ニキビが治ったはずなのに、茶色いシミのような跡が残ってしまった経験はありませんか。この茶色いニキビ跡は「炎症後色素沈着」と呼ばれ、ニキビの炎症によってメラニン色素が過剰に生成されることで起こる症状です。炎症後色素沈着は適切なケアを行えば改善が期待できますが、放置したり誤ったセルフケアを続けたりすると、かえって悪化してしまうこともあります。本記事では、ニキビ跡による色素沈着のメカニズムから、自宅でできるセルフケア、クリニックで受けられる専門的な治療法まで、皮膚科専門の知見に基づいて詳しく解説します。色素沈着を早く改善したい方、適切な治療法を知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
- ニキビ跡の色素沈着とは
- 色素沈着ができるメカニズム
- ニキビ跡の色素沈着の種類と見分け方
- 色素沈着が改善するまでの期間
- 自宅でできるセルフケア
- クリニックで受けられる治療法
- 色素沈着を予防するために
- 治療を受ける際の注意点
- よくある質問
ニキビ跡の色素沈着とは
ニキビ跡の色素沈着とは、ニキビの炎症が治まった後に、茶色や褐色のシミのような跡が肌に残ってしまう状態を指します。医学的には「炎症後色素沈着」(Post-Inflammatory Hyperpigmentation:PIH)と呼ばれており、ニキビに限らず、やけど、虫刺され、湿疹、外傷など、あらゆる皮膚の炎症の後に生じる可能性があります。
炎症後色素沈着は、一般的なシミ(老人性色素斑)とは発生のメカニズムが異なります。老人性色素斑は、長年にわたる紫外線の影響でメラニンが蓄積することで生じますが、炎症後色素沈着は皮膚の炎症をきっかけとしてメラニンが過剰に生成されることで発生します。そのため、若い方でも発症することがあり、特にニキビができやすい10代から30代の方に多く見られます。
日本人をはじめとするアジア人は、欧米人に比べてメラニンの生成が活発な傾向にあるため、炎症後色素沈着が起こりやすいとされています。また、ニキビを潰してしまったり、強くこすったりすることで炎症が悪化すると、より濃い色素沈着が残りやすくなります。
色素沈着ができるメカニズム
ニキビ跡の色素沈着がどのようにして形成されるのか、そのメカニズムを理解することは、適切なケアや予防を行ううえで非常に重要です。ここでは、色素沈着ができるまでの過程を段階を追って解説します。
ニキビの発生と炎症
まず、ニキビは毛穴に皮脂や角質が詰まり、アクネ菌が増殖することで発生します。日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」によると、ニキビの発症には主に三つの要因が関与しています。一つ目は毛穴の詰まり(毛穴の角化異常)、二つ目は皮脂の過剰分泌、三つ目はアクネ菌の増殖です。これらの要因が重なることで、毛穴内で炎症が起こり、赤ニキビや黄ニキビへと進行していきます。
炎症が起こると、私たちの体は自己防衛反応として、炎症を抑えるためにさまざまな物質を分泌します。この過程で、炎症メディエーターと呼ばれる化学物質が産生され、白血球が集まり、血管が拡張するといった反応が起こります。
メラノサイトの活性化とメラニンの過剰生成
炎症が起こると、表皮の基底層に存在するメラノサイト(色素細胞)が刺激を受けて活性化します。メラノサイトは本来、紫外線から肌を守るためにメラニン色素を生成する細胞ですが、炎症によっても活性化されるという特性があります。活性化されたメラノサイトは、通常以上にメラニンを生成し始めます。
生成されたメラニンは、周囲の表皮細胞(ケラチノサイト)に取り込まれます。通常であれば、肌のターンオーバー(新陳代謝)によってメラニンを含んだ細胞は徐々に肌表面へと押し上げられ、最終的には垢として剥がれ落ちます。しかし、メラニンの生成量がターンオーバーによる排出量を上回ると、メラニンが表皮内に蓄積し、茶色いシミとして見えるようになります。これが炎症後色素沈着の正体です。
表皮性と真皮性の違い
炎症後色素沈着には、メラニンが沈着している深さによって「表皮性」と「真皮性」の二種類があります。この違いは、治療の難易度や改善にかかる期間に大きく影響します。
表皮性の色素沈着は、メラニンが表皮内にとどまっている状態です。表皮は約4〜6週間でターンオーバーが行われるため、新しい細胞と入れ替わることで比較的短期間で改善が期待できます。茶色っぽい色味が特徴で、多くのニキビ跡の色素沈着はこのタイプに該当します。
一方、真皮性の色素沈着は、炎症が強く真皮層にまでダメージが及んだ場合に生じます。メラニンが真皮層に落ち込んでしまうと、真皮のターンオーバーは表皮に比べて非常に遅く(3〜5年程度とも言われます)、自然な改善には長い時間がかかります。色味がやや青みがかっていたり、1〜2年経っても改善しない場合は、真皮性の色素沈着である可能性があります。
ニキビ跡の色素沈着の種類と見分け方
ニキビ跡にはさまざまな種類があり、それぞれ原因や治療法が異なります。ここでは、色素沈着を中心に、ニキビ跡の種類と見分け方について解説します。
茶色い色素沈着(メラニンによるもの)
ニキビの炎症によってメラニンが過剰に生成され、肌に茶色いシミのような跡が残る状態です。これが最も一般的なニキビ跡の色素沈着で、炎症後色素沈着(PIH)と呼ばれます。色味は薄い茶色から濃い褐色までさまざまで、ニキビの炎症の強さや持続期間、肌質などによって異なります。
茶色い色素沈着は、紫外線を浴びることでさらに濃くなる傾向があります。これは、紫外線がメラノサイトを刺激し、さらなるメラニン生成を促進するためです。そのため、色素沈着がある部位は特に紫外線対策を徹底することが重要です。
赤みのあるニキビ跡(炎症後紅斑)
ニキビが治った後も赤みが残っている状態は、「炎症後紅斑」と呼ばれます。これは色素沈着とは異なり、炎症によって拡張した毛細血管がまだ退縮していないことが原因です。ヘモグロビン(赤血球に含まれる赤い色素)が透けて見えることで、肌が赤っぽく見えます。
炎症後紅斑と色素沈着は併存していることも多く、赤みと茶色みが混在した状態になることがあります。見分け方の一つとして、ガラス板などで患部を圧迫した際に色が消えれば血管由来の赤み(炎症後紅斑)、消えなければメラニン由来の茶色み(色素沈着)と判断できます。
紫色のニキビ跡(ヘモジデリン沈着)
ニキビの炎症が真皮層にまで達し、毛細血管が破れてしまうと、血液中のヘモグロビンが皮膚組織に漏れ出します。このヘモグロビンが分解される過程でヘモジデリンという褐色の色素に変化し、紫色や赤紫色のニキビ跡として残ることがあります。
ヘモジデリン沈着はメラニンによる色素沈着とは原因が異なるため、治療法も異なる場合があります。紫色のニキビ跡が気になる場合は、専門医による適切な診断を受けることをお勧めします。
クレーター状のニキビ跡(萎縮性瘢痕)
ニキビの炎症が真皮層に強いダメージを与えると、コラーゲンなどの皮膚組織が破壊され、修復の過程で皮膚が凹んでしまうことがあります。これがクレーター状のニキビ跡(萎縮性瘢痕)です。色素沈着とは異なり、皮膚の構造そのものが変化しているため、自然治癒は困難で、レーザー治療やダーマペンなどの専門的な治療が必要になります。
クレーター状のニキビ跡には、アイスピック型(細く深い凹み)、ボックス型(四角い凹み)、ローリング型(なだらかな凹み)などの種類があり、それぞれに適した治療法があります。色素沈着と併発していることも多いため、複合的な治療が必要になることもあります。
色素沈着が改善するまでの期間
ニキビ跡の色素沈着がどのくらいの期間で改善するかは、多くの方が気になるポイントでしょう。結論から言えば、改善にかかる期間は個人差が大きく、数ヶ月から数年とさまざまです。ここでは、改善期間に影響する要因について解説します。
表皮性の色素沈着の場合
メラニンが表皮内にとどまっている表皮性の色素沈着であれば、肌のターンオーバーによって徐々に改善していきます。健康な20代の方であれば、表皮のターンオーバー周期は約28日とされています。ただし、色素沈着が完全に消失するまでには、複数回のターンオーバーが必要なため、一般的には3ヶ月から6ヶ月程度で薄くなっていくことが多いです。
ただし、ターンオーバーの周期は年齢とともに長くなる傾向があります。30代では約40日、40代では約55日程度とも言われており、年齢が上がるほど色素沈着の改善には時間がかかります。また、生活習慣の乱れやストレス、睡眠不足などもターンオーバーを遅らせる要因となります。
真皮性の色素沈着の場合
メラニンが真皮層にまで落ち込んでしまった真皮性の色素沈着は、自然治癒には非常に長い時間がかかります。真皮のターンオーバー周期は3〜5年とも言われており、表皮性の色素沈着と比べて改善には数年単位の時間が必要になることがあります。
1年以上経っても色素沈着が改善しない場合や、色味がやや青みがかっている場合は、真皮性の色素沈着である可能性が高いです。このような場合は、自然治癒を待つよりも、専門医による適切な治療を受けることをお勧めします。
改善を遅らせる要因
色素沈着の改善を遅らせる要因として、まず挙げられるのが紫外線です。紫外線を浴びると、メラノサイトが刺激されてさらにメラニンが生成されるため、色素沈着が濃くなったり、改善が遅れたりします。また、患部を触ったりこすったりする摩擦刺激も、炎症を長引かせる原因となります。
さらに、ニキビを繰り返し発症している場合、同じ部位で炎症が繰り返されることになり、色素沈着が蓄積していきます。ニキビそのものの治療を適切に行い、新たなニキビの発症を予防することも、色素沈着の改善には重要です。
自宅でできるセルフケア
軽度の色素沈着であれば、適切なセルフケアによって改善を促すことができます。ここでは、自宅で行えるケア方法について詳しく解説します。
紫外線対策の徹底
色素沈着の改善において、最も重要なセルフケアは紫外線対策です。紫外線はメラノサイトを刺激してメラニンの生成を促進するため、色素沈着を悪化させる大きな要因となります。日焼け止めは毎日欠かさず塗布し、外出時には帽子や日傘を活用しましょう。
日焼け止めはSPF30以上、PA++以上のものを選び、2〜3時間おきに塗り直すことをお勧めします。曇りの日や冬場でも紫外線は降り注いでいるため、年間を通じて紫外線対策を続けることが大切です。また、室内にいても窓から入る紫外線の影響を受けることがあるため、日中は日焼け止めを塗る習慣をつけましょう。
摩擦を避ける
色素沈着がある部位を触ったりこすったりすることは、炎症を長引かせ、色素沈着を悪化させる原因となります。洗顔時は泡で優しく洗い、タオルで拭く際もこすらず、押さえるようにして水分を取りましょう。
また、スキンケアやメイクの際も、患部を強くこすらないように注意が必要です。無意識に顔を触る癖がある方は、意識して触らないように心がけることも大切です。摩擦による刺激は、日常生活の中で繰り返し与えられやすいため、常に意識することが重要です。
保湿ケアの徹底
肌の保湿は、ターンオーバーを正常に保つために欠かせません。肌が乾燥すると、バリア機能が低下し、外部刺激を受けやすくなります。また、乾燥した肌はターンオーバーが乱れやすく、メラニンの排出が遅れる原因にもなります。
洗顔後は化粧水で水分を補い、乳液やクリームで油分の膜を作って水分の蒸発を防ぎましょう。セラミドやヒアルロン酸などの保湿成分が配合された製品を選ぶと、より効果的に保湿ケアができます。
ターンオーバーを整える生活習慣
肌のターンオーバーを正常に保つためには、生活習慣の見直しも重要です。睡眠中には成長ホルモンが分泌され、肌の修復や再生が行われます。睡眠不足が続くとターンオーバーが乱れ、色素沈着の改善が遅れる原因となります。毎日7〜8時間程度の質の良い睡眠を心がけましょう。
また、バランスの良い食事も大切です。特にビタミンCはメラニンの生成を抑制する働きがあり、ビタミンB群は肌のターンオーバーを促進する効果があるとされています。野菜、果物、たんぱく質をバランスよく摂取することで、肌の健康を内側から支えることができます。
市販薬やスキンケア製品の活用
市販のスキンケア製品の中には、色素沈着の改善に効果が期待できる成分を配合したものがあります。代表的な成分としては、ビタミンC誘導体、トラネキサム酸、アルブチン、コウジ酸などがあり、これらはメラニンの生成を抑制する働きがあります。
ただし、市販品に配合される濃度は医療機関で処方される薬剤と比べると低いため、効果を実感するまでには時間がかかることがあります。また、敏感肌の方は刺激を感じることもあるため、初めて使用する際はパッチテストを行い、肌に合うかどうか確認することをお勧めします。
なお、セルフケアを6ヶ月以上続けても色素沈着が改善しない場合は、専門医に相談することをお勧めします。真皮性の色素沈着や、他の疾患が隠れている可能性もあるため、適切な診断を受けることが大切です。
クリニックで受けられる治療法
セルフケアでは改善が難しい色素沈着や、より早く確実に改善したい場合は、専門のクリニックでの治療を検討することをお勧めします。ここでは、ニキビ跡の色素沈着に対して行われる代表的な治療法について解説します。
外用薬による治療
クリニックでは、市販品よりも高濃度の有効成分を含む外用薬が処方されます。代表的なものとして、ハイドロキノンとトレチノインがあります。
ハイドロキノンは、メラニンの生成に関わるチロシナーゼという酵素の働きを阻害し、メラニンの産生を抑制する効果があります。その美白効果はビタミンCやアルブチンの数十倍とも言われ、「肌の漂白剤」とも呼ばれています。炎症後色素沈着をはじめ、肝斑やそばかすなどの色素沈着の治療に広く使用されています。
トレチノインは、ビタミンA誘導体の一種で、表皮のターンオーバーを促進する効果があります。通常4週間程度かかるターンオーバーを約2週間に短縮させることで、メラニンを含んだ古い細胞の排出を促します。ハイドロキノンと併用することで、メラニンの産生を抑えながら、既存のメラニンの排出を促すという相乗効果が期待できます。
ただし、これらの外用薬は刺激性があり、使用初期には赤みや皮むけ、ヒリヒリ感などの副反応が生じることがあります。また、トレチノインは妊娠中の使用は禁忌とされています。必ず医師の指導のもとで使用し、紫外線対策を徹底することが重要です。
内服薬による治療
外用薬と併用して、内服薬による治療が行われることもあります。代表的なものとして、トラネキサム酸やビタミンC(アスコルビン酸)があります。
トラネキサム酸は、メラニンの生成を抑制する作用があり、肝斑の治療に広く使用されています。炎症後色素沈着に対しても効果が期待でき、外用薬との併用で相乗効果が得られることがあります。
ビタミンCは、メラニンの生成を抑制するとともに、既存のメラニンを還元して色を薄くする作用があります。また、抗酸化作用によって肌のダメージを防ぐ効果も期待できます。
ケミカルピーリング
ケミカルピーリングは、酸を含む薬剤を肌に塗布し、古い角質を剥離させることでターンオーバーを促進する治療法です。サリチル酸やグリコール酸などが使用され、メラニンを含んだ古い角質の排出を促します。
色素沈着の改善だけでなく、ニキビの予防効果や、肌全体のくすみ改善効果も期待できます。一般的に4週間に1回程度の間隔で複数回の施術を行い、徐々に効果を実感していきます。
施術後は肌が敏感になるため、紫外線対策や保湿ケアをより一層徹底することが重要です。また、肌質や色素沈着の状態によって使用する薬剤の種類や濃度が異なるため、医師による適切な判断のもとで施術を受けることが大切です。
レーザー治療
レーザー治療は、特定の波長の光を照射することで、メラニンを選択的に破壊する治療法です。色素沈着に対しては、レーザートーニングやピコレーザーなどが用いられます。
レーザートーニングは、低出力のレーザーを顔全体に均一に照射し、メラニンを少しずつ分解していく治療法です。肝斑の治療に開発された技術ですが、炎症後色素沈着にも効果が期待できます。1〜2週間おきに複数回の施術を行うことで、徐々に色素沈着が薄くなっていきます。
ピコレーザーは、ピコ秒(1兆分の1秒)という非常に短い時間でレーザーを照射することで、周囲の組織へのダメージを最小限に抑えながらメラニンを細かく粉砕する治療法です。従来のレーザーよりも痛みが少なく、ダウンタイムも短いことが特徴です。
ただし、レーザー治療によって一時的に炎症が生じ、かえって色素沈着が悪化するリスク(炎症後色素沈着の再発)もあります。特に肌の色が濃い方や、炎症が残っている状態での照射は注意が必要です。治療の適応については、必ず専門医の診断を受けることが重要です。
イオン導入・エレクトロポレーション
イオン導入は、微弱な電流を利用して、ビタミンCやトラネキサム酸などの美白成分を肌の奥深くまで浸透させる治療法です。単純に塗布するよりも成分の浸透率が高まり、より効果的に色素沈着に働きかけることができます。
エレクトロポレーションは、電気パルスを利用して細胞膜に一時的な穴を開け、有効成分を肌の深部まで届ける技術です。イオン導入では浸透させにくい分子量の大きな成分も導入できるため、より幅広い成分を使用することができます。
これらの治療は、他の治療法と組み合わせて行われることが多く、相乗効果によって色素沈着の改善を促進することが期待できます。
ダーマペン
ダーマペンは、極細の針で肌に微細な穴を開け、肌の再生力を高める治療法です。針による刺激によってコラーゲンやエラスチンの産生が促進され、肌質の改善やターンオーバーの活性化が期待できます。
色素沈着に対しては、施術時に美白成分を含む薬剤を塗布することで、成分を肌の深部まで浸透させることができます。また、クレーター状のニキビ跡がある場合にも効果が期待でき、複合的なニキビ跡の改善に適しています。
色素沈着を予防するために
色素沈着は治療することも可能ですが、そもそも予防することが最も効果的な対策です。ここでは、ニキビ跡の色素沈着を予防するためのポイントについて解説します。
ニキビの早期治療
色素沈着を予防する最も効果的な方法は、ニキビを早期に治療し、炎症を長引かせないことです。日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」でも、ニキビ治療の目標は瘢痕形成を防ぐことにあると示されています。ニキビができたら放置せず、適切な治療を受けることが重要です。
現在、ニキビ治療には過酸化ベンゾイル(BPO)やアダパレンなどの外用薬が第一選択として推奨されています。これらの薬剤は保険適用で処方を受けることができるため、ニキビが気になる場合は早めに皮膚科を受診することをお勧めします。
ニキビを潰さない
ニキビを自分で潰してしまうと、炎症が悪化したり、細菌感染を起こしたりするリスクがあります。また、潰す際の刺激によってメラノサイトが活性化され、色素沈着がより濃く残りやすくなります。
ニキビが気になっても、むやみに触ったり潰したりせず、適切な治療を受けることが大切です。どうしても膿を出したい場合は、清潔な環境で医療従事者によるニキビ圧出(面皰圧出)を受けることをお勧めします。
日常的な紫外線対策
紫外線はメラノサイトを刺激し、メラニンの生成を促進するため、色素沈着の予防には日常的な紫外線対策が欠かせません。特に炎症を起こしているニキビがある部位や、炎症が治まったばかりの部位は紫外線の影響を受けやすいため、より一層の注意が必要です。
日焼け止めは毎日塗布することを習慣にし、外出時には帽子や日傘を活用しましょう。また、紫外線は窓ガラスを透過することがあるため、室内にいるときでも日焼け止めを塗っておくとより安心です。
正しいスキンケア
過度な洗顔やスクラブの使用は、肌に刺激を与えて炎症を引き起こす原因となります。洗顔は1日2回を目安に、刺激の少ない洗顔料をよく泡立てて優しく洗いましょう。ゴシゴシとこすらず、泡で包み込むように洗うことがポイントです。
また、ピーリング効果のある化粧品や、レチノールなどの機能性成分を含む製品は、肌に合わない場合や使用方法を誤ると炎症の原因となることがあります。特にニキビができやすい肌質の方は、刺激の少ない製品を選び、新しい製品を使用する際はパッチテストを行うことをお勧めします。
治療を受ける際の注意点
クリニックで色素沈着の治療を受ける際には、いくつかの注意点があります。ここでは、治療を受ける前に知っておきたいポイントについて解説します。
保険適用と自費診療について
ニキビ跡の色素沈着に対する治療の多くは、保険適用外の自費診療となります。ニキビそのものの治療は保険適用で受けられますが、ニキビ跡の改善を目的とした治療は美容目的と見なされるため、治療費は全額自己負担となることがほとんどです。
治療費はクリニックや治療法によって異なるため、事前にカウンセリングを受けて、治療内容と費用について十分に説明を受けることをお勧めします。また、複数回の治療が必要になることも多いため、トータルでどのくらいの費用がかかるかも確認しておきましょう。
治療中の紫外線対策
ハイドロキノンやトレチノインなどの外用薬を使用している期間、またはケミカルピーリングやレーザー治療を受けた後は、肌が非常に敏感な状態になっています。この状態で紫外線を浴びると、色素沈着がかえって悪化するリスクがあります。
治療期間中は、日焼け止めの使用を徹底し、なるべく直射日光を避けるようにしましょう。特にトレチノインを使用している場合は、皮むけが起こって肌のバリア機能が低下しているため、より一層の注意が必要です。
治療効果の個人差について
色素沈着の治療効果には個人差があり、同じ治療を受けても改善の程度や期間は人によって異なります。肌質や色素沈着の深さ、年齢、生活習慣など、さまざまな要因が治療効果に影響します。
また、真皮性の色素沈着や長期間にわたる色素沈着は、改善に時間がかかったり、完全には消えなかったりすることもあります。治療を始める前に、医師から期待できる効果や限界について十分な説明を受け、現実的な目標を持って治療に臨むことが大切です。
ニキビの再発予防も重要
色素沈着の治療を行っても、ニキビが再発すれば新たな色素沈着ができてしまいます。色素沈着の治療と並行して、ニキビの再発を予防するための治療や生活習慣の改善も重要です。
日本皮膚科学会のガイドラインでは、ニキビの炎症が治まった後も、維持療法としてアダパレンやBPOの使用を継続することが推奨されています。ニキビができやすい体質の方は、皮膚科医と相談しながら長期的な治療計画を立てることをお勧めします。

よくある質問
表皮内にとどまっている色素沈着であれば、肌のターンオーバーによって数ヶ月から半年程度で徐々に薄くなることが一般的です。ただし、真皮層にまでメラニンが沈着している場合や、紫外線を浴び続けている場合は、自然治癒には長い時間がかかることがあります。6ヶ月以上経っても改善しない場合は、皮膚科への相談をお勧めします。
色素沈着を早く改善するためには、紫外線対策の徹底、摩擦を避けること、保湿ケア、規則正しい生活習慣が基本となります。セルフケアで改善が難しい場合は、皮膚科でハイドロキノンやトレチノインなどの外用薬の処方を受けたり、ケミカルピーリングやレーザー治療を検討することをお勧めします。
ビタミンC誘導体やトラネキサム酸などを配合した市販の美白化粧品は、軽度の色素沈着に対してある程度の効果が期待できます。ただし、医療機関で処方される薬剤と比較すると配合濃度が低いため、効果を実感するまでには時間がかかることがあります。継続して使用しても改善が見られない場合は、皮膚科での相談をお勧めします。
レーザー治療は色素沈着の改善に効果的ですが、照射による一時的な炎症によって、かえって色素沈着が悪化する(戻りシミ)リスクがあります。特に肌の色が濃い方や、炎症が残っている状態での照射は注意が必要です。治療後の紫外線対策や、必要に応じて外用薬を併用することで、このリスクを軽減することができます。治療の適応については専門医による診断が重要です。
ニキビ跡の色素沈着に対する治療は、基本的に保険適用外の自費診療となります。ニキビそのものの治療は保険適用で受けられますが、ニキビ跡の改善を目的とした外用薬やレーザー治療、ケミカルピーリングなどは美容目的と見なされるため、治療費は全額自己負担となることがほとんどです。詳しくは受診するクリニックにご確認ください。
広い意味では、色素沈着もシミの一種です。ただし、一般的にシミと呼ばれる老人性色素斑は、長年の紫外線の蓄積によって生じるものであり、炎症後色素沈着とは発生のメカニズムが異なります。炎症後色素沈着はニキビなどの炎症をきっかけとして発生し、適切なケアを行えば比較的短期間で改善が期待できる点が特徴です。
参考文献
- 日本皮膚科学会「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」
- 第一三共ヘルスケア「くすりと健康の情報局 肌あれの症状・原因」
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「色素沈着」
- Mindsガイドラインライブラリ「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」
- 乾癬ネット「皮膚の構造について」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務