ワキガ・多汗症

ワキガはどんな匂い?7つの臭いタイプと原因・セルフチェック・治療法を医師が解説

「自分の脇から独特な匂いがする気がする」「もしかしてワキガかもしれない」と不安を感じている方は少なくありません。ワキガ(腋臭症)は、アポクリン汗腺から分泌される汗が皮膚常在菌によって分解されることで発生する特有の体臭です。日本人の約10%がワキガ体質であるとされており、決して珍しい症状ではありません。しかし、ワキガの匂いは一種類ではなく、人によって「玉ねぎのような匂い」「鉛筆の芯のような匂い」「香辛料のような匂い」など、さまざまなタイプがあることが研究によって明らかになっています。本記事では、ワキガがどのような匂いなのか、その発生メカニズムや原因、セルフチェック方法から治療法まで、医学的な観点から詳しく解説いたします。ワキガの匂いでお悩みの方は、ぜひ最後までお読みいただき、ご自身に合った対策を見つけてください。


目次

  1. ワキガとは?医学的な定義と概要
  2. ワキガの匂いはどんな匂い?7つのタイプを解説
  3. ワキガの匂いが発生するメカニズム
  4. ワキガの匂いの強さに影響する要因
  5. 自分でできるワキガのセルフチェック方法
  6. ワキガと普通の汗臭さの違い
  7. ワキガの匂いを軽減する日常的なケア方法
  8. 医療機関で受けられるワキガの治療法
  9. よくある質問
  10. まとめ

ワキガとは?医学的な定義と概要

ワキガとは、医学的には「腋臭症(えきしゅうしょう)」と呼ばれる状態で、脇の下から特有の強い匂いを発する体質のことを指します。日本医科大学武蔵小杉病院の解説によると、腋臭症はアポクリン汗腺から分泌される汗に問題があり、腋窩(わきの下)の臭いが強い状態と定義されています。この症状は遺伝的要因が大きく関与しており、ABCC11遺伝子がアポクリン汗腺の分泌物の質に影響を与えることが明らかになっています。

人の皮膚には、汗を分泌する器官として「エクリン汗腺」と「アポクリン汗腺」の2種類の汗腺が存在します。エクリン汗腺は全身に分布しており、体温調節を目的としてサラサラとした汗を分泌します。この汗は99%が水分で構成されているため、分泌直後は基本的に無臭です。一方、アポクリン汗腺は脇の下、耳の中、乳輪、外陰部など限られた部位にのみ存在し、脂質やタンパク質、糖質、アンモニアなどの成分を含んだベタベタとした汗を分泌します。このアポクリン汗腺から出る汗が皮膚表面の常在菌によって分解されることで、ワキガ特有の匂いが発生するのです。

日本人においてワキガ体質の方は約10%程度と推計されています。この割合は欧米諸国と比較すると低い数値ですが、日本人は匂いに対して敏感な傾向があるため、ワキガが深刻なコンプレックスになりやすいという特徴があります。ワキガ自体は病気ではなく体質の一つですので、健康上の問題はありませんが、社会生活や対人関係に影響を与えることがあるため、適切な理解と対処が重要です。

ワキガの匂いはどんな匂い?7つのタイプを解説

ワキガの匂いは一種類ではありません。株式会社マンダムが2006年より継続して行っている体臭研究によると、日本人のワキの匂いは7つのタイプに分類されることが明らかになっています。研究員が被験者の脇を直接嗅ぐ「嗅覚測定」という方法で評価した結果、以下のような分類が確立されました。

ミルクタイプ(M型)

日本人に最も多く見られるワキの匂いタイプです。ミルクや乳製品を思わせるような、やや甘みを帯びた匂いが特徴です。このタイプは匂いの強度が比較的低い傾向にあり、周囲に不快感を与えにくいとされています。マンダムの研究では、日本人男性のワキ臭タイプの中で最も多くの割合を占めることが確認されています。30歳代以降はこのミルクタイプの割合が増加する傾向が見られます。

酸臭タイプ(A型)

酸っぱい匂いが特徴的なタイプです。発酵したような酸味を感じさせる匂いで、ミルクタイプに次いで日本人に多く見られます。このタイプはミルクタイプよりも匂いの強度が高い傾向があり、10代から20代の若い世代に多く見られることがわかっています。汗に含まれる脂肪酸が細菌によって分解されることで発生する低級脂肪酸が主な原因物質と考えられています。

カレースパイスタイプ(C型)

香辛料、特にクミンなどのスパイスを連想させる匂いが特徴です。このタイプは、研究において最も匂いの強度が高いことが確認されており、いわゆる「ワキガ臭」として認識されやすいタイプです。カレースパイスタイプをメインに持つ方は、他のタイプと比較してワキの匂いが強い傾向にあります。体臭研究では、刺激感のあるアルデヒドやケトン類などの化合物がこのタイプの匂いの原因とされています。10代から20代に多く見られ、30歳代以降は減少する傾向があります。

カビタイプ(K型)

カビや湿った雑巾のような匂いが特徴的なタイプです。蒸れた環境で発生しやすい匂いで、脂肪酸の分解産物が関与していると考えられています。高温多湿の環境下で匂いが強くなりやすい傾向があります。

蒸し肉タイプ

蒸した肉のような、動物的な匂いが特徴です。研究によると、短鎖脂肪酸がこのタイプの匂いの主な原因物質とされています。牛やヤギのような動物の体臭に近い印象を与える匂いタイプです。

生乾きタイプ

洗濯物の生乾きのような匂いが特徴的なタイプです。多量の発汗によって皮膚や衣類が湿った状態が続き、細菌が繁殖することで発生しやすい匂いです。多汗症の方に多く見られる傾向があります。硫黄系の匂いと組み合わさると、ゆで卵や温泉のような匂いとして感じられることもあります。

鉄臭タイプ

金属的な匂い、特に鉛筆の芯や古い10円玉のような匂いが特徴です。粘土のような匂いと表現されることもあります。ワキガの刺激臭と鉄分が混ざることで発生すると考えられており、ワキガ体質の方に見られる代表的な匂いタイプの一つです。

これらの匂いタイプは単独で現れることもありますが、多くの場合は複数のタイプが混在した状態となります。例えば、カレースパイスタイプと酸臭タイプが組み合わさることで、玉ねぎやにんにくのようなツンとした刺激臭として感じられることがあります。また、匂いの強さや特徴は個人差が大きく、同じタイプでも体調や生活習慣によって変化することがあります。

ワキガの匂いが発生するメカニズム

ワキガの匂いは、アポクリン汗腺から分泌される汗そのものから発生するわけではありません。匂いが生まれるまでには、汗腺からの分泌、皮膚常在菌による分解、そして匂い物質の揮発という3つのステップがあります。このメカニズムを理解することで、効果的な対策を講じることができます。

ステップ1:アポクリン汗腺からの汗の分泌

アポクリン汗腺は毛根付近に存在し、脂質、タンパク質、糖質、アンモニアなどの成分を豊富に含んだ汗を分泌します。この汗は白く濁っており、ベタベタとした粘性があるのが特徴です。アポクリン汗腺自体は誰にでも存在しますが、ワキガ体質の方はその数が多かったり、一つ一つの腺が大きかったりするため、分泌量が多くなる傾向があります。また、アポクリン汗腺の汗には「リポフスチン」と呼ばれる黄褐色の色素成分が含まれており、これが衣類の脇部分の黄ばみの原因となります。

ステップ2:皮膚常在菌による分解

皮膚の表面には多種多様な細菌が常在しており、これらの菌がアポクリン汗腺から分泌された汗を分解します。汗に含まれる脂質やタンパク質は、菌にとって格好の栄養源となります。細菌がこれらの成分を代謝する過程で、低級脂肪酸やメルカプタン類、アルデヒド類など、匂いの原因となるさまざまな化合物が生成されます。ワキガ臭の原因となる菌が多い方ほど、匂いが強くなる傾向があります。

ステップ3:匂い物質の揮発と拡散

細菌によって生成された匂い物質は、体温や周囲の温度によって揮発し、空気中に拡散します。特にエクリン汗腺から分泌される水分を主成分とした汗が蒸発する際に、一緒に匂い物質が拡散されることで、周囲に匂いが広がります。脇の下は腕で覆われているため蒸れやすく、細菌が繁殖しやすい環境にあります。また、脇毛があることで汗が留まりやすくなり、匂いの拡散を助長する要因となることもあります。

このように、ワキガの匂いは「アポクリン汗腺の分泌物」と「皮膚常在菌」の相互作用によって発生します。したがって、匂いを抑えるためには、汗の分泌を減らすアプローチと、菌の繁殖を防ぐアプローチの両方が有効となります。

ワキガの匂いの強さに影響する要因

ワキガの匂いの強さは個人差が大きく、さまざまな要因によって変化します。体質的な要因に加えて、生活習慣や環境要因も大きく影響することが知られています。以下では、匂いの強さに影響を与える主な要因について解説します。

遺伝的要因

ワキガは優性遺伝(常染色体優性遺伝)の傾向が強く、両親のどちらかがワキガ体質である場合、子どもに遺伝する確率は約50%とされています。両親ともにワキガ体質の場合は、その確率は約80%にまで上昇します。遺伝的にアポクリン汗腺の数が多い、あるいはその働きが活発な体質を受け継ぐことで、ワキガ体質となります。また、祖父母からの隔世遺伝もあり得るため、家系にワキガの方がいる場合は注意が必要です。

ホルモンバランスの変化

アポクリン汗腺は性ホルモンの影響を受けて活動が変化します。そのため、思春期にホルモンバランスが大きく変動する時期にワキガの症状が顕在化することが多いのです。女性の場合は、月経周期、妊娠・出産期、更年期など、ホルモンバランスが変動する時期に匂いが一時的に強くなることがあります。これはアポクリン汗腺の活動が活発になるためと考えられています。

食生活の影響

食事内容はワキガの匂いに影響を与える可能性があります。動物性タンパク質や脂質を多く含む肉類や乳製品、揚げ物などを過剰に摂取すると、アポクリン汗腺からの脂質分泌が増え、匂いが強くなる傾向があるとされています。また、カレーなどの香辛料を多く含む食事は、体内で代謝されて汗や体臭として排出されることで、一時的に匂いを変化させたり強めたりすることがあります。一方で、野菜中心の食生活や、梅干し、海藻類、緑黄色野菜などのアルカリ性食品を積極的に摂取することで、匂いの軽減が期待できるという報告もあります。ただし、日本医科大学武蔵小杉病院によると、食べ物と匂いの関連性については、現時点では十分な科学的根拠はないとされています。

ストレスと自律神経

過度なストレスや自律神経の乱れは、発汗を促進する要因となります。精神的な緊張状態にあるとき、アポクリン汗腺からの分泌が活発になり、匂いが強くなることがあります。また、生活リズムの乱れや睡眠不足も自律神経のバランスを崩し、発汗量の増加につながることがあります。ストレスを適切に管理し、規則正しい生活を心がけることが、匂いの軽減に役立つ場合があります。

肥満との関係

肥満体型の方は、体温調節のために多くの汗をかく傾向があります。また、外見上は太っていなくても、内臓脂肪が多い場合も同様に発汗量が増える傾向があります。汗の量が多くなると、細菌が繁殖しやすい環境が作られ、結果として匂いが強くなる可能性があります。ただし、マンダムの研究によると、肥満とワキの匂いの強さには直接的な相関は認められなかったという報告もあり、体型そのものよりも汗の質や細菌の種類が匂いに大きく影響すると考えられています。

年齢による変化

マンダムの研究によると、ワキの匂いの強度は10代から20代で最も高く、30歳代以降は減少する傾向が見られます。これは、加齢による基礎代謝の低下や、アポクリン汗腺からの分泌成分の変化が影響していると推測されています。また、匂いのタイプも年齢によって変化し、若い世代に多い酸臭タイプやカレースパイスタイプは30歳代以降減少し、ミルクタイプが増加する傾向があります。ただし、高齢になっても匂いの強度が高い方も存在し、同世代でも個人差が大きいことに留意が必要です。

自分でできるワキガのセルフチェック方法

ワキガかどうかを自分で判断することは難しいものです。人間の嗅覚には順応性があり、同じ匂いを嗅ぎ続けると感じにくくなる特性があるため、自分の体臭には鈍感になりがちです。しかし、いくつかの身体的特徴をチェックすることで、ワキガ体質かどうかの目安を得ることができます。以下では、医療機関でも参考にされているセルフチェックのポイントをご紹介します。

耳垢のタイプを確認する

ワキガのセルフチェックで最も重要な指標の一つが、耳垢のタイプです。耳垢には「乾性耳垢」(カサカサした乾いたタイプ)と「湿性耳垢」(ベタベタした湿ったタイプ)の2種類があります。耳の穴にはアポクリン汗腺のみが存在するため、耳垢が湿っている方はアポクリン汗腺の分泌が活発であることを示しています。日本医科大学武蔵小杉病院の報告によると、湿性耳垢の方の約8割がワキガ(腋臭症)を罹患しているとされています。また、第116回日本皮膚科学会での調査では、耳垢が乾燥しているにもかかわらずワキガと診断されたケースはなかったという報告もあります。ただし、耳垢が湿っていても必ずしもワキガとは限らず、約2割の方はワキガではなかったという報告もありますので、あくまで目安として捉えることが重要です。

衣類の脇部分の黄ばみをチェック

アポクリン汗腺から分泌される汗には「リポフスチン」という黄褐色の色素成分が含まれています。この成分は通常のエクリン汗腺からの汗には含まれていません。そのため、白い服や下着の脇部分が黄色く変色しやすい場合は、アポクリン汗腺の働きが活発である可能性があります。特に、黄ばみの境目がはっきりしている場合は、ワキガの可能性が高いと考えられます。ただし、制汗剤の成分による変色や、単なる皮脂汚れとの区別が必要です。

家族歴を確認する

ワキガは遺伝的要因が大きく関与します。両親のどちらか、または両方がワキガ体質である場合、ご自身もワキガ体質である可能性が高くなります。また、祖父母からの隔世遺伝もあり得るため、家系にワキガの方がいないかどうかを確認することも参考になります。

脇毛の量と状態を確認する

アポクリン汗腺は毛穴とつながっているため、脇毛の毛穴の数が多い場合は、アポクリン汗腺の数も多い可能性が示唆されます。また、汗をかいて乾いた後に脇毛に白い粉のようなものが付着している場合、それはアポクリン汗腺の汗が結晶化したものである可能性があります。ただし、制汗剤やデオドラント製品の残りである場合もありますので、これらを使用していない状態で確認することが重要です。

他者からの指摘があるか

家族やパートナーなど、親しい間柄の方から脇の匂いについて指摘されたことがある場合は、ワキガの可能性を検討する必要があります。自分の匂いは嗅覚が慣れてしまって感じにくいため、客観的な意見は重要な判断材料となります。

上記のチェックポイントのうち、複数の項目に該当する場合は、ワキガ体質である可能性が高いと考えられます。ただし、これらはあくまでセルフチェックの目安であり、正確な診断は医療機関で行う必要があります。医療機関では「ガーゼテスト」と呼ばれる検査が行われることがあります。これは清潔なガーゼを脇に挟んで一定時間経過した後、医師がそのガーゼの匂いを確認する検査です。匂いの強さに応じて重症度を判定し、適切な治療法を提案してもらうことができます。

ワキガと普通の汗臭さの違い

「脇が臭う」といっても、ワキガによる匂いと普通の汗臭さは異なります。両者を混同してしまうと、適切な対処ができない可能性があります。ここでは、ワキガと普通の汗臭さの違いについて解説します。

原因となる汗腺の違い

普通の汗臭さは主にエクリン汗腺から分泌される汗が原因です。エクリン汗腺からの汗は99%が水分で構成されており、分泌直後は無臭です。しかし、時間が経つと皮膚表面の細菌が汗の中のわずかな成分を分解し、いわゆる「汗臭い」匂いが発生します。この匂いは一般的に「酸っぱい匂い」「アンモニア臭」などと表現されることが多いです。一方、ワキガの匂いはアポクリン汗腺から分泌される汗が原因です。この汗には脂質やタンパク質が豊富に含まれているため、細菌による分解でより複雑で強い匂いが発生します。

匂いの質の違い

普通の汗臭さは、運動後や暑い日に感じる「汗っぽい匂い」で、誰でも経験する匂いです。シャワーを浴びたり、汗を拭いたりすることで比較的簡単に解消できます。一方、ワキガの匂いは独特で、前述したように「玉ねぎのような匂い」「鉛筆の芯のような匂い」「カレースパイスのような匂い」など、特徴的な匂いがあります。また、ワキガの匂いは鼻につくような刺激臭であることが多く、普通の汗臭さとは明らかに異なる印象を与えます。

匂いの持続性の違い

普通の汗臭さは、汗を拭き取ったり着替えたりすることで比較的容易に解消できます。しかし、ワキガの匂いはアポクリン汗腺からの分泌物が皮膚表面や衣類に付着するため、単に汗を拭くだけでは完全に取り除くことが難しい場合があります。特に衣類に染み込んだワキガ臭は、通常の洗濯では落ちにくいことがあります。

汗のベタつきの違い

エクリン汗腺から出る汗はサラサラしていますが、アポクリン汗腺から出る汗は脂質やタンパク質を含んでいるため、ベタベタとした粘性があります。脇に触れたときにベタつきを強く感じる場合は、アポクリン汗腺の分泌が活発である可能性があります。

これらの違いを理解することで、ご自身の脇の匂いがワキガによるものなのか、普通の汗臭さなのかを判断する手がかりになります。判断に迷う場合は、皮膚科や形成外科などの医療機関で相談することをおすすめします。

ワキガの匂いを軽減する日常的なケア方法

ワキガの匂いは、日常的なセルフケアによってある程度軽減することが可能です。匂いの発生メカニズムを踏まえると、「汗の分泌を抑える」「細菌の繁殖を防ぐ」「衣類への匂い移りを防ぐ」という3つのアプローチが効果的です。以下では、具体的なケア方法について解説します。

こまめに汗を拭く

汗をかいたらそのままにせず、こまめに拭き取ることが基本です。アポクリン汗腺から分泌された汗が皮膚表面で細菌によって分解されることで匂いが発生するため、汗をこまめに拭き取ることで匂いの発生を抑えることができます。汗拭きシートやウェットティッシュを携帯し、外出先でもケアできるようにしておくと便利です。可能であれば、シャワーを浴びたり着替えたりすることも効果的です。

デオドラント製品を正しく使用する

市販のデオドラント製品(制汗剤)を活用することで、汗の分泌を抑えたり、細菌の繁殖を防いだりすることができます。ワキガ対策には、医薬部外品に分類される製品を選ぶことをおすすめします。医薬部外品には、殺菌成分(イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウムなど)や制汗成分(クロルヒドロキシアルミニウム、パラフェノールスルホン酸亜鉛など)が有効成分として配合されており、一般化粧品よりも高い効果が期待できます。使用するタイミングは、お風呂上がりの清潔な肌に塗布するのが最も効果的です。また、製品のタイプ(スプレー、ロールオン、クリーム、スティックなど)によって特性が異なりますので、ご自身の生活スタイルに合ったものを選びましょう。クリームタイプやスティックタイプは密着度が高く、持続性に優れている傾向があります。

脇毛の処理を行う

脇毛があると、汗が留まりやすくなり、蒸れによって細菌が繁殖しやすい環境が作られます。脇毛を処理することで通気性が良くなり、匂いの軽減につながることがあります。ただし、処理方法によっては皮膚に刺激を与え、肌荒れを起こす可能性もありますので、肌に優しい方法を選ぶことが重要です。医療レーザー脱毛は、脇毛を処理すると同時に蒸れを解消し、細菌の増殖を抑える効果も期待できます。

衣類の素材と洗濯に気を配る

化学繊維(ポリエステルなど)の衣類は通気性が悪く、蒸れやすいため匂いが発生しやすくなります。麻や綿などの天然素材の衣類は吸水性・通気性に優れているため、脇の匂いが気になる方にはおすすめです。また、ワキガの匂い成分が衣類に蓄積すると、着用した瞬間から匂いが発生してしまいます。匂いが付着した衣類は、漂白剤を使用してしっかりと洗浄することが重要です。特に脇部分に黄ばみや匂いが残っている場合は、重曹やセスキ炭酸ソーダを使った浸け置き洗いが効果的です。

食生活の見直し

動物性タンパク質や脂質の多い食事、揚げ物やジャンクフードなどは、アポクリン汗腺からの分泌を増やし、匂いを強める可能性があるとされています。野菜中心の和食を心がけ、緑黄色野菜、海藻類、梅干しなどのアルカリ性食品を積極的に摂取することで、体臭の軽減が期待できます。また、アルコールの過剰摂取も体臭を強める要因となりますので、適度な飲酒を心がけましょう。

ストレス管理と規則正しい生活

ストレスや自律神経の乱れは、アポクリン汗腺の活動を活発化させる要因となります。適度な運動やリラックスできる時間を設けることで、ストレスを軽減し、発汗量のコントロールにつながることがあります。また、十分な睡眠を確保し、規則正しい生活リズムを維持することも大切です。

これらのセルフケアを継続的に行うことで、ワキガの匂いを軽減できる場合があります。ただし、セルフケアには限界があり、匂いが強い場合や日常生活に支障が出ている場合は、医療機関での治療を検討することをおすすめします。

医療機関で受けられるワキガの治療法

セルフケアでは十分な効果が得られない場合や、匂いの症状が重度の場合は、医療機関での治療を検討することができます。ワキガの治療法は大きく分けて「保存的治療(対症療法)」と「根治療法」の2つに分類されます。日本皮膚科学会の「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」に基づき、主な治療法について解説します。

外用薬治療

塩化アルミニウム液は、ワキガや多汗症の治療薬として長く使用されてきた外用薬です。塩化アルミニウムが汗腺の出口に蓋をすることで、汗の分泌を抑制します。就寝前に脇に塗布し、翌朝洗い流すという使用方法が一般的です。ただし、塩化アルミニウム製剤は保険適用外となる場合が多く、皮膚炎を起こす可能性があることに注意が必要です。

近年では、原発性腋窩多汗症に対して保険適用となる外用薬も登場しています。「エクロックゲル5%」(2020年発売)や「ラピフォートワイプ2.5%」(2022年発売)は、抗コリン剤に分類される外用薬で、神経からの発汗指令をブロックすることで過剰な汗を抑えます。これらは1日1回の塗布で効果が期待でき、ガイドラインでは外用療法の第一選択として位置づけられています。

ボトックス注射(ボツリヌス毒素注射)

ボトックス注射は、ボツリヌス毒素を脇の皮下に注射することで、汗腺への神経伝達を一時的にブロックし、発汗を抑制する治療法です。重度の原発性腋窩多汗症に対しては保険適用が認められています。施術時間は30分程度と短く、日常生活への制限も少ないため、手軽に受けられる治療法として人気があります。ただし、効果の持続期間は4〜6か月程度であり、継続的な治療が必要となります。また、ワキガの匂いの原因であるアポクリン汗腺への効果は限定的であるため、主に多汗症状の改善を目的とした治療となります。

剪除法(皮弁法)

剪除法(せんじょほう)は、ワキガ治療の中で最も効果が高いとされる手術法であり、保険適用が認められています。脇のしわに沿って2〜5cm程度切開し、皮膚を裏返してアポクリン汗腺を一つ一つ目視しながら直接切除していきます。直視下でアポクリン汗腺を確認しながら除去するため、取り残しが少なく、根治が期待できます。手術は局所麻酔下で行われ、片側45分〜90分程度です。保険適用の場合、3割負担で両脇約5万円程度の費用となります。ただし、術後は圧迫固定が必要であり、2〜4週間程度の安静期間が必要です。また、傷跡が残ることや、まれに血腫形成などの合併症が起こる可能性があることに留意が必要です。

ミラドライ

ミラドライは、マイクロ波を照射することで汗腺を破壊する治療法です。切開を行わない「切らない治療」であるため、傷跡が残らず、ダウンタイムも短いのが特徴です。破壊された汗腺は再生しないため、半永久的な効果が期待できます。ただし、保険適用外の自由診療となり、費用は20万円〜45万円程度と高額です。また、施術者の技術によって効果に差が出る可能性があるため、経験豊富な医療機関で受けることが重要です。なお、ミラドライは原発性腋窩多汗症に対する治療機器として国内で薬事承認を取得していますが、腋臭症(ワキガ)への保険適用はありません。

その他の治療法

上記以外にも、ビューホット(高周波治療)、超音波治療、レーザー治療などの選択肢があります。これらは切開を伴わない治療法であり、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。また、重症で保存的治療に抵抗性の場合には、交感神経遮断術が検討されることもありますが、代償性発汗などの副作用があるため、十分なインフォームドコンセントのもとで行われます。

どの治療法が適しているかは、症状の程度、ライフスタイル、費用、ダウンタイムの許容度など、さまざまな要因によって異なります。まずは皮膚科や形成外科などの専門医を受診し、適切な診断を受けた上で、ご自身に合った治療法を選択することが重要です。

ワキガは自分で気づくことができますか?

ワキガは自分で気づきにくいことが特徴です。人間の嗅覚には順応性があり、自分の体臭には鈍感になりがちです。長期間にわたってワキガの匂いにさらされ続けると、嗅覚がその匂いに慣れてしまい、感じにくくなります。そのため、家族やパートナーなど親しい方からの指摘で初めて気づくケースも多いです。セルフチェックとしては、耳垢が湿っているかどうか、衣類の脇部分が黄ばみやすいかどうか、家族にワキガの方がいるかどうかなどを確認することで、ワキガ体質かどうかの目安を得ることができます。

ワキガは人にうつりますか?

ワキガは人にうつることはありません。ワキガはウイルスや細菌性の感染症ではなく、遺伝的な体質によるものです。アポクリン汗腺の数や働きは生まれつき決まっており、近くにワキガの方がいても、それが原因でワキガになることはありません。また、突然体質が変わってワキガになるということも基本的にはありません。思春期にワキガの症状が現れるのは、もともと持っていたアポクリン汗腺がホルモンの影響で活発に働くようになるためです。

ワキガは自然に治ることはありますか?

ワキガ体質そのものが自然に完治することは基本的にありません。アポクリン汗腺の数は生まれつき決まっており、加齢とともに減少することはないためです。ただし、年齢によって匂いの強さやタイプが変化することがあります。研究によると、ワキの匂いの強度は10代から20代で最も高く、30歳代以降は減少する傾向が見られます。これは加齢による基礎代謝の低下や、分泌成分の変化によるものと考えられています。また、適切なセルフケアや生活習慣の改善によって、匂いを軽減することは可能です。根本的な治療を希望される場合は、医療機関での治療を検討してください。

ワキガの治療は保険適用になりますか?

ワキガ(腋臭症)の治療で保険適用が認められているのは、手術療法の「剪除法(皮弁法)」です。ただし、保険適用となるためには医師による診断が必要であり、「悪臭が著しく他人の就業に支障を生じる事実が明確で、客観的に見て医療に委ねる必要がある」と認められることが条件となります。軽度のワキガ症状では保険適用とならない場合があります。また、重度の原発性腋窩多汗症に対するボトックス注射も保険適用となります。一方、ミラドライやその他の切らない治療法は基本的に自由診療(保険適用外)となります。

ワキガと多汗症の違いは何ですか?

ワキガ(腋臭症)と多汗症は異なる症状です。ワキガはアポクリン汗腺から分泌される汗が原因で特有の匂いが発生する状態を指します。一方、多汗症は体温調節に必要な量を大きく上回る過剰な発汗が見られる状態で、主にエクリン汗腺からの汗が原因です。エクリン汗腺からの汗は99%が水分であるため、匂いそのものの原因にはなりにくいです。ただし、両者が併存することもあります。多汗により脇が常に湿った状態になると細菌が繁殖しやすくなり、ワキガの匂いが強くなる可能性があります。治療法もそれぞれ異なりますので、症状に応じた適切な治療を受けることが重要です。

子どものワキガはいつ頃から症状が出ますか?

ワキガの症状は、多くの場合、第二次性徴期である思春期(10〜15歳頃)から現れ始めます。アポクリン汗腺は性ホルモンの影響を受けて発達する組織であり、思春期にホルモンバランスが変化することで活動が活発になります。女性の場合は初潮の頃から症状が顕在化することが多いです。早い場合は小学生くらいから発症する例もあります。子どものワキガは、友人関係に影響が出たり、学業に集中できなくなったりするなど、日常生活に支障をきたすことがありますので、気になる症状がある場合は早めに医療機関で相談することをおすすめします。

まとめ

ワキガ(腋臭症)は、アポクリン汗腺から分泌される汗が皮膚常在菌によって分解されることで発生する特有の体臭です。その匂いは一種類ではなく、「ミルクタイプ」「酸臭タイプ」「カレースパイスタイプ」「カビタイプ」「蒸し肉タイプ」「生乾きタイプ」「鉄臭タイプ」の7つに分類されることが研究によって明らかになっています。中でも、カレースパイスタイプや酸臭タイプは匂いの強度が高く、いわゆる「ワキガ臭」として認識されやすい傾向があります。

ワキガの匂いの強さには、遺伝的要因、ホルモンバランス、食生活、ストレス、年齢などさまざまな要因が影響します。自分がワキガ体質かどうかは、耳垢のタイプ、衣類の黄ばみ、家族歴などをチェックすることである程度判断できますが、正確な診断は医療機関で行う必要があります。

日常的なセルフケアとしては、こまめに汗を拭く、デオドラント製品を正しく使用する、脇毛の処理を行う、衣類の素材や洗濯に気を配る、食生活を見直すなどの方法が有効です。セルフケアで十分な効果が得られない場合は、外用薬治療、ボトックス注射、剪除法(手術)、ミラドライなどの医療機関での治療を検討することができます。

ワキガは病気ではなく体質の一つですが、社会生活や対人関係に影響を与えることがあるため、悩んでいる方は一人で抱え込まず、専門医に相談することをおすすめします。アイシークリニック渋谷院では、ワキガや多汗症でお悩みの方に対して、丁寧なカウンセリングと適切な治療をご提案しております。お気軽にご相談ください。


参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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