はじめに
糖尿病は日本国内で約1,000万人以上が罹患していると推定される国民病となっており、その合併症の一つである糖尿病足病変は、患者さんの生活の質を大きく低下させる重大な問題です。糖尿病足病変とは、糖尿病による神経障害や血流障害が原因で足に生じるさまざまな病変の総称で、最悪の場合には足の切断に至ることもあります。
本記事では、糖尿病足病変の見た目の特徴や症状、発症メカニズム、診断方法、治療法、そして何より重要な予防法について、一般の方にもわかりやすく詳しく解説していきます。糖尿病と診断されている方、そのご家族の方に、ぜひ最後までお読みいただきたい内容です。
糖尿病足病変とは
糖尿病足病変は、英語でDiabetic Foot(ダイアベティック・フット)と呼ばれ、糖尿病に関連して足に生じる様々な問題の総称です。具体的には、足の潰瘍、壊疽、感染症、変形などが含まれます。
日本における糖尿病患者の足潰瘍の発生率は年間約2~3%とされており、一度足潰瘍が発生すると、約15~20%の患者さんが最終的に足の切断に至るというデータがあります。また、糖尿病患者における下肢切断のリスクは、非糖尿病患者と比較して約15~40倍高いとされています。
糖尿病足病変は単一の病気ではなく、神経障害(ニューロパチー)、血管障害(血流障害)、感染症という3つの要因が複雑に絡み合って発症します。これらの要因が相互に影響し合い、小さな傷が治りにくくなったり、重症化しやすくなったりします。
糖尿病足病変が発症するメカニズム
糖尿病足病変の発症には、主に3つのメカニズムが関与しています。
神経障害(糖尿病性神経障害)
高血糖状態が長期間続くと、末梢神経が障害されます。特に足の神経は体の中で最も長い神経であるため、障害を受けやすい特徴があります。神経障害により、以下のような問題が生じます。
感覚神経の障害では、痛みや温度、触覚などの感覚が鈍くなります。そのため、靴擦れや小さな傷、やけどなどに気づきにくくなり、傷が悪化してしまうことがあります。正常な感覚があれば痛みですぐに気づいて対処できる傷も、痛みを感じないために放置され、潰瘍や感染症に進行してしまうのです。
運動神経の障害では、足の筋肉が萎縮したり、バランスが悪くなったりします。これにより足の形が変形し、特定の部位に圧力が集中しやすくなります。ハンマートゥ(槌状趾)やシャルコー関節などの変形が生じることもあります。
自律神経の障害では、汗腺の機能が低下し、皮膚が乾燥しやすくなります。乾燥した皮膚は亀裂が入りやすく、そこから細菌が侵入して感染症を起こすリスクが高まります。
血管障害(末梢動脈疾患)
糖尿病患者では、動脈硬化が進行しやすく、特に足の血管が細くなったり詰まったりする末梢動脈疾患(PAD)を合併することが多くあります。血流が悪くなると、以下のような問題が生じます。
酸素や栄養素の供給が不足するため、傷が治りにくくなります。通常であれば数日で治る小さな傷も、血流不足のために何週間も治らず、潰瘍化してしまうことがあります。
組織の壊死が起こりやすくなります。重度の血流障害では、組織に十分な酸素が届かず、細胞が死んでしまう壊疽が発生します。壊疽が進行すると、足趾や足の一部を切断せざるを得なくなることもあります。
免疫細胞の働きも低下するため、感染症に対する抵抗力が弱まります。
感染症
糖尿病患者では免疫機能が低下しているため、細菌感染を起こしやすく、また感染が拡大しやすい状態にあります。小さな傷口から侵入した細菌が、急速に深部組織や骨にまで広がることがあります。
特に足の潰瘍に感染が加わると、蜂窩織炎や骨髄炎などの重篤な感染症に進展することがあります。感染症が重症化すると、敗血症という全身性の感染状態に陥り、生命を脅かすこともあります。
糖尿病足病変の種類と症状
糖尿病足病変には様々な種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。
神経障害性潰瘍
神経障害が主な原因となって生じる潰瘍です。圧力がかかりやすい部位、特に足底の骨の突出部(中足骨頭部など)や足趾の先端に好発します。
見た目の特徴としては、潰瘍の周囲に厚く硬くなった角質(胼胝)が形成されていることが多く、潰瘍の辺縁は比較的明瞭です。潰瘍の底部は肉芽組織で覆われているか、深い場合には腱や骨が露出していることもあります。
神経障害により痛みを感じにくいため、患者さん自身が潰瘍の存在に気づいていないことも少なくありません。足底を観察したときに初めて発見されることもあります。
虚血性潰瘍
血流障害が主な原因となって生じる潰瘍です。足趾の先端や足の外側縁など、血流が特に悪くなりやすい部位に発生します。
見た目の特徴としては、潰瘍の周囲の皮膚が蒼白や紫色を呈し、冷たく感じられます。潰瘍の辺縁は不整で、底部は壊死組織で覆われていることが多く、黒色や茶褐色を呈します。治癒傾向が乏しく、周囲に新たな潰瘍が形成されることもあります。
痛みを伴うことが多く、特に安静時や夜間に痛みが増強する傾向があります。足を下げると多少症状が楽になることがあります。
神経虚血性潰瘍
神経障害と血流障害の両方が関与する混合型の潰瘍です。実際の臨床現場では、この混合型が最も多くみられます。
見た目や症状は両者の特徴を併せ持ち、治療も複雑になります。感染を合併しやすく、急速に悪化することがあるため、早期の適切な治療が重要です。
壊疽
血流障害が高度になり、組織が壊死した状態を壊疽といいます。糖尿病足病変における壊疽には、乾性壊疽と湿性壊疽があります。
乾性壊疽は、主に動脈閉塞による虚血が原因で、感染を伴わない壊疽です。罹患部位は乾燥し、黒色にミイラ化します。足趾の先端から始まることが多く、徐々に範囲が広がっていきます。比較的境界が明瞭で、進行は緩徐なことが多いです。
湿性壊疽は、感染を伴う壊疽で、罹患部位は湿潤し、悪臭を放ちます。周囲の組織に炎症が広がり、発赤、腫脹、熱感を伴います。乾性壊疽と比較して急速に進行し、全身状態の悪化を招きやすいため、緊急の治療が必要です。
シャルコー関節(神経障害性関節症)
神経障害により関節の感覚が失われ、関節に繰り返し負荷がかかることで、関節が破壊・変形する状態です。足関節や中足部に好発します。
急性期には、足の腫れ、発赤、熱感が出現しますが、痛みは軽度であることが多く、骨折や脱臼があっても気づかれないことがあります。感染症や深部静脈血栓症と間違えられることもあります。
慢性期になると、関節の変形が固定化し、足のアーチが崩れたり(ロッカーボトム変形)、足が極端に広がったりします。変形により新たな潰瘍形成のリスクが高まります。
その他の足病変
爪の異常も糖尿病足病変の一つです。巻き爪や陥入爪が生じやすく、これらが潰瘍や感染症の原因となることがあります。また、真菌感染による爪白癬も多くみられます。
胼胝(たこ)や鶏眼(うおのめ)も、圧力の集中部位に形成され、その下に潰瘍が隠れていることがあります。
足白癬(水虫)も、皮膚のバリア機能を低下させ、細菌感染の入り口となるため注意が必要です。
糖尿病足病変の画像所見と見た目の特徴
糖尿病足病変を早期に発見するためには、その見た目の特徴を知っておくことが重要です。実際の病変の外観は、病変の種類や進行度によって大きく異なります。
初期の変化
糖尿病足病変の最初期には、皮膚の色調変化が現れることがあります。血流障害がある場合、足の皮膚が蒼白になったり、紫がかった色調(チアノーゼ)を呈したりします。足を下げたときに赤紫色になり、挙上すると蒼白になる場合は、血流障害を強く疑います。
皮膚の乾燥やひび割れも初期のサインです。自律神経障害により汗腺の機能が低下すると、皮膚が乾燥し、細かいひび割れが生じます。特にかかとに深いひび割れが見られることがあります。
足の変形も重要なサインです。ハンマートゥ(足趾が曲がった状態)、爪先立ちのような変形、足のアーチの消失などがみられることがあります。
潰瘍の外観
足底潰瘍では、圧力のかかる部位に円形から楕円形の欠損が生じます。周囲には黄白色の厚い角質が形成されていることが多く、この角質を除去すると下に潰瘍が隠れています。潰瘍の深さは様々で、表層にとどまるものから、深部の腱や骨に達するものまであります。
足趾や足縁の潰瘍では、不整形の皮膚欠損がみられます。虚血が強い場合、潰瘍の底部は黒色や茶褐色の壊死組織で覆われています。周囲の皮膚も色調が悪く、冷たい印象を受けます。
感染を合併している潰瘍では、周囲に発赤、腫脹がみられ、悪臭を伴う膿性分泌物が出ています。潰瘍の辺縁が不明瞭で、周囲に炎症が広がっている様子が観察されます。
壊疽の外観
乾性壊疽では、罹患部位が黒色にミイラ化し、乾燥して硬くなります。多くの場合、足趾の先端から始まり、境界が比較的明瞭です。壊疽部位と正常組織との境界に、やや発赤した線(境界線)が見られることがあります。
湿性壊疽では、罹患部位が暗赤色から黒色を呈し、腫れて湿潤しています。周囲組織も浮腫状で、広範囲に炎症性の変化が及んでいます。水疱や膿瘍形成を伴うこともあります。
その他の所見
爪の変化として、肥厚、変色、変形がみられることがあります。陥入爪では、爪の角が皮膚に食い込み、その部位に発赤、腫脹、時に肉芽形成がみられます。
足白癬がある場合、趾間の皮膚が白くふやけていたり、皮がむけていたりします。足底では鱗屑(細かい皮むけ)がみられることがあります。
シャルコー関節では、足の形状が大きく変化します。足のアーチが消失してロッカーボトム様(船底様)になったり、足が全体的に広がったりします。急性期には腫脹と発赤が顕著です。
糖尿病足病変の危険因子
糖尿病足病変を発症しやすい危険因子を理解することは、予防において非常に重要です。
糖尿病関連因子
血糖コントロール不良は最も重要な危険因子です。HbA1c値が高い状態が続くと、神経障害や血管障害のリスクが高まります。特にHbA1cが7%以上の状態が長期間続いている場合、足病変のリスクが上昇します。
糖尿病の罹病期間も重要です。一般的に、糖尿病と診断されてから10年以上経過すると、足病変のリスクが著しく増加します。
神経障害の既往がある方は、足病変の高リスク群です。すでに手足のしびれや感覚低下を自覚している場合、足病変の予防により一層注意を払う必要があります。
末梢動脈疾患の合併も重要な危険因子です。足の冷感、間欠性跛行(歩行時の足の痛み)、安静時疼痛などの症状がある場合は要注意です。
過去に足潰瘍や足切断の既往がある方は、再発のリスクが非常に高くなります。一度足潰瘍を経験した方の約40%が5年以内に再発するというデータもあります。
足の状態に関する因子
足の変形がある場合、特定の部位に圧力が集中しやすくなります。ハンマートゥ、外反母趾、扁平足などの変形は危険因子となります。
胼胝や鶏眼の存在も、その部位に過度の圧力がかかっていることを示しており、潰瘍形成の前駆状態といえます。
視力障害がある方は、足の観察が十分にできず、異常に気づきにくいため危険性が高まります。糖尿病網膜症などで視力が低下している場合は特に注意が必要です。
生活習慣関連因子
喫煙は動脈硬化を促進し、血流障害を悪化させるため、重大な危険因子です。糖尿病患者では、喫煙により足病変のリスクが約2倍になるとされています。
不適切な履物の使用も危険因子です。サイズの合わない靴、硬い靴、ヒールの高い靴などは、足に過度の圧力や摩擦を加え、傷や潰瘍の原因となります。
裸足での歩行も、外傷のリスクを高めます。屋内でも必ず履物を着用することが推奨されます。
セルフケア不足も問題です。足の観察を怠ったり、爪切りを不適切に行ったりすることで、問題が生じやすくなります。
その他の危険因子
高齢者は、加齢による皮膚の脆弱性、視力低下、セルフケア能力の低下などにより、足病変のリスクが高まります。
腎機能障害の合併も危険因子です。透析を受けている糖尿病患者では、足病変のリスクがさらに高くなります。
独居や社会的サポートの不足も、足のケアが不十分になりやすく、問題の早期発見が遅れる原因となります。
糖尿病足病変の診断
糖尿病足病変の適切な診断には、詳細な問診、視診、触診に加え、必要に応じて各種検査が行われます。
問診と視診
まず、糖尿病の罹病期間、血糖コントロールの状態、合併症の有無などを確認します。足の症状については、痛み、しびれ、冷感などの自覚症状の有無と程度を聞き取ります。
視診では、足全体を詳細に観察します。皮膚の色調、乾燥の程度、潰瘍や傷の有無、変形の有無、爪の状態などをチェックします。靴下を脱いでもらい、足底や趾間も必ず確認します。
神経障害の評価
感覚神経の評価には、いくつかの方法があります。
モノフィラメント検査(10gモノフィラメント)は、最も一般的に行われる検査です。細い繊維を足底の決められた部位に押し当て、圧力を感じるかどうかを確認します。感じない部位があれば、その部位の感覚が鈍っていると判断されます。
音叉を用いた振動覚検査も重要です。128Hzの音叉を足の骨の突起部(母趾の付け根など)に当て、振動を感じるかどうか、またどのくらいの時間感じ続けられるかを確認します。
触覚、痛覚、温度覚なども評価されます。綿棒で軽く触れる、爪楊枝で軽く刺激する、温かいものと冷たいものを当てるなどして、それぞれの感覚を確認します。
アキレス腱反射の評価も行われます。反射が減弱または消失している場合、神経障害の存在が示唆されます。
血流評価
触診により、足背動脈と後脛骨動脈の拍動を確認します。拍動が触れない、または弱い場合、血流障害が疑われます。
足関節上腕血圧比(ABI)の測定は、血流障害のスクリーニングとして有用です。足首と腕の血圧を測定し、その比を計算します。通常は1.0~1.4程度ですが、0.9未満の場合は末梢動脈疾患が疑われます。ただし、糖尿病患者では動脈の石灰化により、実際より高い値が出ることがあるため注意が必要です。
足趾上腕血圧比(TBI)や経皮酸素分圧(TcPO2)の測定は、より詳細な血流評価に用いられます。
画像検査としては、下肢動脈の超音波検査、CT血管造影、MR血管造影などが行われることがあります。これらの検査により、動脈の狭窄や閉塞の部位と程度を詳しく評価できます。
感染症の評価
潰瘍がある場合、感染の有無と程度を評価することが重要です。局所の所見(発赤、腫脹、熱感、膿性分泌物、悪臭など)に加え、全身症状(発熱、白血球増多、CRP上昇など)を確認します。
創部の培養検査を行い、起因菌を同定することで、適切な抗菌薬を選択できます。
X線検査やMRI検査により、骨髄炎(骨への感染)の有無を評価します。骨髄炎を合併している場合、治療が困難になるため、早期の診断が重要です。
潰瘍の評価と分類
潰瘍がある場合、その深さ、大きさ、部位などを詳しく評価します。Wagner分類やTexas大学分類など、いくつかの分類システムが用いられます。
Wagner分類は0から5までの6段階で潰瘍を評価する方法です。Grade 0は潰瘍なし、Grade 1は表在性潰瘍、Grade 2は深い潰瘍(腱や関節包まで達する)、Grade 3は深い潰瘍で膿瘍や骨髄炎を合併、Grade 4は限局性壊疽、Grade 5は広範囲壊疽と分類されます。
これらの評価により、治療方針が決定され、予後の予測も行われます。
糖尿病足病変の治療
糖尿病足病変の治療は、病変の種類や重症度によって異なりますが、基本的には総合的なアプローチが必要です。
血糖コントロール
すべての糖尿病足病変治療の基盤となるのが、適切な血糖コントロールです。高血糖状態では創傷治癒が遅れ、感染のリスクも高まります。HbA1cの目標値は患者さんの状態により異なりますが、一般的には7%未満を目指します。
ただし、高齢者や重症合併症のある方では、低血糖のリスクを考慮して、やや緩めの目標設定が適切な場合もあります。主治医と相談しながら、個々の患者さんに適した目標を設定することが重要です。
局所処置(創傷ケア)
潰瘍がある場合、適切な創傷ケアが不可欠です。
デブリードマンは、壊死組織や過剰な角質を除去する処置です。これにより創傷治癒が促進されます。医療機関で定期的に行われる必要があります。
創部の洗浄は、細菌の量を減らし、感染を予防するために重要です。生理食塩水などで十分に洗浄します。
適切な創傷被覆材(ドレッシング材)の選択も重要です。創部の状態(湿潤度、浸出液の量、感染の有無など)に応じて、最適なドレッシング材を選択します。湿潤環境を保つことで創傷治癒が促進されることが知られています。
除圧(圧迫軽減)
潰瘍部への圧力を減らすことは、治癒のために極めて重要です。圧力がかかり続けると、潰瘍は決して治癒しません。
ギプス様の装具(Total Contact Cast:TCC)は、足底潰瘍の除圧に非常に有効です。足全体をギプスで固定し、圧力を分散させます。
除圧用の特殊な靴やインソールも使用されます。潰瘍部に圧力がかからないよう設計された治療靴があります。
重症の場合は、ベッド上安静が必要になることもあります。可能な限り患足に体重をかけないようにすることが求められます。
血行再建術
虚血が主な原因となっている潰瘍や壊疽では、血流を改善するための血管内治療や外科的血行再建術が検討されます。
血管内治療(カテーテル治療)では、狭窄した血管をバルーンで拡張したり、ステントを留置したりして血流を改善します。比較的侵襲が少なく、入院期間も短いため、第一選択となることが多くなっています。
外科的バイパス手術は、閉塞した血管の先に新しい血管(多くは自身の静脈)をつなぎ、血流のバイパス路を作る手術です。複雑な血管病変がある場合に選択されます。
血行再建により血流が改善すれば、潰瘍の治癒が促進され、切断を回避できる可能性が高まります。
感染症の治療
感染を合併している場合、適切な抗菌薬治療が必要です。軽度の感染であれば経口抗菌薬で治療可能ですが、中等度以上の感染では入院の上、点滴による抗菌薬投与が必要になります。
重症感染症では、外科的処置(膿瘍の切開排膿、壊死組織の除去など)が緊急で必要になることもあります。
骨髄炎を合併している場合、長期間(6週間以上)の抗菌薬投与が必要です。時に、感染した骨の切除が必要になることもあります。
切断術
残念ながら、保存的治療や血行再建術でも改善が得られない場合、また生命に危険が及ぶ重症感染症の場合には、切断術が必要になることがあります。
切断のレベル(どこで切断するか)は、血流の状態、感染の範囲、将来の歩行能力などを総合的に考慮して決定されます。可能な限り膝より下で切断し、義足での歩行が可能となるよう努めます。
足趾のみの切断(minor amputation)で済む場合もあれば、下腿や大腿での切断(major amputation)が必要になる場合もあります。
切断は決して治療の失敗ではなく、時には生命を救い、また機能的な義足での歩行を可能にするための重要な治療選択肢です。
その他の治療
陰圧閉鎖療法(NPWT)は、創部に陰圧をかけることで肉芽形成を促進し、創傷治癒を早める方法です。難治性潰瘍に対して有効な場合があります。
高気圧酸素療法は、高濃度の酸素を投与することで組織の酸素化を改善し、創傷治癒を促進する治療法です。一部の施設で行われています。
成長因子製剤の外用なども、創傷治癒促進のために用いられることがあります。
糖尿病足病変の予防
糖尿病足病変は、適切な予防によって多くの場合発症を防ぐことができます。予防は治療よりも重要であり、すべての糖尿病患者さんに実践していただきたい内容です。
血糖コントロールの徹底
良好な血糖コントロールは、神経障害や血管障害の発症・進行を遅らせる最も基本的な予防法です。食事療法、運動療法、薬物療法を適切に組み合わせ、目標とするHbA1c値を維持することが重要です。
定期的な受診を欠かさず、血糖値やHbA1cを確認しながら、必要に応じて治療を調整していきます。
毎日の足の観察
毎日、自分の足をよく観察することが非常に重要です。以下のポイントをチェックします。
皮膚の色に変化はないか、赤くなっている部分や青紫色になっている部分はないか確認します。傷、水疱、ひび割れ、潰瘍などがないか注意深く観察します。特に足底や趾間は見落としやすいので、鏡を使うなどして必ず確認します。腫れや変形がないか、爪の状態に異常はないか(巻き爪、陥入爪、変色など)も確認します。
もし視力が悪くて自分で観察できない場合は、家族に協力してもらうか、定期的に医療機関でチェックしてもらうことが必要です。
足の清潔を保つ
毎日、足を洗って清潔に保ちます。ぬるま湯で優しく洗い、指の間もよく洗います。洗った後は、特に指の間をよく乾かします。湿った状態が続くと、真菌感染や皮膚のふやけから傷ができやすくなります。
熱いお湯は使わないようにします。神経障害があると温度感覚が鈍っているため、やけどをする危険があります。お湯の温度は必ず手で確認してから足を入れるようにします。
保湿ケア
皮膚の乾燥を防ぐため、保湿クリームやローションを使用します。足の甲や足底、かかとなどに塗りますが、指の間には塗らないようにします。指の間が湿った状態になると、感染のリスクが高まるためです。
尿素配合のクリームなどが適していますが、傷がある部分には使用を避けます。
適切な爪のケア
爪は定期的に切りますが、深爪をしないよう注意します。爪は真っ直ぐに切り(スクエアカット)、角は少しだけ丸めます。角を深く切り込むと、陥入爪の原因になります。
爪が厚くなっていたり、自分で切るのが難しい場合は、医療機関でケアしてもらうことをお勧めします。
爪やすりを使って、爪の先を滑らかに整えることも有効です。
適切な履物の選択と使用
靴選びは非常に重要です。以下の点に注意して靴を選びます。
サイズが合っているか確認します。大きすぎても小さすぎても、摩擦や圧迫の原因になります。足の形に合った、締め付けの少ない靴を選びます。つま先に十分な余裕があり、甲の部分で調節できる靴が理想的です。
靴の内側を手で触って、縫い目の突起や異物がないか確認します。靴下に穴や縫い目の塊がないか確認します。新しい靴は、最初は短時間だけ履き、徐々に履く時間を延ばしていきます。
室内でも必ずスリッパなどを履き、裸足で歩かないようにします。外傷のリスクを減らすためです。サンダルやミュールなど、足を保護しない履物は避けた方が安全です。
外傷の予防
日常生活の中で、足に怪我をしないよう注意します。
熱いものに足を近づけないようにします。湯たんぽ、電気カーペット、ストーブなどでのやけどに注意が必要です。温度感覚が鈍っているため、やけどに気づかないことがあります。
素足で海や川、芝生などを歩かないようにします。異物で足を傷つける危険があります。
足の角質を除去する際、軽石などで優しく行い、カミソリや鋭利なもので削らないようにします。
タコや魚の目は、自己処理せず、医療機関で処置してもらいます。
喫煙の禁止
喫煙は血管を収縮させ、血流を悪化させます。糖尿病足病変の重大な危険因子であり、切断のリスクを高めます。禁煙は足病変予防において極めて重要です。
禁煙が難しい場合は、禁煙外来の利用や禁煙補助薬の使用を検討します。
定期的な足の専門的チェック
かかりつけ医や糖尿病専門医による定期的な足のチェックを受けることが重要です。少なくとも年に1回、リスクが高い方はより頻繁に、医師による足の診察を受けます。
フットケア外来などの専門的な足のケアを受けられる施設があれば、定期的に受診することをお勧めします。
異常を感じたらすぐに受診
足に少しでも異常を感じたら、すぐに医療機関を受診します。小さな傷や水疱、皮膚の色の変化、腫れ、痛みなど、どんな小さな変化でも放置せず、早めに相談することが重要です。
週末や夜間に問題が起きた場合の対処法について、あらかじめ主治医と相談しておくとよいでしょう。
患者さんとご家族へのメッセージ
糖尿病足病変は、適切な予防と早期発見・早期治療により、多くの場合は重症化を防ぐことができます。しかし、一度進行してしまうと治療が困難になり、場合によっては足の切断という事態に至ることもある、決して軽視できない合併症です。
毎日の足の観察とセルフケア、定期的な医療機関でのチェック、そして良好な血糖コントロールの維持という3つの柱を守ることで、足の健康を保つことができます。
もし足に何か異常を感じたら、小さなことでも構いませんので、遠慮せずに医療機関に相談してください。早期の対処が、重大な結果を防ぐことにつながります。
ご家族の方も、患者さんの足の健康を守るサポートをお願いします。特に、ご本人の視力が悪い場合や、ご高齢で十分なセルフケアが難しい場合には、足の観察や日常のケアを手伝っていただくことが大切です。

まとめ
糖尿病足病変は、神経障害、血流障害、感染症という3つの要因が絡み合って発症する糖尿病の重大な合併症です。足の潰瘍、壊疽、変形など様々な病変が含まれ、最悪の場合には足の切断に至ることもあります。
早期の段階では、皮膚の色調変化、乾燥、小さな傷などとして現れますが、進行すると深い潰瘍や壊疽に発展します。見た目の特徴は病変の種類により異なりますが、いずれも早期発見が重要です。
診断には、視診、神経障害の評価、血流評価、感染症の評価などが行われます。治療は、血糖コントロール、適切な創傷ケア、除圧、必要に応じた血行再建術や抗菌薬治療など、総合的なアプローチが必要です。
しかし最も重要なのは予防です。良好な血糖コントロール、毎日の足の観察、適切なフットケア、適切な履物の使用、喫煙の禁止などにより、多くの場合、足病変の発症を防ぐことができます。
糖尿病と診断されているすべての方に、足の健康を守るための知識を持ち、日々のケアを実践していただきたいと思います。そして、少しでも異常を感じたら、早めに医療機関に相談することが、足の健康、ひいては生活の質を守ることにつながります。
参考文献
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
https://www.jds.or.jp/ - 日本フットケア・足病医学会
https://jsfcpm.com/ - 厚生労働省「糖尿病の合併症」
https://www.mhlw.go.jp/ - 国立国際医療研究センター糖尿病情報センター
https://dmic.ncgm.go.jp/ - 日本下肢救済・足病学会
http://www.jllsm.jp/
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。足に関する症状や懸念がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務