ワキガ・多汗症

【医師監修】ワキガ対策完全ガイド|原因・セルフケア・治療法を徹底解説

「自分のワキの臭いが気になる」「周囲の人に不快な思いをさせていないか心配」――そんなお悩みを抱えている方は少なくありません。ワキガ(腋臭症)は、アポクリン汗腺から分泌される汗が皮膚の常在菌によって分解されることで発生する独特の臭いが特徴で、日本人の約10%が該当するといわれています。遺伝的な要因が大きいとされるワキガですが、適切なセルフケアや生活習慣の改善によって臭いを軽減することは十分に可能です。また、セルフケアだけでは改善が難しい場合には、医療機関での専門的な治療によって根本的な解決を目指すこともできます。本記事では、ワキガの原因から日常生活でできる対策、さらには医療機関で受けられる治療法まで、形成外科・皮膚科の専門家の監修のもと詳しく解説します。ワキガでお悩みの方が、自分に合った対策を見つけ、快適な毎日を取り戻すための参考になれば幸いです。


目次

  1. ワキガ(腋臭症)とは?基本的な知識を理解しよう
  2. ワキガの原因とメカニズム
  3. ワキガ体質のセルフチェック方法
  4. 今日からできるワキガ対策:日常生活編
  5. 制汗剤・デオドラント製品の選び方と正しい使い方
  6. 食生活でワキガ臭を軽減する方法
  7. 医療機関で受けられるワキガ治療法
  8. ワキガ治療の費用と保険適用について
  9. よくある質問
  10. まとめ

1. ワキガ(腋臭症)とは?基本的な知識を理解しよう

ワキガとは、脇の下から独特の強い臭いが発生する体質のことで、医学的には「腋臭症(えきしゅうしょう)」と呼ばれています。この臭いは、単なる汗の臭いとは異なり、スパイシーな刺激臭や硫黄のような臭いと表現されることがあります。

人間の体には、汗を分泌する汗腺として「エクリン汗腺」と「アポクリン汗腺」の2種類が存在します。エクリン汗腺は全身に分布しており、体温調節のために水分を主成分とするサラサラした汗を分泌します。この汗は約99%が水分で構成されているため、基本的に無臭です。一方、アポクリン汗腺は脇の下や耳の中、乳輪、陰部など体の特定の部位に集中して存在し、タンパク質や脂質、糖質、アンモニアなどの成分を含む粘り気のある汗を分泌します。

ワキガの臭いは、このアポクリン汗腺から分泌された汗が皮膚の表面に存在する常在菌によって分解されることで発生します。つまり、汗そのものが臭うわけではなく、「汗+細菌」の組み合わせによって独特の臭いが生まれるのです。また、アポクリン汗腺からは、衣類に付着する「黄ばみ」の原因物質であるリポフスチンという色素も分泌されるため、ワキガ体質の方はシャツの脇部分が黄ばみやすいという特徴があります。

ワキガと多汗症の違い

ワキガと多汗症は混同されがちですが、原因となる汗腺が異なります。ワキガはアポクリン汗腺の発達によるもので、臭いが主な症状です。一方、多汗症は主にエクリン汗腺の発達によるもので、汗の量が過剰であることが主な症状です。エクリン汗腺から分泌される汗は基本的に無臭のため、多汗症だけでは強い臭いは発生しません。ただし、臨床の現場では、ワキガと多汗症の両方を併発しているケースも少なくありません。

2. ワキガの原因とメカニズム

ワキガの発症には複数の要因が関わっています。主な原因を詳しく見ていきましょう。

遺伝的要因

ワキガは遺伝的な要因が非常に大きいとされています。アポクリン汗腺の分泌物の質には、ABCC11遺伝子が関与することが明らかになっており、この遺伝子の型によってワキガ体質かどうかが決まります。ワキガは顕性(優性)遺伝の傾向があり、両親のどちらかがワキガ体質である場合、子どもにも高い確率で遺伝します。片親がワキガの場合は約50%、両親ともにワキガの場合は約75%以上の確率で子どもに遺伝するといわれています。日本人のワキガ体質の割合は約10%程度ですが、欧米人やアフリカ系の人々ではほとんどの人に多少のワキガがあるとされています。

アポクリン汗腺の数と大きさ

ワキガ体質の方は、生まれつきアポクリン汗腺の数が多く、一つ一つの腺が大きく発達している傾向があります。アポクリン汗腺の数は生まれたときから決まっており、成長後に増減することはありません。汗腺の数が多く、働きが活発な人ほど、分泌される汗の量が多くなり、結果として臭いが強くなります。

性ホルモンの影響

アポクリン汗腺は性ホルモンの影響を強く受けます。思春期を迎えると性ホルモンの分泌が活発になり、アポクリン汗腺が発達するため、ワキガの症状が顕在化することが多いです。男性では中学生から高校生頃、女性では小学校高学年から中学生頃に発症するケースが多く見られます。また、妊娠・出産期や更年期など、ホルモンバランスが大きく変動する時期にワキガの臭いが強まることもあります。

皮膚常在菌の働き

ワキガの臭いのもとは、アポクリン汗腺から分泌された汗に含まれる脂肪酸が、皮膚の表面に存在する常在菌によって分解されることで生成されます。日本皮膚科学会によると、この分解過程で「3メチル2へキセノイン酸」という物質が生成され、これがワキガ特有の臭いを発します。皮膚常在菌の種類やバランスも個人によって異なるため、同じ量の汗をかいても臭いの強さに差が生まれます。

生活習慣・食生活の影響

遺伝的にワキガ体質であっても、必ずしも強い臭いが出るわけではありません。生活習慣や食生活によって、臭いの強さは変化します。動物性脂肪やタンパク質を多く含む食事、過度なストレス、睡眠不足、喫煙や過度の飲酒などは、アポクリン汗腺の活動を活発にし、ワキガ臭を悪化させる要因となります。

3. ワキガ体質のセルフチェック方法

自分がワキガ体質かどうか気になる方は、以下のセルフチェック項目を確認してみてください。複数の項目に当てはまる場合は、ワキガ体質である可能性が考えられます。

耳垢が湿っている(アメ耳)

アポクリン汗腺は耳の中にも存在しています。ワキガ体質の方は耳の中のアポクリン汗腺も発達しているため、耳垢が湿っていて粘り気がある(いわゆる「アメ耳」「湿性耳垢」)傾向があります。日本医科大学武蔵小杉病院の報告によると、湿性耳垢の人の約8割がワキガ体質を持っているとされています。

衣類の脇部分が黄ばみやすい

アポクリン汗腺からはリポフスチンという黄褐色の色素が分泌されます。そのため、ワキガ体質の方は白いシャツやTシャツの脇部分に黄色いシミができやすいという特徴があります。洗濯しても落ちにくい黄ばみが頻繁にできる場合は、ワキガの可能性があります。

両親のどちらかがワキガ体質

ワキガは遺伝の影響が大きいため、両親のどちらか、または両方がワキガ体質である場合、自分もワキガ体質である可能性が高くなります。家族にワキガの方がいる場合は、注意が必要です。

脇汗の量が多い

脇の下に多量の汗をかきやすい方は、アポクリン汗腺が活発に働いている可能性があります。汗の量が多いと、細菌が繁殖しやすい環境が生まれ、臭いが強くなりやすくなります。

脇毛が濃い・多い

アポクリン汗腺は毛穴とつながっているため、脇毛が濃い人はアポクリン汗腺の数も多い傾向があります。また、脇毛には汗や細菌が付着しやすく、臭いを発生させやすい環境を作りやすいという側面もあります。

脇毛に白い粉がつくことがある

アポクリン汗腺から分泌された汗の成分が結晶化すると、脇毛に白い粉のようなものが付着することがあります。これもワキガ体質の特徴の一つです。

これらのセルフチェック項目はあくまでも目安です。自覚症状と実際の臭いの強さに差があることも多いため、気になる場合は専門医に相談することをおすすめします。

4. 今日からできるワキガ対策:日常生活編

ワキガは体質的な要因が大きいですが、日常生活での工夫によって臭いを軽減することは十分に可能です。ここでは、今日からすぐに実践できる対策を紹介します。

脇を清潔に保つ

ワキガの臭いは、汗と皮膚常在菌の組み合わせによって発生します。したがって、脇を清潔な状態に保つことが最も基本的かつ重要な対策です。毎日のシャワーや入浴はもちろん、汗をかいたらこまめに拭き取る習慣をつけましょう。ウェットティッシュや汗拭きシートを携帯しておくと、外出先でもケアができて便利です。特に夏場や運動後など汗をかきやすい状況では、放置せずすぐに汗を拭き取ることで、細菌の繁殖を防ぎ、臭いの発生を抑えることができます。

脇毛の処理をする

脇毛には汗や細菌が付着しやすく、臭いを発生させやすい環境を作ります。脇毛を処理することで、脇の下の蒸れや細菌の繁殖を抑え、臭いの軽減につながります。剃毛や脱毛によってアポクリン汗腺自体が減るわけではありませんが、脇を衛生的に保つ効果は期待できます。

通気性の良い衣類を選ぶ

化学繊維(ポリエステルなど)の衣類は、綿や麻などの天然素材に比べて吸水性や通気性が劣ることがあり、汗が蒸発しにくく脇の下に滞留しやすくなります。これが細菌の繁殖を促進し、臭いが強くなる原因になります。綿や麻などの通気性・吸湿性に優れた素材の衣類を選ぶことで、汗の蒸発を促し、臭いを軽減することができます。また、汗をかいた衣類はこまめに着替えることも大切です。

脇汗パッドを活用する

脇汗パッドは、衣類に汗が染み込むのを防ぎ、臭いの拡散を抑える効果があります。使い捨てタイプや洗って繰り返し使えるタイプなど、さまざまな種類があるので、自分の生活スタイルに合ったものを選びましょう。脇汗の量が多い方や、外出時間が長い方には特におすすめです。

ストレスを溜めない

ストレスや緊張は、アポクリン汗腺を刺激して汗の分泌を促進します。日頃からストレス解消を心がけ、十分な睡眠をとることが大切です。適度な運動やリラクゼーション法を取り入れ、心身のバランスを整えることで、汗の分泌を抑える効果が期待できます。

適度に汗をかく習慣をつける

普段から汗をかく習慣がないと、汗腺の機能が低下し、いざ汗をかいたときに濃度の高い汗が出やすくなります。定期的な運動や入浴で適度に汗をかくことで、汗腺を鍛え、サラサラとした質の良い汗をかけるようになります。これにより、臭いの軽減につながることがあります。

5. 制汗剤・デオドラント製品の選び方と正しい使い方

制汗剤やデオドラント製品は、ワキガ対策として手軽に取り入れられるアイテムです。ただし、製品の選び方や使い方によって効果が大きく変わるため、正しい知識を身につけることが大切です。

制汗剤とデオドラントの違い

制汗剤とデオドラント製品は混同されがちですが、本来は異なる目的の製品です。制汗剤は、汗腺の開口部を一時的に塞ぐことで汗の分泌そのものを抑制するもので、汗をかく前に使用することで効果を発揮します。一方、デオドラント製品は、臭いの原因となる細菌の繁殖を抑えたり、発生した臭いを消臭したりするもので、汗をかいた後に使用しても効果があります。ワキガ対策には、制汗作用と殺菌・消臭作用の両方を兼ね備えた製品を選ぶことがポイントです。

注目すべき有効成分

ワキガ対策に効果的な製品を選ぶ際は、配合されている成分に注目しましょう。

まず、制汗成分としては、クロルヒドロキシアルミニウム(ACH)や塩化アルミニウムが代表的です。これらは汗腺の開口部を収れん(引き締め)させ、物理的に汗の分泌を抑える働きがあります。クロルヒドロキシアルミニウムは多くの市販制汗剤に配合されており、パラフェノールスルホン酸亜鉛なども制汗効果のある成分として知られています。

次に、殺菌成分としては、イソプロピルメチルフェノールやベンザルコニウム塩化物が代表的です。これらは臭いの原因となる皮膚常在菌を殺菌し、臭いの発生を抑えます。強力な抗菌性を持つため、長時間にわたる効果が期待できます。

また、消臭成分としては、ミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、緑茶エキスなどがあります。これらは発生した臭いを吸着・中和する働きがあります。

製品を選ぶ際は、パッケージに「殺菌」「制汗」「消臭」などの表示があるかを確認しましょう。また、「医薬部外品」と表示されている製品は、厚生労働省が認めた有効成分が一定の濃度で配合されているため、一般的な化粧品よりも高い効果が期待できます。

製品タイプの選び方

制汗剤・デオドラント製品には、スプレー、ロールオン、スティック、クリーム、ウォーターなど、さまざまなタイプがあります。それぞれの特徴を理解し、自分のライフスタイルに合ったものを選びましょう。

スプレータイプは広範囲に素早く塗布できますが、有効成分の密着度はやや低めです。軽度のワキガや、制汗剤初心者の方におすすめです。ロールオンタイプは液体をボールで転がして塗布するもので、手を汚さずに直接肌に塗れ、持ち歩きにも便利です。外出先でのケアに適しています。スティックタイプは固形の製品を直接肌に塗るもので、密着度が高く、持続性に優れています。クリームタイプは最も密着度が高く、有効成分が肌にしっかり留まるため、ワキガの臭いが強い方に特におすすめです。ウォータープルーフ処方のものを選べば、汗や水に強く、長時間効果が持続します。

正しい使い方のポイント

制汗剤・デオドラント製品の効果を最大限に発揮するには、正しい使い方が重要です。最も大切なのは、清潔な肌に塗布することです。汗をかいた状態や、すでに臭いが発生している状態で使用しても、十分な効果は得られません。入浴後や、汗を拭き取った後の清潔な肌に塗布しましょう。

また、塗布するタイミングも重要です。朝の外出前だけでなく、夜の入浴後に塗布することで、翌日の汗や臭いを効果的に抑えられます。これは、夜間は汗の分泌が少なく、有効成分が肌にしっかり浸透しやすいためです。

汗のニオイが気になる方は、香り付きの製品よりも無香料タイプを選ぶことをおすすめします。香料と汗の臭いが混ざると、かえって不快な臭いになることがあるためです。

なお、制汗剤やデオドラント製品は、あくまでも一時的に臭いを抑えるものであり、ワキガを根本的に治すものではありません。症状が強い場合や、セルフケアで改善が見られない場合は、医療機関での治療を検討することをおすすめします。

6. 食生活でワキガ臭を軽減する方法

ワキガは遺伝的な体質によるところが大きいですが、食生活の改善によって臭いを軽減できる可能性があります。食べ物だけでワキガを完全に治すことはできませんが、アポクリン汗腺から分泌される汗の成分は食事の影響を受けるため、日々の食事を見直すことで臭いを抑える効果が期待できます。

避けたい食べ物

動物性脂肪やタンパク質を多く含む食品は、アポクリン汗腺を刺激し、汗に含まれる臭いのもとになる成分を増やす可能性があります。肉類(特に脂身の多い部位)、バター、チーズなどの乳製品、ラードなどの動物性油脂、揚げ物、ファーストフード、スナック菓子などは、過剰摂取を避けることが望ましいでしょう。

また、ニンニク、ニラ、ネギ、カレーなどの香辛料を多く含む食品は、体内で代謝された後に汗や体臭として排出されることがあり、一時的に臭いを強める可能性があります。

アルコールやタバコに含まれるアルコールやニコチンには、汗腺を刺激する作用があります。飲酒や喫煙は、アポクリン汗腺の活動を活発にし、ワキガ臭を悪化させる要因となるため、控えめにすることをおすすめします。

積極的に摂りたい食べ物

健康な人の体液は弱アルカリ性に保たれていますが、動物性食品の過剰摂取や生活習慣の乱れによって体液が酸性に傾くと、体臭が悪化しやすくなるといわれています。アルカリ性食品を積極的に摂ることで、体内のバランスを整え、臭いを軽減する効果が期待できます。

アルカリ性食品の代表例としては、梅干し、海藻類(わかめ、昆布など)、緑黄色野菜(ほうれん草、にんじん、キャベツ、かぼちゃなど)、きのこ類(特にしいたけ)、大豆・大豆製品、果物(バナナ、グレープフルーツなど)が挙げられます。

また、抗酸化作用のあるビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを含む食品も、体臭抑制に効果があるとされています。緑茶やほうじ茶に含まれるカテキン、りんごやぶどうに含まれるポリフェノール、緑黄色野菜に含まれるβカロチンなどを意識して摂取しましょう。

食物繊維を多く含む食品は、腸内環境を整え、体内の老廃物の排出を促す効果があります。腸内環境が乱れると、体臭が悪化することもあるため、野菜や海藻、玄米などを積極的に摂りましょう。

和食中心の食生活がおすすめ

日本人は古来より野菜や魚を中心とした和食を食べてきたため、世界的に見るとアポクリン汗腺が退化傾向にあり、ワキガの割合が比較的少ない民族です。しかし近年は食生活の欧米化により、肉類を中心とした食事を摂る人が増え、ワキガで悩む方も増えているといわれています。

ワキガが気になる方は、和食を中心とした食生活に切り替えることをおすすめします。動物性タンパク質を摂る場合は、肉よりも魚を選び、大豆製品からタンパク質を補うのも良い方法です。調理に使う油も、動物性油脂ではなく、オリーブオイルやごま油などの植物性油脂を選びましょう。

ただし、極端な食事制限はストレスになり、かえって逆効果になることもあります。バランスの良い食事を心がけながら、無理のない範囲で継続することが大切です。

7. 医療機関で受けられるワキガ治療法

セルフケアだけでは臭いの改善が難しい場合や、根本的な解決を目指したい場合は、医療機関での専門的な治療を検討することをおすすめします。ここでは、代表的なワキガ治療法を紹介します。

外用薬による治療

医療機関では、市販品よりも高濃度の塩化アルミニウム液を処方してもらうことができます。塩化アルミニウムは汗腺の開口部を塞ぐことで発汗を抑制する効果があり、毎日塗布する必要はなく、2~3日使用して効果が出れば1~2週間は休薬できます。ただし、ワキガを根本的に治すものではなく、あくまでも汗を抑える対症療法です。

また、2020年には原発性腋窩多汗症に対して、エクロックゲルやラピフォートワイプなどの抗コリン外用薬が保険適用で処方できるようになりました。これらは本来は多汗症治療薬ですが、汗の分泌を抑えることで間接的にワキガ臭の軽減にも寄与する場合があります。

ボトックス注射(ボツリヌストキシン注射)

ボトックス注射は、ボツリヌス菌が産生する毒素を精製した製剤を脇の下に注射する治療法です。この毒素には、神経伝達物質の働きを抑制する作用があり、汗腺の活動を抑えることで発汗量を減らします。施術時間は両脇で約5分程度と短く、傷跡も残りません。

ボトックス注射のメリットは、手軽さとダウンタイムの少なさです。注射後2~3日から効果が現れ始め、約4~6ヶ月間効果が持続します。ただし、効果は一時的で定期的な再注射が必要であり、汗腺そのものを破壊するわけではないため、根本的な治療にはなりません。また、重度の原発性腋窩多汗症に対しては保険適用となる場合もありますが、多くの場合は自費診療となります。

ミラドライ

ミラドライは、マイクロ波を用いて皮膚を切開せずにアポクリン汗腺やエクリン汗腺を破壊する治療法です。アメリカFDA(食品医薬品局)の承認を受けた医療機器で、日本でも多くの医療機関で採用されています。

ミラドライの最大のメリットは、皮膚を切開しないため傷跡が残らず、ダウンタイムが短いことです。施術時間は両脇で約1時間程度で、翌日から日常生活に戻ることができます。また、一度破壊された汗腺は再生しないため、半永久的な効果が期待できます。研究によると、治療1年後でも81.7%の発汗減少が継続していたとの報告があります。

デメリットとしては、保険適用外のため費用が高額になること(一般的に20~45万円程度)、施術後に一時的な腫れや痛み、内出血が生じる場合があることが挙げられます。また、症状が重度の場合は2回の治療が必要になるケースもあります。

剪除法(皮弁法)による手術

剪除法(せんじょほう)は、脇の下の皮膚を切開し、医師が目で確認しながらアポクリン汗腺を直接切除する手術法です。保険適用が可能な唯一の手術法であり、最も確実にアポクリン汗腺を除去できる方法とされています。

手術では、脇の下のしわに沿って3~5cm程度切開し、皮膚を裏返して粒状に並んだアポクリン汗腺を一つ一つ確認しながら切除します。手術時間は左右合わせて約90分程度で、アポクリン汗腺の70~90%程度を除去することができます。

メリットは、保険適用により費用を抑えられること(3割負担で約4~5万円程度)と、臭いに対する長期的な効果が期待できることです。また、手術時にアポクリン汗腺を除去する際に毛根も一緒に取り除かれるため、脇毛が減少する効果もあります。

デメリットとしては、傷跡が残る可能性があること、術後の圧迫や安静期間が必要で日常生活に支障が出ること(約2週間の安静が必要)、通常は片脇ずつの手術となるため両脇の治療には2回の手術が必要となることなどが挙げられます。

治療法の選び方

ワキガ治療にはさまざまな選択肢があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。自分に合った治療法を選ぶためには、症状の程度、予算、ダウンタイムの許容度、効果の持続期間などを総合的に考慮することが大切です。

軽度のワキガで一時的な効果でよい方にはボトックス注射、傷跡を残したくない方や仕事の都合でダウンタイムを取りにくい方にはミラドライ、費用を抑えつつ根本的な治療を希望する方には保険適用の剪除法がそれぞれ適しています。

いずれの治療を選択するにしても、まずは専門医のカウンセリングを受け、自分の症状や希望に合った治療法を相談することをおすすめします。

8. ワキガ治療の費用と保険適用について

ワキガ治療を検討する際に気になるのが費用の問題です。ここでは、各治療法の費用相場と保険適用の条件について解説します。

保険適用となる条件

ワキガ治療で健康保険が適用されるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。まず、日常生活に支障をきたすほどの強い臭いがあり、医師によって「腋臭症」と診断されることが必要です。単に「臭いが気になる」という美容目的では保険適用は認められず、医師がワキガによる社会生活上の問題(仕事や人間関係への影響など)を認めた場合に保険適用となります。

保険適用となる治療法は、現時点では剪除法(皮弁法)による手術のみです。ミラドライやボトックス注射などは原則として自費診療となります。ただし、ボトックス注射については、「重度の原発性腋窩多汗症」と診断された場合に限り保険適用となることがあります。

各治療法の費用相場

保険適用の剪除法手術の場合、3割負担で両脇約4~5万円程度です(術前の血液検査や術後の通院費は別途必要)。保険適用外で行う場合は、クリニックによって異なりますが20~40万円程度となることが多いです。

ボトックス注射は、クリニックや使用する製剤の量によって異なりますが、一般的に2.8~7.7万円程度です。効果は4~6ヶ月程度のため、年に2~3回の施術が必要となります。

ミラドライは、クリニックによって幅がありますが、11~45万円程度が相場です。基本的に1回の治療で効果が期待できますが、重度の場合は2回の施術が推奨されることもあります。

外用薬(塩化アルミニウム液など)は、保険適用外のため自費となりますが、比較的安価で数千円程度で処方してもらえることが多いです。

治療法選択のポイント

費用だけでなく、効果の持続期間や副作用、ダウンタイムなども考慮して治療法を選ぶことが大切です。費用を抑えたい方は保険適用の剪除法手術を、傷跡やダウンタイムを避けたい方はミラドライを、まずは手軽に試してみたい方はボトックス注射をといったように、自分の優先順位に合わせて選択しましょう。

多くのクリニックでは無料カウンセリングを実施しているため、複数のクリニックで相談し、自分に合った治療法と信頼できる医師を見つけることをおすすめします。

9. よくある質問

ワキガは自然に治ることはありますか?

ワキガは遺伝的な体質によるものであり、自然に治ることは基本的にありません。ただし、加齢とともにホルモンの分泌が減少すると、アポクリン汗腺の活動が低下し、臭いが軽減することはあります。また、生活習慣の改善やセルフケアによって臭いを抑えることは可能です。根本的な改善を目指す場合は、医療機関での治療を検討することをおすすめします。

ワキガは他人にうつりますか?

ワキガは感染症ではないため、他人にうつることはありません。ワキガ体質は遺伝によって親から子に受け継がれるものであり、風邪のように接触や空気感染で伝染することはありません。もし急にワキの臭いが気になるようになった場合は、もともと持っていたワキガ体質が何らかの要因(ホルモンバランスの変化、生活習慣の乱れなど)で顕在化した可能性や、一時的に衣類に臭いが移った可能性などが考えられます。

子どものワキガは治療できますか?

子どものワキガ治療は可能ですが、治療法の選択には注意が必要です。ワキガは思春期にアポクリン汗腺が発達することで症状が現れ始めるため、アポクリン汗腺が十分に発達していない年齢で手術を行うと、成長とともに再発する可能性があります。一般的に、剪除法などの外科的治療は、アポクリン汗腺が十分に発達した年齢(女性は14歳以上、男性は16歳以上)以降に行うことが推奨されています。それ以前の年齢では、制汗剤の使用や生活習慣の改善などのセルフケアを中心に対処し、必要に応じて医師に相談しましょう。

ワキガ手術をしても再発することはありますか?

ワキガ手術後に再発する可能性はゼロではありません。剪除法などの手術ではアポクリン汗腺の70~90%程度を除去できますが、残りの汗腺から若干の臭いが出る可能性があります。一般的に再発率は5~20%程度とされており、残存したアポクリン汗腺が活性化したり、加齢や体質変化によって臭いの質が変わったりすることが原因です。ミラドライなどの非外科的治療の場合は、手術よりも再発の可能性が高いとされています。いずれの治療法でも、治療後のセルフケアを継続することで効果を長持ちさせることができます。

脇脱毛をするとワキガは改善しますか?

脇脱毛だけでワキガが根本的に治ることはありませんが、臭いを軽減する効果は期待できます。脇毛には汗や細菌が付着しやすく、脇の下の蒸れを促進して臭いを発生しやすい環境を作ります。脇毛を処理することで、これらの要因を軽減し、衛生的な状態を保ちやすくなります。ただし、脱毛によってアポクリン汗腺自体が減るわけではないため、ワキガの根本的な治療にはなりません。脱毛は、セルフケアの一環として取り入れることをおすすめします。

ワキガの臭いは季節によって変わりますか?

ワキガの臭いは季節によって変化することがあります。一般的に、気温が高く汗をかきやすい夏場は、汗の分泌量が増え、細菌も繁殖しやすくなるため、臭いが強くなる傾向があります。また、湿度が高いと汗が蒸発しにくく、脇の下が蒸れやすくなることも臭いを悪化させる要因となります。一方、冬場でも暖房の効いた室内や、厚着による蒸れなどで汗をかく機会は多く、油断はできません。季節を問わず、日頃からのセルフケアを心がけることが大切です。

制汗剤を使いすぎるとワキガになりますか?

制汗剤の使用がワキガの直接的な原因になることはありません。ワキガは遺伝的な体質によるものであり、制汗剤の使用で発症するわけではありません。ただし、制汗剤の過剰使用は毛穴が詰まりやすくなり、皮膚トラブルを引き起こす可能性があります。また、過度な使用によって汗腺の正常な機能が妨げられ、体の他の部位からの発汗が増える可能性も指摘されています。制汗剤は適切な使用量・頻度を守って使用し、肌に異常を感じた場合は使用を中止して医師に相談しましょう。

10. まとめ

ワキガ(腋臭症)は、アポクリン汗腺から分泌される汗が皮膚の常在菌によって分解されることで発生する体臭です。日本人の約10%がワキガ体質といわれており、遺伝的な要因が大きく影響します。

ワキガは体質的なものですが、日常生活での工夫によって臭いを軽減することは十分に可能です。脇を清潔に保つこと、通気性の良い衣類を選ぶこと、制汗剤・デオドラント製品を正しく使用すること、バランスの良い食生活を心がけることなど、セルフケアを継続することで臭いを抑える効果が期待できます。

セルフケアだけでは改善が難しい場合や、根本的な解決を目指したい場合は、医療機関での専門的な治療を検討しましょう。ボトックス注射、ミラドライ、剪除法(皮弁法)など、症状の程度や希望に応じたさまざまな治療法があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、専門医のカウンセリングを受けて、自分に合った治療法を選択することが大切です。

ワキガの悩みは一人で抱え込まず、専門家に相談することで解決の糸口が見つかります。アイシークリニック渋谷院では、ワキガ・多汗症に関する無料カウンセリングを実施しております。お悩みの方は、お気軽にご相談ください。


参考文献

※本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療を行うものではありません。具体的な症状や治療については、必ず医師にご相談ください。

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
電話予約
0120-335-661
1分で入力完了
簡単Web予約