脇の臭いが気になって、「もしかしてワキガかも?」と不安になった経験はありませんか。実際に医療機関を受診される方の中には、ワキガではないにもかかわらず、脇の臭いに悩んでいるケースが少なくありません。脇の臭いの原因はワキガだけではなく、汗臭さや生活習慣、精神的な要因など、さまざまな可能性が考えられます。この記事では、ワキガと一般的な脇の臭いの違いをわかりやすく解説するとともに、ワキガ以外で脇が臭くなる原因と、それぞれの対策方法について詳しくご紹介します。脇の臭いでお悩みの方は、まず自分の状態を正しく理解し、適切な対処法を見つけることが大切です。
目次
- ワキガ(腋臭症)とは何か
- ワキガと汗臭さの違い
- ワキガじゃないのに脇が臭い原因
- 生活習慣が脇の臭いに与える影響
- 自己臭症(自己臭恐怖症)の可能性
- ワキガのセルフチェック方法
- 脇の臭いの対策方法
- 医療機関を受診すべきケース
- よくある質問
- まとめ
ワキガ(腋臭症)とは何か
ワキガは、医学的には「腋臭症(えきしゅうしょう)」と呼ばれる症状です。脇の下から独特の強い臭いを発する状態を指し、厚生労働省によって疾患として認められています。日本人におけるワキガの割合は約10~15%程度とされており、欧米人と比較すると少数派です。このため、日本ではワキガに対する社会的な意識が高く、悩みを抱える方も多いのが現状です。
2種類の汗腺について
脇の臭いを理解するためには、まず人間の体にある2種類の汗腺について知る必要があります。
1つ目は「エクリン腺」です。エクリン腺は全身に分布しており、主に体温調節のために汗を分泌します。エクリン腺から出る汗は99%が水分で構成されており、さらさらとした性質を持っています。この汗自体には臭いがほとんどありません。お風呂に入ったときや運動をしたときに出る汗は、このエクリン腺からの分泌物です。
2つ目は「アポクリン腺」です。アポクリン腺は脇の下、耳の中、乳輪周辺、陰部など、体の限られた部位にのみ存在します。アポクリン腺から分泌される汗は、タンパク質、脂質、糖質、アンモニアなどの成分を含んでおり、やや粘り気のある乳白色の汗です。この汗自体は無臭ですが、皮膚表面に存在する常在菌によって分解されることで、ワキガ特有の独特な臭いが発生します。
ワキガが発生するメカニズム
ワキガの臭いが発生するプロセスは、アポクリン腺から分泌された汗に含まれる脂肪酸などの成分が、皮膚表面のコリネバクテリウム属菌や表皮ブドウ球菌などの常在菌によって分解されることで起こります。つまり、ワキガの原因は「汗+細菌」の組み合わせにあります。
ワキガ体質の方は、アポクリン腺の数が多い、またはサイズが大きいという特徴があります。アポクリン腺の数や大きさは遺伝的に決まっており、両親のどちらかがワキガ体質の場合は約50%、両親ともにワキガ体質の場合は約80%の確率で子どもに遺伝するとされています。
また、アポクリン腺は第二次性徴期に発達するため、ワキガが発症するのは通常、思春期(10~15歳頃)以降です。女性の場合は初潮の頃から症状が現れることが多く、加齢に伴って徐々に軽減していく傾向があります。
ワキガと汗臭さの違い
脇の臭いが気になっても、それが必ずしもワキガとは限りません。ワキガと一般的な汗臭さには、いくつかの違いがあります。
臭いの質の違い
一般的な脇の汗臭さは、「お酢のような酸っぱい臭い」「生乾きの洗濯物のような臭い」と表現されることが多いです。これはエクリン腺から出た汗が時間の経過とともに細菌に分解されることで発生する臭いです。
一方、ワキガの臭いは独特で、大きく3つのタイプに分類されます。1つ目は硫黄を感じさせる生臭い臭い、2つ目はカレースパイスのようなスパイシーな臭い、3つ目は古い雑巾のような脂肪酸臭です。これらの臭いは、汗をかいてすぐに発生し、市販の制汗剤では抑えきれないことが多いのが特徴です。
マンダムの研究によると、日本人のワキの臭いは7タイプに分類でき、ミルク様臭、酸臭、カレースパイス臭、カビ臭、蒸し肉様臭、生乾き臭、鉄臭があることがわかっています。このうち、酸臭やカレースパイス臭を持つ人は、ワキの臭いが強い傾向にあります。
発生タイミングの違い
汗臭さは、汗をかいてから時間が経過し、細菌が繁殖することで徐々に強くなります。汗をかいた直後はあまり臭わないことが多く、数時間経過してから臭いが気になり始めます。
対してワキガの臭いは、汗をかくとすぐに発生することが多いです。また、運動時や緊張時など、アポクリン腺が刺激を受けると臭いが強くなる傾向があります。
衣類への影響の違い
一般的な汗臭さの場合、汗じみは白っぽく、洗濯すれば臭いはほぼ取れます。しかしワキガの場合、アポクリン腺から分泌される「リポフスチン」という色素物質により、衣類の脇部分に黄色いシミができやすいという特徴があります。また、臭いが衣類に染みつきやすく、通常の洗濯では落ちにくいこともあります。
ワキガじゃないのに脇が臭い原因
ワキガではないにもかかわらず脇の臭いが気になる場合、以下のような原因が考えられます。
腋窩多汗症による影響
腋窩多汗症(えきかたかんしょう)は、脇の下に過剰な量の汗をかいてしまう症状です。日本人の約10%弱に認められるとされており、珍しい症状ではありません。腋窩多汗症はエクリン腺からの発汗が過剰になることで起こり、ワキガとは原因となる汗腺が異なります。
腋窩多汗症の汗自体は無臭に近いですが、大量の汗が脇の下に滞留することで湿度が高まり、細菌が繁殖しやすい環境が作られます。その結果、汗臭さが強くなったり、アポクリン腺からの汗と混ざって臭いが拡散されたりすることがあります。また、脇の下が常に湿った状態になることで、衣類の脇部分に臭いが染みつきやすくなります。
衣類の問題
脇の臭いの原因が、実は衣類にある場合も少なくありません。洗濯物が十分に乾いていない「生乾き」の状態では、「モラクセラ菌」という細菌が繁殖し、独特の不快な臭いを発生させます。この臭いは洗濯物の脇部分に残った皮脂や水分を細菌が分解することで生じます。脇の部分は皮脂が残りやすく、生地同士が重なって乾きにくいため、モラクセラ菌が繁殖しやすい環境となっています。
また、化学繊維(ポリエステルやナイロンなど)の衣類は通気性が悪く、汗が蒸発しにくいため、脇の臭いがこもりやすくなります。さらに、化学繊維は臭いの原因物質を吸着しやすいという性質もあります。
皮脂の過剰分泌
脇の下には汗腺だけでなく皮脂腺も存在します。皮脂の分泌が過剰になると、皮脂と汗が混ざり合い、細菌に分解されることで臭いが発生しやすくなります。特に脂っこい食事を多く摂取している方や、肌のケアが不十分な方は、皮脂臭が強くなる傾向があります。
皮脂臭はワキガの臭いとは異なり、脂っぽい臭いや酸化したような臭いが特徴です。皮脂腺は手術では切除できないため、ワキガ手術を受けても皮脂臭が残る場合があります。
運動不足による影響
普段から運動習慣がなく、あまり汗をかかない生活を送っていると、汗腺の機能が低下し、汗の質が変化します。通常、健康的な汗はさらさらとして臭いが少ないですが、運動不足の方の汗はミネラル分や老廃物を多く含むベタベタとした汗になりやすいです。この汗は蒸発しにくく、細菌の繁殖によって臭いが発生しやすくなります。
また、普段汗をかかない生活を続けていると、たまに多めの汗をかいたときに、溜まっていた老廃物が一気に排出され、臭いが強くなることがあります。
ホルモンバランスの変化
女性の場合、月経周期や妊娠、更年期などによるホルモンバランスの変化が、脇の臭いに影響を与えることがあります。アポクリン腺は性ホルモンの影響を受けやすく、月経前や排卵期に臭いが強くなったり、妊娠・出産時に一時的にワキガのような臭いが発生したりすることがあります。
これらの変化は一時的なものであることが多く、ホルモンバランスが安定すれば臭いも落ち着くことがほとんどです。
生活習慣が脇の臭いに与える影響
ワキガ体質でなくても、生活習慣によって脇の臭いが強くなることがあります。以下に、脇の臭いに影響を与える主な生活習慣を解説します。
食生活の影響
食事内容は体臭に大きな影響を与えます。特に以下のような食品を多く摂取すると、脇の臭いが強くなる可能性があります。
肉類や乳製品などの動物性脂肪を多く含む食品は、皮下脂肪を増やし、アポクリン腺の活動を促進させます。また、これらの食品は体内で分解される過程で臭いの原因物質を生成するため、体臭全体が強くなる傾向があります。
唐辛子やカレーなどの香辛料を使った刺激的な食べ物は、発汗を促すとともにアポクリン腺を刺激し、臭いの原因となる汗の分泌を増加させます。にんにくやニラなど臭いの強い食材も、摂取後に体臭を強める作用があります。
一方、体臭を抑える効果が期待できる食品としては、緑茶やほうじ茶などポリフェノールを含む飲料、梅干しや海藻などのアルカリ性食品、腸内環境を整える食物繊維やヨーグルトなどが挙げられます。体内が酸性に偏ると体臭が強まるとされているため、アルカリ性食品をバランスよく摂取することが推奨されています。
ストレスの影響
ストレスや緊張は、脇の臭いを強める大きな要因となります。ストレスを感じると交感神経が刺激され、アポクリン腺からの発汗が増加します。この「精神性発汗」は、脇や手のひらなど特定の部位に集中して起こりやすいという特徴があります。
また、長期間のストレスが続くと、体内で活性酸素が増加し、「ストレス臭」と呼ばれる独特の体臭が発生することがあります。さらに、ストレスによって肝臓や腎臓の機能が低下すると、アンモニアの分解が滞り、「疲労臭」と呼ばれる体臭が発生することもあります。
喫煙・飲酒の影響
喫煙は体内の血行を悪化させ、汗腺の働きを乱すことがあります。これにより、アポクリン腺から分泌される汗が増加し、脇の臭いが強くなる可能性があります。また、タバコに含まれるニコチンはアポクリン腺とエクリン腺の両方を刺激し、発汗を促進させます。タバコの臭い自体が体臭と混ざることで、より不快な臭いになることもあります。
飲酒もまた汗腺を刺激し、発汗を促進させます。アルコールが体内で分解される際に生成されるアセトアルデヒドは、体臭の原因となることがあります。
睡眠不足の影響
睡眠不足は体内のホルモンバランスを乱し、アポクリン腺の活動を促進させる可能性があります。また、睡眠不足によるストレスが加わることで、脇の臭いがさらに強くなることがあります。規則正しい生活リズムを維持し、十分な睡眠を確保することが、脇の臭い対策として重要です。
入浴習慣の影響
脇の臭いを気にするあまり、シャワーだけで済ませてしまう方がいますが、これは逆効果になることがあります。湯船につかってしっかりと汗をかくことで、体内に溜まった老廃物を排出することができます。汗をかかない生活を続けていると、老廃物濃度の高い汗が溜まり、脇の臭いが悪化する原因となります。
ただし、脇を洗う際にはゴシゴシと強く擦りすぎないことが大切です。過度な洗浄は皮膚のバリア機能を損ない、乾燥を引き起こすことで皮脂分泌が過剰になり、かえって臭いの原因になることがあります。
自己臭症(自己臭恐怖症)の可能性
脇の臭いに悩んでいる方の中には、実際にはワキガでも強い体臭があるわけでもないのに、「自分は臭っている」と強く思い込んでしまうケースがあります。これは「自己臭症」または「自己臭恐怖症」と呼ばれる心理的な症状です。
自己臭症の特徴
自己臭症は、周囲が気になるような臭いや原因となる病気がないにもかかわらず、「自分の体から不快な臭いが出ている」「その臭いのために周囲から避けられている」と思い込んでしまう症状です。対人恐怖症の一種に分類されています。
好発年齢は20歳以下の思春期とされており、無臭をよしとする清潔意識の高まった社会環境が背景にあるのではないかと考えられています。几帳面で完璧主義的な性格の方がこの症状に陥りやすいとされています。
自己臭症の症状
自己臭症では、以下のような症状が見られます。
自分の体から臭いがすることを確信的に訴え、周囲が否定してもその考えが変わりません。他人のなにげない行動(咳をする、鼻をすする、顔をそむけるなど)を、すべて自分の臭いに対する反応だと解釈してしまいます。
臭いを消そうとして、過度に入浴したり、デオドラント製品を大量に使用したり、何度も着替えたりする行動が見られます。人が密集する場所(電車、エレベーター、教室など)を避けるようになり、社会生活に支障をきたすこともあります。
自己臭症への対処
脇の臭いが気になる場合は、まず客観的に臭いの有無を確認することが大切です。皮膚科や形成外科で専門的な臭いチェックを受けたり、市販の体臭検査キットを利用したりする方法があります。
医療機関で「問題ない」と診断されても、なお臭いが気になって日常生活に支障が出るような場合は、心療内科やメンタルクリニックへの相談をおすすめします。認知行動療法やカウンセリングによって、症状の改善が期待できます。
ワキガのセルフチェック方法
自分がワキガ体質かどうかを確認するために、以下のセルフチェック項目を参考にしてください。複数の項目に当てはまる場合は、ワキガの可能性が高いと考えられます。
耳垢の状態
耳垢が湿っている(いわゆる「アメ耳」「ネコ耳」)場合、ワキガ体質の可能性が高いです。アポクリン腺は耳の中にも存在しており、湿性耳垢の方の約80%がワキガを罹患しているという指摘があります。日本人の約84%は乾いた耳垢を持っており、湿った耳垢の方は約16%とされています。
家族歴
両親や兄弟、親族にワキガ体質の方がいる場合、ワキガが遺伝している可能性があります。ワキガは優性遺伝するため、家族歴は重要なチェックポイントとなります。
衣類の黄ばみ
シャツやインナーの脇部分が黄色く変色しやすい場合は、アポクリン腺からの分泌物が多いことを示唆しています。アポクリン腺からはリポフスチンという黄褐色の色素が分泌されるため、衣類に黄ばみが付きやすくなります。
脇毛の状態
アポクリン腺は毛根部分に存在するため、脇毛の量が多い場合はアポクリン腺も多いと考えられます。男性の場合は毛の生える範囲が広くサラサラの脇毛、女性の場合はひとつの毛穴から2本以上の脇毛が生えているのが特徴とされています。
臭いの指摘
家族や身近な人から脇の臭いを指摘されたことがある場合は、ワキガの可能性があります。ワキガの臭いは自分では気づきにくいことが多いため、他者からの指摘は重要な判断材料となります。
これらのセルフチェックはあくまで目安であり、正確な診断は医療機関で行う必要があります。多くの医療機関では、脇にガーゼを挟んでその臭いを確認する「ガーゼテスト」などの方法で診断を行っています。
脇の臭いの対策方法
ワキガ体質であるかどうかにかかわらず、脇の臭いが気になる場合は以下の対策を実践することで、臭いを軽減することができます。
清潔を保つ
脇の臭い対策の基本は、清潔を保つことです。かいたばかりの汗は無臭なので、臭い物質が発生する前に汗を取り除けば、臭いを防ぐことができます。
こまめに汗を拭き取ること、毎日入浴して脇を清潔に洗うこと、汗をかいたら着替えることが大切です。入浴時は薬用せっけんを使用すると、殺菌効果により臭いの原因となる細菌の繁殖を抑えることができます。ただし、肌に優しいボディソープを選び、強く擦らないように注意しましょう。
制汗剤・デオドラント製品の活用
市販の制汗剤やデオドラント製品を活用することで、汗の量や臭いを抑えることができます。それぞれの特徴を理解して、目的に合った製品を選びましょう。
制汗剤は汗の分泌を抑えることを目的としたもので、汗腺を塞いだり収れん作用で引き締めたりする成分(クロルヒドロキシアルミニウム、フェノールスルホン酸亜鉛、ミョウバンなど)が含まれています。汗の量が気になる方に適しています。
デオドラント製品は臭いを抑えることを目的としたもので、殺菌成分(イソプロピルメチルフェノールなど)や消臭成分(酸化亜鉛、緑茶乾留エキスなど)が配合されています。汗の臭いが気になる方に適しています。
最近は制汗効果とデオドラント効果の両方を兼ね備えた製品も多く販売されています。タイプも、スティック、ロールオン、クリーム、スプレー、シートなど様々なものがありますので、使用場面や好みに合わせて選択してください。
制汗剤やデオドラント製品は、汗をかく前の清潔な状態の肌に塗布することで効果を発揮します。汗をかいた後に使用する場合は、まず汗を拭き取ってから塗布しましょう。
脇毛の処理
脇毛は汗を留め、湿度を保って細菌が繁殖しやすい環境を作り出します。脇毛を処理することで、脇の下が蒸れにくくなり、清潔に保ちやすくなるため、臭いを軽減する効果が期待できます。
また、脇毛を脱毛することでアポクリン腺の働きが弱まり、臭いが軽減される可能性もあるとされています。
衣類の選び方と洗濯方法
衣類は合成繊維よりも、通気性や吸収性の高い天然繊維(コットン、リネン、ウールなど)を選ぶことをおすすめします。特に肌に直接触れるインナーは、100%天然繊維のものが望ましいです。
洗濯時は、脇部分の汚れをしっかりと落とすことが大切です。しっかりと乾燥させ、生乾きの状態で着用しないようにしましょう。臭いが染みついてしまった衣類は、酸素系漂白剤を使用したり、除菌効果のある洗剤を使用したりすることで、臭いを軽減できる場合があります。
生活習慣の改善
前述のように、食生活、ストレス、喫煙・飲酒、睡眠などの生活習慣が脇の臭いに影響を与えます。以下のポイントを意識して、生活習慣を改善していきましょう。
バランスの良い食事を心がけ、動物性脂肪や刺激物の摂取を控えめにする。ポリフェノールを含む緑茶やほうじ茶、アルカリ性食品である梅干しや海藻類を積極的に摂取する。
自分に合ったストレス解消法を見つけ、ストレスを溜め込まないようにする。瞑想やリラクゼーション、適度な運動が効果的です。
喫煙・飲酒は控えめにする。特に喫煙はアポクリン腺を刺激するため、できれば禁煙することが望ましい。
規則正しい生活リズムを維持し、十分な睡眠を確保する。
適度な運動習慣を身につけ、サラサラとした健康的な汗をかけるようにする。
医療機関を受診すべきケース
セルフケアを行っても脇の臭いが改善しない場合や、日常生活に支障をきたすほど悩んでいる場合は、医療機関を受診することをおすすめします。
受診する診療科
脇の臭いに関する相談は、皮膚科または形成外科で対応しています。ワキガの治療を行っているかどうかは医療機関によって異なりますので、事前にホームページなどで確認してから受診すると安心です。
臭いが実際にあるのかどうか不安な場合や、臭いへの悩みが過度に強い場合は、心療内科やメンタルクリニックへの相談も検討してください。
医療機関での検査・診断
医療機関では、問診に加えて「ガーゼテスト」などの方法で診断を行います。一定時間脇にガーゼを挟み、その臭いを医師やスタッフが確認することで、臭いの程度を5~6段階で判定します。
医師によるワキガの診断が確定した場合は、保険適用で手術を受けることも可能です。
治療の選択肢
脇の臭いに対する医療的な治療法としては、以下のようなものがあります。
塗り薬による治療として、塩化アルミニウム液の外用があります。保険適用外となるため自費負担ですが、汗の分泌を抑える効果があります。2020年には日本で初めて原発性腋窩多汗症に対する保険適用の外用薬「エクロックゲル」が承認され、選択肢が広がっています。
ボトックス注射は、ボツリヌストキシンを脇に注射することでエクリン腺からの発汗を抑制する治療法です。効果は数ヶ月~半年程度持続し、繰り返し治療が必要です。
手術療法としては、アポクリン腺を切除する「皮弁法(剪除法)」があります。脇の下を切開し、皮膚の裏側にあるアポクリン腺を目視しながら切除する方法で、保険適用で受けることができます。根本的な治療法として最も効果が高いとされていますが、傷跡が残る、ダウンタイムが長いなどのデメリットもあります。
近年は「ミラドライ」などの切らない治療法も注目されています。マイクロ波を照射してアポクリン腺を破壊する方法で、ダウンタイムが短いのが特徴です。

よくある質問
ワキガの原因となるアポクリン腺の数は生まれつき決まっており、途中から突然増えることはありません。ただし、思春期にアポクリン腺が発達することで症状が現れ始めたり、生活習慣の変化やホルモンバランスの乱れによってアポクリン腺が活発化し、臭いが強くなったりすることはあります。「急にワキガになった」と感じる場合は、もともと持っていたアポクリン腺が何らかの理由で活発化した可能性が考えられます。
ワキガはウイルスや細菌性のものではないため、他人にうつることはありません。ワキガは遺伝的な体質であり、感染によって発症することはありません。
脇脱毛だけでワキガを根本的に治すことはできません。ただし、脇毛を処理することで脇の下の湿度が下がり、細菌が繁殖しにくくなるため、臭いを軽減する効果は期待できます。また、脱毛の施術によってアポクリン腺の働きが弱まり、臭いが軽減される可能性もあるとされていますが、完全に治るわけではありません。
一般的な市販の制汗剤は、用法・用量を守って使用すれば毎日使っても問題ありません。ただし、肌に合わない成分が含まれている場合はかぶれなどの肌トラブルを起こす可能性があるため、異常を感じたら使用を中止してください。また、脇の皮膚を過度に刺激し続けることは避けた方がよいでしょう。塩化アルミニウムなど作用の強い成分を含む製品は、使用頻度について製品の説明書に従うか、医師に相談することをおすすめします。
ワキガ手術を受けても完全に無臭・無汗になるわけではありません。手術で全ての汗腺を取り除くことは不可能であり、破壊した汗腺の5~10%は再生する可能性があるとされています。ワキガ手術の目的は「100%無臭になる」ことではなく、「制汗剤などの一般的なケアで臭いが気にならなくなるレベルにする」ことです。多くの場合、手術後は一般的な体臭レベルまで改善されます。
まとめ
脇の臭いが気になっても、それが必ずしもワキガとは限りません。腋窩多汗症による影響、衣類の問題、皮脂の過剰分泌、運動不足、ホルモンバランスの変化など、ワキガ以外にも様々な原因が考えられます。また、生活習慣(食事、ストレス、喫煙・飲酒、睡眠など)が脇の臭いに影響を与えることも少なくありません。
脇の臭い対策としては、まず脇を清潔に保つこと、制汗剤やデオドラント製品を適切に活用すること、脇毛を処理すること、通気性の良い衣類を選ぶこと、生活習慣を改善することが基本となります。
一方で、実際には臭いがないのに「自分は臭っている」と強く思い込んでしまう「自己臭症」の可能性もあります。脇の臭いに過度に悩み、日常生活に支障をきたしている場合は、まず客観的に臭いの有無を確認することが大切です。
セルフケアを行っても改善しない場合や、日常生活に支障をきたすほど悩んでいる場合は、皮膚科や形成外科を受診することをおすすめします。医師による適切な診断のもと、必要に応じて治療を受けることで、脇の臭いの悩みを解決できる可能性があります。脇の臭いでお悩みの方は、一人で抱え込まずに、まずは専門家に相談してみてください。
参考文献
- ワキガ(腋臭症)の治療〜ニオイの診断と手術~|日本医科大学武蔵小杉病院
- ワキガの悩みとさようなら!今すぐ試せるケア方法|済生会
- 腋臭症(わきが)|日本形成外科学会
- 日本人のワキ臭は7タイプに分かれることを発見|マンダム 汗とにおい総研
- 身体のニオイ、気になりますか?|南東北グループ
- 自臭症|みんなの家庭の医学 WEB版
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務