はじめに
「HPVワクチンは女性が接種するもの」と思っていませんか?実は、HPV(ヒトパピローマウイルス)は男性にも深く関わるウイルスであり、近年、男性へのHPVワクチン接種の重要性が世界的に認識されるようになってきました。
日本では2020年12月から男性へのHPVワクチン接種が承認され、自費診療として受けられるようになりました。しかし、まだまだ「男性とHPVワクチン」の関係について知らない方が多いのが現状です。
この記事では、なぜ男性にもHPVワクチンが必要なのか、どのような効果が期待できるのか、接種方法や費用、副作用など、男性のHPVワクチンに関する疑問を包括的に解説します。ご自身やパートナー、お子さんの健康を守るために、ぜひ最後までお読みください。
HPV(ヒトパピローマウイルス)とは?
HPVの基礎知識
HPV(Human Papillomavirus:ヒトパピローマウイルス)は、皮膚や粘膜に感染するウイルスの一種です。現在、200種類以上の型が確認されており、その中で約40種類が性的接触によって感染することが知られています。
HPVは非常に一般的なウイルスで、性交渉の経験がある人の約80%が生涯に一度は感染すると言われています。つまり、特別なウイルスではなく、性的に活発な年齢の男女であれば誰でも感染する可能性がある身近なウイルスなのです。
HPVの型と病気の関係
HPVは、その危険度によって「低リスク型」と「高リスク型」に分類されます。
低リスク型HPV(主にHPV6型・11型)
- 尖圭コンジローマ(性器いぼ)の原因となる
- がんの原因にはならないが、治療が必要
- 再発を繰り返すことが多い
高リスク型HPV(主にHPV16型・18型)
- 子宮頸がん、肛門がん、陰茎がん、中咽頭がんなどの原因となる
- 持続感染により、数年から十数年かけてがん化する
- HPV16型と18型は、特にがん化のリスクが高い
多くの場合、HPVに感染しても免疫力によって自然に排除されますが、一部のケースで持続感染となり、がんや尖圭コンジローマなどの病気を引き起こします。
男性とHPVの関係
男性が感染するHPV関連疾患
HPVは女性だけでなく、男性にもさまざまな病気を引き起こします。
1. 尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマは、HPV6型・11型が原因で発症する性器や肛門周囲にできる良性のいぼです。日本では年間約3万人が新たに発症していると推定されており、そのうち約半数が男性です。
症状としては、以下のようなものがあります:
- 性器や肛門周囲に淡紅色から褐色のいぼができる
- カリフラワー状やニワトリのとさか状の形状
- 通常は痛みやかゆみはないが、不快感を伴うことがある
- 放置すると数が増えたり、大きくなったりする
治療には、外科的切除、冷凍凝固療法、電気焼灼、レーザー治療、外用薬などがありますが、再発率が約25%と高いことが問題です。
2. 中咽頭がん
近年、特に注目されているのが、HPV感染による中咽頭がん(のどのがん)の増加です。口腔性交の一般化により、中咽頭へのHPV感染が増えており、中咽頭がんの約60〜70%がHPV(特に16型)が原因とされています。
中咽頭がんは、従来は喫煙や飲酒が主な原因とされてきましたが、最近では非喫煙者・非飲酒者でもHPV感染による中咽頭がんが増加しています。特に男性の発症率が高く、女性の約4倍とされています。
3. 陰茎がん
陰茎がんは比較的まれながんですが、その約40〜50%がHPV感染と関連しています。日本では年間約500〜600人が発症し、そのほとんどが50歳以上の男性です。
早期発見が重要で、進行すると陰茎の一部または全体を切除する必要が生じることもあり、QOL(生活の質)に大きな影響を与えます。
4. 肛門がん
肛門がんの約90%がHPV感染と関連しています。男性同性愛者や免疫抑制状態の方でリスクが高いとされていますが、異性愛者の男性にも発症します。
近年、日本でも肛門がんの罹患率が増加傾向にあります。
男性がHPVに感染する経路
男性のHPV感染の主な経路は以下の通りです:
- 性的接触:最も一般的な感染経路。膣性交、肛門性交、口腔性交など、あらゆる性的接触で感染の可能性があります。コンドームの使用はある程度の予防効果がありますが、完全には防げません。
- 皮膚接触:性器同士の接触や、指を介した感染もあります。
- 母子感染:まれですが、出産時に母親から新生児へ感染することがあります。
重要なのは、HPVは「目に見える症状がない状態」でも感染力があるということです。感染していることに気づかないまま、パートナーに感染させてしまうケースが多くあります。
男性がHPVワクチンを接種すべき理由
1. 自分自身の病気を予防する
前述のように、HPVは男性にも尖圭コンジローマ、中咽頭がん、陰茎がん、肛門がんなどを引き起こします。これらの病気を予防することは、自分自身の健康を守る上で重要です。
特に中咽頭がんは増加傾向にあり、男性の罹患率が高いため、予防の重要性が高まっています。HPVワクチンを接種することで、これらの病気のリスクを大幅に減らすことができます。
2. パートナーを守る
男性がHPVワクチンを接種することで、女性パートナーへのHPV感染を防ぎ、子宮頸がんなどのリスクを減らすことができます。これは「集団免疫」の考え方にも通じます。
女性だけがワクチンを接種しても、感染源となる男性が多く存在すれば、HPVの流行を抑えることは困難です。男女ともにワクチンを接種することで、社会全体でのHPV関連疾患を減らすことができます。
実際、オーストラリアでは男女ともに公費でHPVワクチン接種を行った結果、若年女性の子宮頸がん前病変が激減し、尖圭コンジローマの発症も男女ともに大幅に減少しました。
3. 将来の子どもを守る
将来、子どもを持つ予定がある場合、親がHPVに感染していないことは重要です。まれですが、出産時の母子感染や、家庭内での接触を通じた感染のリスクを減らすことができます。
4. 早期接種の重要性
HPVワクチンは、HPVに感染する前に接種することで最も高い効果を発揮します。性交渉を経験する前に接種することが理想的ですが、性交渉の経験がある方でも、まだ感染していない型に対しては予防効果があります。
また、一度感染して治癒した型に再感染するリスクを減らす効果も期待できます。
HPVワクチンの種類と効果
日本で承認されているHPVワクチンには3種類あります。
1. 2価ワクチン(サーバリックス®)
- 予防できるHPV型:16型、18型
- 主な予防効果:子宮頸がん、肛門がん、陰茎がんなど高リスク型HPVによるがん
- 男性への適応:日本では承認されていません(女性のみ)
2. 4価ワクチン(ガーダシル®)
- 予防できるHPV型:6型、11型、16型、18型
- 主な予防効果:
- 尖圭コンジローマ(6型、11型)
- 子宮頸がん、肛門がん、陰茎がん、中咽頭がんなど(16型、18型)
- 男性への適応:2020年12月に承認
- 接種対象年齢:9歳以上の男性
3. 9価ワクチン(シルガード®9)
- 予防できるHPV型:6型、11型、16型、18型、31型、33型、45型、52型、58型
- 主な予防効果:
- 4価ワクチンと同様の効果
- さらに5種類のHPV型も予防(31型、33型、45型、52型、58型)
- 子宮頸がんの約90%を予防可能
- 男性への適応:2021年2月に承認
- 接種対象年齢:9歳以上の男性
現在、男性が接種できるのは4価ワクチン(ガーダシル®) と9価ワクチン(シルガード®9) です。
どちらのワクチンを選ぶべきか?
9価ワクチン(シルガード®9)がおすすめです。
理由は以下の通りです:
- より広範囲の予防:9種類のHPV型をカバーし、4価ワクチンよりも予防範囲が広い
- がん予防効果が高い:HPV関連がんの約90%を予防可能(4価は約70%)
- 国際的な標準:多くの国で9価ワクチンが標準的に使用されている
- 費用対効果:価格は高いが、長期的な予防効果を考えると費用対効果は高い
ただし、費用面を考慮する場合は、4価ワクチンでも主要なHPV型(6、11、16、18型)を予防できるため、十分な効果が期待できます。
ワクチンの効果に関するデータ
尖圭コンジローマの予防効果
4価ワクチンの臨床試験では、16〜26歳の男性において、尖圭コンジローマの予防効果は約90%でした。つまり、ワクチン接種により、尖圭コンジローマの発症リスクを10分の1に減らすことができます。
がんの予防効果
HPVワクチンによる男性のがん予防効果は、直接的な臨床試験データは限られていますが、以下のエビデンスがあります:
- 肛門がんの前段階である高度異形成の予防効果:約75%
- 陰茎の高度異形成の予防効果:約50%
- 中咽頭がんの原因となるHPV感染の予防効果:約88%
女性における子宮頸がん予防効果のデータから推定すると、男性のHPV関連がんも同様に高い予防効果が期待できます。
集団免疫効果
オーストラリアでは、2007年から12〜13歳の女子に公費接種を開始し、2013年からは男子にも拡大しました。その結果:
- 若年女性の尖圭コンジローマが約90%減少
- 若年男性の尖圭コンジローマも約80%減少
- 子宮頸がん前病変が約50%減少
これらのデータは、HPVワクチンの高い効果を示しています。
接種対象年齢とスケジュール
推奨接種年齢
最も推奨される年齢:11〜14歳(性交渉開始前)
HPVワクチンは、HPVに感染する前に接種することで最大の効果を発揮します。統計的に、性交渉の経験がある割合は高校生で約2割、大学生で約6割とされており、中学生のうちに接種を完了することが理想的です。
接種可能年齢:9歳以上
日本では9歳以上の男性が接種可能です。年齢の上限は設定されていませんが、以下の点を考慮してください:
- 26歳まで:最も効果が期待できる年齢層。性交渉の経験があっても、すべてのHPV型に感染しているわけではないため、効果が期待できます。
- 27歳以上:効果は期待できますが、すでに複数のHPV型に感染している可能性が高くなります。個別の状況に応じて医師と相談してください。
接種スケジュール
接種スケジュールは、年齢と選択するワクチンによって異なります。
9価ワクチン(シルガード®9)の場合
15歳未満で接種開始の場合(2回接種)
- 1回目:初回
- 2回目:初回から6ヶ月後(5〜13ヶ月の間に接種)
15歳以上で接種開始の場合(3回接種)
- 1回目:初回
- 2回目:初回から2ヶ月後
- 3回目:初回から6ヶ月後
4価ワクチン(ガーダシル®)の場合
すべての年齢で3回接種
- 1回目:初回
- 2回目:初回から2ヶ月後
- 3回目:初回から6ヶ月後
接種の注意点
- 接種間隔の許容範囲
- 2回目:1回目から1〜2.5ヶ月後でも可
- 3回目:1回目から5〜12ヶ月後でも可
- 間隔が空きすぎた場合は、医師に相談してください
- 途中で中断した場合
- 再び1回目から接種し直す必要はありません
- 中断したところから残りの接種を行います
- 他のワクチンとの同時接種
- 基本的に他のワクチンとの同時接種は可能です
- ただし、医師の判断に従ってください
- 接種場所
- 上腕の筋肉内に注射します
- 皮下注射や血管内注射ではありません
副作用とリスク
主な副作用
HPVワクチンの副作用は、他の一般的なワクチンと同程度です。ほとんどの副作用は軽度で一時的なものです。
よくある副作用(接種者の10%以上)
- 注射部位の症状
- 痛み:約80%
- 腫れ:約30%
- 赤み:約25%
- これらの症状は通常2〜3日以内に自然に治まります
- 全身症状
- 頭痛:約10〜15%
- 疲労感:約10%
- 発熱:約5〜10%(通常は37.5度以下の微熱)
- これらの症状も数日以内に改善します
まれな副作用(接種者の1%未満)
- 血管迷走神経反射
- 注射に対する緊張や不安によって起こる一時的な反応
- 症状:めまい、吐き気、失神など
- 予防:接種後15〜30分は座って安静にする
- アレルギー反応
- 非常にまれ(10万人に数人程度)
- 症状:じんましん、呼吸困難、血圧低下など
- 対応:医療機関で適切な処置が可能
- その他の副作用
- 関節痛、筋肉痛
- 胃腸症状(吐き気、嘔吐、下痢)
- リンパ節の腫れ
重篤な副作用について
HPVワクチンの安全性については、世界中で大規模な調査が行われており、重篤な副作用のリスクは極めて低いことが確認されています。
日本での安全性データ
厚生労働省の調査によると、2013年3月までに約890万回のHPVワクチン接種が行われ、重篤な副作用の報告は0.02%程度でした。この頻度は他のワクチンと同等か、それ以下です。
国際的な安全性データ
世界保健機関(WHO)は、HPVワクチンの安全性を繰り返し確認しており、「極めて安全なワクチン」と評価しています。世界で3億回以上の接種が行われていますが、重篤な副作用のリスクは非常に低いことが確認されています。
副作用を軽減するために
- 体調の良い日に接種する
- 発熱や体調不良時は接種を延期する
- 十分な睡眠をとり、体調を整える
- リラックスして接種を受ける
- 緊張すると血管迷走神経反射が起こりやすい
- 深呼吸をするなどしてリラックスする
- 接種後は安静にする
- 接種後15〜30分は座って安静にする
- 当日は激しい運動を避ける
- 副作用が出た場合の対応
- 注射部位の痛みや腫れ:冷やす、痛み止めを服用
- 発熱:水分補給、必要に応じて解熱剤
- 症状が長引く場合は医師に相談
接種を避けるべき人
以下の方は接種を避けるか、医師に相談してください:
- 明らかな発熱がある方(37.5度以上)
- 重篤な急性疾患にかかっている方
- 過去にHPVワクチンでアナフィラキシーを起こした方
- ワクチンの成分に対して過敏症の既往がある方
- 血小板減少症や凝固障害のある方(筋肉注射のため)
また、以下の方は医師に相談の上、接種の可否を判断してください:
- 免疫抑制状態の方(HIV感染症、臓器移植後など)
- 慢性疾患で治療中の方
- 他のワクチン接種後に副作用があった方
日本における男性へのHPVワクチン接種の現状
公費助成の状況
女性の場合
日本では、女性に対しては2013年4月から定期接種(公費負担)が開始されました。対象は小学6年生から高校1年生相当の女子で、無料で接種できます。
ただし、2013年6月から2022年3月まで、積極的勧奨が差し控えられていました。その結果、この期間の接種率は1%未満まで低下しました。2022年4月から積極的勧奨が再開され、さらにキャッチアップ接種(接種機会を逃した1997年度〜2005年度生まれの女性を対象とした無料接種)も実施されています。
男性の場合
残念ながら、現時点(2025年)では、男性へのHPVワクチンは定期接種の対象ではなく、全額自己負担(自費診療) となります。
一部の自治体では独自に男性への助成を始めているところもありますが、全国的にはまだ少数です。今後、男性への公費助成の拡大が期待されています。
接種費用
男性のHPVワクチン接種は自費診療のため、医療機関によって費用が異なります。おおよその目安は以下の通りです。
4価ワクチン(ガーダシル®)
- 1回あたり:15,000〜20,000円程度
- 3回接種の総額:45,000〜60,000円程度
9価ワクチン(シルガード®9)
- 1回あたり:25,000〜35,000円程度
- 3回接種の総額:75,000〜105,000円程度
- 2回接種の場合:50,000〜70,000円程度
費用は医療機関によって異なるため、事前に確認することをおすすめします。また、接種費用は医療費控除の対象となる場合がありますので、領収書は保管しておきましょう。
世界の状況
男性へのHPVワクチン接種を公費で実施している国
- アメリカ、カナダ
- オーストラリア、ニュージーランド
- イギリス、ドイツ、フランス、イタリアなど多くのヨーロッパ諸国
- イスラエル
- アルゼンチン、ブラジルなど
アメリカの状況
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、11〜12歳のすべての男女にHPVワクチン接種を推奨しています。2019年のデータでは、13〜17歳の男子の接種完了率は約56%に達しています。
オーストラリアの成功例
オーストラリアは世界で初めて男子へのHPVワクチン公費接種を開始した国です(2013年)。その結果、尖圭コンジローマの発症が男女ともに激減し、子宮頸がんの前病変も大幅に減少しました。専門家は「2028年までにオーストラリアから子宮頸がんが根絶される可能性がある」と予測しています。
これらの国々の成功例から、日本でも男性への公費接種の導入が期待されています。

よくある質問
A. はい、効果があります。性交渉の経験があっても、すべてのHPV型に感染しているわけではありません。未感染の型に対しては、ワクチンは予防効果を発揮します。
例えば、HPV16型に感染していても、18型や6型、11型などには未感染の可能性が高く、これらの型による病気を予防できます。また、一度感染して自然に排除された型に再感染するリスクも減らせます。
ただし、性交渉を経験する前に接種した方が、より高い予防効果が期待できることは確かです。
A. いいえ、HPVワクチンは予防のためのもので、既存の感染を治療する効果はありません。しかし、既に一部のHPV型に感染していても、他の型の感染を予防する効果があります。
また、尖圭コンジローマや前がん病変を治療した後にワクチンを接種することで、再発のリスクを減らせる可能性があります。
Q3. 何歳まで接種できますか?
A. 日本では9歳以上の男性が接種可能で、上限年齢は設定されていません。ただし、効果を最も期待できるのは26歳までとされています。
27歳以上の方でも接種は可能ですが、すでに多くのHPV型に感染している可能性が高くなるため、効果は限定的になります。個別の状況に応じて、医師と相談して決めることをおすすめします。
Q4. パートナーが子宮頸がんワクチンを接種していれば、男性は接種不要ですか?
A. いいえ、男性自身も接種することをおすすめします。理由は以下の通りです:
- 自分自身の病気を予防する:尖圭コンジローマ、中咽頭がん、陰茎がん、肛門がんなど、男性自身がかかる病気を予防できます。
- パートナーだけでは不十分:女性パートナーがワクチンを接種していても、カバーされていないHPV型が存在します。また、9価ワクチンでも約10%のHPV型はカバーされません。
- 将来のパートナー保護:今後のパートナーを守るためにも、男性自身が接種しておくことが重要です。
Q5. コンドームを使えばHPV感染を防げますか?
A. コンドームはある程度の予防効果がありますが、完全ではありません。HPVは性器の皮膚や粘膜の接触で感染するため、コンドームでカバーされない部分(陰嚢、会陰部、外陰部など)からも感染する可能性があります。
研究によると、コンドームの一貫した使用でHPV感染リスクは約70%減少しますが、30%のリスクは残ります。最も効果的な予防法は、ワクチン接種とコンドーム使用の併用です。
Q6. 副作用が心配です。安全性は大丈夫ですか?
A. HPVワクチンの安全性は、世界中で大規模な調査により確認されています。世界で3億回以上の接種が行われており、重篤な副作用のリスクは極めて低いことが証明されています。
日本では一時期、安全性への懸念から積極的勧奨が差し控えられましたが、その後の詳細な調査により、ワクチンと重篤な副作用の因果関係は認められませんでした。世界保健機関(WHO)も繰り返し安全性を確認しています。
ほとんどの副作用は、注射部位の痛みや腫れ、軽度の発熱など一時的なもので、数日以内に改善します。
Q7. 接種後、すぐに性交渉をしても大丈夫ですか?
A. 医学的には問題ありませんが、ワクチンの効果が最大限に発揮されるまでには時間がかかります。通常、すべての接種を完了してから1〜2ヶ月後に十分な免疫が得られます。
それまでの期間は、コンドームを使用するなどの予防策を継続することをおすすめします。
Q8. 接種後、どのくらい効果が続きますか?追加接種は必要ですか?
A. HPVワクチンの予防効果は長期間持続することが確認されています。現在のところ、接種完了後10年以上経過しても高い抗体価が維持されていることが報告されています。
現時点では、追加接種(ブースター接種)の必要性は確認されていません。今後、長期的なデータが蓄積されれば、将来的に追加接種が推奨される可能性もありますが、現在のところは不要とされています。
Q9. 妊娠を希望しているのですが、パートナーの男性が接種しても問題ありませんか?
A. はい、まったく問題ありません。男性がHPVワクチンを接種しても、精子や生殖能力に影響はありません。また、接種直後に妊娠が成立しても、胎児への影響もありません。
むしろ、妊娠前に男性パートナーがワクチンを接種しておくことで、女性パートナーへのHPV感染リスクを減らし、将来的に子宮頸がんなどのリスクを低減できます。
Q10. どこで接種できますか?
A. HPVワクチンは、多くの内科、小児科、泌尿器科、皮膚科などで接種可能です。事前に電話で確認し、予約してから受診することをおすすめします。
接種前には問診があり、体調や既往歴などを確認します。不安なことがあれば、医師に相談してください。
まとめ:男性のHPVワクチン接種の重要性
HPVは女性だけでなく、男性にも深く関わるウイルスです。男性がHPVワクチンを接種することには、以下のような重要な意義があります。
自分自身を守る
- 尖圭コンジローマ、中咽頭がん、陰茎がん、肛門がんなどの予防
- 特に増加傾向にある中咽頭がんの予防効果が期待できる
- QOL(生活の質)を維持し、将来の健康リスクを減らす
パートナーや家族を守る
- 女性パートナーへの感染を防ぎ、子宮頸がんのリスクを減らす
- 将来の子どもへの感染リスクを減らす
- 社会全体でのHPV関連疾患の減少に貢献
効果的な接種のために
- 理想的な接種時期:11〜14歳(性交渉経験前)
- 接種可能年齢:9歳以上(26歳までが最も効果的)
- おすすめのワクチン:9価ワクチン(より広範囲の予防が可能)
- 安全性:世界中で3億回以上の接種実績があり、安全性が確認されている
今後の展望
日本でも、男性へのHPVワクチン公費接種の導入が期待されています。オーストラリアなどの成功例を見ても、男女ともにワクチンを接種することで、社会全体でHPV関連疾患を大幅に減らすことができます。
現在は自費診療となりますが、将来の健康への投資として、HPVワクチン接種を検討する価値は十分にあります。
最後に
HPVワクチンは、科学的根拠に基づいた効果的ながん予防法です。ご自身とパートナー、そして将来の世代の健康を守るために、HPVワクチン接種について前向きに検討してみてはいかがでしょうか。
不安や疑問がある場合は、遠慮なく医療機関にご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省「HPVワクチンに関する情報提供資材」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou/hpv/index.html - 国立感染症研究所「HPVワクチンファクトシート」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/hpv/392-encyclopedia/430-hpv-intro.html - 日本産科婦人科学会「HPVワクチンについて」
http://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=11 - 日本小児科学会「HPVワクチンに関する見解」
https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=342 - がん研究振興財団「HPVと男性のがん」
https://www.fpcr.or.jp/ - 日本性感染症学会「HPV感染症診断・治療ガイドライン」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務