「急に胸のあたりがズキッと痛む」「深呼吸すると脇腹に電気が走るような感覚がある」このような症状に心当たりはありませんか。胸や脇腹に突然走る鋭い痛みは、肋間神経痛の可能性があります。肋間神経痛は病名ではなく、肋骨に沿って走る神経が何らかの原因で刺激されることによって生じる痛みの総称です。日常生活に支障をきたすほどの強い痛みを伴うこともあり、心臓や肺の病気と症状が似ているため不安を感じる方も少なくありません。
本記事では、肋間神経痛かどうかを判断するためのセルフチェックポイント、原因や症状の特徴、狭心症や心筋梗塞など緊急性の高い疾患との見分け方、さらには日常生活での予防法や対処法まで詳しく解説します。胸や脇腹の痛みでお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
目次
- 肋間神経痛とは何か
- 肋間神経の解剖学的な特徴
- 肋間神経痛の種類と分類
- 肋間神経痛のセルフチェックリスト
- 肋間神経痛の代表的な症状
- 肋間神経痛を引き起こす主な原因
- 肋間神経痛と間違えやすい病気との見分け方
- 肋間神経痛になりやすい人の特徴
- 医療機関を受診すべきタイミング
- 肋間神経痛の検査と診断方法
- 肋間神経痛の治療法
- 日常生活でできる予防法と対処法
- 肋間神経痛に効果的なストレッチ
- 肋間神経痛でしてはいけないこと
- 受診すべき診療科の選び方
- まとめ
1. 肋間神経痛とは何か
肋間神経痛とは、肋骨と肋骨の間を走る末梢神経である「肋間神経」が何らかの原因で刺激を受けたり、損傷したりすることで生じる痛みを指します。「頭痛」や「腹痛」と同じように、特定の疾患を示す病名ではなく、症状そのものを表す言葉です。
肋間神経痛の痛みは多くの場合、上半身の右側か左側のどちらか一方にのみ現れ、両側に同時に症状が出ることはまれです。痛みの性質は原因によって異なりますが、「針で刺されたような鋭い痛み」「電気が走るような痛み」「ジクジク、ズキズキと持続する痛み」などと表現されることが多くあります。
痛みの持続時間は比較的短く、数秒から数分程度で治まることがほとんどですが、咳やくしゃみ、深呼吸、体をひねるといった動作で痛みが誘発されたり、増強したりすることが特徴的です。場合によっては息ができないほどの強い痛みを感じることもあり、日常生活に大きな支障をきたすケースも少なくありません。
肋間神経痛は中年以降に多い傾向がありますが、若年層でも発症する可能性があります。とくに長時間のデスクワークで姿勢が悪くなりやすい方、ストレスを抱えている方、過去に肋骨を骨折したことがある方などは注意が必要です。
2. 肋間神経の解剖学的な特徴
肋間神経痛の仕組みを理解するために、まずは肋間神経がどのような神経なのかを知っておくことが大切です。
肋間神経は、胸椎(背中の高さにある背骨)から出たあと、肋骨に沿って脇腹や胸のあたりまで伸びている末梢神経です。左右に12対存在し、各肋骨の下縁に沿って走行しています。
肋間神経の主な役割は以下の通りです。
第一に、胸郭(肋骨で囲まれた部分)の皮膚の感覚を司っています。胸や背中、脇腹の皮膚に触れたときの感覚、温度感覚、痛覚などを脳に伝える働きがあります。
第二に、肋間筋や腹筋など、胸部から腹部にかけての筋肉の運動を制御しています。呼吸運動に関与する重要な神経でもあるため、肋間神経が障害されると呼吸時に痛みを感じることがあります。
肋間神経は背骨から出て肋骨に沿って前方へ向かい、胸骨の近くまで達します。この経路上のどこかで神経が圧迫されたり、炎症が起きたり、損傷を受けたりすると、肋間神経痛が発生します。痛みは神経の走行に沿って現れるため、背中から脇腹、胸の前面にかけて帯状に広がることが特徴です。
3. 肋間神経痛の種類と分類
肋間神経痛は、原因によって大きく二つに分類されます。それぞれの特徴を理解することで、自分の症状がどちらに該当するのかを把握する手助けになります。
原発性(特発性)肋間神経痛
原発性肋間神経痛は、明確な原因が特定できないものを指します。検査を行っても異常が見つからないケースで、肋間神経の異常興奮によって起こると考えられています。
原発性肋間神経痛の特徴は、突然の電撃痛(ビリッと電気が走るような痛み)が生じることです。痛みは発作的に起こり、比較的短時間で治まります。ストレスの蓄積や体の凝り、姿勢不良などが関与していると考えられており、現代社会においてはデスクワーク中心の生活習慣やスマートフォンの長時間使用による姿勢の悪化が影響しているケースも増えています。
続発性(症候性)肋間神経痛
続発性肋間神経痛は、何らかの基礎疾患や外傷など、原因が明らかなものを指します。原因となる疾患や状態には以下のようなものがあります。
帯状疱疹は続発性肋間神経痛の代表的な原因です。帯状疱疹ウイルスが肋間神経の神経節に潜伏しており、免疫力が低下したときに再活性化して神経痛を引き起こします。皮膚の表面に赤い発疹や水疱が帯状に現れるのが特徴で、「ヒリヒリ」「ジクジク」とした持続的な痛みを伴います。
脊椎の疾患も重要な原因です。胸椎椎間板ヘルニアや変形性脊椎症では、椎間板や骨の変形によって肋間神経が圧迫され、痛みが生じます。
外傷による肋間神経痛もあります。肋骨骨折や打撲、転倒などによって肋間神経が直接損傷を受けると、痛みが発生します。高齢者では骨粗しょう症によって骨がもろくなっているため、軽い転倒でも肋骨や脊椎を骨折することがあります。
開胸手術後に肋間神経痛が残ることもあります。手術の際に肋間神経が損傷を受けたり、圧迫されたりすることで、術後に痛みが持続するケースがあります。
4. 肋間神経痛のセルフチェックリスト
ご自身の症状が肋間神経痛に該当するかどうかを確認するために、以下のチェック項目を参考にしてください。多くの項目に当てはまる場合は、肋間神経痛の可能性があります。
痛みの場所に関するチェック
まず、痛みが胸の片側だけに現れているかどうかを確認してください。肋間神経痛では、痛みは通常、右側か左側のどちらか一方にのみ生じます。両側に同時に痛みがある場合は、他の疾患を疑う必要があります。
次に、痛みの範囲を確認します。肋間神経痛では、痛みは肋骨に沿って帯状に広がります。背中から脇腹を通って胸の前面にかけて、あるいはおへその周囲まで痛みが及ぶこともあります。
痛みの場所を指で示せるかどうかも重要なポイントです。肋間神経痛の場合、「ここが痛い」と比較的ピンポイントで示せることが多いです。これに対して、心臓の病気による胸痛は、痛む場所を正確に指し示すことが難しく、「このあたり」と広い範囲を手のひらで示す傾向があります。
痛みの性質に関するチェック
痛みの感じ方を確認してください。肋間神経痛の痛みは以下のような表現をされることが多いです。
ビリッと電気が走るような痛み、針で刺されたような鋭い痛み、ピリピリとした痛み、ジクジク、ズキズキと持続する痛みなどがあります。もし「胸が締め付けられる」「圧迫される」「重苦しい」といった感覚であれば、心臓の病気の可能性を考慮する必要があります。
痛みの持続時間に関するチェック
肋間神経痛の痛みは、一般的に数秒から数分程度で治まります。長くても数十分以内に軽減することがほとんどです。
痛みが30分以上持続する場合や、1時間以上続く場合は、心筋梗塞などの重篤な疾患の可能性があるため、速やかに医療機関を受診してください。
痛みの誘因に関するチェック
以下のような動作で痛みが誘発されたり、増強したりするかどうかを確認してください。
深呼吸をしたとき、咳やくしゃみをしたとき、体をひねったり前屈みになったりしたとき、寝返りを打ったとき、大きな声を出したとき、これらの動作で痛みが強くなる場合は、肋間神経痛の特徴に合致しています。
反対に、安静にしているときや、じっとしているときに持続的に痛む場合は、他の疾患を疑う必要があります。
その他の症状に関するチェック
痛みのある部位を押すと痛みが増す(圧痛がある)かどうかも確認しましょう。肋間神経痛では、神経の走行に沿った部分を押すと痛みを感じることが多いです。
また、皮膚に発疹や水疱がないかどうかも重要です。帯状疱疹による肋間神経痛の場合は、痛みの出現から数日後に皮膚症状が現れることがあります。
チェック結果の目安
上記の項目のうち、多くに当てはまる場合は肋間神経痛の可能性が高いと考えられます。ただし、胸の痛みは心臓や肺など重要な臓器の疾患でも起こりうるため、自己判断で済ませずに医療機関を受診して適切な診断を受けることをお勧めします。
5. 肋間神経痛の代表的な症状
肋間神経痛の症状は原因によって異なりますが、代表的な症状について詳しく解説します。
痛みの部位
肋間神経痛では、胸から上腹部にかけて、肋骨に沿った範囲に痛みが生じます。具体的には以下の部位に痛みが現れることがあります。
背中は痛みの起点となりやすい部位です。肋間神経は背骨から出発するため、背中の脊椎近くから痛みが始まることがあります。
脇腹は肋間神経痛で最も多く痛みが出る部位の一つです。肋骨に沿って神経が走行しているため、脇腹に鋭い痛みを感じます。
胸の前面まで痛みが及ぶこともあります。神経の走行に沿って、前胸部や胸骨の近くまで痛みが広がることがあります。
おへその周囲にまで痛みが放散することもまれにあります。下位の肋間神経が障害された場合には、腹部にまで痛みが及ぶことがあります。
痛みの性質
原因によって痛みの性質は異なります。
原発性肋間神経痛の場合は、「ビリッ」「ピリッ」と電気が走るような突発的な痛みが特徴です。前触れなく突然痛みが生じ、数秒から数分で治まります。
帯状疱疹による肋間神経痛の場合は、皮膚の表面に「ヒリヒリ」「ジクジク」とした持続的な痛みを感じます。焼けるような感覚を伴うこともあります。
外傷や圧迫による肋間神経痛の場合は、動作に伴って痛みが増強することが多く、安静にしていると軽減します。
その他の症状
痛みに伴って、しびれ感を覚えることがあります。肋間神経の感覚機能が障害されると、痛みとともに皮膚のしびれやピリピリとした異常感覚が生じることがあります。
帯状疱疹の場合は、痛みの数日後に赤い発疹や水疱が帯状に現れます。発疹が出る前の段階では診断が難しいこともありますが、痛みの後に皮膚症状が出現した場合は速やかに皮膚科を受診してください。
呼吸のしづらさを感じることもあります。肋間神経は呼吸運動にも関与しているため、痛みによって深呼吸を避けるようになり、息苦しさを感じることがあります。ただし、これは痛みを避けるための防御反応であることが多く、肺自体の病気とは異なります。
6. 肋間神経痛を引き起こす主な原因
肋間神経痛の原因は多岐にわたります。主な原因について詳しく解説します。
帯状疱疹
帯状疱疹は、肋間神経痛の原因として最も頻度の高いものの一つです。水痘・帯状疱疹ウイルスは、子どもの頃に水ぼうそうとして感染した後、体内の神経節に潜伏し続けます。そして、加齢や疲労、ストレス、病気などで免疫力が低下したときに再活性化し、帯状疱疹を発症します。
帯状疱疹による肋間神経痛は、発疹が出る数日前から「ヒリヒリ」「ジクジク」とした痛みやかゆみを自覚することがあります。その後、神経の走行に沿って赤い発疹や水疱が帯状に出現します。
帯状疱疹の治療には早期の抗ウイルス薬投与が重要です。発症から72時間以内に治療を開始することで、症状の軽減や帯状疱疹後神経痛(帯状疱疹が治癒した後も痛みが残る状態)の予防につながります。
脊椎の疾患
胸椎椎間板ヘルニアは、椎間板(背骨と背骨の間にあるクッションの役割をする組織)が飛び出して、神経を圧迫する疾患です。肋間神経の根元が圧迫されると、肋間神経痛が生じます。
変形性脊椎症は、加齢に伴って背骨が変形し、神経が圧迫される疾患です。高齢者に多く見られ、肋間神経痛の原因となることがあります。
脊椎の圧迫骨折も肋間神経痛の原因になります。骨粗しょう症で骨がもろくなった高齢者が転倒したり、尻もちをついたりすると、胸椎の圧迫骨折を起こすことがあります。これにより肋間神経が圧迫され、痛みが生じます。
外傷
肋骨骨折は肋間神経痛の直接的な原因になります。事故や転倒、スポーツによる衝撃で肋骨を骨折すると、骨折部位で肋間神経が損傷を受けたり、圧迫されたりして痛みが生じます。
また、明らかな衝撃がなくても、ゴルフや野球など体を繰り返しひねるスポーツによって疲労骨折を起こすこともあります。激しい咳が続いたことで肋骨を骨折するケースもあります。
打撲によって肋間神経が炎症を起こし、痛みが生じることもあります。
開胸手術
心臓や肺の手術など、開胸手術の後に肋間神経痛が残ることがあります。手術の際に肋骨を開いたり、器具を使用したりする過程で肋間神経が損傷を受けたり、圧迫されたりすることが原因です。術後の痛みが長引く場合は、早期に治療を開始することが重要です。
姿勢不良・筋肉の緊張
現代社会では、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用によって姿勢が悪くなりやすい環境にあります。猫背や前かがみの姿勢が続くと、背中や肩の筋肉が緊張し、その硬くなった筋肉が肋間神経を圧迫して痛みを引き起こすことがあります。
姿勢不良による肋間神経痛は、原発性(特発性)に分類されることが多く、検査で明らかな異常が見つからないことがほとんどです。
ストレス・自律神経の乱れ
精神的なストレスが続くと、自律神経のバランスが乱れ、筋肉が緊張しやすくなります。この筋緊張が肋間神経を圧迫し、肋間神経痛を引き起こすことがあります。また、ストレスは免疫力を低下させるため、帯状疱疹の発症リスクを高める要因にもなります。
7. 肋間神経痛と間違えやすい病気との見分け方
胸の痛みを引き起こす病気は肋間神経痛だけではありません。中には緊急の治療が必要な重篤な疾患もあるため、肋間神経痛との違いを知っておくことが大切です。
狭心症・心筋梗塞との見分け方
狭心症や心筋梗塞は、心臓の血管が狭くなったり詰まったりすることで、心臓の筋肉に十分な血液が送られなくなる病気です。
狭心症・心筋梗塞の胸痛の特徴は以下の通りです。痛みは胸のほぼ真ん中、前胸部全体に感じることが多く、「胸が締め付けられる」「圧迫される」「重苦しい」といった表現をされます。痛む場所を正確に指し示すことが難しく、「このあたり」と広い範囲を手のひらで示す傾向があります。痛みは左肩、左腕、顎、背中などに放散することがあります。狭心症では痛みは通常15分以内に治まりますが、心筋梗塞では30分以上、場合によっては数時間以上持続します。冷汗、吐き気、不安感、息苦しさを伴うことがあります。
これに対して、肋間神経痛の胸痛は、痛みの場所をピンポイントで指し示せることが多く、「チクチク」「ピリピリ」といった鋭い痛みが特徴です。咳や深呼吸で痛みが強くなり、痛みの持続時間は短いことがほとんどです。
重要な点として、痛みの範囲が狭く、「ここが痛い」と指で示せる場合や、「チクチク」「ピリピリ」といった鋭い痛みの場合は、狭心症や心筋梗塞である可能性は低いとされています。ただし、自己判断は危険ですので、少しでも心臓の病気が疑われる場合は、速やかに医療機関を受診してください。
気胸との見分け方
気胸は、肺に穴が開いて空気が漏れ、肺がしぼんでしまう病気です。突然の胸痛と息苦しさが主な症状で、やせ型の若い男性に多く見られます。
気胸の胸痛は、突然発症し、呼吸困難を伴うことが特徴です。肋間神経痛では息苦しさを感じることはあっても、実際に呼吸機能が低下することはありません。もし胸痛と明らかな呼吸困難を同時に感じる場合は、気胸の可能性を考慮して医療機関を受診してください。
肺塞栓症との見分け方
肺塞栓症は、肺の血管が血栓で詰まる病気です。長時間の座位(飛行機や車での長距離移動など)の後に発症することがあり、「エコノミークラス症候群」とも呼ばれます。
突然の胸痛、呼吸困難、頻脈などの症状が現れます。肋間神経痛との大きな違いは、呼吸困難が顕著であることと、下肢のむくみや痛みを伴うことがある点です。
逆流性食道炎との見分け方
逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流して炎症を起こす病気です。胸焼けや胸部の灼熱感が主な症状ですが、胸痛を訴えることもあります。
逆流性食道炎の胸痛は、食後や横になったときに悪化することが多く、酸っぱいものが込み上げる感覚を伴うことが特徴です。水を飲むと症状が和らぐこともあります。肋間神経痛のような鋭い痛みとは異なり、「焼けるような」「ジリジリする」痛みと表現されることが多いです。
大動脈解離との見分け方
大動脈解離は、大動脈の壁が裂ける非常に重篤な病気です。突然の激しい胸痛や背部痛が特徴で、「引き裂かれるような」「今まで経験したことのない」痛みと表現されます。痛みは時間とともに背中から腹部へと移動していくことがあります。
大動脈解離は緊急の治療が必要な疾患ですので、激烈な胸痛や背部痛が突然起きた場合は、直ちに救急医療機関を受診してください。
8. 肋間神経痛になりやすい人の特徴
肋間神経痛は、特定の条件や生活習慣を持つ人に発症しやすい傾向があります。以下の項目に当てはまる方は注意が必要です。
姿勢が悪い人
長時間のデスクワークやスマートフォンの使用によって、猫背や前かがみの姿勢が習慣化している人は、肋間神経痛を発症しやすいといえます。不良姿勢は背中や肩の筋肉に過度な緊張を強い、肋間神経への圧迫を引き起こします。
中年以降の方
肋間神経痛は中年以降に発症しやすい傾向があります。加齢に伴う脊椎の変形や椎間板の劣化、骨粗しょう症などが関係しています。
女性、とくに妊娠中の方
女性は男性よりも肋間神経痛を発症しやすいとされています。ホルモンバランスの変動(生理前、更年期など)が神経の感受性に影響を与える可能性があります。また、妊娠中はお腹が大きくなることで肋間神経が圧迫されやすくなり、肋間神経痛を発症することがあります。
ストレスを抱えている人
長期間のストレスや不安は、筋肉の緊張を引き起こし、肋間神経への圧迫につながります。また、ストレスは免疫力を低下させるため、帯状疱疹の発症リスクも高めます。
運動不足の人
運動不足によって筋肉が衰えると、姿勢を維持することが難しくなり、肋骨や背骨への負担が増加します。これにより肋間神経が圧迫されやすくなります。
肋骨の外傷歴がある人
過去に肋骨を骨折したり、胸部を強打したりしたことがある人は、肋間神経痛を発症しやすい傾向があります。
開胸手術を受けたことがある人
心臓や肺の手術など、開胸手術の既往がある人は、術後に肋間神経痛が残ることがあります。
免疫力が低下している人
過度の疲労、睡眠不足、病気の治療中などで免疫力が低下していると、体内に潜伏している帯状疱疹ウイルスが再活性化しやすくなり、帯状疱疹による肋間神経痛を発症するリスクが高まります。
9. 医療機関を受診すべきタイミング
以下のような症状がある場合は、できるだけ早く医療機関を受診することをお勧めします。
緊急性が高い症状
突然の激しい胸痛がある場合は、心筋梗塞や大動脈解離などの重篤な疾患の可能性があります。冷汗や吐き気、意識がもうろうとする、今までに経験したことのないような痛みを伴う場合は、救急医療機関を受診してください。
胸痛に加えて呼吸困難がある場合も緊急性が高いです。気胸や肺塞栓症などの可能性があるため、速やかに医療機関を受診してください。
胸痛が30分以上持続する場合も注意が必要です。肋間神経痛の痛みは通常短時間で治まるため、長時間持続する痛みは他の疾患を疑う必要があります。
早めに受診すべき症状
痛みで日常生活に支障が出ている場合は、無理をせずに医療機関を受診しましょう。痛み止めの処方や原因の特定により、症状の改善が期待できます。
痛みが2〜3日以上続く場合も受診の目安になります。一時的な痛みではなく持続している場合は、医師に相談することをお勧めします。
痛みのある部位に発疹や水疱が出現した場合は、帯状疱疹の可能性があります。早期の抗ウイルス薬投与が重要ですので、速やかに皮膚科を受診してください。発疹が出る前でも、皮膚表面にかゆみやヒリヒリ感がある場合は帯状疱疹の前兆かもしれません。
痛みに加えて発熱がある場合は、感染症などの可能性があるため、医療機関を受診してください。
セルフケアを行っても改善しない場合は、原因を特定するためにも専門家に相談することが重要です。
10. 肋間神経痛の検査と診断方法
肋間神経痛は、問診と身体診察が診断の基本となります。また、他の疾患を除外するために各種検査が行われることがあります。
問診
医師は、痛みの部位、性質、持続時間、誘因(どのような動作で痛みが増強するか)、既往歴(過去の病気や外傷)、生活習慣などについて詳しく聞き取りを行います。肋間神経痛を診断するための一発検査はないため、問診で得られる情報が非常に重要です。
身体診察
医師は、痛みのある部位を視診・触診し、圧痛(押すと痛みがある)の有無、皮膚の発疹や水疱の有無、神経の走行に沿った症状があるかどうかなどを確認します。
画像検査
レントゲン検査は、肋骨骨折や胸椎の圧迫骨折、胸椎の変形などを確認するために行われます。
CT検査やMRI検査は、椎間板ヘルニアや脊椎の詳細な状態を評価するために行われることがあります。とくにMRIは神経の圧迫の程度を確認するのに有用です。
血液検査
帯状疱疹の確定診断には、血液検査で水痘・帯状疱疹ウイルスの抗体価を測定することがあります。また、炎症の有無や他の疾患の可能性を評価するためにも血液検査が行われます。
心電図検査
胸痛の原因として心臓の病気を除外するために、心電図検査が行われることがあります。狭心症や心筋梗塞では特徴的な心電図変化が見られます。
超音波検査
心臓の状態を詳しく調べるために、心臓超音波検査(心エコー検査)が行われることがあります。
11. 肋間神経痛の治療法
肋間神経痛の治療は、原因によって異なります。原因が明らかな場合はその治療が優先され、原因不明の場合は痛みを和らげる対症療法が中心となります。
薬物療法
消炎鎮痛薬は、外傷や炎症による肋間神経痛に対して処方されます。痛みと炎症を抑える効果があります。
神経障害性疼痛治療薬は、帯状疱疹後神経痛や原因不明の肋間神経痛に対して使用されます。プレガバリンやミロガバリンといった薬剤が代表的で、神経の過剰な興奮を抑える作用があります。
抗ウイルス薬は、帯状疱疹による肋間神経痛に対して処方されます。発症早期に投与することで、ウイルスの増殖を抑え、神経へのダメージを最小限に抑えることができます。
湿布やビタミンB剤が処方されることもあります。ビタミンB群は神経組織の回復を助ける作用があります。
神経ブロック療法
薬物療法で十分な効果が得られない場合や、痛みが強い場合には、神経ブロック療法が行われることがあります。これは、痛みの原因となっている神経に局所麻酔薬やステロイド剤を注射して、痛みを遮断する方法です。
肋間神経ブロックは、肋間神経に直接薬剤を注入する方法です。
硬膜外ブロックは、脊髄の外側にある硬膜外腔に薬剤を注入する方法で、強い痛みに対して効果的です。
椎間関節ブロックは、原因不明の肋間神経痛の多くが胸椎の椎間関節や肋椎関節に由来すると考えられており、これらの関節に薬剤を注入することで痛みを和らげます。
神経ブロック療法は主にペインクリニック科で実施されています。
理学療法・運動療法
軽症の肋間神経痛や、原発性の肋間神経痛に対しては、リハビリテーションやストレッチなどの運動療法が行われることがあります。筋肉の緊張を和らげ、姿勢を改善することで、神経への圧迫を軽減します。
手術療法
脊椎の疾患が原因で神経への圧迫が重度の場合や、他の治療法で改善しない場合には、外科的手術が検討されることがあります。ただし、手術が必要となるケースは限られています。
12. 日常生活でできる予防法と対処法
肋間神経痛の予防や症状の緩和のために、日常生活で心がけたいポイントを紹介します。
正しい姿勢を保つ
猫背や前かがみの姿勢は、背中や肩の筋肉に負担をかけ、肋間神経痛の原因になります。日頃から背筋を伸ばし、正しい姿勢を意識しましょう。
デスクワーク中は、椅子に深く腰かけて背もたれに背中をつけ、パソコンの画面は目の高さになるように調整します。1時間ごとに休憩を取り、軽いストレッチや歩行で体をほぐすことも大切です。
体を冷やさない
体が冷えると血行が悪くなり、筋肉が硬くなりやすくなります。とくに冬場は衣服で保温し、入浴でゆっくり体を温めるなど、体を冷やさない工夫をしましょう。
適度な運動を心がける
適度な運動は、筋肉の柔軟性を維持し、血行を促進する効果があります。ウォーキング、水泳、軽いストレッチなど、無理のない範囲で体を動かす習慣をつけましょう。
ストレスを溜めない
ストレスは筋肉の緊張を高め、免疫力を低下させます。入浴、趣味の時間、十分な睡眠など、自分なりのストレス解消法を見つけて、心身のリラックスを心がけましょう。
規則正しい生活を送る
不規則な生活や睡眠不足は、免疫力の低下につながり、帯状疱疹の発症リスクを高めます。バランスの取れた食事、十分な睡眠(6〜8時間程度)、規則正しい生活リズムを心がけましょう。
痛みがあるときの対処法
痛みが出たときは、まず安静にして様子を見ましょう。無理に体を動かすと症状が悪化することがあります。
体を温めることで、筋肉の緊張がほぐれ、血行が良くなり、痛みが和らぐことがあります。蒸しタオルを当てたり、入浴でゆっくり温まったりすることをお勧めします。ただし、帯状疱疹による肋間神経痛の場合は、患部を冷やさないよう保温することが大切とされています。
市販の消炎鎮痛薬や湿布を使用することで、一時的に痛みを和らげることができます。ただし、長期間の自己判断での使用は避け、症状が改善しない場合は医療機関を受診してください。
13. 肋間神経痛に効果的なストレッチ
肋間神経痛の予防や症状の緩和には、背中や胸、脇腹周辺の筋肉をほぐすストレッチが効果的です。以下に、自宅で簡単にできるストレッチを紹介します。
なお、痛みが強いときは無理にストレッチを行わず、安静にしてください。また、ストレッチを行う際は、反動をつけずにゆっくりと筋肉を伸ばし、呼吸を止めないように注意しましょう。
胸部のストレッチ
両足を肩幅に開いて立ち、体の後ろで両手を組みます。肩甲骨を寄せるようにしながら、両手を後ろ向きに伸ばし、胸を前に開きます。胸を天井に向けるようなイメージで、胸部の筋肉を15〜30秒間ストレッチします。これを2〜3回繰り返します。
背中のストレッチ
椅子に座った状態で、両腕を前に伸ばし、背中を丸めます。おへそを覗き込むようにして、背中を大きく丸め、背中の筋肉を15〜30秒間ストレッチします。ゆっくりと元の姿勢に戻り、これを2〜3回繰り返します。
体側のストレッチ
両足を肩幅に開いて立ち、右腕を頭の上に伸ばします。ゆっくりと体を左側に傾け、右の脇腹から体側の筋肉を15〜30秒間ストレッチします。反対側も同様に行い、これを左右2〜3回ずつ繰り返します。
腕回しストレッチ
椅子に座るか立った状態で、両肘を曲げて肩の高さまで上げます。ゆっくりと大きく腕を回しながら、深呼吸を行います。前回し、後ろ回しそれぞれ10回ずつ行います。このストレッチは、肩甲骨周辺の筋肉をほぐし、胸郭の動きを良くする効果があります。
ストレッチの注意点
ストレッチは毎日継続して行うことで効果が現れます。入浴後など体が温まっているときに行うと、より効果的です。
痛みが増す動作は避け、心地よい程度の伸びを感じる範囲で行ってください。無理をすると、かえって症状を悪化させることがあります。
ストレッチを1〜2週間継続しても症状が改善しない場合や、悪化する場合は、医療機関を受診して適切な指導を受けることをお勧めします。
14. 肋間神経痛でしてはいけないこと
肋間神経痛の症状を悪化させないために、避けるべき行動についても知っておきましょう。
重いものを持つこと
肋間神経痛の原因が脊椎の疾患(椎間板ヘルニアや圧迫骨折など)である場合、重いものを持つと背骨に負荷がかかり、神経への圧迫が強まって痛みが増す可能性があります。症状があるうちは、重いものを持つ作業は避けるか、人に頼むようにしましょう。
過度な運動や無理なストレッチ
適度な運動やストレッチは症状の改善に効果がありますが、痛みが強いときに無理に体を動かすと、かえって症状を悪化させることがあります。激しい運動や、痛みを我慢して行う無理なストレッチは避けてください。
自己判断でのマッサージ
「筋肉痛だろう」と自己判断で強いマッサージを行うと、肋間神経をさらに刺激して症状を悪化させることがあります。とくに、原因がはっきりしない段階では、自己流のマッサージは控えましょう。
長時間の同じ姿勢
デスクワークなどで長時間同じ姿勢を続けると、筋肉が硬くなり、神経への圧迫が強まります。1時間に1回は立ち上がって軽く体を動かすなど、こまめに姿勢を変えることを心がけてください。
体を冷やすこと
体が冷えると筋肉が硬くなり、血行も悪くなります。とくに冬場や冷房の効いた室内では、上半身を冷やさないよう注意しましょう。
痛みの放置
「そのうち治るだろう」と痛みを放置していると、日常生活に支障をきたすほど悪化したり、原因となる疾患を見逃したりする可能性があります。痛みが続く場合や、気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
15. 受診すべき診療科の選び方
肋間神経痛が疑われる場合、どの診療科を受診すればよいのかを状況別に解説します。
まずは内科または整形外科
肋間神経痛の症状が典型的で、明らかな外傷歴がない場合は、まず内科または整形外科を受診するのが一般的です。内科では、心臓や肺など内臓の病気との鑑別を行ってもらえます。整形外科では、脊椎の疾患や肋骨の異常を評価してもらえます。
皮膚に発疹や水疱がある場合は皮膚科
痛みのある部位に赤い発疹や水疱が出現している場合は、帯状疱疹の可能性が高いです。帯状疱疹の治療は早期開始が重要ですので、速やかに皮膚科を受診してください。
外傷がある場合は整形外科
転倒や事故などで胸部を打撲した後に痛みが出た場合は、整形外科を受診してください。肋骨骨折や脊椎の損傷の有無を評価してもらえます。
痛みが強く、薬物療法で改善しない場合はペインクリニック科
通常の治療で痛みが改善しない場合や、痛みが強い場合は、ペインクリニック科(麻酔科・痛み外来)への受診を検討してください。神経ブロック療法など、専門的な痛みの治療を受けることができます。
心臓の病気が疑われる場合は循環器内科
胸の中央部が締め付けられる感覚や、動悸、冷汗などを伴う場合は、心臓の病気の可能性があります。循環器内科または救急医療機関を受診してください。

16. まとめ
肋間神経痛は、肋骨に沿って走る肋間神経が何らかの原因で刺激を受けることによって生じる痛みです。病名ではなく症状の名称であり、その原因は帯状疱疹、脊椎の疾患、外傷、姿勢不良、ストレスなど多岐にわたります。
肋間神経痛の特徴的な症状としては、上半身の片側に現れる鋭い痛み、肋骨に沿った帯状の痛み、咳や深呼吸などで増強する痛み、比較的短時間で治まる痛みなどが挙げられます。
自己診断の目安として、痛みの場所をピンポイントで示せること、「ビリッ」「ピリピリ」といった鋭い痛みであること、体動で痛みが誘発されることなどが肋間神経痛の特徴に合致しますが、胸の痛みは心臓や肺など重要な臓器の疾患でも起こりうるため、自己判断で済ませることは避けてください。
とくに、激しい胸痛、持続する胸痛、呼吸困難を伴う胸痛、冷汗や吐き気を伴う胸痛などがある場合は、緊急性の高い疾患の可能性がありますので、速やかに医療機関を受診してください。
日常生活では、正しい姿勢を保つこと、体を冷やさないこと、適度な運動やストレッチを行うこと、ストレスを溜めないこと、規則正しい生活を送ることなどが予防につながります。症状がある場合は、安静にして体を温め、無理をせずに過ごしましょう。
肋間神経痛でお悩みの方は、早めに医療機関を受診して原因を特定し、適切な治療を受けることをお勧めします。原因に応じた治療と日常生活での予防により、症状の改善と再発防止が期待できます。
参考文献
- 肋間神経痛 (ろっかんしんけいつう)とは|済生会
- 肋間神経痛の症状をチェック〜原因によって痛み方の特徴やタイミングが異なる〜|メディカルノート
- Q8. 急に胸が痛くなり良くなりません。心臓や肺の病気でしょうか?|一般社団法人日本呼吸器学会
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務