ワキガ・多汗症

ワキガの原因とは?アポクリン汗腺・遺伝・生活習慣との関係を医師が解説

「自分からワキガの臭いがしているのではないか」「周囲の人に不快な思いをさせていないだろうか」――このような悩みを抱えている方は少なくありません。ワキガは医学的には腋臭症(えきしゅうしょう)と呼ばれ、わきの下から特有の強いにおいを発する状態を指します。日本人の約10%がワキガ体質であるとされており、決して珍しい症状ではありません。しかし、日本ではにおいに対する社会的な許容度が欧米に比べて低い傾向があり、ワキガに悩む方の精神的な負担は大きいものがあります。本記事では、ワキガの原因について医学的な観点から詳しく解説するとともに、発症のメカニズムや悪化させる要因、そして日常生活で気をつけるべきポイントまで、包括的にお伝えします。ワキガの原因を正しく理解することで、適切な対策や治療法を選択するための第一歩を踏み出しましょう。


目次

  1. ワキガ(腋臭症)とは何か
  2. ワキガの直接的な原因:アポクリン汗腺の働き
  3. エクリン汗腺との違いを理解する
  4. ワキガの臭いが発生するメカニズム
  5. 遺伝とワキガの深い関係
  6. ABCC11遺伝子とワキガの関連性
  7. 耳垢のタイプとワキガの関係
  8. ワキガが発症する時期
  9. ワキガを悪化させる生活習慣と食事
  10. ストレスとホルモンバランスの影響
  11. ワキガのセルフチェック方法
  12. ワキガの診断と治療の選択肢
  13. 日常生活でできるワキガ対策
  14. よくある質問
  15. まとめ

ワキガ(腋臭症)とは何か

ワキガとは、わきの下から特有の強いにおいを発する状態のことで、医学用語では「腋臭症(えきしゅうしょう)」や「アポクリン臭汗症」とも呼ばれます。この名称は、においの発生源となる汗腺がわきの下に多く存在することに由来しています。ワキガのにおいは、一般的な汗臭さとは異なり、玉ねぎやネギのようなにおい、鉛筆の芯のようなにおい、スパイシーなにおい、古い洗濯物のようなにおいなど、さまざまな表現で形容されます。においの種類や強さには個人差があり、同じワキガ体質であっても、その日の体調や食事内容、精神状態によって変化することがあります。

ワキガは病気というよりも「体質」として捉えられることが多く、生命に直接関わるものではありません。しかし、においによって対人関係や社会生活に支障をきたすケースも少なくなく、厚生労働省においても疾患として認められています。そのため、医師によりワキガと診断された場合には、保険適用での治療を受けることが可能です。ワキガに悩んでいる方は、一人で抱え込まず、専門の医療機関に相談することをお勧めします。

ワキガの直接的な原因:アポクリン汗腺の働き

ワキガの臭いの直接的な原因は、「アポクリン汗腺」から分泌される汗にあります。人間の体には汗を分泌する器官として2種類の汗腺が存在しており、アポクリン汗腺はそのうちの一つです。アポクリン汗腺は、わきの下、耳の中(外耳道)、乳輪、へそ周辺、陰部、肛門周辺など、体の特定の部位にのみ分布しています。特にわきの下には多くのアポクリン汗腺が集中しており、これがワキガという名称の由来となっています。

アポクリン汗腺から分泌される汗は、エクリン汗腺から出る汗とは成分が大きく異なります。アポクリン汗腺の汗には、タンパク質、脂質、糖質、アンモニア、鉄分、色素(リポフスチン)など、さまざまな有機成分が豊富に含まれています。この汗は乳白色でやや粘り気があり、毛穴を通じて皮膚表面に分泌されます。重要なポイントとして、アポクリン汗腺から分泌された汗そのものには、ほとんどにおいがありません。ワキガ特有のにおいは、この汗が皮膚表面で細菌に分解されることで初めて発生するのです。

アポクリン汗腺は思春期になると性ホルモンの影響を受けて発達し始めます。このため、ワキガの症状が現れるのは多くの場合、思春期以降となります。アポクリン汗腺の数や大きさには個人差があり、ワキガ体質の方はそうでない方と比べてアポクリン汗腺の数が多く、一つひとつの汗腺も大きい傾向にあります。この汗腺の発達度合いが、ワキガになりやすいかどうかを決める重要な要因となっています。

エクリン汗腺との違いを理解する

ワキガの原因をより深く理解するためには、もう一つの汗腺である「エクリン汗腺」について知っておくことが重要です。エクリン汗腺は全身の皮膚に広く分布しており、その数は成人で200万から500万個にも及びます。エクリン汗腺の主な役割は体温調節であり、暑いときや運動をしたときに汗を分泌することで、汗が蒸発する際の気化熱によって体温を下げる働きをしています。

エクリン汗腺から分泌される汗は、その99%が水分で構成されており、残りの1%に塩分やアンモニアなどの成分がわずかに含まれています。この汗はサラサラとしていて無色透明であり、分泌された直後はほとんど無臭です。一般的に「汗をかいた」というときに私たちが認識している汗は、このエクリン汗腺からの分泌物です。エクリン汗腺からの汗は蒸発しやすいため、こまめに拭き取れば においはあまり気になりません。

ただし、エクリン汗腺からの汗も、ワキガのにおいと無関係というわけではありません。エクリン汗腺からの汗は、わきの下を湿った状態に保つことで細菌が繁殖しやすい環境を作り出します。また、汗が蒸発する際にワキガのにおい成分を一緒に拡散させる役割も果たしています。このため、汗の量が多い多汗症の方は、ワキガのにおいがより強く感じられる傾向があります。ワキガと多汗症は原因となる汗腺が異なりますが、両方を併発している場合には、においがより顕著になることがあるのです。

ワキガの臭いが発生するメカニズム

ワキガ特有のにおいが発生するメカニズムを詳しく見ていきましょう。前述のとおり、アポクリン汗腺から分泌された汗そのものには、ほとんどにおいがありません。においが発生するのは、アポクリン汗腺から分泌された汗が皮膚表面に到達し、そこに存在する「皮膚常在菌」によって分解されるときです。

皮膚の表面には、コリネバクテリウム属やブドウ球菌(特に表皮ブドウ球菌)などの細菌が常に存在しています。これらの細菌は、アポクリン汗腺から分泌された汗に含まれるタンパク質や脂質を分解する酵素を持っています。細菌がこれらの有機成分を分解すると、その過程で「3メチル2へキセノイン酸」などの揮発性脂肪酸が生成されます。この物質がワキガ特有のにおいの正体です。

つまり、ワキガのにおいが発生するためには、以下の3つの要素が揃う必要があります。第一に、アポクリン汗腺からタンパク質や脂質を含む汗が分泌されること。第二に、皮膚表面にこれらの成分を分解できる細菌が存在すること。第三に、汗によって皮膚が湿った状態になり、細菌が繁殖しやすい環境が整うことです。これら3つの要素が組み合わさることで、ワキガのにおいはより強くなる傾向があります。したがって、ワキガ対策を考える際には、これらの要素のいずれか、または複数をコントロールすることが重要になってきます。

遺伝とワキガの深い関係

ワキガの発症には、遺伝的な要因が非常に大きく関わっています。アポクリン汗腺の数や大きさは生まれつき決まっており、これは両親から受け継いだ遺伝子によって左右されます。ワキガは「顕性遺伝(優性遺伝)」の形式をとることが知られており、親から子へと高い確率で遺伝します。

具体的な遺伝確率について見てみましょう。両親のうちどちらか一方がワキガ体質の場合、子どもにワキガが遺伝する確率は約50%とされています。両親の両方がワキガ体質の場合には、その確率は約80%にまで上昇します。これは血液型の遺伝と似た仕組みで、ワキガの遺伝子が顕性(優性)であるために、片方の親からワキガの遺伝子を受け継いだだけでも、その特性が現れやすくなります。

ただし、ワキガ体質を遺伝的に持っていたとしても、生まれてすぐにワキガになるわけではありません。アポクリン汗腺は思春期まで十分に発達しておらず、ワキガの症状が現れるのは性ホルモンの分泌が活発になる時期以降です。また、遺伝的にワキガ体質を持っていても、その後の生活習慣や環境によって、においの強さには個人差が出てきます。遺伝はワキガの「なりやすさ」を決める重要な要因ですが、それだけがすべてを決めるわけではないのです。

ABCC11遺伝子とワキガの関連性

近年の遺伝学研究により、ワキガと遺伝子の関係がより詳しく解明されてきました。特に注目されているのが、16番染色体上に存在する「ABCC11遺伝子」です。2006年に長崎大学の研究チームによって、この遺伝子がヒトの耳垢のタイプを決定していることが発見され、その後の研究でワキガ(腋臭症)との強い関連性が明らかになりました。

ABCC11遺伝子は「ATP結合カセットトランスポーター」というタンパク質を作る設計図となる遺伝子です。このタンパク質は細胞膜に存在し、細胞内のさまざまな物質を細胞外に輸送する働きをしています。ABCC11遺伝子には特定の一塩基多型(SNP)が存在し、この部分の塩基がグアニン(G)かアデニン(A)かによって、異なるタイプのタンパク質が作られます。

遺伝子は両親から1本ずつ受け継ぐため、ABCC11遺伝子の組み合わせは「GG型」「GA型」「AA型」の3パターンがあります。GG型またはGA型の人は、アポクリン汗腺から分泌される物質が多くなる傾向があり、湿った耳垢(湿性耳垢)を持ち、ワキガ体質である可能性が高いとされています。一方、AA型の人は、このタンパク質が正常に機能せず細胞内で分解されてしまうため、アポクリン汗腺からの分泌が少なくなります。その結果、乾いた耳垢(乾性耳垢)を持ち、ワキガになりにくい体質となります。

この遺伝子の違いは、人類の進化の過程で生じた変異であると考えられています。かつてはすべての人間がGG型(湿性耳垢・ワキガ体質)であったとされていますが、ある時点で538G→538Aという突然変異が起こり、乾性耳垢を持つAA型の個体が出現しました。この変異はモンゴロイド系の人種(東アジア人)に多く見られ、日本人では約70~80%が乾性耳垢(AA型)であるとされています。このことが、日本人のワキガ体質の割合が約10%と比較的低い理由の一つとなっています。

耳垢のタイプとワキガの関係

ワキガのセルフチェック項目として、よく「耳垢が湿っているかどうか」が挙げられます。これは前述のABCC11遺伝子の働きに関連しています。耳垢は外耳道に存在するアポクリン汗腺(耳垢腺)からの分泌物と、皮脂腺からの分泌物、および剥がれ落ちた皮膚細胞が混ざり合ってできたものです。

ABCC11遺伝子がGG型またはGA型の人は、耳の中のアポクリン汗腺からの分泌が活発なため、湿った粘り気のある耳垢(湿性耳垢、軟耳垢)を持ちます。一方、AA型の人はアポクリン汗腺からの分泌が少ないため、乾いた粉状の耳垢(乾性耳垢、硬耳垢)を持ちます。耳の中と わきの下の両方にアポクリン汗腺が存在するため、耳垢のタイプとワキガ体質には強い相関関係があるのです。

研究データによれば、湿性耳垢を持つ人の約80%がワキガ体質であり、ワキガの人の約98%が湿性耳垢を持っているとされています。つまり、乾性耳垢を持つ人がワキガ体質である可能性は非常に低いということになります。ただし、耳垢のタイプだけでワキガかどうかを100%判断できるわけではありません。湿性耳垢を持っていてもワキガの程度が軽い場合もありますし、他の要因によってにおいの強さが変化することもあります。あくまでも一つの目安として捉え、正確な診断は医療機関で受けることをお勧めします。

ワキガが発症する時期

ワキガ体質の遺伝子を持っていても、生まれたときからワキガのにおいがするわけではありません。ワキガの症状が現れるタイミングには、いくつかの特徴的な時期があります。

最も多いのは、第二次性徴を迎える思春期です。アポクリン汗腺は性ホルモンの影響を強く受けて発達するため、性ホルモンの分泌が活発になる思春期に急速に成長します。一般的に、女性では小学校高学年から中学生(10歳から14歳頃)、男性では中学生から高校生(12歳から16歳頃)にワキガの症状が現れ始めることが多いとされています。女性の方が第二次性徴の開始が早いため、思春期においてはワキガに悩む女性の割合が男性よりも高い傾向があります。

アポクリン汗腺の活動は、思春期から20代半ばにかけてピークを迎えます。この時期に最もにおいが強くなり、その後は徐々に落ち着いていく傾向があります。50代以降(更年期以降)になると、ホルモンバランスの変化に伴ってアポクリン汗腺の活動も低下し、ワキガの症状が軽減されることがあります。ただし、汗腺の数や大きさ自体は変わらないため、完全ににおいがなくなるわけではありません。

また、女性の場合は妊娠・出産の時期にホルモンバランスが大きく変動するため、この時期にワキガの症状が変化することがあります。妊娠中ににおいが強くなったと感じる方もいれば、逆に軽くなったと感じる方もおり、個人差があります。出産後、ホルモンバランスが元に戻るにつれて、においも通常の状態に戻ることが多いですが、完全に元通りにならないケースもあります。

ワキガを悪化させる生活習慣と食事

ワキガは遺伝的な体質が大きく関わっていますが、生活習慣や食事の内容によって、においの強さが変化することがあります。後天的にワキガになることはありませんが、もともとワキガ体質を持っている方が、特定の生活習慣によってにおいを強めてしまうケースは少なくありません。ここでは、ワキガを悪化させる可能性のある要因について詳しく見ていきましょう。

動物性脂肪・高タンパク質食の過剰摂取

肉類、揚げ物、バター、チーズなどの乳製品、ジャンクフードやスナック菓子など、動物性脂肪やタンパク質を多く含む食品を過剰に摂取すると、アポクリン汗腺の働きが活性化されます。また、これらの食品に含まれる脂質は、汗に含まれる脂肪酸の量を増やし、細菌に分解されたときに発生するにおい成分を強めてしまいます。近年、日本でもワキガに悩む人が増加傾向にあると言われていますが、これは食生活の欧米化が一因であると考えられています。

香辛料・刺激物の摂取

唐辛子やスパイスなど、刺激の強い食べ物は発汗を促進します。汗をかくこと自体は体にとって良いことですが、辛い食べ物はアポクリン汗腺を直接刺激する働きがあるため、ワキガのにおいを強める可能性があります。また、ニンニクやニラなどのにおいの強い食材は、それ自体が体臭として現れることがあり、ワキガのにおいと混ざることでより不快なにおいになることがあります。

飲酒と喫煙

アルコールを摂取すると、血流が良くなり発汗量が増加します。また、体内で消化しきれなかったアルコールは汗として分泌されるため、においが発生しやすくなります。さらに、アルコールが分解される際に生成されるアセトアルデヒドは刺激臭があり、体臭を強める原因となります。アルコールはエクリン汗腺とアポクリン汗腺の両方を刺激するため、ワキガ臭をより強くしてしまう可能性があります。

喫煙も体臭を悪化させる大きな要因です。タバコに含まれるニコチンは、体温調節をつかさどる中枢神経を刺激し、アポクリン汗腺の活動を活発にします。また、タバコの煙に含まれるにおい成分は血液中に溶け込み、汗として排出されるため、体臭の原因となります。タバコ特有のヤニのにおいとワキガのにおいが混ざると、周囲の人にとってより不快に感じられることがあります。

運動不足と入浴習慣

意外に思われるかもしれませんが、汗をかく習慣がないこともワキガを悪化させる要因となります。日常的に汗をかかない人は、汗腺の機能が低下し、体内に老廃物が蓄積しやすくなります。そして、たまに汗をかいたときにその老廃物が一気に排出されるため、においの濃い汗が出てしまうのです。定期的な運動や入浴で汗をかく習慣をつけることで、体内の老廃物を日常的に排出し、汗のにおいを軽減することが期待できます。

また、ワキガの臭いを気にするあまり、湯船に浸からずシャワーだけで済ませてしまう方もいますが、これは逆効果です。湯船に浸かってたっぷり汗をかくことで、体内に溜まった老廃物をしっかりと排出することができます。シャワーだけでは表面的な汚れしか落とせず、毛穴の奥に詰まった汚れや老廃物は残ってしまいます。

ストレスとホルモンバランスの影響

精神的なストレスは、ワキガの症状を悪化させる大きな要因の一つです。人間の体は、ストレスや緊張を感じると交感神経が優位になり、さまざまな防御反応が起こります。その一つが発汗です。ストレスや緊張によって引き起こされる汗は「精神性発汗」と呼ばれ、特にアポクリン汗腺が多く存在するわきの下や手のひら、足の裏から多く分泌されます。

精神性発汗は、暑さによる発汗(温熱性発汗)とは性質が異なり、アポクリン汗腺からの分泌がより活発になります。そのため、強いストレスや緊張を感じている状況では、ワキガのにおいが通常よりも強くなりやすいのです。仕事でプレッシャーを感じているとき、人前で話すとき、初対面の人と会うときなど、緊張する場面でわきの下の汗やにおいが気になった経験のある方も多いのではないでしょうか。

また、慢性的なストレスは体内のホルモンバランスを乱し、アポクリン汗腺の活動を促進する可能性があります。さらに、疲労やストレスが蓄積すると、体内で活性酸素が増加し、「ストレス臭」と呼ばれる体臭が発生することもあります。活性酸素の増加は過酸化脂質を増やし、加齢臭の原因にもなります。疲労によって肝臓や腎臓の機能が低下すると、アンモニアの分解が滞り、「疲労臭」と呼ばれる体臭が発生することもあります。

ホルモンバランスの変化も、ワキガの症状に大きな影響を与えます。前述の思春期や妊娠・出産期に加え、女性では月経周期によってもホルモンバランスが変動し、汗の分泌量やにおいの強さが変化することがあります。更年期にはホルモンの分泌量が減少するため、ワキガの症状が軽減される傾向がありますが、同時にホルモンバランスの乱れによる一時的な症状の悪化が見られることもあります。

ワキガのセルフチェック方法

自分がワキガかどうか気になる場合、まずは以下のセルフチェック項目を確認してみてください。これらの項目に複数当てはまる場合は、ワキガ体質である可能性があります。

耳垢が湿っているかどうかは、ワキガのセルフチェックにおいて最も重要な指標の一つです。綿棒で耳掃除をしたときに、耳垢が黄色っぽく湿っていて粘り気がある場合(湿性耳垢)は、ワキガ体質である可能性が高いです。逆に、耳垢が白っぽく乾燥していてパサパサしている場合(乾性耳垢)は、ワキガになりにくい体質であると考えられます。

両親や祖父母、兄弟姉妹にワキガの方がいるかどうかも重要な判断材料です。ワキガは遺伝的要因が強いため、家族にワキガの方がいる場合は、自分もワキガ体質である可能性が高まります。

白いシャツやブラウスのわきの部分が黄色く変色しやすい場合も、ワキガの兆候の一つです。アポクリン汗腺から分泌される汗には「リポフスチン」という黄褐色の色素が含まれており、これが衣類に付着することで黄ばみが生じます。通常の汗による黄ばみとは異なり、ワキガによる黄ばみは比較的短期間で目立つようになります。

わきの下の毛が濃い、または太い場合も、ワキガ体質の可能性を示唆しています。アポクリン汗腺は毛穴に付随して存在するため、毛が濃い(多い)ということは、アポクリン汗腺の数も多い可能性があります。ただし、これらはあくまでも目安であり、正確な診断は医療機関で行う必要があります。自分で判断が難しい場合や、においが気になって日常生活に支障をきたしている場合は、皮膚科や形成外科を受診することをお勧めします。

ワキガの診断と治療の選択肢

ワキガの診断は、主に問診とにおいの客観的評価によって行われます。問診では、においの自覚症状、他人からの指摘の有無、耳垢のタイプ、家族歴、発症時期などについて確認されます。においの評価には「ガーゼテスト」がよく用いられます。これは、わきの下にガーゼを挟んだ状態で一定時間(5分から15分程度)軽い運動をし、そのガーゼのにおいを医師が嗅いで判定する方法です。においの強さは5段階で評価されることが多く、レベル3以上で手術適応と判断されることが一般的です。

ワキガの治療法には、さまざまな選択肢があります。症状の程度や患者の希望、生活スタイルなどを考慮して、最適な治療法が選択されます。

軽度のワキガや、まずは手軽な方法から試したいという方には、外用薬による治療があります。塩化アルミニウム製剤は、汗腺の出口を塞ぐことで発汗を抑える効果があります。また、2020年からは原発性腋窩多汗症に対して保険適用となった「エクロックゲル」や「ラピフォートワイプ」などの外用薬も使用されるようになっています。これらは主に多汗症の治療薬ですが、汗を抑えることでワキガのにおいを軽減する効果も期待できます。

ボツリヌス毒素注射(ボトックス注射)は、汗腺への神経伝達を一時的にブロックし、発汗を抑える治療法です。重度の腋窩多汗症に対しては保険適用となっています。効果は4から6か月程度持続しますが、根本的な治療ではないため、定期的な再注射が必要です。

根本的な治療を希望する場合には、外科的治療が検討されます。「剪除法(皮弁法)」は、わきの皮膚を切開し、アポクリン汗腺を直接目視しながら切除する手術です。ワキガの原因となるアポクリン汗腺を直接除去するため、高い治療効果が期待でき、保険適用で行うことができます。ただし、切開による傷跡が残ることや、術後の安静が必要なことなど、デメリットもあります。

近年注目されているのが「ミラドライ」という治療法です。マイクロ波を照射して汗腺を熱で破壊する方法で、皮膚を切開する必要がありません。傷跡が残らず、ダウンタイムが短いというメリットがありますが、日本では腋窩多汗症に対してのみ薬事承認を取得しており、腋臭症への適応は自費診療となります。

日常生活でできるワキガ対策

ワキガの根本的な治療は医療機関で行う必要がありますが、日常生活の中で実践できる対策も多くあります。これらの対策を継続することで、においを軽減し、快適な生活を送ることができるでしょう。

まず最も重要なのは、わきの下を清潔に保つことです。毎日の入浴やシャワーでわきの下を丁寧に洗い、汗や細菌を除去しましょう。ただし、ゴシゴシと強くこすりすぎると肌を傷つけ、かえって細菌が繁殖しやすくなることがあるため、優しく洗うことを心がけてください。殺菌効果のある薬用石鹸を使用するのも効果的です。入浴後は、制汗剤やデオドラント製品を使用する前に、しっかりと肌を乾かすことが大切です。

日中に汗をかいたときは、こまめに拭き取ることをお勧めします。アルコールを含むウェットシートやデオドラントシートでわきの下を拭くと、汗と一緒に細菌も除去できます。ただし、肌が弱い方はアルコールによる刺激で肌荒れを起こすことがあるため、敏感肌用の製品を選ぶか、水で濡らしたタオルで拭くようにしましょう。

衣類の素材選びも重要です。化学繊維(ポリエステル、レーヨンなど)は通気性が悪く、においがこもりやすい傾向があります。綿やウール、リネンなどの天然素材の衣類を選ぶことで、汗の蒸発を促し、においの発生を抑えることができます。また、わきの下に直接衣類が触れないよう、わきパッドやインナーを活用するのも効果的です。汗染みが気になる場合は、汗ジミ防止機能のある衣類を選ぶのもよいでしょう。

わき毛の処理もワキガ対策として有効です。わき毛があると汗や皮脂が付着しやすく、細菌が繁殖しやすい環境が作られます。わき毛を処理することで蒸れにくくなり、清潔さを保ちやすくなります。また、脱毛の施術を受けることで、毛根に近い位置にあるアポクリン汗腺の働きが弱まり、においが軽減される可能性もあるとされています。

食生活の改善もワキガ対策として重要です。動物性脂肪やタンパク質の過剰摂取を控え、野菜や魚を中心としたバランスの良い食事を心がけましょう。緑茶やほうじ茶に含まれるポリフェノールには体臭を抑制する効果があるとされています。また、梅干しや海藻などのアルカリ性食品を摂取することで、体内の酸性度を調整し、においを軽減する効果が期待できます。飲酒や喫煙は控えめにし、刺激の強い食べ物も避けるようにしましょう。

ストレスマネジメントも忘れてはいけません。十分な睡眠をとり、規則正しい生活を送ることで、ストレスを軽減し、ホルモンバランスを整えることができます。自分なりのストレス解消法を見つけ、心身のリラックスを心がけましょう。適度な運動は代謝を促進し、老廃物の排出を助けるとともに、ストレス解消にも効果的です。

よくある質問

ワキガは突然発症することがありますか?

ワキガは遺伝的な体質であるため、突然発症するものではありません。ただし、思春期にアポクリン汗腺が発達することで症状が現れ始めたり、生活習慣の変化やストレス、ホルモンバランスの変動によって、それまで気にならなかったにおいが急に強くなったと感じることはあります。成人後に急ににおいが気になり始めた場合は、もともと持っていたワキガ体質が何らかのきっかけで顕在化した可能性が考えられます。

ワキガは人にうつりますか?

ワキガは感染症ではないため、人から人へうつることは絶対にありません。ワキガは、アポクリン汗腺の発達度合いという遺伝的な体質によって決まるものです。ワキガの人と一緒に生活したり、同じタオルや衣類を使用したりしても、ワキガがうつることはありませんのでご安心ください。

ワキガと多汗症の違いは何ですか?

ワキガと多汗症は、原因となる汗腺が異なります。ワキガはアポクリン汗腺から分泌される汗が原因で特有のにおいが発生する状態であるのに対し、多汗症はエクリン汗腺から過剰な汗が分泌される状態を指します。多汗症の汗は主に水分であり、ワキガのような独特のにおいはありません。ただし、ワキガと多汗症を併発している場合は、エクリン汗腺からの汗がワキガのにおいを拡散させ、より強くにおいが感じられることがあります。

ワキガは自然に治ることがありますか?

ワキガ体質そのものが自然に治ることはありません。アポクリン汗腺の数や大きさは生まれつき決まっており、これが変化することはないためです。ただし、加齢に伴ってホルモンバランスが変化し、アポクリン汗腺の活動が低下することで、においが軽減されることはあります。特に50代以降(更年期以降)は、においが気にならなくなるケースもあります。しかし、根本的な改善を目指す場合は、医療機関での治療が必要です。

子どものワキガは治療できますか?

子どものワキガも治療は可能ですが、アポクリン汗腺が十分に発達していない年齢で手術を行うと、取り残しや再発のリスクが高くなります。一般的に、手術治療は女性で14歳以上、男性で16歳以上が目安とされています。思春期のお子さんの場合は、まず外用薬や制汗剤などの保存的な治療を試み、汗腺が十分に発達してから手術を検討することが推奨されます。お子さんがワキガで悩んでいる場合は、早めに専門の医療機関に相談し、適切な時期と治療法を検討することが大切です。

まとめ

ワキガ(腋臭症)の原因は、アポクリン汗腺から分泌される汗が皮膚常在菌によって分解されることで発生する特有のにおいにあります。アポクリン汗腺の数や大きさは遺伝によって決まるため、ワキガは体質的な要因が非常に大きい症状です。16番染色体上のABCC11遺伝子がこの体質を決定しており、耳垢のタイプとも強い相関関係があります。日本人の約10%がワキガ体質であるとされ、欧米人と比較すると割合は低いものの、においに対する社会的な許容度が低い日本では、ワキガに悩む方の精神的負担は大きいものがあります。

ワキガ体質は遺伝的に決まるものですが、生活習慣や食事内容、ストレス、ホルモンバランスなどによって、においの強さは変化します。動物性脂肪の過剰摂取、飲酒、喫煙、運動不足、ストレスの蓄積などは、ワキガを悪化させる要因となります。日常生活においては、わきの下を清潔に保つこと、通気性の良い天然素材の衣類を選ぶこと、バランスの良い食事を心がけること、ストレスを適切に管理することが、においを軽減するために重要です。

ワキガの症状が気になる場合は、一人で悩まず、専門の医療機関に相談することをお勧めします。現在では外用薬から手術治療まで、さまざまな治療の選択肢があります。症状の程度や生活スタイルに合わせて、最適な治療法を選択することで、ワキガの悩みから解放され、より快適な日常生活を送ることができるでしょう。アイシークリニック渋谷院では、ワキガに関するご相談を承っております。お気軽にご来院ください。


参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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