おでき・ニキビ・ほくろ・イボ

おしりにできた痛い赤いできもの:原因から治療法まで医師が詳しく解説

はじめに

「おしりに痛い赤いできものができた」「座ると痛くて仕事に集中できない」「触ると腫れていて心配」─このような症状でお悩みの方は少なくありません。おしりは下着や衣類で蒸れやすく、座ることで常に圧迫を受ける部位のため、様々な皮膚トラブルが起こりやすい場所です。

本記事では、アイシークリニック渋谷院の医療専門チームが、おしりにできる痛い赤いできものの原因、症状、診断方法、治療法について詳しく解説いたします。適切な知識を身につけることで、早期発見・早期治療につなげ、重篤な合併症を防ぐことができます。

おしりの痛い赤いできものの主な原因

1. 毛包炎・せつ・よう

**毛包炎(毛嚢炎)**は、おしりにできる痛い赤いできものの最も一般的な原因の一つです。毛穴の奥にある毛根を包んでいる部分(毛包)に細菌が感染することで起こります。

症状の特徴

  • 毛穴を中心とした赤い丘疹や膿疱
  • 軽度のうずくような痛み
  • 直径数ミリから1センチ程度の大きさ
  • 触ると硬く、圧痛がある

進行パターン

毛包炎が悪化すると以下のように進行します:

せつ(癤・おでき)

  • 毛包炎が深部まで進行した状態
  • 強い赤み、はっきりした痛み、圧痛、熱感を伴う
  • グリグリした硬いしこりのような状態
  • 数日から数週間で中心部が軟化し、膿が排出される

よう(癰)

  • 隣り合う複数の毛包に炎症が広がった状態
  • より強い痛みや発熱、体調不良を伴う
  • 広範囲にわたる腫れと複数の膿栓形成

原因菌

主な原因菌は以下の通りです:

  • 黄色ブドウ球菌(最も多い)
  • 表皮ブドウ球菌
  • 緑膿菌(温浴毛包炎の場合)

2. 粉瘤(アテローム)・炎症性粉瘤

粉瘤(アテローム)は、皮膚の下に袋状の組織ができ、その中に垢や皮脂などの老廃物が蓄積した良性腫瘍です。通常は痛みを伴いませんが、細菌感染を起こすと炎症性粉瘤となり、強い痛みと赤みを呈します。

症状の特徴

非炎症性粉瘤

  • 痛みのない皮下のしこり
  • ドーム状に盛り上がった半球状の腫瘤
  • 中央に黒い点(へそ)が見えることがある
  • 独特の臭いを発することがある

炎症性粉瘤

  • 急激な赤み、腫れ、熱感
  • ズキズキとした強い痛み(自発痛)
  • 触ると非常に痛い(圧痛)
  • 膿が溜まってブヨブヨした感触
  • 悪臭を伴う膿の排出

自然経過

炎症性粉瘤は放置すると以下のような経過をたどります:

  • 腫れが限界に達すると自然に破裂
  • 悪臭の強い膿性内容物が排出
  • 一時的に症状が改善するが、袋が残存するため再発
  • 瘢痕形成や周囲組織への感染拡大のリスク

3. 化膿性汗腺炎(臀部慢性膿皮症)

化膿性汗腺炎は、アポクリン汗腺が集中する部位に発生する慢性の炎症性皮膚疾患です。臀部に限局するものを臀部慢性膿皮症と呼びます。

症状の特徴

  • 初期:ニキビ様の小さな結節
  • 進行期:痛みを伴う皮下膿瘍の形成
  • 慢性期:瘻孔(皮膚の深部から表面への異常な通路)の形成
  • 複数の瘻孔が連結して蜂巣状構造を形成
  • 悪臭を伴う膿の排出
  • 瘢痕形成

重要な合併症

  • 有棘細胞癌の発症:特に喫煙者で高頻度
  • 糖尿病などの代謝疾患との関連
  • QOL(生活の質)の著しい低下

診断までの課題

化膿性汗腺炎は認知度が低く、診断までに平均7年かかるとされています。単純な感染症として誤診されることも多く、適切な治療が遅れる原因となっています。

4. 皮膚がん(有棘細胞癌など)

有棘細胞癌は、皮膚の表皮にある有棘層の細胞ががん化した悪性腫瘍です。おしりにできる場合もあり、特に慢性的な炎症がある部位では注意が必要です。

症状の特徴

  • 通常の肌色から紅色の変化
  • 皮膚表面のかさつきと硬化
  • まだらに盛り上がったしこりの形成
  • ただれや潰瘍の形成
  • 表面の湿潤と出血
  • 進行すると悪臭を伴う

危険因子

  • 長期間の紫外線曝露
  • 慢性的な炎症や感染
  • 熱傷や外傷の瘢痕
  • ヒトパピローマウイルス感染
  • 放射線曝露

症状別の見分け方

痛みの性質による分類

急性の強い痛み

  • 炎症性粉瘤:ズキズキとした拍動性の痛み
  • せつ・よう:圧痛と自発痛の両方
  • 化膿性汗腺炎急性期:深部の鈍痛

軽度から中等度の痛み

  • 毛包炎:軽いうずくような痛み
  • 化膿性汗腺炎慢性期:持続する鈍痛

痛みが少ない・無痛

  • 非炎症性粉瘤:基本的に無痛
  • 皮膚がん初期:痛みやかゆみはほとんどない

大きさによる分類

小さなできもの(直径5mm以下)

  • 毛包炎
  • 化膿性汗腺炎の初期病変

中等度の大きさ(直径5mm~2cm)

  • せつ
  • 小さな粉瘤
  • 皮膚がんの初期~中期

大きなできもの(直径2cm以上)

  • よう
  • 大きな粉瘤
  • 進行した皮膚がん
  • 化膿性汗腺炎の進行期

表面の状態による分類

滑らかな表面

  • 非炎症性粉瘤
  • 初期の皮膚がん

ざらざらした表面

  • せつ・よう
  • 進行した皮膚がん

湿潤・ジクジクした表面

  • 炎症性粉瘤
  • 化膿性汗腺炎
  • 潰瘍を伴う皮膚がん

診断方法

問診

医師は以下の項目について詳しく聞き取りを行います:

症状の経過

  • 症状の発現時期と進行速度
  • 痛みの性質と程度
  • 膿や血液の排出の有無
  • 発熱や全身症状の有無

既往歴・生活歴

  • 過去の皮膚疾患の既往
  • 糖尿病などの基礎疾患
  • 喫煙歴
  • 職業環境(座位時間の長さ)
  • 下着や衣類の素材

家族歴

  • 化膿性汗腺炎の家族歴
  • 皮膚がんの家族歴

視診・触診

視診のポイント

  • 病変の大きさ、形状、色調
  • 表面の性状(滑らか、ざらざら、湿潤)
  • 周囲皮膚の状態
  • 膿栓や瘻孔の有無
  • 黒い点(粉瘤のへそ)の有無

触診のポイント

  • 硬さと弾性
  • 圧痛の有無と程度
  • 波動感(液体の貯留)
  • 可動性
  • 深部への固着の有無

検査

ダーモスコピー検査

皮膚を拡大して観察する検査で、以下の所見を確認します:

  • 血管パターン
  • 色素分布
  • 表面構造の詳細

超音波検査

皮膚・皮下組織の状態を詳細に評価します:

  • 腫瘤の大きさと深達度
  • 内部構造(充実性、嚢胞性)
  • 血流の評価
  • 周囲組織との関係

細菌培養検査

膿や分泌物を採取して原因菌を特定します:

  • 起炎菌の同定
  • 薬剤感受性検査
  • MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の有無

皮膚生検

悪性腫瘍が疑われる場合に行います:

  • 組織型の確定診断
  • 悪性度の評価
  • 治療方針の決定

治療法

毛包炎・せつ・ようの治療

軽症例(毛包炎)

外用療法

  • ナジフロキサシン軟膏(アクアチム®)
  • フシジン酸ナトリウム軟膏(フシジンレオ®)
  • 1日2~3回患部に塗布

生活指導

  • 患部の清潔保持
  • 温水での洗浄
  • 通気性の良い下着の着用

中等症例(せつ)

内服抗生物質

  • セファレキシン(第一世代セフェム系):500mg 1日3回
  • クリンダマイシン:300mg 1日3回
  • 治療期間:7~14日間

外用療法の併用 軽症例と同様の外用薬を併用

重症例(よう)

切開排膿

  • 局所麻酔下での処置
  • 十分な排膿と洗浄
  • ドレナージ(排膿路の確保)

全身抗生物質

  • 重症度に応じて点滴治療を検討
  • MRSA感染が疑われる場合はバンコマイシンなど

粉瘤の治療

非炎症期

根治的治療

  • 外科的摘出術が唯一の根治的治療
  • 局所麻酔下での日帰り手術
  • くりぬき法または切開法

手術方法の選択

  • くりぬき法:小さな傷で済み、手術時間が短い
  • 切開法:再発率が低く、大きな粉瘤に適応

炎症期(炎症性粉瘤)

急性期治療

  • 切開排膿による緊急処置
  • 抗生物質の内服
  • 消炎鎮痛剤の併用

根治的治療

  • 炎症が落ち着いてから(通常1~3ヶ月後)
  • 袋の完全摘出による再発防止

化膿性汗腺炎の治療

軽症例(Hurley I期)

局所治療

  • クリンダマイシン外用薬
  • 温座浴
  • 患部の清潔保持

生活指導

  • 禁煙
  • 体重管理
  • 適切なスキンケア

中等症~重症例(Hurley II-III期)

全身治療

  • 抗生物質内服(テトラサイクリン系、マクロライド系)
  • 生物学的製剤(アダリムマブ)
  • ホルモン療法(女性の場合)

外科的治療

  • 病変の完全切除
  • 皮膚移植術
  • 瘻孔切除術

皮膚がんの治療

早期がん

外科的切除

  • 安全域を含めた完全切除
  • 迅速病理検査による断端の確認
  • 創部の再建(必要に応じて)

進行がん

集学的治療

  • 外科的治療
  • 放射線治療
  • 化学療法
  • 免疫療法

センチネルリンパ節生検

  • リンパ節転移の評価
  • 追加治療の必要性の判断

予防方法

基本的な予防策

皮膚の清潔保持

  • 毎日のシャワーまたは入浴
  • 抗菌効果のある石鹸の使用
  • 十分な洗浄と完全な乾燥

適切な下着の選択

  • 通気性の良い天然素材(綿など)
  • サイズの適切な下着
  • 毎日の交換

座位環境の改善

  • 長時間の座位を避ける
  • クッションの使用
  • 定期的な立ち上がりと体位変換

特定疾患の予防

毛包炎・せつの予防

  • 皮膚の外傷を避ける
  • 免疫力の維持(十分な睡眠、栄養)
  • ストレス管理

粉瘤の予防

  • 皮膚への過度な刺激を避ける
  • ニキビを潰さない
  • 適切なスキンケア

化膿性汗腺炎の予防

  • 禁煙(最も重要)
  • 体重管理
  • 糖質制限食
  • 適度な運動

皮膚がんの予防

  • 紫外線対策
  • 慢性炎症の早期治療
  • 定期的な皮膚チェック

いつ病院を受診すべきか

緊急受診が必要な症状

感染の重篤化

  • 38度以上の発熱
  • 寒気・震え
  • 全身倦怠感
  • 意識障害

蜂窩織炎の疑い

  • 広範囲の赤み・腫れ
  • 熱感の拡大
  • リンパ管炎(赤い筋状の線)
  • リンパ節腫脹

早期受診が望ましい症状

症状の持続・悪化

  • 1週間以上続く症状
  • 徐々に大きくなるできもの
  • 痛みの増強
  • 膿の持続的な排出

悪性を疑う所見

  • 急速な増大
  • 不規則な形状
  • 硬いしこり
  • 潰瘍形成
  • 出血しやすい
  • 治らない傷

再発性の症状

  • 同じ部位の繰り返し
  • 複数箇所での発症
  • 家族歴がある場合

受診する診療科

第一選択

  • 皮膚科:皮膚疾患全般の専門科
  • 形成外科:外科的治療が必要な場合

専門性に応じて

  • 皮膚腫瘍科:皮膚がんが疑われる場合
  • 感染症科:重症感染症の場合
  • 内分泌代謝科:糖尿病などの基礎疾患がある場合

日常生活での注意点

症状がある間の対処

清潔管理

  • 患部を清潔に保つ
  • 手洗いの徹底
  • タオルの共用を避ける

刺激の回避

  • 締め付けの強い衣類を避ける
  • 硬い椅子での長時間座位を避ける
  • 患部を触らない、潰さない

痛みの管理

  • 市販の鎮痛剤の適切な使用
  • 冷湿布による症状緩和
  • 安静の確保

再発防止

生活習慣の改善

  • 規則正しい生活リズム
  • バランスの取れた食事
  • 適度な運動
  • 十分な睡眠

スキンケア

  • 保湿剤の適切な使用
  • 刺激の少ない製品の選択
  • 皮膚のバリア機能維持

合併症とその対策

感染の拡大

蜂窩織炎

  • 皮下組織の広範な感染
  • 迅速な抗生物質治療が必要
  • 入院治療が必要な場合も

敗血症

  • 血流感染による全身状態の悪化
  • 集中治療が必要
  • 生命に関わる重篤な合併症

慢性化

瘢痕形成

  • 機能障害の原因
  • 美容的な問題
  • 外科的修正が必要な場合も

QOLの低下

  • 慢性疼痛
  • 心理的ストレス
  • 社会活動の制限

悪性化

有棘細胞癌の発症

  • 慢性炎症部位での癌化
  • 早期発見・早期治療が重要
  • 定期的な経過観察が必要

最新の治療法

生物学的製剤

アダリムマブ(ヒュミラ®)

  • 化膿性汗腺炎に対するTNF-α阻害薬
  • 中等症~重症例に適応
  • 皮下注射による治療

レーザー治療

CO2レーザー

  • 小さな病変の除去
  • 低侵襲治療
  • 外来での治療が可能

創傷治癒促進剤

外用薬の新しい選択肢

  • 治癒期間の短縮
  • 瘢痕形成の軽減
  • 患者のQOL向上

心理的サポート

疾患による心理的影響

身体的な苦痛

  • 慢性的な痛み
  • 日常生活の制限
  • 睡眠障害

社会的な影響

  • 就業困難
  • 対人関係への影響
  • 活動制限

サポート体制

医療チームによる支援

  • 医師、看護師、薬剤師の連携
  • 心理カウンセラーとの連携
  • ソーシャルワーカーによる生活支援

患者会・支援団体

  • 同じ疾患を持つ患者との交流
  • 情報共有
  • 心理的支援

経過観察のポイント

定期的なチェック項目

症状の変化

  • 大きさの変化
  • 色調の変化
  • 表面性状の変化
  • 痛みやかゆみの程度

新しい病変の有無

  • 同じ部位での再発
  • 他の部位での新規発症
  • 悪性化の兆候

記録の重要性

  • 症状の経過記録
  • 写真による記録
  • 治療効果の評価

まとめ

おしりにできる痛い赤いできものは、毛包炎・せつ・よう、粉瘤、化膿性汗腺炎、皮膚がんなど様々な原因が考えられます。それぞれの疾患には特徴的な症状があり、適切な診断と治療が重要です。

早期受診のメリット

  • 症状の早期改善
  • 合併症の予防
  • 治療期間の短縮
  • 医療費の軽減

予防の重要性

  • 皮膚の清潔保持
  • 適切な生活習慣
  • 定期的なセルフチェック
  • 基礎疾患の管理

治療選択肢の多様性

  • 保存的治療から外科的治療まで
  • 個々の患者に応じた治療計画
  • 最新の治療法の導入

症状がある場合は、自己判断せずに早期に医療機関を受診することが大切です。アイシークリニック渋谷院では、皮膚のできものに関する豊富な経験と最新の治療技術により、患者様一人ひとりに最適な治療を提供いたします。

気になる症状がございましたら、お気軽にご相談ください。適切な診断と治療により、快適な日常生活を取り戻すお手伝いをいたします。


参考文献

  1. 日本皮膚科学会|毛包炎(毛嚢炎)
  2. MSDマニュアル|せつとよう
  3. MSDマニュアル|毛包炎と皮膚膿瘍
  4. 日本皮膚科学会|アテローム(粉瘤)Q&A
  5. 日本医事新報|毛包炎,癤(せつ)・癰(よう)
  6. 国立がん研究センター|有棘細胞がん
  7. MSDマニュアル|化膿性汗腺炎
  8. 日本皮膚科学会|化膿性汗腺炎診療ガイドライン2020年版

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務