はじめに
おしりにしこりができて、座るたびに痛みを感じる。このような症状に悩まされている方は少なくありません。デスクワークが中心の現代社会において、座位での痛みは日常生活に大きな支障をきたします。特に渋谷のようなビジネス街で働く方々にとって、長時間のデスクワークや通勤時の座位姿勢は避けられないため、この症状は深刻な問題となります。
おしりのしこりで座ると痛いという症状には、さまざまな原因が考えられます。良性のものから、早期の治療介入が必要なものまで幅広く存在します。本記事では、アイシークリニック渋谷院の医療知見をもとに、おしりのしこりの主な原因、それぞれの症状の特徴、適切な診断方法、そして治療選択肢について詳しく解説していきます。
おしりのしこりで座ると痛い主な原因
おしりにできるしこりで座位時に痛みを伴う疾患は複数あります。ここでは代表的な原因について概要をご紹介します。
粉瘤(アテローム)
粉瘤は皮膚の下に袋状の構造物ができ、その中に角質や皮脂が溜まってしこりを形成する良性腫瘍です。おしりは粉瘤の好発部位の一つであり、座ると圧迫されることで痛みが生じやすい部位です。
毛巣洞(もうそうどう)
毛巣洞は、主におしりの割れ目付近に発生する疾患で、皮膚の下に毛が埋まり込むことで炎症や感染を引き起こします。若年男性に多く見られ、座位時の圧迫により強い痛みを感じることがあります。
痔核(いぼ痔)
肛門周囲の血管がうっ血して腫れた状態を痔核と呼びます。内痔核と外痔核があり、特に血栓性外痔核は急激に腫れて強い痛みを引き起こします。座位時に圧迫されることで痛みが増強します。
肛門周囲膿瘍
肛門周囲の組織に細菌感染が起こり、膿が溜まった状態です。しこりとして触れることができ、座ると強い痛みを感じます。放置すると痔瘻へと進展する可能性があります。
座骨結節滑液包炎
座骨結節という骨の突起部分の周囲にある滑液包が炎症を起こした状態です。長時間の座位や硬い場所に座ることが原因となることが多く、おしりの下部に痛みとしこり感を生じます。
脂肪腫
皮下脂肪組織が増殖してできる良性腫瘍です。通常は痛みを伴いませんが、大きくなると座位時に圧迫感や痛みを感じることがあります。
粉瘤(アテローム)について
粉瘤の特徴と症状
粉瘤は表皮嚢腫とも呼ばれ、皮膚の下に袋状の構造(嚢腫)ができ、その中に角質や皮脂などの老廃物が蓄積していく良性の皮膚腫瘍です。全身のどこにでもできる可能性がありますが、おしりは好発部位の一つとして知られています。
粉瘤の典型的な特徴として、以下の点が挙げられます。
中心部に黒い点(開口部)が見られることがある: これは粉瘤の嚢腫が皮膚表面とつながっている部分で、へそと呼ばれます。ただし、すべての粉瘤に見られるわけではありません。
ドーム状に盛り上がったしこり: 皮下に半球状のしこりとして触れることができます。大きさは数ミリから数センチまでさまざまです。
可動性がある: 皮膚の下で動かすことができる場合が多いです。
悪臭を伴う内容物: 粉瘤の内容物には独特の臭いがあります。これは嚢腫内に蓄積した角質などが分解されることによるものです。
おしりの粉瘤が座ると痛い理由は、座位時の圧迫によって嚢腫が刺激されるためです。特に炎症を起こした粉瘤(炎症性粉瘤または感染性粉瘤)では、腫れと痛みが顕著になります。
粉瘤が炎症を起こす理由
粉瘤自体は良性腫瘍であり、通常は痛みを伴いません。しかし、以下のような理由で炎症を起こすことがあります。
細菌感染: 粉瘤の開口部から細菌が侵入し、嚢腫内で感染を起こします。おしりは不潔になりやすい部位であるため、感染のリスクが高まります。
嚢腫の破裂: 嚢腫の壁が破れて内容物が周囲の組織に漏れ出すと、異物反応として炎症が起こります。
圧迫や外傷: 座位時の持続的な圧迫や、強く押すなどの外力により嚢腫が損傷を受けることがあります。
炎症を起こした粉瘤は、赤く腫れ上がり、熱感を持ち、強い痛みを伴います。この状態を感染性粉瘤または炎症性粉瘤と呼びます。
粉瘤の診断
粉瘤の診断は、主に視診と触診によって行われます。経験豊富な医師であれば、しこりの性状や中心部の開口部の有無などから粉瘤を診断することができます。
必要に応じて、以下の検査が行われることもあります。
超音波検査: 皮下のしこりの性状、大きさ、深さを評価します。粉瘤は超音波検査で特徴的な所見を示します。
MRI検査: 深部に存在する大きな粉瘤や、周囲組織との関係を詳しく調べる必要がある場合に実施されることがあります。
病理組織検査: 摘出した粉瘤を顕微鏡で観察し、確定診断を行います。また、まれに悪性腫瘍との鑑別が必要な場合にも実施されます。
粉瘤の治療方法
粉瘤の根本的な治療は、外科的切除です。粉瘤は自然に治癒することはなく、放置すると徐々に大きくなったり、繰り返し炎症を起こしたりする可能性があります。
炎症を起こしていない粉瘤の治療:
小切開摘出術: 粉瘤の大きさに応じた切開を行い、嚢腫を完全に摘出します。嚢腫の壁を残さず完全に取り除くことが再発予防のポイントです。
くり抜き法(へそ抜き法): 中心部の開口部から円筒状のメスで粉瘤をくり抜く方法です。傷跡が小さく済むという利点があります。
炎症を起こしている粉瘤の治療:
抗生物質投与: 感染による炎症がある場合、まず抗生物質で炎症を抑えます。
切開排膿: 膿が溜まっている場合は、小さく切開して膿を排出します。これにより痛みや腫れが速やかに改善します。ただし、これは根本的な治療ではありません。
二期的手術: 炎症が落ち着いた後(通常は1~3ヶ月後)に、嚢腫を完全に摘出する手術を行います。炎症がある状態での摘出は組織の判別が難しく、再発のリスクが高まるためです。
アイシークリニック渋谷院では、日帰り手術で粉瘤の治療を行っています。局所麻酔を使用するため、手術中の痛みはほとんどありません。傷跡を最小限にする工夫も行っており、術後の見た目にも配慮しています。
毛巣洞(もうそうどう)について
毛巣洞の特徴と発生メカニズム
毛巣洞は、英語でpilonidal sinusまたはpilonidal cystと呼ばれ、主におしりの割れ目(殿裂部)に発生する疾患です。「毛巣」という名前の通り、毛が関与していることが特徴です。
毛巣洞は以下のような特徴があります。
好発年齢: 10代後半から30代の若年成人に多く見られます。
性差: 男性に多く発生します。女性の約3~4倍の頻度とされています。
体毛との関連: 体毛が濃い人に発生しやすい傾向があります。
発生メカニズム: 毛巣洞の発生には、以下のような過程が関与していると考えられています。
殿裂部の皮膚に小さな陥凹や毛包が存在する この部分に毛が入り込む(座位時の圧迫や摩擦により) 埋没した毛が異物として認識され、慢性的な炎症反応が起こる 炎症により皮下にトンネル状の洞(サイナス)や嚢腫が形成される 細菌感染が加わると、急性炎症や膿瘍形成が起こる
毛巣洞の症状
毛巣洞の症状は、急性期と慢性期で異なります。
慢性期(無症候性~軽症):
殿裂部の皮膚に小さな開口部(ピット)が見られる 軽い違和感や不快感 間欠的な少量の分泌物
急性期(感染・膿瘍形成):
殿裂部の強い痛み(特に座位時) 赤く腫れた塊(しこり)の形成 熱感、発赤 膿の排出 発熱を伴うこともある
座ると痛いという症状は、特に急性炎症期や膿瘍形成時に顕著になります。殿裂部は座位時に最も圧迫を受ける部位であるため、炎症があると座ることが困難になることもあります。
毛巣洞の診断
毛巣洞の診断は、主に臨床所見に基づいて行われます。
視診: 殿裂部に特徴的な開口部(ピット)が見られることが診断の手がかりとなります。急性期には発赤、腫脹、膿の排出などが観察されます。
触診: 皮下にしこりや圧痛を確認します。
画像検査: 必要に応じてMRIや超音波検査を行い、洞の範囲や深さ、膿瘍の有無を評価します。
毛巣洞の治療
毛巣洞の治療は、症状の程度や炎症の有無によって異なります。
保存的治療:
衛生管理: 殿裂部を清潔に保つことが重要です。入浴時に丁寧に洗浄し、乾燥させます。
除毛: 殿裂部周囲の毛を定期的に除毛することで、新たな毛の侵入を防ぎます。レーザー脱毛も選択肢の一つです。
急性期の治療:
抗生物質投与: 感染に対して抗生物質を投与します。
切開排膿: 膿瘍が形成されている場合は、切開して膿を排出します。これにより症状は速やかに改善しますが、根本的な治療ではありません。
外科的治療:
毛巣洞摘出術: 洞や嚢腫を含めた病変部を完全に切除します。再発を防ぐための根本的な治療です。
手術方法には複数の選択肢があり、病変の範囲や患者の状態に応じて選択されます。
単純切除開放法: 病変部を切除し、創部を開放したまま治癒を待つ方法です。
単純切除縫合法: 病変部を切除した後、創部を縫合する方法です。
皮弁形成術: 病変部を切除した後、周囲の皮膚を移動させて創部を覆う方法です。複雑な症例や再発例に適用されます。
毛巣洞は再発しやすい疾患であるため、手術後も定期的な経過観察と適切なケアが重要です。
痔核(いぼ痔)について
痔核の種類と発生メカニズム
痔核は、肛門周囲の血管がうっ血して腫れた状態を指します。一般的に「いぼ痔」と呼ばれる疾患です。痔核は発生部位により内痔核と外痔核に分類されます。
内痔核: 歯状線(肛門管の内側と外側の境界)より内側(直腸側)に発生する痔核です。通常は痛みを伴わず、出血が主な症状です。
外痔核: 歯状線より外側(肛門の外側)に発生する痔核です。知覚神経が豊富な部位であるため、痛みを伴うことが多いです。
座ると痛いという症状に関連するのは、主に外痔核、特に血栓性外痔核です。
血栓性外痔核の特徴
血栓性外痔核は、外痔核内の血管に血栓(血の塊)ができた状態です。以下のような特徴があります。
突然の発症: 数時間から数日の間に急激に腫れが生じます。
強い痛み: 特に発症初期(2~3日間)に強い痛みを感じます。座位時や排便時に痛みが増強します。
しこりとして触れる: 肛門周囲に硬いしこりとして触れることができます。大きさは小豆大からクルミ大程度です。
青紫色の腫れ: 血栓により青紫色に変色した腫れが肛門周囲に見られます。
血栓性外痔核が発症する原因:
長時間の座位: デスクワークや長時間の運転など、座りっぱなしの状態が続くと肛門部の血流が悪くなります。
排便時のいきみ: 便秘で強くいきむと肛門部の血管に負担がかかります。
重いものを持つ: 腹圧が上昇し、肛門部の血管に負担がかかります。
飲酒: アルコールにより血流が増加し、うっ血しやすくなります。
冷え: 血行不良により血栓ができやすくなります。
痔核の診断
痔核の診断は、主に視診と触診、および肛門鏡検査によって行われます。
視診: 外痔核は肛門周囲の腫れとして視認できます。
触診: しこりの大きさ、硬さ、圧痛の程度を確認します。
肛門鏡検査: 肛門内を観察する専用の器具を用いて、内痔核の有無や程度を評価します。
痔核の治療
血栓性外痔核の治療は、症状の程度と発症からの時間により選択されます。
保存的治療:
軟膏や坐薬: 消炎鎮痛作用のある外用薬を使用します。
内服薬: 痛み止めや血流改善薬を使用します。
生活指導: 便秘の改善(食物繊維の摂取、水分補給)、長時間座位の回避、温浴などを指導します。
外科的治療:
血栓除去術: 発症後早期(通常は3~4日以内)であれば、局所麻酔下で小さく切開し、血栓を除去します。これにより症状が速やかに改善します。
痔核切除術: 内痔核や大きな外痔核に対して行われる手術です。
血栓性外痔核は、治療を行わなくても1~2週間で自然に軽快することが多いですが、強い痛みがある場合や日常生活に支障がある場合は、血栓除去術により速やかな症状改善が期待できます。
肛門周囲膿瘍と痔瘻について
肛門周囲膿瘍の発生メカニズム
肛門周囲膿瘍は、肛門腺に細菌感染が起こり、肛門周囲の組織に膿が溜まった状態です。放置すると痔瘻へと進展する可能性があります。
発症のメカニズム:
肛門陰窩(肛門内の小さなくぼみ)から細菌が侵入 肛門腺に感染が起こる 感染が肛門括約筋や周囲組織に広がる 膿瘍(膿の塊)が形成される
肛門周囲膿瘍の症状
肛門周囲膿瘍の主な症状は以下の通りです。
肛門周囲の痛み: ズキズキとした強い痛みが特徴です。座位時や排便時に増強します。
しこりの形成: 肛門周囲に硬く腫れたしこりが触れます。
発赤と熱感: 患部が赤く腫れ、熱を持ちます。
発熱: 38度以上の高熱を伴うことがあります。
膿瘍の位置により、以下のように分類されます。
肛門周囲膿瘍: 肛門の周囲、皮膚のすぐ下にできる膿瘍です。最も頻度が高く、しこりとして触れやすいタイプです。
坐骨直腸窩膿瘍: 肛門の横、より深い部分にできる膿瘍です。外から触れにくい場合があります。
骨盤直腸窩膿瘍: さらに深い部分にできる膿瘍です。診断が難しい場合があります。
肛門周囲膿瘍から痔瘻への進展
肛門周囲膿瘍は、適切に治療しないと痔瘻へと進展します。痔瘻とは、肛門腺から皮膚表面へとつながるトンネル状の瘻管が形成された状態です。
膿瘍が自然に破れたり、切開排膿を行ったりした後、一時的に症状は改善しますが、感染源である肛門腺と皮膚がつながった状態(痔瘻)が残ります。痔瘻は自然治癒することはなく、繰り返し膿が出たり、再び膿瘍を形成したりします。
肛門周囲膿瘍の診断
肛門周囲膿瘍の診断は、主に視診と触診で行われますが、深部の膿瘍の場合は画像検査が必要です。
視診・触診: 肛門周囲の腫脹、発赤、圧痛を確認します。表在性の膿瘍では波動(膿の溜まりによる特有の感触)を触知できることがあります。
直腸診: 肛門内に指を挿入し、内側から膿瘍の有無や位置を確認します。
画像検査: MRIや超音波検査により、膿瘍の位置、大きさ、範囲を詳しく評価します。特に深部膿瘍や複雑な痔瘻を伴う場合に有用です。
肛門周囲膿瘍と痔瘻の治療
肛門周囲膿瘍の治療:
切開排膿: 膿瘍に対する緊急処置として、切開して膿を排出します。これにより症状は速やかに改善します。局所麻酔または腰椎麻酔下で行われます。
抗生物質投与: 感染に対して抗生物質を投与します。
根治手術: 初回の切開排膿だけでは痔瘻への進展を防ぐことができません。根本的な治療のためには、原因となっている肛門腺を含めた手術が必要です。
痔瘻の治療:
痔瘻根治手術: 痔瘻は手術による治療が基本となります。瘻管を完全に切除または開放し、原因となる肛門腺を処理します。
手術方法には、瘻管切開開放術、瘻管くり抜き術、シートン法など複数の方法があり、痔瘻のタイプや位置により選択されます。
肛門周囲膿瘍を繰り返す場合や、痔瘻が疑われる場合は、専門医による適切な診断と治療が重要です。日本大腸肛門病学会では、痔瘻の詳しい情報や専門医の情報を提供しています。
座骨結節滑液包炎について
座骨結節滑液包炎の特徴
座骨結節滑液包炎は、座骨結節(坐骨の下端にある骨の突起)の周囲にある滑液包が炎症を起こした状態です。滑液包とは、骨と筋肉や腱の間にある液体を含んだ袋状の構造で、摩擦を軽減する役割を持っています。
この疾患は以下のような特徴があります。
好発部位: おしりの下部、座骨結節の周囲に痛みとしこり感が生じます。
座位時の痛み: 硬い椅子に座ったときや、長時間座り続けたときに痛みが増強します。
片側性: 多くの場合、片側のおしりに症状が現れます。
座骨結節滑液包炎の原因
座骨結節滑液包炎は、座骨結節への持続的な圧迫や摩擦が原因となります。
長時間の座位: 硬い椅子に長時間座り続けることで、座骨結節に持続的な圧迫がかかります。
自転車やボートの漕ぎ運動: これらの活動では座骨結節に繰り返し圧力がかかります。
外傷: おしりを強く打つなどの外傷がきっかけとなることもあります。
座骨結節滑液包炎の症状
座位時の痛み: 座ると鋭い痛みや鈍い痛みを感じます。立ち上がると痛みが軽減します。
圧痛: 座骨結節の部分を押すと痛みがあります。
腫脹: 炎症により、わずかな腫れやしこりを感じることがあります。
動作時の痛み: 階段を上る、走るなどの動作で痛みが生じることもあります。
座骨結節滑液包炎の診断
座骨結節滑液包炎の診断は、主に症状と身体診察に基づいて行われます。
問診: 座位時の痛み、発症のきっかけ(長時間座位、外傷など)を確認します。
触診: 座骨結節の部分に圧痛があるかを確認します。
画像検査: 超音波検査やMRIにより、滑液包の炎症や液体貯留を確認できます。また、他の疾患(骨折、腫瘍など)との鑑別にも有用です。
座骨結節滑液包炎の治療
座骨結節滑液包炎の治療は、主に保存的治療が中心となります。
安静と圧迫の回避:
硬い椅子を避ける: クッションを使用したり、柔らかい椅子に座ったりすることで、座骨結節への圧迫を軽減します。ドーナツ型クッションも有効です。
長時間座位の回避: 定期的に立ち上がって休憩を取ります。
薬物療法:
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): イブプロフェンやロキソプロフェンなどの内服薬で痛みと炎症を抑えます。
理学療法:
温熱療法: 温めることで血流を改善し、治癒を促進します。
ストレッチ: ハムストリングス(太ももの裏側の筋肉)や臀筋のストレッチが有効です。
侵襲的治療:
ステロイド注射: 保存的治療で改善しない場合、滑液包にステロイド薬を注射することがあります。
吸引: 滑液包に液体が大量に貯留している場合、針を刺して液体を吸引します。
手術: 非常にまれですが、保存的治療に抵抗する場合や再発を繰り返す場合には、滑液包を切除する手術が検討されることがあります。
座骨結節滑液包炎は、適切な治療により多くの場合改善しますが、原因となる圧迫を避けることが再発予防に重要です。
脂肪腫について
脂肪腫の特徴
脂肪腫は、皮下の脂肪細胞が増殖してできる良性腫瘍です。全身のどこにでも発生する可能性がありますが、おしりも好発部位の一つです。
脂肪腫の特徴:
柔らかいしこり: 触るとやわらかく、弾力性があります。
可動性: 皮膚の下で動かすことができます。
無痛性: 通常は痛みを伴いません。
緩徐な増大: ゆっくりと大きくなっていきます。
脂肪腫が痛みを生じる場合
脂肪腫は基本的に無痛性ですが、以下のような場合に痛みを生じることがあります。
大きな脂肪腫: 大きくなると座位時に圧迫されて痛みや不快感を感じることがあります。
血管脂肪腫: 血管成分を多く含む脂肪腫は痛みを伴うことがあります。
神経近傍の脂肪腫: 神経の近くにできた脂肪腫が神経を圧迫すると、痛みやしびれが生じます。
外傷: 脂肪腫を強く打つなどの外傷により、内部に出血が起こると痛みが生じます。
脂肪腫の診断
脂肪腫の診断は、主に視診・触診と画像検査によって行われます。
視診・触診: 柔らかく可動性のあるしこりとして触れます。
超音波検査: 脂肪腫に特徴的な低エコー像が見られます。
MRI検査: 脂肪組織に特徴的な信号を示し、脂肪腫の診断に非常に有用です。また、悪性腫瘍との鑑別にも重要です。
病理組織検査: 摘出した腫瘍を顕微鏡で観察し、確定診断を行います。
脂肪腫の治療
脂肪腫は良性腫瘍であり、必ずしも治療が必要というわけではありません。しかし、以下のような場合には治療が検討されます。
座位時の痛みや不快感がある 大きくなって外見上の問題がある 悪性腫瘍(脂肪肉腫)との鑑別が必要
治療方法:
外科的切除: 局所麻酔または全身麻酔下で脂肪腫を摘出します。完全に切除すれば再発はほとんどありません。
脂肪吸引: 小さな切開から吸引管を挿入し、脂肪腫の内容を吸引する方法です。傷跡が小さく済みますが、被膜が残るため再発の可能性があります。
脂肪腫は悪性化することはほとんどありませんが、急激に大きくなる、硬くなる、痛みが強くなるなどの変化がある場合は、悪性腫瘍の可能性も考慮して早めに受診することが重要です。
その他の原因
尾骨部痛(尾骨痛)
尾骨部痛は、尾骨(仙骨の先端にある小さな骨)周囲の痛みです。座位時に尾骨が圧迫されることで痛みが生じます。
原因:
転倒などによる尾骨の打撲や骨折 出産時の尾骨損傷 長時間座位による慢性的な圧迫 尾骨の変形や不安定性
症状:
座位時の尾骨部の痛み 立ち上がる時や排便時の痛み 尾骨を押すと痛い
診断:
X線検査で尾骨の骨折や変形を確認 MRIで周囲組織の炎症を評価
治療:
ドーナツ型クッションの使用 鎮痛薬の内服 局所へのステロイド注射 まれに尾骨切除術
皮膚感染症(毛包炎、せつ、よう)
毛包(毛穴)に細菌感染が起こると、毛包炎、せつ(おでき)、よう(癰)などの皮膚感染症が発生します。
毛包炎: 毛穴に一致した小さな膿疱(膿を持った発疹)
せつ: 毛包炎が深部に進展し、赤く腫れた痛みを伴うしこりを形成
よう: 複数のせつが融合して大きな膿瘍を形成した状態
これらの疾患は、おしりのような湿気や摩擦が多い部位に発生しやすく、座位時の痛みの原因となります。
治療:
抗生物質の内服または外用 切開排膿(膿瘍を伴う場合) 皮膚の清潔保持
悪性腫瘍
非常にまれですが、おしりのしこりが悪性腫瘍である可能性もあります。
脂肪肉腫: 脂肪組織から発生する悪性腫瘍。急激に大きくなる、硬い、痛みを伴う、などの特徴があります。
皮膚がん: 長期間治らない傷や、徐々に大きくなるしこりなどが見られます。
以下のような特徴がある場合は、悪性腫瘍の可能性を考慮し、早急に専門医を受診する必要があります。
急速に大きくなる 硬く、周囲組織と癒着している しこりが不規則な形をしている 潰瘍や出血を伴う 全身症状(体重減少、発熱など)を伴う
受診が必要なサインと緊急性
おしりのしこりで座ると痛いという症状がある場合、以下のような状況では早急に医療機関を受診する必要があります。
緊急性の高い症状:
激しい痛みで座ることができない 高熱(38度以上)を伴う 急速に腫れが大きくなる しこりから膿や血が出ている 排尿や排便に異常がある 下肢のしびれや麻痺がある
早めの受診が望ましい症状:
座位時の痛みが1週間以上続く しこりが徐々に大きくなっている 市販薬で改善しない 同じ部位に繰り返しできる 日常生活に支障がある
受診を検討すべき症状:
小さなしこりだが気になる 痛みは軽いが続いている 良性か悪性か判断がつかない
おしりのしこりは、自己判断で放置すると症状が悪化したり、治療が複雑になったりする可能性があります。特に感染を伴う疾患(肛門周囲膿瘍、炎症性粉瘤など)は、早期の治療により症状を速やかに改善できるため、我慢せずに受診することが重要です。
渋谷でおしりのしこりを治療するメリット
アクセスの良さ
渋谷は東京の主要なターミナル駅の一つであり、複数の鉄道路線が乗り入れています。JR山手線、埼京線、湘南新宿ライン、東急東横線、田園都市線、京王井の頭線、東京メトロ銀座線、半蔵門線、副都心線など、多方面からのアクセスが可能です。
このアクセスの良さは、以下のようなメリットがあります。
通勤途中の受診: 仕事帰りや昼休みを利用して受診できます。
再診の通いやすさ: 経過観察や抜糸などの再診が必要な場合も、負担なく通院できます。
緊急時の対応: 急な症状悪化時にもアクセスしやすい立地です。
都心での専門的な医療
渋谷のような都心部には、専門性の高い医療機関が集積しています。おしりのしこりの原因は多岐にわたるため、適切な診断と治療には専門的な知識と経験が必要です。
皮膚科専門医: 粉瘤、脂肪腫、皮膚感染症などの診断と治療
大腸肛門科専門医: 痔核、肛門周囲膿瘍、痔瘻などの診断と治療
形成外科専門医: 傷跡を最小限にする手術手技
アイシークリニック渋谷院では、これらの専門性を活かした診療を提供しています。
日帰り手術の利便性
おしりのしこりの多くは、日帰り手術で治療が可能です。渋谷という立地で日帰り手術を受けられることは、以下のようなメリットがあります。
仕事への影響を最小限に: 入院の必要がないため、仕事を長期間休む必要がありません。
生活リズムの維持: 自宅で過ごせるため、日常生活のリズムを保ちやすくなります。
コストの削減: 入院費用がかからないため、医療費を抑えられます。
日常生活での予防と対策
おしりのしこりの発生を予防し、症状を軽減するための日常生活での対策をご紹介します。
座り方の工夫
長時間座位の回避: 1時間に1回は立ち上がって休憩を取りましょう。デスクワークが中心の方は、タイマーを設定するなどして定期的に休憩することを習慣化することが大切です。
適切なクッションの使用: 硬い椅子は避け、クッション性のある椅子や座布団を使用します。痔核や座骨結節滑液包炎がある場合は、ドーナツ型クッションが有効です。
正しい姿勢: 背筋を伸ばして座り、骨盤を立てた姿勢を心がけます。猫背や前のめりの姿勢は避けましょう。
衛生管理
おしりの清潔保持: 入浴時に丁寧に洗浄し、清潔を保ちます。特に肛門周囲は汚れが溜まりやすいため、注意が必要です。
適切な拭き方: 排便後は、強くこすらず優しく拭きます。可能であれば、温水洗浄便座を使用するとより清潔に保てます。
通気性の良い下着: 綿素材など、通気性の良い下着を選びます。蒸れは皮膚トラブルの原因となります。
便通の管理
便秘の予防: 食物繊維を十分に摂取し、水分補給を心がけます。規則正しい排便習慣をつけることも重要です。
過度ないきみの回避: 排便時に強くいきむと、痔核や肛門周囲膿瘍のリスクが高まります。便意があるときにトイレに行き、無理にいきまないようにします。
下痢の予防: 下痢も肛門に負担をかけます。食生活に注意し、過度の飲酒や刺激物を避けます。
体重管理と運動
適正体重の維持: 肥満は座位時の圧迫を増強し、血流を悪化させます。適正体重を維持することが予防につながります。
適度な運動: ウォーキングなどの適度な運動は、血流を改善し、便秘予防にもなります。ただし、座骨結節滑液包炎がある場合は、自転車やボートなどの座骨に負担がかかる運動は避けます。
ストレッチ: 臀部や太ももの筋肉をストレッチすることで、血流改善や筋肉の柔軟性維持に役立ちます。
生活習慣
禁煙: 喫煙は血流を悪化させ、創傷治癒を遅らせます。
適度な飲酒: 過度の飲酒は痔核の悪化因子となります。
ストレス管理: ストレスは便通異常の原因となることがあります。適度な休息とストレス解消を心がけましょう。

よくある質問
A: しこりの種類によります。血栓性外痔核や軽度の皮膚感染症などは、適切なケアにより自然に改善することがあります。一方、粉瘤、脂肪腫、痔瘻などは自然治癒することはなく、治療が必要です。肛門周囲膿瘍は放置すると痔瘻へ進展するため、早期の治療が重要です。自己判断せず、医療機関を受診して適切な診断を受けることをお勧めします。
A: おしりのしこりの手術は、ほとんどの場合、局所麻酔で行われます。麻酔が効いている間は痛みを感じません。手術後は痛み止めを使用することで、痛みをコントロールできます。また、粉瘤、脂肪腫、血栓性外痔核などの治療は日帰り手術で可能です。ただし、複雑な痔瘻や大きな腫瘍の場合は、入院が必要となることもあります。
Q3: 市販薬で治療できますか?
A: 軽度の痔核や皮膚の炎症には、市販の痔疾用軟膏や消炎鎮痛薬が有効な場合があります。しかし、これらは対症療法であり、根本的な治療にはなりません。特に粉瘤、脂肪腫、痔瘻などは市販薬では治療できません。症状が1週間以上続く場合や、悪化する場合は医療機関を受診してください。
Q4: 再発を防ぐにはどうすればよいですか?
A: 再発予防のポイントは疾患によって異なります。粉瘤は完全に摘出すれば再発はほとんどありませんが、不完全な摘出では再発のリスクがあります。毛巣洞は定期的な除毛と清潔保持が重要です。痔核や肛門周囲膿瘍は、便秘の予防、長時間座位の回避、適切な衛生管理が再発予防につながります。座骨結節滑液包炎は、硬い椅子を避け、クッションを使用することが重要です。
Q5: どの診療科を受診すればよいですか?
A: おしりのしこりの原因は多岐にわたるため、適切な診療科を選ぶことが重要です。粉瘤や脂肪腫は皮膚科または形成外科、痔核や肛門周囲膿瘍は大腸肛門科(肛門外科)、座骨結節滑液包炎は整形外科が専門となります。アイシークリニック渋谷院では、これらの疾患に幅広く対応していますので、まずは受診してご相談ください。適切な診断のもと、必要に応じて専門医療機関への紹介も行います。
Q6: 悪性腫瘍の可能性はありますか?
A: おしりのしこりのほとんどは良性疾患ですが、まれに悪性腫瘍の可能性もあります。急速に大きくなる、硬く周囲と癒着している、不規則な形をしている、潰瘍や出血を伴う、全身症状を伴うなどの特徴がある場合は、悪性腫瘍を疑って精密検査が必要です。気になるしこりがある場合は、早めに受診して適切な診断を受けることが重要です。
Q7: 手術後の生活制限はありますか?
A: 手術の種類や範囲によって異なりますが、一般的には以下のような制限があります。粉瘤や脂肪腫の摘出後は、創部を清潔に保ち、激しい運動や入浴は数日間控えます。痔核の手術後は、排便時の痛みや出血があるため、便を柔らかく保つことが重要です。座骨結節滑液包炎の手術後は、しばらく硬い椅子への座位を避けます。詳しい術後の注意事項は、担当医から説明を受けてください。
Q8: 恥ずかしくて受診をためらっています
A: おしりの症状は、多くの方が「恥ずかしい」と感じて受診をためらう部位です。しかし、医療従事者にとって、おしりの診察は日常的な業務であり、特別なことではありません。早期に適切な治療を受けることで、症状の悪化を防ぎ、より簡単な治療で済むことも多いです。アイシークリニック渋谷院では、プライバシーに配慮した診療を心がけていますので、安心してご相談ください。
まとめ
おしりのしこりで座ると痛いという症状は、日常生活に大きな支障をきたす問題です。その原因は粉瘤、毛巣洞、痔核、肛門周囲膿瘍、座骨結節滑液包炎、脂肪腫など多岐にわたります。
それぞれの疾患には特徴的な症状があり、適切な診断と治療が必要です。粉瘤や脂肪腫は外科的切除、痔核は保存的治療または手術、肛門周囲膿瘍は切開排膿と根治手術、座骨結節滑液包炎は安静と圧迫回避が主な治療となります。
多くの疾患は日帰り手術で治療が可能であり、早期に適切な治療を受けることで症状を速やかに改善できます。また、日常生活での予防策として、長時間座位の回避、適切な衛生管理、便通の管理、体重管理などが重要です。
おしりのしこりで座ると痛いという症状がある場合、自己判断で放置せず、専門医を受診することをお勧めします。渋谷というアクセスの良い立地で、専門的な診療を受けられることは、忙しい現代人にとって大きなメリットです。
アイシークリニック渋谷院では、おしりのしこりに関する診断と治療を行っています。些細なことでも気になることがあれば、お気軽にご相談ください。適切な診断と治療により、快適な日常生活を取り戻すお手伝いをいたします。
参考文献
- 日本皮膚科学会「粉瘤(アテローム)とは」
- 日本大腸肛門病学会「痔核の診断と治療」
- MSDマニュアル家庭版「毛巣洞」
- 日本形成外科学会「皮膚・皮下腫瘍について」
- 厚生労働省「e-ヘルスネット」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務