ふと耳の後ろに触れたとき、見慣れないしこりを発見して不安になった経験はありませんか。耳の裏は普段あまり意識しない部位ですが、実はさまざまな原因でしこりができやすい場所です。
しこりの正体は、粉瘤(ふんりゅう)や脂肪腫のような良性の腫瘍であることが多い一方、リンパ節の腫れや、まれに悪性の病気が隠れていることもあります。しこりの硬さや大きさ、痛みの有無によって原因はさまざまで、適切な対処法も異なります。
本記事では、耳の裏にできるしこりの主な原因や特徴、自宅でできるセルフチェックの方法、そして医療機関を受診すべき目安について詳しく解説します。「このしこりは放っておいても大丈夫?」「何科を受診すればいい?」といった疑問にお答えしますので、耳の裏のしこりが気になっている方はぜひ参考にしてください。
目次
- 耳の裏の構造とは
- 耳の裏にしこりができる主な原因
- 粉瘤(アテローム)とは
- 脂肪腫とは
- リンパ節の腫れ(リンパ節炎)とは
- 乳様突起炎とは
- その他の原因(嚢胞、耳下腺腫瘍など)
- しこりのセルフチェック方法
- 受診が必要なしこりの特徴
- 耳の裏のしこりは何科を受診すべきか
- 主な検査方法
- 治療方法
- 日常生活での注意点と予防法
- よくある質問
- まとめ
- 参考文献
1. 耳の裏の構造とは
耳の裏(耳介後部)は、頭蓋骨の一部である側頭骨に覆われた領域です。この部位には以下のような構造が存在しています。
まず、乳様突起(にゅうようとっき)と呼ばれる骨の突出部があります。乳様突起は耳の後ろで触れることができる硬い骨で、その内部には乳突蜂巣(にゅうとつほうそう)と呼ばれる蜂の巣状の空洞構造があります。この空洞は中耳とつながっており、中耳炎が悪化すると炎症が波及することがあります。
また、耳の周囲にはリンパ節が豊富に存在しています。耳介後リンパ節(後耳介リンパ節)や乳様突起周囲リンパ節などがあり、風邪や感染症の際にこれらのリンパ節が腫れてしこりとして触れることがあります。
さらに、耳の裏の皮膚には皮脂腺や毛包が存在し、これらの構造から粉瘤や脂肪腫といった良性腫瘍が発生することがあります。耳の後ろは皮膚が薄く、マスクのひもやメガネのつるなどによる外的刺激を受けやすい部位でもあるため、近年はこうしたしこりができる方が増加傾向にあるといわれています。
2. 耳の裏にしこりができる主な原因
耳の裏にできるしこりには、さまざまな原因が考えられます。代表的なものとして以下が挙げられます。
良性の皮膚腫瘍としては、粉瘤(アテローム)と脂肪腫が最も一般的です。粉瘤は皮膚の下に袋状の構造ができ、その中に角質や皮脂がたまったもので、耳の後ろは特にできやすい部位の一つです。脂肪腫は脂肪細胞が増殖してできる柔らかいしこりで、通常は痛みを伴いません。
感染や炎症によるしこりとしては、リンパ節炎と乳様突起炎が代表的です。リンパ節炎は風邪や中耳炎、咽頭炎などの感染症に反応してリンパ節が腫れるもので、触ると痛みを感じることが多いです。乳様突起炎は急性中耳炎の合併症として起こり、耳の後ろの骨に炎症が及んだ状態です。
その他の原因としては、先天性の嚢胞(のうほう)や耳下腺腫瘍、副耳(ふくじ)などがあります。また、まれではありますが、悪性リンパ腫やがんのリンパ節転移によってしこりができることもあるため、注意が必要です。
しこりの原因を正確に特定するには医療機関での診察が必要ですが、しこりの特徴を知ることで、ある程度の目安をつけることができます。
3. 粉瘤(アテローム)とは
粉瘤は、皮膚科で最も診察する機会の多い皮膚腫瘍の一つです。アテロームや表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)とも呼ばれ、皮膚の内側に袋状の構造物ができ、本来であれば皮膚から剥がれ落ちるはずの垢(角質)や皮脂がその袋の中にたまることで形成されます。
粉瘤の特徴
粉瘤の大きさは数ミリメートルから数センチメートルまでさまざまです。通常は半球状に盛り上がったしこりとして触れ、中央部に黒い点(開口部・ヘソ)が見られることが特徴です。この黒い点は毛穴が詰まった部分で、粉瘤の目印となります。
初期の粉瘤は痛みがなく、肌色または白っぽい色をしています。しこりは皮膚の下で動くことがあり、押すと少し弾力を感じます。
粉瘤ができる原因
粉瘤の正確な発生原因は完全には解明されていません。しかし、以下のような要因が関係していると考えられています。
毛穴の閉塞によって皮脂や角質が外に排出されずに内部にたまることが、袋状構造の形成につながります。また、外傷やニキビの跡から皮膚の一部が皮下に入り込むことで発生することもあります。ヒトパピローマウイルスの感染が原因となる場合もあり、特に手足にできる粉瘤ではウイルス感染の関与が指摘されています。
体質的に粉瘤ができやすい方もおり、一度できると複数の粉瘤が発生することも珍しくありません。
耳の後ろは皮膚が薄く皮脂腺が密集しているうえ、マスクやイヤホン、メガネなどによる外的刺激を受けやすいため、粉瘤が発生しやすい部位の一つです。
粉瘤が炎症を起こすと
粉瘤は良性腫瘍であり、通常は無症状です。しかし、何らかの原因で炎症を起こすと、状況は一変します。
炎症を起こした粉瘤は「炎症性粉瘤」と呼ばれ、表面が赤く腫れて痛みを伴うようになります。炎症が進行すると、しこりの内容物がドロドロの膿状になり、嚢腫が破裂して独特の悪臭を放つ内容物が排出されることがあります。
炎症性粉瘤は放置すると症状が悪化し、周囲の組織に炎症が広がることもあるため、早めの治療が推奨されます。
粉瘤は自然に治る?
粉瘤は袋状の構造が残っている限り、自然に治ることはありません。ニキビと混同されることがありますが、ニキビは毛穴が詰まったものであるのに対し、粉瘤は袋状になった腫瘍です。
中身を押し出しても袋が残っていれば再び内容物がたまり、しこりは消えません。根本的に治すには、袋ごと切除する手術が必要です。
4. 脂肪腫とは
脂肪腫は、皮膚の下で脂肪細胞が増殖してできる良性腫瘍です。いわゆる「脂肪のかたまり」と呼ばれるもので、皮下にできる良性腫瘍の中では最も頻度が高いとされています。
脂肪腫の特徴
脂肪腫は触ると柔らかく、弾力のあるしこりとして感じられます。皮膚の下でボールのように膨らんでいることが多く、押すと皮膚の下で動く(可動性がある)のが特徴です。
大きさは1センチメートル程度の小さなものから、10センチメートル以上の大きなものまでさまざまです。脂肪腫は通常痛みを伴わず、皮膚の色も正常なままです。
脂肪腫は体のどこにでもできますが、特に背中、肩、首、上腕などに多く見られます。耳の後ろにできることは比較的少ないものの、可能性はあります。
脂肪腫ができる原因
脂肪腫の発生原因ははっきりとはわかっていません。外傷との関連が指摘されることもありますが、多くの場合は原因不明です。
40代から60代に多く見られ、やや女性に多いとされています。肥満の方にできやすい傾向があるともいわれていますが、やせ型の方にも発生します。
体質的に脂肪腫ができやすい方もおり、まれに体の複数の部位に脂肪腫ができる多発性脂肪腫症という状態もあります。
脂肪腫と粉瘤の違い
脂肪腫と粉瘤は外見が似ていることがあり、一般の方には区別が難しいことがあります。主な違いは以下の通りです。
硬さについては、脂肪腫は柔らかく弾力があるのに対し、粉瘤はやや硬めです。
中央の黒い点については、粉瘤には中央に開口部(黒い点)が見られることが多いですが、脂肪腫にはありません。
臭いについては、粉瘤は内容物に独特の臭いがありますが、脂肪腫は無臭です。
炎症については、粉瘤は炎症を起こして赤く腫れることがありますが、脂肪腫は通常炎症を起こしません。
圧迫した際の反応については、粉瘤は強く圧迫すると内容物が出ることがありますが、脂肪腫は圧迫してもつぶれません。
正確な診断には医師による診察が必要ですので、気になるしこりがある場合は医療機関を受診しましょう。
5. リンパ節の腫れ(リンパ節炎)とは
リンパ節は全身に存在する免疫器官で、細菌やウイルスなどの病原体から体を守る役割を担っています。耳の周囲には多くのリンパ節が集まっており、感染症や炎症に反応して腫れることがあります。
リンパ節炎の特徴
リンパ節が炎症を起こして腫れた状態をリンパ節炎といいます。耳の後ろにあるリンパ節(後耳介リンパ節、乳様突起周囲リンパ節など)が腫れると、しこりとして触れるようになります。
リンパ節炎によるしこりは、以下のような特徴があります。
触ると痛みを感じることが多いです。しこりは比較的硬く、コリコリとした感触です。風邪や中耳炎、咽頭炎など他の感染症状を伴うことが多いです。発熱を伴うことがあります。通常は1センチメートルから2センチメートル程度の大きさです。
リンパ節が腫れる原因
リンパ節が腫れる原因として最も多いのは、細菌やウイルスによる感染症です。具体的には以下のようなものが挙げられます。
風邪やインフルエンザなどの上気道感染症、急性中耳炎、急性咽頭炎や扁桃炎、虫歯や歯周病などの口腔内感染症、外耳炎、皮膚の感染症などがあります。
これらの感染症が起こると、体はリンパ節で病原体と戦うため、リンパ節が腫れて大きくなります。これは免疫反応の一種であり、体が感染と戦っているサインです。
感染が治まれば、リンパ節の腫れも通常1週間から2週間程度で自然に小さくなります。
注意が必要なリンパ節の腫れ
リンパ節の腫れの多くは感染症によるもので、原因となる病気が治れば改善します。しかし、以下のような場合は注意が必要です。
2週間以上経っても腫れが引かない場合、しこりが徐々に大きくなっている場合、しこりが2センチメートル以上ある場合、しこりが硬く動きにくい場合、痛みがなく無症状で腫れている場合、発熱や体重減少、寝汗などの全身症状を伴う場合などです。
このような場合は、悪性リンパ腫やがんの転移など、より深刻な病気が隠れている可能性があるため、早めに医療機関を受診することが重要です。
6. 乳様突起炎とは
乳様突起炎は、耳の後ろにある乳様突起という骨に細菌感染が及んだ状態です。急性中耳炎の合併症として起こることが多く、適切な治療を行わないと重篤な合併症につながる可能性がある疾患です。
乳様突起炎の特徴
乳様突起炎は、急性中耳炎の発症後数日から数週間で症状が現れ始めます。主な症状として以下のものが挙げられます。
耳の後ろの発赤と腫脹があり、触ると痛みを感じます。耳介(耳たぶ)が前方または外側下方に押し出されたような状態(耳介聳立:じかいしょうりつ)になります。高熱が出ることが多いです。持続的でズキズキとした耳痛があります。耳から膿性の耳だれ(耳漏)が出ることがあります。難聴を伴うことがあります。
乳様突起炎のしこりは、粉瘤やリンパ節炎とは異なり、骨の上に生じる深い腫れです。触ると非常に痛みが強く、「押すと響く」ような感覚があります。
乳様突起炎の原因
乳様突起炎の多くは、急性中耳炎を治療しなかったり、治療が不十分であったりした場合に発症します。中耳の感染が乳様突起へと広がることで起こります。
原因となる細菌としては、肺炎球菌(肺炎レンサ球菌)が最も多いとされています。肺炎球菌結合型ワクチンの普及により発症頻度は減少していますが、依然として注意が必要な疾患です。
乳様突起炎は特に小児に多く見られますが、耳の感染症を繰り返す成人でも発症することがあります。
乳様突起炎を放置するとどうなる?
乳様突起炎は適切な治療を行わないと、重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
感染が頭蓋内に波及すると、髄膜炎や脳膿瘍などの命に関わる合併症が生じることがあります。また、顔面神経に炎症が及ぶと顔面神経麻痺を引き起こすこともあります。難聴が進行し、永続的な聴力低下につながることもあります。
このため、乳様突起炎が疑われる場合は、すぐに耳鼻咽喉科を受診することが重要です。
7. その他の原因(嚢胞、耳下腺腫瘍など)
耳の裏のしこりの原因として、粉瘤、脂肪腫、リンパ節炎、乳様突起炎以外にも、以下のようなものが考えられます。
嚢胞(のうほう)
嚢胞とは、液体の入った袋状の構造物のことです。耳の周囲には先天性の嚢胞が発生することがあります。
嚢胞は触ると柔らかく、内部に液体が入っているため波動を感じることがあります。通常は無症状ですが、感染を起こすと痛みや腫れを伴うことがあります。
粉瘤との主な違いは、内容物が液体であること、皮膚表面に黒い点(開口部)がないこと、悪臭を伴う膿の排出がないことなどです。
耳下腺腫瘍
耳下腺は耳の下から後ろにかけて存在する唾液腺で、ここに腫瘍が発生することがあります。耳下腺腫瘍の多くは良性(多形腺腫など)ですが、まれに悪性のものもあります。
耳下腺腫瘍は徐々に大きくなる傾向があり、悪性の場合は顔面神経麻痺(口元のゆがみなど)を伴うことがあります。
副耳(ふくじ)
副耳は生まれつき耳の周辺にできる小さな皮膚突起で、先天性の形態異常の一種です。耳の前や後ろにイボのように存在し、通常は無症状です。
副耳が炎症を起こすと腫れてしこりのように感じられることがあり、粉瘤と間違えられることがあります。
悪性腫瘍
まれではありますが、耳の後ろのしこりが悪性腫瘍である可能性もあります。
悪性リンパ腫は、リンパ球ががん化する病気で、リンパ節が腫れてしこりとして触れることがあります。痛みがなく、硬く、動きにくいしこりが特徴で、時間とともに大きくなる傾向があります。
また、他の部位に発生したがんがリンパ節に転移して、しこりを形成することもあります。口腔がんや咽頭がん、甲状腺がんなどの頭頸部のがんが、耳の後ろのリンパ節に転移することがあります。
8. しこりのセルフチェック方法
耳の裏にしこりを見つけた場合、以下のポイントをセルフチェックしてみましょう。ただし、これはあくまで目安であり、正確な診断には医師の診察が必要です。
チェックポイント1:しこりの硬さ
柔らかく弾力がある場合は、脂肪腫の可能性があります。やや硬く、コリコリとしている場合は、粉瘤やリンパ節炎の可能性があります。非常に硬く、石のような感触の場合は、悪性腫瘍の可能性も考えられるため、早めの受診が推奨されます。
チェックポイント2:しこりの動き
皮膚の下で動く(可動性がある)場合は、脂肪腫や粉瘤の可能性があります。周囲の組織にくっついて動かない場合は、悪性腫瘍やリンパ節転移の可能性も考えられます。
チェックポイント3:痛みの有無
痛みがない場合は、粉瘤、脂肪腫、悪性腫瘍などの可能性があります。押すと痛む場合は、リンパ節炎や乳様突起炎、炎症を起こした粉瘤の可能性があります。
チェックポイント4:しこりの外観
中央に黒い点がある場合は、粉瘤の可能性が高いです。皮膚が赤く腫れている場合は、炎症を起こしている状態です。皮膚の色が正常な場合は、脂肪腫や初期の粉瘤などが考えられます。
チェックポイント5:他の症状
発熱、のどの痛み、鼻水など風邪症状がある場合は、リンパ節炎の可能性があります。耳の痛みや耳だれがある場合は、中耳炎や乳様突起炎の可能性があります。全身のだるさや体重減少がある場合は、悪性疾患の可能性も考慮する必要があります。
9. 受診が必要なしこりの特徴
耳の裏のしこりの多くは良性で、すぐに治療が必要ないこともあります。しかし、以下のような特徴がある場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
早めに受診すべき場合
しこりが急速に大きくなっている場合は注意が必要です。数週間から数カ月で目に見えて大きくなっている場合は、悪性腫瘍の可能性も考えられます。
しこりが2センチメートル以上ある場合も、検査を受けることが推奨されます。
しこりが硬く、周囲の組織と癒着して動かない場合は、悪性疾患の可能性があります。
痛みが強い、または発熱を伴う場合は、感染症が進行している可能性があります。特に乳様突起炎が疑われる場合は、緊急性が高いです。
2週間以上経ってもしこりが小さくならない場合は、原因を特定するために受診が必要です。
耳の痛みや聴力低下を伴う場合は、中耳炎や乳様突起炎の可能性があります。
全身症状(倦怠感、体重減少、寝汗など)を伴う場合は、悪性リンパ腫などの全身性疾患の可能性があります。
緊急に受診すべき場合
以下の症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。
耳の後ろが赤く腫れて高熱がある場合、耳介が前方に押し出されている場合、激しい耳痛と大量の耳だれがある場合、顔の動きに異常がある場合(顔面神経麻痺の疑い)、意識がもうろうとするなどの神経症状がある場合などです。
これらは乳様突起炎やその合併症が疑われる症状であり、迅速な治療が必要です。
10. 耳の裏のしこりは何科を受診すべきか
耳の裏にしこりができた場合、原因によって適切な診療科が異なります。
皮膚科・形成外科を受診すべき場合
しこりに痛みがない場合、粉瘤や脂肪腫などの皮膚腫瘍の可能性が高いため、皮膚科または形成外科を受診するのがよいでしょう。
皮膚に赤みや腫れ、膿がある場合も、炎症性粉瘤などの皮膚トラブルが考えられるため、同様に皮膚科や形成外科が適しています。
耳鼻咽喉科を受診すべき場合
しこりに痛みがある場合は、リンパ節炎や乳様突起炎の可能性があるため、耳鼻咽喉科を受診しましょう。
風邪症状やのどの痛み、耳の痛みを伴う場合も、耳鼻咽喉科が適しています。
しこりが硬く長期間変化しない場合は、悪性疾患の可能性も考えられるため、耳鼻咽喉科や頭頸部外科で検査を受けることが推奨されます。
迷ったらまず耳鼻咽喉科へ
どの診療科を受診すべきかわからない場合は、まず耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。耳鼻咽喉科では耳の周囲の構造に精通しており、早期に治療が必要な病気かどうかを判断してもらえます。
必要に応じて、適切な診療科への紹介も行ってもらえます。
11. 主な検査方法
耳の裏のしこりの原因を特定するために、以下のような検査が行われることがあります。
問診・視診・触診
まず、医師はしこりがいつからあるのか、大きさの変化、痛みの有無、他の症状があるかどうかなどを詳しく聞きます。
その後、しこりの外観を観察し、触って硬さや動き、圧痛の有無などを確認します。多くの場合、この段階である程度の診断がつきます。
超音波検査(エコー検査)
超音波検査は痛みがなく、しこりの内部構造を詳しく観察できる検査です。しこりが固体なのか液体なのか、周囲の組織との関係などを評価できます。
粉瘤、脂肪腫、リンパ節腫脹などの鑑別に有用です。
血液検査
感染症が疑われる場合は、白血球数や炎症反応(CRP)などを調べる血液検査が行われます。
悪性リンパ腫などが疑われる場合は、血液中の腫瘍マーカーや特殊な検査が追加されることもあります。
CT検査・MRI検査
しこりが大きい場合や、周囲の組織への広がりを評価する必要がある場合は、CT検査やMRI検査が行われます。
特に乳様突起炎が疑われる場合は、側頭骨のCT検査で骨の状態や感染の範囲を確認します。
細胞診・組織検査
しこりの性質が不明な場合や、悪性腫瘍が疑われる場合は、針でしこりから細胞を採取して顕微鏡で調べる細胞診や、一部の組織を採取して調べる組織検査(生検)が行われることがあります。
12. 治療方法
耳の裏のしこりの治療法は、原因によって異なります。
粉瘤の治療
粉瘤は腫瘍であるため、薬では治りません。根本的な治療には手術による摘出が必要です。
炎症がない粉瘤の場合は、外科的に袋ごと摘出します。手術は通常局所麻酔で行われ、日帰りで受けることができます。手術時間は大きさにもよりますが、通常30分程度です。
手術方法には、紡錘形に皮膚を切開して嚢腫を摘出する従来法と、小さな穴を開けて内容物と袋を取り出すくり抜き法(へそ抜き法)があります。それぞれにメリット・デメリットがあり、しこりの大きさや状態に応じて適切な方法が選択されます。
炎症を起こしている粉瘤の場合は、まず炎症を抑える治療を行います。炎症が軽い場合は抗生物質を内服して様子を見ます。炎症が強い場合は、皮膚を切開して膿を排出する処置を行い、炎症が落ち着いてから改めて袋を摘出する手術を行います。
脂肪腫の治療
脂肪腫も手術による摘出が根本的な治療法です。皮膚を切開し、被膜に包まれた脂肪腫を取り残しがないように全て摘出します。
脂肪腫は柔らかい組織であるため、しこりの大きさよりも小さな切開で摘出できることが多いです。ただし、大きな脂肪腫や筋肉内にできた脂肪腫の場合は、全身麻酔や入院が必要になることもあります。
小さく無症状の脂肪腫であれば、経過観察を選択することもあります。
リンパ節炎の治療
リンパ節炎の治療は、原因となる感染症の治療が基本です。
細菌感染が原因の場合は、抗菌薬の内服や点滴が行われます。ウイルス感染が原因の場合は、対症療法(解熱鎮痛薬など)で様子を見ることが多いです。
原因となる感染症が治癒すれば、リンパ節の腫れも通常1週間から2週間で改善します。
乳様突起炎の治療
乳様突起炎は中耳炎の重症化と考えられ、基本的には入院治療が必要となります。
治療は抗菌薬の点滴投与が中心です。鼓膜を切開して中耳の膿を排出させる処置も行われます。
点滴治療で改善が見込めない場合や、膿瘍が形成されている場合は、耳の後ろを切開して膿を出す手術(乳様突起削開術)が必要になることがあります。
悪性腫瘍の治療
悪性リンパ腫やがんの転移が原因の場合は、腫瘍の種類や進行度に応じて、化学療法(抗がん剤)、放射線療法、手術などが行われます。専門的な治療が必要となるため、血液内科や腫瘍内科、頭頸部外科などでの治療となります。
13. 日常生活での注意点と予防法
耳の裏のしこりを予防し、悪化を防ぐために、日常生活で以下の点に気をつけましょう。
しこりをむやみに触らない
しこりが気になって何度も触ったり、押したり、潰そうとしたりすると、炎症を悪化させる原因になります。特に粉瘤は自分で潰そうとすると細菌感染を起こしやすくなり、炎症性粉瘤に進行する恐れがあります。
気になるしこりがあっても、むやみに触らず、医療機関で診てもらいましょう。
耳の周囲を清潔に保つ
耳の裏は汗や皮脂がたまりやすい部位です。入浴時に耳の後ろを丁寧に洗い、清潔を保つことが大切です。ただし、ゴシゴシとこすりすぎると皮膚を傷つけてしまうため、優しく洗いましょう。
マスクやメガネによる刺激を軽減する
マスクのひもやメガネのつるが耳の後ろに強く当たると、慢性的な刺激が粉瘤などの原因になることがあります。マスクやメガネのサイズを見直したり、耳への負担を軽減するアイテムを使用したりすることで、刺激を和らげましょう。
中耳炎は最後まで治療する
乳様突起炎を予防するためには、中耳炎を発症した場合に最後まで治療することが重要です。症状が改善しても、医師の指示に従って処方された薬を最後まで飲み切りましょう。
特にお子さんの中耳炎は繰り返しやすいため、定期的に耳鼻咽喉科でフォローアップを受けることをおすすめします。
免疫力を維持する
リンパ節炎は免疫力が低下したときに起こりやすくなります。バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動など、規則正しい生活習慣を心がけ、免疫力を維持しましょう。
ストレスや過労も免疫力低下の原因となるため、適度に休息を取ることも大切です。

14. よくある質問
痛みのないしこりであっても、自然に消えることは少ないです。粉瘤や脂肪腫は放置すると徐々に大きくなることがあり、大きくなってから手術すると傷跡も大きくなります。
また、まれに悪性腫瘍の可能性もあるため、気になるしこりがあれば一度医療機関で診てもらうことをおすすめします。
自分でしこりを潰そうとするのは避けてください。細菌感染を起こして炎症が悪化したり、完全に取り除けずに再発したりする原因になります。
特に粉瘤は袋状の構造を完全に取り除かないと再発するため、自己処置では根本的な解決にはなりません。
Q3. 子どもの耳の後ろにしこりができました。心配すべきですか?
子どもは風邪などの感染症にかかりやすく、それに伴ってリンパ節が腫れることがよくあります。多くの場合は感染症の回復とともに自然に小さくなります。
ただし、発熱や耳の痛み、耳だれを伴う場合は乳様突起炎の可能性もあるため、早めに小児科や耳鼻咽喉科を受診してください。
Q4. 粉瘤の手術は痛いですか?
粉瘤の手術は局所麻酔で行われるため、手術中の痛みはほとんどありません。麻酔の注射を刺すときにチクッとした痛みがありますが、麻酔が効いてしまえば痛みは感じません。
手術後は麻酔が切れると多少の痛みがありますが、処方される鎮痛薬で対処できる程度です。
Q5. 粉瘤や脂肪腫の手術費用はどのくらいですか?
粉瘤や脂肪腫の手術は健康保険が適用されます。3割負担の場合、手術費用は大きさや部位によって異なりますが、粉瘤で約7,000円から14,000円程度、脂肪腫で約1万円から2万円程度が目安です。
これに初診料や検査費用、薬代などが加わります。詳しくは受診する医療機関でお尋ねください。
15. まとめ
耳の裏にできるしこりには、粉瘤、脂肪腫、リンパ節炎、乳様突起炎など、さまざまな原因が考えられます。
しこりの特徴を観察することで、ある程度の原因の推測は可能ですが、正確な診断には医師の診察が必要です。特に以下のような場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
しこりが急速に大きくなっている場合、しこりが硬く動かない場合、強い痛みや発熱を伴う場合、2週間以上経っても改善しない場合、耳の痛みや聴力低下がある場合などです。
多くのしこりは良性であり、適切な治療を受ければ改善します。気になるしこりを見つけたら、自己判断せずに専門医に相談することで、安心を得ることができます。
アイシークリニック渋谷院では、粉瘤や脂肪腫などの皮膚腫瘍に対して、経験豊富な専門医による日帰り手術を行っています。患者様の不安や悩みに寄り添いながら、できるだけ傷跡が目立たない治療をご提供いたします。耳の裏のしこりでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
16. 参考文献
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A アテローム(粉瘤)
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A アテロームの治療
- 日本形成外科学会 脂肪腫
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 頸部の腫れ・腫瘍
- MSDマニュアル家庭版 乳様突起炎
- 兵庫医科大学病院 みんなの医療ガイド 頸部腫脹
- 日本医科大学武蔵小杉病院 脂肪腫と良性悪性の判断
- メディカルノート 耳の後ろのしこり
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務