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糖尿病の足の症状を徹底解説|初期症状から壊疽まで、写真では分かりにくい変化のサインとは

はじめに

糖尿病は日本国内で1,000万人以上が罹患している国民病とも言える疾患ですが、その合併症の中でも特に注意が必要なのが「足の症状」です。糖尿病による足の病変は、初期段階では気づきにくい症状から始まり、最悪の場合は足の切断に至るケースもあります。実際、日本では年間約1万人以上が糖尿病性足病変により下肢切断を余儀なくされているという報告もあります。

本記事では、糖尿病による足の症状について、初期の小さな変化から重症化した状態まで、段階的に詳しく解説します。写真だけでは伝わりにくい細かな変化のサインや、日常生活で気をつけるべきポイント、そして予防方法まで、包括的にお伝えします。

糖尿病と足の症状の関係

なぜ糖尿病で足に症状が出るのか

糖尿病患者さんの足に症状が現れる理由は、大きく分けて3つのメカニズムがあります。

1. 神経障害(糖尿病性神経障害)

高血糖状態が長期間続くと、末梢神経がダメージを受けます。特に足は心臓から最も遠い部位であるため、神経障害の影響を受けやすい場所です。神経障害が進行すると、痛みや温度を感じにくくなり、小さな傷や火傷に気づかないまま悪化してしまうことがあります。

2. 血管障害(糖尿病性血管障害)

糖尿病により血管が障害されると、足への血流が低下します。血流が不足すると、傷の治りが遅くなり、細菌感染のリスクも高まります。さらに、組織に十分な酸素や栄養が届かなくなることで、組織の壊死(壊疽)を引き起こす可能性があります。

3. 免疫機能の低下

高血糖状態では、白血球の機能が低下し、感染症に対する抵抗力が弱まります。そのため、足に小さな傷ができた場合でも、細菌感染を起こしやすく、感染が急速に広がるリスクがあります。

これら3つの要因が複合的に作用することで、糖尿病患者さんの足には特有の症状が現れやすくなります。厚生労働省の調査によると、糖尿病患者の約15〜25%が生涯のうちに足潰瘍を経験すると報告されています。

糖尿病による足の症状:段階別の詳細解説

初期段階の症状

糖尿病による足の症状は、多くの場合、以下のような初期症状から始まります。これらのサインを見逃さないことが、重症化予防の鍵となります。

1. 感覚の変化

しびれ感 足の指先や足底に「ジンジン」「ピリピリ」といったしびれを感じることがあります。特に夜間に症状が強くなることが特徴です。最初は両足の指先から始まり、徐々に足全体に広がっていくパターンが一般的です。

感覚鈍麻 触られた感覚が分かりにくくなる、足の裏の感覚が鈍くなるといった症状です。「靴下を履いているような感覚」「足の裏に紙が貼りついているような感覚」と表現される方もいます。

温度感覚の低下 お風呂の温度が分かりにくくなったり、冬場に足が冷えていることに気づきにくくなったりします。これは火傷のリスクを高める危険な症状です。

2. 皮膚の変化

乾燥とひび割れ 糖尿病による自律神経障害により、足の汗腺の機能が低下します。その結果、足の皮膚が非常に乾燥しやすくなり、かかとを中心にひび割れ(亀裂)が生じやすくなります。このひび割れが感染の入り口になることがあります。

皮膚の色調変化 血流障害により、足の皮膚が以下のような色調変化を示すことがあります:

  • 蒼白:血流が不足している状態
  • 赤紫色:うっ血している状態
  • 褐色:慢性的な血流障害による色素沈着

皮膚温の変化 足が冷たく感じる、あるいは左右の足で温度差があるといった変化も重要なサインです。

3. 爪の変化

爪の肥厚 爪が厚く硬くなり、正常な形を保てなくなることがあります。これは血流障害や真菌感染(水虫)が原因となることが多く見られます。

巻き爪 爪の両端が内側に巻き込むように変形する状態です。巻き爪が進行すると、爪が皮膚に食い込んで痛みや感染を引き起こします。

爪の色の変化 白濁、黄変、黒変など、爪の色が変化することがあります。特に黒い変色は、血腫や真菌感染、まれにメラノーマ(悪性黒色腫)の可能性もあるため、注意が必要です。

中等度の症状

初期症状を放置したり、血糖コントロールが不良だったりすると、以下のようなより深刻な症状へと進行します。

1. 足の変形

シャルコー関節症(Charcot足) 神経障害により足の関節が破壊され、足のアーチが崩れて扁平足のような変形を起こす状態です。足の形が変わることで、特定の部位に過度な圧力がかかり、潰瘍の原因となります。変形が進行すると、通常の靴が履けなくなることもあります。

ハンマートゥ・クロートゥ 足の指が屈曲して固まった状態になる変形です。神経障害により足の小さな筋肉が萎縮することで起こります。変形した指の背側が靴に当たって潰瘍ができやすくなります。

2. たこ・うおのめ(胼胝・鶏眼)

神経障害や足の変形により、特定の部位に繰り返し圧力がかかると、皮膚が厚く硬くなり、たこやうおのめができます。一般的には問題ないものですが、糖尿病患者さんの場合、その下に潰瘍が隠れていることがあるため注意が必要です。

たこやうおのめを自己処理すると、皮膚を傷つけて感染のリスクが高まるため、必ず医療機関で適切に処置してもらうことが重要です。

3. 水疱(水ぶくれ)

糖尿病患者さんの足には、明らかな外傷がなくても水疱ができることがあります。「糖尿病性水疱」と呼ばれ、主に足の指や足背に生じます。水疱が破れると潰瘍になるリスクがあります。

重症段階の症状

1. 足潰瘍

糖尿病性足潰瘍は、皮膚の最も表層から深部組織まで欠損した状態を指します。以下のような特徴があります:

神経障害性潰瘍

  • 圧力がかかる部位(足底、指の背側など)に好発
  • 周囲にたこができていることが多い
  • 痛みを感じにくいため、発見が遅れがち
  • 潰瘍の周囲は比較的温かく、脈拍も触れる

虚血性潰瘍

  • 足の指先や側面、かかとなど、血流が届きにくい部位に好発
  • 周囲の皮膚が蒼白または紫色
  • 強い痛みを伴うことが多い
  • 足全体が冷たく、脈拍が触れにくい

混合型潰瘍 神経障害と血管障害が混在した潰瘍で、最も治療が困難です。

2. 感染症

糖尿病患者さんの足に感染が起こると、急速に進行する危険性があります。

蜂窩織炎(ほうかしきえん) 皮膚の深い層から皮下組織にかけて細菌感染が広がった状態です。症状としては:

  • 患部の発赤、腫脹、熱感
  • 全身の発熱、悪寒
  • 感染が急速に広がる可能性

膿瘍(のうよう) 組織内に膿が溜まった状態で、切開排膿などの処置が必要になります。

骨髄炎 感染が骨にまで及んだ状態です。治療が非常に困難で、長期間の抗生物質投与や外科的な骨の切除が必要になることがあります。

3. 壊疽(えそ)

組織への血流が完全に途絶え、組織が壊死した状態を壊疽といいます。糖尿病による壊疽には以下の種類があります:

乾性壊疽 主に虚血(血流不足)が原因で起こります。

  • 患部が乾燥してミイラ化したように黒く硬くなる
  • 境界がはっきりしている
  • 感染を伴わなければ、比較的緊急性は低い
  • 多くの場合、足の指先から始まる

湿性壊疽 感染を伴う壊疽で、非常に緊急性が高い状態です。

  • 患部がじくじくと湿った状態
  • 悪臭を放つ
  • 境界が不明瞭で、健常組織へ急速に広がる
  • 全身状態の悪化(発熱、意識障害など)を伴うことがある
  • 敗血症のリスクが高く、生命に関わる

ガス壊疽 嫌気性菌の感染により、組織内にガスが産生される壊疽です。

  • 触ると捻髪音(プチプチという音)がする
  • 急速に進行し、極めて重篤
  • 緊急手術と集中治療が必要

壊疽が進行した場合、感染の拡大を防ぎ、生命を守るために、足の指や足の一部、場合によっては膝下での切断が必要になることもあります。

糖尿病足病変の診断

医療機関での診察内容

糖尿病患者さんが医療機関を受診した際、足の状態を評価するために以下のような検査が行われます。

1. 視診・触診

医師が直接足を観察し、以下の項目をチェックします:

  • 皮膚の色、温度、湿潤度
  • 傷、潰瘍、水疱の有無
  • 足の変形の有無
  • 爪の状態
  • 足背動脈や後脛骨動脈の拍動

2. 神経機能検査

モノフィラメント検査 10gのナイロン製モノフィラメントを足底の複数箇所に当て、感覚があるかどうかを確認します。この検査で感覚が低下していると判定された場合、足潰瘍のリスクが高いとされています。

音叉検査 振動する音叉を足の骨に当て、振動を感じるかどうかを確認します。振動覚の低下は、神経障害の進行を示します。

アキレス腱反射 アキレス腱を軽く叩き、足が反応するかを確認します。反射の低下や消失は神経障害のサインです。

3. 血流評価

ABI(Ankle Brachial Index:足関節上腕血圧比) 腕と足首の血圧を測定し、その比を計算します。正常値は1.0〜1.4程度で、0.9以下の場合は下肢動脈に狭窄や閉塞がある可能性が示唆されます。

SPP(Skin Perfusion Pressure:皮膚灌流圧) 皮膚表面の血流を直接測定する検査です。40mmHg以下の場合、潰瘍の治癒が困難とされています。

ドップラー超音波検査 超音波を用いて動脈の血流状態を評価します。血管の狭窄や閉塞の部位を特定できます。

4. 画像検査

X線検査 骨の変形、骨髄炎、ガス産生などを確認します。

MRI検査 軟部組織の感染や骨髄炎の評価に有用です。特に深部膿瘍の診断に優れています。

CT血管造影(CTA) 血管の詳細な状態を評価し、血行再建術の適応を判断します。

5. 細菌培養検査

潰瘍や感染部位から検体を採取し、原因菌の特定と抗生物質の感受性を調べます。適切な抗生物質を選択するために重要な検査です。

糖尿病足病変の治療

基本的な治療方針

糖尿病足病変の治療は、以下の3つの柱で構成されます。

1. 血糖コントロール

すべての治療の基本となるのが、適切な血糖コントロールです。HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)を7.0%未満に保つことが目標とされています(個々の患者さんの状態により目標値は異なります)。

血糖コントロールの方法:

  • 食事療法:適切なカロリー摂取と栄養バランス
  • 運動療法:有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせ
  • 薬物療法:内服薬やインスリン注射による血糖管理

2. 局所的な治療

傷の処置

  • 壊死組織の除去(デブリードマン)
  • 適切な創傷被覆材の使用
  • 定期的な創部の洗浄と観察

圧迫・摩擦の除去

  • 免荷:潰瘍部位への荷重を避ける
  • 特殊な靴や装具の使用
  • 必要に応じてギプスや車椅子の使用

感染のコントロール

  • 抗生物質の投与(内服または点滴)
  • 膿瘍の切開排膿
  • 壊死組織の外科的切除

3. 血流の改善

血行再建術 閉塞または狭窄した動脈に対して、血流を回復させる治療です。

  • 血管内治療:カテーテルを用いた血管形成術やステント留置術
  • バイパス手術:閉塞部位を迂回する新しい血管の経路を作る手術

具体的な治療法

保存的治療

創傷ケア 潰瘍の状態に応じて、適切な創傷被覆材を選択します。

  • ハイドロコロイドドレッシング
  • ハイドロゲルドレッシング
  • アルギン酸塩ドレッシング
  • 泡状ドレッシング
  • 銀含有ドレッシング(感染がある場合)

局所陰圧閉鎖療法(NPWT) 創部に専用の装置を装着し、持続的に陰圧をかけることで、肉芽組織の形成を促進し、創の治癒を早める治療法です。

高圧酸素療法 高濃度の酸素を吸入することで、組織の酸素濃度を高め、創傷治癒を促進します。特に虚血性潰瘍に有効とされています。

外科的治療

小規模な外科処置

  • たこ・うおのめの切除
  • 肥厚した爪の処置
  • 小さな膿瘍の切開排膿
  • 部分的な組織切除

骨・関節の手術

  • 骨髄炎に対する感染骨の切除
  • 足の変形を矯正する手術
  • アキレス腱延長術(足底の圧力を軽減)

切断術 保存的治療や血行再建術でも改善が見込めない場合、感染の拡大を防ぎ、生命を守るために切断が選択されることがあります。

  • 指の切断
  • 中足部での切断
  • 下腿切断
  • 大腿切断

切断は最終手段ですが、適切なタイミングで行うことで、より健康な部位を残し、その後の歩行機能の再獲得につながることもあります。

糖尿病足病変の予防

糖尿病による足の症状は、適切なケアにより多くの場合予防可能です。日本糖尿病学会では、以下のようなフットケアを推奨しています。

日常的なフットケア

1. 毎日の足のチェック

観察のポイント

  • 足の裏も含め、足全体を毎日観察する
  • 鏡を使って見えにくい部分も確認する
  • 家族に手伝ってもらうのも有効
  • 以下の変化に注意する:
    • 赤み、腫れ、熱感
    • 傷、水疱、ひび割れ
    • 変色
    • 痛みやしびれの変化

記録をつける 気になる変化があった場合は、写真を撮影して記録し、医師に相談する際に見せると診断の助けになります。

2. 足の清潔を保つ

洗い方

  • 毎日、ぬるま湯(38〜40度程度)で足を洗う
  • 低刺激の石鹸を使用
  • 指の間も丁寧に洗う
  • 長時間のお湯への浸漬は皮膚を傷めるため避ける

拭き方

  • 柔らかいタオルで優しく拭く
  • 指の間の水分もしっかり拭き取る(真菌感染予防)
  • こすらず、押さえるように拭く

3. 保湿ケア

保湿剤の塗布

  • 洗った後、足が乾燥する前に保湿剤を塗る
  • 特にかかと、足の甲、すねなど乾燥しやすい部位に重点的に
  • 指の間には塗らない(湿気で真菌が繁殖しやすくなるため)
  • 尿素配合クリームやワセリンなどが適している

4. 爪の手入れ

正しい爪の切り方

  • 入浴後など、爪が柔らかくなっているときに切る
  • まっすぐに切り、角を丸めすぎない(巻き爪予防)
  • 深爪をしない(1〜2mm程度残す)
  • 爪切りは刃の鋭い専用のものを使用
  • 爪やすりで仕上げる

注意点

  • 視力が低下している場合や、爪が硬くて切りにくい場合は、無理せず医療機関や専門家に依頼する
  • 巻き爪や陥入爪がある場合は自己処理せず、医師に相談する

5. 適切な靴と靴下の選択

靴の選び方

  • サイズが合っているもの(足先に1cm程度の余裕)
  • 足幅にゆとりがあるもの
  • 内側に縫い目や突起がないもの
  • 軽量で柔軟性があるもの
  • ひもやマジックテープで調整できるもの
  • クッション性の良い靴底
  • かかとがしっかり固定されるもの

避けるべき靴

  • サンダルやスリッパ(足を保護できない)
  • ハイヒールや先の細い靴
  • 硬い革靴
  • 中古の靴(他人の足の形に変形している)

靴下の選び方

  • 綿やウール素材のもの
  • ゴムが緩めのもの(血行を妨げない)
  • 継ぎ目が少ないもの
  • 適度な厚みがあるもの
  • 毎日清潔なものに交換

新しい靴の慣らし方

  • 最初は短時間(30分程度)履く
  • 徐々に着用時間を延ばす
  • 履いた後は足に赤みや傷がないか確認
  • 長時間外出する場合は、慣れた靴を履く

6. やってはいけないこと

絶対に避けるべき行為

  • 裸足で歩く(室内でも)
  • たこ・うおのめを自分で削る
  • 市販のいぼ・うおのめ除去薬を使用する(皮膚を傷める)
  • カイロや湯たんぽの直接使用(低温やけど)
  • 電気毛布やこたつでの長時間の加温
  • 喫煙(血行を悪化させる)

生活習慣の改善

1. 血糖コントロール

足の症状を予防する最も重要な要素が、適切な血糖コントロールです。

  • 食事療法の遵守
  • 適度な運動の継続
  • 処方された薬の正確な服用
  • 定期的な血糖測定
  • HbA1cの定期チェック

2. 禁煙

喫煙は血管を収縮させ、血流を悪化させます。糖尿病患者さんが喫煙を続けると、足病変のリスクが大幅に上昇します。禁煙は足の健康を守るために不可欠です。

3. 適正体重の維持

肥満は足への負担を増加させ、潰瘍のリスクを高めます。適正体重を維持することで、足への圧力を軽減できます。

4. 適度な運動

血行を促進し、神経機能を維持するために、適度な運動が推奨されます。

  • ウォーキング(適切な靴で)
  • 水中運動
  • 自転車こぎ
  • 足の指の運動(グーパー運動など)

ただし、すでに足に潰瘍がある場合や重度の神経障害がある場合は、運動の種類や強度について医師と相談してください。

定期的な医療機関の受診

フットケア外来の活用

近年、多くの医療機関で「フットケア外来」が設置されています。専門のスタッフ(医師、看護師、理学療法士など)が、足の状態をチェックし、適切なケア方法を指導してくれます。

受診の頻度

  • 高リスク患者(過去に足潰瘍の既往がある、重度の神経障害や血流障害がある):1〜3ヶ月ごと
  • 中等度リスク患者(軽度の神経障害や血流障害がある):3〜6ヶ月ごと
  • 低リスク患者:6〜12ヶ月ごと

定期検査

糖尿病の定期受診時には、以下の検査を受けることが推奨されます。

  • 足の診察(少なくとも年1回、リスクに応じてより頻繁に)
  • 神経機能検査
  • 血流評価
  • 血糖コントロールの評価(HbA1c)
  • 腎機能検査
  • 眼底検査

早期発見・早期治療

以下のような症状に気づいたら、すぐに医療機関を受診してください。

緊急性が高い症状

  • 足に傷ができた
  • 足が赤く腫れている
  • 熱感がある
  • 膿が出ている
  • 悪臭がする
  • 発熱がある
  • 足の色が黒や紫に変色した
  • 激しい痛みがある

早めの受診が必要な症状

  • 新たなしびれや感覚の変化
  • 足の形の変化
  • 歩き方の変化
  • たこやうおのめができた
  • 爪の色や形が変わった
  • 乾燥やひび割れが悪化した

糖尿病足病変の予後とリスク要因

予後について

糖尿病足病変の予後は、早期発見と適切な治療により大きく改善されます。

統計データ

  • 足潰瘍を経験した患者さんの約40〜70%が5年以内に再発
  • 適切な予防ケアにより、足潰瘍の約80%は予防可能
  • 一度切断を経験すると、対側の足も切断するリスクが高まる(5年以内に約50%)

しかし、これらの統計は過去のデータであり、近年のフットケアの進歩により、予後は改善傾向にあります。

高リスク要因

以下の要因を持つ患者さんは、特に注意深いフットケアが必要です。

医学的要因

  • 糖尿病の罹病期間が10年以上
  • HbA1cが8.0%以上のコントロール不良
  • 過去に足潰瘍や切断の既往がある
  • 重度の神経障害(感覚が著しく低下)
  • 下肢動脈疾患(血流障害)
  • 腎機能障害(透析患者さんは特にリスクが高い)
  • 網膜症などの他の糖尿病合併症がある
  • 足の変形がある

生活習慣要因

  • 喫煙
  • 不適切な靴の着用
  • 裸足での生活
  • セルフケア不足
  • 定期受診をしていない

社会的要因

  • 独居で足のチェックが困難
  • 視力障害がある
  • 経済的理由で適切な靴が購入できない
  • 医療へのアクセスが限られている

これらのリスク要因を多く持つ患者さんは、より頻繁な医療機関の受診と、家族や介護者のサポートが重要になります。

よくある質問

Q1: 糖尿病と診断されたら、いつから足のケアを始めるべきですか?

A: 糖尿病と診断されたその日から足のケアを始めることが推奨されます。神経障害や血管障害は、症状が現れる前から少しずつ進行しています。早期からの予防的なフットケアが、将来の重大な合併症を防ぎます。

Q2: 足にしびれがありますが、痛みはありません。受診は必要ですか?

A: はい、必ず受診してください。しびれは神経障害の初期症状の可能性があります。痛みがないからといって安心できる状態ではなく、むしろ神経障害が進行して痛みを感じにくくなっている可能性もあります。早期の評価と対策が重要です。

Q3: 小さな傷ですが、糖尿病があると危険ですか?

A: 糖尿病患者さんの場合、たとえ小さな傷でも感染のリスクがあり、急速に悪化する可能性があります。以下の対応をしてください:

  1. 傷を清潔な水で洗い流す
  2. 清潔なガーゼで保護する
  3. できるだけ早く医療機関を受診する
  4. 傷の状態を毎日観察し、悪化がないか確認する

Q4: 市販の水虫薬を使用しても大丈夫ですか?

A: 糖尿病患者さんの場合、自己判断での市販薬の使用は避け、必ず医師の診断を受けてください。水虫だと思っていた症状が、実は別の疾患である可能性もあります。また、市販薬によって皮膚が荒れ、感染のリスクが高まることもあります。

Q5: フットケアは自分でできますか?それとも専門家に任せるべきですか?

A: 日常的な足の清潔保持や保湿、観察は自分で行うことが重要です。しかし、以下の場合は専門家(医師、看護師、フットケアスペシャリストなど)に依頼してください:

  • 爪が厚く硬くて切りにくい
  • 視力が低下していて足をよく見られない
  • たこやうおのめができた
  • 巻き爪や陥入爪がある
  • 何か異常を感じた

Q6: 糖尿病足病変は遺伝しますか?

A: 糖尿病足病変そのものは遺伝しませんが、糖尿病には遺伝的要因があります。家族に糖尿病患者さんがいる場合は、定期的な健康診断を受け、早期発見・早期治療に努めることが大切です。

まとめ

糖尿病による足の症状は、早期発見と適切なケアにより、多くの場合予防可能です。しかし、一度重症化すると治療が困難になり、生活の質を大きく低下させる可能性があります。

重要なポイント

  1. 毎日の足のチェックを習慣化する
  2. 適切なフットケアを継続する
  3. 血糖コントロールを維持する
  4. 定期的に医療機関を受診する
  5. 小さな変化でも見逃さず、早めに相談する
  6. 自己判断での処置は避け、専門家のアドバイスを求める

糖尿病と診断されても、適切な管理とケアにより、健康な足を保つことは十分に可能です。足の健康は、日常生活の質や行動範囲に直結する重要な要素です。今日からできることを一つずつ実践し、健康な足を守っていきましょう。

参考文献

本記事の作成にあたり、以下の信頼性の高い情報源を参考にしました。

  1. 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2019」
    https://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4
  2. 日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイド2022-2023」
    https://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=5
  3. 厚生労働省「糖尿病」
    https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b1.html
  4. 国立国際医療研究センター糖尿病情報センター
    http://dmic.ncgm.go.jp/
  5. 日本フットケア・足病医学会
    https://www.jssf.jp/
  6. 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/r1-houkoku_00002.html
  7. 日本創傷・オストミー・失禁管理学会
    https://www.jwocm.org/

これらの情報は、定期的に更新されますので、最新の情報については各機関の公式ウェブサイトをご確認ください。


本記事は医療情報の提供を目的としており、特定の診断や治療を推奨するものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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