近年、ダイエットに効果があるとして注目を集めている「リベルサス」。この薬は本来、2型糖尿病の治療薬として開発されましたが、体重減少効果が認められることから、メディカルダイエットの分野でも広く使用されています。しかし、その効果や安全性について正しく理解している方は少ないのが現状です。
本記事では、リベルサスのダイエット効果について、科学的根拠に基づいた詳細な解説を行います。
リベルサスとは何か
基本的な概要
リベルサス(Rybelsus)は、有効成分セマグルチド(semaglutide)を含有する経口GLP-1受容体作動薬です。2020年6月に日本で2型糖尿病治療薬として承認され、世界で初めて飲み薬として実用化されたGLP-1受容体作動薬という画期的な特徴を持ちます。
従来のGLP-1受容体作動薬は注射でしか投与できませんでしたが、リベルサスは特殊な吸収促進剤であるサルカプロザートナトリウム(SNAC)を配合することで、経口投与を可能にしました。SNACは胃内で錠剤が崩壊した後、局所的に胃のpHを一時的に上昇させ、タンパク質分解酵素によるセマグルチドの分解を抑制し、胃粘膜での吸収を促進します。
用量と特徴
リベルサスは3mg、7mg、14mgの3種類の規格があり、通常は3mgから開始し、4週間以上投与した後に7mgに増量、さらに効果不十分な場合は14mgまで増量することができます。1日1回の服用で効果が持続するため、継続しやすい治療法といえます。
リベルサスの作用機序とダイエット効果の科学的根拠
GLP-1の生理学的役割
リベルサスの理解には、まずGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の働きを知ることが重要です。GLP-1は、食事摂取後に小腸から分泌されるインクレチンと呼ばれるホルモンの一つで、以下のような生理学的作用を持ちます:
血糖依存性の作用 GLP-1は「血糖依存性」という重要な特徴を持ちます。これは、血糖値が正常または低い時には作用せず、血糖値が高い時のみインスリン分泌を促進する性質です。このため、単独使用時の重篤な低血糖リスクが極めて低いとされています。
満腹中枢への作用 GLP-1は脳の視床下部にある満腹中枢に直接作用し、満腹感を高め、空腹感を抑制します。これにより、食事摂取量が自然に減少します。
胃内容物排出の調節 GLP-1は胃の運動を緩やかにし、食べ物が胃から小腸へ送られる速度を遅らせます。これにより、食後の満腹感が長時間持続し、次の食事までの空腹感が軽減されます。
セマグルチドの特徴
リベルサスの有効成分であるセマグルチドは、天然のGLP-1の構造を少し変更することで、体内での分解を受けにくくしたものです。その結果、血中半減期が約1週間と長く、持続的な効果を発揮します。
セマグルチドは以下の複数の機序でダイエット効果をもたらします:
- 食欲抑制作用:脳の食欲調節中枢に作用し、自然な食欲減退を促します
- 満腹感の持続:胃内容物の排出を遅らせ、少量の食事でも満足感を得られます
- 基礎代謝の向上:褐色脂肪細胞の活性化により、エネルギー消費を促進します
- 脂肪分解の促進:脂肪細胞での脂肪分解を促進し、体脂肪の減少を助けます
臨床試験データに基づく効果の検証
PIONEER試験シリーズ
リベルサスの有効性は、9,543例(日本人1,293例を含む)を対象とした大規模な第III相臨床試験であるPIONEER試験シリーズで検証されました。
PIONEER-4試験の結果 日本人を含む2型糖尿病患者を対象とした試験では、リベルサス14mgを26週間(約半年)投与した結果、平均4.4kgの体重減少が確認されました。これは同期間にプラセボ(偽薬)を服用した群と比較して、統計学的に有意に大きな差でした。
PIONEER-8試験の結果 こちらも同様に、リベルサス14mg投与群で有意な体重減少効果が示されています。
STEP試験シリーズ(セマグルチド注射薬での結果)
リベルサスと同じ有効成分セマグルチドの注射製剤を用いたSTEP試験では、より顕著な結果が得られています:
STEP-1試験 非糖尿病の肥満者1,961名を対象とした68週間の試験では、セマグルチド2.4mg週1回投与群で平均14.9%の体重減少(プラセボ群は2.4%)を達成しました。100kgの人であれば約15kgの減量に相当します。
STEP-2試験 肥満を伴う2型糖尿病患者を対象とした試験では、セマグルチド2.4mg投与群で9.6%、1.0mg投与群で7.0%の体重減少が確認されました(プラセボ群は3.4%)。
STEP-3試験 集中的な生活習慣介入と併用した試験では、セマグルチド2.4mg投与群で16.0%の体重減少を達成しました。
東アジア人での効果
日本人を含む東アジア人を対象とした研究では、セマグルチド2.4mg投与群で13.2%の体重減少が確認され、83%の患者が5%以上の体重減少を達成しました。これは欧米人と同様の効果を示しており、アジア人においても有効性が証明されています。
実際のダイエット効果とその期待値
現実的な減量目標
臨床データを基にした現実的な期待値は以下の通りです:
リベルサス7mg:約2kg程度の体重減少 リベルサス14mg:約4kg程度の体重減少
ただし、実際の治療では研究データを上回る結果を得る患者も少なくありません。これは、研究対象者の多くが重度の肥満患者であり、比較的肥満度の低いメディカルダイエット対象者の方がリベルサスに対する感受性が高い可能性があるためです。
効果発現までの期間
リベルサスの効果発現には時間がかかります:
- 初期の変化:服用開始から2-4週間で食欲減退を実感
- 体重減少の実感:2-3ヶ月で見た目の変化を実感
- 最大効果:3-6ヶ月で最大の効果を発揮
個人差はありますが、毎日500kcalのカロリー摂取抑制ができた場合、月に約2kgの体重減少が期待できる計算になります。ダイエットで見た目が変わる目安は4-5kgといわれており、継続的な服用により段階的に効果が現れます。
実際の症例
症例1:59歳男性、BMI 32の2型糖尿病患者 食事運動療法で3ヶ月間2.6kg減量後、リベルサス併用により13.9kg減量し、計16.5kg減量を達成。
症例2:30代女性、BMI 22.5 リベルサス7mg継続により6ヶ月間で7.8kg減量し、BMI 18.5近くまで減量。
これらの症例からもわかるように、適切な使用により確実な減量効果が期待できます。
副作用と安全性について
主な副作用の頻度と症状
リベルサスの副作用は主に消化器系に現れます:
頻度5%以上
- 悪心(吐き気)
- 下痢
頻度1-5%未満
- 食欲減退
- 頭痛
- 嘔吐
- 便秘
- 腹痛
- 消化不良
これらの症状は多くの場合、服用開始から2-3週間で自然に軽減されます。これはリベルサスが胃腸の動きを抑制する作用によるもので、体が薬に慣れるにつれて症状は改善されます。
重篤な副作用
頻度は低いものの、以下の重篤な副作用が報告されています:
急性膵炎(0.1%) 嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛が特徴です。この症状が現れた場合は直ちに投与を中止し、医療機関を受診する必要があります。
低血糖(頻度不明) 他の糖尿病治療薬との併用時や過度な食事制限時に発現する可能性があります。脱力感、冷汗、動悸、振戦などの症状が現れます。
胆嚢炎・胆管炎・胆汁うっ滞性黄疸(いずれも頻度不明) 腹痛などの腹部症状が続く場合は、医師への相談が必要です。
副作用への対処法
吐き気・嘔吐
- 消化に良い食事を心がける
- 少量ずつ頻回に食事を摂る
- 症状が強い場合は医師に相談
下痢
- 脱水予防のため十分な水分補給
- 症状が続く場合は医師に相談
低血糖
- 糖分を含む食品(飴、ジュースなど)を摂取
- 意識低下やけいれんがある場合は緊急受診
正しい服用方法と注意点
基本的な服用方法
服用タイミング 1日1回、起床時に空腹状態で服用します。服用後30分間は食事、飲水(少量の水は除く)、他の薬剤の服用を避ける必要があります。
用量調整 通常は3mgから開始し、4週間以上投与後に7mgに増量、さらに効果不十分な場合は14mgまで増量可能です。
服用時の注意
- 噛み砕いたり、砕いたりせず、そのまま飲み込む
- 服用後30分は横にならない
- アルコールとの同時摂取は避ける
効果を高めるための生活習慣
リベルサスの効果を最大限に発揮するためには、以下の生活習慣の見直しが重要です:
食事療法
- バランスの取れた食事を心がける
- 高カロリー・高脂肪・高糖質食品の摂取を控える
- 食物繊維やタンパク質を意識的に摂取する
- 間食や過食を避ける
運動療法
- ウォーキングなどの有酸素運動を取り入れる
- 階段の利用など日常的な活動量を増やす
- 基礎代謝向上のための軽い筋力トレーニング
生活リズムの改善
- 規則正しい食事時間の維持
- 十分な睡眠の確保
- ストレス管理
リベルサスが適さない人・注意が必要な人
禁忌(絶対に使用できない方)
以下に該当する方はリベルサスを使用できません:
- 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある方
- 糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡の方
- 1型糖尿病の方
- 重症感染症、手術等の緊急時の方
慎重投与が必要な方
以下に該当する方は医師との十分な相談が必要です:
膵炎の既往歴がある方 リベルサスは急性膵炎のリスクがあるため、特に注意が必要です。
重度の胃腸障害がある方 胃腸障害の症状が悪化する可能性があります。
低血糖を起こしやすい方
- 脳下垂体機能不全・副腎機能不全のある方
- 栄養不良状態、飢餓状態の方
- 不規則な食事摂取の方
- 激しい運動をする方
- 過度のアルコール摂取をする方
胃摘出術を受けた方 リベルサスは胃で吸収されるため、有効性が期待できない可能性があります。
高齢者 一般的に生理機能が低下しているため、慎重な投与が必要です。
併用注意薬
以下の薬剤との併用時は特に注意が必要です:
- インスリン製剤
- スルホニルウレア剤
- α-グルコシダーゼ阻害剤
- その他の糖尿病治療薬
これらとの併用により低血糖のリスクが高まる可能性があります。

よくある質問
A1: 個人差はありますが、食欲抑制効果は服用開始から2-4週間で実感できることが多く、体重減少効果は2-3ヶ月で見た目の変化として現れることが一般的です。最大効果は3-6ヶ月程度の継続服用で得られます。
A2: リベルサスは2型糖尿病の治療薬として保険適用されていますが、ダイエット目的での使用は適応外処方となり、自費診療となります。
A3: 軽度の胃腸症状であれば様子を見ることも可能ですが、症状が続く場合や重篤な症状(激しい腹痛、低血糖症状など)が現れた場合は、直ちに医師に相談してください。
A4: リベルサス中止後は食欲が元に戻る可能性があるため、減量した体重を維持するためには生活習慣の改善が重要です。段階的な減量と併せて、食事・運動療法の継続が推奨されます。
A5: 他のダイエット薬、特に糖尿病治療薬との併用は副作用のリスクが高まる可能性があります。必ず医師に相談し、適切な管理下で行うことが重要です。
適切な医療機関での処方の重要性
リベルサスは医師の処方が必要な医薬品であり、適切な診断と継続的な管理が不可欠です。特に以下の点が重要です:
専門医による管理
糖尿病専門医や内科専門医による処方と管理が推奨されます。これらの専門医は:
- 適切な適応判断ができる
- 副作用の早期発見と対処ができる
- 他の疾患との関連を総合的に判断できる
- 必要な検査を適切に実施できる
定期的な検査とモニタリング
リベルサス治療中は以下の検査が必要です:
- 血糖値・HbA1c
- 肝機能検査
- 腎機能検査
- 膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)
- 体重・BMIの推移
インフォームドコンセント
ダイエット目的でのリベルサス使用は適応外処方となるため、以下について十分な説明と同意が必要です:
- 薬剤の効果と限界
- 副作用のリスク
- 医薬品被害救済制度の対象外であること
- 継続的な管理の必要性
まとめ
リベルサスは、科学的根拠に基づいた確実なダイエット効果を持つ画期的な薬剤です。PIONEER試験やSTEP試験などの大規模臨床試験により、その有効性と安全性が証明されています。
主なポイント:
- 確実な効果:臨床試験で平均2-4kgの体重減少効果が証明されている
- 作用機序:GLP-1受容体を介した食欲抑制と代謝改善により効果を発揮
- 安全性:適切な使用により重篤な副作用のリスクは低い
- 継続性:1日1回の経口投与で継続しやすい
- 個別化医療:患者の状態に応じた用量調整が可能
ただし、リベルサスは「飲むだけで痩せる魔法の薬」ではありません。最大の効果を得るためには、適切な食事療法と運動療法との組み合わせが不可欠です。また、副作用のリスクもあるため、必ず専門医の指導の下で使用することが重要です。
メディカルダイエットを検討される際は、信頼できる医療機関で十分な説明を受け、継続的な管理の下で安全に治療を受けることをお勧めします。
参考文献
- 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2019』南江堂, 2019年 https://www.jds.or.jp/modules/education/index.php?content_id=11
- J-STAGE『2型糖尿病治療剤 経口GLP-1受容体作動薬:経口セマグルチド(リベルサス®錠)』 https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/157/2/157_21052/_article/-char/ja/
- The New England Journal of Medicine『過体重または肥満の成人に対するセマグルチドの週1回投与』 https://www.nejm.jp/abstract/vol384.p989
- MSD Connect『PIONEER試験 臨床成績』 https://www.msdconnect.jp/products/rybelsus/clinical-results/
- 日本肥満学会『肥満症診療ガイドライン2022』ライフサイエンス出版, 2022年 https://www.jasso.or.jp/contents/magazine/
- 厚生労働省『医薬品・医療機器等安全性情報』 https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/calling-attention/safety-info/0001.html
- 糖尿病リソースガイド『GLP-1受容体作動薬の最新動向』 https://dm-rg.net/
- 日本内分泌学会『内分泌代謝科専門医研修ガイドブック』 https://www.j-endo.jp/
免責事項: 本記事は医学的情報の提供を目的としており、特定の治療法を推奨するものではありません。リベルサスの使用を検討される場合は、必ず医師にご相談ください。また、本記事の内容は2025年9月時点の情報に基づいており、最新の情報については各種ガイドラインや添付文書をご確認ください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務