はじめに
近年、メディカルダイエットの分野において革新的な薬剤として注目を集めている「マンジャロ(チルゼパチド)」。従来の減量方法とは異なる医学的アプローチで、多くの方が健康的な体重減少を実現しています。本記事では、アイシークリニック渋谷院の医療チームが、マンジャロのダイエット効果について、最新の臨床データと医学的根拠に基づいて詳しく解説いたします。
マンジャロとは?基本的な理解
薬剤の概要
マンジャロ(一般名:チルゼパチド)は、もともと2型糖尿病の治療薬として開発された注射薬です。しかし、臨床試験において顕著な体重減少効果が認められたことから、現在では肥満症治療にも広く活用されています。
2025年4月には「ゼップバウンド」という製品名で、日本でも肥満症治療薬として正式に承認され、保険適用の対象となりました。これにより、医学的に肥満症と診断された方は、保険診療でこの治療を受けることが可能になっています。
作用機序:なぜ体重が減るのか?
マンジャロの最大の特徴は、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)およびGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の受容体双方に対するアゴニストで、GIP/GLP-1受容体作動薬という新しい種類の注射薬であることです。
主な作用メカニズム
- 食欲の抑制:脳の満腹中枢に働きかけ、自然と食事量が減少する
- 胃内容物の排出遅延:満腹感が長続きし、間食の防止につながる
- 血糖コントロール:インスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑えることで血糖値の急上昇を防ぐ
- 代謝促進:GIPはレプチン(食欲を抑えるホルモン)を増加させ、エネルギー産生を促進することで基礎代謝を高める
臨床試験で実証された効果
SURMOUNT-1試験の結果
肥満治療における最も重要な臨床試験であるSURMOUNT-1試験では、BMIが30以上の成人、またはBMIが27以上で糖尿病以外の体重に関連する合併症を1つ以上有する成人2,539例を対象に、72週間の追跡調査を実施しました。
驚異的な体重減少効果
72週の時点での体重の変化量(%)の平均は、チルゼパチド週1回5mg群で-15.0%、10mg群で-19.5%、15mg群で-20.9%、プラセボ群で-3.1%という結果が得られました。
この数値を具体的に説明すると:
- 5mg投与群:平均15%の体重減少
- 10mg投与群:平均19.5%の体重減少
- 15mg投与群:平均20.9%の体重減少
例えば、80kgの方が15mg群の治療を受けた場合、平均して約16.7kgの体重減少が期待できる計算になります。
日本人を対象としたSURMOUNT-J試験
日本人の成人を対象に実施されたSURMOUNT-J試験では、チルゼパチド10mg群で17.8%減、15mg群で22.7%減という結果が報告されています。これは欧米人を対象とした試験結果を上回る優秀な成績です。
5%以上の体重減少達成率
「5%以上の体重減少を達成した試験参加者の割合」は、プラセボ群の20.0%に対してチルゼパチド10mg群は94.4%、チルゼパチド15mg群は96.1%となり、ほぼ全ての患者で臨床的に意味のある体重減少が達成されています。
糖尿病患者における効果(SURPASS-J-mono試験)
日本の臨床試験(SURPASS-J-mono)では、マンジャロ単独投与でHbA1c <7.0%の達成率が94%以上に達し、標準用量5mgでは平均6kg程度の体重減少も認められました
マンジャロ5mg:-5.8kg、マンジャロ10mg:-8.5kg、マンジャロ15mg:-10.7kg、トルリシティ0.75mg:-0.5kgという結果が得られ、従来の糖尿病治療薬と比較して圧倒的な体重減少効果が確認されています。
効果が現れるまでの期間
効果発現のタイムライン
マンジャロの効果が出るまでの目安は、4〜12週間程度とされています。ただし、個人差があることも重要なポイントです。
段階的な効果の現れ方
- 投与開始〜2週間:満腹感の増加、食欲の自然な減退
- 4〜8週間:体重の明らかな減少開始
- 12週間以降:継続的で安定した体重減少
マンジャロは注射後24時間で作用のピークを迎えますが、体重減少効果は徐々に現れる特徴があります。
実際の患者様の体験
実際の患者さんの結果を見ていきましょう。10kg程体重が増加したためメディカルダイエットを決意。もともと標準体重であることもあり、マンジャロ2.5mgでも十分に効果を実感。マンジャロ2.5mgを4ヶ月で−7.9kg減量しスリム体型を達成したという症例も報告されています。
従来のGLP-1薬との比較
優越性を示すデータ
糖化ヘモグロビン値のベースライン時からの変化量の推定平均値は、チルゼパチド5mg群で-2.01パーセントポイント、10mg群で-2.24パーセントポイント、15mg群で-2.30パーセントポイント、セマグルチド群で-1.86パーセントポイントであり、全ての用量でセマグルチドに対する優越性が示されています。
体重減少は、チルゼパチドのほうがセマグルチドよりも大きかった(最小二乗平均の推定治療差は5mg群-1.9kg、10mg群-3.6kg、15mg群-5.5kg;すべての比較でP<0.001)
実臨床での比較体験
元々糖尿病の治療でビクトーザ1.8mgを皮下注していた患者さんです。そのMax投与量でさえ抑えられなかった食欲ですが、マンジャロに切り替えた後から体重減少を認め、3ヶ月で4.8kg体重減少を達成しましたという実例もあり、従来薬で効果が不十分だった方でも良好な結果が得られています。
安全性と副作用
主な副作用
主な副作用は本剤5mg群では悪心10.7%、本剤10mg群では悪心12.4%及び下痢11.6%、本剤15mg群では悪心17.4%及び下痢10.7%となっており、消化器系の副作用が最も多く報告されています。
副作用の詳細
消化器系副作用
- 悪心(吐き気):10-20%
- 下痢:10-17%
- 便秘:11-18%
- 食欲減退:12-22%
- 嘔吐:5-12%
マンジャロの主な副作用である胃腸障害は、治療開始から2〜4週間程度でピークを迎え、徐々に軽減していく傾向があります
重要な注意点
急性膵炎が発現することがあるので、急性膵炎の初期症状(嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛等)があらわれた場合は、使用を中止し、速やかに医師の診断を受けるよう指導することとされています。
安全性プロファイル
マンジャロの全体的な安全性プロファイルは、確立されたグルカゴン様ペプチド(GLP-1)受容体作動薬と同様であり、消化器系の副作用がもっとも多く報告された有害事象でした。
適応対象者と禁忌事項
適応となる方
マンジャロによるメディカルダイエットの適応となるのは以下のような方です:
- BMI30以上の肥満症の方
- BMI27以上で肥満関連合併症を有する方
- 高血圧
- 脂質異常症
- 耐糖能異常
- 非アルコール性脂肪性肝疾患
使用できない方(禁忌事項)
以下の方は使用できません:
- 膵炎の既往歴がある方
- 甲状腺髄様癌の既往または家族歴がある方
- 多発性内分泌腫瘍症2型の既往がある方
- 重篤な腎機能障害がある方
- 妊娠中・授乳中の方
使用方法と投与スケジュール
基本的な使用方法
マンジャロは週に1回皮下注射します。忘れないように毎週同じ曜日に投与しましょう。1週間長く作用する薬剤ですので、朝昼晩いつでも投与可能で、食事のタイミングを問いません
用量調整スケジュール
マンジャロは、身体が薬に順応するまで徐々に用量を増やすことが推奨されています。週1回2.5㎎投与から始め、目標用量に達するまで4週間ごとに2.5㎎ずつ増量し、最大10mgまで投与可能です。
標準的な増量スケジュール
- 1-4週目:2.5mg
- 5-8週目:5mg
- 9-12週目:7.5mg
- 13週目以降:10mg(必要に応じて12.5mgまたは15mg)
治療の継続性とリバウンドについて
継続治療の重要性
最新のSURMOUNT-4試験(JAMA, 2024)では、チルゼパチドを中止すると体重が急速に再増加することが示されました
リバウンドのメカニズム
マンジャロは使用し続けている間のみ効果が持続するお薬だからです。使用を中止し、体から薬剤が抜けると食欲を抑える効果はなくなってしまうのです
肥満は単なる「カロリー過多」の問題ではなく、慢性的な代謝疾患であるため、薬をやめると生理的に体重が戻る現象が起こります
長期管理の考え方
高血圧や糖尿病と同じく、肥満も「慢性疾患」であり、長期的な治療が必要です。そのため、体重減少後も適切な維持療法を継続することが重要です。
生活習慣との併用効果
食事療法との組み合わせ
マンジャロの効果を最大化するためには、適切な食事管理との併用が重要です:
推奨される食事内容
- 高タンパク質・低カロリーの食事
- 脂肪分を控えめにした食事
- 小分けにした食事の摂取
マンジャロ使用中は脂肪分が多すぎる食事を避け、バランスの取れた食事を心がけることで胃腸の負担を軽減できます
運動療法との相乗効果
適度な運動は代謝を促進し、薬の効果をサポートします。有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることで、より効果的な体重減少と筋肉量の維持が期待できます。
医療監督下での安全な治療
定期的なモニタリング
マンジャロによる治療では、以下の定期検査が必要です:
- 血液検査(肝機能、腎機能、血糖値など)
- 体重・BMIの測定
- 血圧測定
- 副作用の確認
医師との連携の重要性
マンジャロ使用中は、定期的に医師の診察を受けましょう。副作用が現れた場合、早期に対処することで深刻な問題を回避できます
費用と保険適用について
保険適用の条件
2025年4月より、肥満症治療薬「ゼップバウンド」として以下の条件で保険適用となっています:
- BMI35以上の高度肥満症
- BMI27以上35未満で以下の条件を2つ以上満たす場合:
- 高血圧
- 脂質異常症
- 2型糖尿病
自由診療での利用
保険適用の条件を満たさない場合でも、自由診療でマンジャロの処方を受けることが可能です。費用は医療機関によって異なりますが、週1回の注射で月額数万円程度が一般的です。

よくある質問(FAQ)
A: 効果を実感するまでの期間は4〜12週間程度が一般的とされており、継続することでより大きな成果が見込めます。個人差はありますが、多くの方が1ヶ月以内に食欲の変化を実感されています。
A: 多くの副作用は一時的で、体が薬に慣れるにつれて軽減し、安全に治療を継続できる場合がほとんどです。万が一副作用が現れた場合は、速やかに医師にご相談ください。
A: チルゼパチドを中止すると体重が急速に戻ることが報告されています。そのため、目標体重達成後も維持療法の継続が推奨されます。
A: マンジャロは既存のGLP-1受容体作動薬よりも強力なHbA1c改善作用・体重減少作用を有します。GIPとGLP-1の二重作用により、従来薬を上回る効果が期待できます。
最新の研究動向
SURMOUNT-5試験の結果
2025年5月、NEJM(New England Journal of Medicine)誌という世界で最も権威のある医学雑誌に掲載されましたSURMOUNT-5試験では、GIP/GLP-1受容体作動薬とGLP-1受容体作動薬を直接比較した結果、GIP/GLP-1受容体作動薬の方が有意に高い体重減少効果を示しました。
糖尿病予防効果
前糖尿病と肥満を有する人にチルゼパチドを3年間投与した場合、プラセボを投与した場合と比較して、体重が大幅かつ持続的に減少し、2型糖尿病に進展するリスクが著明に低下したという画期的な結果も報告されています。
厚生労働省からの注意喚起
適応外使用に関する警告
厚生労働省は、「適応外の目的(ダイエット)での使用について、安全性・有効性が十分に検証されていない」とし、注意を呼びかけています
安全な使用のために
本来の適応である2型糖尿病以外の方は、自己判断での使用は避けるべきです。すでに使用中の方も、副作用の兆候に注意し、医師のもとで定期的なフォローアップを受けることが大切です
まとめ
マンジャロ(チルゼパチド)は、医学的根拠に基づいた画期的なメディカルダイエット薬剤として、多くの方に安全で効果的な体重減少をもたらしています。
重要なポイント
- 高い効果:臨床試験で15-22%の体重減少を実証
- 科学的根拠:GIP/GLP-1の二重作用による包括的な代謝改善
- 安全性:適切な医療監督下での使用により高い安全性を確保
- 継続性:長期的な管理による持続的な効果維持
- 個別対応:患者様一人ひとりの状態に応じた最適な治療計画
アイシークリニック渋谷院での治療
当院では、患者様の安全を第一に考えた包括的なメディカルダイエットプログラムを提供しております。マンジャロによる治療をご検討の方は、まず詳細なカウンセリングと医学的評価を受けていただき、最適な治療計画をご提案いたします。
健康的で持続可能な体重管理を実現するために、私たち医療チームがあなたの journey を全力でサポートいたします。ご質問やご相談がございましたら、お気軽に当院までお問い合わせください。
参考文献
- 日本イーライリリー株式会社:マンジャロ電子化された添付文書
- 日本肥満学会:肥満症診療ガイドライン2022
- 日本糖尿病学会:糖尿病治療ガイド2024-2025
- 厚生労働省:医薬品医療機器等法に基づく安全性情報
- New England Journal of Medicine: SURMOUNT-1, SURMOUNT-5試験結果
- Lancet Diabetes & Endocrinology: SURPASS-J-mono試験結果
- JAMA: SURMOUNT-4試験結果
免責事項:本記事は医学的情報の提供を目的としており、個別の医療相談や治療の代替となるものではありません。マンジャロによる治療をご検討の際は、必ず医師による適切な診察と指導を受けてください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務