ニキビが治った後に残る赤みは、多くの方が悩む肌トラブルの一つです。炎症が治まったはずなのに赤みだけがいつまでも消えない、化粧で隠しても夕方には目立ってくる、といった経験をされた方も少なくないでしょう。この赤みの正体は「炎症後紅斑」と呼ばれる状態で、ニキビの炎症によってダメージを受けた肌が修復される過程で生じるものです。軽度であれば時間の経過とともに薄くなっていきますが、炎症が強かったり繰り返し起きたりすると、なかなか消えずに残ってしまうことがあります。本記事では、ニキビ跡の赤みが生じるメカニズムから、日常でできるセルフケア、皮膚科で受けられる治療法まで、皮膚科専門の視点から詳しく解説します。適切な知識を身につけ、赤みのない健やかな肌を目指しましょう。
目次
- ニキビ跡の赤みとは何か
- ニキビ跡の赤みが発生するメカニズム
- ニキビ跡の赤みと他のニキビ跡との違い
- ニキビ跡の赤みが消えるまでの期間
- 赤みが長引く原因と悪化要因
- 日常でできるセルフケア
- 皮膚科で受けられる保険診療
- 美容皮膚科で受けられる自由診療
- 赤みを悪化させないための注意点
- ニキビ跡の赤みを予防するには
- よくある質問
- まとめ
ニキビ跡の赤みとは何か
ニキビ跡の赤みは、医学的には「炎症後紅斑(えんしょうごこうはん)」または英語で「PIE(Post-Inflammatory Erythema)」と呼ばれています。これは、ニキビの炎症が治まった後も皮膚に残る赤みのことを指します。ニキビそのものは治っているため、触っても痛みや腫れはありませんが、肌表面に赤い色が残っている状態です。
炎症後紅斑は、ニキビによって毛穴周辺の組織がダメージを受け、そのダメージを修復するために毛細血管が拡張したり、新たに毛細血管が形成されたりすることで生じます。拡張した毛細血管を流れる血液の色が、薄くなった皮膚を通して透けて見えるため、肌が赤く見えるのです。
ニキビ跡の赤みは、ニキビ跡の中でも比較的軽度の症状とされています。クレーターやケロイドのように皮膚の構造自体が変化しているわけではないため、適切なケアを行えば改善が期待できます。しかし、放置したり誤ったケアを続けたりすると、色素沈着へと移行し、茶色いシミのような跡が残ってしまうこともあります。
ニキビ跡の赤みが発生するメカニズム
ニキビ跡の赤みがどのようにして発生するのか、そのメカニズムを詳しく見ていきましょう。このプロセスを理解することで、適切な対処法を選ぶ助けになります。
ニキビの炎症が起こる過程
ニキビは、毛穴に皮脂が詰まることから始まります。ホルモンバランスの乱れやストレス、不適切なスキンケアなどが原因で皮脂の分泌が過剰になると、毛穴の出口が角質で塞がれ、皮脂が毛穴内に溜まっていきます。この状態が初期段階の白ニキビや黒ニキビです。
毛穴に皮脂が溜まると、皮膚の常在菌であるアクネ菌(正式名称:キュウティバクテリウム・アクネス)が増殖を始めます。アクネ菌は皮脂を栄養源として繁殖し、その過程で炎症を引き起こす物質を産生します。これにより毛穴周辺に炎症が起こり、赤く腫れた状態、いわゆる赤ニキビになります。
炎症がさらに進行すると、免疫反応として白血球が集まり、アクネ菌や炎症を起こしている組織を攻撃します。この過程で膿が形成され、黄ニキビ(膿疱)となります。炎症が真皮層まで及ぶと、毛穴周辺の組織が大きなダメージを受けることになります。
炎症後に赤みが残る理由
ニキビの炎症が治まった後も赤みが残る主な理由は、毛細血管の拡張と増生にあります。炎症によってダメージを受けた組織を修復するために、私たちの体は修復に必要な酸素や栄養素を運ぶべく、毛細血管を拡張させたり、新たな毛細血管を形成したりします。
通常、皮膚の下を流れる血液の赤みは、表皮によって覆われているため目立ちません。しかし、ニキビの炎症によって表皮がダメージを受けて薄くなっていると、血管を流れる血液の色が透けて見えやすくなります。これが、ニキビが治った後も赤みが残る主な原因です。
また、炎症が強かった場合や、同じ場所で繰り返し炎症が起きた場合には、毛細血管が傷ついて出血することがあります。血管から漏れ出た血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンが酸化すると、赤紫色や赤黒い色素沈着として肌に残ることもあります。
皮膚の修復過程と赤みの関係
皮膚の修復過程では、ダメージを受けた部分に新しい細胞が生成され、傷ついた組織が徐々に置き換わっていきます。この修復には一定の時間がかかり、その間は毛細血管が拡張した状態が続くため、赤みが残ります。
健康な皮膚では、表皮のターンオーバー(新陳代謝)が約28日周期で行われています。しかし、ニキビによってダメージを受けた皮膚では、このターンオーバーが乱れていることが多く、正常な修復が進みにくくなっています。その結果、赤みが長期間残ってしまうことになります。
さらに、修復過程で肌が新しくなっていく際に紫外線などの外的刺激を受けると、メラノサイト(色素細胞)が活性化してメラニンを過剰に生成することがあります。これにより、赤みから茶色い色素沈着へと移行してしまうケースもあるため、修復期間中のケアが重要となります。
ニキビ跡の赤みと他のニキビ跡との違い
ニキビ跡にはいくつかの種類があり、それぞれ原因や症状、治療法が異なります。自分のニキビ跡がどのタイプに当てはまるのかを知ることで、適切な対処法を選ぶことができます。
赤みタイプ(炎症後紅斑)
前述の通り、炎症後紅斑はニキビの炎症が治まった後に残る赤みです。肌表面は平らで、触っても凹凸はありません。ガラスのコップなどで押すと一時的に色が薄くなるのが特徴で、これは毛細血管内の血液が押し出されるためです。この「ガラス圧迫法」で色が消える場合は、血管性の赤みである可能性が高いといえます。
赤みタイプは、ニキビ跡の中では比較的軽度であり、適切なケアを行えば改善が期待できます。ただし、放置すると色素沈着へ移行する可能性があるため、早めの対処が望ましいとされています。
色素沈着タイプ
色素沈着タイプは、ニキビの炎症後にメラニン色素が過剰に生成され、茶色いシミのような跡が残る状態です。「炎症後色素沈着(PIH:Post-Inflammatory Hyperpigmentation)」とも呼ばれます。赤みタイプと異なり、ガラスで押しても色は変わりません。
色素沈着は、炎症によってメラノサイトが刺激され、メラニンが大量に生成されることで起こります。通常は肌のターンオーバーによってメラニンが排出されていきますが、ターンオーバーが乱れていると排出が追いつかず、色素が沈着してしまいます。特に紫外線を浴びると悪化しやすいため、UV対策が重要です。
クレータータイプ(萎縮性瘢痕)
クレータータイプは、ニキビの炎症が真皮層まで達し、皮膚組織が破壊されて凹んだ状態で残ってしまうものです。月のクレーターのようにぼこぼこした肌になることから、この名前で呼ばれています。凹みの形状によって、アイスピック型(細く深い穴)、ボックス型(底が平らな箱型)、ローリング型(なだらかな波状)などに分類されます。
真皮層はターンオーバーが行われないため、一度破壊されると自然に元通りになることはありません。そのため、クレータータイプはセルフケアでの改善が最も難しく、医療機関での専門的な治療が必要となります。
ケロイド・肥厚性瘢痕タイプ
ケロイドや肥厚性瘢痕は、ニキビが治る過程でコラーゲンが過剰に生成され、赤く盛り上がった状態になるものです。クレーターとは逆に、皮膚が隆起しているのが特徴です。フェイスラインや顎、胸、背中などにできやすく、体質(ケロイド体質)が関係していることもあります。
ケロイドは自然治癒が難しく、放置すると範囲が広がることもあります。治療には圧迫療法、ステロイド注射、内服薬などが用いられ、専門医による診断と治療が必要です。
ニキビ跡の赤みが消えるまでの期間
ニキビ跡の赤みがどのくらいで消えるかは、個人差があり、炎症の程度やその後のケアによっても大きく異なります。一般的な目安を把握しておくことで、焦らずに対処できるようになります。
自然治癒の目安
軽度の炎症後紅斑であれば、ニキビが治ってから1〜3ヶ月程度で赤みが薄くなり始め、半年以内には目立たなくなることが多いとされています。肌のターンオーバーが正常に働いていれば、新しい細胞に置き換わるにつれて赤みも徐々に改善していきます。
しかし、炎症が強かった場合や、同じ場所で繰り返しニキビができていた場合は、赤みが消えるまでに半年から1年以上かかることもあります。また、ターンオーバーが乱れていると、さらに長期間残ってしまうこともあります。
半年以上消えない場合の考え方
ニキビが治ってから半年以上経過しても赤みが消えない場合は、皮膚組織が修復しきれていない可能性があります。この場合、セルフケアだけでの改善は難しく、皮膚科や美容皮膚科での治療を検討することをお勧めします。
長期間残る赤みは、拡張した毛細血管が元に戻らなくなっていたり、皮膚が薄くなったまま回復していなかったりする状態と考えられます。このような場合、レーザー治療や光治療など、医療機器を用いた治療が効果的なことがあります。
年齢による回復速度の違い
肌のターンオーバーの周期は年齢とともに長くなる傾向があります。10代では約28日周期であったものが、20代後半からは30〜40日、30代以降はさらに長くなることもあります。そのため、同じ程度のニキビ跡であっても、年齢が上がるにつれて回復に時間がかかる傾向があります。
また、加齢とともにコラーゲンの生成能力やホルモンバランスも変化するため、肌の修復力自体が低下していきます。年齢を重ねてからのニキビ跡は、より積極的なケアや早めの治療介入が望ましいといえます。
赤みが長引く原因と悪化要因
ニキビ跡の赤みがなかなか消えない、あるいは悪化してしまう原因には、いくつかの要因が考えられます。これらを理解し、改善することで、赤みの早期回復につながります。
紫外線の影響
紫外線は、ニキビ跡の赤みを長引かせる最大の要因の一つです。紫外線を浴びると、肌を守るためにメラノサイトが活性化し、メラニンを生成します。炎症後紅斑がある部分は皮膚が薄くダメージを受けやすい状態であるため、紫外線の影響を受けやすく、赤みから茶色い色素沈着へと移行してしまうことがあります。
また、紫外線によって活性酸素が発生すると、炎症が長引いたり、肌の老化が進んだりする原因にもなります。ニキビ跡の赤みがある期間は、特に入念なUV対策が必要です。日焼け止めは、SPF30以上のものを選び、低刺激性の製品を使用することをお勧めします。
繰り返すニキビ
同じ場所に繰り返しニキビができると、皮膚が修復される前に再びダメージを受けることになり、赤みが慢性化してしまいます。毛穴周辺の組織が繰り返し炎症を起こすことで、毛細血管の拡張が常態化し、赤みが消えにくくなります。
ニキビ跡の赤みを改善するためには、まず新しいニキビができないようにすることが重要です。現在活動中のニキビがある場合は、その治療を優先し、炎症を早期に抑えることで、ニキビ跡の悪化を防ぐことができます。
ターンオーバーの乱れ
肌のターンオーバーが乱れると、古い角質が排出されず、新しい細胞への置き換わりがスムーズに行われません。その結果、ダメージを受けた部分の修復が遅れ、赤みが長く残ってしまいます。
ターンオーバーの乱れは、睡眠不足、ストレス、栄養の偏り、喫煙、過度な飲酒など、さまざまな生活習慣の乱れによって引き起こされます。また、誤ったスキンケア(過度な洗顔、保湿不足など)もターンオーバーを乱す原因となります。
物理的な刺激
ニキビ跡の赤みがある部分を触ったり、擦ったりすることは、赤みを悪化させる原因となります。炎症後の皮膚は非常にデリケートな状態であり、物理的な刺激によって再び炎症が起こったり、色素沈着が進んだりすることがあります。
無意識のうちに顔を触る癖がある方は特に注意が必要です。また、メイクの際に強くこすったり、スクラブ入りの洗顔料を使ったりすることも、肌に刺激を与えてしまいます。ニキビ跡がある間は、できるだけ肌に触れる回数を減らし、やさしいケアを心がけましょう。
日常でできるセルフケア
ニキビ跡の赤みを改善するためには、日常的なセルフケアが重要です。肌のターンオーバーを正常化し、自然治癒を促すための方法を紹介します。
適切な洗顔方法
洗顔は、余分な皮脂や汚れを落としながらも、肌に必要なうるおいを保つことが大切です。ニキビ跡の赤みがある場合は、低刺激性の洗顔料を選び、ぬるま湯でやさしく洗いましょう。
洗顔の際は、たっぷりの泡を立て、泡で肌を包み込むように洗います。ゴシゴシとこするのは厳禁です。すすぎは30回程度を目安に、洗顔料が残らないようしっかりと行います。洗顔後は清潔なタオルで、こすらずに押さえるようにして水分を拭き取りましょう。
保湿ケアの重要性
肌の保湿は、バリア機能を維持し、ターンオーバーを正常に保つために欠かせません。洗顔後は速やかに化粧水で水分を補い、乳液やクリームで蓋をして水分の蒸発を防ぎます。
ニキビ跡の赤みがある場合は、ノンコメドジェニック(毛穴を詰まらせにくい処方)の製品を選ぶとよいでしょう。また、炎症を抑える成分や肌の修復を助ける成分が配合された製品も効果的です。
ビタミンC誘導体の活用
ビタミンCは、ニキビ跡の赤み改善に効果が期待できる成分の一つです。日本皮膚科学会の尋常性痤瘡治療ガイドラインでも、ビタミンC誘導体の外用が炎症性皮疹や痤瘡治癒後の紅斑の早期軽減に有効であるとされています。
ビタミンCには、抗酸化作用、皮脂分泌の抑制、コラーゲン合成の促進、メラニン生成の抑制など、複数の美肌効果があります。ただし、純粋なビタミンCは不安定で浸透しにくいため、化粧品にはビタミンC誘導体として配合されています。アスコルビルリン酸Na、L-アスコルビン酸2-グルコシド、APPSなどの名称で表示されているものを探してみてください。
紫外線対策の徹底
先述の通り、紫外線はニキビ跡の赤みを悪化させる大きな要因です。外出時だけでなく、室内にいるときも窓から紫外線が入ってくることがあるため、年間を通じてUV対策を行うことが大切です。
日焼け止めは、SPF30以上、PA++以上のものを選び、低刺激性で肌に負担がかかりにくいものを使用しましょう。こまめに塗り直すことも重要です。また、帽子や日傘などの物理的な遮光対策も併用すると効果的です。
生活習慣の改善
肌のターンオーバーを正常化し、修復力を高めるためには、生活習慣の改善も重要です。特に睡眠は、肌の修復が活発に行われる時間帯であり、質の良い睡眠をとることが肌の回復を促します。
食事面では、肌の健康に欠かせないビタミンやミネラルを意識して摂取しましょう。ビタミンCを多く含む果物や野菜、ビタミンB群を含む肉類や魚類、亜鉛を含む牡蠣やナッツ類などがお勧めです。また、適度な運動は血行を促進し、肌に栄養を届けやすくします。
ストレスは肌のターンオーバーを乱す原因となるため、自分なりのストレス解消法を持つことも大切です。喫煙は血行を悪化させ、肌の老化を促進するため、禁煙が望ましいでしょう。
皮膚科で受けられる保険診療
ニキビ跡の赤みに対する治療は、基本的には保険適用外の自由診療となります。しかし、現在活動中のニキビがある場合や、特定の症状がある場合には、保険診療で治療を受けることができます。
ニキビ治療の保険適用薬
まだニキビが残っている場合は、まずニキビ自体の治療を優先することが重要です。日本皮膚科学会の尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023では、ニキビ治療の第一選択薬として、アダパレン(ディフェリンゲル)や過酸化ベンゾイル(ベピオゲル、デュアック配合ゲル)などが推奨されています。
アダパレンは、毛穴の詰まりを改善し、ニキビの元となる面皰(コメド)の形成を抑制する作用があります。過酸化ベンゾイルは、抗菌作用と角質剥離作用を持ち、耐性菌を生みにくいという特徴があります。これらの薬剤によってニキビの炎症を早期に抑えることで、ニキビ跡の発生を予防することができます。
ビタミン内服薬
皮膚科では、肌のターンオーバーを促進するためにビタミン剤が処方されることがあります。ビタミンB群やビタミンCの内服薬は保険適用で処方可能であり、肌の新陳代謝を高め、ニキビ跡の赤みの改善をサポートします。
また、炎症後の赤黒い色素沈着に対しては、トラネキサム酸の内服が効果的なこともあります。トラネキサム酸には、メラニンの生成を抑制する作用があり、色素沈着の予防や改善に用いられます。
ケロイドに対する保険治療
ニキビ跡がケロイドや肥厚性瘢痕になっている場合は、保険適用で治療を受けられることがあります。ケロイド体質と診断された場合、トラニラスト(リザベン)などの内服薬や、ステロイド薬の局所注射が保険適用となります。
また、圧迫療法やシリコンシートの使用なども、ケロイド治療の選択肢として挙げられます。ケロイドは自然治癒が難しいため、早めに皮膚科専門医に相談することをお勧めします。
美容皮膚科で受けられる自由診療
ニキビ跡の赤みに対して、より積極的に改善を目指したい場合は、美容皮膚科での自由診療が選択肢となります。医療機器や専門的な施術により、セルフケアでは難しい効果が期待できます。
レーザー治療
ニキビ跡の赤みに対するレーザー治療としては、Vビーム(パルス色素レーザー)が代表的です。Vビームは、波長595nmのレーザー光が血液中のヘモグロビンに吸収されることで、拡張した毛細血管を収縮・閉塞させる作用があります。これにより、赤みの原因となっている血管を減少させ、赤みを改善します。
治療は通常1〜3ヶ月の間隔で行い、3〜5回程度が目安とされています。照射後は一時的に紫斑(あざのような色)が出ることがありますが、1〜2週間程度で消失します。なお、Vビームは血管腫などの血管性病変に対しては保険適用となりますが、ニキビ跡の赤みに対しては自由診療となります。
光治療(IPL)
IPL(Intense Pulsed Light)は、広い波長帯域の光を照射する治療法です。光がヘモグロビンやメラニンに吸収されることで、赤みや色素沈着の両方に効果が期待できます。レーザーに比べて肌への負担が軽く、ダウンタイムが短いのが特徴です。
治療は月1回程度の頻度で、5〜10回程度行うのが一般的です。1回の治療効果はレーザーよりもマイルドですが、赤みの改善に加えて、肌全体のトーンアップやキメの改善も期待できます。ニキビの予防効果もあるため、活動中のニキビとニキビ跡の両方がある方にも適しています。
ケミカルピーリング
ケミカルピーリングは、酸を用いて古い角質を取り除き、肌のターンオーバーを促進する治療法です。グリコール酸、サリチル酸、乳酸などが使用されます。ターンオーバーが促進されることで、ダメージを受けた皮膚の修復が進み、赤みの改善が期待できます。
また、ピーリング後は有効成分の浸透が高まるため、ビタミンC導入やイオン導入と組み合わせて行われることも多いです。治療頻度は2週間〜1ヶ月に1回程度で、複数回の施術を重ねることで効果を高めます。
イオン導入・エレクトロポレーション
イオン導入は、微弱な電流を用いて、ビタミンCなどの水溶性の有効成分を肌の奥まで浸透させる方法です。通常のスキンケアでは届きにくい真皮層まで成分を届けることができ、赤みの改善や肌質の向上が期待できます。
エレクトロポレーションは、電気パルスによって細胞膜に一時的に微細な穴をあけ、イオン導入では浸透しにくい分子量の大きな成分も導入できる方法です。ヒアルロン酸やコラーゲンなどの美容成分を効率的に肌に届けることができます。
ダーマペン
ダーマペンは、極細の針で肌に微細な穴をあけ、肌の自然治癒力を利用してコラーゲンの生成を促進する治療法です。針の深度を調整できるため、赤みだけでなく、軽度の凹みや毛穴の開きなど、さまざまな肌悩みに対応できます。
施術後は成分の浸透が高まるため、成長因子やビタミンCなどの美容液を塗布することで、相乗効果が期待できます。ダウンタイムは数日程度の赤みが出ることがありますが、比較的短めです。治療は3〜4週間の間隔で、3〜6回程度行うのが一般的です。
外用薬(ハイドロキノン、トレチノイン)
美容皮膚科で処方される外用薬として、ハイドロキノンやトレチノインがあります。ハイドロキノンはメラニンの生成を抑制する美白剤で、色素沈着の改善に効果があります。トレチノインはビタミンA誘導体で、ターンオーバーを促進し、肌の入れ替わりを早める作用があります。
これらは医療機関でのみ処方される薬剤であり、使用にあたっては医師の指導のもと、適切な濃度や使用頻度を守ることが重要です。刺激感や皮むけが生じることがあるため、肌の状態を見ながら使用します。
赤みを悪化させないための注意点
ニキビ跡の赤みを早く改善するためには、悪化させる行動を避けることも大切です。日常生活の中で気をつけるべきポイントを紹介します。
ニキビを潰さない
ニキビができたときに自分で潰してしまうと、炎症が悪化したり、細菌が入り込んで感染を起こしたりする原因になります。また、無理に潰すことで真皮層までダメージが及び、クレーターになるリスクも高まります。
どうしても気になる場合は、自己処理せずに皮膚科を受診してください。医療機関では、専用の器具を用いて清潔な環境で面皰圧出を行うことができ、跡が残りにくい処置をしてもらえます。
過度なスキンケアを避ける
早く赤みを消したいという気持ちから、過度なスキンケアをしてしまうことがあります。しかし、洗顔のしすぎ、強いピーリング剤の多用、複数の刺激成分の同時使用などは、かえって肌にダメージを与え、赤みを悪化させる原因となります。
スキンケアは「やりすぎない」ことも大切です。肌に合った製品を選び、適切な使用量・頻度を守りましょう。新しい製品を試す際は、いきなり顔全体に使うのではなく、目立たない部分でパッチテストを行うことをお勧めします。
メイクの注意点
ニキビ跡の赤みがあるときもメイクをすることは可能ですが、いくつかの注意点があります。まず、毛穴を詰まらせにくいノンコメドジェニック製品を選ぶことが大切です。また、カバー力を求めて厚塗りになると、クレンジングで落としにくくなり、毛穴に残った化粧品がニキビの原因になることがあります。
赤みを隠したい場合は、グリーン系のコントロールカラーを使用すると、赤みを補正することができます。帰宅後は速やかにメイクを落とし、肌を清潔に保ちましょう。
刺激物を避ける
食事面では、辛いものや脂っこいもの、アルコールなど、刺激が強いものの過剰摂取は控えましょう。これらは血管を拡張させたり、皮脂の分泌を促進したりする作用があり、赤みを悪化させる可能性があります。
また、熱いお風呂やサウナも血管を拡張させるため、長時間の入浴は避けた方がよいでしょう。入浴後は肌の乾燥に注意し、しっかりと保湿を行ってください。
ニキビ跡の赤みを予防するには
ニキビ跡の赤みを作らないためには、ニキビができた段階で適切に対処することが最も重要です。予防のポイントを押さえておきましょう。
ニキビの早期治療
ニキビ跡を残さないためには、ニキビの炎症を早期に抑えることが何より大切です。白ニキビや黒ニキビの段階であれば、適切なスキンケアで悪化を防ぐことができます。赤ニキビになってしまった場合は、セルフケアだけで対処しようとせず、皮膚科を受診して適切な治療を受けることをお勧めします。
ニキビ治療は近年大きく進歩しており、保険診療で効果的な治療薬を処方してもらうことができます。早めに治療を開始することで、炎症が長引くのを防ぎ、ニキビ跡の発生リスクを下げることができます。
炎症を長引かせない
ニキビの炎症が長引くほど、皮膚へのダメージは大きくなり、跡が残りやすくなります。炎症を長引かせないためには、ニキビを触らない、潰さないことが基本です。また、メイクや汚れが毛穴に残らないよう、丁寧なクレンジングと洗顔を心がけましょう。
十分な睡眠、バランスの良い食事、適度な運動など、生活習慣を整えることも炎症を鎮めるために重要です。免疫力が低下していると炎症が長引きやすくなるため、体調管理にも気を配りましょう。
維持療法の継続
日本皮膚科学会のガイドラインでは、ニキビの炎症が治まった後も、アダパレンや過酸化ベンゾイルを用いた維持療法を継続することが推奨されています。維持療法により、新しいニキビの発生を予防し、同じ場所で炎症を繰り返すことを防ぐことができます。
維持療法は、ニキビが落ち着いたからといってすぐに中止せず、医師の指示に従って継続することが大切です。これにより、ニキビができにくい肌環境を維持し、ニキビ跡の発生を予防することができます。

よくある質問
軽度の赤みであれば、肌のターンオーバーとともに自然に薄くなることが多いです。一般的に1〜6ヶ月程度で改善が見られますが、炎症が強かった場合やターンオーバーが乱れている場合は、より長期間残ることがあります。半年以上経過しても改善が見られない場合は、皮膚科への相談をお勧めします。
ニキビ跡の赤みに特化した市販薬は限られていますが、ビタミンC誘導体やナイアシンアミドを配合した化粧品は、赤みの改善に効果が期待できます。また、肌のターンオーバーを促すビタミンB群やビタミンCのサプリメントも補助的に役立つことがあります。ただし、市販品での効果には限界があるため、改善が見られない場合は医療機関を受診することをお勧めします。
赤みを隠すには、グリーン系のコントロールカラーを赤みの部分に薄く塗り、その上からファンデーションを重ねると効果的です。厚塗りは毛穴を詰まらせる原因になるため避け、ノンコメドジェニック製品を選びましょう。また、パウダーで仕上げることで、化粧崩れを防ぎ、赤みが再び目立つのを抑えることができます。
活動中のニキビがある場合は、まずニキビの治療を優先することが重要です。新しいニキビができ続けると、そのたびに炎症によるダメージが加わり、ニキビ跡が増えたり悪化したりしてしまいます。ニキビ治療と並行して、既存のニキビ跡のケアを行うことも可能ですが、まずは新しいニキビを作らないことが最優先です。
残念ながら、ニキビ跡の赤みに対するレーザー治療やIPL治療、ケミカルピーリングなどは保険適用外の自由診療となります。ただし、活動中のニキビの治療や、ニキビ跡がケロイドになっている場合の一部の治療は保険適用で受けられます。また、ビタミン内服薬など一部の処方は保険診療の対象となることがあります。
赤みが茶色く変色している場合は、炎症後色素沈着への移行が考えられます。これはメラニンの沈着によるもので、紫外線対策が特に重要になります。ビタミンC誘導体やハイドロキノンなどの美白成分を含むスキンケアが効果的です。色素沈着は時間の経過とともに薄くなることもありますが、改善が見られない場合は皮膚科を受診してください。
まとめ
ニキビ跡の赤みは、ニキビの炎症によって皮膚がダメージを受け、その修復過程で毛細血管が拡張することで生じます。医学的には「炎症後紅斑」と呼ばれ、ニキビ跡の中では比較的軽度の症状です。適切なケアを行えば、時間の経過とともに改善が期待できますが、放置すると色素沈着へと移行することもあるため、早めの対処が大切です。
日常のセルフケアとしては、適切な洗顔と保湿、ビタミンC誘導体を含む化粧品の使用、徹底した紫外線対策、そして睡眠や食事などの生活習慣の改善が基本となります。これらを継続的に行うことで、肌のターンオーバーを正常化し、自然治癒を促すことができます。
セルフケアを続けても改善が見られない場合や、より積極的に赤みを改善したい場合は、皮膚科や美容皮膚科での治療が選択肢となります。VビームなどのレーザーやIPL光治療、ケミカルピーリング、イオン導入など、さまざまな治療法があり、症状や希望に合わせて選ぶことができます。
また、ニキビ跡の赤みを作らないためには、ニキビができた段階での早期治療が最も重要です。現在ニキビでお悩みの方は、まずは皮膚科を受診し、適切な治療を受けることをお勧めします。炎症を早期に抑えることで、ニキビ跡の発生を予防することができます。
ニキビ跡の赤みは、適切な知識とケアによって改善が期待できる症状です。焦らず、正しい方法でケアを続けていきましょう。気になる症状がある場合は、自己判断せずに専門医に相談することをお勧めします。
参考文献
- 日本皮膚科学会「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」
- マルホ株式会社「ざ瘡の治療」
- Mindsガイドラインライブラリ「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」
- 日本皮膚科学会「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023(PDF)」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務