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帯状疱疹になったらしてはいけないこと|症状悪化を防ぐための注意点と正しい対処法

帯状疱疹は、体の片側に帯状の発疹や水ぶくれが現れ、強い痛みを伴う皮膚疾患です。日本人の成人の約90%以上が原因となるウイルスを体内に持っており、免疫力が低下したタイミングで誰でも発症する可能性があります。帯状疱疹になった際、間違った対処をしてしまうと症状が悪化したり、治りが遅くなったり、さらには後遺症として「帯状疱疹後神経痛(PHN)」に移行するリスクが高まることがあります。本記事では、帯状疱疹を発症した際に絶対にしてはいけない行動と、正しい対処法について詳しく解説します。早期回復と後遺症予防のためにも、ぜひ最後までお読みください。


目次

  1. 帯状疱疹とは?基本的な知識と原因
  2. 帯状疱疹になったら絶対にしてはいけないこと7選
  3. なぜこれらの行動がNGなのか?医学的な根拠
  4. 帯状疱疹の症状と経過
  5. 帯状疱疹の合併症と後遺症について
  6. 帯状疱疹になったときの正しい対処法
  7. 早期治療が重要な理由
  8. 帯状疱疹の予防方法
  9. よくある質問(Q&A)
  10. まとめ
  11. 参考文献

1. 帯状疱疹とは?基本的な知識と原因

帯状疱疹の正体

帯状疱疹は、「水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV:Varicella-Zoster Virus)」が原因で発症する皮膚の病気です。このウイルスは、子どもの頃にかかる「水ぼうそう(水痘)」の原因ウイルスと同一のものです。

水ぼうそうが治った後も、ウイルスは完全に体から消えることなく、背骨に近い神経節に潜伏し続けます。通常は免疫力によってウイルスの活動が抑えられているため症状は現れませんが、加齢やストレス、疲労、病気などで免疫力が低下すると、ウイルスが再び活性化して帯状疱疹として発症します。

国立感染症研究所の調査によると、日本人の15歳以上の約90%以上が水痘・帯状疱疹ウイルスに対する抗体を持っていることがわかっています。つまり、ほとんどの成人が帯状疱疹を発症する可能性を持っているということです。

発症のメカニズム

帯状疱疹の発症メカニズムは以下のような流れで進行します。

まず、子どもの頃に初めてウイルスに感染すると、全身に水ぶくれができる「水ぼうそう」として発症します。水ぼうそうが治癒した後も、ウイルスは脊髄から出る神経節(脊髄後根神経節)に潜伏感染します。潜伏状態のウイルスは、普段は免疫システムによって活動を抑えられています。しかし、加齢や過労、ストレス、免疫力の低下などをきっかけに、ウイルスが再活性化します。再活性化したウイルスは神経を通って皮膚に到達し、神経の支配領域に沿って帯状に発疹や水ぶくれを引き起こします。

発症しやすい人の特徴

帯状疱疹は特に以下のような条件に当てはまる方に発症しやすいとされています。

50歳以上の中高年の方は、加齢に伴い免疫機能が徐々に低下するため、帯状疱疹の発症リスクが高まります。宮崎県での大規模疫学調査(宮崎スタディ)によると、帯状疱疹の発症は70歳代でピークを迎え、80歳までに約3人に1人が発症すると推定されています。

また、過度のストレスや疲労が蓄積している方、睡眠不足が続いている方、糖尿病や悪性腫瘍などの基礎疾患がある方、免疫抑制剤や抗がん剤を使用している方、HIV感染症などで免疫機能が低下している方なども発症リスクが高くなります。


2. 帯状疱疹になったら絶対にしてはいけないこと7選

帯状疱疹を発症した際、以下の行動は症状を悪化させたり、回復を遅らせたり、後遺症のリスクを高めたりする可能性があります。必ず避けるようにしてください。

してはいけないこと①:患部を冷やす

帯状疱疹による痛みやかゆみがつらいとき、患部を冷やして楽になりたいと思うかもしれません。しかし、帯状疱疹の痛みは神経痛であるため、冷やすことは逆効果です。

冷やすことで血管が収縮し、血行が悪くなります。血行不良になると組織への酸素供給が減少し、痛みの物質が産生されやすくなります。また、帯状疱疹を引き起こすウイルスは低い温度で活性化しやすい性質があるため、冷やすことでウイルスが働きやすい環境を作ってしまう可能性もあります。

患部の痛みが気になる場合は、冷やすのではなく、むしろ温かいタオルで覆ったり、入浴で体を温めたりする方が効果的です。ただし、体力を消耗するような長風呂は避けてください。

してはいけないこと②:水ぶくれをつぶす・かきむしる

帯状疱疹で発生する水ぶくれ(水疱)は、決してつぶしたり、かきむしったりしてはいけません。

水ぶくれの中には、帯状疱疹の原因である水痘・帯状疱疹ウイルスが含まれています。水ぶくれをつぶすと、このウイルスが露出し、周囲への感染リスクが高まります。また、水ぶくれが破れた部分から細菌が侵入し、二次感染(細菌感染)を起こす危険性があります。細菌感染を併発すると、症状が悪化するだけでなく、抗生物質による追加治療が必要になることもあります。

さらに、水ぶくれを無理につぶしたり、かさぶたを剥がしたりすると、皮膚の自然な治癒過程が妨げられ、傷跡(瘢痕)が残りやすくなります。かゆみがある場合は、医師に相談して適切な薬を処方してもらいましょう。

してはいけないこと③:病院に行かない・治療を放置する

帯状疱疹が疑われる症状が出た場合、「様子を見よう」「自然に治るだろう」と考えて病院を受診しないことは、非常に危険な判断です。

帯状疱疹の治療には、ウイルスの増殖を抑える「抗ウイルス薬」の服用が不可欠です。この抗ウイルス薬は、発症から72時間(3日)以内に投与を開始することで最も効果を発揮します。日本皮膚科学会の「帯状疱疹診療ガイドライン2025」でも、発症後できるだけ早期に抗ウイルス薬による治療を開始することが推奨されています。

治療開始が遅れると、ウイルスによる神経へのダメージが大きくなり、症状が重症化したり、治癒に時間がかかったりします。また、皮膚症状が治った後も痛みが長期間続く「帯状疱疹後神経痛(PHN)」に移行するリスクも高まります。

帯状疱疹が疑われる症状(体の片側のピリピリした痛み、帯状の発疹など)が現れたら、できるだけ早く皮膚科を受診してください。

してはいけないこと④:自己判断で市販薬を使用する

帯状疱疹の症状を虫刺されや湿疹と勘違いして、市販のかゆみ止めやステロイド軟膏を自己判断で使用することは避けてください。

帯状疱疹はウイルス感染症であり、その治療には専用の抗ウイルス薬が必要です。市販の塗り薬では効果がないばかりか、症状を悪化させる可能性もあります。特に、ステロイド外用薬の不適切な使用は、ウイルスの増殖を促進してしまうことがあります。

また、帯状疱疹に使用してよい塗り薬と悪い塗り薬があるため、必ず医師の指示に従った治療を行うことが重要です。自己判断での対応は症状の悪化や治療の遅れにつながりますので、必ず医療機関を受診し、適切な処方を受けてください。

してはいけないこと⑤:アルコール(お酒)を飲む

帯状疱疹を発症している間は、アルコールの摂取を控えることが推奨されています。

飲酒をすると血管が過度に拡張し、炎症が悪化する原因になります。また、アルコールは免疫機能を低下させる作用もあるため、ウイルスと戦う体の力を弱めてしまいます。

さらに、帯状疱疹の治療に使用される抗ウイルス薬の中には、アルコールと相互作用を起こすものもあります。薬の効果が減弱したり、副作用が強く出たりする可能性があるため、治療期間中はお酒を控えることが大切です。

してはいけないこと⑥:十分な休養を取らない

帯状疱疹の発症原因の一つは免疫力の低下です。そのため、発症後も無理をして仕事や家事を続けたり、激しい運動をしたりすることは避けるべきです。

免疫力が低下した状態でさらに体を酷使すると、ウイルスの活動を抑える力が弱まり、症状の悪化や回復の遅れにつながります。帯状疱疹の症状がある間は、可能な限り安静を心がけ、十分な睡眠を取ることが大切です。

また、睡眠時間を削って活動することは免疫機能をさらに低下させるため、特に注意が必要です。ブルーライトは睡眠を妨げる可能性があるため、就寝直前のスマートフォンやパソコンの使用も控えめにしましょう。

帯状疱疹の症状は一般的に10〜15日程度で落ち着いてきますが、完全に回復するまでは無理をせず、体を休めることを優先してください。

してはいけないこと⑦:免疫のない人(乳幼児・妊婦など)と接触する

帯状疱疹そのものが人から人へ直接うつることはありません。しかし、水ぼうそうにかかったことのない人や、水痘ワクチンを接種していない人に対しては、ウイルスを感染させてしまう可能性があります。この場合、感染した人は帯状疱疹ではなく「水ぼうそう」として発症します。

特に注意が必要なのは以下のような方々との接触です。

まず、水ぼうそうにかかったことがない乳幼児は、感染すると水ぼうそうを発症する可能性があります。乳幼児の水ぼうそうは重症化すると肺炎や脳炎などの合併症を引き起こすことがあります。

次に、水ぼうそうにかかったことのない妊婦との接触も避けるべきです。妊娠初期(8〜20週頃)に水ぼうそうに感染すると、胎児に先天性水痘症候群(四肢の形成不全、皮膚瘢痕、小頭症など)を引き起こすリスクがあります。また、出産前後に母親が水ぼうそうを発症すると、新生児が重症化する危険性もあります。

免疫力が著しく低下している方(HIV感染者、臓器移植後の方、抗がん剤治療中の方など)との接触にも注意が必要です。

帯状疱疹の水ぶくれがかさぶたになるまでの期間(おおむね1〜3週間程度)は、これらの方々との接触を避けるか、患部をガーゼなどで覆い、ウイルスが飛散しないように注意してください。


3. なぜこれらの行動がNGなのか?医学的な根拠

血行と痛みの関係

帯状疱疹の痛みは、主に神経の炎症によって引き起こされます。神経痛は冷やすと悪化しやすい性質があります。

冷やすことで血管が収縮すると、血流が悪くなり、組織への酸素供給が減少します。酸素不足になった組織では、痛みを引き起こす物質(発痛物質)が産生されやすくなり、結果として痛みが増強します。

また、帯状疱疹による痛みで交感神経が優位になると、すでに血管が収縮した状態にあります。ここでさらに冷やしてしまうと、血管収縮がより強くなり、痛みが悪化する悪循環に陥ってしまいます。

逆に、温めることで血行が促進されると、炎症を起こしている組織への酸素や栄養の供給が改善され、神経の修復が促されます。また、温熱刺激は痛みを和らげる効果もあるため、帯状疱疹の痛みには「温める」ケアが適しているのです。

ウイルスと二次感染のリスク

水ぶくれの中には、大量の水痘・帯状疱疹ウイルスが存在しています。水ぶくれが破れると、このウイルスが環境中に放出され、以下のようなリスクが生じます。

一つ目は周囲への感染拡大です。水ぼうそうにかかったことのない人(特に乳幼児や妊婦)がウイルスに接触すると、水ぼうそうを発症する可能性があります。

二つ目は患者自身の二次感染です。水ぶくれが破れた部分は皮膚のバリア機能が失われた状態であり、そこから細菌が侵入しやすくなります。黄色ブドウ球菌などによる二次感染が起こると、傷の治りが悪くなったり、蜂窩織炎(皮膚の深い部分の感染症)を引き起こしたりすることがあります。

三つ目は瘢痕形成です。水ぶくれを無理につぶしたり、かさぶたを剥がしたりすると、皮膚の正常な治癒過程が妨げられ、色素沈着や陥凹した傷跡(瘢痕)が残りやすくなります。

早期治療と帯状疱疹後神経痛(PHN)

帯状疱疹後神経痛(PHN)は、帯状疱疹の最も頻度の高い合併症であり、皮膚症状が治った後も数ヶ月から数年、場合によっては10年以上にわたって痛みが続く後遺症です。

PHNの発症リスクに影響する最も重要な要因の一つが「治療開始までの時間」です。研究によると、発症から72時間(3日)以内に抗ウイルス薬による治療を開始した場合、PHNへの移行率が有意に低下することがわかっています。

逆に、治療開始が遅れるほど、ウイルスによる神経へのダメージが蓄積し、PHNへ移行するリスクが高まります。PHNのリスク因子として、50歳以上であること、発症時の帯状疱疹の症状(痛みや皮疹)が重度であったこと、糖尿病などの合併症があること、顔面や体幹部に皮疹があること、治療開始までに72時間以上経過したことなどが挙げられます。


4. 帯状疱疹の症状と経過

初期症状(前駆症状)

帯状疱疹の症状は、皮膚に発疹が現れる前から始まることが多いのが特徴です。約75%の患者さんで、皮疹出現の2〜7日前から、体の片側に何らかの症状が現れます。

初期に現れる症状としては、ピリピリ、チクチク、ジンジンといった神経痛のような痛みが最も多く見られます。皮膚のかゆみや違和感、熱っぽさを感じることもあります。倦怠感や微熱など、風邪のような症状を伴うこともあります。

この段階では皮膚に目立った変化がないため、帯状疱疹とは気づかずに、内臓の病気や筋肉・骨の問題を疑って内科や整形外科を受診される方も少なくありません。

発疹期

前駆症状から数日が経過すると、痛みのあった部位に赤い発疹(紅斑)が現れます。発疹は神経の走行に沿って帯状に広がることが特徴で、体の左右どちらか片側だけに出現します。これが「帯状疱疹」という病名の由来です。

発疹は胸や背中、腹部など体幹部に現れることが最も多いですが、顔面、頭部、腕、足、お尻など、全身のどの部位にも発症する可能性があります。

発疹は次第に小さな水ぶくれ(水疱)へと変化します。水疱は最初は透明ですが、やがて膿を含んだり、血液を含んで暗赤色になったりすることもあります。この時期は痛みが最も強くなることが多く、夜眠れないほどの激しい痛みを訴える方もいます。

回復期

発症から約1週間が経過すると、新しい発疹の出現が止まり、既存の水疱が乾燥してかさぶた(痂皮)になり始めます。かさぶたは約2〜3週間かけて自然に剥がれ落ち、皮膚症状は徐々に治癒へ向かいます。

皮膚症状が完全に治まるまでの期間は、おおむね3〜4週間程度ですが、症状の程度や患者さんの年齢、免疫状態によって異なります。多くの方では皮膚症状の治癒とともに痛みも軽減していきますが、一部の方では痛みが長期間残存する「帯状疱疹後神経痛(PHN)」に移行することがあります。

好発部位

帯状疱疹が発症しやすい部位として、最も多いのは胸部から背部にかけての体幹です。肋間神経(肋骨に沿って走る神経)の領域に発症することが最も一般的です。次いで頭部・顔面(三叉神経領域)に発症することがあり、この場合は眼や耳に合併症を起こすリスクがあるため、特に注意が必要です。その他、腰部・臀部(坐骨神経領域など)、上肢(腕神経叢領域)、下肢に発症することもあります。

どの部位に発症した場合でも、「体の片側だけ」「神経の走行に沿って帯状」という特徴は共通しています。


5. 帯状疱疹の合併症と後遺症について

帯状疱疹は適切な治療を受ければ多くの場合完治しますが、中には重大な合併症や後遺症を引き起こすことがあります。特に高齢者や免疫力が低下している方はリスクが高いため、注意が必要です。

帯状疱疹後神経痛(PHN)

帯状疱疹後神経痛(Postherpetic Neuralgia:PHN)は、帯状疱疹の合併症の中で最も頻度が高く、患者さんのQOL(生活の質)に大きな影響を与える後遺症です。

日本ペインクリニック学会の定義では、帯状疱疹発症後90日以上経過しても痛みが続く場合をPHNと呼びます。PHNの発症頻度は、帯状疱疹にかかった人の約5〜20%とされており、年齢が高くなるほど発症リスクが上昇します。具体的には、60〜65歳以上の約20%、80歳以上では30%以上がPHNを発症するというデータがあります。

PHNの痛みは、「焼けるような」「締め付けるような」持続的な痛み、「ズキンズキンする」疼くような痛み、「刺すような」「電気が走るような」鋭い痛み、「アロディニア」(軽く触れただけで激しい痛みを感じる状態)などと表現されます。

このような痛みが長期間続くと、睡眠障害、うつ状態、日常生活動作の低下など、心身両面に深刻な影響を及ぼします。PHNの治療は長期にわたることも多く、根本的な治療法がないため、「予防」が最も重要とされています。

眼合併症

帯状疱疹が顔面の三叉神経第1枝(眼神経)の領域に発症した場合、眼に様々な合併症を引き起こすことがあります。

主な眼合併症としては、角膜炎(角膜の炎症、重症化すると視力低下の原因に)、結膜炎(結膜の炎症、充血や異物感を伴う)、ぶどう膜炎(眼内の炎症、視力に影響することがある)、視神経炎(視神経の炎症、視力低下や視野障害を起こす)、網膜炎(網膜の炎症、重症化すると失明のリスクあり)などがあります。

眼の周囲に発疹が出た場合は、早急に皮膚科だけでなく眼科も受診し、適切な治療を受けることが重要です。

ラムゼイ・ハント症候群

ラムゼイ・ハント症候群は、帯状疱疹が顔面神経や聴神経に影響を及ぼした場合に発症する合併症です。

主な症状としては、耳介(耳たぶ)や外耳道の発疹・水疱、顔面神経麻痺(顔の片側が動かしにくくなる)、難聴、耳鳴り、めまい、味覚障害などがあります。

ラムゼイ・ハント症候群は難治性であり、適切な治療を行っても顔面神経麻痺や難聴が後遺症として残ることがあります。顔面や耳の周囲に帯状疱疹が発症した場合は、速やかに医療機関を受診してください。

排尿・排便障害

帯状疱疹が腰部から臀部(お尻)にかけて発症した場合、まれに膀胱や直腸の機能を司る神経(仙骨神経)が障害されることがあります。

この場合、排尿困難や尿閉(尿が出にくくなる)、便秘や排便困難などの症状が現れることがあります。これらの症状が出現した場合は、すぐに担当医に相談してください。

その他の合併症

帯状疱疹では、まれに中枢神経系に合併症を起こすことがあります。髄膜炎(髄膜の炎症、頭痛や発熱、首の硬直などを伴う)、脳炎(脳の炎症、意識障害やけいれんを起こすことがある)、脳血管障害(帯状疱疹後に脳卒中のリスクが一時的に上昇するという報告がある)などがあります。

これらは頻度は低いものの、発症した場合は重篤な経過をたどることがあるため、強い頭痛、意識の変容、けいれんなどの症状がある場合は、直ちに救急医療機関を受診してください。


6. 帯状疱疹になったときの正しい対処法

できるだけ早く医療機関を受診する

帯状疱疹が疑われる症状(体の片側のピリピリした痛み、帯状の発疹や水ぶくれ)が現れたら、できるだけ早く皮膚科を受診することが最も重要です。

帯状疱疹の治療の基本は抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビルなど)の内服です。これらの薬は発症後できるだけ早く、理想的には72時間(3日)以内に服用を開始することで、最大の効果を発揮します。

受診の際は、症状がいつから始まったか、どの部位に痛みや発疹があるか、水ぼうそうにかかったことがあるかなどを医師に伝えてください。

処方された薬を正しく服用する

医師から処方された抗ウイルス薬は、指示された用量・回数・期間を守って服用することが大切です。

抗ウイルス薬の効果が現れるまでには2〜3日かかることがあります。「症状が良くなったから」といって自己判断で服用を中止すると、ウイルスが十分に抑えられず、症状が再燃したり、後遺症のリスクが高まったりする可能性があります。処方された分は必ず飲みきるようにしてください。

また、痛みの緩和のために鎮痛剤が処方されることもあります。こちらも医師の指示に従って使用してください。

患部を清潔に保つ

患部の清潔を保つことは、二次感染を防ぐために重要です。

入浴は基本的に可能です。むしろ、入浴で体を温めることは血行を促進し、痛みの緩和や治癒の促進に役立ちます。ただし、高熱がある場合や体調が著しく悪い場合は、医師に相談してください。入浴時は、患部を石鹸で優しく洗い流し、清潔を保ちましょう。ゴシゴシこすったり、水疱をつぶしたりしないように注意してください。

水疱がある部分は、清潔なガーゼで覆い、衣服などとの摩擦を防ぐようにしましょう。ガーゼは適宜交換し、常に清潔な状態を保つことが大切です。

十分な休養と栄養を取る

帯状疱疹は免疫力の低下がきっかけで発症することが多いため、体を休めて免疫力を回復させることが治癒への近道です。

睡眠時間を十分に確保し、規則正しい生活を心がけましょう。無理に仕事をしたり、激しい運動をしたりすることは避けてください。栄養バランスの取れた食事を心がけ、特にタンパク質やビタミン類を十分に摂取することが望ましいです。

患部を温める

前述のとおり、帯状疱疹の痛みは冷やすと悪化し、温めると緩和することが多いです。

痛みが気になる場合は、蒸しタオルや温熱パッドで患部を優しく温めましょう。入浴も効果的ですが、長風呂は体力を消耗するため、ぬるめのお湯に短時間つかる程度にとどめてください。

夏場でも、エアコンの冷気が患部に直接当たらないように注意しましょう。冬場は室温を適度に保ち、体を冷やさないようにしてください。

ストレスを避ける

ストレスは免疫力を低下させる要因の一つです。治療期間中は、できるだけストレスを溜めないように心がけましょう。

リラックスできる時間を作り、趣味や好きなことに適度に取り組むことも大切です。ただし、無理は禁物です。痛みがつらい場合は無理をせず、医師に相談して適切な痛み止めを処方してもらいましょう。


7. 早期治療が重要な理由

抗ウイルス薬の効果と投与タイミング

帯状疱疹の治療で最も重要なのは、抗ウイルス薬をいかに早く投与開始するかという点です。

抗ウイルス薬は、ウイルスの増殖を抑える作用があります。しかし、すでに増殖してしまったウイルスを殺す効果はありません。そのため、ウイルスが活発に増殖している初期段階で投与を開始することが、最も効果的なのです。

日本皮膚科学会の「帯状疱疹診療ガイドライン2025」では、発症後できるだけ早期、具体的には発症から5日以内、より推奨されるのは72時間以内に抗ウイルス薬の投与を開始することが明記されています。

国内の臨床試験では、皮疹出現後72時間以内に抗ウイルス薬(アメナメビル)の投与を開始した場合、投与開始から4日目までに新たな皮疹形成が停止した人の割合が約8割に達したと報告されています。

帯状疱疹後神経痛(PHN)の予防

早期治療が重要である最大の理由は、帯状疱疹後神経痛(PHN)の予防です。

帯状疱疹ウイルスが神経を障害すると、その損傷が長期間残り、PHNの原因となります。治療開始が遅れるほど、神経へのダメージが蓄積され、PHNに移行するリスクが高まります。

発症から72時間以内に適切な治療を開始することで、PHNの発症率を有意に低下させることができるというエビデンスが複数報告されています。PHNは一度発症すると治療が困難で、数ヶ月から数年、場合によっては10年以上も痛みが続くことがあります。日常生活に大きな支障をきたすこともあるため、「予防」が何より重要なのです。

重症化・合併症の予防

早期治療は、帯状疱疹自体の重症化や合併症の予防にも効果があります。

治療が遅れると、皮疹の範囲が広がったり、水疱が深くなったり、治癒後に瘢痕(傷跡)が残りやすくなったりします。また、前述の眼合併症やラムゼイ・ハント症候群などの重篤な合併症を予防するためにも、早期の治療開始が重要です。

特に、顔面(特に眼の周囲)や耳に発疹が出た場合は、視力障害や顔面神経麻痺、難聴などの重大な後遺症を残す可能性があるため、直ちに医療機関を受診してください。


8. 帯状疱疹の予防方法

日常生活での予防

帯状疱疹は、免疫力が低下した時に発症しやすくなります。そのため、日常生活の中で免疫力を維持することが、発症予防の基本となります。

十分な睡眠を取ることが重要です。睡眠不足は免疫機能を低下させる大きな要因です。毎日規則正しい時間に就寝・起床し、7〜8時間程度の睡眠を確保しましょう。

バランスの取れた食事も大切です。タンパク質、ビタミン、ミネラルなど、バランスの良い食事を心がけましょう。特にビタミンB群、ビタミンC、亜鉛などは免疫機能の維持に重要です。

適度な運動も免疫力を高める効果があります。ただし、過度な運動は逆に免疫力を低下させることがあるため、ウォーキングや軽いジョギング程度の適度な運動を習慣にしましょう。

ストレスの管理も重要です。過度のストレスは免疫機能を低下させます。趣味やリラクゼーション、十分な休息などで、ストレスを上手にコントロールしましょう。

禁煙と節酒も予防に効果的です。喫煙は免疫機能を低下させ、過度の飲酒も同様の影響があります。禁煙し、飲酒は適量を守りましょう。

ワクチン接種による予防

帯状疱疹はワクチン接種によって予防することができます。2025年4月から、65歳以上の方などを対象に帯状疱疹ワクチンの予防接種が予防接種法に基づく定期接種の対象となりました。

現在、日本で使用できる帯状疱疹ワクチンには2種類あります。

一つ目は生ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」)です。接種回数は1回で、接種方法は皮下注射です。発症予防効果は約50%で、効果の持続期間は5〜8年程度です。副反応は比較的軽度で、免疫抑制状態の方には接種できません。

二つ目は不活化(組換え)ワクチン(シングリックス)です。接種回数は2回(2ヶ月以上の間隔を空ける)で、接種方法は筋肉内注射です。発症予防効果は約90%以上と高く、帯状疱疹後神経痛に対する予防効果も接種後3年時点で90%以上と報告されています。効果の持続期間は10年以上とされています。免疫抑制状態の方にも接種可能です。ただし、接種部位の痛みや腫れ、発熱、倦怠感などの副反応が比較的多く見られます。

どちらのワクチンを接種するかは、年齢、基礎疾患の有無、経済的な面などを考慮して、医師と相談して決めることをお勧めします。

定期接種の対象となるのは、65歳の方、60〜64歳でヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害があり日常生活がほとんど不可能な方です。また、2025年度から2029年度までの経過措置として、その年度内に70、75、80、85、90、95、100歳になる方も対象となります。

50歳以上の方は任意接種(全額自己負担)としてワクチンを受けることも可能です。自治体によっては接種費用の助成を行っている場合もありますので、お住まいの市区町村に確認してみてください。


9. よくある質問(Q&A)

Q1:帯状疱疹は人にうつりますか?

帯状疱疹として人から人へ直接感染することはありません。しかし、帯状疱疹患者の水ぶくれの中には水痘・帯状疱疹ウイルスが含まれているため、水ぼうそうにかかったことのない人(特に乳幼児や妊婦)に接触すると、その人が水ぼうそうを発症する可能性があります。水疱がかさぶたになるまでの期間は、免疫のない人との接触を避けるか、患部をガーゼで覆うなどの対策を取りましょう。

Q2:帯状疱疹は再発しますか?

帯状疱疹は一度発症すると、それによって免疫が強化されるため、再発する確率は比較的低いとされています。しかし、免疫力が著しく低下した場合などには、稀に再発することもあります。再発率は約6%程度と報告されており、特に免疫抑制状態にある方に起こりやすいです。

Q3:帯状疱疹になったら仕事は休むべきですか?

症状の程度によりますが、特に発症初期は安静にすることが回復を早める上で重要です。強い痛みや倦怠感がある場合は、無理をせずに休養を取ることをお勧めします。水疱がかさぶたになるまでの期間は感染性があるため、乳幼児や妊婦、免疫力が低下した方と接する仕事の場合は、医師に相談して休むことを検討してください。一般的には、発症から10〜15日程度で症状が落ち着いてくることが多いですが、回復のペースは個人差があります。

Q4:帯状疱疹になったらお風呂に入っても大丈夫ですか?

高熱がある場合や全身状態が著しく悪い場合を除き、入浴は基本的に可能です。むしろ、入浴で体を温めることは血行を促進し、痛みの緩和や治癒の促進に効果があります。ただし、長風呂は体力を消耗するため避けてください。入浴時は患部を優しく洗い、タオルでゴシゴシこすったり、水疱をつぶしたりしないように注意しましょう。家族がいる場合は、念のため最後に入浴するか、浴槽を使用せずシャワーにするとより安心です。

Q5:帯状疱疹の痛みはいつまで続きますか?

多くの場合、皮膚症状の治癒とともに痛みも徐々に軽減していきます。皮膚症状が治るまでの期間はおおむね3〜4週間程度です。ただし、一部の方(特に高齢者)では、皮膚症状が治った後も痛みが続く「帯状疱疹後神経痛(PHN)」に移行することがあります。PHNになると、痛みが数ヶ月から数年、長い場合は10年以上続くこともあります。早期に適切な治療を受けることが、PHNの予防に最も効果的です。

Q6:市販の痛み止めは使っても良いですか?

帯状疱疹の痛みに対して、市販の鎮痛剤(アセトアミノフェンやイブプロフェンなど)を一時的に使用することは可能です。ただし、帯状疱疹の根本的な治療には医療機関で処方される抗ウイルス薬が必要です。市販薬だけで対応しようとせず、必ず医療機関を受診してください。また、帯状疱疹後神経痛(PHN)の痛みには通常の鎮痛剤は効きにくく、専門的な治療が必要になります。

Q7:子どもに帯状疱疹は発症しますか?

帯状疱疹は、過去に水ぼうそうにかかったことがある人(ウイルスが体内に潜伏している人)であれば、年齢に関係なく発症する可能性があります。ただし、一般的には加齢に伴い免疫力が低下する50歳以上に多く、子どもでの発症は比較的稀です。子どもが帯状疱疹を発症した場合は、免疫力が低下する基礎疾患がないかを確認することが重要です。


10. まとめ

帯状疱疹は、日本人の成人のほとんどが発症する可能性を持っている身近な病気です。免疫力が低下したときに突然発症し、強い痛みや皮膚症状を引き起こします。適切な対応をしないと、症状が悪化したり、「帯状疱疹後神経痛(PHN)」という長期間続く後遺症に苦しんだりすることがあります。

帯状疱疹になったら絶対にしてはいけないことを改めて確認しましょう。患部を冷やすこと、水ぶくれをつぶす・かきむしること、病院に行かない・治療を放置すること、自己判断で市販薬を使用すること、アルコール(お酒)を飲むこと、十分な休養を取らないこと、免疫のない人(乳幼児・妊婦など)と接触することは避けてください。

逆に、帯状疱疹になったときに取るべき正しい対応としては、できるだけ早く(理想は72時間以内)皮膚科を受診すること、処方された抗ウイルス薬を指示どおり服用すること、患部を清潔に保ちガーゼで保護すること、十分な睡眠と栄養を取り体を休めること、患部を冷やさず温めること、ストレスを避けてリラックスすることが大切です。

帯状疱疹は早期発見・早期治療が何より重要です。体の片側にピリピリした痛みや帯状の発疹が現れたら、「様子を見よう」と放置せず、すぐに医療機関を受診してください。

また、50歳以上の方は帯状疱疹ワクチンの接種を検討することをお勧めします。特に65歳以上の方は定期接種の対象となっていますので、お住まいの市区町村や医療機関に相談してみてください。


参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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