はじめに
冬になると流行するインフルエンザ。突然の高熱に見舞われ、「これはただの風邪ではない」と感じたことがある方も多いのではないでしょうか。インフルエンザの最も特徴的な症状の一つが、38℃を超える高熱です。なぜインフルエンザでは高い熱が出るのか、その熱にはどう対処すればよいのか、正しい知識を持つことは、自分自身や家族の健康を守るために非常に重要です。
本記事では、インフルエンザによる発熱のメカニズムから、熱の経過、適切な対処法、医療機関を受診すべきタイミングまで、詳しく解説していきます。
インフルエンザとは
インフルエンザの基本知識
インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる急性呼吸器感染症です。毎年冬季を中心に流行し、日本では例年約1000万人が罹患すると推定されています。インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型があり、特にA型とB型が季節性の流行を引き起こします。
厚生労働省のインフルエンザ情報によると、インフルエンザは単なる風邪とは異なり、全身症状が強く現れるのが特徴です。
普通の風邪との違い
インフルエンザと普通の風邪(感冒)は、しばしば混同されますが、その症状や経過には明確な違いがあります。
インフルエンザの特徴:
- 突然の発症(数時間から半日程度で急激に症状が現れる)
- 38℃以上の高熱
- 全身症状(強い倦怠感、関節痛、筋肉痛、頭痛)が顕著
- 発熱が先行し、後から呼吸器症状(咳、鼻水)が現れる
普通の風邪の特徴:
- 緩やかな発症(1~2日かけてゆっくり症状が進行)
- 微熱または平熱
- 鼻水、くしゃみ、喉の痛みなど呼吸器症状が中心
- 全身症状は軽度
この違いを理解することで、早期にインフルエンザを疑い、適切な対応をとることができます。
インフルエンザによる発熱の特徴
高熱が出る理由
インフルエンザで高熱が出るのには、生物学的な理由があります。インフルエンザウイルスが体内に侵入すると、私たちの免疫システムが活性化し、ウイルスと戦うためのさまざまな反応が起こります。
発熱のメカニズム:
- ウイルスの侵入: インフルエンザウイルスが鼻や喉の粘膜から体内に侵入します。
- 免疫細胞の活性化: ウイルスを感知した白血球などの免疫細胞が活性化し、サイトカインという物質を放出します。
- 体温調節中枢への作用: サイトカインが血流に乗って脳の視床下部(体温調節中枢)に到達し、体温の設定温度を上げる指令を出します。
- 体温上昇: 筋肉の震え(悪寒)や血管収縮により熱産生が増加し、体温が上昇します。
発熱は単なる症状ではなく、実は私たちの体がウイルスと戦うための重要な防御反応なのです。高い体温は、ウイルスの増殖を抑制し、免疫細胞の働きを活性化させる効果があります。
インフルエンザの熱の高さと期間
インフルエンザによる発熱には、いくつかの特徴的なパターンがあります。
熱の高さ:
- 成人では通常38℃~40℃の高熱
- 小児ではさらに高く、40℃を超えることも珍しくない
- 高齢者では比較的熱が低いこともある(37℃台の場合も)
熱の持続期間:
- 抗インフルエンザ薬を使用しない場合:3~7日程度
- 抗インフルエンザ薬を使用した場合:1~3日程度に短縮
- 解熱後も倦怠感などが数日~1週間程度続くことがある
国立感染症研究所の報告によれば、インフルエンザの自然経過では、発症後2~3日で熱がピークに達し、その後徐々に解熱していくパターンが典型的です。
二峰性発熱とは
インフルエンザの発熱パターンで注意が必要なのが「二峰性発熱」です。これは、一度解熱した後に再び発熱するパターンで、以下のような場合に見られます。
二峰性発熱の原因:
- 細菌による二次感染(肺炎、中耳炎など)
- インフルエンザ脳症などの合併症
- 薬剤の効果が切れたことによる再燃
一度熱が下がったのに再び発熱した場合は、合併症の可能性があるため、必ず医療機関を受診することが重要です。
発熱に伴う症状
全身症状
インフルエンザの発熱に伴い、さまざまな全身症状が現れます。これらは発熱そのものと、ウイルス感染による免疫反応の両方が原因となっています。
主な全身症状:
- 悪寒・寒気
- 発熱の初期に強く現れる
- 体温が上昇する過程で生じる
- 筋肉の震えを伴うことも
- 倦怠感
- 非常に強い疲労感、脱力感
- 起き上がることも困難なほど
- 発熱が続く間は継続
- 関節痛・筋肉痛
- 全身の関節や筋肉に痛みを感じる
- サイトカインの作用による
- 「体が砕けそう」と表現されることも
- 頭痛
- 前額部を中心とした強い頭痛
- ズキズキとした拍動性の痛み
- 発熱の程度に比例することが多い
- 食欲不振
- 食事がほとんど摂れない
- 脱水のリスクを高める
呼吸器症状
発熱とともに、または発熱に遅れて呼吸器症状が現れます。
主な呼吸器症状:
- 咳
- 初期は乾いた咳
- 数日後に痰を伴う咳に変化
- 2週間程度続くことも
- 喉の痛み
- 飲み込み時の痛み
- 炎症による赤みや腫れ
- 鼻水・鼻づまり
- 発熱後数日してから出現することが多い
- 水様性から粘性へ変化
年齢別の発熱の特徴
乳幼児のインフルエンザ熱
乳幼児はインフルエンザに罹患すると、成人とは異なる特徴的な症状を示すことがあります。
乳幼児の特徴:
- 40℃を超える高熱を出しやすい
- 熱性けいれんを起こすリスクが高い
- 脱水になりやすい
- 症状を言葉で訴えられないため、注意深い観察が必要
- 不機嫌、哺乳不良、元気がないなどの症状
日本小児科学会のガイドラインでは、乳幼児のインフルエンザでは合併症のリスクが高いため、早期の診断と治療が推奨されています。
乳幼児で特に注意すべき症状:
- 意識がもうろうとしている
- けいれんが5分以上続く、または繰り返す
- 呼吸が速い、苦しそう
- 顔色が悪い、唇が紫色
- おしっこが半日以上出ていない
- 水分が摂れない
学童期・成人のインフルエンザ熱
学童期から成人にかけては、典型的なインフルエンザの症状パターンを示します。
この年代の特徴:
- 38℃~40℃の高熱
- 突然の発症
- 強い全身症状
- 学校や職場での集団感染のリスク
- 抗インフルエンザ薬の効果が期待できる
成人の場合、基礎疾患(糖尿病、慢性呼吸器疾患、心疾患など)がある方は、合併症のリスクが高くなります。このような方は、症状が出たら早めに医療機関を受診することが重要です。
高齢者のインフルエンザ熱
高齢者のインフルエンザは、若年者とは異なる特徴があり、注意が必要です。
高齢者の特徴:
- 発熱が比較的軽度のこともある(37℃台など)
- 全身症状が目立たないことがある
- 食欲低下、元気がないなどの非特異的症状が中心
- 肺炎などの合併症を起こしやすい
- 重症化しやすい
高齢者では、熱がそれほど高くなくても、「いつもと違う」「元気がない」といった変化に注意することが大切です。基礎疾患のある高齢者は、インフルエンザをきっかけに持病が悪化することもあります。
発熱時の適切な対処法
自宅でできる基本的なケア
インフルエンザによる発熱時には、適切な自宅ケアが症状の緩和と回復に役立ちます。
1. 十分な水分補給
発熱時は発汗により体内の水分が失われやすくなります。脱水を防ぐため、こまめな水分補給が最も重要です。
- 1日1.5~2リットル以上を目安に
- 水、お茶、スポーツドリンク、経口補水液など
- 少量ずつ頻回に摂取
- 冷たすぎるものは避ける(胃腸に負担)
2. 安静にする
体がウイルスと戦うためにエネルギーを必要としています。
- できるだけ横になって休む
- 無理に活動しない
- 十分な睡眠をとる
- 回復期も含めて3~5日は安静に
3. 室内環境を整える
- 室温:20~22℃程度
- 湿度:50~60%を保つ
- 適度な換気(1時間に5~10分程度)
- 暗めの照明で刺激を減らす
4. 栄養補給
食欲がない場合も、少量ずつでも栄養を摂ることが大切です。
- 消化の良い食事(おかゆ、うどん、スープなど)
- ビタミンやミネラルを含む食品
- 無理に食べず、食べられるものを少しずつ
- ゼリーやプリンなども有効
5. 衣服と寝具の調整
- 悪寒がある時:暖かくして体温上昇を助ける
- 発熱のピーク時:薄着にして熱がこもらないように
- 発汗後:こまめに着替えて体を冷やさない
- 吸湿性の良い素材を選ぶ
解熱剤の使用について
解熱剤(解熱鎮痛薬)の使用については、正しい知識を持つことが重要です。
解熱剤使用の考え方
発熱自体は体の防御反応であり、必ずしも下げる必要はありません。ただし、以下のような場合には解熱剤の使用を検討します。
- 38.5℃以上の高熱で非常に苦しい
- 頭痛や関節痛がひどい
- 眠れない
- 水分が摂れない
インフルエンザで使用できる解熱剤
インフルエンザの場合、使用できる解熱剤とできない解熱剤があります。
使用可能な解熱剤:
- アセトアミノフェン(カロナール、タイレノールなど)
- 最も安全性が高い
- 小児にも使用可能
- 効果は比較的マイルド
使用してはいけない解熱剤:
- アスピリン(アスピリン、バファリンAなど)
- ライ症候群のリスク
- 15歳未満は特に禁忌
- ジクロフェナク(ボルタレンなど)
- インフルエンザ脳症との関連が指摘
- 使用は避けるべき
- メフェナム酸(ポンタールなど)
- 同様に使用は避けるべき
安全に使用するために:
- 医師や薬剤師に相談してから使用
- 用法・用量を守る
- 他の薬との飲み合わせに注意
- 小児には特に慎重に
厚生労働省も、インフルエンザ患者への解熱剤使用については、アセトアミノフェンの使用を推奨しています。
冷却療法
発熱時の体を冷やす方法についても、正しい知識が必要です。
効果的な冷却方法:
- 首・脇の下・鼠径部を冷やす
- 太い血管が通る部分を冷やすと効果的
- 冷却ジェルシートや濡れタオルを使用
- 氷を直接当てる場合はタオルで包む
- 額を冷やす
- 不快感の軽減には有効
- 実際の解熱効果は限定的
- 気持ち良ければ継続
冷却時の注意点:
- 悪寒がある時期は無理に冷やさない
- 冷やしすぎて体温が下がりすぎないよう注意
- 長時間同じ場所を冷やし続けない(凍傷のリスク)
- 嫌がる場合は無理強いしない
抗インフルエンザ薬について
抗インフルエンザ薬の効果
抗インフルエンザ薬は、ウイルスの増殖を抑える薬です。発症後48時間以内に使用を開始すると、以下の効果が期待できます。
抗インフルエンザ薬の効果:
- 発熱期間を1~2日短縮
- 症状の重症度を軽減
- 合併症のリスクを低減
- 周囲への感染拡大を抑制
ただし、48時間を過ぎると効果が限定的になるため、早期の受診が重要です。
主な抗インフルエンザ薬
日本で使用されている主な抗インフルエンザ薬には以下のものがあります。
1. タミフル(オセルタミビル)
- 内服薬(カプセルまたはドライシロップ)
- 1日2回、5日間服用
- 小児から成人まで広く使用
- 吐き気などの副作用に注意
2. リレンザ(ザナミビル)
- 吸入薬
- 1日2回、5日間使用
- 5歳以上で使用可能
- 喘息のある方は注意が必要
3. イナビル(ラニナミビル)
- 吸入薬
- 1回の吸入で治療完了
- 10歳以上で使用可能
- 服薬コンプライアンスが良い
4. ゾフルーザ(バロキサビル)
- 内服薬
- 1回の服用で治療完了
- 12歳以上で使用可能
- 新しいメカニズムの薬
予防投与について
インフルエンザ患者と濃厚接触した場合、抗インフルエンザ薬の予防投与が検討されることがあります。
予防投与の対象となる場合:
- 高齢者や基礎疾患のある方
- 免疫抑制状態にある方
- インフルエンザ患者の家族や同居者
- 医療従事者など
予防投与は保険適用外となることが多く、接触後48時間以内に開始する必要があります。
医療機関を受診すべきタイミング
早期受診が必要な症状
以下のような症状がある場合は、できるだけ早く医療機関を受診してください。
すぐに受診すべき症状:
成人の場合:
- 呼吸困難、息苦しさ
- 胸の痛み
- 意識障害、意識がもうろうとする
- けいれん
- 嘔吐や下痢が続き、水分が摂れない
- 尿が半日以上出ていない
- 症状が急激に悪化
小児の場合:
- 呼吸が速い、苦しそう
- 顔色が悪い、唇や爪が紫色
- 意識がはっきりしない
- けいれんを起こした
- 水分を全く受け付けない
- ぐったりしている
- 激しい嘔吐
厚生労働省の資料でも、これらの症状が見られた場合は緊急受診が必要であるとされています。
受診を検討すべき状況
以下のような場合も、医療機関への受診を検討してください。
- 38℃以上の発熱が3日以上続く
- 一度解熱したのに再び発熱した
- 咳がひどく、眠れない
- 基礎疾患がある
- 妊娠している
- 65歳以上の高齢者
- 乳幼児
受診時の注意点
インフルエンザの疑いがある場合、医療機関を受診する際は以下の点に注意してください。
受診時の注意:
- 事前に電話で症状を伝える
- マスクを着用する
- 公共交通機関の利用は避ける
- 待合室では他の患者さんと距離を保つ
- 発症からの時間を医師に伝える
- 周囲でのインフルエンザ流行の有無を伝える
インフルエンザの合併症
重症化のリスク
インフルエンザは、適切に対処すれば多くの場合1週間程度で回復しますが、時に重篤な合併症を引き起こすことがあります。
合併症のリスクが高い方:
- 65歳以上の高齢者
- 乳幼児(特に6か月未満)
- 妊婦
- 慢性呼吸器疾患(喘息、COPDなど)
- 慢性心疾患
- 糖尿病
- 慢性腎臓病
- 免疫抑制状態(ステロイド使用、HIV感染など)
- 肥満(BMI 40以上)
主な合併症
1. 肺炎
最も頻度の高い合併症で、インフルエンザウイルスによる一次性肺炎と、細菌による二次性肺炎があります。
- 高熱が続く
- 激しい咳
- 呼吸困難
- 胸の痛み
- 痰に血が混じる
2. インフルエンザ脳症
主に小児に見られる重篤な合併症です。
- 意識障害
- けいれん
- 異常行動
- 発症後1~2日以内に急激に進行
日本では年間100~300例程度の報告があり、致死率や後遺症のリスクが高い疾患です。
3. 心筋炎・心膜炎
稀ですが、心臓に炎症が起こることがあります。
- 胸の痛み
- 動悸
- 呼吸困難
- むくみ
4. 中耳炎
特に小児に多い合併症です。
- 耳の痛み
- 耳だれ
- 聞こえにくさ
- 発熱の再燃
インフルエンザの検査と診断
迅速診断検査
インフルエンザの診断には、鼻やのどから採取した検体を用いた迅速診断検査が一般的に行われます。
迅速診断検査の特徴:
- 検査時間:約15~30分
- 精度:感度60~90%程度
- 発症後12~24時間以降が検出されやすい
- 発症直後は偽陰性(感染していても陰性)の可能性
検査のタイミング:
発症後すぐに検査を受けると、ウイルス量が少なく陰性となることがあります。一般的には、発症後12時間以上経過してからの検査が推奨されます。
ただし、以下の場合は発症後早期でも検査を検討します。
- 重症化のリスクが高い
- インフルエンザの集団発生がある
- 周囲に多くの患者がいる
その他の検査
必要に応じて以下の検査が行われることもあります。
- 血液検査(白血球数、CRPなど)
- 胸部X線検査(肺炎の有無の確認)
- PCR検査(より正確なウイルス検出)
インフルエンザの予防
ワクチン接種
インフルエンザ予防の最も効果的な方法がワクチン接種です。
ワクチンの効果:
- 感染予防効果:30~60%
- 重症化予防効果:約80%
- 高齢者の死亡リスク低減効果:約50~80%
接種のタイミング:
- 毎年10月~12月頃に接種
- 効果は接種後2週間~5か月程度持続
- 流行前の接種が重要
接種対象:
- 生後6か月以上のすべての人が対象
- 特に高齢者、乳幼児、妊婦、医療従事者には強く推奨
- 13歳未満は2回接種(2~4週間隔)
- 13歳以上は1回接種
日常生活での予防
ワクチン接種に加えて、日常生活での予防対策も重要です。
1. 手洗い
- 外出後、食事前に必ず実施
- 石けんを使い、30秒以上かけて丁寧に
- 指の間、爪の間、手首まで忘れずに
- アルコール消毒も効果的
2. マスクの着用
- 人混みや公共交通機関で着用
- 不織布マスクが効果的
- 鼻まで覆い、隙間がないように
- 咳やくしゃみをする人が着用することで飛沫拡散を防ぐ
3. 適度な湿度の保持
- 室内湿度50~60%を維持
- 乾燥するとウイルスが活性化
- 加湿器の使用
- 濡れタオルを室内に干す
4. 十分な休養とバランスの取れた栄養
- 睡眠時間を確保(7~8時間)
- ビタミンやミネラルを含む食事
- 免疫力を維持する生活習慣
5. 人混みを避ける
- 流行期は不要不急の外出を控える
- 特に高齢者や基礎疾患のある方は注意
- 混雑した場所での長時間滞在を避ける
6. 咳エチケット
- 咳やくしゃみをする時は、ティッシュやハンカチで口と鼻を覆う
- マスクを着用する
- とっさの時は袖で口と鼻を覆う
- 手で覆った場合はすぐに手洗い
学校・職場での対応
出席・出勤停止期間
インフルエンザは学校保健安全法で「第二種感染症」に指定されており、出席停止期間が定められています。
学校の出席停止期間:
- 発症した後5日を経過し、かつ解熱した後2日(幼児は3日)を経過するまで
- 発症日を0日目として数える
- 抗インフルエンザ薬を使用した場合も同じ
職場の対応:
- 法律上の規定はないが、学校に準じた対応が望ましい
- 発症後5日間、かつ解熱後2日間は休む
- 職場の規定を確認
- 無理な出勤は周囲への感染拡大につながる
家族がインフルエンザになった時
家族内でインフルエンザが発生した場合、以下の対策を行いましょう。
家庭内での対策:
- 患者を個室で休ませる(できるだけ)
- 看病する人を限定する
- 患者と接する時はマスクを着用
- 部屋の換気を定期的に行う
- ドアノブなど共用部分をアルコール消毒
- タオルや食器の共用を避ける
- 看病後は必ず手洗い
兄弟姉妹がいる場合:
- できるだけ別の部屋で過ごす
- 濃厚接触を避ける
- 予防投与を検討する場合も
インフルエンザと妊婦
妊娠中のインフルエンザリスク
妊婦はインフルエンザに罹患すると重症化しやすく、特に注意が必要です。
妊婦のリスク:
- 肺炎などの合併症を起こしやすい
- 入院が必要になる確率が約4倍
- 妊娠中期・後期は特にリスクが高い
- 早産や低出生体重児のリスク増加
妊婦のインフルエンザ対策
予防:
- ワクチン接種が強く推奨される
- 妊娠中のどの時期でも接種可能
- 生ワクチンではないため安全性が高い
- 胎児にも抗体が移行し、出生後も保護される
発症した場合:
- 速やかに医療機関を受診
- 抗インフルエンザ薬の使用が可能
- タミフルは妊婦にも安全に使用できる
- 解熱剤はアセトアミノフェンを選択

よくある質問(Q&A)
A: いいえ、解熱後も2日間(幼児は3日間)は外出を控えるべきです。熱が下がってもまだウイルスは体内に存在し、他人に感染させる可能性があります。また、体力も十分に回復していないため、無理な活動は避けましょう。
A: 高熱が出ても、呼吸困難や意識障害などの重症症状がなければ、慌てる必要はありません。ただし、発症後48時間以内に抗インフルエンザ薬を使用することで症状を軽減できるため、できるだけ早めに受診することをお勧めします。特に、高齢者、乳幼児、基礎疾患のある方は早期受診が重要です。
Q3: 解熱剤は使わない方がいいのですか?
A: 発熱は体の防御反応なので、むやみに下げる必要はありませんが、高熱で非常に苦しい場合や眠れない場合には、アセトアミノフェン系の解熱剤を使用してもかまいません。ただし、アスピリンやジクロフェナクなど、インフルエンザに使用してはいけない解熱剤もあるため、必ず医師や薬剤師に相談してください。
Q4: 家族がインフルエンザになりました。自分も予防のために薬を飲むべきですか?
A: 健康な成人であれば、必ずしも予防投与は必要ありません。ただし、高齢者や基礎疾患のある方、妊婦など重症化リスクの高い方は、予防投与を検討してもよいでしょう。かかりつけ医に相談してください。予防投与は原則として保険適用外となります。
Q5: インフルエンザワクチンを打ったのにかかってしまいました。ワクチンは効かないのですか?
A: ワクチンは感染を完全に防ぐものではありませんが、重症化を予防する効果があります。ワクチンを接種していても感染することはありますが、接種していない場合と比べて症状が軽く済むことが多く、肺炎などの重篤な合併症のリスクも低減されます。
Q6: インフルエンザの検査は発症後すぐに受けるべきですか?
A: 発症直後(12時間以内)は、ウイルス量が少なく検査で陰性となることがあります。一般的には発症後12~24時間経過してからの検査が推奨されます。ただし、重症化リスクの高い方や、症状が重い場合は、早期に受診して医師の判断を仰ぐことが大切です。
Q7: お風呂に入ってもいいですか?
A: 高熱がある時や体力が著しく消耗している時は、入浴を控えた方が安全です。微熱程度で体調がそれほど悪くない場合は、短時間のシャワー程度なら問題ありません。入浴後は湯冷めしないよう注意し、水分補給を忘れずに行ってください。
Q8: 二回目の発熱は危険なサインですか?
A: 一度解熱した後に再び発熱する「二峰性発熱」は、細菌による二次感染(肺炎、中耳炎など)やインフルエンザ脳症などの合併症の可能性があります。必ず医療機関を受診してください。
まとめ
インフルエンザによる発熱は、ウイルス感染に対する体の正常な防御反応です。38℃を超える高熱が突然出現し、強い全身症状を伴うのが特徴です。
重要なポイント:
- 早期受診の重要性
- 発症後48時間以内の抗インフルエンザ薬使用が効果的
- 重症化リスクの高い方は特に早めの受診を
- 適切な自宅ケア
- 十分な水分補給と安静が基本
- 解熱剤はアセトアミノフェンを選択
- 室内環境を整える
- 合併症の早期発見
- 二峰性発熱、呼吸困難、意識障害などは危険信号
- すぐに医療機関を受診
- 予防の徹底
- ワクチン接種が最も効果的
- 手洗い、マスク着用などの基本的対策も重要
- 周囲への配慮
- 発症後5日間、かつ解熱後2日間は外出を控える
- 咳エチケットの実践
インフルエンザは適切に対処すれば多くの場合1週間程度で回復しますが、重症化することもある疾患です。「いつもと違う」「おかしい」と感じたら、迷わず医療機関を受診してください。
参考文献
- 厚生労働省「インフルエンザ(総合ページ)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/index.html - 国立感染症研究所「インフルエンザとは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/a/flu.html - 厚生労働省「インフルエンザQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html - 日本小児科学会「インフルエンザ治療指針」
http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=138 - 日本感染症学会「インフルエンザ診療ガイドライン」
http://www.kansensho.or.jp/guidelines/ - 東京都感染症情報センター「インフルエンザの流行状況」
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/flu/flu/
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務