一般皮膚科

稗粒腫の完全ガイド:原因から治療まで

アイシークリニック渋谷院 医療コラム

目の周りや顔にできる小さな白いブツブツ、それは「稗粒腫(ひりゅうしゅ・はいりゅうしゅ)」かもしれません。美容上の悩みとして多くの方が気にされるこの症状について、専門医の視点から詳しく解説いたします。

稗粒腫とは何か

稗粒腫(milium)は、皮膚の表面近くにできる直径1~2mm程度の白色または黄白色の小さな良性の嚢胞です。その名前は、見た目が穀物の稗(ひえ)に似ていることに由来しています。

この小さなできものは、皮膚の中に角質(ケラチン)が袋状にたまることで形成されます。触ると硬く、光沢のある球状の粒が皮膚表面から透けて見えるのが特徴的です。

稗粒腫の基本的な特徴

  • 大きさ:直径1~2mm程度
  • :白色~黄白色
  • 硬さ:硬くて光沢がある
  • 症状:通常、かゆみや痛みはない
  • 好発部位:目の周り、頬、鼻先、額、顎
  • 性質:良性で感染力はない

稗粒腫の分類

医学的には、稗粒腫は大きく2つのタイプに分類されます。

1. 原発性稗粒腫(Primary Milia)

特別な原因がなく自然に発生する稗粒腫です。新生児から成人まで、年齢を問わず見られます。

新生児の稗粒腫

  • 新生児の40~50%に見られる
  • 主に鼻、頬、額に出現
  • 数週間から数ヶ月で自然に消失することが多い
  • 「ミルクスポット」と呼ばれることもある

成人の稗粒腫

  • 主に目の周り、頬に出現
  • 自然に消失することは稀
  • 遺伝的素因や体質が関与する可能性

2. 続発性稗粒腫(Secondary Milia)

皮膚の損傷や疾患の後に生じる稗粒腫です。

主な原因

  • 熱傷(やけど)
  • 外傷(擦り傷、切り傷)
  • 皮膚科手術後
  • 水疱性疾患(天疱瘡、類天疱瘡など)
  • レーザー治療後
  • ピーリング後
  • 長期間のステロイド外用薬使用

特殊なタイプ

稗粒腫様プラーク(Milia en Plaque)

  • 数mm~数cmの紅斑性プラーク内に多数の稗粒腫が集簇
  • 主に耳の後ろ、目の周り、頬に出現
  • 非常に稀な病型

多発性噴出性稗粒腫(Multiple Eruptive Milia)

  • 短期間に多数の稗粒腫が突然出現
  • 顔面だけでなく、胸部、背部にも出現
  • 極めて稀な病型

稗粒腫の原因とメカニズム

基本的な発生メカニズム

稗粒腫の正確な原因は完全には解明されていませんが、以下のメカニズムが考えられています。

1. 角質の蓄積

  • 皮膚のターンオーバー(新陳代謝)の過程で、本来剥がれ落ちるはずの角質が表皮内に閉じ込められる
  • 毛穴の出口で角質がうまく排出されず、皮膚内にとどまってしまう

2. 毛包や汗腺の異常

  • 産毛の毛穴(毛包)や汗腺開口部付近で起こる角化異常
  • 皮脂腺の機能異常による角質の蓄積

3. 皮膚バリア機能の低下

  • 乾燥肌や敏感肌による皮膚バリア機能の低下
  • 外的刺激により角質の正常な代謝が阻害される

発生に関与する要因

年齢的要因

  • 加齢による皮膚の新陳代謝の低下
  • 皮脂分泌の変化
  • 皮膚の弾力性の低下

環境的要因

  • 紫外線による皮膚ダメージ
  • 乾燥した環境
  • 大気汚染

生活習慣的要因

  • 不適切なスキンケア
  • 過度な洗顔やこすりすぎ
  • 油分の多いスキンケア製品の使用
  • 睡眠不足
  • ストレス

体質的要因

  • 遺伝的素因
  • アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患
  • ホルモンバランスの変化

稗粒腫の症状と特徴

外見的特徴

見た目

  • 直径1~2mmの白色~黄白色の丘疹
  • ドーム状に盛り上がった形状
  • 表面は滑らかで光沢がある
  • 境界明瞭で周囲の皮膚との区別がはっきりしている

触感

  • 硬くて弾力がある
  • 可動性はほとんどない
  • 圧迫しても内容物は出ない

症状の特徴

自覚症状

  • 通常、かゆみや痛みはない
  • 炎症反応は起こらない
  • 感染のリスクはない

経過

  • 新生児では自然消失することがある
  • 成人では自然消失することは稀
  • 徐々に大きくなることがある
  • 同じ場所に再発することがある

好発部位

顔面

  • 目の周り(特に下まぶた)
  • 鼻先
  • こめかみ

その他の部位

  • 胸部
  • 背部
  • 陰部(稀)

診断方法

臨床診断

稗粒腫の診断は、主に視診と触診による臨床診断で行われます。

診断のポイント

  1. 特徴的な外見(1~2mmの白色丘疹)
  2. 好発部位(目の周り、頬など)
  3. 硬い触感
  4. 無症状性
  5. 慢性の経過

ダーモスコピー検査

皮膚専用の拡大鏡(ダーモスコピー)を用いて、より詳細な観察を行います。

ダーモスコピー所見

  • 白色~黄白色の均一な構造
  • 表面の細かい角質構造
  • 血管新生の所見はない
  • 色素沈着はない

組織学的検査(必要に応じて)

診断が困難な場合や、悪性疾患との鑑別が必要な場合に行われます。

組織学的特徴

  • 重層扁平上皮に裏打ちされた嚢胞
  • 嚢胞内には層状に配列した角質
  • 炎症細胞浸潤はない
  • 顆粒層の存在

鑑別診断

稗粒腫と似た外見を持つ他の皮膚疾患との鑑別が重要です。

白ニキビ(面疱)

類似点

  • 白色の小さな丘疹
  • 顔面に好発

相違点

  • 炎症を伴うことがある
  • 毛穴に一致した分布
  • 圧迫により内容物が排出される
  • 思春期に多い

鑑別のポイント

  • 稗粒腫は炎症を起こさない
  • より硬い触感
  • 毛穴との関連が不明瞭

汗管腫(syringoma)

類似点

  • 目の周りに好発
  • 小さな丘疹

相違点

  • やや黄色みを帯びた色調
  • 2~4mmとやや大きい
  • 汗管の増殖による

鑑別のポイント

  • 汗管腫は圧出では除去できない
  • 組織学的に汗管構造が見られる

脂腺増殖症

類似点

  • 顔面の小さな丘疹
  • 黄白色の外見

相違点

  • 中央部に小さな陥凹
  • 30~40代に多い
  • 皮脂腺の増殖による

扁平疣贅(ウイルス性イボ)

類似点

  • 顔面の小さな丘疹

相違点

  • 平坦な形状
  • 桃色~褐色の色調
  • ウイルス感染による

水イボ(伝染性軟属腫)

類似点

  • 小さな白色丘疹

相違点

  • 中央部に陥凹(臍窩)
  • 光沢が強い
  • 主に小児に見られる
  • 感染力がある

治療法

稗粒腫は良性疾患のため、医学的には治療の必要はありませんが、美容上の理由で治療を希望される方が多くいらっしゃいます。

圧出法(Extraction)

最も一般的な治療法

手順

  1. 患部の消毒
  2. 局所麻酔(必要に応じて)
  3. 注射針やメスで表面に小さな穴を開ける
  4. 専用器具や鑷子で内容物を圧出
  5. 止血・消毒

メリット

  • 保険適用
  • 短時間で完了
  • 確実な除去が可能

デメリット

  • 軽度の痛み
  • 一時的な出血や赤み
  • 再発の可能性

費用

  • 保険適用(3割負担)
  • 10箇所未満:約220円~440円
  • 10箇所以上:約440円~880円
  • ※診察料別途

炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)

レーザーによる除去

手順

  1. 局所麻酔
  2. 炭酸ガスレーザー照射
  3. 稗粒腫組織の蒸散
  4. 創部の処置

メリット

  • 精密な治療が可能
  • 再発率が低い
  • 出血が少ない

デメリット

  • 自費診療
  • 一時的な凹み
  • かさぶた形成

その他の治療法

電気焼灼法

  • 高周波電流による除去
  • 比較的侵襲性が低い

液体窒素療法

  • 冷凍凝固による除去
  • 複数回の治療が必要

薬物療法

外用薬

  • トレチノイン(レチノイン酸)
  • アダパレン
  • 効果は限定的

内服薬

  • 一般的には使用されない
  • 多発例では検討することもある

予防法とスキンケア

日常のスキンケア

適切な洗顔

  • 優しく丁寧な洗顔
  • 強くこすらない
  • 朝晩2回の洗顔
  • 刺激の少ない洗顔料を使用

保湿ケア

  • 洗顔後の保湿を徹底
  • 自分の肌質に合った保湿剤を選択
  • 特に目の周りは優しくケア

日焼け対策

  • 日焼け止めの使用
  • 帽子や日傘の活用
  • 紫外線の強い時間帯の外出を避ける

避けるべきケア

過度なスキンケア

  • 強いピーリング
  • 頻繁なスクラブ洗顔
  • アルコール系化粧品の過度な使用

自己処理

  • 針やピンセットでの自己除去
  • 強く圧迫する行為
  • 不衛生な器具の使用

生活習慣の改善

食生活

  • バランスの取れた食事
  • ビタミンA、C、Eの摂取
  • 十分な水分補給

睡眠

  • 質の良い睡眠
  • 十分な睡眠時間の確保

ストレス管理

  • 適度な運動
  • リラクゼーション
  • ストレス発散方法の確立

よくある質問(FAQ)

Q1: 稗粒腫は自然に治りますか?

A: 新生児の場合は数週間から数ヶ月で自然に消失することがありますが、成人の稗粒腫は自然に消失することは稀です。放置しても害はありませんが、美容上気になる場合は皮膚科での治療をお勧めします。

Q2: 稗粒腫は感染しますか?

A: 稗粒腫は感染力のない良性の嚢胞です。他の人にうつることはありませんし、体の他の部位に広がることもありません。

Q3: 自分で取ることはできますか?

A: 自己処理は絶対に避けてください。不適切な処理により、感染、炎症、瘢痕形成、色素沈着のリスクがあります。必ず医療機関で適切な処置を受けてください。

Q4: 治療後に再発することはありますか?

A: 同じ場所に再発する可能性があります。これは根本的な体質や皮膚の状態が変わらないためです。適切なスキンケアにより再発のリスクを軽減できます。

Q5: 治療は痛いですか?

A: 圧出法では軽度の痛みを感じることがありますが、局所麻酔を使用することで痛みを軽減できます。レーザー治療では局所麻酔により、ほとんど痛みを感じません。

Q6: 治療後のケアはどうすればよいですか?

A:

  • 処置当日から洗顔・入浴は可能
  • 患部を清潔に保つ
  • 強くこすらない
  • 紫外線対策を徹底
  • 処方された軟膏があれば使用

Q7: 稗粒腫と白ニキビの違いは?

A: 稗粒腫は炎症を起こさず、硬くて光沢があります。白ニキビは毛穴に一致し、圧迫により内容物が排出され、炎症を起こすことがあります。

Q8: 予防する方法はありますか?

A:

  • 適切なスキンケア
  • 皮膚のターンオーバーの正常化
  • 紫外線対策
  • 生活習慣の改善
  • ストレス管理

Q9: 治療費用はどのくらいですか?

A: 圧出法は保険適用で、3割負担で数百円程度です。レーザー治療は自費診療で、1箇所あたり数千円程度です。詳細は各医療機関にお問い合わせください。

Q10: どのような場合に受診すべきですか?

A:

  • 急速に大きくなる
  • 色調の変化がある
  • 痛みやかゆみが出現
  • 多数発生する
  • 美容上気になる場合

最新の研究と治療法

分子生物学的研究

近年の研究により、稗粒腫の発生メカニズムがより詳細に解明されつつあります。

角化異常のメカニズム

  • ケラチン遺伝子の発現異常
  • 細胞接着分子の変化
  • 成長因子の関与

治療標的の同定

  • 特定の分子経路をターゲットとした治療法の開発
  • より効果的な外用薬の研究

新しい治療技術

フラクショナルレーザー

  • より低侵襲な治療
  • 治癒期間の短縮
  • 副作用の軽減

光線力学療法(PDT)

  • 光感受性物質とレーザーの組み合わせ
  • 選択的な治療が可能

まとめ

稗粒腫は、目の周りや顔面に生じる良性の小さな白いできものです。医学的には無害ですが、美容上の悩みとして多くの方が気にされる症状です。

重要なポイント

  1. 良性疾患:稗粒腫は良性で、健康上の害はありません
  2. 自然消失は稀:成人の稗粒腫は自然に消失することは稀です
  3. 適切な治療:皮膚科での圧出法やレーザー治療により安全に除去できます
  4. 自己処理禁止:自分で取ろうとすると、感染や瘢痕のリスクがあります
  5. 予防の重要性:適切なスキンケアと生活習慣により再発を予防できます

アイシークリニック渋谷院からのメッセージ

稗粒腫でお悩みの方は、一人で悩まずに皮膚科専門医にご相談ください。当院では、患者様一人一人の症状に応じた最適な治療法をご提案いたします。美しい肌を取り戻すお手伝いをさせていただきます。

参考文献

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  5. Gallardo Avila PP, Mendez MD. Milia. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK560481/
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  9. 今日の臨床サポート. J057-4 稗粒腫摘除. https://clinicalsup.jp/jpoc/shinryou.aspx?file=ika_2_9_1_3/j057-4.html
  10. 厚生労働省. 診療報酬点数表(令和6年版)

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務