「最近、なんとなく気分が沈む」「朝起きるのがつらい」「仕事に行くのがしんどい」——このような精神的なつらさを感じていませんか。こうした状態が続くと、自分の心身に何か問題があるのではないかと不安になる方も多いでしょう。精神的なしんどさは、単なる疲労や一時的な気分の落ち込みである場合もあれば、うつ病や適応障害といった精神疾患のサインである可能性もあります。本記事では、精神的にしんどいと感じたときに考えられる疾患や、受診の目安、診断の流れ、そして日常生活でできる対処法について詳しく解説します。心の不調を感じている方が、適切な対応を取るための参考にしていただければ幸いです。
目次
- 「精神的にしんどい」とはどのような状態か
- 精神的なしんどさの原因として考えられる疾患
- うつ病の症状と特徴
- 適応障害の症状と特徴
- 自律神経失調症の症状と特徴
- その他の関連する精神疾患
- セルフチェックのポイント
- 精神科・心療内科を受診する目安
- 診察から診断までの流れ
- 診断書の役割と取得方法
- 精神疾患の主な治療法
- 休職を検討する場合の流れ
- 日常生活でできる対処法とセルフケア
- 利用できる相談窓口と支援制度
- まとめ
- よくある質問
「精神的にしんどい」とはどのような状態か
「精神的にしんどい」という表現は、心の状態を表す言葉として日常的に使われています。この状態は、単に疲れているという身体的な疲労とは異なり、気持ちの面でつらさや苦しさを感じている状態を指します。
精神的なしんどさには、さまざまな形があります。気分が落ち込んで何もする気が起きない状態、不安や焦りが常につきまとう状態、イライラして感情のコントロールが難しい状態、集中力が低下して物事に取り組めない状態などがその例です。これらの状態は、誰でも一時的に経験することがありますが、長期間続いたり、日常生活に支障をきたしたりする場合には注意が必要です。
精神的なしんどさの背景には、仕事や人間関係のストレス、生活環境の変化、睡眠不足、身体的な疲労の蓄積など、さまざまな要因が関係しています。これらの要因が複合的に重なることで、心の負担が大きくなり、しんどさとして自覚されるようになります。また、ストレスに対する感受性や耐性には個人差があり、同じ状況でもしんどさを強く感じる人とそうでない人がいます。
重要なのは、精神的なしんどさを感じること自体は決して弱さや甘えではないということです。心の状態は脳の働きと密接に関係しており、ストレスが過剰にかかると脳の機能に影響が出ることがわかっています。そのため、精神的なしんどさが続く場合には、自分を責めるのではなく、適切な対処や専門家への相談を検討することが大切です。
精神的なしんどさの原因として考えられる疾患
精神的なしんどさが続く場合、その背景にはさまざまな精神疾患が隠れている可能性があります。厚生労働省の調査によると、日本では約30人に1人が何らかの精神疾患を抱えているとされており、精神疾患は決して珍しい病気ではありません。特に20代から40代の働き盛り世代では、うつ病や不安障害の増加が顕著であり、職場や家庭のストレス、社会的孤立が背景にあると考えられています。
代表的な精神疾患としては、気分の落ち込みや意欲低下を特徴とするうつ病、ストレスに対する反応として症状が現れる適応障害、身体的な症状が主に現れる自律神経失調症、過度な不安や恐怖に悩まされる不安障害、気分の波が激しい双極性障害などがあります。これらの疾患は症状に共通する部分も多く、専門家による適切な診断が必要です。
精神疾患の原因ははっきりと解明されていない部分も多いですが、元々の気質や遺伝的な素因に加えて、つらい体験などの環境要因が複合的に関係していると考えられています。いずれの疾患も早期発見と早期治療が回復の鍵となります。精神的なしんどさが2週間以上続く場合や、日常生活に支障が出ている場合には、専門医への相談を検討することをお勧めします。
うつ病の症状と特徴
うつ病は、一日中気分が落ち込んでいる状態や、何をしても楽しめないという状態が長期間続く精神疾患です。精神的ストレスや身体的ストレスなどを背景に、脳の働きに不調が生じている状態と考えられています。厚生労働省の調査によると、日本では100人に約6人が生涯のうちにうつ病を経験しているとされ、女性の方が男性よりも1.6倍程度多いことが知られています。
うつ病の主な精神症状
うつ病では、抑うつ気分と呼ばれる気分の落ち込みが代表的な症状です。理由もなく悲しくなる、涙が出てくる、何に対しても興味や喜びを感じられなくなるといった状態が続きます。以前は楽しめていた趣味や活動に対しても意欲が湧かなくなり、物事に対して悲観的な考え方をするようになります。
また、思考力や集中力の低下も特徴的な症状です。仕事や学業において判断力が鈍る、簡単な決定ができなくなる、物事を覚えられなくなるといった状態が現れます。自分自身を過度に責めたり、自己評価が著しく低下したりすることもあります。重症の場合には、死への思いや自殺念慮が生じることもあり、このような症状がある場合には早急な専門家への相談が必要です。
うつ病の主な身体症状
うつ病は精神的な症状だけでなく、身体的な症状も伴います。睡眠障害は特に多くみられ、なかなか寝付けない入眠障害、夜中に何度も目が覚める中途覚醒、朝早く目が覚めてしまう早朝覚醒などが代表的です。逆に、過剰に眠ってしまう過眠の症状が現れる場合もあります。
食欲の変化も重要な症状です。食欲が著しく低下して体重が減少する場合もあれば、過食傾向になって体重が増加する場合もあります。その他、慢性的な疲労感や倦怠感、頭痛、肩こり、胃腸の不調、動悸など、さまざまな身体症状が現れることがあります。これらの身体症状が先に現れて、内科を受診しても原因がわからないというケースも少なくありません。
うつ病の特徴的なパターン
うつ病の症状には日内変動があることが特徴です。多くの場合、朝方に最も症状が強く、夕方にかけて少し楽になるというパターンがみられます。このため、朝起きることが非常につらく、仕事に行けなくなるという状況が生じやすくなります。
うつ病の診断基準としては、抑うつ気分や興味・喜びの喪失といった症状が2週間以上続いていることが目安とされています。アメリカ精神医学会が作成したDSM-5という診断基準では、これらの主要症状に加えて、睡眠障害、食欲の変化、疲労感、思考力や集中力の低下、自己評価の低下、死への思いなどの症状が複数当てはまる場合にうつ病と診断されます。
適応障害の症状と特徴
適応障害は、環境の変化や人間関係のストレスなど、生活上の出来事によって強いストレスを受けた際に、精神症状、身体症状、または行動面に症状が現れ、社会生活や日常生活に支障をきたす心の病気です。ストレスとなる状況や出来事がはっきりしているのが特徴で、そのストレス因から離れると症状が改善することが多くみられます。
適応障害の原因となるストレス因
適応障害を引き起こすストレス因は人によってさまざまです。職場での人間関係のトラブル、過重な業務、異動や転職、上司からのパワーハラスメントなどの仕事関連のストレスが多くみられます。また、転校、入学、進学といった学業環境の変化、結婚、出産、離婚、引っ越しといったライフイベント、病気や怪我、家族の介護なども原因となり得ます。
注意が必要なのは、ストレス因は必ずしもネガティブな出来事だけではないということです。結婚や昇進、出産といった一般的には喜ばしいと思われる出来事であっても、環境の変化に伴うストレスによって適応障害を発症することがあります。新入学生や新入社員に起こる5月病も、適応障害の一種と考えられています。
適応障害の主な症状
適応障害の症状は、情緒面、身体面、行動面に現れます。情緒面の症状としては、気分の落ち込み、不安、焦り、緊張、イライラ、怒りなどがあります。涙もろくなったり、過剰に心配したりすることも特徴的です。身体面では、動悸、めまい、頭痛、吐き気、便秘や下痢、不眠、食欲低下などの症状がみられることがあります。
行動面の変化としては、遅刻や欠勤の増加、無断欠席、仕事のミスの増加、攻撃的な言動、過度の飲酒、無謀な運転などが挙げられます。これらの症状が仕事のパフォーマンスや対人関係に影響を及ぼし、さらなるストレスを生むという悪循環に陥ることもあります。
うつ病との違い
適応障害とうつ病は症状に共通する部分があり、区別が難しいこともあります。両者の大きな違いは、ストレス因との関係性です。適応障害の場合、ストレス因から離れると比較的早く症状が改善します。例えば、仕事がストレス因である場合、休日には気分が楽になったり、趣味を楽しめたりすることがあります。
一方、うつ病の場合は環境が変わっても気分が晴れにくく、持続的に抑うつ気分が続き、何も楽しめなくなります。また、適応障害と診断されても、ストレス状態が長引いたり、適切な治療を受けなかったりすると、うつ病に移行することがあります。ある調査では、適応障害と診断された人の40%以上が5年後にはうつ病などの診断名に変更されているとされています。
自律神経失調症の症状と特徴
自律神経失調症は、自律神経のバランスが崩れることによってさまざまな身体的・精神的症状が現れる状態を指します。自律神経とは、心臓の動きや消化活動、体温調節など、自分の意思ではコントロールできない身体の機能を調整している神経系のことです。活動時に働く交感神経と、休息時に働く副交感神経がバランスを取り合って身体の機能を維持しています。
自律神経失調症の原因
自律神経のバランスが崩れる原因としては、過度なストレス、生活リズムの乱れ、睡眠不足、環境の変化、ホルモンバランスの変化などが挙げられます。特に、現代社会では慢性的なストレスにさらされることが多く、交感神経が優位な状態が続きやすくなっています。この緊張状態が長く続くと、自律神経のバランスが乱れ、さまざまな症状として現れます。
また、女性ホルモンの変化が自律神経に影響を与えることがあり、更年期障害や月経前症候群に伴って自律神経失調症の症状が現れることもあります。そのため、自律神経失調症は男性よりも女性に多いとされています。
自律神経失調症の主な症状
自律神経失調症の症状は非常に多岐にわたります。頭痛、頭重感、めまい、ふらつき、耳鳴りといった頭部の症状、動悸、息苦しさ、胸の圧迫感といった循環器系の症状、胃もたれ、吐き気、食欲不振、便秘、下痢といった消化器系の症状、発汗異常、冷え性、ほてりといった体温調節に関する症状などがあります。
精神的な症状としては、不安感、イライラ、集中力の低下、倦怠感、不眠などがみられます。これらの症状は、内科などの検査を受けても異常が見つからないことが特徴です。そのため、原因がわからないまま症状に悩まされ続けるケースも少なくありません。
自律神経失調症と他の精神疾患との関係
自律神経失調症という言葉は広く知られていますが、実は正式な病名ではなく、確立した診断基準があるわけではありません。日本心身医学会では、自律神経失調症を「種々の自律神経系の不定愁訴を有し、しかも臨床検査では器質的病変が認められず、かつ顕著な精神障害のないもの」と定義しています。
重要なのは、自律神経失調症の症状は、うつ病、適応障害、パニック障害、不安障害などの精神疾患でもみられるということです。そのため、自律神経失調症と思っていたものが実は別の疾患であったということも珍しくありません。自律神経の症状が続く場合には、精神科や心療内科を受診して適切な診断を受けることが重要です。
その他の関連する精神疾患
精神的なしんどさの原因となる疾患は、うつ病や適応障害、自律神経失調症だけではありません。以下に、その他の関連する精神疾患について解説します。
不安障害(不安症)
不安障害は、過度な不安や恐怖が持続し、日常生活に支障をきたす疾患の総称です。全般性不安障害、社会不安障害(社交不安症)、パニック障害などが含まれます。全般性不安障害では、さまざまな事柄に対して過剰な心配や不安が長期間続きます。社会不安障害では、人前で話すことや注目を浴びる場面で強い不安や恐怖を感じます。
パニック障害は、突然の激しい不安発作(パニック発作)が繰り返し起こる疾患です。パニック発作では、動悸、発汗、震え、息苦しさ、胸痛、めまいなどの身体症状とともに、死への恐怖や気が狂いそうな感覚を伴うことがあります。発作自体は通常10分から30分程度で治まりますが、また発作が起きるのではないかという予期不安から、外出を避けるようになることもあります。
双極性障害(躁うつ病)
双極性障害は、うつ状態と躁状態を繰り返す疾患です。うつ状態ではうつ病と同様の症状が現れますが、躁状態では気分が高揚し、活動的になり、睡眠時間が短くても平気になったり、多弁になったり、衝動的な行動をとったりします。躁状態のときは本人に病識がないことが多く、診断が難しいことがあります。うつ病と診断されて治療を受けていたものが、実は双極性障害であったというケースもあります。
強迫性障害(強迫症)
強迫性障害は、自分の意思に反して不快な考えやイメージが頭に浮かび(強迫観念)、その不安を打ち消すために特定の行動を繰り返してしまう(強迫行為)疾患です。例えば、手が汚れているという考えが頭から離れず、何度も手を洗ってしまう、戸締りが気になって何度も確認してしまうといった症状があります。本人もこれらの行動が過剰であることはわかっていますが、止めることができません。
セルフチェックのポイント
精神的なしんどさを感じている場合、自分の状態を客観的に把握することが重要です。以下のような症状が2週間以上続いている場合には、専門家への相談を検討することをお勧めします。
気分・感情面のチェック項目
一日中気分が落ち込んでいる、理由もなく悲しくなる、何に対しても興味や喜びを感じられない、以前楽しめていたことが楽しめなくなった、不安や焦りが強い、イライラしやすくなった、自分を責めることが増えた、将来に希望が持てない——これらの症状に当てはまる場合には注意が必要です。
思考・認知面のチェック項目
集中力が低下している、判断力や決断力が鈍っている、物忘れが増えた、頭が回らない感じがする、物事を悲観的に考えがちである、自己評価が低下している——これらの症状がみられる場合も、精神的な不調のサインである可能性があります。
身体面のチェック項目
寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまう、疲れているのに眠れない、食欲がない、または過食傾向である、体重の増減が著しい、慢性的な疲労感や倦怠感がある、頭痛や肩こりがひどい、胃腸の調子が悪い、動悸や息苦しさを感じる——これらの身体症状も精神的な不調と関連していることがあります。
行動面のチェック項目
仕事や学校に行くのがつらい、遅刻や欠勤が増えた、人と会うのを避けるようになった、趣味や外出の機会が減った、身だしなみや整理整頓に気を配れなくなった、お酒の量が増えた——このような行動の変化も、精神的な不調を示すサインかもしれません。
これらのチェック項目はあくまで目安であり、当てはまるからといって必ずしも精神疾患があるとは限りません。しかし、複数の項目に当てはまり、かつそれが2週間以上続いている場合には、専門家に相談することで適切な診断と対応を受けることができます。
精神科・心療内科を受診する目安
精神的なしんどさを感じていても、医療機関を受診すべきかどうか迷う方は多いでしょう。ここでは、受診を検討すべきタイミングについて解説します。
受診を検討すべき状態
気分の落ち込みや不安、不眠などの症状が2週間以上続いている場合は、受診を検討すべきタイミングです。また、十分に休養を取っても改善がみられない場合、症状によって日常生活や仕事、学業に支障が出ている場合も受診が勧められます。「受診すべきかどうか」を悩むほどにつらいと感じているのであれば、その悩みを解消するためにも受診することに意味があります。
早めの受診が重要な理由
精神疾患は早期発見・早期治療が重要です。症状が軽いうちに治療を開始した方が、回復も早く、症状も軽症で済むことが多いとされています。逆に、放置しておくと症状が悪化したり、長期化したりするリスクがあります。また、無理を続けることで別の疾患を併発してしまうこともあります。
「このくらいで受診するのは大げさではないか」「もう少し様子を見てみよう」と思う気持ちはわかりますが、心身の不調を感じているのであれば、早めに専門家に相談することが回復への近道です。精神科や心療内科への受診に抵抗がある場合は、まずかかりつけの内科医や、地域の保健所、精神保健福祉センターなどの相談窓口を利用することもできます。
精神科と心療内科の違い
精神科と心療内科はどちらも心の健康を扱う診療科ですが、厳密には専門領域が異なります。精神科は、うつ病、統合失調症、不安障害など、主に精神的な症状を対象としています。一方、心療内科は、ストレスなどの心理的要因によって身体に症状が現れる心身症を主な対象としています。
実際には、精神科と心療内科の境界は曖昧で、両方を標榜しているクリニックも多くあります。精神的なしんどさを感じている場合、どちらを受診しても適切な対応を受けることができます。不明な場合は、電話で症状を伝えて受診可能か確認することをお勧めします。
診察から診断までの流れ
精神科や心療内科を受診する際、どのような流れで診察が行われるのかを知っておくと、不安を軽減することができます。
予約と受付
多くの精神科・心療内科は予約制を採用しています。初診の場合は特に予約が必要なことが多いので、事前に電話やウェブサイトで確認しましょう。予約の際には、大まかな症状や受診の目的を伝えることで、当日の診察がスムーズに進みます。また、診断書が必要な場合は、その旨も伝えておくとよいでしょう。
問診と診察
初診では、まず問診票を記入することが一般的です。現在の症状、症状が始まった時期、きっかけとなった出来事、既往歴、服用中の薬、生活状況などを記載します。その後、医師による診察が行われます。診察時間は医療機関によって異なりますが、初診では20分から30分程度かかることが多いです。
診察では、現在の症状について詳しく聞かれます。気分の落ち込みや不安がどのくらい続いているか、どのような状況で症状が強くなるか、睡眠や食欲の状態、日常生活への影響などが質問されます。また、生い立ちや生活歴、家族歴などについて聞かれることもあります。これらは診断を行ううえで重要な情報となります。
診断の方法
精神疾患の診断は、主に問診による症状の確認と、DSM-5やICD-10といった国際的な診断基準に基づいて行われます。現在の精神科診断では、特徴となる症状と持続期間、それによる生活上の支障がどの程度あるかを中心に診断名が付けられます。
血液検査や画像検査などで精神疾患を直接診断することは一般的ではありませんが、身体疾患が精神症状を引き起こしている可能性を除外するために検査が行われることがあります。例えば、甲状腺機能の異常がうつ状態を引き起こすことがあるため、必要に応じて血液検査が実施されます。
診察を受ける際のポイント
診察を有意義なものにするために、事前に症状をメモしておくことをお勧めします。いつから症状があるのか、どのような症状なのか、どのような状況で症状が強くなるか、日常生活への影響などを整理しておくと、限られた診察時間の中で必要な情報を伝えやすくなります。また、服用中の薬がある場合はお薬手帳を持参しましょう。
診断書の役割と取得方法
精神疾患と診断された場合、必要に応じて診断書を発行してもらうことができます。診断書は、休職や休学、各種公的支援の申請など、さまざまな場面で必要となります。
診断書に記載される内容
診断書には決められたフォーマットはありませんが、一般的に病名、症状の概要、治療内容、治療期間(見込み期間)などが記載されます。休職のための診断書の場合は、療養が必要な期間が明記されることが多く、「○月○日から○ヶ月間の療養を要する」といった形で記載されます。
診断書が必要となる場面
診断書は主に以下のような場面で必要となります。会社や学校への休職・休学の届け出、傷病手当金の申請、自立支援医療制度の申請、障害年金の申請、労災申請などです。どのような用途で診断書が必要かによって、記載すべき内容が異なることがあるため、診断書を依頼する際には用途を医師に伝えることが重要です。
診断書の取得方法と費用
診断書は、診察を受けた医療機関で発行を依頼することで取得できます。診断書の発行費用は医療機関によって異なりますが、一般的に2,000円から10,000円程度です。診断書の発行は診療行為ではないため健康保険は適用されず、全額自己負担となります。
発行にかかる期間は医療機関によってさまざまで、即日発行に対応しているところもあれば、1週間から2週間程度かかるところもあります。急ぎで診断書が必要な場合は、予約の際に確認しておくことをお勧めします。なお、医師法により、医師には正当な理由がない限り診断書の発行を拒むことができないと定められています。
精神疾患の主な治療法
精神疾患の治療は、まず心身の休養がしっかりとれるように環境を整えることから始まります。そのうえで、薬物療法や精神療法など、症状や状態に応じた治療が行われます。
休養と環境調整
精神疾患の治療において、まず重要なのは心身を休めることです。職場や学校から離れて自宅で過ごすことで、症状が大きく軽減することもあります。ストレスの原因となっている環境から離れ、回復に専念できる状況を作ることが治療の基盤となります。仕事がストレスの原因である場合は、業務内容の調整や配置転換、休職などを検討することもあります。
薬物療法
うつ病や不安障害などの精神疾患に対しては、抗うつ薬や抗不安薬などの薬物療法が行われることがあります。抗うつ薬は、脳内のセロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質に作用し、気分の落ち込みや不安を改善する効果があります。効果が現れるまでに数日から数週間かかることが多いため、医師の指示に従って継続的に服用することが重要です。
不眠症状がある場合には睡眠導入剤が処方されることもあります。薬物療法は症状の改善に有効ですが、自己判断で服用を中止したり、用量を変更したりすることは避け、必ず主治医と相談しながら進めていくことが大切です。
精神療法(心理療法)
精神療法には、支持的精神療法、認知行動療法、対人関係療法などがあります。支持的精神療法は、医師やカウンセラーが患者の話に耳を傾け、共感や支持を示すことで精神的な安定を図る基本的な治療法です。認知行動療法は、物事の捉え方(認知)や行動パターンに働きかけ、ストレスへの対処能力を高めることを目的としています。
これらの精神療法は、薬物療法と併用されることも多く、症状の改善だけでなく再発予防にも効果があるとされています。
その他の治療法
上記の治療法に加えて、軽い有酸素運動がうつ症状を軽減することが知られており、散歩などの運動療法が取り入れられることもあります。また、季節性うつ病に対しては高照度光療法が有効な場合があります。薬物療法の効果が十分でない場合には、経頭蓋磁気刺激法(TMS)や修正型電気けいれん療法などの専門的な治療法が検討されることもあります。
休職を検討する場合の流れ
精神的な不調により仕事を続けることが困難な場合、休職を検討することも選択肢の一つです。ここでは、休職を検討する際の流れについて解説します。
休職の判断
休職が必要かどうかは、医師の診察によって判断されます。日常生活や仕事に支障が出ている場合、症状が悪化している場合、仕事を続けることで回復が遅れる可能性がある場合などに、休職が勧められることがあります。休職は、疲れた心と身体に休息を与え、健康を取り戻すための手段の一つであり、決して逃げることではありません。
休職の手続き
休職を行う場合、一般的には以下のような流れになります。まず、医療機関を受診して医師の診察を受け、休職が必要と判断された場合は診断書を発行してもらいます。診断書には、病名、症状、休職の期間などが記載されます。多くの場合、最初は1ヶ月から2ヶ月程度の期間で診断書を作成し、その後必要に応じて延長することになります。
診断書を受け取ったら、職場に提出します。提出先は直属の上司であることが多いですが、会社によっては人事部や総務部に提出する場合もあります。精神的に職場に行くことが困難な場合は、電話で休職の指示を受けた旨を伝え、診断書を郵送で送ることも可能です。
休職中の過ごし方
休職中は、心身の回復に専念することが大切です。休職期間中は2週間から1ヶ月に1回程度、医療機関を定期的に受診し、治療を継続します。症状の経過に応じて、休職期間の短縮や延長、治療内容の調整が行われます。
休職中は、規則正しい生活リズムを保つことが重要です。また、アルコールは体調不良や生活リズムの乱れだけでなく、うつ状態の悪化やアルコール依存症にもつながるため、控えることが勧められます。一人暮らしの場合は、可能であれば家族のもとで療養することも検討しましょう。
傷病手当金について
休職中は給与が支払われないことが一般的ですが、健康保険に加入している場合は傷病手当金を受給できる可能性があります。傷病手当金は、病気やけがで働けなくなった場合に、標準報酬日額の3分の2程度が最長1年6ヶ月間支給される制度です。申請には医師の意見書が必要となりますので、主治医に相談しましょう。
復職に向けて
症状が改善し、医師が復職可能と判断した場合は、復職の診断書が発行されます。会社によっては産業医との面談が必要となることもあります。復職後は、いきなりフルタイムで働くのではなく、時短勤務や業務量の軽減などの配慮を受けながら、徐々に元の勤務状態に戻していくことが望ましいです。復職後も当面の間は定期的な通院を続け、再発防止に努めることが重要です。
日常生活でできる対処法とセルフケア
精神的なしんどさを感じているとき、専門家への相談に加えて、日常生活の中で自分自身でできる対処法も大切です。ここでは、セルフケアのポイントを紹介します。
十分な休養と睡眠
精神的な不調があるときは、まず心身を休めることが最も重要です。十分な睡眠時間を確保し、質の良い睡眠を取れるように環境を整えましょう。就寝前のスマートフォンやパソコンの使用を控える、カフェインやアルコールの摂取を控える、寝室の温度や照明を調整するなどの工夫が効果的です。また、毎日同じ時間に起床し、規則正しい生活リズムを維持することも大切です。
適度な運動
軽い運動には、気分を改善する効果があることが知られています。激しい運動である必要はなく、散歩やストレッチ、ヨガなどの軽い有酸素運動で十分です。外出して日光を浴びることも、体内時計のリズムを整え、精神的な安定につながります。ただし、無理をせず、体調と相談しながら行うことが大切です。
バランスの取れた食事
精神的に不調なときは食欲が低下することがありますが、栄養バランスの取れた食事を心がけることが回復の助けになります。特に、脳の働きに必要なタンパク質、ビタミンB群、ミネラルなどを含む食品を意識して摂取しましょう。また、規則正しく食事を取ることで生活リズムも整いやすくなります。
ストレス発散と気分転換
ストレスを溜め込まないよう、自分なりのストレス発散法を見つけることも大切です。趣味の活動、音楽を聴く、友人と話す、入浴、読書など、自分がリラックスできる方法を取り入れましょう。ただし、飲酒や過食、買い物などはストレス発散としては適切ではなく、かえって問題を悪化させることがあるので注意が必要です。
一人で抱え込まない
精神的なしんどさを感じているとき、一人で抱え込まずに誰かに話すことが重要です。家族や友人など、信頼できる人に自分の状態を打ち明けることで、気持ちが楽になることがあります。また、周囲に理解者がいることで、回復の過程でのサポートを受けやすくなります。
完璧を目指さない
精神的に不調なときは、物事を完璧にこなそうとせず、「これくらいでいい」と自分を許すことも大切です。責任感が強く、真面目で完璧主義な人ほど、自分を追い詰めてしまいがちです。「明日があるさ」という気持ちで、できることからゆっくり取り組むようにしましょう。
利用できる相談窓口と支援制度
精神的なしんどさを感じている方が利用できる相談窓口や支援制度はさまざまあります。医療機関を受診するかどうか迷っている場合や、誰かに話を聞いてほしいという場合には、これらの窓口を活用することができます。
公的な相談窓口
各地域の保健所や保健センターでは、こころの健康に関する相談を受け付けています。保健師や精神保健福祉士などの専門職が対応し、必要に応じて医療機関や福祉サービスの紹介を受けることができます。電話相談、来所相談のどちらも可能で、無料で利用できます。
また、各都道府県・政令指定都市には精神保健福祉センターが設置されています。こころの健康についての相談、精神科医療についての相談、社会復帰についての相談など、精神保健福祉全般にわたる相談に対応しています。医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師などの専門職が在籍しており、より専門的な相談を受けることができます。
電話相談窓口
「こころの健康相談統一ダイヤル」(0570-064-556)は、全国共通の電話番号で、かけた所在地の公的な相談窓口につながります。「こころの耳」は厚生労働省が運営する働く人のメンタルヘルス・ポータルサイトで、電話やSNS、メールでの相談に対応しています。その他、よりそいホットライン(0120-279-338)など、24時間対応の電話相談窓口もあります。
職場における相談
職場にメンタルヘルスに関する相談窓口や産業医がいる場合は、これらを活用することもできます。また、上司や人事部に相談することで、業務量の調整や配置転換などの配慮を受けられる場合もあります。
経済的支援制度
精神疾患の治療を続ける際に利用できる経済的支援制度もあります。自立支援医療制度を利用すると、精神疾患の外来医療費の自己負担が1割に軽減されます。また、精神障害者保健福祉手帳を取得すると、税金の控除や公共交通機関の運賃割引などのサービスを受けることができます。これらの制度について詳しく知りたい場合は、医療機関のソーシャルワーカーや市区町村の窓口に相談してみましょう。
まとめ
精神的なしんどさは、誰もが経験し得るものです。一時的なものであれば、休養やセルフケアで回復することも多いですが、症状が2週間以上続いたり、日常生活に支障が出たりしている場合は、専門家への相談を検討することをお勧めします。精神疾患は早期発見・早期治療が重要であり、適切な治療を受ければ回復が期待できます。
精神的なしんどさを感じることは、決して弱さや甘えではありません。心の健康を守るために、自分の状態に気づき、必要な対処を取ることは、とても大切なことです。一人で抱え込まず、周囲の人や専門家に相談しながら、回復への一歩を踏み出していただければと思います。

よくある質問
気分の落ち込みや不安、不眠などの症状が2週間以上続いている場合は、精神科や心療内科への受診を検討することをお勧めします。特に、十分な休養を取っても改善がみられない場合や、仕事や日常生活に支障が出ている場合は、早めに専門家に相談することが大切です。症状が軽いうちに治療を開始した方が、回復も早くなる傾向があります。
精神科は主にうつ病や統合失調症、不安障害など精神的な症状を対象とし、心療内科は心理的要因による身体症状(心身症)を主に扱います。ただし、実際には両方を標榜しているクリニックも多く、精神的なしんどさを感じている場合はどちらを受診しても適切な対応を受けることができます。迷う場合は電話で症状を伝え、受診可能か確認するとよいでしょう。
医療機関によって対応は異なりますが、初診時に診断書を発行してもらえる場合もあります。診断書の発行には医師による診察が必要で、症状の経過や状態を確認したうえで、休職などが必要と判断された場合に発行されます。診断書が必要な場合は、予約時にその旨を伝えておくとスムーズです。即日発行に対応しているクリニックもありますので、事前に確認することをお勧めします。
適応障害は特定のストレス因がはっきりしており、そのストレス因から離れると症状が改善しやすいのが特徴です。例えば、仕事がストレスの場合、休日には気分が楽になることがあります。一方、うつ病は環境が変わっても気分が晴れにくく、持続的に抑うつ気分が続きます。ただし、適応障害が長引くとうつ病に移行することもあるため、早めの対処が重要です。
自律神経失調症の症状は、うつ病や不安障害などの精神疾患でもみられることがあります。身体的な検査で異常がないにもかかわらず症状が続く場合や、精神的な症状(気分の落ち込み、不安など)も伴う場合は、精神科や心療内科を受診することで、より適切な診断と治療を受けられる可能性があります。自己判断せず、専門医に相談することをお勧めします。
まず精神科や心療内科を受診し、医師の診察を受けます。休職が必要と判断された場合、診断書が発行されます。その診断書を職場(上司、人事部、総務部など)に提出することで休職の手続きが進みます。職場に行くことが困難な場合は、電話で連絡し、診断書を郵送することも可能です。会社によって休職の規定が異なるため、就業規則を事前に確認しておくとよいでしょう。
まずは十分な休養と睡眠を確保することが大切です。規則正しい生活リズムを維持し、散歩などの軽い運動を取り入れることも効果的です。また、信頼できる人に話を聞いてもらう、趣味やリラックスできる活動を行うなど、ストレスを発散する方法を見つけましょう。ただし、症状が続く場合や日常生活に支障が出ている場合は、専門家への相談をお勧めします。
医療機関には守秘義務があり、本人の同意なく受診情報が会社に伝わることはありません。健康保険を使用した場合でも、診療科名や病名が会社に通知されることは通常ありません。ただし、休職する場合は診断書を提出するため、病名が会社に知られることになります。診断書の記載内容については医師と相談することができます。
参考文献
- 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト うつ病」
- 厚生労働省「こころもメンテしよう~若者を支えるメンタルヘルスサイト~ うつ病」
- 厚生労働省「こころの相談の窓口について」
- 厚生労働省「こころの耳 相談窓口案内」
- 厚生労働省「心の健康」
- 厚生労働省「うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)」
- 大塚製薬「すまいるナビゲーター うつ病とは」
- 武田薬品工業「うつ、ここから晴れ」
- 厚生労働省「困ったときに受けられる支援・サービス こころの健康サポートガイド」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務