「血圧が低めと言われたけれど、どのくらいから問題なの?」「朝起きられない、立ちくらみがする…これって低血圧のせい?」
このような疑問をお持ちの方は少なくありません。高血圧については広く知られているものの、低血圧についてはあまり詳しく知られていないのが現状です。
実は低血圧は、若い女性だけでなく高齢者にも多くみられ、放置すると日常生活に支障をきたすばかりか、転倒や失神など深刻な事態を招くこともあります。本記事では、低血圧の基準値から危険なサイン、種類別の特徴、そして日常生活でできる対策まで、わかりやすく解説します。
目次
- そもそも血圧とは何か
- 低血圧の定義と基準値
- 低血圧はどこからがやばい?数値の目安
- 低血圧の種類と特徴
- 低血圧でよくみられる症状
- 低血圧が引き起こすリスク
- こんな症状があれば病院へ
- 低血圧の原因
- 日常生活でできる低血圧対策
- 食事で気をつけるポイント
- 運動と低血圧の関係
- 薬物療法について
- 年代・性別ごとの注意点
- よくある質問(Q&A)
- まとめ
1. そもそも血圧とは何か
血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す圧力のことです。心臓が収縮して血液を送り出すときに最も高くなる血圧を「収縮期血圧(最高血圧)」、心臓が拡張して血液を取り込むときに最も低くなる血圧を「拡張期血圧(最低血圧)」と呼びます。
一般的に血圧は「上の血圧/下の血圧」と表現され、例えば「120/80mmHg」のように記載されます。この数値は、血管にかかる圧力を水銀柱の高さ(ミリメートル)で表したものです。
血圧は一日の中でも常に変動しています。朝起きたとき、食事の後、運動した後、ストレスを感じたときなど、さまざまな要因によって上がったり下がったりします。そのため、一度の測定で一喜一憂するのではなく、継続的に測定して傾向を把握することが大切です。
血圧を調整しているのは、主に自律神経系とホルモン系です。自律神経のうち交感神経が活発になると血圧は上がり、副交感神経が優位になると血圧は下がります。このバランスが崩れると、血圧の調節がうまくいかなくなり、低血圧や高血圧の原因となります。
2. 低血圧の定義と基準値
高血圧については、日本高血圧学会によって「収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上」という明確な診断基準が定められています。しかし、低血圧については国際的にも日本国内でも統一された診断基準が存在しません。
一般的には、収縮期血圧(上の血圧)が100mmHg未満の場合を低血圧とすることが多いです。世界保健機関(WHO)では、「収縮期血圧100mmHg以下、拡張期血圧60mmHg以下」を低血圧の目安としています。ただし、病院や医師によって基準が若干異なることもあり、90mmHgや110mmHgを目安にする場合もあります。
重要なのは、血圧の数値だけでなく、症状があるかどうかという点です。血圧が低くても何も症状がなく日常生活に支障がなければ、医学的には問題ないとされることがほとんどです。逆に、血圧が基準値内であっても、めまいや立ちくらみなどの症状がある場合は、詳しい検査が必要になることがあります。
収縮期血圧と拡張期血圧の目安は以下のとおりです。
収縮期血圧(上の血圧)について:
- 正常血圧:120mmHg未満
- 正常高値血圧:120〜129mmHg
- 高値血圧:130〜139mmHg
- 高血圧:140mmHg以上
- 低血圧の目安:100mmHg未満(90〜100mmHgとする場合もあり)
拡張期血圧(下の血圧)について:
- 正常血圧:80mmHg未満
- 低血圧の目安:60mmHg以下
3. 低血圧はどこからがやばい?数値の目安
「低血圧はどこからがやばいのか」という疑問に対しては、単純に数値だけで判断することは難しいというのが正直なところです。しかし、いくつかの目安を示すことはできます。
まず、若い女性で収縮期血圧が80mmHg台であっても、無症状で元気に生活している方は珍しくありません。このような場合は体質性の低血圧と考えられ、特に治療の必要はありません。
一方で、以下のような場合は注意が必要です。
危険度が中程度の状態(要経過観察):
- 収縮期血圧90〜100mmHgで、時々めまいや倦怠感がある
- 朝起きるのがつらい、午前中は調子が悪い
- 立ちくらみが週に数回起こる
危険度が高い状態(医療機関への受診を推奨):
- 収縮期血圧が90mmHg未満で症状を伴う
- 立ち上がるたびにめまいやふらつきがある
- 失神したことがある
- 動悸や息切れを伴う
- 症状が日常生活に支障をきたしている
特に緊急性が高い状態(すぐに受診が必要):
- 収縮期血圧が80mmHg未満で意識がもうろうとする
- 冷や汗、顔面蒼白を伴う急激な血圧低下
- 大量出血や激しい下痢・嘔吐を伴う
また、急激な血圧の変化にも注意が必要です。起立性低血圧の診断基準として、立位時に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下する場合が挙げられています。さらに、拡張期血圧が30mmHg以上低下すると、脳への血流が不足して失神を起こすリスクが高まるとされています。
4. 低血圧の種類と特徴
低血圧は、その原因や発症パターンによっていくつかの種類に分類されます。それぞれの特徴を理解することで、適切な対処法を見つけやすくなります。
4-1. 本態性低血圧(一次性低血圧)
低血圧の約9割を占めるのがこのタイプです。特別な原因となる病気がなく、体質的に血圧が低い状態を指します。遺伝的な要因が関与していることも多く、両親や兄弟姉妹に低血圧の人がいる場合は、本態性低血圧の可能性が高くなります。
本態性低血圧の人には、やせ型で色白、神経質、疲れやすい、冷え性といった特徴がみられることが多いです。朝が苦手で、午後になると調子が出てくるという傾向もよくあります。
このタイプの低血圧は、血圧が低いだけで自覚症状がなければ、基本的に治療の必要はありません。ただし、症状がある場合は生活習慣の改善や、必要に応じて薬物療法を行うことがあります。
4-2. 起立性低血圧
起立性低血圧は、寝ている状態や座っている状態から急に立ち上がったときに血圧が急激に低下する状態です。立ちくらみやめまい、ふらつきが典型的な症状で、ひどい場合は失神することもあります。
診断基準としては、立位になって3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下する場合に起立性低血圧と診断されます。
人が立ち上がると、重力の影響で約500mlの血液が下半身の静脈にたまります。通常は自律神経が働いて血管を収縮させ、心拍数を上げることで血圧を維持しますが、この調節機能がうまく働かないと起立性低血圧が起こります。
起立性低血圧は高齢者に多くみられ、全高齢者の約20%に発生するという報告もあります。高齢者の転倒の多くが未診断の起立性低血圧の結果である可能性も指摘されています。
4-3. 食後低血圧
食後低血圧は、食事後に血圧が急激に低下する状態です。食後30分から1時間後に症状が現れやすく、めまいやふらつき、倦怠感、ひどい場合は失神を起こすこともあります。
食事をすると、消化・吸収のために大量の血液が胃腸に集まります。通常は自律神経が働いて心拍数を上げたり末梢血管を収縮させたりして血圧を維持しますが、この調節機能が低下していると食後低血圧が起こります。
高齢者では3人に1人程度が食後低血圧を経験するとされており、普段高血圧の人でも食後低血圧を起こすことがあります。食前の収縮期血圧と比べて、食後に20mmHg以上低下する場合は食後低血圧が疑われます。
近年の研究では、食後低血圧が脳卒中や心筋梗塞の引き金になる可能性も指摘されており、軽視できない症状といえます。
4-4. 症候性低血圧(二次性低血圧)
症候性低血圧は、何らかの病気が原因で起こる低血圧です。原因となる病気としては、心臓疾患(心筋梗塞、心不全、心臓弁膜症など)、内分泌疾患(甲状腺機能低下症、副腎機能不全など)、糖尿病による自律神経障害、パーキンソン病、重度の感染症、大量出血、脱水などが挙げられます。
また、降圧薬、利尿薬、抗うつ薬、血管拡張薬などの薬剤が原因で低血圧を起こすこともあります。高齢者は複数の薬を服用していることが多く、薬剤性低血圧には特に注意が必要です。
症候性低血圧の場合は、原因となる病気の治療が最優先となります。症状が急激に現れた場合や、他の症状を伴う場合は、速やかに医療機関を受診することが大切です。
5. 低血圧でよくみられる症状
低血圧の症状は多岐にわたり、人によって現れ方もさまざまです。代表的な症状を理解しておくことで、早期発見・早期対策につながります。
脳への血流不足による症状
低血圧で最も多い症状はめまいと立ちくらみです。脳への血流が一時的に減少することで、ふわふわした浮遊感や、目の前が暗くなる・白くなるといった症状が現れます。特に朝の起床時や急に立ち上がったときに生じやすく、ひどい場合は意識を失うこともあります。
頭痛や頭重感も脳への血流不足から起こる症状です。慢性的な頭痛に悩まされている方の中には、低血圧が原因というケースもあります。
また、集中力の低下や記憶力の低下、ぼんやりした感覚なども、脳への血流不足が関係している可能性があります。
全身症状
低血圧の人によくみられるのが、全身のだるさ(倦怠感)です。十分な睡眠をとっても疲れが取れない、常に体が重いと感じるという訴えが多くあります。これは、全身の細胞に十分な酸素や栄養が届いていないことが原因と考えられています。
朝起きられない、午前中は体が動かないという症状も典型的です。自律神経のバランスが崩れていると、朝になっても交感神経がうまく働かず、血圧を正常に上昇させることができません。そのため、午前中は調子が悪く、午後から夕方にかけて調子が出てくるという傾向がみられます。
心臓・循環器系の症状
心臓が少ない血液を全身に送ろうとするため、動悸(心臓がドキドキする感覚)や息切れが起こることがあります。顔色が青白くなったり、冷や汗をかいたりすることもあります。
手足の末端まで血液が十分に行き渡らないため、手足の冷えやしびれを感じる人も多くいます。冷え性は低血圧の典型的な随伴症状の一つです。
消化器系の症状
低血圧では、自律神経の乱れや消化器への血流不足から、食欲不振や胃もたれ、吐き気が起こることがあります。食事をしっかり摂れないと、さらに体調が悪化するという悪循環に陥りやすくなります。
その他の症状
肩こりや首のこり、耳鳴り、不眠なども低血圧に関連して起こることがあります。これらの症状は他の病気でも起こりうるため、低血圧との関連を見落としやすい点に注意が必要です。
6. 低血圧が引き起こすリスク
低血圧は高血圧ほど重大な病気につながらないと思われがちですが、放置するとさまざまなリスクがあります。
転倒・骨折のリスク
起立性低血圧や食後低血圧による立ちくらみやめまいは、転倒の大きな原因となります。特に高齢者の場合、転倒によって骨折(特に大腿骨頸部骨折や手首の骨折)を起こすリスクが高く、それがきっかけで寝たきりになってしまうケースも少なくありません。
また、転倒時に頭を打つと、脳挫傷や硬膜下血腫など、命に関わる深刻な外傷につながることもあります。
失神のリスク
血圧が著しく低下すると、脳への血流が極端に減少し、失神を起こすことがあります。失神そのものは一時的なものですが、失神する場所や状況によっては大きな事故につながる危険性があります。
例えば、駅のホームで失神すれば転落事故につながりかねませんし、車の運転中や入浴中の失神は命に関わる事態を招く恐れがあります。
臓器への影響
血圧が極端に低い状態が続くと、全身の臓器に十分な血液が供給されなくなります。脳への血流が慢性的に不足すると、認知機能の低下につながる可能性も指摘されています。
また、心臓自体への血流が不足すると、狭心症のような胸痛や息切れを起こすこともあります。
生活の質(QOL)の低下
常にだるい、めまいがする、朝起きられないといった症状は、仕事や学業、家事などの日常生活に大きな支障をきたします。慢性的な疲労感や不調は精神的にもつらく、うつ症状を併発することもあります。
「体質だから仕方ない」と諦めるのではなく、適切な対策をとることで症状を改善し、生活の質を向上させることが可能です。
7. こんな症状があれば病院へ
以下のような症状がある場合は、医療機関を受診することをお勧めします。
すぐに受診が必要な場合として、失神したことがある、意識がもうろうとする、激しい動悸や胸痛がある、大量出血や激しい下痢・嘔吐を伴う、急激に症状が悪化した、といった場合が挙げられます。
早めの受診が望ましい場合として、立ちくらみやめまいが頻繁に起こる、朝起きられず日常生活に支障がある、倦怠感が続いて改善しない、食後に気分が悪くなることが多い、降圧薬など何らかの薬を服用している、といった場合があります。
受診する際は、内科または循環器内科を選ぶとよいでしょう。可能であれば、自宅で測定した血圧の記録を持参すると、診断の参考になります。朝・夕など決まった時間に測定し、食前・食後や立った状態・座った状態など、条件を変えて記録しておくとより有用です。
8. 低血圧の原因
低血圧が起こる原因はさまざまで、複数の要因が重なっていることも少なくありません。
体質・遺伝的要因
本態性低血圧の多くは、遺伝的な体質が関係しています。血管の弾力性や自律神経の働き方には個人差があり、生まれつき血圧が低めの人がいます。家族に低血圧の人がいる場合は、自分も低血圧になりやすい傾向があります。
自律神経の乱れ
自律神経は血圧の調節に重要な役割を果たしています。ストレス、睡眠不足、不規則な生活、過労などで自律神経のバランスが崩れると、血圧の調節がうまくいかなくなります。
交感神経が常に緊張した状態が続くと、それを抑えようとして副交感神経が過剰に働き、結果として血圧が下がりすぎることがあります。
加齢による変化
高齢になると、血管の弾力性が低下し、圧受容器(血圧を感知するセンサー)の感度も鈍くなります。そのため、体位の変化に対する血圧調節が遅れ、起立性低血圧が起こりやすくなります。
また、高齢者は体内の水分量が減少しやすく、脱水による循環血液量の減少も低血圧の原因となります。
病気や薬剤
前述のとおり、心臓疾患、内分泌疾患、神経疾患など、さまざまな病気が低血圧の原因となります。
薬剤では、降圧薬、利尿薬、硝酸薬(狭心症の薬)、抗うつ薬、抗パーキンソン病薬、前立腺肥大症治療薬などが低血圧を引き起こすことがあります。高齢者は複数の薬を服用していることが多く、薬の相互作用による低血圧にも注意が必要です。
栄養不足・脱水
無理なダイエットや偏食による栄養不足は、低血圧の原因となります。特にタンパク質やミネラル、ビタミンB群の不足は、血圧維持に影響します。
また、水分摂取量が少ないと循環血液量が減少し、血圧が低下します。夏場や発熱時、激しい運動後などは特に注意が必要です。
9. 日常生活でできる低血圧対策
低血圧の多くは、生活習慣の改善によって症状を軽減することができます。以下に、日常生活で実践できる対策をご紹介します。
規則正しい生活を心がける
早寝早起きの習慣をつけ、十分な睡眠時間を確保しましょう。睡眠不足は自律神経の乱れを招き、低血圧の症状を悪化させます。
毎日決まった時間に起床し、朝の光を浴びることで、体内時計がリセットされ、自律神経のリズムが整いやすくなります。
ゆっくりとした動作を心がける
起立性低血圧を防ぐために、急な動作は避けましょう。朝起きるときは、まず布団の中で足首を動かしたり、脚をブラブラさせたりして血流を促してから、ゆっくりと起き上がります。
ベッドに座った状態で一呼吸おき、立ち上がるときも壁や家具に手をつきながらゆっくり立ちます。浴槽から出るときやトイレから立ち上がるときも同様です。
長時間同じ姿勢でいた後は、急に動き出さず、足踏みをするなどして血流を促してから動くようにしましょう。
十分な水分を摂取する
水分が不足すると血液量が減少し、血圧が下がりやすくなります。厚生労働省によると、人間の体は1日に約2.5リットルの水分を失うとされています。食事から約1リットル、体内で約0.3リットルの水分が作られるため、飲み水としては1日1.2〜1.5リットル程度の摂取が推奨されています。
低血圧の人は意識的に水分を摂るようにしましょう。一度に大量に飲むよりも、こまめに少量ずつ飲むほうが効果的です。
弾性ストッキングを活用する
弾性ストッキングは、足から心臓への血液の戻りを助け、下半身に血液がたまるのを防ぎます。起立性低血圧の予防や、冷え性・むくみの改善にも効果が期待できます。
特に立ち仕事の人や、長時間座っていることが多い人は、弾性ストッキングの着用を検討してみてください。
ストレス管理
慢性的なストレスは自律神経のバランスを乱し、低血圧の原因となります。自分なりのストレス解消法を見つけ、適度にリラックスする時間を設けましょう。
深呼吸やストレッチ、趣味の時間、友人との会話など、気分転換になる活動を日常に取り入れることが大切です。
10. 食事で気をつけるポイント
食事の内容や摂り方を工夫することで、低血圧の症状を改善することができます。
1日3食、規則正しく食べる
低血圧の人は食欲不振になりやすく、朝食を抜きがちです。しかし、朝食は1日の活動に備えて血圧を正常に上昇させるための大切なエネルギー源です。朝食をしっかり摂ることで、午前中の調子が改善することがあります。
また、食事を抜くと血糖値が不安定になり、自律神経のバランスにも影響します。できるだけ決まった時間に食事を摂るようにしましょう。
適度な塩分摂取
高血圧の人には塩分制限が推奨されますが、低血圧の人には適度な塩分摂取が有効な場合があります。塩分には血管を収縮させて血圧を上げる作用があるためです。
ただし、塩分の摂りすぎは他の健康問題を引き起こす可能性があるため、極端に増やす必要はありません。味噌汁や漬物などから適度に塩分を摂るようにしましょう。
高血圧や腎臓病、心臓病のある人は、塩分摂取について医師に相談してください。
バランスのよい食事
タンパク質は血液や血管を作るために欠かせない栄養素です。肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などから良質なタンパク質を摂るようにしましょう。
ビタミンB群はエネルギー代謝に関わる重要な栄養素で、低血圧の人に不足しやすいとされています。豚肉、レバー、玄米、緑黄色野菜などに多く含まれています。
ミネラル(特に鉄分)が不足すると貧血になり、低血圧の症状が悪化することがあります。ほうれん草、ひじき、レバーなどから鉄分を摂りましょう。
食後低血圧を防ぐ工夫
食後低血圧が気になる人は、以下の点に注意しましょう。
1回の食事量を減らし、食事の回数を増やす(例:1日5〜6回に分ける)ことで、消化管への血液集中を分散させることができます。
炭水化物の摂りすぎは食後低血圧を起こしやすくするため、ご飯やパン、麺類の量を控えめにしましょう。
ゆっくりよく噛んで食べることで、急激な血圧低下を防ぐことができます。
食後にコーヒーや緑茶でカフェインを摂ると、血管収縮作用によって血圧低下を和らげる効果が期待できます。ただし、夕食後のカフェイン摂取は睡眠に影響することがあるため、朝食・昼食時に試してみてください。
11. 運動と低血圧の関係
適度な運動は、低血圧の改善に効果的です。運動によって筋肉が鍛えられると、血液を心臓に送り返すポンプ作用が強化されます。また、運動は自律神経のバランスを整え、血圧調節機能を改善する効果もあります。
おすすめの運動
ウォーキングは最も手軽で効果的な運動です。1日20〜30分、週3日以上を目標に、無理のない範囲で続けましょう。
ふくらはぎは「第二の心臓」とも呼ばれ、下半身の血液を心臓に送り返す重要な役割を果たしています。つま先立ちや踵の上げ下げなど、ふくらはぎを使う運動を日常的に行うと効果的です。
水中ウォーキングやエアロビクス(有酸素運動)も、心肺機能を高め、血液循環を改善するのに適しています。
ストレッチや軽いヨガは、筋肉をほぐし、血流を促進します。朝起きたときにベッドの上でストレッチをする習慣をつけると、起床時の低血圧症状を和らげることができます。
運動時の注意点
低血圧の人は運動中・運動後に血圧が下がりやすいため、以下の点に注意してください。
運動前には十分に水分を摂り、準備運動を行いましょう。急に激しい運動を始めると、血圧が急変動することがあります。
運動中にめまいやふらつきを感じたら、すぐに休憩を取りましょう。無理は禁物です。
運動後は急に動きを止めず、クールダウンを十分に行いましょう。急に立ち止まると血圧が急降下することがあります。
入浴中も血管が拡張して血圧が下がりやすくなります。長時間の入浴や熱すぎるお湯は避け、浴槽から出るときはゆっくり立ち上がりましょう。
12. 薬物療法について
生活習慣の改善だけでは症状が改善しない場合や、症状が重い場合には、薬物療法が行われることがあります。
主な治療薬
昇圧剤として、血管を収縮させて血圧を上げる薬(ミドドリンなど)や、循環血液量を増やす薬などが使用されます。
自律神経調整薬や、交感神経を刺激する薬が処方されることもあります。
随伴症状(めまい、頭痛、冷え性など)に対しては、漢方薬が効果を発揮することがあります。よく使われる漢方薬として、当帰芍薬散(冷え性・倦怠感)、半夏白朮天麻湯(めまい・頭痛・肩こり)、五苓散(むくみ・めまい)、補中益気湯(全身倦怠感・食欲不振)などがあります。
薬物療法の注意点
低血圧の治療薬は、効きすぎると高血圧を引き起こすことがあるため、医師の指示に従って慎重に使用する必要があります。
また、他の薬との相互作用にも注意が必要です。服用中の薬がある場合は、必ず医師や薬剤師に伝えてください。
二次性低血圧の場合は、原因となる病気の治療が優先されます。また、薬剤性低血圧が疑われる場合は、原因となる薬の減量や変更が検討されます。
13. 年代・性別ごとの注意点
若い女性
低血圧は若い女性に多くみられます。やせ型で筋肉量が少ないこと、女性ホルモンの影響で血管が拡張しやすいことなどが関係していると考えられています。
無理なダイエットは低血圧を悪化させます。適正体重を維持し、バランスのよい食事を心がけましょう。また、適度な運動で筋肉をつけることも大切です。
生理前後は特に症状が悪化しやすい時期です。この時期は無理をせず、十分な休養を取るようにしましょう。
高齢者
高齢者は起立性低血圧や食後低血圧を起こしやすく、転倒・骨折のリスクが高くなります。
複数の薬を服用している場合は、薬剤性低血圧の可能性もあります。かかりつけ医に相談し、定期的に薬の見直しを行いましょう。
夜間のトイレ時は特に注意が必要です。起き上がる前に足首を動かし、ベッドに座って一呼吸おいてから立ち上がるようにしましょう。寝室からトイレまでの動線に手すりを設置するのも有効です。
脱水になりやすい高齢者は、意識的に水分を摂るようにしましょう。のどが渇いたと感じる前に、こまめに水分補給をすることが大切です。
妊婦
妊娠中は、血管が拡張し血液量が増えることで、血圧が低下しやすくなります。特に妊娠初期〜中期に低血圧になりやすい傾向があります。
妊娠中のめまいや立ちくらみは比較的よくある症状ですが、ひどい場合や頻繁に起こる場合は、産婦人科医に相談しましょう。
長時間の立ち仕事は避け、こまめに休憩を取るようにしてください。仰向けで寝ると子宮が下大静脈を圧迫して血圧が下がることがあるため(仰臥位低血圧症候群)、左側を下にして横向きに寝ることをお勧めします。

14. よくある質問(Q&A)
A1. 血圧が低くても症状がなく日常生活に支障がなければ、基本的に問題ありません。むしろ、低血圧は高血圧に比べて心血管疾患のリスクが低いという面もあります。ただし、めまいや立ちくらみ、倦怠感などの症状がある場合は、日常生活の質が低下するだけでなく、転倒などのリスクもあるため、適切な対策が必要です。
A2. はい、定期的に血圧を測定することをお勧めします。自分の血圧の傾向を把握しておくことで、体調の変化に早く気づくことができます。また、医療機関を受診する際にも、日頃の血圧記録が診断の参考になります。
Q3. コーヒーは低血圧に効きますか?
A3. コーヒーに含まれるカフェインには血管収縮作用があり、一時的に血圧を上げる効果があります。特に食後低血圧の予防には効果的とされています。ただし、飲みすぎると不眠や動悸の原因になることがあるため、適量を心がけましょう。
Q4. 低血圧の人がお酒を飲んでも大丈夫ですか?
A4. アルコールには血管を拡張させる作用があり、飲酒中は血圧がさらに低下しやすくなります。低血圧の人がお酒を飲むと、起立性低血圧による失神を起こしやすくなるため、控えめにするか、座った状態でゆっくり飲むようにしましょう。
Q5. 低血圧は遺伝しますか?
A5. 本態性低血圧には遺伝的な要因が関与していると考えられています。両親や兄弟姉妹に低血圧の人がいる場合、自分も低血圧になりやすい傾向があります。ただし、生活習慣も大きく影響するため、遺伝だけで決まるわけではありません。
Q6. 低血圧の人は朝食に何を食べるとよいですか?
A6. タンパク質を含む食品(卵、納豆、ヨーグルト、チーズなど)と、適度な塩分を摂ることをお勧めします。味噌汁は塩分とミネラルを同時に摂れるため、低血圧の人の朝食に適しています。また、温かい飲み物や食べ物は体を温め、血流を促進する効果があります。
15. まとめ
低血圧は、高血圧ほど深刻な病気につながらないと思われがちですが、日常生活に支障をきたしたり、転倒・失神などの危険を招いたりすることがあります。
低血圧の基準としては、一般的に収縮期血圧100mmHg未満が目安とされますが、数値だけでなく症状の有無が重要です。めまい、立ちくらみ、倦怠感、朝起きられないなどの症状がある場合は、医療機関への相談を検討しましょう。
低血圧にはさまざまな種類があり、本態性低血圧、起立性低血圧、食後低血圧、症候性低血圧などに分類されます。原因や発症パターンによって対処法が異なるため、自分の低血圧のタイプを知ることが大切です。
多くの低血圧は、規則正しい生活、十分な睡眠と水分摂取、バランスのよい食事、適度な運動など、生活習慣の改善によって症状を軽減することができます。急な動作を避け、ゆっくり立ち上がるなどの日常的な注意も効果的です。
生活習慣の改善だけでは効果が不十分な場合は、薬物療法が行われることもあります。症状が重い場合や、他の病気が原因として疑われる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
「体質だから仕方ない」と諦めず、適切な対策を続けることで、低血圧による不調を改善し、快適な毎日を送ることができます。気になる症状がある方は、ぜひ一度専門医にご相談ください。
参考文献
- 健康長寿ネット「低血圧」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「栄養・食生活と高血圧」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「高血圧」
- オムロン ヘルスケア「知っておきたい低血圧」
- オムロン ヘルスケア「知っておきたい『食後低血圧』」
- 愛知県薬剤師会「低血圧」
- 日本医師会「めまいがしたらご注意を−高齢者の低血圧−」
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の症状や状況に対する医学的なアドバイスではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務