2025年1月、YouTubeチャンネル登録者数120万人を超える人気インフルエンサー・しなこさんが、自身のInstagramでワキガ(腋臭症)の手術を受けたことを公表し、大きな反響を呼びました。「コンプレックスすぎていろんな制汗剤を駆使したり香水を欠かさずつけたりしました」と長年の悩みを赤裸々に語ったしなこさんは、保険適用の剪除法手術を約5万円で受け、術後3ヶ月で「全く無臭になった」「自信をもってノースリーブも着れる」と経過を報告しています。この勇気ある告白により、同じ悩みを持つ多くの方々から「勇気をもらえた」「前向きになれた」という声が寄せられました。
ワキガは日本人の約10%が該当するとされる体質的な症状であり、決して恥ずかしいことではありません。しかし、日本では欧米と異なり体臭の少ない人が多いため、ワキガ体質の方は周囲との違いに悩みやすい傾向があります。本記事では、しなこさんの体験をきっかけにワキガ治療に関心を持った方に向けて、ワキガの原因から最新の治療法、保険適用の条件まで、専門的な観点から詳しく解説いたします。
目次
- ワキガ(腋臭症)とは?その定義と特徴
- ワキガが発生するメカニズム
- ワキガ体質になる原因とは
- 自分でできるワキガのセルフチェック方法
- ワキガと多汗症の違い
- ワキガの治療法を徹底比較
- 保険適用でワキガ治療を受けるための条件
- 治療法別の費用相場
- ワキガ治療を受ける前に知っておきたいこと
- 日常生活でできるワキガ対策
- よくある質問
- まとめ
ワキガ(腋臭症)とは?その定義と特徴
ワキガは、医学的には「腋臭症(えきしゅうしょう)」または「アポクリン臭汗症」と呼ばれる症状です。脇の下から特有の強いにおいを発する状態を指し、その独特な臭いは「鼻につく」「ツンとする」などと表現されることが多くあります。ワキガという名称は、臭いの発生源がアポクリン汗腺の多い「腋(わき)」の「下」であることに由来しています。
ワキガの臭いは、単なる汗臭さとは異なる特徴を持っています。一般的な汗のにおいは酸っぱい臭いが特徴ですが、ワキガの臭いは独特で、香辛料のような刺激臭、硫黄に似た臭い、古くなった洗濯物のような臭いなど、さまざまな表現がされます。この臭いは本人よりも周囲の人が気づきやすいという特徴があり、そのため自覚していない方も少なくありません。
日本人のワキガ体質の割合は約10%程度とされており、欧米人の約70~100%と比較すると非常に低い数値です。このため、日本ではワキガが目立ちやすく、当事者が深刻な悩みを抱えることが多いのが実情です。一方、欧米ではほとんどの人が多少なりともワキガ体質であるため、治療対象とされることは稀です。
ワキガが発生するメカニズム
ワキガの臭いがどのように発生するのかを理解するためには、まず人間の汗腺について知る必要があります。私たちの体には「エクリン汗腺」と「アポクリン汗腺」という2種類の汗腺が存在しており、それぞれ異なる役割を担っています。
エクリン汗腺の特徴
エクリン汗腺は全身のほぼすべての皮膚に分布しており、主に体温調節のために汗を分泌します。この汗腺から出る汗は99%以上が水分で構成されており、サラサラとした透明な汗です。エクリン汗腺からの汗自体にはほとんど臭いがなく、蒸発しやすいため、拭き取ればにおいはあまり気になりません。お風呂で温まったときや運動をしたときに出る汗がこれにあたります。
アポクリン汗腺の特徴
一方、アポクリン汗腺は体の特定の部位にのみ存在します。具体的には、脇の下、外耳道(耳の中)、乳輪、へそ周り、陰部、肛門周囲などに分布しています。アポクリン汗腺から分泌される汗には、タンパク質、脂質、糖質、アンモニア、鉄分、色素(リポフスチン)などの成分が豊富に含まれており、乳白色で粘り気があるのが特徴です。
重要なのは、アポクリン汗腺から出る汗自体は無臭であるという点です。では、なぜワキガ特有の臭いが発生するのでしょうか。
ワキガ臭発生のプロセス
ワキガの臭いは、アポクリン汗腺から分泌された汗が皮膚表面の常在菌によって分解されることで発生します。具体的には、汗に含まれる脂肪酸が、皮膚に存在する表皮ブドウ球菌などの細菌によって分解され、「3メチル2へキセノイン酸」という物質に変化します。この物質こそがワキガ特有の臭いの主な原因です。
つまり、ワキガの臭いが発生するメカニズムは次の3つの要素が組み合わさることで成り立っています。第一に、アポクリン汗腺が活動して臭いの「もと」となる有機成分を含む汗を分泌すること。第二に、皮膚表面にアポクリン汗の有機成分を分解する酵素を持つ常在菌が存在すること。第三に、汗によって皮膚が湿り、菌が繁殖しやすい環境が作られることです。これら3つの要素が揃うことで、ワキガの臭いはより強くなる傾向があります。
また、アポクリン汗腺から分泌される汗には黄褐色の色素であるリポフスチンが含まれているため、シャツの脇部分に黄ばみが付着することがあります。この黄ばみもワキガ体質の特徴の一つです。
ワキガ体質になる原因とは
ワキガは「体質」であり、病気ではありません。なぜ一部の人がワキガ体質になるのか、その原因について詳しく見ていきましょう。
遺伝的要因
ワキガ体質の最も大きな原因は遺伝です。アポクリン汗腺の数や大きさは生まれつき決まっており、両親から遺伝します。アポクリン汗腺の数が多く、一つ一つの大きさが大きいほど、ワキガの症状が強くなる傾向があります。
ワキガは「優性遺伝(顕性遺伝)」の形式で遺伝することがわかっています。両親ともにワキガ体質である場合は約80%の確率で、片親がワキガ体質である場合は約50%の確率で子どもにワキガが遺伝するとされています。最近の研究では、16番目の染色体にあるABCC11遺伝子がワキガや耳垢の性質に関与していることが解明されています。
性ホルモンの影響
アポクリン汗腺は性ホルモンの影響を強く受けます。アポクリン汗腺自体は生まれたときから存在していますが、思春期(第二次性徴期)になると性ホルモンの分泌が活発になり、アポクリン汗腺の働きも活発化します。このため、ワキガの症状は思春期ごろから顕在化することが多く、男性は平均18歳、女性は平均16歳で発症するというデータがあります。女性の場合は初潮の時期と重なることも多いです。
アポクリン汗腺の活動は20代半ばでピークを迎え、その後は加齢とともに徐々に低下していきます。ただし、汗腺の数や大きさ自体は変わらないため、完全に臭いがなくなることはありません。また、中年以降は加齢臭が混在してくることもあります。
生活習慣の影響
遺伝的要因が主な原因ではありますが、生活習慣もワキガの臭いの強さに影響を与えることがあります。動物性脂肪やタンパク質を多く含む食事は、アポクリン汗腺からの分泌物に含まれる脂肪酸を増加させ、臭いを強める可能性があるとされています。肉食中心の食生活よりも、和食中心の食生活の方が臭いが軽減するという報告もあります。
また、ストレスや睡眠不足、過度の飲酒なども自律神経のバランスを乱し、発汗を促進することで臭いを強める要因となることがあります。
自分でできるワキガのセルフチェック方法
ワキガの臭いは自分では気づきにくいという特徴があります。自分がワキガ体質かどうか気になる方は、以下のセルフチェック項目を確認してみましょう。複数の項目に該当する場合は、ワキガ体質の可能性があります。
体質チェック
耳垢が湿っている(軟耳垢)かどうかは、最も信頼性の高い指標の一つです。アポクリン汗腺は外耳道にも存在するため、耳垢が湿っている人の約80%がワキガ体質であるとされています。綿棒で耳を掃除したときに、黄色っぽく湿った耳垢が付着する場合は、ワキガ体質の可能性が高いと考えられます。
両親や親族にワキガ体質の人がいるかどうかも重要な判断材料です。前述の通り、ワキガは遺伝性が高いため、家族歴があれば自身もワキガ体質である可能性が高まります。
衣類の脇部分に黄色い汗ジミができやすいかどうかも確認しましょう。アポクリン汗腺から分泌される汗に含まれるリポフスチンという色素が、衣類に付着して黄ばみの原因となります。白いシャツの脇部分が黄ばみやすい場合は、ワキガ体質のサインかもしれません。
脇毛が濃い、あるいは太い毛が生えている場合もワキガ体質の特徴の一つです。アポクリン汗腺は毛根部に存在するため、脇毛が多い人はアポクリン汗腺も多い傾向があります。
生活習慣チェック
他人から脇の臭いを指摘されたことがあるかどうかも重要です。ワキガの臭いは本人よりも周囲の人の方が気づきやすいため、家族や友人から指摘を受けた経験がある場合は、ワキガである可能性を考慮すべきです。
ただし、臭いが気になるからといって必ずしもワキガとは限りません。汗臭さとワキガは異なるものですし、「自己臭症(自己臭恐怖症)」といって、実際には臭いがないにもかかわらず自分の臭いを過度に気にしてしまう心理的な状態もあります。自己判断が難しい場合は、医療機関で専門医の診断を受けることをお勧めします。
ワキガと多汗症の違い
ワキガと多汗症は混同されやすいですが、原因となる汗腺が異なる別の症状です。ただし、両者を併発しているケースも少なくありません。
ワキガは、アポクリン汗腺から分泌される汗が原因で発生する特有の臭いの問題です。汗の量よりも臭いが主な症状となります。一方、多汗症は主にエクリン汗腺から分泌される汗の量が異常に多い状態を指します。多汗症の汗は水分が主成分であり、ワキガのような強い臭いはありませんが、大量の汗が出ることで衣類への汗ジミや日常生活への支障が生じます。
多汗症には、脇の下に多量の汗が出る「腋窩多汗症」のほか、手のひらに汗をかく「手掌多汗症」、足の裏に汗をかく「足蹠多汗症」などがあります。日本人の腋窩多汗症の発生率は約10%弱とされており、ワキガと同程度の頻度で見られます。
多汗症の汗も、大量にかいて時間が経つと細菌によって分解され、いわゆる「汗臭い」状態にはなりますが、これはワキガ特有の臭いとは異なります。
ワキガの治療法を徹底比較
ワキガの治療法には複数の選択肢があり、症状の程度や患者さんのライフスタイル、希望に応じて最適な方法を選ぶことが重要です。ここでは主な治療法について詳しく解説します。
剪除法(皮弁法・反転剪除法)
剪除法は、ワキガ治療において最も効果が高いとされる外科的治療法です。人気インフルエンサーのしなこさんが受けた手術もこの方法であり、保険適用で約5万円程度の自己負担で受けられます。
手術の流れは次の通りです。まず、脇の下のシワに沿って3~5cm程度の切開を1~2か所行います。次に、皮膚を反転させ、皮膚の裏側に粒状に並んでいるアポクリン汗腺を医師が直接目視で確認しながら、一つ一つ丁寧に切除していきます。手術は局所麻酔または全身麻酔で行われ、手術時間は片脇で約30分~1時間程度です。
剪除法の最大のメリットは、ワキガの原因であるアポクリン汗腺を直接確認しながら確実に除去できる点です。適切に手術が行われれば、アポクリン汗腺の95%以上を除去することが可能であり、再発リスクも非常に低くなります。また、保険適用が可能なため、費用面での負担も軽減されます。
一方、デメリットとしては、皮膚を切開するため傷跡が残ることが挙げられます。傷跡は時間とともに目立たなくなりますが、完全に消えることはありません。しなこさんも術後に「傷跡はまだ黒ずんでいるのでファンデーションで隠している」と報告しています。また、術後は圧迫固定が必要であり、1~2週間程度は日常生活に制限が生じます。
ミラドライ
ミラドライは、マイクロ波(電磁波)を利用して汗腺を破壊する治療法です。2018年6月に厚生労働省から原発性腋窩多汗症の治療機器として薬事承認を取得しており、米国FDAでは腋窩多汗症、腋臭症(ワキガ)、減毛の適応で承認されています。
ミラドライの仕組みは、皮膚表面からマイクロ波を照射し、皮下2~3mmの深さにある汗腺層に熱エネルギーを集中させることで、エクリン汗腺とアポクリン汗腺の両方を破壊するというものです。マイクロ波は水分に選択的に吸収される性質があるため、水分を多く含む汗腺だけを効率的に破壊することができます。同時に、皮膚表面はハンドピースの冷却装置で保護されるため、表皮や真皮浅層への熱損傷を防ぎます。
ミラドライの最大のメリットは、切開不要で傷跡が残らないことです。施術時間は両脇で約60~90分程度で、ダウンタイムも短いため、施術当日から日常生活に戻ることができます。また、一度破壊された汗腺は再生しないため、半永久的な効果が期待できます。1回の施術で70~80%程度の汗腺を破壊でき、汗の量や臭いが大幅に軽減されます。
デメリットとしては、保険適用外であるため費用が高額になることが挙げられます。一般的に20~40万円程度の費用がかかります。また、剪除法と比較すると効果がやや劣る場合があり、症状が強い場合は2回目の治療が必要になることもあります。
ボトックス注射(ボツリヌス毒素注射)
ボトックス注射は、ボツリヌス菌が産生する毒素を精製した薬剤を脇に注射する治療法です。この薬剤は神経と汗腺の接合部に作用し、汗の分泌を促す神経伝達を一時的にブロックすることで、発汗を抑制します。
ボトックス注射は主にエクリン汗腺の働きを抑制するため、多汗症に対して高い効果を発揮します。汗の量が減ることで、結果的にワキガの臭いも軽減されますが、ワキガの根本的な治療にはなりません。重度原発性腋窩多汗症に対しては保険適用となる場合があります。
ボトックス注射のメリットは、施術が非常に簡便であることです。注射だけで済むため、施術時間は5~15分程度と短く、ダウンタイムもほとんどありません。効果は注射後2~3日で現れ始め、約4~6ヶ月間持続します。
デメリットは、効果が一時的であり、継続的に治療を受ける必要があることです。半年程度で効果が薄れてくるため、年に2回程度の注射が必要になります。また、汗腺そのものを除去するわけではないため、治療をやめれば症状は元に戻ります。
外用薬(塩化アルミニウム液など)
塩化アルミニウム液は、汗孔や汗管を一時的に閉鎖することで発汗を抑制する外用薬です。毎日就寝前に脇に塗布することで、汗の量を減らす効果があります。
外用薬のメリットは、手軽に使用でき、費用も比較的安価であることです。軽度のワキガや多汗症であれば、外用薬だけで十分な効果が得られる場合もあります。ただし、効果の持続時間が短いため毎日の継続使用が必要であり、肌が弱い方は刺激を感じることもあります。また、塩化アルミニウム液の処方は保険適用外となることが一般的です。
保険適用でワキガ治療を受けるための条件
ワキガ治療において保険適用が認められるのは、厚生労働省の診療報酬点数表で「皮下汗腺除去術(K008-1)」として定められている剪除法(皮弁法)のみです。ミラドライやボトックス注射などは、原則として保険適用外の自費診療となります(ただし、重度原発性腋窩多汗症に対するボトックス注射は保険適用される場合があります)。
保険適用で剪除法を受けるためには、医師により「腋臭症」という診断を受け、医学的に治療が必要と判断される必要があります。保険が適用される条件は、「悪臭が著しく、他人の就業に支障を及ぼすほど明確な事実がある場合」、つまり社会生活に支障をきたすレベルの重度の腋臭症であることとされています。
診断は通常、医師による問診と臭いの客観的評価によって行われます。一般的には「ガーゼテスト」という方法が用いられ、脇にガーゼを挟んで数分間汗をかく運動をした後、医師がガーゼの臭いを嗅いで程度を判定します。臭いの程度はレベル1(軽度)からレベル5(重度)まで分類され、一般的にレベル3以上が手術適応とされています。
保険適用で手術を受けた場合、3割負担の方で両脇で約4~5万円程度の自己負担となります。術前の血液検査や術後の通院費は別途数千円程度が必要です。しなこさんが「保険適応で5万円?でやれました!」と報告していたのは、まさにこの保険適用の剪除法を受けたためです。
治療法別の費用相場
ワキガ治療の費用は、治療法や医療機関によって大きく異なります。以下に各治療法の一般的な費用相場をまとめます。
剪除法(皮弁法)の場合、保険適用であれば3割負担で両脇4~5万円程度です。保険適用外(自費診療)の場合は、両脇で30~50万円程度かかることがあります。
ミラドライは保険適用外のため、両脇で20~40万円程度が相場です。クリニックによってはモニター価格やキャンペーン価格が設定されている場合もあります。
ボトックス注射は、保険適用の場合(重度原発性腋窩多汗症)は3割負担で両脇2~3万円程度です。保険適用外の場合は両脇で4~8万円程度となります。ただし、効果が4~6ヶ月程度で薄れるため、年間では8~16万円程度の費用がかかる計算になります。
外用薬(塩化アルミニウム液など)は、1本あたり1,000~3,000円程度で、月に1~2本程度使用するのが一般的です。
ワキガ治療を受ける前に知っておきたいこと
ワキガ治療を検討している方は、以下の点を事前に理解しておくことが大切です。
完全に無臭になるとは限らない
どのような治療法を選択しても、アポクリン汗腺を100%完全に取り除くことは困難です。剪除法であっても95%以上の除去が限界であり、残りの汗腺から若干の臭いが発生する可能性はあります。ただし、適切に治療が行われれば、日常生活に支障のないレベルまで臭いを軽減することは十分に可能です。しなこさんが「全く無臭になった」と報告しているように、多くの方が手術に満足しています。
傷跡やダウンタイムについて
剪除法は傷跡が残る手術であることを理解しておく必要があります。傷跡の程度は医師の技術や個人の肌質によって異なりますが、完全に消えることはありません。また、術後1~2週間は圧迫固定が必要であり、腕を大きく動かすことが制限されます。シャンプーなどの日常動作にも支障が出ることがあるため、手術のタイミングは慎重に検討しましょう。
一方、ミラドライは傷跡が残らず、ダウンタイムも短いですが、術後数日間は腫れや痛み、しびれなどの副作用が生じることがあります。
医療機関・医師の選び方
ワキガ治療、特に剪除法は医師の技術によって効果に大きな差が出ます。経験豊富な医師が丁寧に手術を行えば高い効果が得られますが、アポクリン汗腺の取り残しがあると効果が不十分になったり、再発したりすることがあります。形成外科専門医や皮膚科専門医が在籍し、ワキガ治療の症例数が多い医療機関を選ぶことをお勧めします。
日常生活でできるワキガ対策
手術や治療を受けるかどうかに関わらず、日常生活でできるワキガ対策を実践することで、臭いを軽減することができます。ワキガは「汗や脂などの分泌物+細菌」が臭いの原因であるため、これらを考慮した生活習慣を心がけることが重要です。
まず、脇を常に清潔に保つことが基本です。こまめにシャワーを浴び、入浴時には薬用石鹸を使用して脇を丁寧に洗いましょう。日中は必要に応じてアルコール綿で脇を拭くことも効果的です(ただし、肌の弱い方は刺激に注意してください)。
制汗剤やデオドラント剤は、皮膚を清潔にした状態で使用すると効果が高まります。入浴後や汗を拭いた後など、脇が清潔な状態で塗布しましょう。しなこさんも手術前は「いろんな制汗剤を駆使」していたと語っており、手術後も制汗剤を併用している方は多くいます。
脇毛の処理も効果的な対策の一つです。脇毛には汗や分泌物が付着しやすく、細菌の繁殖を促してしまうため、脱毛や剃毛をすることで臭いを軽減できます。
衣類の素材選びも重要です。通気性の良い天然素材(綿など)の衣類を選ぶことで、蒸れを防ぎ、細菌の繁殖を抑えることができます。また、抗菌・消臭加工が施されたインナーを着用するのも効果的です。
食生活の見直しも検討してみましょう。動物性脂肪やタンパク質を多く含む食事を控え、野菜や魚を中心とした和食を意識することで、アポクリン汗腺からの分泌物の質に変化が生じ、臭いが軽減される可能性があります。
規則正しい生活を送り、十分な睡眠をとることも大切です。ストレスや睡眠不足は自律神経のバランスを乱し、発汗を促進することがあります。リラックスした状態を保つことで、余計な発汗を抑えることができます。

よくある質問
ワキガは優性遺伝(顕性遺伝)の形式で遺伝することがわかっています。両親ともにワキガ体質である場合は約80%の確率で、片親がワキガ体質である場合は約50%の確率で子どもに遺伝するとされています。ただし、遺伝しても必ずしも症状が強く現れるわけではなく、個人差があります。
ワキガは主に思春期(第二次性徴期)から発症します。アポクリン汗腺は性ホルモンの影響を受けて活発になるため、女性は平均16歳、男性は平均18歳で症状が現れ始めるというデータがあります。早い場合は小学生の頃から発症することもあります。
剪除法などの手術を適切に行えば、アポクリン汗腺の95%以上を除去することが可能であり、多くの方が日常生活に支障のないレベルまで臭いが軽減します。しなこさんのように「全く無臭になった」と実感される方も多いです。ただし、100%完全に無臭になることを保証するものではなく、若干の臭いが残る可能性はあります。
ワキガ治療のうち、剪除法(皮弁法)は保険適用で受けることができます。医師による診断で「腋臭症」と認められ、治療が必要と判断された場合に保険が適用されます。3割負担の方で両脇約4~5万円程度の自己負担で手術を受けられます。ミラドライやボトックス注射は原則として保険適用外です。
剪除法の場合、術後は圧迫固定が必要であり、1~2週間程度は腕の動きに制限が生じます。抜糸は通常1~2週間後に行います。デスクワークであれば数日後から復帰可能な方もいますが、重いものを持つ作業や腕を大きく動かす動作は2~3週間程度控える必要があります。ミラドライの場合はダウンタイムが短く、当日から日常生活に戻れることが多いです。
ワキガは他人にうつることはありません。ワキガはアポクリン汗腺の数や大きさによって決まる体質的なものであり、感染症ではないため、他人との接触によって移ることはありません。突然ワキガになることもなく、体質として生まれつき決まっているものです。
中学生くらいから手術は可能ですが、体格や本人の意識の程度、症状の重さなどを総合的に判断する必要があります。成長期の場合、手術後に体の成長とともに残った汗腺が発達し、症状が再発するリスクもあります。お子さんの場合は、まずはボトックス注射や外用薬などの保存的治療から始めることも選択肢の一つです。
はい、同時に治療することが可能です。剪除法ではアポクリン汗腺だけでなくエクリン汗腺も一部除去されるため、ワキガと多汗症の両方に効果があります。ミラドライもアポクリン汗腺とエクリン汗腺の両方を破壊するため、同様に両方の症状を改善できます。
まとめ
人気インフルエンサーのしなこさんがワキガ手術を公表したことは、同じ悩みを持つ多くの方々に勇気と希望を与えました。ワキガは日本人の約10%が該当する体質的な症状であり、決して珍しいことでも恥ずかしいことでもありません。
ワキガの原因は、アポクリン汗腺から分泌される汗が皮膚の常在菌によって分解されることで発生する特有の臭いです。アポクリン汗腺の数や大きさは遺伝的に決まっており、思春期以降に症状が顕在化することが多くあります。
治療法には、保険適用で受けられる剪除法(皮弁法)、切らずに治療できるミラドライ、一時的に汗を抑えるボトックス注射など、複数の選択肢があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、症状の程度やライフスタイル、費用などを考慮して、自分に合った治療法を選ぶことが大切です。
ワキガでお悩みの方は、一人で抱え込まず、まずは専門の医療機関に相談されることをお勧めします。適切な治療を受けることで、しなこさんのように「ストレスフリーになって最高」と感じられる日が来ることでしょう。当院でもワキガ治療に関するご相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
参考文献
- 日本医科大学武蔵小杉病院 形成外科「ワキガ(腋臭症)の治療〜ニオイの診断と手術〜」
- 済生会「ワキガの悩みとさようなら!今すぐ試せるケア方法」
- 公益社団法人日本皮膚科学会「汗の病気―多汗症と無汗症― Q5」
※本記事は医療情報の提供を目的としたものであり、診断・治療を行うものではありません。症状がある方は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務