皮膚にできるほくろは、誰にでもある身近な存在です。しかし、そのほくろの中には「危ないほくろ」と呼ばれる、皮膚がんの可能性があるものが潜んでいることをご存じでしょうか。特に悪性黒色腫(メラノーマ)は、ほくろと見分けがつきにくいにもかかわらず、進行すると命に関わる重大な疾患です。本記事では、危ないほくろの特徴や写真で見るチェックポイント、良性のほくろとの見分け方、そして皮膚科を受診すべきタイミングについて、医学的な観点から詳しく解説します。早期発見・早期治療が何より重要な皮膚がんだからこそ、正しい知識を身につけ、日頃からご自身の皮膚をチェックする習慣を持ちましょう。
目次
- ほくろとは何か?良性のほくろの基本知識
- 危ないほくろとは?皮膚がんの種類と特徴
- 写真で見る危ないほくろの見分け方「ABCDEルール」
- 日本人に多い末端黒子型メラノーマの特徴
- 悪性黒色腫(メラノーマ)の4つのタイプ
- 基底細胞がんの特徴と見分け方
- ダーモスコピー検査とは
- 皮膚科を受診すべきタイミング
- 皮膚がんの予防法と日常的なセルフチェック
- よくある質問
ほくろとは何か?良性のほくろの基本知識
ほくろは医学的には「母斑細胞母斑」または「色素細胞母斑」「色素性母斑」と呼ばれ、皮膚にできる黒色や褐色の色素斑や小さな塊(腫瘤)のことを指します。これは皮膚の母斑細胞が異常に増殖することによってできるもので、良性であり、基本的には身体に害を及ぼすことはありません。
ほくろの多くは後天的に発生し、幼少期から増え始め、20代から30代にピークを迎えます。形状はいぼ状のものから平らなものまでさまざまで、大きさは直径1.5cm以下、その多くは5mm以下です。直径1.5cmから20cmの母斑は「黒あざ」と呼ばれることもあります。
良性のほくろには以下のような特徴があります。
まず、形が円形または楕円形で左右対称であることが挙げられます。輪郭がはっきりしており、周囲の皮膚との境目が明確です。また、色が均一で、一つのほくろの中に複数の色調が混在していません。さらに、大きさが6mm以下であることがほとんどで、時間が経っても急激に大きくなることはありません。これらの特徴に当てはまるほくろは、基本的に放置しても問題ないとされています。
ただし、ほくろは年齢とともに変化することもあります。平らだったほくろが盛り上がってくることは珍しくなく、それ自体は必ずしも異常ではありません。しかし、後述するような特徴的な変化が見られた場合には、専門医の診察を受けることが重要です。
危ないほくろとは?皮膚がんの種類と特徴
「危ないほくろ」とは、皮膚がんの可能性がある、あるいは皮膚がんそのものである色素性病変を指します。ほくろは皮膚にできる良性の腫瘍ですが、その中には悪性化する可能性があるものや、最初から悪性腫瘍であるものが含まれています。
通常のほくろは色や形が一定で、時間が経っても大きな変化は見られません。一方、危ないほくろは色が変わる、形が不規則になる、サイズが急に大きくなるなどの変化が見られます。これらの変化は、皮膚がんの初期症状として現れることが多いため、注意が必要です。
皮膚がんには大きく分けて3つの種類があります。黒くなるもの、赤くなるもの、その他の3種類です。このうち、ほくろと見間違えやすい黒いものには「悪性黒色腫(メラノーマ)」と「基底細胞がん」があります。
悪性黒色腫(メラノーマ)は、皮膚の色を作り出すメラニン色素を産生するメラノサイト(色素細胞)ががん化した腫瘍です。悪性度が非常に高く、進行すると他の臓器に転移しやすいという特徴があります。日本人での発症率は10万人に1人から2人程度と決して高くはありませんが、この30年間で発症頻度は2倍以上に増加しています。初期にはほくろのように見えることが多く、見過ごされがちですが、早期発見と早期治療が予後を大きく左右します。
基底細胞がんは、皮膚がんの中で最も発生頻度が高いがんです。表皮の最下層にある基底細胞や毛包を構成する細胞からがん化して発生します。日本人の場合は黒色のものが多く、ほくろと見間違えやすい特徴があります。多くは鼻や瞼といった顔面の中央に発生し、表面に光沢があり、黒くつやつやとした腫瘍として現れます。転移することはまれですが、放置すると周囲の組織を破壊しながら進行し、長年の間に目や口や鼻が変形する可能性もあるため、早めの治療が必要です。
写真で見る危ないほくろの見分け方「ABCDEルール」
危ないほくろを見分けるために、国際的に用いられているのが「ABCDEルール」です。これは米国皮膚科学会などで推奨されている、悪性黒色腫(メラノーマ)を早期に発見するための5つの視点を示したものです。自宅でほくろをチェックする際の目安として、ぜひ覚えておきましょう。
Aは「Asymmetry(非対称性)」を意味します。通常のほくろは円形や楕円形で左右対称な形をしていますが、悪性黒色腫は整った形をしておらず、左右非対称でいびつな形をしているケースが多いです。ほくろの中心を通る線を引いたとき、左右の形が大きく異なる場合は注意が必要です。
Bは「Border(境界)」を表しています。良性のほくろは輪郭がはっきりしており、周囲の皮膚との境目が明確です。一方、悪性黒色腫は周囲の皮膚との境界線が不明瞭で、ギザギザになっていたり、ぼやけていたりすることが多いです。ほくろの周辺の皮膚にまで色がしみ出している場合も要注意です。
Cは「Color(色)」です。通常のほくろは色が均一で、一つのほくろ全体が同じような色調をしています。悪性黒色腫では、色にムラがあり、黒、茶色、褐色、赤、白、青などの複数の色調が一つのほくろの中に混在していることがあります。色が不均一なほくろは、専門医に相談することをお勧めします。
Dは「Diameter(直径)」を指します。一般的にほくろは6mm以下の大きさですが、悪性黒色腫は6mm以上の大きさになることが多いとされています。直径6mmは消しゴム付き鉛筆の消しゴム部分くらいの大きさです。ただし、6mm未満の悪性黒色腫も存在するため、大きさだけで判断することは危険です。
Eは「Evolving(変化)」または「Evolution(進化)」を意味します。良性のほくろは基本的に時間が経っても大きな変化はありませんが、悪性黒色腫は時間とともに形、色、大きさが変化していきます。短期間で急激に大きくなったり、色が変わったり、出血したりする場合は、速やかに医療機関を受診してください。
東邦大学医療センター大森病院皮膚科によると、これら5つのポイントのうち4つ以上に当てはまると悪性を疑う必要があり、2つ以下の場合は良性、つまり色素性母斑(ほくろ)と考えて良いとされています。ただし、これはあくまでも目安であり、自己判断で医療機関を受診しないのは危険です。少しでも気になるほくろがある場合は、早めに皮膚科を受診しましょう。
日本人に多い末端黒子型メラノーマの特徴
悪性黒色腫(メラノーマ)にはいくつかのタイプがありますが、日本人に最も多いのが「末端黒子型黒色腫」です。日本人のメラノーマ患者の約40%から50%がこのタイプであり、欧米人に多い「表在拡大型」とは発生部位や特徴が異なります。
末端黒子型黒色腫は、足の裏や手のひら、手足の爪(正確には爪下部)などに発生するメラノーマです。これらの部位は日常的に機械的な刺激や外傷を受けやすく、それが原因の一つと考えられています。特に足の裏は体重がかかり、歩行による摩擦や圧迫を常に受けているため、注意が必要な部位です。
末端黒子型黒色腫の初期症状としては、形がはっきりしない褐色または黒褐色のシミが現れることが多いです。色は単一ではなく濃淡があり、数カ月から数年かけてシミの中にしこりや潰瘍ができることもあります。爪に発生した場合は、爪の中に黒褐色の縦線のようなものが通っているように見えることがあります。これは爪甲色素線条と呼ばれ、正常な状態でも見られることがある症状ですが、線が太くなったり、不規則な形になったり、爪の周囲の皮膚にまで色素が広がったりする場合は、メラノーマの可能性があります。
岡山大学病院メラノーマセンターによると、足の裏のメラノーマの初めは普通のほくろとは異なり、中年以降に出てくること、形がいびつであること、色に濃淡があること、直径が7mm以上あることという特徴があります。足の裏や手のひら、爪のあたりに気になる色素斑がある場合は、これらの特徴に当てはまらないかチェックしてみてください。
足の裏や爪は自分では確認しにくい部位であり、発見が遅れやすいという問題もあります。定期的にこれらの部位を鏡などを使ってチェックする習慣をつけることが、早期発見につながります。特に40代から50代以降の方は、注意深く観察することをお勧めします。
悪性黒色腫(メラノーマ)の4つのタイプ
悪性黒色腫(メラノーマ)は、発生しやすい部位や形態によって主に4つのタイプに分類されます。それぞれ特徴が異なりますが、治療法に大きな差はありません。ここでは各タイプの特徴について詳しく解説します。
まず「悪性黒子型」は、高齢者の顔面に多く発生するタイプです。慢性的な紫外線照射が関係すると言われており、10年以上かけて水平方向に徐々に大きくなっていきます。不規則な形のシミが徐々に拡大し、やがて中央が膨らんで大きくなってきます。進行すると病変内に腫瘤や潰瘍が生じることもあります。
次に「表在拡大型」は、白人に最も多いタイプで、日本人でも肌の色が白い人に発生が多いとされています。あらゆる年齢層の体幹や下肢に発生し、紫外線照射が関係すると言われています。黒いボタンを置いたような見た目を呈することが多く、黒い平らなほくろとなりやすいのが特徴です。
「結節型」は、固く盛り上がった塊がだんだん大きくなってくるタイプです。40代から50代の発症が多く、全身のどこにでも発生します。結節、腫瘤のみで色素斑が生じない病変であり、周囲に末端黒子型で見られるような平らな色素斑がないことが特徴です。腫瘍の厚さが予後に関係するため、このタイプは一般に予後が良くないとされています。
「末端黒子型」は、先述の通り日本人に最も多いタイプで、足の裏や手足の爪に発生します。一般に青年から壮年期以降に発症し、40代から50代で発症することが多いです。最初は不整形の黒色斑で始まり、数カ月から数年を経て色素斑内に結節や腫瘤、潰瘍を生じます。シミの中央に盛り上がった塊ができるのが特徴的な症状です。
これらの4タイプには含まれませんが、数パーセントの頻度で粘膜に生じるメラノーマもあります。鼻の中、口の中、お尻、外陰部などの粘膜に発生し、白人では1から2パーセント程度ですが、日本人では全体の約15パーセントと比較的多いことが特徴です。症状が現れて初めて診断されるため、進行していることが多いとされています。
悪性黒色腫は、病気の進行が極めて早く、手術をしても早い時期に再発や転移することが少なくありません。1カ月から2カ月で全身状態が変わることもあるため、メラノーマが疑われる皮膚の異常を見つけたらすぐに受診することが大切です。
基底細胞がんの特徴と見分け方
基底細胞がんは、皮膚がんの中で世界で最も多く発生するがんであり、日本人においても最も発生頻度が高い皮膚がんの一つです。ほくろと見間違えやすい黒い腫瘍として現れることが多いため、その特徴を知っておくことは重要です。
基底細胞がんは、表皮の最下層にある基底細胞や、毛を包む組織である毛包から発生すると考えられています。70パーセント以上が紫外線にさらされる頭や顔に発生し、特に鼻や瞼といった顔面の中央に多く見られます。高齢者に多く発生し、年齢とともに発生数も増加しています。
日本人の基底細胞がんの約80パーセントを占めるのが「結節・潰瘍型」です。初期は小さな黒いほくろのように見えますが、だんだん大きくなり盛り上がってきます。「ほくろのような黒い盛り上がり、テラテラした光沢があるほくろ」のように見えることが多いです。表面に蝋のような光沢(蝋様光沢)があるのが特徴的で、中心部がへこんで潰瘍になり、そこから出血することもあります。ほくろに比べて青黒く見えることが多いのも、基底細胞がんの特徴の一つです。
「表在型」の基底細胞がんは、表面に光沢のある淡い紅色から肌色の平坦な病変として現れます。シミのように見えることもあり、悪性黒色腫の悪性黒子型との鑑別が難しいことがあります。
「斑状強皮症型」は、表面に光沢のある淡い紅色から肌色で、硬く盛り上がったタイプです。瘢痕のように見えることもあり、がんと正常な皮膚との境界がわかりにくいため、切除の際には取り残しがないよう注意が必要です。再発を起こしやすいという性質があります。
基底細胞がんは転移することは極めてまれですが、確実に切除しないと局所再発するばかりでなく、周囲に浸潤して筋肉や骨にまで及ぶこともあります。そのため、しっかりと初回手術で取り切ることが大切です。見た目がほくろに似ているため、自己判断は危険です。ほくろかどうか気になったら、直ちに皮膚科を受診し、医師の判断を仰ぐようにしましょう。
ダーモスコピー検査とは
ダーモスコピー検査は、ほくろや皮膚の腫瘍が良性か悪性かを判断するために用いられる、非常に有用な検査方法です。肉眼では見分けがつきにくい病変も、この検査によってより正確に診断することが可能になります。
ダーモスコピーとは、ダーモスコープというライトがついた拡大鏡のような診療器具を使用して、皮膚病変の表面を拡大して詳しく観察する検査です。エコージェルや偏光レンズで皮膚表面の光の乱反射を除いた状態で、強い光線を照射することにより、皮膚病変を10倍から30倍に拡大して観察することができます。これにより、普通に見ただけでは判断の難しい皮膚病変の診断が可能になります。
この検査の最大の利点は、痛みを伴うことなく皮膚病変の表面を詳細に観察できることです。皮膚表面の色素の状態が詳しく診察でき、その色調や色素のパターン、分布などから、メラノーマと良性の色素性疾患(ほくろ、しみ、血まめなど)を正確に診断できる確率が高くなります。
日本皮膚科学会によると、ダーモスコピー診断法に習熟した皮膚科医が悪性黒色腫(特に早期の病変)を診断した場合、ダーモスコピーを用いると肉眼での診断と比べて4倍から9倍診断精度が向上すると報告されています。この検査は現在広く普及しており、メラノーマの早期発見・早期治療に大きく貢献しています。
ダーモスコピー検査は健康保険も適用されており、3割負担の場合は数百円程度の費用で受けることができます。検査時間は10分程度で、痛みもないため、気軽に受けやすい検査です。
ただし、すべての病変をダーモスコピーのみで正確に診断できるわけではありません。確定診断のためには、病変の一部や全部を切り取って顕微鏡で組織を調べる生検が必要になることがあります。ダーモスコピーで悪性の疑いがある場合や、診断が難しい場合には、生検による病理検査が行われます。
足の裏のほくろが良性か悪性(悪性黒色腫)かを診断する際に、ダーモスコピーは特に有用です。岡山大学病院メラノーマセンターによると、足の裏をダーモスコピーで拡大して見ると、浅い溝が平行または格子状にきれいに並んでいます。良性のほくろではこの溝の部分に黒い色がつきますが、メラノーマの初期では色素沈着は溝と溝の間の部分に見られます。このような所見から、足の裏のほくろとメラノーマをある程度の自信を持って区別できるようになりました。
皮膚科を受診すべきタイミング
皮膚にできるほくろのほとんどは、良性の腫瘍であり、過度に心配する必要はありません。しかし、以下のような変化や特徴が見られた場合は、速やかに皮膚科を受診することをお勧めします。
まず、ほくろが急に大きくなった場合です。悪性黒色腫の進行スピードは非常に速く、1カ月から2カ月で周辺に転移することもあります。以前からあったほくろが短期間で明らかに大きくなった場合は、注意が必要です。
次に、ほくろの色が変化した場合です。ほくろの色が濃くなったり、薄い茶色や濃い黒色など複数の色調が一つのほくろの中に混在するようになったりした場合は、悪性黒色腫の兆候である可能性があります。また、赤色や青色、白色などが見られる場合も要注意です。
ほくろの形がいびつになった場合も受診が必要です。円形だったほくろが左右非対称になったり、輪郭がギザギザになったりした場合は、皮膚科医の診察を受けるべきです。
ほくろから出血がある場合や、じゅくじゅくとただれている場合も重要なサインです。通常のほくろは出血したりただれたりすることはありません。このような症状がある場合は、早急に医療機関を受診してください。
ほくろの周囲にかゆみや痛みがある場合も注意が必要です。普通のほくろは、かゆみや痛みを伴うことはまれです。症状が続く場合は、専門医に相談しましょう。
また、中年以降に新しく出てきたほくろで、上記のABCDEルールに当てはまる特徴がある場合は、特に注意が必要です。足の裏や手のひら、爪のあたりに新しくほくろのようなものができた場合も、皮膚科での検査を受けることをお勧めします。
皮膚がんは、内臓のがんと異なり、患者さん自身が目視できるため、本来早期発見がしやすいはずです。どのような見かけのものががんの可能性があるのか、どのタイミングで皮膚科を受診すべきかを知っておくことは非常に大切です。気になるほくろや皮膚の変化がある場合は、自己判断で様子を見続けるのではなく、早めに専門医の診察を受けましょう。
皮膚がんの予防法と日常的なセルフチェック
皮膚がんの多くは紫外線によるダメージが原因と考えられています。そのため、日頃から紫外線対策を行い、定期的にセルフチェックを行うことが、皮膚がんの予防と早期発見につながります。
紫外線対策として最も重要なのは、日光を浴びる量を減らすことです。屋外では日陰に入り、午前10時から午後4時まで(日光が最も強くなる時間帯)の屋外活動を減らすことが推奨されています。日光浴や日焼けマシーンの利用は控えましょう。特に日焼けマシーンの使用は、若年者での使用が黒色腫のリスクを確実に高める可能性があると指摘されています。
外出時には、保護効果の高い衣類を着用することも大切です。長袖のシャツ、長ズボン、つばの広い帽子などで、日光が直接皮膚に当たるのを防ぎましょう。
日焼け止めの使用も効果的です。紫外線防御指数(SPF)30以上で、紫外線A波とB波の両方に対する防御効果のあるものを選び、指示通りに使用しましょう。2時間ごとに塗り直すこと、泳いだ後や汗をかいた後にも塗り直すことが重要です。ただし、日焼け止めを使用したからといって、日光を浴びる時間を増やすことは避けてください。
セルフチェックは、理想的には毎月1回、全身を確認することが望ましいです。入浴後のリラックスした状態が最適なタイミングです。照明の明るい部屋で大きな鏡を使い、体の正面、側面、背面をよく観察します。
セルフチェックの際は、以下の部位を重点的に確認しましょう。顔や首、手の甲など紫外線を浴びやすい部位はもちろん、足の裏、手のひら、爪のあたりも丹念にチェックします。頭皮は手鏡を用いて髪をかき分けて観察し、背中やお尻、陰部なども手鏡を使って確認しましょう。
セルフチェックでは、新しくできたほくろや既存のほくろの変化に注目します。いつもと違うものが出てきた、色が黒い、赤い、触ってみると硬い、痛いなどの変化がないかチェックしてみましょう。ABCDEルールに当てはまる特徴がないかも確認し、気になる変化があれば早めに皮膚科を受診することが大切です。
皮膚がんの既往がある方や強い家族歴がある方、免疫抑制薬を使用している方は、医療専門職による年1回の皮膚診察を受けることが推奨されています。早期発見・早期治療が皮膚がんの予後を大きく左右するため、自己チェックと専門医による定期的な診察の両方を心がけましょう。

よくある質問
危ないほくろとは、皮膚がん(特に悪性黒色腫や基底細胞がん)の可能性がある色素性病変を指します。具体的には、形が左右非対称、輪郭がギザギザで不明瞭、色にムラがある、直径が6mm以上、短期間で形や色が変化するといった特徴を持つほくろです。これらの特徴は「ABCDEルール」として知られており、当てはまる項目が多いほど悪性の可能性が高くなります。ただし、自己判断は危険ですので、気になるほくろがある場合は皮膚科を受診してください。
足の裏のほくろは、その多くが良性であり、すべてが危険というわけではありません。しかし、日本人に多い末端黒子型メラノーマは足の裏に発生しやすいため、注意が必要な部位です。中年以降に新しくできた、形がいびつで、色に濃淡があり、直径が7mm以上あるほくろは特に注意が必要です。足の裏のほくろが気になる場合は、ダーモスコピー検査で良性か悪性かをある程度判断できますので、皮膚科を受診することをお勧めします。
ほくろが大きくなったからといって、必ずしも皮膚がんであるとは限りません。年齢とともにほくろが少し大きくなったり、盛り上がってきたりすることは自然な変化として起こり得ます。しかし、短期間で急激に大きくなった場合や、色や形に変化が見られる場合は、悪性腫瘍の可能性があるため、皮膚科での検査を受けることをお勧めします。特に1~2カ月で明らかに変化した場合は、速やかに受診してください。
ダーモスコピー検査は、皮膚表面に専用レンズを当てて観察するだけの検査であり、痛みは全くありません。注射や切開などは一切なく、10分程度で終わる簡便な検査です。費用は健康保険が適用され、3割負担の場合は診察料と合わせて数百円から1,000円程度です。気軽に受けられる検査ですので、ほくろが気になる方は皮膚科でダーモスコピー検査を受けることをお勧めします。
悪性黒色腫(メラノーマ)は、早期に発見され適切な治療を受ければ、良好な予後が期待できます。特に初期段階で外科手術により完全に切除できた場合は、治癒が見込まれることが多いです。しかし、進行した場合は転移しやすく、予後が悪くなる傾向があります。近年は免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬など新しい治療法が登場し、進行期のメラノーマの治療成績も改善しています。早期発見・早期治療が何より重要ですので、気になる症状があれば早めに皮膚科を受診してください。
基底細胞がんと悪性黒色腫(メラノーマ)は、どちらも黒いほくろのように見えることがありますが、いくつかの違いがあります。基底細胞がんは皮膚がんの中で最も発生頻度が高く、主に顔面(特に鼻や瞼)に発生します。転移することは極めてまれですが、周囲の組織を破壊しながら進行します。表面に蝋のような光沢があるのが特徴です。一方、メラノーマはメラノサイトががん化した悪性度の高いがんで、転移しやすく進行が早いのが特徴です。日本人では足の裏や爪に発生することが多いです。両者とも早期発見・早期治療が重要ですので、気になる黒いできものがあれば皮膚科を受診してください。
参考文献
- 東邦大学「皮膚がんの早期発見で覚えておきたいこと~ほくろと悪性黒色腫(メラノーマ)の5つの見分け方~」
- 一般社団法人日本皮膚悪性腫瘍学会「悪性黒色腫(メラノーマ)」
- 公益社団法人日本皮膚科学会「メラノーマ(ほくろのがん)Q&A」
- 岡山大学病院メラノーマセンター「コラム」
- がん研有明病院「悪性黒色腫(メラノーマ)」
- がん研有明病院「基底細胞がん」
- 国立がん研究センター希少がんセンター「悪性黒色腫(メラノーマ)」
- 国立がん研究センターがん情報サービス「基底細胞がん」
- 済生会「基底細胞がん」
- 慶應義塾大学病院KOMPAS「ダーモスコピー検査」
- 小野薬品工業「悪性黒色腫の検査と診断」
- 小野薬品工業「上皮系皮膚がんのセルフチェック」
※本記事は医学的な情報提供を目的としたものであり、診断や治療を行うものではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務