空気が乾燥する季節になると、肌がカサカサしてかゆくなったり、白く粉を吹いたような状態になったりしていませんか。「ただの乾燥肌だから」と放置していると、いつの間にか赤みやかゆみを伴う湿疹へと悪化してしまうことがあります。これが「乾燥性皮膚炎」です。乾燥性皮膚炎は、皮脂欠乏性湿疹とも呼ばれ、特に秋から冬にかけて多くの方が悩まされる皮膚トラブルです。本記事では、乾燥性皮膚炎の見た目の特徴や写真で確認できる症状、発症メカニズム、原因、治療法、日常生活での予防・ケア方法まで、皮膚科専門医の視点から詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせながら、適切な対処法を見つける参考にしてください。
目次
- 乾燥性皮膚炎とは
- 乾燥性皮膚炎の見た目と写真で確認できる特徴
- 乾燥性皮膚炎が起こるメカニズム
- 乾燥性皮膚炎が発症しやすい部位
- 乾燥性皮膚炎の主な原因
- 乾燥性皮膚炎とアトピー性皮膚炎の違い
- 乾燥性皮膚炎の治療法
- 日常生活での予防とスキンケア
- 皮膚科を受診すべきタイミング
- まとめ
1. 乾燥性皮膚炎とは
乾燥性皮膚炎は、皮膚の乾燥が進行することで発症する炎症性の皮膚疾患です。医学的には「皮脂欠乏性湿疹」や「乾燥性湿疹」とも呼ばれています。
皮膚が乾燥すること自体は誰にでも起こりうる現象ですが、乾燥が長期間続くと、まず「乾皮症」と呼ばれる状態に進行します。乾皮症とは、皮膚がカサカサになり、白い粉を吹いたような状態や、フケのような皮膚片がぽろぽろと剥がれ落ちる状態を指します。この段階ではまだ炎症は伴いませんが、さらに悪化すると皮膚のバリア機能が大きく低下し、外部からのわずかな刺激でも炎症反応を起こすようになります。この状態が乾燥性皮膚炎です。
乾燥性皮膚炎になると、乾燥に加えて赤み、強いかゆみ、湿疹、ひび割れなどの症状が現れます。かゆみのために患部を掻いてしまうと、皮膚がさらに傷つき、炎症が悪化するという悪循環に陥りやすくなります。
この疾患は、特に皮脂の分泌量が減少する中高年から高齢者に多く見られますが、若い世代でも発症することがあります。空気が乾燥する秋から冬にかけて症状が悪化し、湿度の高い夏には軽減する傾向があります。ただし、近年はエアコンの普及により、夏でも室内の乾燥によって症状が出ることも珍しくありません。
2. 乾燥性皮膚炎の見た目と写真で確認できる特徴
乾燥性皮膚炎の見た目には、進行段階によっていくつかの特徴的な変化が見られます。ご自身の肌の状態を確認する際の参考にしてください。
初期段階の見た目
乾燥性皮膚炎の初期段階では、皮膚が白っぽく粉を吹いたような状態になります。これは角質層の水分が失われ、皮膚の表面がカサカサになっている状態です。触ると肌のザラつきやゴワつきを感じ、皮膚の柔軟性が失われていることがわかります。
この段階では、衣類の締め付け部分がかゆくなったり、入浴後に体が温まるとかゆみを感じたりすることがあります。見た目の変化は比較的軽度ですが、すでに皮膚のバリア機能は低下し始めています。
中期段階の見た目
症状が進行すると、乾燥により皮膚の表面に細かいひび割れが生じます。このひび割れは「亀甲状」のパターンを示すことが特徴的で、まるで乾いた田んぼの土のような見た目になることから「皮脂欠乏性湿疹」の典型的な所見とされています。
この段階になると、炎症による赤みが現れ始め、かゆみも強くなります。皮膚の表面がガサガサして厚くなる「肥厚」という状態や、フケのような皮膚片がぽろぽろと剥がれ落ちる「落屑」という症状も見られるようになります。
進行した段階の見た目
さらに症状が進行すると、掻き壊しによる傷や、ジクジクとした水分がしみ出す状態が見られることがあります。夜中にかゆみで目が覚めてしまうほど症状が強くなり、掻いた部分の皮膚がゴワゴワと硬くなることもあります。
この段階まで進行すると、「貨幣状湿疹」と呼ばれる、コインの形のように丸く汁が出る湿疹に発展することがあります。貨幣状湿疹になると全身がかゆくなる状態へ進行しやすくなるため、早めの治療が必要です。
写真で確認する際のポイント
乾燥性皮膚炎かどうかを写真で確認する際には、以下のポイントに注目してください。
まず、皮膚の表面に白い粉のようなものが付着していないか確認します。これは角質が剥がれかけている状態を示しています。次に、皮膚の表面に細かいひび割れや網目状のパターンがないか観察します。さらに、赤みを帯びた部分やブツブツとした湿疹がないかも重要なチェックポイントです。
ただし、写真だけで正確な診断を行うことは難しいため、症状が気になる場合は必ず皮膚科を受診して専門医の診察を受けることをお勧めします。
3. 乾燥性皮膚炎が起こるメカニズム
乾燥性皮膚炎がなぜ起こるのかを理解するためには、まず皮膚のバリア機能について知る必要があります。
皮膚のバリア機能とは
私たちの皮膚は、外側から表皮、真皮、皮下組織という三層構造で成り立っています。表皮はさらに複数の層に分かれており、最も外側にある「角質層」が皮膚のバリア機能の中心的な役割を担っています。
角質層はわずか0.01〜0.02mmという非常に薄い層ですが、体内の水分が外に蒸発するのを防ぎ、外界からの刺激や異物(アレルゲン、細菌、ウイルスなど)の侵入を防ぐという重要な働きをしています。
角質層の潤いは、「皮脂膜」「天然保湿因子(NMF)」「角質細胞間脂質(セラミドなど)」という三つの要素によって保たれています。
皮脂膜は、皮脂腺から分泌される皮脂と汗が混ざり合って形成される薄い膜で、皮膚の表面を覆って水分の蒸発を防いでいます。天然保湿因子は角質細胞の中に存在するアミノ酸や尿素などの成分で、水分を取り込んで保持する働きがあります。角質細胞間脂質は角質細胞と角質細胞の間を埋めている脂質で、その約50%をセラミドが占めています。セラミドは水分をサンドイッチ状に挟み込んで逃がさないようにする特殊な働きを持っています。
これら三つの要素が適切に機能することで、健康な皮膚は15〜30%程度の水分量を維持し、バリア機能を正常に保っています。
バリア機能の低下から乾燥性皮膚炎へ
加齢や環境要因などによって皮脂、天然保湿因子、セラミドなどが減少すると、角質層の水分保持能力が低下します。水分を失った角質層は柔軟性を失い、ひび割れたり、皮が剥けたりするようになります。これが乾皮症の状態です。
乾皮症の状態になると、角質層のバリア機能が大きく低下し、外部からの刺激に対して非常に敏感になります。衣服の繊維によるわずかな刺激でもかゆみを感じるようになり、そのかゆみに反応して皮膚を掻いてしまいます。
掻くことで皮膚はさらに傷つき、バリア機能がますます低下します。すると外部からの刺激がより強く感じられるようになり、炎症反応が起こります。炎症が起こると、かゆみを伝える神経線維が活性化して皮膚の表面近くまで伸びてくるため、少しの刺激でもかゆみを感じやすくなります。
この「かゆみ→掻く→皮膚が傷つく→バリア機能低下→さらにかゆくなる」という悪循環が繰り返されることで、乾燥性皮膚炎は徐々に悪化していきます。
4. 乾燥性皮膚炎が発症しやすい部位
乾燥性皮膚炎は、皮脂の分泌量が少ない部位に発症しやすいという特徴があります。以下に、特に症状が出やすい部位をご紹介します。
すね(下腿前面)
すねは乾燥性皮膚炎が最も発症しやすい部位です。下肢は体の中でも皮脂腺が少なく、もともと乾燥しやすい場所です。特にすねの前面は衣類との摩擦も受けやすく、乾燥と刺激の両方が加わるため、症状が出やすくなります。
高齢者の方がすねをバリバリと掻いてしまい、症状を繰り返すというケースは非常に多く見られます。
腰回り・わき腹
腰回りやわき腹も乾燥性皮膚炎が発症しやすい部位です。ズボンやベルト、下着のゴムなどによる締め付けや摩擦が加わりやすいため、乾燥した皮膚に刺激が加わって湿疹を起こしやすくなります。
太もも
太ももの外側や内側も症状が出やすい部位です。特に衣類との接触が多い部分では、乾燥と摩擦の複合作用により症状が現れやすくなります。
背中・肩
背中や肩は、ナイロンタオルなどで強くこすって洗ってしまいがちな部位です。過度な洗浄により皮脂が落とされ、乾燥性皮膚炎を発症することがあります。また、背中は自分では見えにくく、保湿ケアが行き届きにくい部位でもあります。
腕(上腕・前腕)
腕も乾燥性皮膚炎が起こりやすい部位の一つです。特に上腕の外側や前腕は、衣服による摩擦を受けやすく、冬場には外気に直接さらされることも多いため、乾燥が進みやすくなります。
ひざ・ひじ
ひざやひじは関節部分で皮膚が伸縮するため、乾燥するとひび割れが起こりやすい部位です。また、ひざをついたりひじをついたりする動作で物理的な刺激を受けやすいことも、症状が出やすい原因となっています。
5. 乾燥性皮膚炎の主な原因
乾燥性皮膚炎の発症には、さまざまな要因が関係しています。これらの原因を理解することで、適切な予防や対策を講じることができます。
加齢による皮脂分泌の減少
乾燥性皮膚炎の最も一般的な原因は、加齢に伴う皮脂分泌量の減少です。皮脂腺の機能は年齢とともに低下し、特に40代以降になると皮脂の分泌量が顕著に減少します。高齢になるほど皮脂欠乏が進み、ほとんどの高齢者に何らかの皮膚の乾燥が見られるようになります。
また、加齢に伴い角質細胞間脂質であるセラミドの産生量も低下するため、皮膚の水分保持能力自体が弱まります。
不適切な入浴方法
入浴時の習慣が乾燥性皮膚炎の原因となることも少なくありません。
熱いお湯での入浴は、皮脂を必要以上に溶かし出してしまいます。また、長時間の入浴は角質層をふやけさせ、皮膚のバリア機能を低下させます。ナイロンタオルやボディブラシでゴシゴシと強く体を洗う習慣も、皮脂を落としすぎ、角質層を傷つける原因となります。
洗浄力の強いボディソープを使用することや、すすぎが不十分で洗浄成分が肌に残ることも、皮膚の乾燥を促進する要因です。
空気の乾燥
秋から冬にかけては外気の湿度が低下するため、皮膚から水分が蒸発しやすくなります。特に暖房を使用する室内は空気が非常に乾燥しており、皮膚の乾燥が進みやすい環境です。
近年はエアコンの普及により、夏場でも室内の空気が乾燥していることがあり、季節を問わず乾燥性皮膚炎が発症するケースも増えています。
生活習慣の乱れ
睡眠不足や暴飲暴食、ストレスなどの生活習慣の乱れは、皮脂分泌のバランスを崩し、皮膚の健康状態に悪影響を与えます。不規則な生活は皮膚のターンオーバー(新陳代謝)を乱し、健康な角質層の形成を妨げることがあります。
衣類による刺激
化学繊維の衣類は、静電気を起こしやすく、肌への刺激となることがあります。また、締め付けの強い下着やタイツなどは、摩擦により皮膚を傷つけ、乾燥を促進することがあります。
ウールなどチクチクする素材の衣類が直接肌に触れることも、かゆみを誘発する原因となります。
基礎疾患
糖尿病、腎臓病、甲状腺機能低下症などの内臓疾患があると、皮膚の乾燥が起こりやすくなることが知られています。また、アトピー性皮膚炎などのもともと乾燥を伴う皮膚疾患がある方も、乾燥性皮膚炎を発症しやすい傾向があります。
抗がん剤治療や放射線治療を受けている方も、副作用として皮膚の乾燥が生じることがあります。
6. 乾燥性皮膚炎とアトピー性皮膚炎の違い
乾燥性皮膚炎とアトピー性皮膚炎は、どちらも乾燥した皮膚に湿疹やかゆみが生じる疾患ですが、その本質は異なります。適切な治療を受けるためにも、両者の違いを理解しておくことが大切です。
発症メカニズムの違い
乾燥性皮膚炎は、皮膚の乾燥が主な原因で起こる皮膚炎です。皮脂や角質層の水分が減少することでバリア機能が低下し、外部からの刺激に反応して炎症が起こります。アレルギー反応は関与していません。
一方、アトピー性皮膚炎は、アレルギー反応が関与する皮膚の病気です。アトピー素因(アレルギーを起こしやすい体質)を持つ人に発症しやすく、皮膚のバリア機能低下に加えて、ダニ、ハウスダスト、食物などのアレルゲンに対する免疫の過剰反応が関係しています。
発症年齢と経過の違い
乾燥性皮膚炎は、主に中高年から高齢者に多く見られます。加齢による皮脂分泌の減少が主な原因であるため、若い人での発症は比較的少ないですが、不適切なスキンケアや環境要因により若年者でも発症することがあります。
アトピー性皮膚炎は、多くの場合、乳幼児期や小児期に発症します。症状が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら慢性的に経過することが特徴で、成人になってから発症するケースもあります。
症状が出る部位の違い
乾燥性皮膚炎は、すね、腰回り、太もも、背中など、皮脂の分泌が少ない部位に症状が出やすい傾向があります。
アトピー性皮膚炎は、年齢によって症状が出やすい部位が変化します。乳児期は顔や頭、体幹に症状が出やすく、幼児期以降はひじの内側、ひざの裏など関節部分に症状が集中しやすくなります。また、症状が左右対称に現れることが特徴的です。
診断と治療の違い
乾燥性皮膚炎は、皮膚の乾燥を抑えることが治療の基本です。保湿剤による継続的なスキンケアと、炎症がある部位へのステロイド外用剤の使用が主な治療法となります。原因となる乾燥を防ぐことで、比較的速やかに症状が改善することが多いです。
アトピー性皮膚炎は、保湿によるスキンケアに加えて、炎症を抑える薬物療法、アレルゲンなど悪化因子の除去という複合的なアプローチが必要です。症状のコントロールには長期的な治療が必要となることが多く、完全に治癒させることは難しい場合もありますが、適切な治療により症状が出ない「寛解」状態を目指すことができます。
なお、乾燥性皮膚炎とアトピー性皮膚炎を自己判断で区別することは難しいため、症状が気になる場合は皮膚科を受診して正確な診断を受けることをお勧めします。
7. 乾燥性皮膚炎の治療法
乾燥性皮膚炎の治療は、皮膚の乾燥を改善することと、炎症を抑えることの二つが柱となります。症状の程度に応じて、適切な治療法を選択することが重要です。
保湿剤による治療
乾燥性皮膚炎の治療の基本は、保湿剤を使用して皮膚の乾燥を改善することです。医療機関では、症状に合わせてさまざまな種類の保湿剤が処方されます。
代表的な保湿剤として、ヘパリン類似物質があります。ヘパリン類似物質は、水分を引き寄せて保持する「親水性」と「保水性」を持ち、皮膚の角質層まで浸透して高い保湿効果を発揮します。保湿効果に加えて、血行促進作用や穏やかな抗炎症作用もあるため、乾燥性皮膚炎の治療に広く用いられています。
保湿剤にはクリーム、軟膏、ローション、フォーム(泡状)などさまざまな剤形があり、使用する部位や症状、好みに合わせて選択できます。一般的にクリームや軟膏は保湿力が高く、ローションは広い範囲に塗り広げやすいという特徴があります。
保湿剤は入浴後、皮膚がまだしっとりしているうちに塗ると効果が高まります。できれば入浴後5分以内に塗布することをお勧めします。塗る量は、塗った後の肌がテカるくらいが適量の目安です。1日2回の塗布が効果的とされていますが、乾燥が気になるときにはこまめに塗り直しても構いません。
ステロイド外用剤による治療
乾燥だけでなく、赤みやかゆみ、湿疹などの炎症症状が見られる場合は、ステロイド外用剤(塗り薬)による治療が必要です。ステロイド外用剤には抗炎症作用があり、湿疹やかゆみを効果的に抑えることができます。
ステロイド外用剤には強さのランクがあり、症状の程度や使用する部位に応じて適切な強さのものが処方されます。軽度の乾燥性皮膚炎であれば、市販のステロイド外用剤でも改善が期待できますが、症状が広範囲に及ぶ場合や改善しない場合は皮膚科を受診してください。
ステロイド外用剤と保湿剤を併用する場合は、まず広い面積に保湿剤を塗り、その後に患部だけにステロイド外用剤を塗るようにします。これにより、ステロイド外用剤が正常な皮膚に塗り広がることを防げます。
ステロイド外用剤を5〜6日間使用しても症状が改善しない場合や、かえって悪化した場合は、自己判断で使用を続けずに皮膚科を受診してください。
内服薬による治療
かゆみが強い場合は、抗ヒスタミン薬などのかゆみ止めの内服薬が処方されることがあります。抗ヒスタミン薬はかゆみの原因となるヒスタミンの働きを抑え、かゆみを軽減します。
ただし、内服薬はかゆみの症状を和らげるための補助的な治療であり、根本的な治療には保湿剤やステロイド外用剤による外用療法が欠かせません。
8. 日常生活での予防とスキンケア
乾燥性皮膚炎は、日常生活でのケアによって予防や症状の改善が可能な疾患です。以下に、効果的な予防法とスキンケアのポイントをご紹介します。
正しい入浴方法
入浴方法を見直すことは、乾燥性皮膚炎の予防に非常に効果的です。
お湯の温度は39〜40℃のぬるめに設定しましょう。熱いお湯は皮脂を過剰に落としてしまい、皮膚の乾燥を促進します。また、長時間の入浴は角質層をふやけさせてバリア機能を低下させるため、入浴時間は15分程度までにとどめましょう。
体を洗うときは、ナイロンタオルやボディブラシを使わず、石けんをよく泡立てて、手でやさしく洗うようにします。落とすべき汚れは手で洗うだけで十分に落とせます。汗をかかない季節であれば、毎日全身を石けんで洗う必要はなく、わきの下、へその周囲、股の部分など汚れやすい場所を中心に洗えば十分です。
乾燥性皮膚炎と診断された部位は、ナイロンタオルやスポンジを使わず、泡でなでるようにやさしく洗ってください。
入浴後は、タオルで体を拭いたらすぐに保湿剤を塗りましょう。入浴直後は肌が水分を含んで潤っていますが、外気が乾燥していると10分程度で入浴前の状態に戻ってしまいます。入浴後5分以内の保湿が理想的です。
室内環境の整備
室内の湿度管理は、乾燥性皮膚炎の予防に重要な要素です。
暖房を使用する冬場は特に室内が乾燥しやすいため、加湿器を使用して適切な湿度を保ちましょう。室内の湿度は40〜60%程度が目安です。湿度が高すぎるとカビの発生原因となるため、適度な換気も心がけてください。
加湿器がない場合は、水を入れたボウルや洗濯物を室内に干すことでも湿度を上げることができます。
衣類の選び方
衣類の素材や着方にも注意が必要です。
肌に直接触れる下着や肌着は、綿や絹などの天然素材を選びましょう。化学繊維は静電気を起こしやすく、肌への刺激となります。また、ウールなどチクチクする素材が直接肌に触れないよう、下に綿の肌着を着るなどの工夫をしましょう。
締め付けの強い衣類は摩擦による刺激の原因となるため、ゆったりとしたサイズのものを選ぶことをお勧めします。
保湿ケアの習慣化
乾燥性皮膚炎の予防には、入浴後だけでなく、日中も定期的に保湿ケアを行うことが大切です。
朝の着替え前や、乾燥が気になったときにこまめに保湿剤を塗る習慣をつけましょう。特に秋から冬にかけての乾燥シーズンは、症状が出る前から予防的に保湿ケアを始めることが効果的です。
保湿剤は、部位や好みに合わせて使いやすいものを選んでください。続けやすいものを選ぶことが、習慣化のポイントです。
掻かない工夫
かゆみを感じても、できるだけ掻かないようにすることが重要です。掻くことで皮膚が傷つき、症状が悪化するという悪循環を防ぐ必要があります。
かゆみを感じたら、まず保湿剤を塗ってみましょう。それでもかゆい場合は、患部を冷やすことでかゆみが和らぐことがあります。どうしても掻いてしまう場合は、爪を短く切っておき、清潔なガーゼで患部を覆うなどの工夫も有効です。
夜間にかゆみで目が覚めてしまう場合は、医師に相談して抗ヒスタミン薬などのかゆみ止めを処方してもらうことも検討してください。
生活習慣の改善
規則正しい生活を心がけ、十分な睡眠をとることも皮膚の健康維持に重要です。暴飲暴食を避け、栄養バランスの取れた食事を摂りましょう。
なお、「皮膚が乾燥しているから水分をたくさん飲む」「皮脂が足りないから脂っこいものを食べる」という考えは誤りです。これらの方法では皮膚の乾燥は改善しません。むしろバランスの取れた食事を心がけることが大切です。
9. 皮膚科を受診すべきタイミング
乾燥性皮膚炎の初期段階であれば、市販の保湿剤やステロイド外用剤でセルフケアを行うことも可能です。しかし、以下のような場合は早めに皮膚科を受診することをお勧めします。
症状が広範囲に及ぶ場合
症状の範囲が手のひら2〜3枚分を超えて広がっている場合は、セルフケアでの治療には限界があります。皮膚科を受診して、症状に合った治療を受けましょう。
市販薬で改善しない場合
市販のステロイド外用剤を5〜6日間使用しても症状が改善しない場合や、かえって悪化している場合は、皮膚科の受診が必要です。症状に対して薬の強さが適切でない可能性や、乾燥性皮膚炎以外の疾患の可能性も考えられます。
かゆみが強く日常生活に支障がある場合
かゆみのために夜中に目が覚めてしまう、仕事や学業に集中できないなど、日常生活に支障をきたすほどかゆみが強い場合は、早めに受診してください。内服薬の処方など、より積極的な治療が必要な場合があります。
ジクジクした浸出液がある場合
患部からジクジクと液体がしみ出している場合は、炎症がかなり進行している状態です。また、細菌感染を起こしている可能性もあるため、速やかに皮膚科を受診してください。
症状が繰り返される場合
適切にケアしているにもかかわらず、乾燥性皮膚炎の症状が繰り返し現れる場合は、アトピー性皮膚炎など他の皮膚疾患の可能性や、糖尿病などの基礎疾患が隠れている可能性があります。皮膚科で詳しい検査を受けることをお勧めします。
診断がはっきりしない場合
「乾燥性皮膚炎なのかアトピー性皮膚炎なのかわからない」「別の皮膚疾患かもしれない」など、自分の症状に不安がある場合は、自己判断せずに皮膚科を受診して正確な診断を受けることが大切です。適切な治療を行うためには、正しい診断が欠かせません。

10. まとめ
乾燥性皮膚炎は、皮膚の乾燥が進行して炎症を起こした状態であり、適切なケアと治療により改善が期待できる疾患です。
本記事でご紹介したポイントをまとめると、以下のようになります。
乾燥性皮膚炎は、皮脂や角質層の水分が減少することで皮膚のバリア機能が低下し、外部からの刺激に反応して炎症が起こる疾患です。見た目の特徴としては、白い粉を吹いたような乾燥、細かいひび割れ、赤み、湿疹などが見られます。
発症しやすい部位は、すね、腰回り、太もも、背中など皮脂の分泌が少ない場所です。主な原因としては、加齢による皮脂分泌の減少、不適切な入浴方法、空気の乾燥、生活習慣の乱れなどが挙げられます。
治療の基本は保湿剤による皮膚の乾燥改善と、炎症がある場合はステロイド外用剤の使用です。日常生活では、正しい入浴方法、室内の湿度管理、保湿ケアの習慣化が予防と改善に効果的です。
症状が広範囲に及ぶ場合、市販薬で改善しない場合、かゆみが強い場合などは、早めに皮膚科を受診して適切な治療を受けることが大切です。
乾燥性皮膚炎でお悩みの方は、まずは日常のスキンケアを見直すことから始めてみてください。症状が改善しない場合や判断に迷う場合は、お気軽に皮膚科にご相談ください。適切な診断と治療により、つらいかゆみや肌荒れから解放され、健やかな肌を取り戻すことができます。
参考文献
- 皮脂欠乏症診療の手引き 2021|公益社団法人日本皮膚科学会
- 皮脂欠乏性湿疹(乾燥性湿疹)|千葉県皮膚科医会
- ただの肌荒れではありません 乾燥性皮膚炎|サワイ健康推進課
- 皮膚のうるおいを保つ物質とバリア機能|マルホ
- 皮脂欠乏症の症状|マルホ
- アトピー性皮膚炎|アレルギーポータル(厚生労働省補助事業)
- アトピー性皮膚炎/Q&A|一般社団法人日本アレルギー学会
- 乾燥性皮膚炎の原因・症状・治療法|田辺三菱製薬 ヒフノコトサイト
- ヘパリン類似物質とは|塩野義製薬 ひふ知るWAKARU
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務