位が黄色や黄緑色の蛍光を発します。

この検査は特に癜風の診断に有用ですが、マラセチア毛包炎の診断にも補助的に使用されることがあります。肉眼では判別しにくい病変の範囲を確認するのに役立ちます。

培養検査

皮膚から採取した検体を培養して、マラセチア菌の存在を確認する方法です。マラセチア菌は脂質を必要とする特殊な栄養要求性を持つため、通常の培地ではなく、オリーブ油などの脂質成分を含む特殊な培地を使用します。

培養検査は確実な診断方法ですが、結果が出るまでに時間がかかるため、臨床現場では直接鏡検が主に用いられることが多いです。

皮膚生検

判別が特に難しい場合や、他の疾患との鑑別が必要な場合には、皮膚の小片を採取して病理組織学的検査を行うことがあります(皮膚生検)。組織を顕微鏡で観察し、毛包内にマラセチア菌が存在するかどうかを確認します。

診断的治療

マラセチア毛包炎とニキビの鑑別が難しい場合、抗真菌薬を使用して診断的治療を行うこともあります。抗真菌薬で症状が改善すれば、マラセチア毛包炎であったと診断できます。

マラセチア毛包炎の治療法

マラセチア毛包炎の治療は、原因菌であるマラセチアに対する抗真菌薬による薬物療法が主体となります。症状の程度や範囲に応じて、外用薬(塗り薬)と内服薬(飲み薬)を使い分けます。

外用薬(塗り薬)による治療

マラセチア毛包炎の治療において、まず第一選択となるのが抗真菌薬の外用薬です。患部に直接塗布することで、マラセチア菌の増殖を抑制します。

主に使用される外用薬として、ケトコナゾール(商品名:ニゾラールなど)があります。ケトコナゾールはイミダゾール系の抗真菌薬で、マラセチア菌に対して優れた効果を発揮します。クリーム剤やローション剤があり、症状や部位に応じて使い分けます。

外用薬の使用方法は、通常1日1〜2回、患部に薄く塗布します。入浴後の清潔な状態で塗布するのが効果的です。

外用薬による治療期間は、通常1〜2ヶ月程度です。症状が改善しても、医師の指示があるまで治療を継続することが重要です。早期に治療を中止すると、再発のリスクが高まります。

なお、日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン2019では、マラセチア毛包炎に対する抗真菌薬の外用療法の推奨度はBランク(行うよう勧める)とされています。

内服薬(飲み薬)による治療

外用薬だけでは効果が不十分な場合、症状が広範囲に及ぶ場合、症状が重度の場合、または再発を繰り返す場合には、内服薬による治療が行われます。

主に使用される内服薬として、イトラコナゾール(商品名:イトリゾールなど)があります。イトラコナゾールはトリアゾール系の抗真菌薬で、真菌の細胞膜の主要成分であるエルゴステロールの合成を阻害することで抗真菌作用を発揮します。マラセチア属を含む幅広い真菌に対して効果があります。

イトラコナゾールの用法・用量は、通常、成人に対してイトラコナゾールとして50〜100mgを1日1回食直後に経口投与します。食直後に服用することが重要で、これは食事によってイトラコナゾールの吸収率が向上するためです。空腹時に服用すると、食直後に服用した場合の約40%の血中濃度しか得られないとされています。

治療期間は症状によって異なりますが、通常4〜8週間程度です。症状が改善しても、医師の指示に従って治療を継続することが大切です。

日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン2019では、マラセチア毛包炎に対する抗真菌薬の内服療法の推奨度はAランク(行うよう強く勧める)とされており、外用療法よりも高い推奨度となっています。これは、内服療法の方がより速やかに効果を発揮することが多いためです。

内服薬使用時の注意点

イトラコナゾールの内服治療を行う際には、いくつかの注意点があります。

肝機能への影響について、イトラコナゾールは肝臓で代謝されるため、まれに肝機能障害を引き起こすことがあります。治療中は定期的に肝機能検査を行い、異常がないかを確認することが重要です。肝疾患の既往がある方や、肝機能に影響を与える可能性のある他の薬を服用している方は、事前に医師に相談してください。

薬物相互作用について、イトラコナゾールは多くの薬物と相互作用を起こす可能性があります。特に、ピモジド、キニジン、トリアゾラムなど一部の薬剤とは併用が禁忌とされています。現在服用中の薬がある場合は、必ず医師や薬剤師に伝えてください。

妊娠・授乳中の方への使用について、イトラコナゾールは妊娠中の方には原則として使用できません。また、授乳中の方も使用を避けるか、使用する場合は授乳を中止する必要があります。

アルコールについて、イトラコナゾールとアルコールの併用は添付文書上禁忌とはされていませんが、アルコール摂取により肝機能が障害されると、副作用が現れやすくなる可能性があります。治療中はできるだけ飲酒を控えることが望ましいです。

その他の治療法

症状に応じて、かゆみを抑えるための抗ヒスタミン薬が処方されることもあります。また、状態によってはケミカルピーリングや光治療などが補助的に行われることもあります。

治療効果が不十分な場合

抗真菌薬を使用しても症状が改善しない場合は、以下の可能性が考えられます。

診断が正確でない可能性があります。マラセチア毛包炎ではなく、ニキビや他の皮膚疾患である可能性があります。再度診察を受け、診断を確認することが重要です。

薬剤の使用方法が適切でない可能性もあります。外用薬の塗布量が不十分であったり、内服薬を空腹時に服用していたりすると、十分な効果が得られないことがあります。

また、生活習慣の改善が不十分な場合、薬で一時的に症状が改善しても、マラセチア菌が増殖しやすい環境が続いていれば、効果が限定的になることがあります。

マラセチア毛包炎の予防法と日常生活での注意点

マラセチア毛包炎は、日常生活での対策によって発症や悪化を予防することができます。ここでは、具体的な予防法と注意点について解説します。

皮膚を清潔に保つ

マラセチア菌は汗や皮脂を栄養源として増殖するため、皮膚を清潔に保つことが最も基本的な予防策です。

入浴やシャワーを習慣にしましょう。特に汗をかいた後は、できるだけ早くシャワーで汗を洗い流すことが効果的です。背中や胸など、マラセチア毛包炎が好発する部位は特に丁寧に洗いましょう。

ただし、洗いすぎには注意が必要です。過度な洗浄は皮膚のバリア機能を低下させ、かえって皮膚トラブルを招くことがあります。石鹸やボディソープは適量を使用し、肌をこすりすぎないようにしましょう。また、ナイロンタオルなどで強くこするのは避け、手のひらや柔らかいタオルで優しく洗うことをお勧めします。

抗真菌成分を配合したボディソープやシャンプーの使用も効果的です。ミコナゾール硝酸塩などの抗真菌成分を含む製品は、マラセチア菌の増殖を抑える効果が報告されています。

汗対策を徹底する

汗はマラセチア菌が増殖する大きな要因となるため、汗対策は非常に重要です。

汗をかいたらこまめに拭き取りましょう。清潔なハンカチやタオルを使い、汗をこまめに拭き取ることで、皮膚表面の湿度を下げることができます。拭き取る際は、肌をこすらないように優しく押さえるようにしましょう。

可能であれば、汗をかいた後はシャワーを浴びるのが最も効果的です。シャワーが難しい場合は、清潔な濡れタオルで汗を拭き取るだけでも効果があります。

汗で濡れた衣類は早めに着替えましょう。濡れた衣類を長時間着用し続けると、皮膚が蒸れた状態が続き、マラセチア菌が増殖しやすくなります。

通気性の良い衣類を選ぶ

衣類の選び方もマラセチア毛包炎の予防に重要です。

通気性の良い素材の衣類を選びましょう。綿やリネンなどの天然素材は通気性が良く、汗を吸収しやすいのでお勧めです。一方、化学繊維の中には通気性が悪いものもあるので注意が必要です。ただし、最近は吸湿速乾性に優れた機能性素材も多くあります。

ゆったりとしたサイズの衣類を選ぶことも効果的です。体に密着したタイトな衣類は、汗が蒸発しにくく、皮膚が蒸れやすくなります。

寝具も同様に、通気性の良い素材を選び、こまめに洗濯・乾燥させましょう。

保湿剤の選び方に注意する

マラセチア菌は脂質を栄養源とするため、油分の多い保湿剤やボディクリームの使用には注意が必要です。

特にマラセチア毛包炎が好発する部位(胸、背中など)に油分の多い製品を使用すると、マラセチア菌のエサを供給することになり、症状を悪化させる可能性があります。

保湿が必要な場合は、油分を含まない「オイルフリー」表示のジェルやローションタイプの製品を選ぶことをお勧めします。

生活習慣の改善

全身の免疫力を維持することも、マラセチア毛包炎の予防に重要です。

バランスの良い食事を心がけましょう。脂質や糖質の過剰摂取は皮脂の分泌を促進する可能性があります。野菜、果物、たんぱく質などをバランス良く摂取することが大切です。

十分な睡眠をとりましょう。睡眠不足は免疫力の低下を招きます。質の良い睡眠を確保することで、皮膚の健康維持にもつながります。

ストレスの管理も重要です。過度のストレスは免疫力を低下させ、ホルモンバランスを乱す原因となります。適度な運動や趣味の時間を持つなど、ストレス解消を心がけましょう。

環境の調整

高温多湿の環境を避けることも予防に有効です。

室内の湿度が高くなりすぎないよう、エアコンや除湿機を活用しましょう。特に梅雨時期は室内の湿度管理が重要です。

入浴後は、浴室から出たらすぐに体を拭き、衣類を着用しましょう。濡れた状態で長時間過ごすのは避けてください。

再発を防ぐために

マラセチア毛包炎は非常に再発しやすい疾患です。マラセチア菌は皮膚の常在菌であるため、薬で一時的に菌量を減らしても、完全に除去することはできません。したがって、治療後も再発予防のための取り組みを続けることが重要です。

治療の継続

症状が改善しても、医師の指示があるまで治療を自己判断で中止しないことが大切です。見た目の症状が消えても、菌が完全にコントロールされていない可能性があります。処方された薬は、指示された期間きちんと使用しましょう。

定期的な経過観察

治療が終了した後も、症状の再発がないか定期的に自己チェックを行いましょう。また、再発の兆候があれば、早めに皮膚科を受診することが大切です。早期に対処すれば、軽度の治療で済むことが多いです。

予防的なスキンケア

再発しやすい方は、症状がない時期でも抗真菌成分を配合したボディソープやシャンプーを継続的に使用することで、マラセチア菌の増殖を抑え、再発を予防できる可能性があります。

季節に応じた対策

マラセチア毛包炎は夏場に悪化しやすいため、梅雨入り前から予防対策を強化することをお勧めします。汗をかきやすい季節になったら、普段以上に清潔を心がけ、通気性の良い衣類を選ぶようにしましょう。

トリガーの把握と回避

自分がどのような状況で再発しやすいかを把握しておくことも重要です。運動後、旅行中、ストレスが多い時期など、再発のきっかけとなる要因がわかれば、事前に対策を講じることができます。

よくある質問

マラセチア毛包炎に関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q. マラセチア毛包炎は人にうつりますか?

A. マラセチア毛包炎は人にうつることはありません。マラセチア菌は元々誰の皮膚にも存在する常在菌であり、その人の体内での菌の増殖により発症する疾患です。家族間での感染対策は必要ありませんし、患者さんが他の人にうつす心配もありません。

Q. 市販薬で治すことはできますか?

A. マラセチア毛包炎に特化した市販の塗り薬は非常に少ないのが現状です。市販の水虫薬に含まれる抗真菌成分がマラセチアにも効果を示す可能性はありますが、確実な効果を得るためには、皮膚科で処方される専用の抗真菌薬を使用することをお勧めします。また、自己判断で間違った薬を使用すると、症状を悪化させる可能性もあります。

Q. 治療期間はどのくらいですか?

A. 外用薬で治療する場合、通常1〜2ヶ月程度で改善がみられることが多いです。内服薬を使用する場合は4〜8週間程度の治療期間が必要になることが多いです。ただし、症状の程度や範囲によって異なりますので、医師の指示に従ってください。

Q. 一度治っても再発しますか?

A. はい、マラセチア毛包炎は再発しやすい疾患です。原因となるマラセチア菌は皮膚の常在菌であるため、完全に除去することはできません。治療後も予防対策を継続することが、再発防止のために重要です。

Q. 食事で気をつけることはありますか?

A. 特定の食品がマラセチア毛包炎を直接悪化させるという明確なエビデンスはありませんが、脂質や糖質の過剰摂取は皮脂の分泌を促進する可能性があります。バランスの良い食事を心がけることが大切です。また、アルコールの過剰摂取も皮脂分泌や免疫機能に影響を与える可能性があるため、控えめにすることをお勧めします。

Q. 運動をしても大丈夫ですか?

A. 運動自体は問題ありませんが、運動後の汗対策が重要です。運動後はできるだけ早くシャワーを浴びて汗を洗い流し、清潔な衣類に着替えましょう。また、運動中も吸湿速乾性の高いウェアを着用するなど、汗対策を心がけてください。

Q. プールや海水浴は大丈夫ですか?

A. プールや海水浴自体は禁止されていませんが、いくつか注意点があります。塩素や海水が肌に刺激を与える可能性があるため、終了後はしっかりとシャワーを浴びて洗い流しましょう。また、濡れた水着を長時間着用し続けることは避け、できるだけ早く着替えるようにしてください。

Q. 化粧品やスキンケア製品は使っても大丈夫ですか?

A. 使用は可能ですが、油分の多い製品はマラセチア菌の栄養源となる可能性があるため、注意が必要です。特にマラセチア毛包炎が好発する部位には、オイルフリーの製品を選ぶことをお勧めします。

Q. ニキビとマラセチア毛包炎が両方ある場合はどうすれば良いですか?

A. 両方が混在していることは珍しくありません。その場合は、それぞれに適した治療を並行して行う必要があります。自己判断は難しいため、皮膚科を受診して適切な診断と治療を受けることをお勧めします。

まとめ

マラセチア毛包炎は、皮膚の常在菌であるマラセチア菌が毛包内で異常増殖することで起こる皮膚疾患です。見た目がニキビに非常によく似ているため間違えやすいですが、原因菌が異なるため、適切な診断と治療が重要です。

マラセチア毛包炎の主な特徴として、胸や背中など体幹部に好発すること、均一な大きさの赤いポツポツがみられること、かゆみを伴うことが多いこと、夏場に悪化しやすいこと、そしてニキビ用の薬では効果がないことが挙げられます。

治療は抗真菌薬による薬物療法が主体となります。日本皮膚科学会のガイドラインでは、内服療法の推奨度がAランク、外用療法の推奨度がBランクとされており、症状に応じて適切な治療法を選択します。

マラセチア毛包炎は適切な治療により改善が期待できる疾患ですが、再発しやすいという特徴があります。そのため、治療だけでなく、日常生活での予防対策も重要です。皮膚を清潔に保つこと、汗対策を徹底すること、通気性の良い衣類を選ぶこと、油分の多い保湿剤を避けることなどを心がけましょう。

「背中ニキビ」や「胸ニキビ」がなかなか治らない、夏になると体にかゆみのあるブツブツができる、という方は、マラセチア毛包炎の可能性があります。気になる症状がある方は、ぜひ専門医にご相談ください。


参考文献


本記事は、一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断や治療の代替となるものではありません。症状がある場合は、必ず専門医にご相談ください。

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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