お子さんが突然大声で泣き叫んだり、床に寝転がって手足をバタバタさせたり、物を投げたりする姿に困惑したことはありませんか。このような激しい感情の爆発は「癇癪(かんしゃく)」と呼ばれ、子どもの成長過程でよく見られる行動の一つです。癇癪は多くの保護者を悩ませる問題ですが、実は子どもの発達において重要な意味を持っています。本記事では、子どもが癇癪を起こす原因や年齢別の特徴、発達障害との関連性、そして適切な対処法について、医学的な観点から詳しく解説します。癇癪に悩む保護者の方々が、お子さんとより良い関係を築くためのヒントをお伝えしていきます。
目次
- 癇癪(かんしゃく)とは何か
- 子どもが癇癪を起こす主な原因
- 年齢別に見る癇癪の特徴
- 癇癪と発達障害の関連性
- 癇癪が起きたときの正しい対処法
- 癇癪を予防するための日常的な工夫
- 専門家に相談すべきタイミング
- 相談できる専門機関一覧
- 保護者自身のケアの重要性
- よくある質問
- まとめ
癇癪(かんしゃく)とは何か
癇癪とは、子どもが感情のコントロールを失い、激しく泣き叫んだり、手足をバタバタさせたり、物を投げたりするなど、興奮を伴う混乱状態のことを指します。医学的には、欲求不満や疲労、空腹などに対する反応として生じる激しい感情の爆発と定義されています。
癇癪の際に見られる具体的な行動としては、大声を出す、叫ぶ、泣きわめく、手足をバタバタさせる、床を転がる、足を踏みならす、物を投げる、壁や床に頭を打ちつけるなどがあります。顔が真っ赤になったり、たたいたり蹴ったりする行動も見られることがあります。中には数秒間わざと息を止めてから普段の呼吸に戻る子どももいます。
癇癪は子どもにとってはごく一般的な現象であり、多くの子どもが1歳になる前くらいから癇癪を起こすようになります。特に2歳から4歳頃にピークを迎え、いわゆる「イヤイヤ期」と重なる時期に最も頻繁に見られます。5歳を過ぎると徐々に減少していくのが一般的ですが、個人差があり、5歳を過ぎても頻繁に癇癪を起こす場合は小児期を通じて続くこともあります。
重要なのは、癇癪は子どもの成長過程で必要な行動の一つであるということです。まだ言葉で自分の気持ちをうまく表現できない子どもにとって、癇癪は自分の不快感や欲求を周囲に伝えるための手段となっています。この時期に癇癪を通じて感情表現を学び、徐々に言葉やより適切な方法で気持ちを伝えられるようになっていくのです。
子どもが癇癪を起こす主な原因
子どもが癇癪を起こす原因は様々ですが、大きく分けて生理的な要因と心理的な要因に分類することができます。保護者がこれらの原因を理解することで、癇癪を予防したり、適切に対応したりすることが可能になります。
生理的な要因
子どもの癇癪の原因として最も多いのが、欲求不満、疲労、空腹といった生理的な不快感です。お腹が空いている時、眠い時、体調が悪い時など、身体的に不快な状態にあると、子どもは感情のコントロールが難しくなり、些細なことがきっかけで癇癪を起こしやすくなります。特に乳幼児期の子どもは自分の身体の状態を言葉で説明することが難しいため、泣いたり暴れたりすることで不快感を表現しようとします。
思い通りにならないことへの反応
子どもは自分の「こうしたい」という欲求が満たされないときに癇癪を起こすことがあります。例えば、お菓子を買ってほしい、このおもちゃで遊びたい、もっとテレビを見たいといった要求が通らなかったときです。また、やりたくないことを強制されたとき、例えば歯磨きや着替え、片付けなどを求められたときにも癇癪が起きやすくなります。これは子どもが自分の意思を持ち始め、自己主張をするようになった成長の証でもあります。
コミュニケーションの困難さ
特に言葉の発達が十分でない時期の子どもは、自分の気持ちや欲求を言葉で伝えることが難しく、もどかしさから癇癪を起こすことがあります。「これがしたい」「あれが嫌だ」と思っていても、それを適切に表現できないフラストレーションが癇癪という形で爆発するのです。言葉の発達に伴い、自分の気持ちを言語化できるようになると、癇癪は徐々に減少していく傾向があります。
注意を引きたい気持ち
子どもは保護者や周囲の大人の注目を集めたいという欲求を持っています。過去に癇癪を起こしたことで保護者から注目を得られた経験があると、注意を引く手段として癇癪を起こすようになることがあります。これは癇癪がコミュニケーションの手段として習慣化した状態といえます。
環境的な要因
予定の急な変更、いつもと違う環境、騒がしい場所、人混みなど、子どもにとってストレスとなる環境的要因も癇癪の引き金になります。特に見通しが立たない状況や予測できない変化は、子どもに強い不安を与え、癇癪につながることがあります。また、刺激が多すぎる環境では情報処理が追いつかず、パニック状態になってしまうこともあります。
年齢別に見る癇癪の特徴
癇癪の現れ方や原因は年齢によって異なります。それぞれの発達段階における癇癪の特徴を理解することで、より適切な対応が可能になります。
0歳から1歳頃
この時期の赤ちゃんに見られる激しく泣く行動は、厳密には癇癪とは異なります。主に空腹、眠気、オムツの不快感、体調不良など、基本的な欲求や不快感を表現する手段として泣くことがほとんどです。まだ自己制御能力が未熟なため、小さな不快感でも大声で泣くことがあります。この時期は保護者が子どもの欲求を察して対応することが中心となります。
1歳から2歳頃
1歳を過ぎると子どもにもしっかりとした感情が芽生え始め、自分の意思を持つようになります。しかし、自分の思いや願いを正確に言葉で伝えることがまだ難しく、また身体的にもできることが増えてきたものの大人のように器用に動くことはできません。そのため、思い通りにならないことへのもどかしさから癇癪を起こすことが増えてきます。この時期の癇癪は主にコミュニケーションのための手段として捉えることができます。
2歳から4歳頃(イヤイヤ期)
この時期は「魔の2歳児」「悪魔の3歳児」などと呼ばれ、癇癪のピークを迎えます。自我が芽生え、「自分でやりたい」「これは嫌」という気持ちが強くなる一方で、まだ感情のコントロールが十分にできず、欲求が満たされないと激しい癇癪を起こすことがあります。言葉の発達に伴い徐々に自分の気持ちを言語化できるようになりますが、まだ感情と言葉が一致しないことも多く、気持ちのコントロールが難しい時期です。3歳になると言い返す言葉、踏ん張る力、諦めない体力がパワーアップし、2歳代よりも手に負えないと感じる場面が増えることもあります。
4歳から5歳頃
4歳になると自分とは異なる周りの人の気持ちも次第にわかるようになってきます。また、他者から自分がどのように見られているかが気になるようになり、恥をかきたくないという気持ちも芽生えてきます。しかし、思考が発達する心の成長期であるため、心の中で起こっている変化に戸惑いや葛藤を感じ、時に感情のコントロールがうまくできず癇癪を起こすことがあります。この時期は簡単なルールを理解できるようになるため、ルールを守ることで物事がうまくいくという経験を積むことが大切です。
5歳から6歳頃
多くの子どもは5歳頃から癇癪が落ち着いてきます。言語能力が発達し、自分の気持ちを言葉で表現できるようになるためです。また、感情をコントロールする力も徐々に身についてきます。ただし、この時期になっても癇癪が続く場合は、何らかの背景要因がある可能性も考えられます。
小学生以降
小学生になると言語能力も社会性も大きく発達しますが、それでも強いストレスやプレッシャー、抑えきれない怒りなどが癇癪として現れることがあります。特に勉強へのプレッシャーや友人関係の悩み、家庭での不安など、内面の葛藤が積み重なることで爆発的に感情をぶつけてしまうことがあります。この時期は表面的な行動だけでなく、その背景にある気持ちやストレス要因を理解し、安心できる環境づくりを意識することが大切です。
癇癪と発達障害の関連性
子どもが頻繁に癇癪を起こしたり、癇癪の程度が激しかったりすると、「もしかして発達障害ではないか」と心配される保護者も少なくありません。ここでは癇癪と発達障害の関係について正しく理解していきましょう。
癇癪と発達障害は異なるもの
まず重要なのは、癇癪を頻繁に起こすことや癇癪の程度が激しいことと、発達障害があることの間に直接的な因果関係は証明されていないということです。癇癪は「不都合なことを取り除きたい」という気持ちが激しい行動として現れたものであり、多くの子どもに見られる正常な発達過程の一部です。一方、発達障害は本人の意思や気持ちとは関係なく、生まれつき脳機能に特性がある状態を指します。発達障害の特性の中に「癇癪を起こす」というものはありません。つまり、癇癪があるからといって必ずしも発達障害があるわけではなく、発達障害があるからといって必ず癇癪を起こすわけでもありません。
発達障害の特性が癇癪に影響することも
ただし、発達障害のある子どもの特性が癇癪を起こしやすい要因となる場合があります。発達障害には主にASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、SLD/LD(限局性学習症/学習障害)などがあり、それぞれの特性によって癇癪につながるメカニズムが異なります。
ASD(自閉スペクトラム症)と癇癪
ASDのある子どもには感覚過敏がある場合が多く、周りの子どもにとっては気にならない刺激であっても過敏に反応して癇癪を起こしてしまうことがあります。例えば、掃除機の音や友達の話し声、肩をトントンと叩かれた刺激を突き刺さるように痛く感じる子どももいます。また、こだわりや不安の強さから、普段と違うことが起きたり突然の予定変更があったりすると、気持ちがついていかず癇癪につながることもあります。相手の気持ちや意図を理解することが難しい、他人のペースに合わせることが苦手といった特性も、対人関係でのストレスとなり癇癪の原因になることがあります。
ADHD(注意欠如多動症)と癇癪
ADHDがある場合は、衝動性から「やりたい」という気持ちを抑えることが難しく、相手の気持ちがわかったとしてもその気持ちを譲ることができないことがあります。また、感情がすぐに表面化しやすいため、爆発的に怒ってしまうことがあります。喜怒哀楽のコントロールに困難があり、何らかのきっかけでカッとなって癇癪を起こす傾向があるとも言われています。「我慢する」「待つ」といった行動が苦手なため、イライラや怒りを一気に表出してしまうことがあります。
発達障害のある子どもに共通する要因
発達障害のある子どもの中には、自分の思い通りにならないことが起きると怒ったり泣きわめいたりするなど、感情のコントロールが難しい子どもがいます。また、気持ちの切り替えが苦手な子どもも多く、イライラした気持ちが収まらずに癇癪を起こすこともあります。何か嫌なことがあっても、何が嫌なのか自分自身の感情や感覚に気づきにくかったり、自分の気持ちや意見を言葉で表現しづらかったりして困っている子どももいます。小さなフラストレーションがたまり、癇癪というかたちで爆発することもあります。
発達障害を疑う際のポイント
癇癪だけで発達障害を判断することはできませんが、以下のような点が見られる場合は専門家への相談を検討してみてください。名前を呼んでも振り向かない、気づかない。言葉の発達に遅れがある。特定のものへのこだわりが非常に強い。同じ行動を繰り返す。集団行動が極端に苦手。感覚に対する過敏さや鈍さがある。これらの特徴が複数見られ、日常生活に支障をきたしている場合は、小児科医や発達支援の専門家に相談することをお勧めします。
癇癪が起きたときの正しい対処法
子どもが癇癪を起こしたとき、保護者はどのように対応すればよいのでしょうか。適切な対処法を知っておくことで、子どもの感情が落ち着くのを助け、次第に癇癪の頻度を減らしていくことができます。
まず安全を確保する
癇癪を起こした子どもは、周囲の状況を正確に把握することが難しくなります。物を投げたり、床や壁に頭を打ち付けたり、自分や他人を傷つける行動をとることもあります。まずは子どもの周りにある危険なもの(包丁、火の元、角のある家具など)から離れさせ、転んでもケガをしないような広い空間や安全な場所に移動させましょう。必要に応じて体をそっと押さえるなど物理的なサポートも検討しますが、力を入れすぎないよう注意が必要です。
保護者自身が冷静さを保つ
子どもが癇癪を起こしているときに保護者も一緒に感情的になってしまうと、状況はさらに悪化します。子どもは保護者の感情を敏感に察知するため、保護者がイライラしていると子どもの興奮も収まりにくくなります。深呼吸をして気持ちを落ち着け、できるだけ穏やかな態度で接するよう心がけましょう。難しい場合は、一時的に別の大人に対応を代わってもらうことも一つの方法です。
子どもが落ち着くのを待つ
癇癪の最中は子どもが興奮して周囲の声が届かない状態になっていることが多いです。この状態で言葉で何かを伝えようとしたり、理由を聞き出そうとしたりしても効果がないばかりか、かえって火に油を注ぐ結果になりかねません。多くの子どもは、落ち着ける安全な環境が与えられれば数分で自然と落ち着き、癇癪をコントロールできるようになります。子どもが落ち着くまで、そばにいながら静かに見守りましょう。
気持ちに寄り添い、言葉にする
子どもが少し落ち着いてきたら、「悲しかったね」「悔しかったね」など、子どもの気持ちを代弁してあげましょう。子どもは自分の感情を適切な言葉で表現することがまだ難しいため、保護者が言葉にしてあげることで、自分の感情と言葉が結びつくようになります。「お菓子が欲しかったから怒っているんだね」など、癇癪の原因も言語化してあげると、子どもは「わかってもらえた」という安心感を得ることができます。
気をそらす工夫をする
癇癪の原因を直接解決しようとするより、子どもの関心を別のものに向けることで癇癪が収まることがあります。お気に入りのおもちゃや絵本を見せる、窓の外の景色に注目させる、「あっちに何かあるよ」と別の方向に意識を向けさせるなど、子どもの興味を引くものを使って気をそらしてみましょう。
場所を変える
外出先で癇癪が起きた場合など、その場から離れることが有効なこともあります。静かで落ち着ける場所に移動することで、刺激が減り、子どもが冷静さを取り戻しやすくなります。また、場所が変わることで気分転換になることもあります。
やってはいけない対応
癇癪を起こしている子どもに対して、大声で叱ったり、威圧的な態度をとったりすることは逆効果です。また、癇癪を起こすたびに子どもの要求に応えてしまうと、泣き叫ぶことで自分の欲求を叶えてもらえると学習してしまい、癇癪が習慣化する恐れがあります。「勝手にしなさい」と突き放すような対応も、子どもの不安を増大させ、状況を悪化させることがあります。癇癪を無視するのではなく、癇癪という行動には反応せずに、子どもの存在と気持ちは受け止めるというバランスが大切です。
癇癪を予防するための日常的な工夫
癇癪は完全に防ぐことはできませんが、日常生活の中での工夫によって頻度を減らすことは可能です。以下の方法を取り入れて、癇癪が起きにくい環境を整えましょう。
生活リズムを整える
疲労や空腹は癇癪の大きな原因となります。規則正しい睡眠、食事のリズムを保つことで、身体的なストレスを軽減し、癇癪を予防することができます。特に外出時は、子どもが疲れていない時間帯を選ぶ、おやつや飲み物を持参するなどの配慮が有効です。
見通しを立ててあげる
子どもは急に気持ちを切り替えることが苦手です。遊びに夢中になっているときに突然「ご飯だよ」「お風呂だよ」と言われると、楽しんでいたものを取り上げられたと感じて癇癪につながりやすくなります。「あと5分で終わりにしようね」「時計の針がここに来たらやめようね」など、事前に予告することで子どもは心の準備ができます。また、親も一緒に行動することで、子どもはより見通しが立ちやすくなります。
選択肢を与える
「これをしなさい」と一方的に指示するのではなく、「AとBどっちがいい?」と選択肢を与えることで、子どもは自分で決めたという満足感を得られ、抵抗感が減ります。例えば、着替えを嫌がる場合は「赤い服と青い服、どっちを着る?」と聞いてみましょう。
ルールを明確にする
家庭内でのルールを明確にし、一貫性を持って守ることが大切です。「YouTubeは1日3回まで」「ゲームは1日20分」など、具体的な数字で示すことで子どもは理解しやすくなります。ルールを守れたときにはしっかり褒め、ルールを守ることで良いことがあるという経験を積ませましょう。
感情表現を教える
日頃から感情を表す言葉を子どもに教えていくことが重要です。「嬉しいね」「悲しいね」「怒っているんだね」など、様々な感情を言葉で表現することで、子どもは自分の気持ちを言語化する力を身につけていきます。癇癪を起こさずに「怒っている」と言葉で伝えられたときには、たくさん褒めてあげましょう。
成功体験を積ませる
子どもができることを増やし、「自分でできた」という成功体験を積み重ねることで自己肯定感が育ちます。自信がつくと、困難な場面でも感情をコントロールしやすくなります。子どもの発達段階に合わせた適度な課題を設定し、達成できたらしっかり認めてあげましょう。
専門家に相談すべきタイミング
癇癪は多くの子どもに見られる正常な発達過程の一部ですが、以下のような場合は専門家への相談を検討することをお勧めします。
癇癪が15分以上続くことが頻繁にある場合。1日に何度も癇癪を起こす場合。5歳を過ぎても癇癪が頻繁に起こる場合。癇癪の程度が年齢に比べて極端に激しい場合。自傷行為(頭を打ちつける、自分を叩くなど)を伴う場合。他人への暴力を伴う場合。癇癪が起きる前後で子どもの様子が極端に変わる場合。言葉の発達や対人関係など、他の発達面でも気になる点がある場合。保護者自身が育児に強い負担を感じている場合。
これらに該当する場合でも、すぐに何らかの問題があるとは限りません。しかし、専門家に相談することで、子どもの特性に合った対応方法を学んだり、必要な支援につながったりすることができます。「相談したら発達障害と診断されてしまうのでは」と不安に思う方もいるかもしれませんが、相談することと診断を受けることは別です。まずは気軽に相談してみることが大切です。
相談できる専門機関一覧
子どもの癇癪や発達について相談できる専門機関は複数あります。どこに相談すればよいかわからない場合は、まずは身近な窓口から利用してみましょう。
市区町村の保健センター
各市区町村に設置されている保健センターでは、保健師による子どもの発達相談を受け付けています。乳幼児健診を担当していることもあり、子どもの発達に関する専門知識を持った職員が対応してくれます。必要に応じて専門機関の紹介や療育の手続き方法なども教えてもらえます。
子育て支援センター
地域自治体が運営する子育て支援センターでは、子育てに関する相談全般を受け付けています。発達障害の相談だけでなく、日常的な育児の悩みも気軽に相談できます。他の子どもや保護者との交流の場にもなっています。
児童相談所
各都道府県に設けられた児童相談所では、18歳未満の子どもを対象とした相談を受け付けています。養護相談や保健相談だけでなく、発達障害などの心の相談や子育てに関する相談も可能です。
発達障害者支援センター
各都道府県・指定都市に設置されている発達障害者支援センターは、発達障害のある人やその家族に対する総合的な支援を行う専門機関です。相談は無料で、発達障害の診断がなくても相談を受けることができます。医療機関や支援事業所の紹介も行っています。
教育センター・特別支援教育センター
各都道府県や政令指定都市等に設置されている教育機関で、教育に関する相談を受け付けています。学習面やいじめ、発達障害に関する相談など、教育場面での悩みを中心に対応しています。
かかりつけの小児科
日頃からお世話になっているかかりつけの小児科医は、子どもの成長を長く見守ってきた存在です。気になることがあれば、まずはかかりつけ医に相談してみるのもよいでしょう。必要に応じて専門医への紹介状を書いてもらうこともできます。
児童精神科・小児精神科
発達障害の診断や詳しい検査は、児童精神科や小児精神科などの専門医療機関で行われます。発達検査や知能検査などの専門的な検査を受けることができ、必要に応じて薬の処方も可能です。受診を希望する場合は、まず電話で発達障害の診察を行っているか確認するとよいでしょう。
保護者自身のケアの重要性
子どもの癇癪に日々向き合う保護者の精神的な負担は非常に大きいものです。保護者自身が疲弊してしまうと、子どもへの適切な対応も難しくなります。子どものケアと同時に、保護者自身のケアも大切にしましょう。
自分を責めない
子どもが癇癪を起こすと、「自分の子育てが悪いのではないか」と自分を責めてしまう保護者は少なくありません。しかし、癇癪は子どもの性格やそのときの状況、発達段階など様々な要因が複雑に絡み合って起こるものであり、保護者の育て方だけが原因ではありません。癇癪をうまく収められなかったとしても自分を責めすぎず、「次に同じような状況になったらどうするか」を考えるきっかけにしていきましょう。
一人で抱え込まない
育児の悩みを一人で抱え込むのは精神的に大きな負担になります。パートナーや家族、友人、専門家など、周囲の人に相談し、サポートを求めることが大切です。同じような悩みを持つ保護者のコミュニティに参加することも、気持ちの支えになることがあります。
休息を取る
疲れたときは無理をせず、積極的に休息を取りましょう。パートナーや家族に子どもを預けて自分だけの時間を作る、子どもが寝ている間に好きなことをするなど、リフレッシュの時間を確保することが大切です。保護者が心身ともに健康でいることが、子どもにとっても良い影響を与えます。
専門家の力を借りる
子どもの癇癪への対応に限界を感じたり、育児に強いストレスを感じたりしている場合は、迷わず専門家の力を借りましょう。子どもだけでなく保護者自身へのサポートを行っている機関もあります。専門家のアドバイスを受けることで、新たな視点や具体的な対処法を学ぶことができます。

よくある質問
一般的に、癇癪は2歳から4歳頃にピークを迎え、5歳頃から徐々に減少していきます。言葉の発達や感情をコントロールする力が身についてくると、癇癪を起こす頻度は自然と減っていきます。ただし、個人差があり、5歳を過ぎても癇癪が続く子どももいます。年齢が上がっても頻繁に癇癪を起こす場合や、程度が激しい場合は、専門家への相談を検討してみてください。
癇癪を起こすからといって発達障害とは限りません。癇癪は多くの子どもに見られる正常な発達過程の一部です。発達障害の特性の中に癇癪を起こすという項目はなく、癇癪の頻度や程度と発達障害の直接的な因果関係は証明されていません。ただし、発達障害のある子どもの特性(感覚過敏、こだわりの強さ、衝動性など)が癇癪を起こしやすくする要因になることはあります。癇癪以外にも言葉の発達の遅れや対人関係の困難さなど気になる点がある場合は、専門家に相談することをお勧めします。
癇癪を起こしている最中に大声で叱ることは避けた方がよいでしょう。子どもは興奮状態にあり、周囲の声が届きにくくなっています。このときに叱っても効果がないばかりか、かえって興奮を強めてしまうことがあります。まずは子どもが落ち着くのを待ち、落ち着いてから話をするようにしましょう。落ち着いた後に、なぜ癇癪を起こしたのか、次はどうすればよいかを一緒に考えることが大切です。
まず周囲の安全を確認し、可能であれば静かで落ち着ける場所に移動しましょう。場所が変わることで気分転換になり、子どもが落ち着きやすくなることがあります。周囲の目が気になるかもしれませんが、保護者自身が冷静さを保ち、子どもが落ち着くのを待つことが大切です。事前に外出時のルールを決めておく、疲れていない時間帯に出かける、お気に入りのおもちゃやおやつを持参するなどの予防策も有効です。
外では落ち着いているのに家でだけ癇癪を起こすケースは珍しくありません。これは子どもが外で頑張りすぎている反動として、安心できる家庭で感情を解放しているためと考えられます。家は子どもにとって最も安心できる場所であり、甘えられる場所でもあります。外での緊張やストレスが家で爆発することがあります。このような場合は、子どもが外でどのような困難を抱えているのかを理解し、外でのストレスを軽減するサポートを検討することが大切です。
まとめ
子どもの癇癪は、多くの保護者を悩ませる問題ですが、成長過程において必要な発達段階の一つです。まだ言葉で自分の気持ちをうまく表現できない子どもにとって、癇癪は自分の不快感や欲求を伝えるための重要なコミュニケーション手段となっています。癇癪の原因は、欲求不満、疲労、空腹といった生理的な要因から、思い通りにならないことへの反応、コミュニケーションの困難さなど様々です。年齢によって癇癪の特徴や対処法も異なり、一般的には2歳から4歳にピークを迎え、5歳頃から徐々に減少していきます。
癇癪と発達障害には直接的な因果関係はありませんが、発達障害の特性が癇癪を起こしやすくする要因となることはあります。癇癪以外にも気になる点がある場合は、専門家への相談を検討しましょう。癇癪が起きたときは、まず安全を確保し、保護者自身が冷静さを保ちながら子どもが落ち着くのを待つことが大切です。日頃から生活リズムを整え、見通しを立ててあげるなどの予防策を講じることで、癇癪の頻度を減らすことができます。
子どもの癇癪に向き合うことは保護者にとって大きな負担となりますが、一人で抱え込まず、周囲のサポートや専門家の力を借りることが重要です。癇癪は成長とともに必ず落ち着いてきます。長い目で見守りながら、お子さんの成長を信じて、一歩ずつ向き合っていきましょう。
参考文献
- MSDマニュアル家庭版「かんしゃく」
- 厚生労働省「発達障害者支援施策の概要」
- 厚生労働省「不登校やいじめ、ひきこもりなどの相談窓口」
- 厚生労働省「こころの相談窓口」
- 文部科学省「自閉症・情緒障害」
- 厚生労働省「発達障害の理解のために」
- 発達障害情報・支援センター「相談できる窓口を教えて欲しい」
- 国立特別支援教育総合研究所「発達障害の二次障害に関する研究」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務