「もしかして自分はワキガかもしれない」「ワキガの治療を受けたいけれど、どんな方法があるのかわからない」とお悩みの方は少なくありません。ワキガ(腋臭症)は医学的に認められた疾患であり、適切な治療によって症状を改善することが可能です。本記事では、ワキガの原因やメカニズムから、保険適用される手術治療、切らない最新治療まで、ワキガ治療に関する情報を詳しく解説します。ワキガ治療を検討されている方が、ご自身に合った治療法を見つけるための参考にしていただければ幸いです。
目次
- ワキガ(腋臭症)とは
- ワキガの原因とメカニズム
- ワキガのセルフチェック方法
- ワキガと多汗症の違い
- ワキガ治療の種類
- 保険適用される治療と自費診療の違い
- 剪除法(皮弁法)による手術治療
- ミラドライによる切らない治療
- ボトックス注射による治療
- 外用薬による治療
- ワキガ治療の選び方
- 治療後のケアと注意点
- 日常生活でできるワキガ対策
- よくある質問
ワキガ(腋臭症)とは
ワキガは、医学的には「腋臭症(えきしゅうしょう)」と呼ばれる疾患です。国際疾病分類(ICD-10)においてもL75.0として正式に分類されており、単なる体質ではなく医学的に治療が必要な疾患として位置づけられています。ワキガは、脇の下から独特の強いにおいを発する状態を指し、本人だけでなく周囲の人にも感じられるほどの臭気を伴うことが特徴です。
日本人におけるワキガの発症率は約10%程度とされており、欧米人(70〜100%)と比較すると低い割合となっています。しかし、日本人は臭いに対する意識が強い傾向にあるため、ワキの臭いが生理的なものとみなされることが多い欧米と比べて、ワキガがコンプレックスや日常生活への支障につながりやすいという特徴があります。
ワキガの発症時期は、アポクリン汗腺が発達する思春期以降に始まることが多く、20代でピークを迎えるとされています。女性の方が性徴が早いため、男性よりも若い年齢で発症する傾向があり、平均発症年齢は男性18歳、女性16歳というデータがあります。加齢とともに症状は軽減していく傾向がありますが、中年期以降は加齢臭と混在することもあります。
ワキガの原因とメカニズム
汗腺の種類と役割
人間の体には「エクリン汗腺」と「アポクリン汗腺」という2種類の汗腺が存在します。エクリン汗腺は全身に分布しており、主に水分を汗として分泌することで体温調節を行っています。エクリン汗腺から分泌される汗は99%が水分で構成されており、サラサラとした透明な汗で、基本的に臭いはほとんどありません。
一方、アポクリン汗腺は体の限られた部位にのみ存在します。具体的には、脇の下、耳の中(外耳道)、乳輪周辺、外陰部、肛門周辺などに分布しています。アポクリン汗腺から分泌される汗には、脂質、タンパク質、糖質、アンモニアなどの成分が含まれており、やや粘り気のある乳白色の汗となります。この汗自体は無臭ですが、皮膚表面に存在する常在菌によって分解されることで、独特のにおいが発生するのです。
においが発生するメカニズム
ワキガ特有のにおいは、アポクリン汗腺から分泌された汗に含まれる脂肪酸が、皮膚表面の常在菌(主に表皮ブドウ球菌などのグラム陽性球菌)によって分解されることで発生します。この分解過程で生成される「3メチル2へキセノイン酸」などの低級脂肪酸が、ワキガ独特のにおいの原因物質となっています。
また、アポクリン汗腺からは「リポフスチン」という色素も分泌されます。この色素は赤褐色をしているため、ワキガ体質の方は衣服の脇部分に黄色いシミができやすいという特徴があります。さらに、脇毛は汗を留め、においを拡散させる役割を持っているため、脇の下の湿度が高まると細菌が繁殖しやすくなり、におい物質が増加する原因となります。
遺伝との関係
ワキガには遺伝的な要因が強く関係しています。アポクリン汗腺の数や大きさは遺伝によって決まっており、生まれつきアポクリン汗腺が多い、または大きい人はワキガ体質になりやすいとされています。研究では、16番目の染色体にあるABCC11遺伝子がワキガや耳垢の性状に関与していることが明らかになっています。
両親のどちらかがワキガ体質の場合は約50%、両親の両方がワキガ体質の場合は約75〜80%の確率で子どもに遺伝するとされています。このため、家族にワキガ体質の方がいる場合は、自身もワキガになる可能性が高いと考えられます。ただし、アポクリン汗腺自体は誰もが持っており、途中から突然ワキガになったり、他人から感染したりすることはありません。
ワキガのセルフチェック方法
ワキガかどうかを判断するためのセルフチェック項目をご紹介します。以下の項目に該当するものが多いほど、ワキガ体質である可能性が高いと考えられます。ただし、最終的な診断は医師による診察が必要です。
まず、耳垢の状態を確認してみましょう。アポクリン汗腺は耳の中にも存在するため、ワキガ体質の方は耳垢が湿っている(キャラメル状、または飴状)傾向があります。研究によると、湿性耳垢の方の約8割がワキガ体質であるとされています。耳垢が乾燥している方はワキガの可能性が低いと考えられます。
次に、衣服の脇部分を確認してみてください。ワキガ体質の方は、白いシャツなどの脇部分に黄色いシミができやすい傾向があります。これはアポクリン汗腺から分泌される色素成分によるものです。汗をかいた後に衣服が黄ばみやすい場合は、ワキガの可能性があります。
また、脇毛の状態も参考になります。アポクリン汗腺は毛穴とつながっているため、アポクリン汗腺が多い方は脇毛の量が多い傾向があります。特に女性の場合、1本の毛穴から2本以上の毛が生えている場合は、アポクリン汗腺が発達している可能性があります。
家族にワキガ体質の方がいるかどうかも重要な判断材料です。ワキガは遺伝的要因が強いため、両親や兄弟姉妹にワキガの方がいる場合は、自身もワキガ体質である可能性が高くなります。
自分で脇の下をティッシュやガーゼで拭いて、そのにおいを確認することも有効です。運動後や汗をかいた後に脇を拭いたティッシュから独特のにおいがする場合は、ワキガの可能性があります。ワキガ特有のにおいは、ネギやタマネギのようなにおい、酢のようなにおい、スパイスのようなにおいなどと表現されることが多いです。
ワキガと多汗症の違い
ワキガと多汗症は混同されやすいですが、原因となる汗腺が異なる別の疾患です。ワキガの原因となるのはアポクリン汗腺から分泌される汗であり、においが主な症状となります。一方、多汗症の原因となるのはエクリン汗腺から分泌される汗であり、汗の量が異常に多いことが主な症状です。
多汗症は「腋窩多汗症」とも呼ばれ、日本人の約5.8%(531.9万人)が罹患していると推測されています。多汗症の方は、シャツの脇部分が濡れるほど大量の汗をかきますが、その汗は水分が主体であるため、いわゆる「汗臭い」においはしても、ワキガのような独特のにおいは発生しにくいという特徴があります。
ただし、ワキガと多汗症は併発することも珍しくありません。大量のエクリン汗腺からの汗がアポクリン汗腺からの分泌物と混ざり、においを拡散させることもあります。そのため、汗の量と臭いの両方にお悩みの方は、両方の治療を併せて検討することが望ましい場合があります。
ワキガ治療の種類
ワキガの治療法は大きく分けて、根本的な原因を取り除く「根治療法」と、症状を抑えることを目的とした「対症療法」があります。根治療法には手術やマイクロ波治療などがあり、対症療法には外用薬やボトックス注射などがあります。それぞれの治療法には特徴があり、症状の程度やライフスタイル、ダウンタイムの許容度などによって選択が異なります。
根治療法としては、剪除法(皮弁法)による手術治療が最も確実性の高い方法として知られています。また、マイクロ波を用いた「ミラドライ」は、切開を伴わない根治療法として注目されています。これらの治療では、アポクリン汗腺を物理的に除去または破壊することで、においの根本原因を取り除きます。
対症療法としては、ボトックス注射や塩化アルミニウム製剤などの外用薬があります。これらは汗の分泌を抑制することでにおいを軽減する効果がありますが、効果は一時的であり、定期的な治療の継続が必要です。
保険適用される治療と自費診療の違い
ワキガ治療において、保険が適用される治療と自費診療となる治療があります。保険適用を受けるためには、医師による「腋臭症」の診断が必要となります。
現在、ワキガ治療で保険適用が認められている主な方法は「剪除法(皮弁法)」による手術です。厚生労働省の診療報酬点数表において「皮下汗腺除去術(K008-1)」として明確に定められており、医学的に必要と判断されれば保険診療の対象となります。保険適用の場合、3割負担で両脇約50,000円程度が目安となります。
一方、ミラドライやビューホットなどのマイクロ波・高周波治療、美容目的の手術などは保険適用外となり、全額自己負担となります。自費診療の場合、治療法やクリニックによって費用は異なりますが、ミラドライの場合は20〜45万円程度が相場となっています。
また、重度の原発性腋窩多汗症に対するボトックス注射は保険適用が認められています。ただし、保険適用には診断基準を満たす必要があり、軽度の症状の場合は自費診療となることがあります。
剪除法(皮弁法)による手術治療
剪除法の概要
剪除法(せんじょほう)は、皮弁法とも呼ばれ、ワキガ治療において最も効果が高いとされる手術方法です。脇の下のシワに沿って約4〜5センチ程度切開し、皮膚を裏返して直接目で見ながらアポクリン汗腺を一つ一つ切除していきます。医師が直視下で汗腺を除去するため、確実性が高く、長期追跡調査においても90%以上の患者さんで満足度の高い結果が得られることが報告されています。
剪除法は、ワキガの原因であるアポクリン汗腺だけでなく、エクリン汗腺や皮脂腺も同時に除去できるため、においの改善とともに汗の量も約3割程度減少させる効果が期待できます。また、脇毛が減少するという副次的な効果もあります。
手術の流れ
手術は局所麻酔下で行われ、入院は基本的に不要です。まず、脇の下の手術範囲をマーカーでマーキングし、局所麻酔を注射します。その後、脇の中央部に切開を入れ、皮膚を裏返してアポクリン汗腺を確認しながら切除していきます。手術時間は片脇約1時間程度で、両脇を同時に行う場合もあれば、片脇ずつ行う場合もあります。
手術後は皮膚を縫合し、血液が溜まるのを防ぐためにドレーン(管)を挿入する場合があります。ガーゼで圧迫固定を行い、術後の安静が必要となります。
術後の経過とダウンタイム
剪除法の術後は、約1〜2週間の安静期間が必要です。この期間は腕を肩より上に上げることや、重い物を持つことは控える必要があります。術後3日目までは飲酒、運動、入浴を控え、シャワー浴のみとなります。
術後翌日に経過観察のための通院があり、ドレーンの抜去や傷の状態確認が行われます。その後、約1週間で圧迫固定を解除し、抜糸を行います。傷跡が完全に落ち着くまでには個人差がありますが、通常1〜3ヶ月程度かかります。術後4〜5ヶ月の時点で問題がなければ治療終了となります。
剪除法のメリットとデメリット
剪除法のメリットとしては、保険適用で費用を抑えられること、治療効果が高く半永久的な効果が期待できること、医師が直視下で汗腺を確実に除去できることなどが挙げられます。重度のワキガの方でも高い改善効果が期待できる治療法です。
一方、デメリットとしては、切開を伴うため傷跡が残る可能性があること、術後1〜2週間の安静期間が必要なこと、術後の行動制限があることなどが挙げられます。また、医師の技術力によって効果や傷跡の状態に差が出やすい治療法でもあるため、経験豊富な医師を選ぶことが重要です。
ミラドライによる切らない治療
ミラドライとは
ミラドライは、マイクロ波(電子レンジと同じ原理)を用いて汗腺を破壊する治療法です。2018年6月4日に厚生労働省から重度の原発性腋窩多汗症に対する治療機器として薬事承認を取得しており(医療機器承認番号:23000BZX00161000)、日本国内でワキ汗治療機器として国から承認を受けた唯一の機器です。また、米国FDA(アメリカ食品医薬品局)からも腋窩多汗症、腋臭症、減毛の3つの適応で承認を取得しています。
ミラドライは皮膚を切開することなく、皮膚の外からマイクロ波を照射して汗腺を破壊するため、傷跡が残らないという大きなメリットがあります。一度破壊された汗腺は再生しないため、効果は半永久的に持続するとされています。
治療のメカニズム
ミラドライは、5.8GHzのマイクロ波を皮膚表面から照射します。マイクロ波には水分に選択的に吸収されて熱を発生させる性質があり、水分を多く含む汗腺を効率的に加熱することができます。照射されたマイクロ波は、汗腺が多く分布する真皮深層から皮下組織浅層を約60〜70℃に加熱し、エクリン汗腺とアポクリン汗腺の両方を焼灼・凝固します。
ミラドライにはハイドロセラミック・クーリングシステムが搭載されており、マイクロ波を照射しながら皮膚表面を冷却することで、表皮や真皮へのダメージを防いでいます。また、脂肪層より深部へはエネルギーが届かないよう、熱の及ぶ深さと照射幅をコントロールする設計になっています。
治療の流れ
治療当日は、まず脇の下を消毒し、照射範囲をマーキングします。その後、局所麻酔を注射し、痛みを感じなくなってからミラドライの照射を開始します。両脇の照射時間は約60分程度で、麻酔や照射後の冷却を含めると全体で約2時間程度の施術時間となります。
治療後は10〜20分程度冷却パックで冷やし、そのまま帰宅できます。入院の必要はなく、翌日からシャワー浴が可能です。
ミラドライのメリットとデメリット
ミラドライのメリットとしては、皮膚を切らないため傷跡が残らないこと、ダウンタイムが短く翌日から日常生活に戻れること、1回の治療で約70〜80%の汗腺が破壊され半永久的な効果が期待できること、厚生労働省とFDAの承認を取得しており安全性が証明されていることなどが挙げられます。
デメリットとしては、保険適用外のため費用が高額になること(20〜45万円程度)、治療後に一時的な腫れ、痛み、内出血が生じる可能性があること、症状によっては2回以上の治療が必要になる場合があることなどがあります。また、剪除法と比較すると重度のワキガに対する効果がやや劣る可能性があるとする意見もあります。
ボトックス注射による治療
ボトックス注射の概要
ボトックス(一般名:A型ボツリヌス毒素製剤)は、神経の末端に作用してアセチルコリンの放出を阻害することで、汗腺への神経信号をブロックし、汗の分泌を抑制する治療です。重度の原発性腋窩多汗症に対しては保険適用が認められており、多汗症に対する効果が高い治療法です。
ワキガに対しては、汗の分泌を抑えることで結果的ににおいも軽減させる効果が期待できます。ただし、アポクリン汗腺自体を除去するわけではないため、根本的な治療ではなく対症療法となります。
治療の流れと効果
治療は、脇の下に直接ボツリヌストキシンを注射するシンプルな方法で、施術時間は両脇で約5〜10分程度と短時間で終わります。腫れや出血もほとんどなく、治療直後から日常生活に戻ることができます。
効果は注射後2〜3日から現れ始め、約4〜9ヶ月間持続します。効果の持続期間には個人差がありますが、効果が薄れてきたタイミングで再度注射を行うことで、効果を維持することができます。継続的な治療が必要となるため、長期的なコストを考慮することが重要です。
ボトックス注射のメリットとデメリット
ボトックス注射のメリットとしては、施術時間が短く手軽に受けられること、ダウンタイムがほとんどないこと、重度の原発性腋窩多汗症では保険適用になる場合があること、効果がすぐに実感できることなどが挙げられます。
デメリットとしては、効果が一時的で定期的な再注射が必要なこと、長期的に継続すると費用がかさむ可能性があること、汗腺を破壊するわけではないためワキガの根本治療にはならないことなどがあります。
外用薬による治療
ワキガや多汗症の治療には、外用薬を用いる方法もあります。主に使用される外用薬としては、塩化アルミニウム製剤、エクロックゲル5%、ラピフォートワイプ2.5%などがあります。
塩化アルミニウム製剤は、汗孔や汗管を閉鎖して発汗を物理的に抑制する作用があります。就寝前に脇を清潔にしてから塗布し、翌朝洗い流すという使用方法が一般的です。効果は一時的で、毎日または数日おきに繰り返し使用する必要があります。なお、塩化アルミニウム製剤は保険適用外となります。
エクロックゲル5%(一般名:ソフピロニウム臭化物ゲル)とラピフォートワイプ2.5%(一般名:グリコピロニウムトシル酸塩水和物液)は、抗コリン薬に分類される外用薬で、エクリン汗腺の受容体をブロックすることで過剰な発汗を抑えます。これらは原発性腋窩多汗症に対して保険適用が認められています。
外用薬による治療は、手術や機器による治療と比較して手軽に始められるメリットがありますが、効果は一時的であり、継続的な使用が必要です。軽度のワキガや、手術前の一時的な対策として使用されることが多いです。
ワキガ治療の選び方
ワキガ治療を選ぶ際には、症状の程度、ダウンタイムの許容度、費用、治療効果の持続性など、複数の要素を考慮して総合的に判断することが重要です。以下に、状況別のおすすめの治療法をご紹介します。
費用を抑えて確実に治療したい方には、保険適用の剪除法(皮弁法)がおすすめです。保険適用で両脇約50,000円程度と費用を抑えられ、治療効果も高い方法です。ただし、術後1〜2週間の安静期間が必要となるため、学生の方の夏休みなど長期休暇がある時期に治療を受けることをおすすめします。
傷跡を残したくない方、ダウンタイムを短くしたい方には、ミラドライがおすすめです。皮膚を切らないため傷跡が残らず、翌日から日常生活に戻れます。費用は自費診療となりますが、効果は半永久的に持続するため、長期的に見ると費用対効果の高い治療といえます。
まずは手軽に治療を試してみたい方、症状が軽度の方には、ボトックス注射や外用薬から始めることをおすすめします。効果は一時的ですが、手術への心理的なハードルがある方や、症状の程度を見極めたい方には適した選択肢です。
また、子どもや思春期のワキガについては、アポクリン汗腺が完全に発達する前に手術を行うと再発のリスクがあるため、ボトックス注射など一時的な治療で様子を見ることが推奨される場合があります。成長とともに症状が変化する可能性もあるため、医師とよく相談の上で治療方針を決めることが大切です。
治療後のケアと注意点
ワキガ治療を受けた後は、適切なアフターケアを行うことで、治療効果を最大限に発揮し、合併症を予防することができます。治療法によってケアの内容は異なりますが、共通して注意すべき点をご紹介します。
剪除法の術後は、安静を保つことが最も重要です。術後の合併症の多くは、手術当日の安静不足が原因とされています。術後1週間程度は腕を肩より上に上げることを避け、重い物を持ったり、長距離を歩いたりすることは控えましょう。主婦の方は、小さなお子さんを抱いたり、洗濯物の上げ下ろしをしたりすることも控える必要があります。
ミラドライの術後は、剪除法と比較してダウンタイムが短いですが、治療当日から数日間は治療部位を激しくこすったり、刺激を与えることは避けましょう。過度の運動やサウナは控え、施術3日目まではぬるめのシャワー浴とすることが推奨されます。
どの治療法でも、治療後に違和感や異常を感じた場合は、すぐに治療を受けた医療機関に連絡することが大切です。また、定期的な経過観察のための通院を怠らないようにしましょう。
日常生活でできるワキガ対策
ワキガの治療を受けることに加えて、日常生活での対策を行うことで、においをより効果的にコントロールすることができます。以下に、日常生活で実践できるワキガ対策をご紹介します。
まず、脇の下を清潔に保つことが基本です。こまめにシャワーを浴びる、薬用せっけんを使用して脇を洗う、日中はアルコール綿で拭くなどの方法で、皮膚表面の細菌を減らすことができます。細菌の数が減ることで、におい物質の生成も抑えられます。
脇毛の処理も効果的です。アポクリン汗腺は脇毛の毛根部に存在し、脇毛に汗や分泌物が付着すると細菌の繁殖が促進されます。脱毛や剃毛を行うことで、においが軽減されることがあります。
制汗剤は、皮膚を清潔にした状態で使用することで効果を発揮します。汗をかいた状態や細菌が繁殖した状態で使用しても効果が薄いため、入浴直後や脇を拭いた後に使用するとよいでしょう。
衣服の素材にも注意が必要です。通気性の良い天然素材(綿、麻など)の衣服を選ぶことで、蒸れを防ぎ、細菌の繁殖を抑えることができます。
食生活も体臭に影響を与えます。動物性たんぱく質や脂肪分の多い食事、アルコール、香辛料などはにおいを強くする可能性があるとされています。和食中心のバランスの良い食事を心がけることで、体臭を軽減できる可能性があります。
ストレスや緊張は発汗を促進するため、適度な運動やリラクゼーションで自律神経を整えることも大切です。規則正しい生活リズムを維持し、十分な睡眠をとることで、体調を整えましょう。

よくある質問
ワキガは体質であり、自然に完治することは基本的にありません。ただし、アポクリン汗腺の活動は加齢とともに低下する傾向があるため、中年期以降は症状が軽減することがあります。根本的に治療したい場合は、手術やミラドライなどの治療を検討する必要があります。
ワキガ手術は、アポクリン汗腺が完全に発達した後に行うことが推奨されます。思春期が終わる前に手術を行うと、残った汗腺が発達して症状が再発する可能性があります。一般的には16歳以降、できれば成人してから手術を受けることが望ましいとされています。お子さんのワキガについては、まずボトックス注射などの一時的な治療で様子を見ることをおすすめします。
剪除法やミラドライで破壊された汗腺は基本的に再生しないため、治療した部分からの再発は少ないとされています。ただし、手術で取り残した汗腺や、治療範囲外の汗腺が残っている場合は、そこからにおいが発生する可能性があります。また、手術を行った部位でも、破壊しきれなかった汗腺の5〜10%程度は再生する可能性があるとされています。治療効果を最大限に発揮するためには、経験豊富な医師による治療を受けることが重要です。
ワキガ手術を受けても、完全に無臭になるわけではありません。手術の目的は、制汗スプレーなど一般的なケアをしていればにおいが気にならなくなるレベルにすることです。人間には多少の体臭があるのが自然であり、すべての汗腺を除去することは不可能です。ただし、ほとんどの方は手術後に日常生活に支障がないレベルまで改善し、においのコンプレックスから解放されています。
はい、ワキガと多汗症を同時に治療することが可能です。剪除法ではアポクリン汗腺とともにエクリン汗腺も除去されるため、においと汗の両方に効果があります。ミラドライも、マイクロ波でアポクリン汗腺とエクリン汗腺の両方を破壊するため、ワキガと多汗症の両方に効果的です。症状や希望に応じて最適な治療法を選択できますので、医師にご相談ください。
どの治療法でも、施術中は局所麻酔を使用するため、強い痛みを感じることはほとんどありません。剪除法の術後は、麻酔が切れた後に痛みを感じることがありますが、処方される鎮痛剤で対応できる程度です。ミラドライの術後は、軽度の痛みや腫れが数日間続くことがありますが、日常生活に大きな支障が出るほどではありません。ボトックス注射は注射の針を刺す際にチクッとした痛みがありますが、施術時間が短いため、痛みを感じる時間も限られています。
参考文献
- 日本皮膚科学会「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」
- 日本形成外科学会「腋臭症(わきが)」
- 日本医科大学武蔵小杉病院「ワキガ(腋臭症)の治療〜ニオイの診断と手術〜」
- 済生会「ワキガの悩みとさようなら!今すぐ試せるケア方法」
- 厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 医療機器・体外診断薬部会 議事録(miraDryシステム審議)
- 日本皮膚科学会雑誌「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務