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起立性調節障害とは?症状・原因・治療法を専門医が詳しく解説

「朝、どうしても起きられない」「立ち上がるとめまいがする」「午前中は調子が悪いのに、夕方になると元気になる」——お子さんにこのような症状が見られたら、それは単なる怠けや夜更かしのせいではなく、「起立性調節障害」という病気のサインかもしれません。

起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:OD)は、自律神経の機能が十分に働かず、立ち上がった際に血圧や心拍数の調節がうまくいかなくなることで、さまざまな身体症状を引き起こす疾患です。小学校高学年から中学生の思春期に多く見られ、軽症例も含めると中学生の約10%がこの病気を抱えているとされています。

本記事では、起立性調節障害の症状、原因、診断方法、治療法、そして日常生活での対処法まで、詳しく解説していきます。お子さんの体調に不安を感じている保護者の方、ご自身の症状に悩んでいる方に、正しい知識と対応のヒントをお届けします。

目次

  1. 起立性調節障害とは
  2. 起立性調節障害の主な症状
  3. 起立性調節障害が起こる原因とメカニズム
  4. 起立性調節障害の4つのタイプ(サブタイプ)
  5. 起立性調節障害の診断方法
  6. 起立性調節障害の重症度分類
  7. 起立性調節障害の治療法
  8. 日常生活でできるセルフケア
  9. 起立性調節障害と不登校の関係
  10. 学校との連携と周囲の理解の重要性
  11. 起立性調節障害の予後と経過
  12. 大人の起立性調節障害について
  13. 保護者の方へ——お子さんとの向き合い方
  14. まとめ
  15. 参考文献

1. 起立性調節障害とは

起立性調節障害(OD)は、自律神経である交感神経と副交感神経のバランスが崩れることで発症する、循環器系の機能障害です。主に立ち上がった際や起床時に、血圧の低下や心拍数の異常な上昇が起こり、めまい、立ちくらみ、頭痛、倦怠感などの多様な症状が現れます。

人間の身体は、横になっている状態から立ち上がると、重力の影響で血液が下半身に溜まりやすくなります。通常であれば、このとき自律神経(特に交感神経)が素早く反応し、下半身の血管を収縮させて心臓に戻る血液量を確保し、血圧を維持する仕組みが働きます。

しかし、起立性調節障害の患者さんでは、この自律神経による調節機能がうまく働きません。その結果、立ち上がった際に脳への血流が不足し、さまざまな症状が出現するのです。

この病気は体質的な要素が大きく関係しており、思春期という身体の急激な成長期に、自律神経の発達が追いつかないことで発症すると考えられています。日本人は欧米人に比べて自律神経機能が弱い傾向があるとも言われており、起立性調節障害は日本の思春期の子どもたちにとって、決して珍しくない病気です。

2. 起立性調節障害の主な症状

起立性調節障害で見られる症状は多岐にわたります。日本小児心身医学会のガイドラインでは、以下の11項目が代表的な症状として挙げられています。

代表的な11の症状

  1. 立ちくらみ、めまいを起こしやすい
  2. 立っていると気持ちが悪くなる(ひどくなると倒れる)
  3. 入浴時や嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
  4. 少し動くと動悸や息切れがする
  5. 朝なかなか起きられず、午前中は調子が悪い
  6. 顔色が青白い
  7. 食欲不振
  8. 臍(へそ)の周囲の痛みをときどき訴える
  9. 倦怠感、疲れやすい
  10. 頭痛
  11. 乗り物に酔いやすい

これらの症状のうち3つ以上が当てはまる場合、または2つであっても症状が強い場合には、起立性調節障害の可能性を考える必要があります。

症状の特徴

起立性調節障害の症状には、いくつかの特徴的なパターンがあります。

まず、症状は午前中に強く、午後から夕方にかけて軽減する傾向があります。これは、自律神経のリズムが正常な状態から後ろにずれているためと考えられています。朝は副交感神経から交感神経への切り替えがうまくいかず、身体が活動モードに入れないのです。

次に、症状は起立時や体位変換時に悪化しやすいという特徴があります。横になっていると比較的楽に過ごせますが、座ったり立ったりすると症状が強くなります。重症の場合には、横になっていても強い倦怠感に悩まされ、起き上がることすらできなくなることもあります。

また、季節や天候による変動も見られます。特に梅雨時期や夏場、気圧の変化が大きい日には症状が悪化しやすい傾向があります。

さらに、夜になると目が冴えて眠れなくなるという睡眠リズムの問題も伴うことが多いです。これにより「宵っ張りの朝寝坊」という生活パターンになりやすく、悪化すると昼夜逆転の生活になってしまうこともあります。

3. 起立性調節障害が起こる原因とメカニズム

起立性調節障害の発症には、複数の要因が複雑に絡み合っています。主な原因とメカニズムについて詳しく見ていきましょう。

自律神経の発達と調節機能の問題

起立性調節障害の根本的な原因は、自律神経による循環調節機能の破綻にあります。自律神経は、交感神経(身体を活動的にする)と副交感神経(身体をリラックスさせる)の2つで構成され、私たちの意識とは関係なく、血圧や心拍数、体温、消化機能などを自動的に調節しています。

思春期は身体が急激に成長する時期であり、この成長スピードに自律神経の発達が追いつかないことがあります。その結果、起立時の血圧調節がうまくいかなくなり、脳への血流が低下してさまざまな症状が現れるのです。

発症に関わる要因

起立性調節障害の発症には、以下のような要因が関与しています。

遺伝的要因として、約80%の患者に家族素因が認められるという報告があります。親が起立性調節障害だった場合、子どもも発症しやすい傾向があります。

身体的要因としては、水分摂取不足、塩分不足、運動不足による筋力低下などが挙げられます。特に下肢(ふくらはぎ)の筋肉は、立っているときに血液を心臓に送り返す「第二の心臓」として重要な役割を果たしています。筋力が低下すると、下半身に血液が溜まりやすくなります。

心理社会的要因も無視できません。学校や家庭でのストレス、友人関係の悩み、学業のプレッシャーなどが自律神経のバランスを崩す原因となることがあります。身体的な症状がつらいのに無理をして登校しようとすることで、さらにストレスが高まり、症状が悪化するという悪循環に陥ることもあります。

デコンディショニングの悪循環

起立性調節障害には「デコンディショニング(身体機能の低下)」という悪循環が形成されやすいという特徴があります。

症状がつらくて活動量が減少すると、筋力が低下し、自律神経機能も悪化します。すると、下半身への血液貯留がさらに進み、心拍出量や脳血流が低下して症状が悪化する——この負のスパイラルに陥ると、症状は長期化しやすくなります。

このため、治療においては、症状に配慮しながらも適度な活動を維持することが重要になってきます。

4. 起立性調節障害の4つのタイプ(サブタイプ)

起立性調節障害は、症状の現れ方や血圧・心拍数の変動パターンによって、主に4つのサブタイプに分類されます。

起立直後性低血圧(INOH:Instantaneous Orthostatic Hypotension)

最も頻度が高いタイプで、新起立試験陽性例の約60~70%を占めます。起立した直後に急激な血圧低下が起こり、その回復に時間がかかることが特徴です。立ち上がった瞬間に強い立ちくらみやめまいを感じ、ひどい場合には視界が暗くなったり、意識を失いそうになったりします。

体位性頻脈症候群(POTS:Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome)

起立時に血圧の低下はあまり見られませんが、心拍数が異常に増加するタイプです。新起立試験陽性例の約20~30%を占めます。起立後に心拍数が毎分115回以上、または起立前より毎分35回以上増加する場合に診断されます。動悸を強く感じることが多いのが特徴です。

血管迷走神経性失神(VVS:Vaso-Vagal Syncope)

起立中に突然、急激な血圧低下が起こり、失神(意識消失)に至るタイプです。新起立試験陽性例の約2~5%と比較的まれですが、症状としては最も重篤です。倒れて頭部を打撲するなどの二次的な怪我のリスクもあります。

遷延性起立性低血圧(DeOH:Delayed Orthostatic Hypotension)

起立後しばらくは血圧が維持されますが、時間の経過とともに徐々に血圧が低下していくタイプです。新起立試験陽性例の約3~10%を占めます。長時間立っていると症状が出やすいのが特徴です。

なお、近年の研究では、脳血流低下型やHyper-response型(過剰反応型)など、新しいサブタイプも報告されていますが、これらの診断には特殊な機器が必要となります。

5. 起立性調節障害の診断方法

起立性調節障害の診断は、問診、身体診察、各種検査を組み合わせて行われます。重要なのは、症状だけで診断せず、他の疾患を除外したうえで確定診断を行うことです。

診断の流れ

まず、前述の11の身体症状について問診を行い、3つ以上(または2つでも症状が強い場合)が当てはまれば、起立性調節障害を疑って次のステップに進みます。

次に、他の疾患の可能性を除外するための検査を行います。具体的には、鉄欠乏性貧血、心疾患、てんかんなどの神経疾患、甲状腺機能異常などの内分泌疾患を血液検査や心電図検査などで否定します。これらの基礎疾患がないことを確認したうえで、新起立試験を実施します。

新起立試験の方法

新起立試験は、起立性調節障害の確定診断とサブタイプの判定に用いられる検査です。症状が出やすい午前中に実施することが望ましいとされています。

検査の手順は以下の通りです。まず、10分間以上、安静に横になった状態で血圧と脈拍を測定します。その後、起立して10分間、定期的に血圧と脈拍の変化を測定します。起立直後の血圧回復時間や、起立中の血圧低下の程度、心拍数の変化などを評価し、サブタイプを判定します。

心理社会的要因の評価

診断においては、身体的な評価だけでなく、心理社会的要因の関与についても評価を行います。「心身症としてのOD」チェックリストなどを用いて、学校や家庭でのストレスが症状にどの程度影響しているかを確認します。

日本小児心身医学会の専門機関を受診する起立性調節障害の患者の70~80%に、何らかの心理社会的要因の関与が認められるとされています。また、起立性調節障害の症状がある初診患者の3~4割に神経発達症(発達障害)を伴っているという報告もあり、必要に応じて発達検査なども行われます。

6. 起立性調節障害の重症度分類

起立性調節障害の重症度は、新起立試験の結果と日常生活への支障の程度を総合的に評価して判定されます。

軽症

時々症状がありますが、日常生活への影響は少ない状態です。学校への登校も概ね問題なくできています。適切な治療とセルフケアにより、2~3ヶ月程度で改善することが多いです。

中等症

午前中に症状が強く、しばしば日常生活に支障をきたす状態です。週に1~2回程度、遅刻や欠席が見られます。非薬物療法に加えて、薬物療法も検討される段階です。

重症

強い症状のため、ほぼ毎日、日常生活や学校生活に支障をきたす状態です。長期欠席や不登校になっているケースも多く、社会復帰には2~3年以上を要することもあります。身体的な治療に加えて、心理的なサポートや環境調整も必要になります。

重症例では、起床困難が顕著で、一日のほとんどをベッド上で過ごさなければならないこともあります。脳への血流低下が持続するため、思考力や集中力、記憶力の低下も見られ、学習面でも困難を抱えることが少なくありません。

7. 起立性調節障害の治療法

起立性調節障害の治療は、重症度と心理社会的要因の関与の程度に応じて、複数のアプローチを組み合わせて行います。

疾病教育(疾患の理解)

治療の第一歩は、患者本人とご家族が病気について正しく理解することです。起立性調節障害は「身体の病気」であり、決して怠けや気持ちの問題ではないことを認識することが大切です。

病態生理についての説明を受けることで、「なぜ朝起きられないのか」「なぜ午後は元気になるのか」といった疑問が解消され、本人や家族の不安やストレスが軽減されます。これ自体が治療効果を持つことも明らかになっています。

非薬物療法(生活習慣の改善)

起立性調節障害の治療において、非薬物療法は非常に重要な位置を占めます。薬物療法だけでは効果が不十分なことが多く、日常生活での工夫が症状改善の鍵となります。

水分と塩分の摂取については、血液量を増やして血圧を維持するために、1日1.5~2リットルの水分摂取と、塩分10~12g程度の摂取が推奨されます。一般的な健康指導では塩分制限が言われることが多いですが、起立性調節障害の場合は逆に塩分をやや多めに摂ることが有効です。

起立時の工夫として、急に立ち上がらず、頭を下げてゆっくりと起立することが大切です。また、長時間じっと立っていることは避け、1~2分を目安にします。立っている必要があるときは、足を交差させたり、つま先立ちをしたり、足踏みをしたりして、下肢の筋肉を動かすことで血液の心臓への還流を促します。

運動については、毎日15~30分程度の軽い運動(散歩など)を習慣化することが推奨されます。心拍数が120を超えない程度の軽い運動で十分です。特に下肢の筋力を維持・強化することが重要で、横になった姿勢でできる筋トレ(足上げ運動など)も有効です。

睡眠リズムの改善として、夜更かしを避け、決まった時間に就寝・起床する習慣をつけることが大切です。眠くなくても就寝時間が遅くならないようにし、昼夜逆転を防ぎます。

弾性ストッキング(着圧ソックス)の使用も有効です。下肢の血管を圧迫することで、血液が下半身に溜まるのを防ぎます。ただし、横になっているときや睡眠時には外すようにします。

薬物療法

非薬物療法で十分な効果が得られない場合や、中等症以上の場合には、薬物療法が検討されます。

昇圧薬であるミドドリン塩酸塩(メトリジン、リズミック)は、最もよく使用される薬剤です。血管を収縮させて血圧を上げる作用があり、立ちくらみやめまいの改善に効果があります。

その他にも、血液量を増やす薬剤や、交感神経の機能を促進する薬剤、漢方薬などが症状に応じて使用されることがあります。

ただし、薬物療法だけでは効果が不十分なことが多く、非薬物療法との併用が基本です。効果の判定は2週間程度を目安に行い、必要に応じて薬剤の調整を行います。

心理療法・環境調整

心理社会的要因の関与が大きい場合には、カウンセリングなどの心理療法も並行して行われます。ストレスの原因を特定し、その対処法を一緒に考えていきます。

環境調整も重要です。周囲の無理解によって子どもが傷つき、孤立しないよう、家族や学校に病気の理解を促します。具体的な配慮(遅刻を認めてもらう、保健室での休息を許可してもらう等)についても、医療機関と学校が連携して調整していきます。

8. 日常生活でできるセルフケア

起立性調節障害の症状を悪化させないために、日常生活で実践できるセルフケアを紹介します。

朝の起床時の工夫

起床時は、いきなり起き上がらず、まず布団の中で身体を動かして循環を促しましょう。手足をグーパーしたり、足首を回したりして、徐々に身体を目覚めさせます。起き上がるときは、まず横向きになり、その後ゆっくりと座位になってから、頭を下げた状態で少しずつ立ち上がります。

朝の光を浴びることも効果的です。カーテンを開けて朝日を部屋に入れることで、体内時計のリセットを促します。

日中の過ごし方

長時間の立位は避け、座れる場所では座るようにします。立っている必要があるときは、足を動かしたり、壁に寄りかかったりして対処します。

規則正しい食事を心がけ、朝食を抜かないようにしましょう。食事は血糖値を安定させ、自律神経の働きを整えるのに役立ちます。

水分はこまめに摂取し、1日を通して1.5~2リットルを目標にします。一度に大量に飲むのではなく、少量ずつ頻繁に摂るのがポイントです。

暑い環境は症状を悪化させるため、夏場は特に注意が必要です。エアコンを適切に使用し、熱中症対策も兼ねて水分・塩分補給を意識しましょう。

夜の過ごし方

寝る前のスマートフォンやパソコンの使用は、ブルーライトの影響で睡眠の質を低下させるため、就寝1時間前からは控えるようにします。

入浴は、ぬるめのお湯(38~40度程度)にゆっくり浸かることで、副交感神経を優位にし、リラックス効果を得られます。ただし、長風呂は血管を拡張させすぎるため避けましょう。

就寝時間と起床時間をできるだけ一定に保ち、休日でも極端な寝坊は避けるようにします。睡眠リズムの乱れは症状悪化の原因になります。

9. 起立性調節障害と不登校の関係

起立性調節障害と不登校には密接な関係があります。不登校の子どもの約30~40%に起立性調節障害が併存しているとされており、この病気が不登校の大きな要因の一つであることがわかっています。

なぜ不登校につながるのか

起立性調節障害の症状は午前中に強く出るため、朝起きられない、登校時間に間に合わないという状況が生じやすくなります。無理をして登校しても、午前中の授業に集中できず、保健室で過ごすことが増えていきます。

遅刻や欠席が増えると、授業についていけなくなる不安や、クラスメイトとの関係が疎遠になる孤立感から、さらに学校に行きづらくなります。このようにして、症状による身体的なつらさと、心理的なストレスが重なり、不登校へとつながっていくのです。

周囲の誤解による影響

起立性調節障害の子どもは、午後になると元気になることが多いため、「朝だけ調子が悪いふりをしている」「学校に行きたくないだけ」と誤解されやすい傾向があります。特に、夜は目が冴えてゲームなどに没頭できることから、「夜更かしして遊んでいるから朝起きられない」と決めつけられてしまうこともあります。

しかし、これは病気のメカニズムによるものです。ゲームなどは勉強とは異なる脳の領域を使うため、症状がある中でも取り組めることがあります。こうした誤解から叱責されたり、無理に起こされたりすることで、子どもは精神的に追い詰められ、症状が悪化したり、家族との関係が悪化したりするリスクがあります。

不登校への対応

起立性調節障害による不登校の場合、まず大切なのは、病気であることを認識し、無理に登校させようとしないことです。身体症状がつらい時期に無理をすると、かえって症状が悪化し、回復が遅れる可能性があります。

医療機関を受診して適切な診断と治療を受けながら、学校とも連携して、子どもの状態に合わせた対応を検討していくことが重要です。遅刻や早退、保健室登校など、柔軟な対応を学校に依頼することも一つの方法です。

長期的な視点を持つことも大切です。起立性調節障害は成長とともに改善していくことが多い病気です。今は学校に通えなくても、体調が回復すれば復帰できる可能性は十分にあります。通信制高校やフリースクールなど、全日制以外の進路も選択肢として考慮に入れておくとよいでしょう。

10. 学校との連携と周囲の理解の重要性

起立性調節障害の治療と回復において、学校をはじめとする周囲の理解と協力は不可欠です。

学校への病気の説明

診断を受けたら、できるだけ早い段階で学校(担任、養護教諭、管理職など)に病気について説明し、理解を求めることが大切です。医師からの診断書や説明文書があると、学校側も対応しやすくなります。

具体的には、起立性調節障害は身体疾患であり、気持ちの持ちようで治るものではないこと、症状には日内変動があり午前中に悪化しやすいこと、治療には時間がかかることなどを伝えます。

学校に依頼できる配慮の例

学校生活において、以下のような配慮を依頼することが考えられます。

登校時間については、遅刻を認めてもらう、あるいは午後からの登校を許可してもらうなどの対応が可能か相談します。

授業中の配慮として、立ち上がる際はゆっくりでよいこと、気分が悪くなったら座ってよいことなどを確認しておきます。朝礼など長時間の立位が必要な場面では、必要に応じて座れるよう配慮を求めます。

体育の授業については、症状が強い日は見学を認めてもらったり、軽めの運動への変更を検討してもらったりします。

保健室の利用について、症状がつらいときにいつでも休めるよう、保健室利用のルールを確認しておくと安心です。

クラスメイトへの説明

必要に応じて、クラスメイトにも病気について説明することを検討します。日本小児心身医学会では「起立性調節障害~クラスメートに知ってほしいこと~」という資料を作成しており、子ども向けにわかりやすく病気を説明する際に活用できます。

周囲の友人が病気を理解していることで、本人は「怠けていると思われている」という不安から解放され、症状があっても学校に通いやすくなります。

11. 起立性調節障害の予後と経過

起立性調節障害は、一般的には成長とともに改善していく病気です。しかし、その経過には個人差があり、重症度や心理社会的要因の影響によって大きく異なります。

軽症~中等症の場合

日常生活に支障のない軽症例では、適切な治療により2~3ヶ月程度で改善することが多いです。非薬物療法を中心としたセルフケアを続けながら、症状をコントロールしていくことが可能です。

中等症の場合でも、粘り強く治療を続けることで、多くの患者が日常生活を取り戻すことができます。

重症例の場合

学校を長期欠席するような重症例では、社会復帰に2~3年以上を要することもあります。身体症状の改善だけでなく、学業の遅れへの対応や、社会性の発達支援なども含めた包括的なサポートが必要です。

重症例では、学校復帰を急がず、体調に見合った生活を選択することが大切です。無理をして全日制高校への進学を目指すよりも、通信制高校など柔軟な選択肢を検討することで、本人のself-esteem(自尊感情)を保ちながら回復を待つことができます。

長期的な見通し

適切な治療を継続することで、高校卒業時頃には約90%の症例で、日常生活に支障をきたすことが少なくなるとされています。

ただし、約2~4割の患者が、成人後も何らかの症状を抱え続けるという報告もあります。成人後も症状が持続する場合には、内科や心療内科などで継続的なフォローを受けることが推奨されます。

12. 大人の起立性調節障害について

起立性調節障害は思春期の子どもに多い病気として知られていますが、大人になってからも発症することがあります。また、子どもの頃に発症した症状が成人後も持続するケースも少なくありません。

大人で発症する場合

ストレスの多い生活を送っている成人や、生活習慣の乱れがある方は、起立性調節障害を発症するリスクがあります。症状は子どもと同様で、朝起きるのが困難、午前中の集中力低下、立ち上がり時のめまいや動悸などが見られます。

大人の場合は、職場での勤務に支障をきたすことが問題となります。午前中の会議に出席できない、立ち仕事ができないなどの困難から、仕事を続けることが難しくなるケースもあります。

高齢者の場合

高齢者では、パーキンソン病や認知症などの神経変性疾患に伴って起立性低血圧の症状が現れることがあります。また、降圧薬などの薬剤の副作用として起立時の血圧低下が起こることもあります。

高齢者の場合は、転倒・骨折のリスクが高いため、症状の管理が特に重要です。

大人の起立性調節障害の治療

大人の起立性調節障害も、基本的な治療法は子どもと同様です。生活習慣の改善、水分・塩分摂取、適度な運動、そして必要に応じた薬物療法を行います。

大人の場合は、内科、循環器内科、心療内科などを受診することになります。症状が似ている他の疾患(貧血、甲状腺機能異常、不整脈など)との鑑別が重要であり、適切な診断を受けることが大切です。

13. 保護者の方へ——お子さんとの向き合い方

お子さんが起立性調節障害と診断された場合、または疑いがある場合、保護者としてどのように向き合えばよいのでしょうか。

まず病気を理解する

最も大切なのは、起立性調節障害が「身体の病気」であることを理解することです。お子さんは「怠けている」「やる気がない」のではなく、自律神経の機能不全によって症状が出ているのです。本人も「起きたいのに起きられない」「学校に行きたいのに行けない」というつらさを抱えています。

叱責や無理強いを避ける

朝起きられないからといって、叱ったり、無理に起こしたり、強制的に学校に行かせようとしたりすることは逆効果です。本人の精神的なストレスが高まり、症状がさらに悪化したり、親子関係が悪化したりする原因になります。

焦らず見守る

起立性調節障害の治療には時間がかかります。すぐに良くなることを期待せず、長期的な視点で見守ることが大切です。「今日は少し良くなったね」「昨日より起きられたね」など、小さな改善を認めて褒めることで、お子さんの自信につながります。

一人で抱え込まない

お子さんの症状について悩み、疲れを感じることもあるでしょう。保護者の方も、一人で抱え込まず、医療機関や学校、同じ境遇の保護者の会などに相談することをお勧めします。保護者自身の心身の健康も大切です。

適切なサポートを

お子さんの状態に合わせて、できることとできないことを見極め、適切なサポートを行いましょう。水分摂取の声かけ、起立時の見守り、通院への同行など、日々の生活の中でできるサポートはたくさんあります。

お子さんが「自分は理解されている」「味方がいる」と感じられることが、回復への大きな力になります。

14. まとめ

起立性調節障害は、自律神経の機能が十分に働かないことで、起立時の血圧や心拍数の調節がうまくいかなくなり、さまざまな症状を引き起こす疾患です。

思春期の子どもに多く見られ、中学生の約10%が罹患しているとされます。「朝起きられない」「立ちくらみがする」「午前中は調子が悪いのに夕方は元気」といった症状が特徴的で、重症例では不登校や引きこもりにつながることもあります。

診断には、他の疾患の除外と新起立試験が用いられ、4つのサブタイプに分類されます。治療は、疾病教育、非薬物療法(水分・塩分摂取、運動、生活習慣の改善)、薬物療法、心理療法、環境調整を組み合わせて行います。

起立性調節障害は身体の病気です。怠けや甘え、気持ちの問題ではありません。この認識を本人、家族、学校など周囲が共有することが、回復への第一歩となります。

治療には時間がかかりますが、適切な対応を続けることで、多くの患者が改善に向かいます。焦らず、長期的な視点でお子さんを見守り、サポートしていくことが大切です。

症状に心当たりがある方は、早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることをお勧めします。

15. 参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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