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腸閉塞の原因を徹底解説|症状・治療・予防法まで医師が詳しく説明

はじめに

突然の激しい腹痛、嘔吐、お腹の張り──これらの症状が現れたとき、それは「腸閉塞(イレウス)」かもしれません。腸閉塞は、消化管の内容物が正常に通過できなくなる状態で、放置すると命に関わる危険な疾患です。

腸閉塞は決して珍しい病気ではありません。日本では年間約10万人以上が腸閉塞で入院しているとされ、特に高齢化社会を迎えた現代では、その患者数は増加傾向にあります。腸閉塞は適切な治療を受ければ回復できる病気ですが、原因を理解し、早期発見・早期治療につなげることが何より重要です。

この記事では、腸閉塞の原因について詳しく解説します。機械的腸閉塞と機能的腸閉塞の違い、それぞれの具体的な原因、症状、診断方法、治療法、そして予防法まで、皆様が知っておくべき情報を包括的にお伝えします。

腸閉塞(イレウス)とは

腸閉塞の定義

腸閉塞とは、何らかの原因によって腸管の内容物(食べ物や消化液、ガスなど)が正常に通過できなくなった状態を指します。医学的には「イレウス」とも呼ばれ、英語では「Intestinal obstruction」または「Ileus」と表記されます。

私たちの消化管は、口から肛門まで約9メートルにも及ぶ長い管状の器官です。食べ物は口から入り、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(結腸、直腸)を経て、最終的に便として体外に排出されます。この過程では、腸管が規則的に収縮と弛緩を繰り返す「蠕動運動」によって、内容物が順次送り出されていきます。

腸閉塞では、この正常な流れが阻害されることで、腸管内に内容物やガスが貯留し、腸管が拡張します。これにより、激しい腹痛、嘔吐、腹部膨満などの症状が現れるのです。

腸閉塞の分類

腸閉塞は、その原因や病態によって大きく2つのタイプに分類されます。

機械的腸閉塞(mechanical ileus) 腸管そのものや周囲の構造物による物理的な閉塞が原因で起こるタイプです。腸管が物理的に詰まったり、締め付けられたり、ねじれたりすることで、内容物の通過が妨げられます。腸閉塞全体の約80〜90%を占め、最も一般的なタイプです。

機能的腸閉塞(functional ileus / paralytic ileus) 腸管に物理的な閉塞はないものの、腸管の蠕動運動が低下または停止することで、内容物が停滞するタイプです。「麻痺性イレウス」とも呼ばれます。手術後や炎症性疾患などで起こることが多く、腸閉塞全体の約10〜20%を占めます。

さらに、機械的腸閉塞は、血流障害の有無によって以下のように細分化されます。

単純性腸閉塞 腸管の血流が保たれている状態です。適切な治療を行えば、比較的予後は良好です。

絞扼性腸閉塞 腸管がねじれたり締め付けられたりして、血流障害を伴う状態です。腸管の壊死を起こす可能性が高く、緊急手術が必要となることが多い、非常に危険なタイプです。絞扼性腸閉塞は、症状出現から手術までの時間が遅れると、死亡率が上昇することが知られています。

腸閉塞の主な原因

腸閉塞の原因は多岐にわたります。ここでは、機械的腸閉塞と機能的腸閉塞に分けて、それぞれの主な原因を詳しく解説していきます。

機械的腸閉塞の原因

機械的腸閉塞は、物理的に腸管が詰まることで起こります。その原因は実に様々ですが、以下が主なものです。

1. 腹部手術後の癒着(最も多い原因)

**術後癒着は、機械的腸閉塞の原因として最も多く、全体の約60〜70%を占めます。**過去に開腹手術を受けた経験がある方は、特に注意が必要です。

手術後、腸管や腹膜(お腹の内側を覆う膜)が傷つくと、その修復過程で周囲の臓器や腹壁と癒着(くっついてしまうこと)を起こすことがあります。この癒着により、腸管が引っ張られたり、折れ曲がったり、締め付けられたりして、内容物の通過が妨げられるのです。

癒着による腸閉塞の特徴は以下の通りです:

  • 手術直後から数十年後まで、いつでも発症する可能性がある
  • 特に虫垂炎(盲腸)の手術、婦人科手術、大腸切除術、胃切除術などの後に起こりやすい
  • 何度も繰り返すことがある(反復性腸閉塞)
  • 初回の手術が広範囲であったり、術後に感染症や合併症があったりした場合、癒着が起こりやすい

実際、日本外科系連合学会の調査によると、開腹手術を受けた患者の約5〜10%が、術後に癒着性腸閉塞を発症するとされています。腹腔鏡手術は開腹手術に比べて癒着のリスクが低いとされていますが、完全に防げるわけではありません。

2. 大腸がん・小腸がん

悪性腫瘍(がん)は、機械的腸閉塞の原因として2番目に多く、特に高齢者において重要な原因です。大腸がんによる腸閉塞は、機械的腸閉塞全体の約15〜20%を占めます。

がん細胞が腸管内で増殖すると、腸管の内腔が徐々に狭くなり、最終的に完全に塞がってしまうことがあります。また、がんの浸潤によって腸管が周囲の臓器と癒着し、それが原因で腸閉塞を起こすこともあります。

がんによる腸閉塞の特徴:

  • 徐々に症状が進行することが多い(慢性的な便通異常、腹部膨満感など)
  • 体重減少、食欲不振、血便などの症状を伴うことがある
  • 50歳以上の方で初めて腸閉塞を起こした場合は、がんの可能性を考慮する必要がある
  • 大腸がんでは左側結腸(下行結腸、S状結腸)での閉塞が多い
  • 小腸がんは比較的まれだが、発見が遅れやすい

特に、便秘がちだった方が急に排便が全くなくなった場合や、便が細くなってきた場合は、大腸がんによる腸閉塞の可能性があります。

3. 腸管ヘルニア

ヘルニアとは、臓器が本来あるべき位置から飛び出してしまう状態を指します。腸管がヘルニアの袋の中に入り込んで締め付けられると、腸閉塞を引き起こします。ヘルニアによる腸閉塞は、機械的腸閉塞の約5〜15%を占めます。

主なヘルニアの種類:

鼠径ヘルニア(そけいヘルニア) いわゆる「脱腸」のことで、足の付け根部分から腸管が飛び出します。成人のヘルニアの中で最も多く、男性に多く見られます。鼠径ヘルニアが嵌頓(かんとん:出た腸が戻らなくなること)すると、絞扼性腸閉塞を起こし、緊急手術が必要になります。

大腿ヘルニア 太ももの付け根部分から腸管が飛び出します。高齢の女性に多く、嵌頓しやすいため注意が必要です。

臍ヘルニア(へそのヘルニア) おへその部分から腸管が飛び出します。乳児や肥満の方、妊娠経験のある女性に多く見られます。

腹壁瘢痕ヘルニア 過去の手術の傷跡から腸管が飛び出します。開腹手術を受けた方の約5〜10%に発生します。

内ヘルニア 腹腔内の隙間に腸管が入り込んでしまう状態です。特に、胃の手術後や腹腔鏡手術後に起こることがあります。CTなどの画像検査でも診断が難しいことがあり、注意が必要です。

4. 腸重積症

腸重積症は、腸管の一部が隣接する腸管の中に入り込んでしまう状態です。望遠鏡が縮むときのように、腸管が重なり合ってしまうため、内容物の通過が妨げられます。

腸重積症の特徴:

  • 乳幼児に多く見られるが、成人でも発症する
  • 成人の場合、約90%に何らかの器質的な原因(腫瘍、ポリープ、憩室など)がある
  • 小児の場合は、原因不明の特発性腸重積が多い
  • 激しい腹痛が間欠的に起こる(痛みが波のように繰り返す)
  • 血便(イチゴゼリー様の粘血便)が特徴的

成人の腸重積による腸閉塞では、小腸腫瘍や大腸腫瘍が先進部となっていることが多く、がんの可能性も考慮する必要があります。

5. 腸管の炎症性疾患

腸管に炎症が起こると、腸管壁が厚くなったり、炎症による癒着が生じたりして、腸閉塞を引き起こすことがあります。

クローン病 口から肛門まで、消化管のどの部位にも炎症が起こりうる慢性の炎症性腸疾患です。特に小腸末端(回腸末端)に好発します。繰り返す炎症により腸管が狭窄(きょうさく:狭くなること)し、腸閉塞を起こすことがあります。若年者に多く、長期的な管理が必要です。

腸結核 結核菌が腸管に感染することで起こります。現在では比較的まれですが、免疫力が低下した方では注意が必要です。

放射線性腸炎 骨盤部のがん(子宮がん、前立腺がんなど)に対する放射線治療の副作用として起こります。治療後数ヶ月から数年経って発症することもあります。

憩室炎 腸管の壁に袋状のくぼみ(憩室)ができ、そこに炎症が起こる病気です。特に大腸憩室炎は、炎症が周囲に広がり、腸閉塞を起こすことがあります。

6. 腸管の先天異常

生まれつき腸管に異常がある場合も、腸閉塞の原因となります。主に新生児や乳児期に発見されますが、軽度の場合は成人になってから症状が現れることもあります。

  • 鎖肛(さこう):肛門が正常に形成されていない状態
  • 腸回転異常症:腸管が正常な位置に回転せず、異常な位置にある状態
  • 腸管閉鎖・狭窄:腸管の一部が生まれつき閉じている、または狭い状態
  • ヒルシュスプルング病:腸管の神経細胞が欠如し、蠕動運動ができない状態

7. 異物・糞石・胆石

腸管内に異物が詰まることで、腸閉塞を起こすことがあります。

異物による腸閉塞

  • 誤飲した物体(玩具、義歯、薬のパッケージなど)
  • 食物塊(消化されにくい食品の塊):特に高齢者で歯が悪い方、早食いの習慣がある方
  • 食物繊維の塊(コンニャク、海藻類、柿、キノコ類など)
  • 食べ物に含まれる種や骨

糞石(ふんせき)による腸閉塞 便が腸管内で固まり、石のように硬くなったものを糞石といいます。特に大腸で形成されることが多く、高齢者、寝たきりの方、便秘症の方に起こりやすいです。

胆石イレウス 比較的まれですが、胆石が胆嚢から腸管に落ち込み、小腸で詰まることがあります。高齢者、特に女性に多く見られます。通常、胆石は胆嚢と十二指腸の間に瘻孔(ろうこう:異常な通路)ができて腸管に移動します。

8. 腸捻転・腸軸捻転

腸管がねじれてしまう状態を腸捻転といいます。ねじれることで腸管の血流が途絶え、絞扼性腸閉塞となるため、極めて危険です。

S状結腸軸捻転 S状結腸(大腸の一部)がねじれる状態で、日本では腸捻転の中で最も多く見られます。高齢者、慢性便秘の方、寝たきりの方に多く発生します。

小腸軸捻転 小腸がねじれる状態で、小児に多く見られますが、成人でも起こります。激しい腹痛と急激なショック状態を呈することがあり、緊急手術が必要です。

盲腸軸捻転 盲腸(大腸の始まりの部分)がねじれる状態です。比較的まれですが、生まれつき盲腸の固定が不十分な方に起こりやすいです。

9. その他の原因

その他にも、以下のような原因で機械的腸閉塞が起こることがあります。

  • 腹腔内膿瘍(のうよう):お腹の中に膿が溜まり、腸管を圧迫する
  • 腹腔内血腫:お腹の中に血液が溜まり、腸管を圧迫する
  • 子宮筋腫や卵巣腫瘍:巨大な腫瘍が腸管を圧迫する
  • 後腹膜腫瘍:腸管の背側にできた腫瘍が腸管を圧迫する
  • 寄生虫:まれだが、回虫の塊などが腸管を塞ぐことがある

機能的腸閉塞(麻痺性イレウス)の原因

機能的腸閉塞は、腸管に物理的な閉塞がないにもかかわらず、腸管の蠕動運動が低下または停止することで起こります。主な原因は以下の通りです。

1. 腹部手術後

腹部手術後は、最も一般的な機能的腸閉塞の原因です。開腹手術を受けると、術後数日間は腸管の蠕動運動が一時的に低下します。これは「術後イレウス」と呼ばれ、ほぼすべての開腹手術後に起こる生理的な反応です。

通常、小腸の蠕動運動は術後24時間以内に回復し、大腸は3〜5日で回復します。しかし、広範囲の手術、手術時間が長い、術中に腸管を大きく操作した、術後感染症が起こったなどの場合は、回復が遅れることがあります。

2. 腹膜炎

腹膜(お腹の内側を覆う膜)に炎症が起こると、腸管の蠕動運動が抑制されます。腹膜炎の主な原因には以下があります:

  • 細菌性腹膜炎:虫垂炎や憩室炎、消化管穿孔(穴が開くこと)などで起こる
  • 化学性腹膜炎:胃液や膵液、胆汁などが腹腔内に漏れ出すことで起こる
  • がん性腹膜炎:がんが腹膜に転移することで起こる

3. 薬剤性

特定の薬剤が腸管の蠕動運動を抑制し、機能的腸閉塞を引き起こすことがあります。

  • 麻薬性鎮痛薬:モルヒネ、オキシコドンなど。特にがん性疼痛の治療で使用される場合
  • 抗コリン薬:副交感神経を抑制する薬剤。過活動膀胱の治療薬、一部の抗うつ薬など
  • 向精神薬:抗精神病薬、三環系抗うつ薬など
  • 抗パーキンソン病薬:一部の薬剤が腸管運動を抑制する
  • 制吐薬:一部の吐き気止めの薬
  • カルシウム拮抗薬:高血圧の治療薬の一部

特に、複数の薬剤を併用している高齢者では、薬剤性の腸閉塞に注意が必要です。

4. 電解質異常

体内の電解質(ミネラル)のバランスが崩れると、腸管の蠕動運動が障害されます。

  • 低カリウム血症:カリウムが不足すると、腸管の筋肉が正常に働かなくなる
  • 低ナトリウム血症:ナトリウムが不足すると、神経や筋肉の機能が低下する
  • 低マグネシウム血症:マグネシウムが不足すると、筋肉の収縮に影響が出る
  • 高カルシウム血症:カルシウムが過剰になると、腸管の運動が抑制される

これらの電解質異常は、下痢や嘔吐、利尿薬の使用、腎機能障害、内分泌疾患などで起こります。

5. 代謝性疾患

全身の代謝に関わる病気が、腸管の機能に影響を与えることがあります。

  • 糖尿病:糖尿病性神経障害により、腸管の運動を制御する神経が障害される
  • 甲状腺機能低下症:全身の代謝が低下し、腸管の運動も低下する
  • 尿毒症:腎不全により体内に毒素が蓄積し、腸管の運動が抑制される

6. 神経系・筋肉系の疾患

腸管の運動を制御する神経や筋肉に問題があると、機能的腸閉塞を起こします。

  • 脊髄損傷:脊髄の損傷により、腸管への神経伝達が障害される
  • パーキンソン病:自律神経系の障害により、腸管の運動が低下する
  • 全身性硬化症(強皮症):腸管の筋肉が線維化し、運動が障害される
  • 重症筋無力症:神経筋接合部の障害により、筋肉の収縮力が低下する

7. 虚血性疾患

腸管への血流が不足すると、腸管の機能が低下します。

  • 腸間膜動脈閉塞:腸管に血液を送る動脈が詰まる状態
  • 腸間膜静脈血栓症:腸管から心臓に戻る静脈に血栓ができる状態

これらは特に高齢者、心房細動のある方、動脈硬化の強い方に起こりやすい状態です。

8. 敗血症・ショック

全身性の重篤な感染症(敗血症)や、様々な原因によるショック状態では、腸管の運動が著しく低下します。これは体が生命維持に必要な臓器に血液を優先的に送るためです。

9. その他の全身疾患

  • 肺炎:特に高齢者では、肺炎に伴って腸管の運動が低下することがある
  • 心不全:心臓の機能低下により、腸管への血流が減少する
  • 肝硬変:重度の肝機能障害により、様々な代謝異常が起こる

腸閉塞の症状

腸閉塞の症状は、閉塞の部位、程度、期間によって異なりますが、以下の4つが主な症状です。

腹痛

腸閉塞の最も特徴的な症状は腹痛です。痛みの性質は、閉塞のタイプによって異なります。

機械的腸閉塞の場合

  • 間欠的な強い腹痛(疝痛:せんつう)が特徴
  • 痛みが波のように繰り返す(3〜5分おきに痛みが強くなる)
  • これは、腸管が閉塞部位を通過させようと強く収縮するため
  • 絞扼性腸閉塞では、持続的な激しい痛みとなる

機能的腸閉塞の場合

  • 鈍い持続的な痛み
  • 腹部全体が重苦しい感じ

腹痛の部位は閉塞の場所によって異なり、小腸閉塞では臍(へそ)周囲、大腸閉塞では下腹部に痛みが出やすい傾向があります。

嘔吐・嘔気

腸管内に内容物が貯留すると、逆流して嘔吐が起こります。

小腸閉塞の場合

  • 早期から嘔吐が出現する
  • 嘔吐物は黄色〜緑色の胆汁様
  • 頻回に嘔吐する

大腸閉塞の場合

  • 嘔吐の出現は比較的遅い
  • 嘔吐物は便臭を伴うことがある(腸管内容物が逆流するため)

腹部膨満・腹部膨隆

腸管内にガスや液体が貯留すると、お腹が張って膨らんできます。

  • 閉塞部位より上流の腸管が拡張する
  • 大腸閉塞では特に著明
  • お腹を触ると緊満している(パンパンに張っている)
  • 腹部全体が太鼓のように膨らむ

排便・排ガスの停止

腸閉塞が完全閉塞の場合、便やガス(おなら)が全く出なくなります。

  • 完全閉塞では、閉塞の初期には便が出ることもある(閉塞部位より下流に残っていた便が出る)
  • しかし、徐々に排便がなくなり、最終的には完全に停止する
  • 排ガスの停止は、より早期に起こる

不完全閉塞の場合は、少量の便やガスが出ることがあります。

その他の症状

上記の4大症状以外にも、以下のような症状が現れることがあります:

  • 発熱:腹膜炎や腸管壊死を伴う場合
  • 頻脈(脈が速くなる):脱水や痛みによるストレス反応
  • 血便:腸重積や虚血性腸炎、絞扼性腸閉塞の場合
  • ショック症状:冷や汗、血圧低下、意識障害など。絞扼性腸閉塞では危険なサイン

腸閉塞の診断方法

腸閉塞が疑われる場合、以下のような検査を行って診断します。

問診・身体診察

まず、医師が詳しく症状を聞き、お腹を診察します。

問診の内容

  • いつから症状が始まったか
  • 痛みの性質(間欠的か持続的か)
  • 嘔吐の有無と性状
  • 排便・排ガスの有無
  • 過去の手術歴
  • 既往歴(がん、ヘルニア、クローン病など)
  • 服用している薬

身体診察

  • 腹部の視診:膨隆の有無、手術痕の確認、ヘルニアの有無
  • 腹部の触診:圧痛の部位、腹部の緊満度、腫瘤の有無
  • 腹部の聴診:腸の音(腸蠕動音)を聴く。機械的腸閉塞では金属音様の高い音が聞こえる、機能的腸閉塞では腸の音が聞こえない
  • 直腸診:直腸内に腫瘤や便の貯留がないか確認

血液検査

血液検査では以下の項目をチェックします:

  • 白血球数:炎症や感染症の指標。絞扼性腸閉塞や腹膜炎で上昇
  • CRP(C反応性タンパク):炎症の指標
  • 電解質(Na、K、Cl、Caなど):電解質異常の有無を確認
  • 腎機能(BUN、クレアチニン):脱水や腎機能障害の評価
  • 肝機能(AST、ALT、ビリルビンなど):胆石イレウスなどで異常を示すことがある
  • アミラーゼ、リパーゼ:膵炎の合併を疑う場合
  • 乳酸値:腸管虚血の指標。絞扼性腸閉塞で上昇
  • 血液ガス分析:酸塩基平衡の評価

画像検査

腹部X線検査(立位・臥位)

最も基本的な検査です。腹部のレントゲン写真を撮ります。

腸閉塞に特徴的な所見

  • 拡張した腸管
  • 腸管内のガス像
  • 鏡面像(ニボー):腸管内に液体とガスが溜まり、液面が水平に見える
  • 階段状のニボー:複数のニボーが階段状に並ぶ
  • 小腸と大腸の区別:小腸は中央部に細かいひだ、大腸は周辺部に太いひだ

X線検査では約60〜80%の腸閉塞を診断できますが、完全閉塞でない場合や、早期の段階では診断が難しいこともあります。

腹部CT検査

現在、腸閉塞の診断において最も有用な検査です。

CTで確認できること

  • 閉塞の部位の特定
  • 閉塞の原因(腫瘍、癒着帯、ヘルニアなど)の推定
  • 絞扼の有無:腸間膜の浮腫、渦巻き状の腸管、腸管壁の造影不良など
  • 腹水の有無
  • 腸管壁の厚さ
  • 腸管の拡張の程度
  • 周囲臓器への影響

CTの診断精度は約90%以上とされ、特に絞扼性腸閉塞の診断に優れています。

腹部超音波検査

ベッドサイドで簡便に行える検査です。

  • 拡張した腸管の確認
  • 腸管内容物の動き(キーボード様サイン)
  • 腹水の有無
  • 腸管壁の厚さ

妊婦や小児、造影剤アレルギーのある方では特に有用です。

MRI検査

CTで診断が困難な場合や、妊婦で放射線被曝を避けたい場合に行われることがあります。

内視鏡検査

大腸閉塞が疑われる場合、大腸内視鏡検査を行うことがあります。

  • 閉塞の原因(がん、炎症など)を直接観察できる
  • 組織検査(生検)が可能
  • S状結腸軸捻転では、内視鏡で整復を試みることができる

ただし、完全閉塞の場合や、穿孔のリスクが高い場合は施行できません。

腸閉塞の治療法

腸閉塞の治療は、その原因、重症度、合併症の有無によって異なります。大きく分けて、保存的治療と手術療法があります。

保存的治療(非手術的治療)

単純性の機械的腸閉塞や機能的腸閉塞の多くは、保存的治療で改善します。

絶食と輸液

腸管を安静にするため、口から何も摂取しない(絶飲食)ことが基本です。

  • 食べ物や飲み物を摂取すると、さらに腸管内に内容物が貯留する
  • 代わりに、点滴(静脈輸液)で水分や電解質、栄養を補給する
  • 脱水や電解質異常を補正する

経鼻胃管・イレウス管の挿入

鼻から胃または小腸まで管を入れ、腸管内の内容物やガスを体外に排出します。

経鼻胃管(胃管)

  • 比較的短い管で、胃まで到達させる
  • 胃内容物の吸引により、嘔吐を予防し、腸管の減圧を図る

イレウス管(long tube)

  • 長い管で、小腸まで到達させる
  • 小腸内の内容物やガスを持続的に吸引する
  • 管の先端にバルーンがついており、腸管の蠕動運動によって自然に進んでいく
  • 単純性の癒着性腸閉塞では約70〜80%が保存的治療で改善する

イレウス管の留置により、腸管内圧が低下し、腸管壁の血流が改善されます。これにより、多くの場合、数日から1週間程度で症状が改善します。

薬物療法

腸管蠕動促進薬 機能的腸閉塞(麻痺性イレウス)に対して使用します。腸管の蠕動運動を促進する薬剤を投与します。

抗生物質 細菌感染や腹膜炎を合併している場合、または予防的に投与します。

鎮痛薬 痛みが強い場合に使用しますが、腹痛の経過を観察するため、過度な鎮痛は避けます。

電解質補正 血液検査の結果に基づいて、不足している電解質を補充します。

保存的治療の適応

以下の条件を満たす場合、保存的治療を選択します:

  • 単純性腸閉塞(絞扼の所見がない)
  • 部分的な閉塞(不完全閉塞)
  • 腹膜刺激症状がない
  • 全身状態が安定している
  • 適切な画像検査で絞扼性腸閉塞が否定されている

保存的治療を開始した後も、定期的に診察と検査を行い、症状の改善がみられない場合や、悪化する場合は速やかに手術に切り替えます。

手術療法

以下のような場合は、手術が必要になります。

手術の適応

絶対的手術適応(緊急手術が必要)

  • 絞扼性腸閉塞
  • 腸管穿孔(腸に穴が開いた状態)
  • 腹膜炎
  • 嵌頓ヘルニア
  • 腸間膜血管閉塞(腸管虚血)
  • 保存的治療で改善しない完全閉塞

相対的手術適応

  • 保存的治療を3〜5日間行っても改善がみられない
  • 症状が増悪する
  • 大腸がんによる閉塞
  • 反復性腸閉塞(何度も繰り返す)

手術の種類

癒着剥離術 癒着している腸管を剥がし、閉塞を解除する手術です。癒着性腸閉塞で最も多く行われます。

腸管切除術 壊死した腸管や、がんなどの病変部を切除する手術です。切除後、健常な腸管同士を吻合(つなぎ合わせる)します。

人工肛門造設術 緊急手術で腸管を切除した後、一時的または永久的に人工肛門(ストーマ)を造設することがあります。

ヘルニア修復術 ヘルニアが原因の場合、飛び出した腸管を元に戻し、ヘルニアの出口を閉鎖します。

腸捻転整復術 ねじれた腸管を元の位置に戻す手術です。

バイパス手術 がんなどで腸管を切除できない場合、閉塞部位を迂回するバイパスを作成することがあります。

手術方法

開腹手術 お腹を切開して行う従来の手術方法です。広い視野で確実な手術が可能ですが、術後の痛みが強く、回復に時間がかかります。

腹腔鏡手術 お腹に数カ所の小さな穴を開け、カメラと細い器具を挿入して行う手術です。傷が小さく、術後の回復が早いというメリットがありますが、すべての腸閉塞に適応できるわけではありません。癒着が高度な場合や、緊急性が高い場合は開腹手術を選択します。

内視鏡的治療

大腸閉塞の一部では、内視鏡的な治療が可能です。

大腸ステント留置術 大腸がんによる閉塞に対して、内視鏡で金属製のステント(筒状の器具)を留置し、閉塞を解除する方法です。緊急手術を避けることができ、全身状態を改善させてから待機的に手術を行うことができます。

内視鏡的整復術 S状結腸軸捻転に対して、大腸内視鏡でねじれを解除する方法です。成功率は約70〜80%ですが、再発率が高いため、再発予防のために待機的手術が推奨されます。

腸閉塞の合併症

腸閉塞を放置したり、適切な治療が遅れたりすると、以下のような重篤な合併症が起こる可能性があります。

腸管壊死

絞扼性腸閉塞では、腸管への血流が途絶え、腸管組織が壊死(死んでしまうこと)します。壊死した腸管は切除しなければならず、広範囲に及ぶと短腸症候群(腸が短くなることで栄養吸収が障害される状態)を引き起こします。

腸管穿孔

腸管内圧が過度に上昇すると、腸管に穴が開く(穿孔)ことがあります。穿孔すると、腸内容物が腹腔内に漏れ出し、重篤な腹膜炎を起こします。

腹膜炎

腸管穿孔や腸管壊死により、細菌が腹腔内に広がると腹膜炎を起こします。腹膜炎は生命を脅かす状態で、緊急手術と強力な抗生物質治療が必要です。

敗血症・敗血症性ショック

腸管壊死や腹膜炎から細菌が血液中に入ると、全身性の重篤な感染症(敗血症)を起こします。さらに進行すると、血圧が低下し、多臓器不全に至る敗血症性ショックとなり、死に至ることもあります。

脱水・電解質異常

嘔吐や腸管内への体液の貯留により、脱水や電解質異常が起こります。重度の場合、腎機能障害や不整脈を引き起こします。

誤嚥性肺炎

嘔吐物を誤って気管に吸い込むと、肺炎を起こすことがあります。特に高齢者や意識レベルが低下している方では注意が必要です。

腸閉塞の予防法

腸閉塞を完全に予防することは難しいですが、以下のような対策でリスクを減らすことができます。

手術後の癒着予防

腹部手術後の癒着は、腸閉塞の最大の原因です。以下の方法で癒着を予防します。

手術時の工夫

  • 丁寧な手術操作で組織の損傷を最小限にする
  • 腹腔鏡手術の選択(開腹手術より癒着が少ない)
  • 癒着防止材の使用:手術時に特殊なシート状の材料を使用し、臓器同士がくっつくのを防ぐ

術後の早期離床

  • 手術後、できるだけ早く歩行を開始する
  • 適度な運動により腸管の蠕動運動が促進される
  • ただし、医師の指示に従って無理のない範囲で行う

食生活の注意

消化の良い食事を心がける

  • よく噛んで食べる(特に高齢者や歯が悪い方)
  • 早食いを避ける
  • 食物繊維が多く消化されにくい食品(コンニャク、海藻類、キノコ類、タケノコなど)は適量にする
  • 柿やイカなどの消化されにくい食品は食べ過ぎない
  • 種や骨は取り除いて食べる

過去に腸閉塞を経験した方

  • 特に食事内容に注意が必要
  • 消化の悪い食品は避けるか、少量にする
  • 食後に腹痛や腹部膨満感が出た場合は早めに受診する

便秘の予防と治療

慢性的な便秘は、糞石や腸捻転のリスクを高めます。

  • 十分な水分摂取
  • 適度な食物繊維の摂取
  • 規則正しい生活リズム
  • 適度な運動
  • 便意を我慢しない
  • 必要に応じて下剤の使用(医師と相談)

定期的な健康診断

大腸がんの早期発見

  • 40歳以上の方は定期的に大腸がん検診を受ける
  • 便潜血検査で陽性の場合は必ず大腸内視鏡検査を受ける
  • 家族歴がある方は若い年齢から検診を開始する

ヘルニアの早期治療

  • 鼠径部の膨らみに気づいたら早めに受診する
  • 小さいうちに手術で治療することで、嵌頓のリスクを避けられる

慢性疾患の適切な管理

  • クローン病などの炎症性腸疾患は、医師の指示通りに治療を継続する
  • 糖尿病は血糖コントロールを良好に保つ
  • 心房細動がある方は、抗凝固療法を適切に行う(腸間膜動脈塞栓症の予防)

薬剤の適正使用

  • 麻薬性鎮痛薬を使用している方は、便秘予防の下剤を併用する
  • 複数の薬剤を服用している方は、定期的に医師に相談し、薬剤を見直す
  • 副作用として便秘が起こる薬剤については、医師と相談する

よくある質問(FAQ)

Q1: 腸閉塞は自然に治ることがありますか?

不完全閉塞の場合や、軽度の癒着性腸閉塞の場合は、安静にすることで自然に改善することがあります。しかし、完全閉塞や絞扼性腸閉塞では、必ず医療機関での治療が必要です。自己判断せず、腹痛や嘔吐などの症状があれば速やかに受診してください。

Q2: 腸閉塞を繰り返すのですが、どうすればよいですか?

癒着性腸閉塞は再発しやすく、一度腸閉塞を起こした方の約10〜30%が再発するといわれています。予防的な手術(癒着剥離術)を検討することもありますが、手術自体が新たな癒着を作る可能性もあります。食事内容の注意、早期離床、適度な運動などの保存的な予防法を継続し、症状が出たら早めに受診することが重要です。

Q3: 腸閉塞の手術後、食事で気をつけることはありますか?

手術後しばらくは、消化の良い食事から始めます。徐々に通常の食事に戻していきますが、消化されにくい食品(海藻類、コンニャク、キノコ類など)は控えめにし、よく噛んで食べることが大切です。医師や栄養士の指導に従ってください。

Q4: 腸閉塞で入院期間はどのくらいですか?

保存的治療の場合は、通常1〜2週間程度です。手術を行った場合は、手術の内容にもよりますが、2〜4週間程度が一般的です。合併症がある場合や、全身状態によっては、さらに長期の入院が必要になることもあります。

Q5: 妊娠中に腸閉塞になることはありますか?

はい、妊娠中でも腸閉塞は起こりえます。過去に腹部手術を受けたことがある妊婦さんでは、子宮の増大に伴い、癒着していた腸管が引っ張られて腸閉塞を起こすことがあります。妊娠中の腹痛や嘔吐は、つわりと思われがちですが、持続する場合は腸閉塞の可能性も考慮する必要があります。妊娠中の腸閉塞の診断と治療は、胎児への影響も考慮して慎重に行われます。

Q6: 腸閉塞は命に関わりますか?

適切な治療を受ければ、多くの場合は回復します。しかし、絞扼性腸閉塞や、治療が遅れた場合は、腸管壊死、穿孔、敗血症などの重篤な合併症を起こし、生命に関わることがあります。早期発見・早期治療が非常に重要です。

Q7: 子どもも腸閉塞になりますか?

はい、子どもでも腸閉塞は起こります。乳幼児では腸重積症が多く、突然の激しい腹痛と嘔吐、血便が特徴的です。また、先天性の腸管異常(腸回転異常症、ヒルシュスプルング病など)による腸閉塞もあります。子どもが激しい腹痛を訴える場合や、繰り返し嘔吐する場合は、速やかに小児科や小児外科を受診してください。

Q8: 腸閉塞の予兆はありますか?

完全閉塞の前に、不完全閉塞の段階で以下のような症状が現れることがあります:

  • 食後の腹痛や腹部膨満感
  • 便通の不規則性(下痢と便秘を繰り返す)
  • 腹部の違和感
  • 食欲不振

これらの症状が続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

おわりに

腸閉塞は、様々な原因で起こる消化器疾患であり、適切な診断と治療が重要です。最も多い原因は腹部手術後の癒着ですが、がん、ヘルニア、腸捻転、炎症性疾患など、その原因は多岐にわたります。

腸閉塞の予防には、手術後の適切な管理、食生活の注意、便秘の予防、定期的な健康診断などが効果的です。特に過去に腹部手術を受けた方や、慢性疾患をお持ちの方は、日頃から注意が必要です。

もし腹痛、嘔吐、腹部膨満、排便・排ガスの停止などの症状が現れた場合は、自己判断せず、速やかに医療機関を受診してください。特に絞扼性腸閉塞は緊急性が高く、早期の診断と治療が生命予後を左右します。

参考文献

  1. 日本外科学会 – 外科専門医制度
  2. 日本消化器外科学会 – 消化器外科専門医制度
  3. 日本腹部救急医学会 – 腹部救急診療ガイドライン
  4. 厚生労働省 – 人口動態統計
  5. 国立がん研究センター – がん情報サービス 大腸がん
  6. 日本ヘルニア学会 – ヘルニアについて
  7. 難病情報センター – クローン病

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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