「肌に白い斑点ができた」「皮膚の一部だけ色が抜けている」――このような症状でお悩みではありませんか。皮膚の色が白く抜けてしまう疾患を総称して「白斑」と呼びます。なかでも最も多いのが「尋常性白斑」であり、日本国内だけでも推定15万人以上の方がこの疾患を抱えていると報告されています。
尋常性白斑は、痛みやかゆみを伴わないことが多いため、初期段階では気づきにくかったり、「そのうち治るだろう」と放置してしまう方も少なくありません。しかし、見た目の変化は患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を与えることがあり、早期発見・早期治療が重要です。
近年、白斑の治療は著しく進歩しています。2024年10月には自家培養表皮移植が保険適用となり、また海外ではJAK阻害薬という新しいタイプの治療薬が承認されるなど、治療の選択肢は確実に広がっています。
本記事では、日本皮膚科学会が2025年に改訂した最新の「尋常性白斑診療ガイドライン第2版」に基づき、白斑の原因、症状、分類、診断方法、そして最新の治療法まで、皮膚科専門医の視点から詳しく解説いたします。白斑でお悩みの方、ご家族に白斑の症状がある方の参考になれば幸いです。
目次
- 白斑とはどのような疾患か
- 尋常性白斑の症状と特徴
- 尋常性白斑の分類(タイプ別の特徴)
- 尋常性白斑の原因とメカニズム
- 白斑と間違えやすい疾患
- 尋常性白斑の診断方法
- 尋常性白斑の治療法
- 最新の治療法と今後の展望
- 日常生活での注意点とセルフケア
- 合併症について
- 治療費と保険適用について
- まとめ
- 参考文献
1. 白斑とはどのような疾患か
白斑とは、皮膚の色素(メラニン)を作る細胞である「メラノサイト(色素細胞)」が何らかの原因で減少または消失することで、皮膚の色が白く抜けてしまう疾患の総称です。
私たちの皮膚の色は、メラノサイトが産生するメラニン色素によって決まります。メラノサイトは皮膚の表皮基底層に存在し、紫外線などの刺激から皮膚を守る重要な役割を担っています。このメラノサイトが機能しなくなったり、消失してしまうと、その部分の皮膚は白く見えるようになります。
白斑には、生まれつき存在する「先天性白斑・白皮症」と、生後に発症する「後天性白斑」があります。後天性白斑のなかで最も頻度が高いのが「尋常性白斑」であり、俗に「しろなまず」「白なまず」とも呼ばれています。尋常性白斑は、白斑を呈するすべての疾患のうち約60%を占めるとされています。
尋常性白斑の疫学
日本における尋常性白斑の患者数は、厚生労働省の研究班による平成22年度(2010年)の全国調査によると、約15万3,000人と推計されています。これは人口約800人に1人の割合に相当します。世界的に見ても、全人口の約0.5〜1%が罹患していると報告されており、比較的ありふれた皮膚疾患といえます。
発症年齢は20歳前後の若年者に多いとされていますが、乳幼児から高齢者まであらゆる年代で発症する可能性があります。男女差はほとんどなく、人種による差もありません。ただし、皮膚の色が濃い方のほうが白斑が目立ちやすい傾向があります。
また、尋常性白斑患者さんの約20〜30%で家族内発症が認められており、遺伝的な要因も一定程度関与していると考えられています。ただし、単一の遺伝子で発症が決まるわけではなく、複数の遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
2. 尋常性白斑の症状と特徴
白斑の外観と初期症状
尋常性白斑の特徴的な症状は、境界が明瞭な白色の脱色素斑(白斑)が皮膚に現れることです。通常、痛みやかゆみなどの自覚症状はありません。
初期症状としては、まず親指の先ほどの大きさ(約1cm程度)の白斑が数個できることが多いです。最初は皮膚の色がまだらに薄くなる「不完全脱色素斑」として現れ、次第に完全に色が抜けた「完全脱色素斑」へと進行していきます。正常な皮膚との境界がはっきりしており、辺縁部の色が濃くなることも特徴の一つです。
症状が進行すると、白斑の数が増えたり、個々の白斑が拡大したり、隣接する白斑同士が融合して大きくなることがあります。進行の速度や程度には個人差があり、発症後急速に拡大する方もいれば、長期間変化しない方もいます。
好発部位
白斑は体のどの部位にも発生しうますが、特に以下の部位に現れやすいとされています。
顔面(特に目の周り、口の周り、額)、首、手の甲、手指、手首、足の甲、足首、肘、膝、腰部、腹部、陰部、肛門周囲など、皮膚が擦れやすい部位や、開口部(口、鼻、目など)の周囲に好発します。
また、白斑が毛の生えている部分に現れた場合、その部位の毛も白くなることがあります。これは「白毛化」と呼ばれ、頭髪、眉毛、まつ毛、体毛などで起こります。白毛化が認められる場合、その部位のメラノサイトが完全に消失している可能性が高く、治療による色素回復が難しくなることがあるため、早期の対応が重要です。
精神的・心理的影響
尋常性白斑は生命を脅かす疾患ではありませんが、見た目の変化は患者さんの精神面に大きな影響を与えることがあります。特に顔や手など、人目につきやすい部位に白斑がある場合、周囲からの視線を気にして外出を控えるようになったり、対人関係に消極的になるなど、日常生活や社会生活に支障をきたすケースも少なくありません。
国際的な研究でも、尋常性白斑患者さんは健常者と比較してQOL(生活の質)が低下しやすいことが報告されています。特に若年者や女性、顔面に白斑がある方で、心理的な負担が大きくなる傾向があります。このため、皮膚症状に対する治療だけでなく、患者さんの心理面へのケアも重要となります。
3. 尋常性白斑の分類(タイプ別の特徴)
日本皮膚科学会の尋常性白斑診療ガイドライン第2版2025では、白斑の分布パターンによって大きく3つのタイプに分類されています。どのタイプに該当するかによって、病気の進行や治療方針が異なる場合があります。
非分節型(汎発型)
非分節型は尋常性白斑のなかで最も多くみられるタイプで、全体の60〜70%を占めます。神経の支配領域とは関係なく、体の左右両側に対称的に白斑が現れることが多いのが特徴です。
このタイプは進行性であり、症状が進行する時期と安定している時期を繰り返しながら、徐々に範囲が広がっていく傾向があります。顔面(特に目や口の周り)、手足の先端、体の開口部周囲によく見られます。
非分節型はさらに、白斑の分布範囲によっていくつかのサブタイプに分けられます。限られた部位にのみ白斑がある「限局型」、指先や顔面に白斑が分布する「指趾顔面型(acrofacial)」、体の広い範囲に白斑が散在する「汎発型(generalized)」、全身の80%以上が脱色素斑となる「全身型(universal)」などがあります。
分節型
分節型は、体の片側だけに、神経の走行に沿って帯状に白斑が現れるタイプです。比較的若い年齢(30歳以下)で発症することが多く、発症後は急速に(数か月〜半年程度で)白斑が拡大します。
しかし、ある程度拡大した後は進行が止まり、安定することが多いのが特徴です。顔面や首に好発し、片側性であることから、非分節型との鑑別は比較的容易です。
分節型は非分節型と比較して、外科的治療(皮膚移植など)の適応になりやすく、治療効果も得られやすいとされています。
分類不能型(未分類型)
非分節型にも分節型にも分類できないものを分類不能型といいます。限局した一か所のみに白斑が生じる「限局型」や、粘膜にのみ白斑が見られる「粘膜型」などが含まれます。
初期の段階では分類不能型とされることもありますが、経過観察により非分節型または分節型に移行することがあります。
4. 尋常性白斑の原因とメカニズム
尋常性白斑の原因は、現在のところ完全には解明されていません。しかし、近年の研究により、いくつかの有力な仮説が提唱されています。
自己免疫説(最も有力)
現在最も有力視されているのが「自己免疫説」です。本来、私たちの免疫システムは細菌やウイルスなど外敵から体を守る働きをしていますが、何らかの理由でこの免疫システムが誤作動を起こし、自分自身のメラノサイト(色素細胞)を「異物」と認識して攻撃してしまうことで白斑が発症すると考えられています。
この説を裏付ける証拠として、尋常性白斑の患者さんでは、他の自己免疫疾患を合併する頻度が高いことが挙げられます。特に甲状腺疾患(バセドウ病、橋本病など)の合併が多く、その他にも関節リウマチ、シェーグレン症候群、糖尿病、悪性貧血、アジソン病、円形脱毛症などを合併することがあります。
神経説
分節型白斑が神経の走行に沿って出現することから、神経伝達物質がメラノサイトの機能に影響を与えているとする説です。交感神経から放出されるカテコールアミンなどの神経伝達物質が、メラノサイトに対して毒性を示す可能性が指摘されています。
白斑部分に異常な発汗が認められることがあるのも、この説を支持する所見の一つとされています。
酸化ストレス説
ストレスや紫外線などの刺激によって発生する活性酸素(フリーラジカル)が、メラノサイトを傷害するという説です。メラノサイトはメラニン合成の過程で活性酸素を発生させますが、通常はこれを除去する酵素が働いています。
しかし、この除去能力が低下したり、過剰な活性酸素が発生したりすると、メラノサイト自体が障害を受けてしまいます。尋常性白斑患者さんの皮膚では、抗酸化酵素の活性が低下しているという報告もあります。
遺伝的要因
尋常性白斑患者さんの約20〜30%で家族内発症が認められることから、遺伝的な要因も関与していると考えられています。特定の遺伝子多型(SNP)が白斑発症のリスクを高めることが、ゲノムワイド関連解析(GWAS)によって報告されています。
ただし、尋常性白斑は単一遺伝子疾患ではなく、複数の遺伝的要因に加えて、環境要因(ストレス、外傷、日焼け、化学物質への曝露など)が複合的に作用して発症すると考えられています。
ケブネル現象
尋常性白斑では、外傷や摩擦、日焼けなどの物理的刺激を受けた部位に新たな白斑が出現することがあります。これを「ケブネル現象」と呼びます。ケブネル現象は乾癬などの他の皮膚疾患でも見られますが、尋常性白斑患者さんの約20〜30%で認められるとされています。
このため、白斑のある方は皮膚への過度な刺激を避けることが重要です。
5. 白斑と間違えやすい疾患
皮膚が白くなる疾患は尋常性白斑だけではありません。適切な治療を受けるためには、正確な診断が不可欠です。以下に、尋常性白斑と鑑別が必要な主な疾患を挙げます。
後天性の白斑を呈する疾患
炎症後白斑(脱色素斑)は、湿疹やアトピー性皮膚炎、日焼け、外傷などで皮膚に強い炎症が起こった後に、その部位の色素が一時的に減少して白く見える状態です。尋常性白斑と比較すると、境界がぼやけていることが多く、時間の経過とともに自然に改善することが多いです。
癜風(でんぷう)は、マラセチアという真菌(カビ)による感染症で、夏場に汗をかきやすい部位(胸、背中など)に多発する白い斑点が特徴です。尋常性白斑とは異なり、抗真菌薬による治療が有効です。
白色粃糠疹(はくしょくひこうしん)は、一般的に「はたけ」と呼ばれるもので、主に学童期の子どもの顔に見られる、ぼんやりとした白い斑です。尋常性白斑のようにくっきりと白くなることは少なく、多くは自然に改善します。
老人性白斑は、加齢に伴ってメラノサイトの数が減少することで、5mm程度の小さな白斑が四肢などにパラパラと出現するものです。治療の必要はありません。
脱色素性母斑は、生まれつきまたは乳児期早期から存在する白斑で、境界は不明瞭なことが多いです。大きさや形は生涯を通じてほぼ一定で、進行性ではありません。
原田病(フォークト・小柳・原田病)は、白斑に加えて髄膜炎や難聴を合併する疾患です。皮膚、網膜、髄膜、内耳に存在するメラノサイトに対する自己免疫反応が原因と考えられています。皮膚症状だけでは尋常性白斑との区別が難しいため、全身症状の有無が診断の鍵となります。
ロドデノール誘発性脱色素斑は、2013年に社会問題となった美白化粧品による白斑です。特定の美白成分(ロドデノール)を含む化粧品の使用により、塗布部位を中心に白斑が発生しました。現在は当該製品は回収されていますが、既発症例の経過観察や治療が続けられています。
先天性の白斑・白皮症
眼皮膚白皮症(アルビニズム)は、先天的な遺伝子異常によりメラニン色素を合成する能力が低下または欠如している疾患です。生まれつき皮膚や毛髪、眼の色素が薄く、紫外線に対する感受性が高いのが特徴です。
まだら症(ぶち症)は、先天的に前頭部の白髪や体幹の白斑を呈する疾患で、常染色体優性遺伝の形式をとります。
結節性硬化症は、皮膚の白斑(葉状白斑)に加えて、脳、腎臓、心臓などの多臓器に病変を生じる遺伝性疾患です。
6. 尋常性白斑の診断方法
問診・視診
尋常性白斑の診断は、主に医師による問診と視診によって行われます。問診では以下のような点を確認します。
白斑がいつ頃から出現したか、白斑の経過(拡大しているか、安定しているか)、家族に白斑の方がいるか、他の自己免疫疾患の既往があるか、使用している薬剤や化粧品、外傷や日焼けの経験などを詳しくお聞きします。
視診では、白斑の分布パターン(片側性か両側性か)、境界の明瞭さ、白斑内の毛の色、周囲の皮膚の状態などを観察します。
ウッド灯検査
ウッド灯(Wood’s lamp)は、紫外線Aを照射する特殊な検査機器です。暗室でウッド灯を皮膚に当てると、尋常性白斑の部位は明るい白色に光って見え、正常皮膚との境界がより明確になります。この検査は、特に色白の方や、初期の不完全脱色素斑を見つけるのに有用です。
血液検査
尋常性白斑は、甲状腺疾患、糖尿病、膠原病、悪性貧血などの自己免疫疾患を合併することがあります。これらの合併症の有無を調べるために、必要に応じて血液検査が行われます。
特に、甲状腺機能検査(TSH、FT3、FT4)、抗甲状腺抗体検査、血糖値、抗核抗体などが測定されることがあります。
皮膚生検
通常、尋常性白斑の診断に皮膚生検(皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べる検査)は必要ありません。しかし、他の疾患との鑑別が難しい場合や、診断が確定しない場合には、皮膚生検が行われることがあります。
組織学的には、尋常性白斑では表皮基底層のメラノサイトが減少または消失していることが確認されます。
重症度の評価
尋常性白斑の重症度は、一般的に白斑が体表面積に占める割合で評価されます。軽症は体表面積の10%未満、中等症は10〜25%、重症は25%以上とされることが多いです。
ただし、面積が小さくても顔面に白斑がある場合など、患者さんのQOLが著しく損なわれている場合は、重症として扱われることもあります。
7. 尋常性白斑の治療法
尋常性白斑の治療目標は、白斑の進行を止め、可能な限り色素を再生させることです。現在のところ根本的な治癒法は確立されていませんが、適切な治療により症状の改善や進行の抑制が期待できます。
治療法の選択は、患者さんの年齢、白斑のタイプ、部位、範囲、活動性(進行中か安定しているか)、発症からの期間などを総合的に考慮して決定されます。日本皮膚科学会の診療ガイドラインに基づいて、主な治療法をご紹介します。
外用療法
外用薬は、尋常性白斑治療の基本となる治療法です。特に症状が軽度の場合や、初期段階の白斑、範囲が限られている場合に有効です。
ステロイド外用薬は、尋常性白斑治療において最も広く使用されている外用薬です。免疫の異常な働きを抑え、メラノサイトへの攻撃を止めることで、色素の再生を促します。診療ガイドラインでは、体表面積の10〜20%以下の白斑において、治療の第一選択となりうるとされています(推奨度A〜B)。
健康保険が適用され、比較的安価で手軽に始められますが、長期間同じ部位に使用すると皮膚が薄くなる(皮膚萎縮)、血管が目立つようになる(毛細血管拡張)などの副作用が出ることがあります。そのため、専門医の指導のもとで使用し、効果がない場合は漫然と続けずに他の治療法への切り替えを検討します。通常、数か月を目安に効果判定を行います。
タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)は、免疫抑制作用を持つ外用薬です。ステロイド外用薬のような皮膚萎縮の副作用が少ないため、顔面や首など皮膚が薄い部位の白斑に使用されることがあります。
診療ガイドラインでは「治療効果が高い可能性がある」とされていますが(推奨度2)、尋常性白斑への使用は保険適用外(自費診療)となります。また、長期使用の安全性についてはまだ十分なデータがないため、3〜4か月を目安に効果判定を行うことが推奨されています。
活性型ビタミンD3外用薬は、メラニンの生合成を促進する作用があるとされています。ただし、単独では効果が弱いため、通常は紫外線療法と併用して使用されます(推奨度3)。こちらも尋常性白斑への使用は保険適用外となります。
紫外線療法(光線療法)
紫外線療法は、尋常性白斑治療において非常に重要な位置を占める治療法です。紫外線を白斑部位に照射することで、毛包に存在するメラノサイトの幹細胞を刺激し、新しいメラノサイトの産生と分化を促進します。これらの細胞が徐々に表皮に移動し、色素を作ることで白斑部分に色が戻っていきます。
健康保険が適用される治療であり、外用薬で効果が得られない場合の主要な治療選択肢となります。
ナローバンドUVB療法は、中波長紫外線(UVB)のなかでも、311±2nmという非常に狭い波長域の紫外線を用いる治療法です。治療に有効な波長のみを照射するため、従来の紫外線療法と比較して副作用が少なく、高い効果が期待できます。
診療ガイドラインでは推奨度Bとされ、「行うよう勧められる」治療法です。週1〜2回の照射で、10〜20回程度照射すると効果が出始めることが多いとされています。顔面、首、体幹は治療に反応しやすく、手足の先端は反応しにくい傾向があります。
全身に白斑がある場合には全身照射型の機器が、局所的な白斑には部分照射型の機器が使用されます。
エキシマライト(エキシマランプ)は、308nmという特定の波長の紫外線を、病変部にピンポイントで照射する治療法です。ナローバンドUVBよりも高い輝度(光の強さ)を持ち、より短時間で効果的な照射が可能です。
正常な皮膚への影響を最小限に抑えられるため、範囲の狭い限局型の白斑に特に有効です。一部の報告では、ナローバンドUVBよりも高い治療効果を示すとされています。こちらも健康保険が適用されます。
PUVA療法は、光感受性を高める薬剤(ソラレン)を内服または外用してから長波長紫外線(UVA)を照射する治療法です。かつては尋常性白斑治療の主流でしたが、現在はナローバンドUVBやエキシマライトのほうが効果が高いとの報告があり、選択されることは少なくなっています。
紫外線療法の副作用としては、照射部位の赤み、日焼け様症状、色素沈着などがあります。長期的には皮膚の光老化(シミ、シワ)や、理論的には皮膚がんのリスク上昇が懸念されますが、現在のナローバンドUVBやエキシマライトでは、明らかに皮膚がんを増加させたという報告はありません。
外科的治療
外用薬や光線療法で十分な効果が得られない場合、外科的治療が検討されます。ただし、外科的治療の最も重要な適応条件は、白斑が「安定期」にあること、つまり少なくとも1年間、白斑の拡大や新たな出現がないことです。活動期に手術を行うと、手術部位にケブネル現象が起こり、かえって白斑が悪化する危険性があります。
ミニグラフト植皮術(1mmグラフト植皮術)は、正常な皮膚から1mm程度の小さな皮膚片を採取し、白斑部分に点状に移植する方法です。比較的広い範囲の白斑にも対応可能ですが、移植部位が敷石状や水玉模様のような外観になることがあります。
吸引水疱表皮移植は、正常部位の皮膚に陰圧をかけて水疱(みずぶくれ)を作り、その表皮を白斑部位に移植する方法です。皮膚を採取する部位の傷はほとんど残りませんが、移植できる範囲が限られます。
分層植皮術は、正常な皮膚を薄く剥がして白斑部位に移植する方法です。より広い範囲の白斑に対応できますが、皮膚を採取した部位に同じ大きさの傷が残ることや、移植部位と周囲の皮膚の色や質感が異なって見えることがあります。
8. 最新の治療法と今後の展望
尋常性白斑の治療は、近年大きな進歩を遂げています。ここでは、最新の治療法と今後期待される治療について解説します。
自家培養表皮移植(ジャスミン)
2024年10月1日より、尋常性白斑に対する自家培養表皮移植が健康保険の適用対象となりました。これは、日本の尋常性白斑治療における画期的な進歩です。
自家培養表皮移植は、患者さん自身の正常な皮膚から少量の組織を採取し、そこに含まれるメラノサイト(色素細胞)と表皮細胞を体外で培養して増やし、シート状の「自家培養表皮」を作成します。この培養表皮を白斑部分に移植することで、色素の再生を図る治療法です。
株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリングが開発した再生医療等製品「ジャスミン」がこの治療に用いられます。
従来の皮膚移植では、移植に必要な面積と同等の皮膚を正常部位から採取する必要がありましたが、培養技術を用いることで、少量の皮膚採取から大きな培養表皮シートを作成できます。これにより、患者さんの身体的負担が大幅に軽減されます。
また、メラノサイトを保持したまま培養するため、移植後の色馴染みが良好であることも大きな利点です。従来の皮膚移植では、移植部位と周囲の皮膚の色が異なってしまうことがありましたが、この方法ではより自然な仕上がりが期待できます。
適応となるのは、12歳以上で、外用療法や光線療法など他の治療で効果が見られなかった、症状が安定している白斑患者さんです。治療は専門的な設備を持つ限られた医療機関でのみ行われます。
この治療は非常に高額(薬価約446万円)ですが、保険適用により「高額療養費制度」が利用でき、患者さんの所得に応じた上限額(月額6〜25万円程度)までの自己負担で治療を受けることが可能になりました。
JAK阻害薬
JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬は、尋常性白斑治療の未来を拓く新しいタイプの治療薬として、世界的に注目されています。
JAKは細胞内のシグナル伝達に関わる酵素で、免疫細胞の活性化に重要な役割を果たしています。尋常性白斑では、このJAKを介したシグナル伝達経路が過剰に活性化され、メラノサイトへの攻撃が引き起こされていると考えられています。
JAK阻害薬はこの経路を遮断することで、メラノサイトへの攻撃信号を止め、白斑の進行抑制と色素再生を促進します。
海外では、ルキソリチニブクリーム(JAK1/2阻害薬)が尋常性白斑治療薬として承認されており、大規模な臨床試験で高い有効性が示されています。The New England Journal of MedicineやThe Lancetに掲載された第3相臨床試験の結果では、治療24週後に顔面の白斑で50%以上の改善が見られた患者さんの割合が、プラセボ群と比較して有意に高いことが報告されています。
日本でも現在、尋常性白斑に対するJAK阻害薬の臨床試験が進行中であり、将来的な保険適用が期待されています。なお、JAK阻害薬はすでにアトピー性皮膚炎や円形脱毛症などの治療薬として日本でも承認されており、使用経験が蓄積されています。
今後の展望
尋常性白斑の病態解明は急速に進んでおり、これに伴い新たな治療ターゲットも次々と発見されています。免疫チェックポイント阻害薬の応用や、メラノサイト幹細胞の活性化を促す薬剤の開発など、さまざまなアプローチが研究されています。
また、既存の治療法の組み合わせによる相乗効果を狙った併用療法や、個々の患者さんの遺伝的背景や病態に応じた個別化医療(精密医療)への展開も期待されています。
9. 日常生活での注意点とセルフケア
尋常性白斑との付き合いは、医療機関での治療だけでなく、日常生活でのセルフケアも非常に重要です。以下のポイントを心がけることで、症状の悪化を防ぎ、治療効果を高めることができます。
紫外線対策
色素が失われた白斑部分は、メラニンによる保護がないため、非常に日焼けしやすくなっています。日焼けは炎症を引き起こし、ケブネル現象により白斑を悪化させる可能性があるため、適切な紫外線対策が重要です。
外出時は、露出部に日焼け止め(SPF30以上推奨)を塗り、帽子、日傘、長袖の衣服などで皮膚を保護しましょう。特に紫外線が強い春から夏にかけては、より入念な対策が必要です。
ただし、紫外線療法を受けている方は、治療部位への日常的な紫外線暴露が治療効果に影響する可能性がありますので、主治医の指示に従ってください。
皮膚への刺激を避ける
ケブネル現象を防ぐため、皮膚への物理的な刺激はできるだけ避けましょう。衣服の締め付けや、体をゴシゴシと強くこすって洗うなどの行為は、白斑を誘発する可能性があります。
肌に優しい素材の衣服を選び、入浴時は柔らかいタオルやスポンジで優しく洗うことを心がけてください。アクセサリーによる摩擦にも注意が必要です。
ストレス管理
ストレスは免疫システムに影響を与え、尋常性白斑の悪化要因となる可能性があります。完全にストレスを避けることは難しいですが、適度な運動、十分な睡眠、趣味の時間を持つなど、自分なりのストレス解消法を見つけることが大切です。
バランスの良い食事
特定の食品が尋常性白斑を治すという科学的根拠はありませんが、バランスの良い食事で全身の健康状態を維持することは重要です。ビタミンやミネラル、抗酸化物質を豊富に含む野菜や果物を積極的に摂取しましょう。
カモフラージュメイク
尋常性白斑の治療には時間がかかることが多く、その間の見た目の悩みを軽減する方法として、カモフラージュメイクがあります。白斑専用の化粧品を用いて白斑をカバーすることで、外見上の悩みを軽減し、QOLの向上に役立ちます。
カモフラージュメイクは保険適用外ですが、治療に反応しない白斑や、治療効果が得られるまでの間のQOL改善に有効な選択肢です。専門のトレーニングを受けたスタッフがいる医療機関や、化粧品メーカーが開催するカバーメイク講座などで技術を学ぶことができます。
10. 合併症について
尋常性白斑の患者さんでは、他の自己免疫疾患を合併していることがあります。合併症の早期発見と適切な治療が重要です。
甲状腺疾患
尋常性白斑に最も多く合併する自己免疫疾患です。バセドウ病(甲状腺機能亢進症)や橋本病(慢性甲状腺炎)などが報告されています。甲状腺ホルモンの異常は全身に影響を及ぼすため、定期的な検査が推奨されます。
その他の自己免疫疾患
糖尿病(1型糖尿病)、悪性貧血、アジソン病、関節リウマチ、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、円形脱毛症なども合併することがあります。これらの疾患が疑われる症状がある場合は、専門科への受診が必要です。
心理的影響への対応
前述のとおり、尋常性白斑は患者さんの精神面に大きな影響を与えることがあります。抑うつ状態や社会不安障害などの精神症状が見られる場合は、皮膚科治療と並行して、心療内科や精神科での治療、カウンセリングなどを検討することが重要です。
患者会やサポートグループへの参加も、同じ悩みを持つ方々との交流を通じて心理的なサポートを得る有効な手段です。
11. 治療費と保険適用について
保険適用となる治療
尋常性白斑の治療のうち、以下の治療は健康保険が適用されます。
ステロイド外用薬による治療、ナローバンドUVB療法、エキシマライト療法(エキシマレーザーを含む)、そして2024年10月からは自家培養表皮移植(ジャスミン)も保険適用となりました。
保険適用の治療では、3割負担(年齢や所得により異なる)で治療を受けることができます。紫外線療法の場合、1回あたりの自己負担は1,000円程度が目安です。
自費診療となる治療
タクロリムス軟膏や活性型ビタミンD3外用薬の尋常性白斑への使用、カモフラージュメイク用品などは保険適用外(自費診療)となります。
高額療養費制度
自家培養表皮移植のような高額な治療を受ける場合は、「高額療養費制度」を利用することで、月ごとの医療費の自己負担額に上限が設けられます。上限額は年齢や所得によって異なりますが、一般的な所得の方で月額約8万円程度が上限となります。
また、同一月内に複数回の高額療養費が発生した場合(直近12か月間に3回以上該当)は、「多数回該当」としてさらに自己負担上限額が引き下げられます。
制度の詳細については、加入している健康保険の窓口や、医療機関の相談窓口にお問い合わせください。

12. まとめ
尋常性白斑は、皮膚の色素を作るメラノサイトが何らかの原因で減少・消失することで、皮膚の色が白く抜ける疾患です。日本では約15万人以上の患者さんがおり、決してまれな疾患ではありません。
原因としては、自己免疫の異常が最も有力視されていますが、遺伝的要因や環境要因も関与していると考えられています。痛みやかゆみはありませんが、見た目の変化は患者さんの生活の質に大きな影響を与えることがあります。
治療法としては、ステロイド外用薬などの外用療法、ナローバンドUVBやエキシマライトによる光線療法が基本となります。これらの治療で効果が得られない場合は、外科的治療が検討されます。
2024年10月には自家培養表皮移植(ジャスミン)が保険適用となり、また海外ではJAK阻害薬が承認されるなど、治療の選択肢は確実に広がっています。
尋常性白斑の治療には時間がかかることが多いですが、根気強く治療を続けることで、多くの患者さんで症状の改善が期待できます。早期発見・早期治療が重要ですので、皮膚に白い斑点を見つけたら、早めに専門医を受診することをお勧めします。
参考文献
- 尋常性白斑診療ガイドライン第2版2025(日本皮膚科学会雑誌)
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A 白斑
- 日本皮膚科学会 一般公開ガイドライン
- 尋常性白斑について(メディカルノート)
- 白斑の治療(株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング)
- 白斑(埼玉県皮膚科医会)
- 厚生労働省 高額療養費制度を利用される皆さまへ
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務