夏になると背中や胸に赤いブツブツができて困っている方は多いのではないでしょうか。「背中ニキビ」や「胸ニキビ」と思い込んでニキビ用の薬を塗っているのに、なかなか治らないという経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。実は、そのブツブツの正体は「ニキビ」ではなく「マラセチア毛包炎」という別の皮膚疾患である可能性があります。
マラセチア毛包炎は、皮膚に常在するマラセチアという真菌(カビの一種)が原因で起こる毛穴の炎症です。見た目がニキビに非常によく似ているため、多くの方がニキビと間違えてしまいますが、原因となる菌が異なるため、一般的なニキビ治療では効果が得られません。正しい診断と適切な治療を受けることで、マラセチア毛包炎は改善が期待できる疾患です。
本記事では、アイシークリニック渋谷院の皮膚科専門医の監修のもと、マラセチア毛包炎の症状から原因、診断方法、治療法、そして予防方法まで、詳しく解説いたします。なかなか治らない背中や胸のブツブツにお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
- マラセチア毛包炎とは?症状・原因・治療法の基礎知識
- マラセチア菌の特徴と発症メカニズム
- ニキビとの見分け方・診断方法
- マラセチア毛包炎の治療法
- 予防と再発防止の対策
- よくある質問
- まとめ
🔍 マラセチア毛包炎とは?症状・原因・治療法の基礎知識
マラセチア毛包炎とは、マラセチアと呼ばれる真菌(カビ)が毛包(毛穴の奥にある毛根を包んでいる部分)で異常に増殖し、炎症を起こしてしまう皮膚疾患です。毛包炎とは毛穴に起こる炎症の総称であり、マラセチア菌が原因となって発症するものを特にマラセチア毛包炎と呼びます。
この疾患は「癜風菌性毛包炎」と呼ばれることもあります。これは、マラセチア菌が「癜風(でんぷう)」という皮膚に茶色や白の斑点ができる別の皮膚疾患の原因菌でもあることに由来しています。ただし、同じマラセチア菌が原因であっても、毛包炎と癜風では症状の現れ方が大きく異なります。
📍 マラセチア毛包炎の症状
マラセチア毛包炎を発症すると、毛穴に一致して赤い小さなポツポツ(丘疹)が現れます。これらのポツポツは直径2〜5mm程度で、一つ一つが独立して存在しています。症状が進行すると、ポツポツの数が増え、同時に白や黄色の膿を持つ膿疱がみられるようになることもあります。
マラセチア毛包炎の特徴的な症状として、かゆみが挙げられます。かゆみの程度は個人差がありますが、多くの患者さんがかゆみを訴えます。特にアトピー性皮膚炎のある方では、マラセチアに対する過敏性を持っていることが多く、ひどくかゆみを感じたり、膨疹(じんましんのような腫れ)ができたりすることがあります。
📍 好発部位
マラセチア毛包炎は、皮脂の分泌が多い部位に発症しやすいという特徴があります。具体的には、以下の部位に多くみられます:
- 胸
- 背中
- 肩
- 上腕
- 首など
また、高温多湿の環境で発症しやすいため、汗をかきやすい夏場に症状が悪化する傾向があります。
📍 原因について
マラセチア毛包炎の原因となるマラセチア菌は、ヒトを含む恒温動物の皮膚に常在する酵母様の真菌(カビ)の一種です。健康な人の皮膚にも広く存在しており、通常は皮膚の正常なフローラ(常在菌叢)の一部として存在しています。
🦠 マラセチア菌の特徴と発症メカニズム
マラセチア毛包炎の原因となるマラセチア菌について、もう少し詳しく見ていきましょう。
📌 マラセチア菌の基本的特徴
マラセチア菌の最大の特徴は、発育に脂質を必要とするという点です。このため「脂質好性酵母」とも呼ばれています。マラセチア菌は私たちの皮膚から分泌される皮脂を栄養源として生活しており、特に皮脂の分泌が多い部位、すなわち脂漏部位(頭皮、顔、胸、背中など)に多く存在しています。
マラセチア属真菌は現在14種類に分類されていますが、人間の皮膚から分離される頻度が高いのは以下の種類です:
- Malassezia globosa(マラセチア・グロボーサ)
- Malassezia restricta(マラセチア・レストリクタ)
📌 発症のメカニズム
マラセチア毛包炎は、皮膚に常在するマラセチア菌が毛包内で異常に増殖することで発症します。通常、マラセチア菌は皮膚表面に存在し、皮脂を分解しながら生活していますが、何らかの原因で毛包内に侵入し、そこで増殖すると炎症が起こります。
マラセチア菌が毛包内で増殖すると、以下のような炎症反応が起こります:
- 菌が産生するリパーゼによって皮脂が分解される
- 分解産物(遊離脂肪酸など)が毛包周囲の組織を刺激
- マラセチア菌に対する免疫反応(炎症性サイトカインの産生など)
📌 発症を促進する要因
マラセチア毛包炎の発症には、様々な要因が関与しています:
環境要因
- 高温多湿の環境:最も重要な要因
- 過度の発汗:汗に含まれる成分がマラセチア菌の栄養源となる
体質・生理的要因
- 皮脂の過剰分泌:マラセチア菌の栄養源となるため、皮脂分泌が多い人ほどリスクが高い
- 免疫力の低下:ストレス、疲労、睡眠不足、基礎疾患などによる
🔬 ニキビとの見分け方・診断方法
マラセチア毛包炎とニキビ(尋常性ざ瘡)は見た目が非常によく似ているため、間違えやすい疾患です。しかし、原因となる菌が全く異なるため、治療法も異なります。
🔸 原因菌の違い
| マラセチア毛包炎 | ニキビ(尋常性ざ瘡) | |
|---|---|---|
| 原因菌 | マラセチア(真菌・カビ) | アクネ菌(細菌) |
| 効果的な治療薬 | 抗真菌薬 | 抗菌薬 |
🔸 皮疹の特徴の違い
| 特徴 | マラセチア毛包炎 | ニキビ |
|---|---|---|
| 皮疹の大きさ | 均一(2〜3mm程度) | 様々(数mm〜2cm程度) |
| 面皰(コメド) | なし | あり(白ニキビ・黒ニキビ) |
| 表面の光沢 | テカテカとした光沢あり | 光沢なし |
🔸 診断方法
マラセチア毛包炎の正確な診断を行うためには、皮膚科専門医による診察と必要に応じた検査が重要です。
直接鏡検(KOH法)
直接鏡検は、マラセチア毛包炎の診断に最も重要な検査方法の一つです。患部から検体を採取し、顕微鏡で観察することで、マラセチア菌の存在を確認できます。
ウッド灯検査
- 特殊な紫外線ランプを使用した検査
- マラセチアが存在する部位が黄色や黄緑色の蛍光を発する
🔸 セルフチェックのポイント
以下の項目に当てはまる場合は、マラセチア毛包炎の可能性があります:
- ✅ 夏場(梅雨時期〜夏)に症状が悪化する
- ✅ 胸や背中など体幹部に多く、顔にはあまりできない
- ✅ 赤いポツポツの大きさが均一で、揃っている
- ✅ 白ニキビや黒ニキビ(毛穴の芯が見えるもの)がない
- ✅ かゆみを伴う
- ✅ ニキビ用の薬を使っても改善しない
💊 マラセチア毛包炎の治療法
マラセチア毛包炎の治療は、原因菌であるマラセチアに対する抗真菌薬による薬物療法が主体となります。症状の程度や範囲に応じて、外用薬(塗り薬)と内服薬(飲み薬)を使い分けます。
🔸 外用薬(塗り薬)による治療
マラセチア毛包炎の治療において、まず第一選択となるのが抗真菌薬の外用薬です。患部に直接塗布することで、マラセチア菌の増殖を抑制します。
主要な外用薬
- ケトコナゾール(商品名:ニゾラールなど)
- イミダゾール系抗真菌薬
- クリーム剤やローション剤あり
- マラセチア菌に対して優れた効果
日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン2019では、外用療法の推奨度はBランク(行うよう勧める)とされています。
🔸 内服薬(飲み薬)による治療
以下の場合には内服薬による治療が行われます:
- 外用薬だけでは効果が不十分
- 症状が広範囲に及ぶ
- 症状が重度
- 再発を繰り返す
主要な内服薬
イトラコナゾール(商品名:イトリゾールなど)
- トリアゾール系抗真菌薬
- 真菌の細胞膜成分エルゴステロールの合成を阻害
- マラセチア属を含む幅広い真菌に効果
日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン2019では、内服療法の推奨度はAランク(行うよう強く勧める)とされており、外用療法よりも高い推奨度となっています。
🔸 内服薬使用時の注意点
イトラコナゾールの内服治療を行う際には、以下の注意点があります:
- 肝機能への影響:まれに肝機能障害を引き起こす可能性があり、治療中は定期的な肝機能検査が必要
- 薬物相互作用:多くの薬物と相互作用の可能性があり、現在服用中の薬は必ず報告が必要
- 妊娠・授乳:妊娠中は原則使用不可、授乳中は使用を避ける
🛡️ 予防と再発防止の対策
マラセチア毛包炎は、日常生活での対策によって発症や悪化を予防することができます。
🔸 皮膚を清潔に保つ
マラセチア菌は汗や皮脂を栄養源として増殖するため、皮膚を清潔に保つことが最も基本的な予防策です。
入浴・シャワーのポイント
- 汗をかいた後はできるだけ早くシャワーで洗い流す
- 背中や胸など好発部位は特に丁寧に洗う
- 過度な洗浄は避け、適量の石鹸・ボディソープを使用
- 手のひらや柔らかいタオルで優しく洗う
🔸 汗対策を徹底する
汗はマラセチア菌が増殖する大きな要因となるため、汗対策は非常に重要です。
- 汗をかいたらこまめに拭き取る
- 清潔なハンカチやタオルを使用
- 汗で濡れた衣類は早めに着替える
- 通気性の良い衣類を選択する
🔸 再発を防ぐために
マラセチア毛包炎は非常に再発しやすい疾患です。マラセチア菌は皮膚の常在菌であるため、薬で一時的に菌量を減らしても、完全に除去することはできません。
- 症状が改善しても医師の指示があるまで治療を自己判断で中止しない
- 治療終了後も症状の再発がないか定期的にセルフチェック
- 梅雨入り前から予防対策を強化
- 再発しやすい方は症状がない時期でも抗真菌成分配合製品の継続使用

❓ よくある質問
マラセチア毛包炎に関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
A. マラセチア毛包炎は人にうつることはありません。マラセチア菌は元々誰の皮膚にも存在する常在菌であり、その人の体内での菌の増殖により発症する疾患です。家族間での感染対策は必要ありませんし、患者さんが他の人にうつす心配もありません。
A. マラセチア毛包炎に特化した市販の塗り薬は非常に少ないのが現状です。市販の水虫薬に含まれる抗真菌成分がマラセチアにも効果を示す可能性はありますが、確実な効果を得るためには、皮膚科で処方される専用の抗真菌薬を使用することをお勧めします。また、自己判断で間違った薬を使用すると、症状を悪化させる可能性もあります。
A. 外用薬で治療する場合、通常1〜2ヶ月程度で改善がみられることが多いです。内服薬を使用する場合は4〜8週間程度の治療期間が必要になることが多いです。ただし、症状の程度や範囲によって異なりますので、医師の指示に従ってください。
A. はい、マラセチア毛包炎は再発しやすい疾患です。原因となるマラセチア菌は皮膚の常在菌であるため、完全に除去することはできません。治療後も予防対策を継続することが、再発防止のために重要です。
A. 特定の食品がマラセチア毛包炎を直接悪化させるという明確なエビデンスはありませんが、脂質や糖質の過剰摂取は皮脂の分泌を促進する可能性があります。バランスの良い食事を心がけることが大切です。また、アルコールの過剰摂取も皮脂分泌や免疫機能に影響を与える可能性があるため、控えめにすることをお勧めします。
A. 運動自体は問題ありませんが、運動後の汗対策が重要です。運動後はできるだけ早くシャワーを浴びて汗を洗い流し、清潔な衣類に着替えましょう。また、運動中も吸湿速乾性の高いウェアを着用するなど、汗対策を心がけてください。
A. プールや海水浴自体は禁止されていませんが、いくつか注意点があります。塩素や海水が肌に刺激を与える可能性があるため、終了後はしっかりとシャワーを浴びて洗い流しましょう。また、濡れた水着を長時間着用し続けることは避け、できるだけ早く着替えるようにしてください。
A. 使用は可能ですが、油分の多い製品はマラセチア菌の栄養源となる可能性があるため、注意が必要です。特にマラセチア毛包炎が好発する部位には、オイルフリーの製品を選ぶことをお勧めします。
A. 両方が混在していることは珍しくありません。その場合は、それぞれに適した治療を並行して行う必要があります。自己判断は難しいため、皮膚科を受診して適切な診断と治療を受けることをお勧めします。
📋 まとめ
マラセチア毛包炎は、皮膚の常在菌であるマラセチア菌が毛包内で異常増殖することで起こる皮膚疾患です。見た目がニキビに非常によく似ているため間違えやすいですが、原因菌が異なるため、適切な診断と治療が重要です。
マラセチア毛包炎の主な特徴
- 胸や背中など体幹部に好発
- 均一な大きさの赤いポツポツ
- かゆみを伴うことが多い
- 夏場に悪化しやすい
- ニキビ用の薬では効果がない
治療について
抗真菌薬による薬物療法が主体となります。日本皮膚科学会のガイドラインでは、内服療法の推奨度がAランク、外用療法の推奨度がBランクとされており、症状に応じて適切な治療法を選択します。
予防と再発防止
マラセチア毛包炎は適切な治療により改善が期待できる疾患ですが、再発しやすいという特徴があります。日常生活での予防対策として、以下の点が重要です:
- 皮膚を清潔に保つ
- 汗をかいた後の適切なケア
- 通気性の良い衣類の選択
- 油分の多い化粧品の使用を避ける
- 高温多湿の環境を避ける
受診のタイミング
以下のような症状がある場合は、皮膚科を受診することをお勧めします:
- 背中や胸に赤いポツポツが多数できている
- 夏場に症状が悪化する
- かゆみを伴う皮疹がある
- ニキビ用の薬を使っても改善しない
- 症状が広範囲に及んでいる
マラセチア毛包炎は、正しい知識と適切な治療により改善が期待できる疾患です。自己判断で治療を行わず、皮膚科専門医による正確な診断を受けることが、症状改善への第一歩となります。
なお、皮膚トラブルには様々な原因があります。乾燥と湿疹の見分け方やニキビの場所の意味についても理解しておくと、より適切なスキンケアが可能になります。
📚 参考文献
- 日本皮膚科学会 – 皮膚真菌症診療ガイドライン2019
- 厚生労働省 – 皮膚疾患に関する医療情報
- 日本医真菌学会 – マラセチア関連疾患の診断と治療
- 皮膚科臨床 – マラセチア毛包炎の最新治療
- 日本皮膚科学会雑誌 – マラセチア属真菌の病原性に関する研究
監修者医師
高桑 康太 医師
保有資格
ミラドライ認定医
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
- 皮膚腫瘍・皮膚外科領域で15年以上の臨床経験と30,000件超の手術実績を持ち、医学的根拠に基づき監修を担当
- 専門分野:皮膚腫瘍、皮膚外科、皮膚科、形成外科
- 臨床実績(2024年時点) 皮膚腫瘍・皮膚外科手術:30,000件以上、腋臭症治療:2,000件以上、酒さ・赤ら顔治療:1,000件以上
- 監修領域 皮膚腫瘍(ほくろ・粉瘤・脂肪腫など)、皮膚外科手術、皮膚がん、一般医療コラムに関する医療情報
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
マラセチア菌は誰の皮膚にも存在する「常在菌」ですが、高温多湿の環境で異常に増殖すると炎症を引き起こします。特に汗をかきやすい夏場は要注意です。見た目がニキビに似ているため間違いやすいですが、原因菌が異なるため適切な診断と治療が重要になります。