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ヘモグロビンが低いとどうなる?原因・症状・改善法を医師が詳しく解説

健康診断の結果を見て、「ヘモグロビンが低い」と指摘されて不安になった方も多いのではないでしょうか。ヘモグロビンは私たちの体内で酸素を運搬する重要な役割を担っており、その数値が低下すると「貧血」という状態になります。貧血は「よくある症状」と軽く見られがちですが、放置すると日常生活に支障をきたすだけでなく、背景に重大な病気が隠れている可能性もあります。本記事では、ヘモグロビンの基礎知識から、低下する原因、具体的な症状、そして改善・予防のための方法まで、わかりやすく解説します。ご自身の健康管理にお役立てください。

目次

  1. ヘモグロビンとは何か
  2. ヘモグロビンの基準値と検査方法
  3. ヘモグロビンが低い状態(貧血)とは
  4. ヘモグロビンが低いときに現れる症状
  5. ヘモグロビンが低くなる原因
  6. 貧血の種類と特徴
  7. 検査と診断の流れ
  8. 治療法について
  9. 食事による予防と改善
  10. 日常生活で気をつけたいこと
  11. 医療機関を受診すべきタイミング
  12. まとめ
  13. 参考文献

1. ヘモグロビンとは何か

ヘモグロビンの役割

ヘモグロビンとは、血液中の赤血球に含まれる赤い色素をもったタンパク質のことです。健康診断では「血色素量」や「Hb」と表記されることもあります。ヘモグロビンは、鉄を含む「ヘム」と、タンパク質でできた「グロビン」という2つの成分から構成されています。このうちヘムに含まれる鉄分が酸素と結合しやすい性質を持っているため、ヘモグロビンは全身に酸素を届ける運搬役として非常に重要な働きをしています。

具体的には、ヘモグロビンは肺で取り込んだ酸素と結びつき、血管を通じて体中の細胞へと酸素を届けます。そして、各組織で発生した二酸化炭素を受け取り、再び肺へと運んで排出するという、いわば「酸素の宅配便」のような役割を果たしています。私たちの血液が赤く見えるのも、このヘモグロビンが赤い色素を持っているためです。

ヘモグロビンと健康の関係

ヘモグロビンの量は、私たちの健康状態を反映する重要な指標の一つです。ヘモグロビンが正常範囲内であれば、体の隅々まで十分な酸素が行き渡り、細胞は正常に機能することができます。しかし、何らかの原因でヘモグロビンの量が減少すると、全身が酸素不足の状態に陥り、さまざまな不調が現れるようになります。

また、ヘモグロビンの数値は単に貧血の有無を示すだけでなく、背景にある疾患を発見するきっかけにもなります。そのため、健康診断でヘモグロビンの値を定期的にチェックすることは、健康管理において非常に大切です。

2. ヘモグロビンの基準値と検査方法

ヘモグロビンの基準値

ヘモグロビンの基準値は、性別や年齢によって異なります。世界保健機関(WHO)では、貧血の定義として以下の基準を示しています。

区分貧血の基準(ヘモグロビン値)
成人男性(15歳以上)13.0g/dL未満
成人女性(15歳以上)12.0g/dL未満
高齢者11.0g/dL未満
小児(6〜14歳)12.0g/dL未満
幼児(6か月〜6歳)11.0g/dL未満
妊婦11.0g/dL未満

日本人間ドック学会の判定区分(2024年度版)では、血色素(ヘモグロビン)の基準範囲として、男性で13.1〜16.3g/dL、女性で12.1〜14.5g/dL程度が正常範囲とされています。ただし、検査機関や使用する測定機器によって若干の差異がある場合もあるため、検査結果の解釈は医師に相談することをお勧めします。

検査方法

ヘモグロビンの測定は、一般的な血液検査で行われます。採血した血液を分析装置にかけることで、血液1デシリットル(dL)あたりに含まれるヘモグロビンの量をグラム(g)単位で測定します。健康診断や人間ドックでは必ず含まれる検査項目であり、特別な準備は必要ありません。

血液検査では、ヘモグロビン値だけでなく、赤血球数(RBC)やヘマトクリット値(Hct)なども同時に測定されます。これらの数値を総合的に評価することで、貧血の有無やその程度、さらには貧血のタイプを推測することができます。

3. ヘモグロビンが低い状態(貧血)とは

貧血の定義

貧血とは、血液中のヘモグロビン濃度が基準値を下回った状態のことを指します。貧血は特定の病気の名前ではなく、さまざまな原因によって引き起こされる「状態」を表す言葉です。ヘモグロビンが減少すると、血液が全身に運べる酸素の量が減り、体の組織が酸素不足に陥ります。

貧血の重症度

貧血は、ヘモグロビン値によって軽度、中等度、重度に分類されることがあります。

重症度ヘモグロビン値の目安
軽度貧血10〜12g/dL程度(女性)、10〜13g/dL程度(男性)
中等度貧血7〜10g/dL程度
重度貧血7g/dL未満

ただし、この分類はあくまで目安であり、症状の出方には個人差があります。貧血がゆっくりと進行した場合、ヘモグロビン値がかなり低くなっても症状が軽いことがあります。逆に、急速に貧血が進行した場合は、ヘモグロビン値がそれほど低下していなくても強い症状が現れることがあります。

貧血が体に与える影響

ヘモグロビンが減少すると、体は酸素不足を補おうとしてさまざまな代償機能を働かせます。心臓はより多くの血液を送り出そうとして拍動を速め、呼吸も荒くなります。このような状態が続くと、心臓に負担がかかり、長期的には心不全などの合併症を引き起こす可能性もあります。

また、脳への酸素供給が減少すると、集中力の低下や記憶力の減退、判断力の低下などが生じることもあります。特に成長期の子どもや妊娠中の女性においては、貧血が発達や妊娠経過に影響を与えることがあるため、早期の発見と適切な対応が重要です。

4. ヘモグロビンが低いときに現れる症状

代表的な症状

ヘモグロビンが低下して貧血になると、全身の細胞が酸素不足になるため、さまざまな症状が現れます。代表的な症状には以下のようなものがあります。

疲労感・倦怠感は最も多く見られる症状です。十分に休んでも疲れが取れない、少し動いただけで疲れてしまうといった状態が続きます。体の隅々まで酸素が行き渡らないため、エネルギーを十分に作り出すことができなくなるためです。

動悸・息切れも貧血の典型的な症状です。酸素を運ぶヘモグロビンが減少すると、心臓は少ない酸素をより効率的に全身に届けようとして、拍動を速めます。階段を上がったり、軽い運動をしたりするだけで息が上がってしまうのは、このためです。

めまい・立ちくらみは、脳への酸素供給が減少することで起こります。特に急に立ち上がったときや、長時間立っていたときに症状が出やすくなります。ひどい場合は、ふらついて転倒する危険もあるため注意が必要です。

頭痛・頭重感も貧血でよく見られる症状です。脳が酸素不足になることで、頭が重い、ズキズキ痛むといった症状が現れることがあります。

顔色が悪くなることも貧血の特徴的なサインです。ヘモグロビンは血液に赤い色を与えているため、ヘモグロビンが減少すると、顔色や唇の色、爪の色が青白くなります。周囲の人から「顔色が悪いね」と指摘されて気づくこともあります。

進行すると現れる症状

貧血が長期間続いたり、重症化したりすると、より深刻な症状が現れることがあります。

爪の変形は、貧血が進行した際に見られる特徴的な症状の一つです。爪の中央がへこんでスプーンのような形になる「スプーン爪(匙状爪)」は、鉄欠乏性貧血に特徴的な所見です。また、爪が薄くなって割れやすくなることもあります。

口角炎・舌炎も貧血が進行すると起こりやすくなります。唇の両端(口角)がひび割れて痛んだり、舌がツルツルになって痛みを感じたりすることがあります。これは粘膜の細胞が酸素不足で十分に再生できなくなるためです。

食欲不振・異食症も見られることがあります。食欲がなくなるだけでなく、氷を無性に食べたくなる(氷食症)、土や紙などを食べたくなるといった異常な食欲(異食症)が現れることもあります。これらは特に鉄欠乏性貧血で見られやすい症状です。

手足の冷えやしびれは、末梢の血流が悪くなることで起こります。貧血によって酸素供給が減少すると、体は重要な臓器への血流を優先するため、手足などの末梢部分への血流が減少します。

症状が出にくいケースもある

貧血は、その進行速度によって症状の出方が大きく異なります。ゆっくりと進行する貧血の場合、体が酸素不足の状態に徐々に適応していくため、ヘモグロビン値がかなり低くなっても自覚症状がほとんどないことがあります。このため、健康診断で初めて貧血を指摘されて驚く方も少なくありません。

自覚症状がないからといって貧血を放置していると、知らないうちに重症化していたり、背景にある病気が進行していたりすることがあります。健康診断でヘモグロビン値の低下を指摘された場合は、症状の有無にかかわらず医療機関を受診することが大切です。

5. ヘモグロビンが低くなる原因

ヘモグロビンが低下する原因は大きく分けて、「血液の材料が不足している場合」「血液を作る機能に問題がある場合」「血液が失われている場合」「血液が壊れている場合」の4つに分類できます。

血液の材料不足

ヘモグロビンを作るためには、鉄、ビタミンB12、葉酸、タンパク質などの栄養素が必要です。これらが不足すると、十分な量のヘモグロビンを作ることができなくなります。

鉄は、ヘモグロビンの主要な構成成分であるヘムを作るために不可欠なミネラルです。食事からの鉄分摂取が不足したり、鉄の吸収が悪くなったりすると、鉄欠乏性貧血を引き起こします。特に若い女性やダイエット中の方、成長期の子どもなどは鉄が不足しやすい傾向にあります。

ビタミンB12と葉酸は、赤血球を正常に作るために必要なビタミンです。これらが不足すると、赤血球が正常に成熟できなくなり、巨赤芽球性貧血という貧血を起こします。ビタミンB12は主に動物性食品に含まれているため、極端な菜食主義の方や胃の手術を受けた方は不足しやすくなります。

タンパク質は、ヘモグロビンのグロビン部分を作るために必要です。過度なダイエットや食事量の極端な減少、偏った食生活を続けていると、タンパク質不足から貧血になることがあります。

血液を作る機能の異常

骨髄で血液を作る機能自体に問題がある場合も、貧血の原因となります。

再生不良性貧血は、骨髄の造血機能が低下し、赤血球だけでなく白血球や血小板も減少する病気です。自己免疫の異常や、薬剤、ウイルス感染などが原因となることがありますが、原因不明のことも多い疾患です。

骨髄異形成症候群は、主に高齢者に見られる病気で、骨髄で異常な血液細胞が作られるようになります。貧血だけでなく、白血球減少や血小板減少を伴うこともあり、一部は白血病に移行することがあります。

腎性貧血は、腎臓の機能が低下することで起こる貧血です。腎臓は赤血球の産生を促すホルモンであるエリスロポエチンを分泌していますが、腎機能が低下するとこのホルモンの分泌が減少し、貧血が起こります。人工透析を受けている方や慢性腎不全の方に多く見られます。

出血による血液の喪失

体内で出血が起こると、血液とともにヘモグロビンも失われ、貧血になります。

月経による出血は、女性の貧血の最も多い原因の一つです。特に月経量が多い方(過多月経)や、子宮筋腫などの婦人科疾患がある方は、毎月の月経で大量の鉄が失われるため、鉄欠乏性貧血になりやすくなります。

消化管出血は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、大腸がん、痔などによって起こります。出血量が少ない場合は自覚症状がなく、慢性的な出血によって徐々に貧血が進行することがあります。便が黒っぽくなる(タール便)、便に血が混じるなどの症状がある場合は注意が必要です。

その他の出血として、外傷、手術後の出血、鼻血の頻発なども貧血の原因となることがあります。

赤血球の破壊(溶血)

赤血球が通常よりも早く壊れてしまう状態を溶血といい、溶血性貧血と呼ばれます。

自己免疫性溶血性貧血は、免疫システムが誤って自分自身の赤血球を攻撃してしまう病気です。赤血球に対する抗体が作られ、赤血球が次々と破壊されて貧血が起こります。

発作性夜間ヘモグロビン尿症は、赤血球の膜に異常があり、壊れやすい赤血球が作られる病気です。寝ている間に赤血球が壊れ、早朝に茶褐色の尿が出ることがあります。

遺伝性球状赤血球症などの先天性の溶血性貧血も存在します。

慢性疾患に伴う貧血

がん、関節リウマチ、甲状腺疾患、肝臓病などの慢性疾患があると、それに伴って貧血が起こることがあります。これは二次性貧血または慢性疾患に伴う貧血と呼ばれ、全貧血の約3分の1を占めるとされています。特に高齢者では、貧血の背景にこれらの慢性疾患が隠れていることが多いため、原因を詳しく調べることが重要です。

高齢者における「説明不能の貧血」

65歳以上の高齢者の貧血のうち、2〜3割程度は明確な原因が特定できない「説明不能の貧血」に分類されます。加齢に伴う男性ホルモン(テストステロン)の減少、潜在的な炎症などが関係していると考えられていますが、詳細なメカニズムはまだ十分に解明されていません。

6. 貧血の種類と特徴

貧血は原因によってさまざまな種類に分類されます。それぞれの特徴を理解することで、適切な治療につなげることができます。

鉄欠乏性貧血

鉄欠乏性貧血は、最も頻度の高い貧血で、全貧血の70〜80%を占めるとされています。鉄が不足することでヘモグロビンの合成が十分に行えなくなり、貧血が起こります。

主な原因としては、食事からの鉄分摂取不足、月経や消化管出血による鉄の喪失、妊娠や授乳による鉄需要の増加などがあります。若い女性に特に多く、4人に1人が経験しているとも言われています。

鉄欠乏性貧血では、赤血球が小さく(小球性)、ヘモグロビン濃度が低い(低色素性)という特徴があります。血液検査では、血清フェリチン(貯蔵鉄の指標)の低下、総鉄結合能(TIBC)の上昇などが見られます。

治療は、原因となっている出血などがあればその治療を行いながら、鉄剤の内服が基本となります。鉄剤の服用で1〜2か月程度でヘモグロビン値は改善しますが、体内の貯蔵鉄を補充するために、さらに3〜6か月程度の服用を続けることが推奨されます。

巨赤芽球性貧血

巨赤芽球性貧血は、ビタミンB12または葉酸の不足によって起こる貧血です。これらのビタミンが不足すると、赤血球のDNA合成が障害され、赤血球が正常に成熟できなくなります。その結果、骨髄内に未熟で大きな赤芽球(巨赤芽球)が現れ、貧血が起こります。

ビタミンB12欠乏の原因としては、胃の全摘出や萎縮性胃炎によるビタミンB12の吸収障害、極端な菜食主義による摂取不足などがあります。ビタミンB12は肝臓に5年程度貯蔵されるため、原因が生じてから実際に貧血が現れるまでに数年かかることがあります。

葉酸欠乏の原因としては、偏食やアルコールの大量摂取、妊娠による需要増加などがあります。

巨赤芽球性貧血では、赤血球が大きく(大球性)なるのが特徴です。また、ビタミンB12欠乏の場合は、しびれや感覚障害などの神経症状を伴うことがあるため注意が必要です。

治療は、不足しているビタミンを補充することが基本です。ビタミンB12欠乏の場合は筋肉注射や静脈注射で、葉酸欠乏の場合は内服で補充を行います。重要な点として、ビタミンB12欠乏症に葉酸だけを投与すると、貧血は改善しても神経症状が悪化する可能性があるため、必ず原因を特定してから治療を開始することが大切です。

再生不良性貧血

再生不良性貧血は、骨髄の造血機能が低下し、赤血球だけでなく白血球や血小板も減少する病気です。国の指定難病に認定されています。

原因は、自己免疫機序によるものが多いとされていますが、薬剤やウイルス感染、化学物質への曝露などが関係することもあります。原因が特定できない特発性の場合も少なくありません。

症状としては、貧血による疲労感や息切れに加え、白血球減少による感染症にかかりやすくなること、血小板減少による出血しやすさ(あざができやすい、歯茎からの出血など)が見られます。

治療は、重症度や年齢によって異なります。免疫抑制療法、造血幹細胞移植、支持療法(輸血など)などが行われます。

腎性貧血

腎性貧血は、腎機能の低下によって起こる貧血です。腎臓は赤血球の産生を促すホルモンであるエリスロポエチンを分泌していますが、腎機能が低下するとこのホルモンの産生が減少し、赤血球が十分に作られなくなります。

慢性腎臓病の患者さんや、人工透析を受けている方に多く見られます。

治療は、赤血球造血刺激因子製剤(ESA製剤)の投与が基本となります。これにより、エリスロポエチンの不足を補い、赤血球の産生を促します。

溶血性貧血

溶血性貧血は、赤血球が通常の寿命(約120日)よりも早く壊れてしまうことで起こる貧血です。自己免疫性溶血性貧血、遺伝性球状赤血球症、発作性夜間ヘモグロビン尿症などが含まれます。

溶血性貧血では、貧血の症状に加えて、皮膚や白目が黄色くなる黄疸が見られることがあります。これは、赤血球が壊れる際に放出されるビリルビンという黄色い色素が血液中に増えるためです。また、尿が茶褐色になることもあります。

治療は原因によって異なり、ステロイド薬や免疫抑制剤、脾臓摘出などが行われることがあります。

二次性貧血(慢性疾患に伴う貧血)

がん、関節リウマチ、慢性感染症、肝疾患、内分泌疾患などの慢性疾患に伴って起こる貧血を二次性貧血といいます。これらの疾患があると、炎症によって鉄の利用が阻害されたり、エリスロポエチンの産生が低下したりして、貧血が起こります。

特に高齢者では二次性貧血の頻度が高く、貧血を契機に背景にある悪性腫瘍などの重大な疾患が発見されることもあります。そのため、貧血の原因を詳しく調べることが非常に重要です。

7. 検査と診断の流れ

基本的な血液検査

貧血の診断は、まず血液検査でヘモグロビン値を確認することから始まります。同時に測定される赤血球数(RBC)、ヘマトクリット値(Hct)、赤血球指数(MCV、MCH、MCHC)なども、貧血の種類を推測する上で重要な情報となります。

MCV(平均赤血球容積)は、赤血球1個の平均的な大きさを示す指標です。この値によって、貧血は以下のように分類されます。

小球性貧血(MCV 80fL未満):赤血球が小さい状態で、鉄欠乏性貧血、慢性疾患に伴う貧血、サラセミアなどで見られます。

正球性貧血(MCV 80〜100fL):赤血球の大きさが正常な貧血で、急性出血、溶血性貧血、再生不良性貧血、腎性貧血などで見られます。

大球性貧血(MCV 100fL超):赤血球が大きい状態で、ビタミンB12欠乏や葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血、肝疾患、骨髄異形成症候群などで見られます。

貧血の原因を調べる検査

貧血の種類を特定し、原因を調べるために、以下のような追加検査が行われることがあります。

血清フェリチンは、体内の貯蔵鉄量を反映する指標です。鉄欠乏性貧血では低値を示します。ただし、炎症があると見かけ上高値になることがあるため、解釈には注意が必要です。

血清鉄、総鉄結合能(TIBC)、不飽和鉄結合能(UIBC)は、血液中の鉄の状態を調べる検査です。鉄欠乏性貧血では血清鉄が低下し、TIBCが上昇します。

網状赤血球数は、骨髄から新しく作られた若い赤血球の数を示します。骨髄の造血機能が正常に働いているかどうかを判断する指標となります。

ビタミンB12、葉酸の血中濃度は、巨赤芽球性貧血が疑われる場合に測定されます。

末梢血塗抹標本検査は、血液を顕微鏡で観察し、赤血球の形態異常の有無などを調べる検査です。

原因疾患を調べる検査

貧血の背景にある疾患を調べるために、以下のような検査が必要になることがあります。

便潜血検査は、消化管出血の有無を調べる検査です。便に血液が混じっていないかを確認します。

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)、下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)は、消化管出血の原因となる潰瘍やがん、ポリープなどを直接観察する検査です。

婦人科検査は、過多月経の原因となる子宮筋腫や子宮内膜症などを調べるために行われます。

骨髄検査は、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群、白血病などが疑われる場合に行われます。骨盤の骨などから少量の骨髄液を採取して調べます。

8. 治療法について

貧血の治療は、その原因によって大きく異なります。原因を正確に診断し、それに応じた治療を行うことが重要です。

鉄欠乏性貧血の治療

鉄欠乏性貧血の治療は、鉄剤の内服が基本となります。鉄剤にはいくつかの種類があり、患者さんの状態に応じて選択されます。

非徐放性鉄剤(クエン酸第一鉄ナトリウムなど)は、胃酸の分泌が低下している方や胃を切除した方でも吸収されやすい薬剤です。

徐放性鉄剤(フマル酸第一鉄、硫酸鉄など)は、胃から腸にかけてゆっくりと鉄を放出するため、胃への刺激が少なく、空腹時でも服用できます。ただし、胃酸がないと効果が出にくいため、胃を切除した方には適しません。

鉄剤の主な副作用として、吐き気、胃のむかつき、腹痛、便秘、下痢などの胃腸症状があります。また、便が黒くなることがありますが、これは鉄剤の影響であり心配ありません。

鉄剤を服用すると、1〜2か月程度でヘモグロビン値は改善してきます。しかし、体内の貯蔵鉄(フェリチン)を十分に補充するためには、さらに3〜6か月程度の継続服用が必要です。症状が改善したからといって自己判断で服用を中止すると、再び貧血になる可能性があります。

出血などの原因がある場合は、その治療も並行して行います。例えば、過多月経の原因となっている子宮筋腫の治療や、消化管出血の原因となっている潰瘍の治療などです。

巨赤芽球性貧血の治療

ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血の治療では、ビタミンB12製剤の筋肉注射または静脈注射が行われます。吸収障害が原因の場合は、生涯にわたって定期的な注射が必要になることもあります。

葉酸欠乏による場合は、葉酸製剤の内服で治療を行います。

重要な注意点として、ビタミンB12欠乏症に対して葉酸だけを投与すると、貧血は改善しても神経症状が悪化することがあります。そのため、治療開始前に必ず原因を特定することが大切です。

その他の貧血の治療

腎性貧血には、赤血球造血刺激因子製剤(ESA製剤)の投与が行われます。

再生不良性貧血には、免疫抑制療法(抗胸腺細胞グロブリン、シクロスポリンなど)や、重症例には造血幹細胞移植が検討されます。

自己免疫性溶血性貧血には、ステロイド薬や免疫抑制剤の投与、脾臓摘出などが行われることがあります。

重度の貧血や、緊急を要する場合には、輸血が行われることもあります。

治療における注意点

貧血の治療を受ける際には、以下の点に注意しましょう。

医師の指示通りに薬を服用し、自己判断で中止しないことが大切です。症状が改善しても、体内の貯蔵を十分に補充するために治療の継続が必要なことがあります。

定期的に血液検査を受け、治療効果を確認しましょう。

貧血の原因となっている基礎疾患がある場合は、その治療も並行して行うことが重要です。

9. 食事による予防と改善

貧血の予防や改善には、日々の食生活が非常に重要です。特に鉄欠乏性貧血の予防には、食事から適切に鉄分やその他の栄養素を摂取することが大切です。

鉄分の摂取について

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、鉄分の1日あたりの推奨摂取量は以下のように定められています。

区分推奨量
成人男性(18歳以上)7.0〜7.5mg
成人女性(月経なし)6.0〜6.5mg
成人女性(月経あり)10.5〜11.0mg
妊婦(初期・授乳期)+2.5mg
妊婦(中期・後期)+9.5mg

しかし、理想的な食事をしている人でも、1日に摂取できる鉄は約10mg程度(実際に吸収される量は約1mg)と言われています。特に月経のある女性は、毎月約30mgもの鉄が失われるため、意識的に鉄分を摂取することが大切です。

ヘム鉄と非ヘム鉄

食品に含まれる鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があり、吸収率に大きな違いがあります。

ヘム鉄は、肉や魚などの動物性食品に含まれる鉄で、吸収率が15〜25%と高いのが特徴です。主な食品としては、豚レバー、鶏レバー、牛の赤身肉、かつお、まぐろ、あさり、しじみなどがあります。

非ヘム鉄は、野菜、豆類、穀類などの植物性食品に含まれる鉄で、吸収率は2〜5%と低いのが特徴です。主な食品としては、ほうれん草、小松菜、大豆製品、ひじき、海藻類などがあります。

日本人が摂取する鉄の多くは非ヘム鉄ですが、吸収率を高める工夫をすることで、効率よく鉄を摂取することができます。

鉄分を多く含む食品

鉄分を多く含む代表的な食品を以下に挙げます。

動物性食品:豚レバー(100gあたり約13mg)、鶏レバー(約9mg)、牛レバー(約4mg)、かつお(約1.9mg)、まぐろ赤身(約1.1mg)、あさり水煮(約30mg)、しじみ(約8mg)

植物性食品:ほうれん草(100gあたり約2.0mg)、小松菜(約2.8mg)、納豆(1パックあたり約1.3mg)、木綿豆腐(約1.2mg)、乾燥ひじき(鉄釜加工のもの約58mg)

鉄分の吸収を高める栄養素

非ヘム鉄の吸収率を高めるために、以下の栄養素と一緒に摂取することが効果的です。

ビタミンCは、非ヘム鉄を吸収されやすい形に変換する働きがあります。鉄分を含む食品と一緒に、ビタミンCが豊富な果物(柑橘類、いちご、キウイなど)や野菜(ブロッコリー、パプリカなど)を摂取しましょう。

動物性タンパク質も、非ヘム鉄の吸収を助けます。野菜料理と一緒に肉や魚を組み合わせることで、吸収率を高めることができます。

クエン酸や酢酸などの有機酸も、鉄の吸収を促進します。調理に酢やレモン汁を使うのも効果的です。

鉄分の吸収を妨げるもの

一方で、鉄分の吸収を妨げる成分もあります。

タンニンは、緑茶、紅茶、コーヒーなどに含まれる成分で、鉄と結合して吸収を妨げます。食事中や食後すぐの摂取は控えた方がよいでしょう。ただし、最近の研究では、タンニンの影響はそれほど大きくないという報告もあり、過度に気にする必要はありません。

フィチン酸は、玄米や全粒粉、豆類などに含まれ、鉄の吸収を妨げることがあります。

食物繊維の過剰摂取も、鉄の吸収を阻害する可能性があります。

ビタミンB12と葉酸を含む食品

巨赤芽球性貧血の予防には、ビタミンB12と葉酸の摂取も重要です。

ビタミンB12を多く含む食品:牛レバー、豚レバー、あさり、しじみ、さんま、いわし、卵黄、チーズなど

葉酸を多く含む食品:牛レバー、豚レバー、ほうれん草、ブロッコリー、アスパラガス、納豆、大豆など

食生活の基本

貧血予防のための食生活の基本をまとめます。

1日3食、規則正しく食べましょう。朝食を抜いたり、極端なダイエットをしたりすると、必要な栄養素が不足しやすくなります。

主食、主菜、副菜をそろえたバランスの良い食事を心がけましょう。

鉄分を多く含む食品を意識的に取り入れましょう。特にヘム鉄を含む動物性食品を適度に摂取することが大切です。

ビタミンCを一緒に摂取して、鉄の吸収率を高めましょう。

タンパク質も十分に摂取しましょう。ヘモグロビンの材料となるだけでなく、非ヘム鉄の吸収も助けます。

インスタント食品やファストフードに偏らず、手作りの食事を心がけましょう。

調理の工夫

鉄製の調理器具を使うことで、食品に鉄が溶け出し、鉄分の摂取量を増やすことができます。例えば、乾燥ひじきの鉄含有量は、ステンレス釜で加工したものは100gあたり約6.2mgですが、鉄釜で加工したものは約58mgと大きな差があります。

鉄製のフライパンやスキレット、鉄瓶などを日常的に使うことは、鉄分補給に役立ちます。特に酸味のある料理(トマト料理など)では、鉄が溶け出しやすくなります。

10. 日常生活で気をつけたいこと

無理のない運動

貧血の症状がある場合、激しい運動は心臓に負担をかけるため避けるべきですが、症状が軽度であれば、ウォーキングなどの軽い運動は血行を良くし、体調の改善に役立ちます。

ただし、めまいやふらつきがある場合は転倒のリスクがあるため、十分に注意が必要です。運動を始める前に、主治医に相談することをお勧めします。

十分な休息

貧血があると、体は常に酸素不足の状態であり、疲れやすくなります。十分な睡眠をとり、無理をしないようにしましょう。

疲れを感じたら無理をせず休む、こまめに休憩をとるなど、体のサインに耳を傾けることが大切です。

転倒・怪我の予防

めまいやふらつきがある場合、転倒して怪我をするリスクが高まります。以下の点に注意しましょう。

急に立ち上がることは避け、一呼吸おいてからゆっくり立ち上がりましょう。

階段や廊下では手すりを使い、外出時は壁側を歩くなど、ふらついたときにすぐにつかまれる場所を確保しましょう。

めまいを感じたら、すぐにその場にしゃがみこんで、症状が落ち着くまで待ちましょう。

浴室は滑りやすいため、手すりを設置したり、滑り止めマットを使用したりして、転倒を予防しましょう。

ストレスの管理

過度のストレスは、食欲不振を招いたり、胃腸の働きを悪くして栄養の吸収を妨げたりすることがあります。適度にリラックスする時間を設け、ストレスをため込まないようにしましょう。

手足のケア

貧血によって手足の冷えやしびれがある場合は、温かい衣服を身につけたり、マッサージをしたりして血行を促進しましょう。手足のストレッチも、貧血による倦怠感の軽減に効果的です。

過度のダイエットを避ける

極端なダイエットは、鉄分やタンパク質、ビタミン類の不足を招き、貧血の原因となります。特に若い女性は、体重を気にするあまり食事制限をしがちですが、健康を損なわない範囲での食事管理を心がけましょう。

糖質や脂質を極端に制限するダイエットも、体がエネルギー源としてタンパク質を消費してしまい、ヘモグロビンの材料が不足する原因となります。バランスの良い食事を心がけることが大切です。

定期的な健康診断

貧血は自覚症状がなく進行することも多いため、定期的に健康診断を受けて、ヘモグロビン値をチェックすることが重要です。特に貧血になりやすい方(月経のある女性、妊娠中・授乳中の方、成長期の子ども、高齢者など)は、年に1回は血液検査を受けることをお勧めします。

11. 医療機関を受診すべきタイミング

以下のような場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

すぐに受診すべき症状

急激な貧血の進行が疑われる症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。

強い動悸や息切れが続く場合

安静にしていても動悸や息苦しさが収まらない場合は、貧血が重症化している可能性があります。

胸の痛みがある場合

貧血による心臓への負担が大きくなると、胸痛が現れることがあります。

黒い便(タール便)や血便がある場合

消化管出血のサインです。胃潰瘍や大腸がんなどの可能性があるため、早急な検査が必要です。

大量の不正出血がある場合

婦人科疾患の可能性があります。

意識がもうろうとする場合

重度の貧血や急性の出血が疑われます。

早めに受診すべき状況

健康診断でヘモグロビン値の低下を指摘された場合

自覚症状がなくても、原因を調べるために受診しましょう。

疲れやすい、息切れしやすいなどの症状が続く場合

貧血だけでなく、他の疾患の可能性もあるため、検査を受けることをお勧めします。

月経量が多い、月経期間が長いなど、月経の異常がある場合

婦人科疾患が隠れている可能性があります。

食欲がない、体重が減少しているなどの症状がある場合

消化器疾患やがんなどの可能性を調べる必要があります。

受診する診療科

貧血の原因によって、適切な診療科は異なります。

まずは内科(一般内科)を受診し、血液検査で貧血の有無や種類を調べてもらいましょう。その結果に応じて、必要であれば専門の診療科を紹介してもらえます。

消化管出血が疑われる場合は消化器内科、婦人科疾患が疑われる場合は婦人科、血液の病気が疑われる場合は血液内科などを受診します。

12. まとめ

ヘモグロビンは、全身に酸素を運ぶ重要な役割を果たしているタンパク質です。ヘモグロビンが低下すると「貧血」となり、疲労感、息切れ、めまい、頭痛など、さまざまな症状が現れます。

貧血の原因はさまざまで、最も多いのは鉄分不足による「鉄欠乏性貧血」です。特に月経のある女性、妊娠中・授乳中の方、成長期の子どもなどは貧血になりやすいため、注意が必要です。また、消化管出血や慢性疾患が背景にある場合もあるため、貧血を指摘されたら原因をしっかり調べることが大切です。

貧血の予防と改善には、バランスの良い食事が欠かせません。鉄分を多く含む食品(レバー、赤身肉、あさり、ほうれん草など)を積極的に摂取し、ビタミンCと一緒に摂ることで吸収率を高めましょう。

健康診断でヘモグロビン値の低下を指摘された場合や、貧血を疑う症状がある場合は、自己判断せずに医療機関を受診してください。適切な診断と治療を受けることで、貧血は改善できます。

参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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