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ヘマトクリット値が高いと言われたら?原因・症状・改善方法を医師が解説

健康診断の血液検査で「ヘマトクリット値が高い」と指摘されて、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。ヘマトクリットという言葉自体、日常生活ではあまり耳にしない専門用語であるため、それが何を意味するのか、高いとどのような問題があるのかがわかりにくいかもしれません。

この記事では、ヘマトクリット値が高い場合に考えられる原因や症状、放置した場合のリスク、そして日常生活でできる改善方法について、わかりやすく解説していきます。健康診断の結果が気になる方、再検査を勧められた方はぜひ参考にしてください。

目次

  1. ヘマトクリットとは何か
  2. ヘマトクリット値の基準値について
  3. ヘマトクリット値が高いとはどういう状態か
  4. ヘマトクリット値が高くなる原因
  5. ヘマトクリット値が高い場合に現れる症状
  6. 放置した場合のリスクと合併症
  7. 検査方法と受診すべき診療科
  8. 多血症の種類と診断
  9. 治療方法について
  10. 日常生活での予防と改善方法
  11. 病院を受診する目安
  12. まとめ

1. ヘマトクリットとは何か

ヘマトクリットとは、血液中に赤血球が占める割合をパーセンテージ(%)で表した数値のことです。「ヘマト」は血液、「クリット」は分離を意味しており、血液を遠心分離器にかけて測定することからこの名前がついています。

血液は大きく分けて、固形成分である「血球」と、液体成分である「血漿(けっしょう)」に分けられます。血球には赤血球、白血球、血小板が含まれますが、その中でも赤血球が最も多くを占めています。ヘマトクリット値は、この血液全体に対する赤血球の容積の割合を示しています。

簡単に言えば、ヘマトクリット値は「血液の濃さ」を表す指標といえます。この数値が高ければ血液は濃くドロドロした状態であり、低ければ血液は薄くサラサラした状態であることを意味します。

赤血球は体中に酸素を運ぶ重要な役割を担っています。赤血球に含まれるヘモグロビンというタンパク質が肺で酸素と結合し、全身の組織に酸素を届けています。そのため、赤血球の量は体の機能を維持するうえで非常に重要であり、多すぎても少なすぎても問題が生じます。

健康診断の血液検査では、赤血球数、ヘモグロビン濃度とともにヘマトクリット値も測定されており、これら3つの指標を組み合わせて貧血や多血症の診断に活用されています。

2. ヘマトクリット値の基準値について

ヘマトクリット値の基準値は、性別や年齢、検査機関によって若干異なりますが、一般的な目安は以下のとおりです。

厚生労働省のe-ヘルスネットでは、成人の基準値として以下の数値が示されています。

男性の基準値は40〜50%程度、女性の基準値は34〜45%程度とされています。男性の方が女性よりも高い傾向にありますが、これは女性は月経によって定期的に血液が失われるため、相対的に赤血球の割合が低くなりやすいことが理由のひとつです。

また、一般的な医療機関では以下のような基準値が用いられることが多いです。

男性の場合、正常範囲は38.5%〜48.9%で、52.9%以上になると高値と判断されます。女性の場合、正常範囲は35.5%〜43.9%で、47.0%以上になると高値と判断されます。

一方、世界保健機関(WHO)による多血症の診断基準では、より厳格な数値が設定されています。男性ではヘマトクリット値が49%を超える場合、女性では48%を超える場合に多血症が疑われるとしています。

なお、ヘマトクリット値は測定するタイミングによっても変動します。朝、昼、夜で数値が異なることがありますし、採血前の飲水制限の影響を受けることもあります。健康診断では採血前に食事や水分を控えるよう指示されることが多いため、軽い脱水状態となり、ヘマトクリット値が実際よりもやや高めに出ることがあります。

3. ヘマトクリット値が高いとはどういう状態か

ヘマトクリット値が基準値よりも高いということは、血液中の赤血球の割合が多くなっている状態を意味します。これは一般的に「血液が濃い」「血液がドロドロしている」と表現されることがあります。この状態は医学的には「多血症」または「赤血球増加症」と呼ばれます。

血液が濃くなると、血液の粘稠度(粘り気)が高まります。粘り気の高い血液は血管の中をスムーズに流れにくくなるため、全身の血流が悪くなります。特に細い血管では血液が通過しにくくなり、さまざまな臓器への酸素や栄養の供給が低下する可能性があります。

また、血液がドロドロしていると、血管の中で血液が固まりやすくなります。これが血栓(血の塊)の形成につながり、脳梗塞や心筋梗塞といった重篤な疾患の原因となることがあります。

ただし、ヘマトクリット値が高いからといって、必ずしも深刻な病気があるとは限りません。一時的な脱水や生活習慣の影響で数値が上昇していることも多く、原因によっては生活習慣の改善だけで数値が正常化することもあります。

重要なのは、ヘマトクリット値が高いと指摘された場合に、その原因が何であるかを正しく把握することです。原因によって対処法が大きく異なるため、自己判断せずに医療機関で適切な検査を受けることが大切です。

4. ヘマトクリット値が高くなる原因

ヘマトクリット値が高くなる原因はさまざまであり、大きく分けて「相対的多血症」と「絶対的多血症」の2つに分類されます。

相対的多血症

相対的多血症とは、実際に赤血球が増加しているわけではなく、血漿(血液の液体成分)が減少することで見かけ上ヘマトクリット値が高くなっている状態です。血液中の水分が少なくなることで、相対的に赤血球の濃度が高く見えるのです。

相対的多血症の主な原因としては、脱水が最も多く挙げられます。下痢や嘔吐、発汗、発熱などによって体内の水分が失われると、血液中の水分も減少してヘマトクリット値が上昇します。特に夏場の熱中症や、普段から水分摂取が少ない方では、この傾向が顕著に現れます。

また、秋から冬にかけての乾燥した季節は、のどの渇きを自覚しにくいため、知らないうちに脱水状態になっていることがあります。マスクを着用していると、さらに渇きを感じにくくなるため注意が必要です。

ストレス多血症と呼ばれる状態も相対的多血症の一種です。慢性的なストレスや精神的緊張、過度の飲酒、喫煙、肥満などの生活習慣が影響して、血漿量が減少しヘマトクリット値が高くなります。働き盛りの中年男性に多くみられ、高血圧、高脂血症、高尿酸血症を伴うことが多いのが特徴です。

利尿作用のある飲み物の過剰摂取も脱水を招く原因となります。コーヒーや緑茶などカフェインを多く含む飲み物は利尿作用があるため、水分補給のつもりで飲んでいても、かえって脱水を促進してしまうことがあります。

絶対的多血症(二次性多血症)

絶対的多血症とは、実際に血液中の赤血球が増加している状態です。その中でも、何らかの基礎疾患や環境要因が原因で赤血球が増加している場合を「二次性多血症」といいます。

二次性多血症の原因として最も多いのが喫煙です。タバコを吸うと、煙に含まれる一酸化炭素がヘモグロビンと結合してしまいます。一酸化炭素とヘモグロビンの結合力は酸素の約200倍も強いため、本来酸素を運ぶべきヘモグロビンが一酸化炭素で占領されてしまい、体内が酸素不足に陥ります。すると体はより多くの酸素を運ぼうとして赤血球の産生を増やし、その結果としてヘマトクリット値が上昇するのです。

睡眠時無呼吸症候群も二次性多血症の重要な原因のひとつです。睡眠中に何度も呼吸が止まったり浅くなったりすることで、体は慢性的な低酸素状態に置かれます。この酸素不足を補おうとして赤血球が増加し、多血症を引き起こします。「肥満気味」「いびきが大きい」「日中の眠気がある」「家族から呼吸が止まっていると指摘されたことがある」という方は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。

その他の二次性多血症の原因としては、肺疾患(COPD、肺気腫など)、心疾患(心不全、先天性心疾患など)、高地での生活、腎疾患、エリスロポエチン産生腫瘍(腎細胞がん、肝細胞がんなど)などが挙げられます。これらの疾患では、何らかの理由で体内の酸素が不足したり、赤血球を作るホルモンであるエリスロポエチンが過剰に分泌されたりすることで、赤血球が増加します。

絶対的多血症(真性多血症)

真性多血症は、骨髄で赤血球を作る造血幹細胞に遺伝子変異が生じることで、赤血球が異常に増殖する病気です。骨髄増殖性腫瘍のひとつに分類されており、10万人あたり年間2人程度が発症する比較的まれな疾患です。60歳前後に発症のピークがあるといわれています。

真性多血症の95%以上の症例で、JAK2という遺伝子の変異が認められます。この変異によって細胞増殖のシグナルが常に活性化された状態となり、エリスロポエチンの刺激がなくても赤血球がどんどん作られてしまいます。赤血球だけでなく、白血球や血小板も増加することがあります。

真性多血症は適切な治療を受ければ10年以上の生存が期待できる疾患ですが、放置すると血栓症のリスクが高まり、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす危険があります。また、一部の患者さんでは長期経過の中で骨髄線維症や急性白血病に移行することがあるため、定期的な経過観察が必要です。

5. ヘマトクリット値が高い場合に現れる症状

ヘマトクリット値が高い状態、すなわち多血症では、血液の粘稠度が増すことでさまざまな症状が現れることがあります。ただし、軽度の多血症では無症状のことも多く、健康診断で偶然発見されるケースも少なくありません。

多血症で現れやすい症状としては、まず頭痛やめまい、ふらつきが挙げられます。血液がドロドロしていると脳への血流が悪くなり、これらの症状が起こりやすくなります。耳鳴りや視力障害、思考力の低下を感じることもあります。

顔面の紅潮やほてりも特徴的な症状です。赤血球が増えることで皮膚が赤みを帯び、特に顔や手足が赤くなることがあります。これは「皮膚の紅潮」と呼ばれ、真性多血症の典型的な症状のひとつです。

疲労感や脱力感、息切れを感じることもあります。血液の流れが悪くなることで、全身の組織に十分な酸素が行き渡らなくなるためです。特に運動時に息切れを感じやすくなります。

真性多血症に特徴的な症状として、入浴後のかゆみがあります。温かいお湯に浸かることで誘発されるかゆみで、「aquagenic pruritus(アクアジェニック プルリタス)」と呼ばれます。なぜこの症状が起こるのかは完全には解明されていませんが、ヒスタミンなどの物質が関与していると考えられています。

また、高血圧も多血症に伴いやすい症状です。血液がドロドロしていると心臓はより強い力で血液を送り出す必要があり、血圧が上昇しやすくなります。動悸を感じることもあります。

痛風(高尿酸血症)を発症することもあります。赤血球の増加に伴って尿酸値が上昇しやすくなり、足の親指の付け根などに激しい痛みを伴う痛風発作が起こることがあります。

真性多血症では、脾臓が腫れる(脾腫)こともあり、これによって腹部膨満感や食欲低下が生じることがあります。また、発熱、寝汗、体重減少といった全身症状がみられることもあります。

6. 放置した場合のリスクと合併症

ヘマトクリット値が高い状態を放置すると、さまざまな深刻な合併症を引き起こす可能性があります。最も注意すべきは血栓症です。

血液がドロドロした状態が続くと、血管の中で血液が固まって血栓(血の塊)ができやすくなります。この血栓が脳の血管を詰まらせると脳梗塞、心臓の血管を詰まらせると心筋梗塞を引き起こします。いずれも命に関わる重篤な疾患であり、後遺症が残ることも少なくありません。

脳梗塞では、手足の麻痺やしびれ、言葉が出にくくなる、意識障害などの症状が現れます。早期に治療を開始しないと、脳の広い範囲がダメージを受け、回復が困難になることがあります。

心筋梗塞では、胸を締め付けられるような激しい痛み、息苦しさ、冷や汗などの症状が現れます。心臓の筋肉に血液が行き渡らなくなるため、心臓のポンプ機能が低下し、最悪の場合は心停止に至ることもあります。

下肢の深部静脈血栓症も起こりやすくなります。脚の太い静脈に血栓ができる病気で、脚のむくみや痛み、腫れなどの症状が現れます。この血栓が血流に乗って肺に飛ぶと肺塞栓症(エコノミークラス症候群)を引き起こし、突然の呼吸困難や胸痛、最悪の場合は突然死に至ることもあります。

高血圧が持続すると、動脈硬化が進行し、血管が脆くなります。これによって脳出血のリスクも高まります。脳出血も脳梗塞と同様に、麻痺や言語障害などの後遺症を残すことがあります。

また、睡眠時無呼吸症候群が原因で多血症になっている場合、睡眠時無呼吸症候群自体が放置されることで、さらにリスクが高まります。睡眠時無呼吸症候群は高血圧、糖尿病、不整脈、心不全などさまざまな合併症を引き起こすほか、日中の眠気による交通事故や作業中の事故の原因にもなります。

真性多血症の場合、長期的には骨髄線維症への移行(10〜15%程度)や急性白血病への移行(1〜2.5%程度)のリスクがあります。これらの疾患に移行すると治療が難しくなるため、定期的な経過観察が重要です。

7. 検査方法と受診すべき診療科

ヘマトクリット値が高いと指摘された場合、まずは再検査を受けることが大切です。一時的な脱水などが原因であれば、再検査で正常値に戻っていることもあります。

再検査の際には、検査前に十分な水分を摂取しておくことが重要です。健康診断では朝食を抜いて採血することが多いですが、水分まで控えてしまうと脱水状態となり、ヘマトクリット値が高めに出やすくなります。検査機関の指示に従いつつ、水分はしっかり摂るようにしましょう。

受診すべき診療科は、まず内科です。内科で血液検査を行い、ヘマトクリット値だけでなく、赤血球数、ヘモグロビン濃度、白血球数、血小板数など血液全般の状態を調べます。また、脱水の有無を確認するための検査や、他の臓器に異常がないかを調べる検査も行われます。

多血症の原因を特定するためには、エリスロポエチン(赤血球の産生を促すホルモン)の血中濃度を測定することが重要です。二次性多血症ではエリスロポエチン濃度が高め、真性多血症では低め〜正常範囲となることが多く、これによって両者を区別することができます。

真性多血症が疑われる場合は、JAK2遺伝子変異の検査が行われます。この検査は血液検査で行うことができ、95%以上の真性多血症患者さんでJAK2変異が検出されます。

確定診断のためには、骨髄検査(骨髄穿刺・骨髄生検)が必要になることもあります。腰の骨に針を刺して骨髄液を採取し、顕微鏡で観察することで、骨髄での血液細胞の産生状態を詳しく調べます。

原因検索のためには、動脈血中の酸素飽和度を測定するパルスオキシメーター検査や、肺や心臓の状態を調べるための胸部CT検査、腹部CT検査、心エコー検査などが行われることもあります。睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、睡眠ポリグラフ検査(簡易検査または精密検査)が行われます。

詳しい検査や専門的な治療が必要な場合は、血液内科への紹介となることがあります。真性多血症などの血液疾患は血液内科の専門領域であり、適切な診断と治療を受けることができます。

8. 多血症の種類と診断

多血症は、その原因によっていくつかの種類に分類されます。正確な診断を受けることで、適切な治療方針を立てることができます。

相対的多血症(見かけ上の多血症)

相対的多血症は、実際には赤血球の総量は増えていないものの、血漿量の減少によって見かけ上ヘマトクリット値が高くなっている状態です。脱水やストレス、利尿剤の使用などが原因で起こります。

診断のポイントは、血液検査で赤血球数やヘマトクリット値が高いものの、総血液量は変わっていないことです。水分補給をして再検査を行うと、数値が正常化することが多いです。

ストレス多血症(ガイスベック症候群)は相対的多血症の一種で、慢性的なストレス、高血圧、肥満、喫煙、過度の飲酒などを背景に発症します。生活習慣の改善によって軽快することが多いですが、放置すると血栓症のリスクがあるため注意が必要です。

二次性多血症

二次性多血症は、何らかの基礎疾患や環境要因が原因で赤血球が増加している状態です。体内の酸素不足を補おうとして赤血球の産生が亢進することが主な原因です。

診断のポイントは、エリスロポエチン濃度が高いことです。エリスロポエチンは主に腎臓で産生されるホルモンで、体内の酸素濃度が低下すると分泌が増え、骨髄での赤血球産生を促進します。二次性多血症では、何らかの原因で慢性的な低酸素状態が続いているため、エリスロポエチンが増加しています。

原因疾患の特定が重要であり、喫煙歴、睡眠時の無呼吸の有無、肺疾患や心疾患の既往などを詳しく問診します。必要に応じて、肺機能検査、心エコー検査、腹部CT検査(腎臓や肝臓の腫瘍の有無を確認)などが行われます。

真性多血症

真性多血症は、骨髄の造血幹細胞に遺伝子変異が生じることで、エリスロポエチンの刺激がなくても赤血球が過剰に産生される病気です。慢性骨髄増殖性腫瘍に分類されます。

2016年のWHO分類による真性多血症の診断基準(大基準)は以下のとおりです。

  1. ヘモグロビン値が男性で16.5g/dL超、女性で16.0g/dL超、またはヘマトクリット値が男性で49%超、女性で48%超
  2. 骨髄生検で三系統(赤血球系、白血球系、血小板系)の血球増加を伴う過形成髄
  3. JAK2 V617F変異またはJAK2エクソン12変異が存在すること

小基準として、血清エリスロポエチン値が正常範囲以下であることが挙げられます。

大基準を3つすべて満たすか、または大基準の最初の2つと小基準を満たした場合に、真性多血症と診断されます。

9. 治療方法について

多血症の治療は、その原因によって大きく異なります。相対的多血症と二次性多血症は原因の除去や基礎疾患の治療が中心となりますが、真性多血症では血栓症の予防を目的とした積極的な治療が必要となります。

相対的多血症の治療

脱水が原因の相対的多血症では、適切な水分補給によって改善します。一日1〜1.5リットルを目安に、こまめに水分を摂取することが大切です。カフェインやアルコールは利尿作用があるため、これらの飲み物だけでなく、水やお茶なども併せて摂るようにしましょう。

ストレス多血症の場合は、生活習慣の改善が基本となります。禁煙、節酒、適度な運動、ストレス管理、減量などを心がけましょう。また、高血圧や脂質異常症、糖尿病などの合併症がある場合は、これらの治療も並行して行います。

二次性多血症の治療

二次性多血症では、原因となっている基礎疾患の治療が最優先です。

喫煙が原因の場合は禁煙が必要です。禁煙によって一酸化炭素ヘモグロビンが減少し、体内の酸素供給が改善されることで、赤血球の過剰産生が抑えられます。

睡眠時無呼吸症候群が原因の場合は、CPAP(持続陽圧呼吸療法)と呼ばれる機器を使用した治療が効果的です。CPAPは睡眠中に鼻や口からゆるやかに空気を送り込む装置で、気道の閉塞を防いで無呼吸を改善します。また、肥満がある場合は減量も重要です。

肺疾患や心疾患が原因の場合は、それぞれの疾患に対する治療を行います。酸素療法が必要になることもあります。

基礎疾患の治療が難しい場合や、治療を行ってもヘマトクリット値が下がらない場合は、瀉血療法(血液を抜く治療)が検討されることがあります。

真性多血症の治療

真性多血症の治療目標は、血栓症の予防と症状の改善です。ヘマトクリット値を45%未満にコントロールすることが推奨されています。

治療の中心となるのは瀉血療法です。瀉血とは、献血と同じ方法で静脈から血液を抜き取り、赤血球の数を減らす治療法です。1回に200〜500mLの血液を抜き取り、ヘマトクリット値が目標値に達するまで、週に1〜2回程度のペースで行います。高齢者や心血管疾患を持つ患者さんでは、1回の瀉血量を100〜200mLに減らして頻回に行うこともあります。

瀉血は赤血球に含まれる鉄分も除去するため、体内の鉄を欠乏状態にして赤血球の産生を抑える効果もあります。

血栓症の予防のために、低用量アスピリン(75〜100mg/日)の内服も行われます。アスピリンは血小板の働きを抑え、血栓ができにくくする作用があります。ただし、出血しやすくなる副作用があるため、消化管出血などのリスクがある場合は使用を控えることがあります。

60歳以上の方や血栓症の既往がある方など、血栓症のリスクが高い患者さんでは、細胞減少療法(薬物療法)も併用されます。第一選択薬はヒドロキシウレア(ハイドレア)で、骨髄での血球産生を抑制します。ヒドロキシウレアは比較的副作用が少ない薬剤ですが、長期使用による二次発がんのリスクが完全には否定されていないため、若年者では他の治療法が検討されることがあります。

ヒドロキシウレアが効果不十分であったり副作用で使用できない場合は、JAK2阻害薬であるルキソリチニブ(ジャカビ)が使用されます。JAK2阻害薬は真性多血症の原因であるJAK2の異常な活性化を抑制し、血球数の正常化だけでなく、脾腫の縮小や全身症状の改善にも効果があります。

10. 日常生活での予防と改善方法

ヘマトクリット値が高いと指摘された場合、日常生活でできる予防・改善方法がいくつかあります。特に相対的多血症やストレス多血症の場合は、生活習慣の改善だけで数値が正常化することも少なくありません。

十分な水分摂取を心がける

脱水はヘマトクリット値を上昇させる最も一般的な原因です。一日を通してこまめに水分を摂取することを心がけましょう。目安としては、食事以外に1日1〜1.5リットルの水分摂取が推奨されています。

水分は一度に大量に摂るのではなく、少量をこまめに摂取するのが効果的です。起床時、食事の前後、入浴の前後、就寝前など、タイミングを決めて飲む習慣をつけましょう。

コーヒーや緑茶などカフェインを含む飲み物は利尿作用があるため、これだけで水分補給をするのは避けましょう。カフェインを含まない水や麦茶なども併せて摂取することが大切です。アルコールも利尿作用が強いため、飲酒後は必ず水で水分補給をしましょう。

夜間のトイレが気になって水分を控える方もいますが、朝起きた時に脱水状態になっていることがあります。夕方までは積極的に水分を摂り、就寝前の飲み過ぎは控える程度にするとよいでしょう。

禁煙する

喫煙は多血症の最も多い原因のひとつであり、禁煙は効果的な改善策です。禁煙すると、タバコの煙に含まれる一酸化炭素がヘモグロビンと結合することがなくなり、体内の酸素供給が改善されます。その結果、赤血球の過剰産生が抑えられ、ヘマトクリット値が低下することが期待できます。

禁煙は多血症の改善だけでなく、肺がん、心筋梗塞、脳卒中、COPDなど多くの疾患のリスクを低下させます。自力での禁煙が難しい場合は、禁煙外来を受診して専門的なサポートを受けることをおすすめします。

適度な運動を行う

ウォーキングなどの有酸素運動は、全身の血流を促進し、血液の循環を改善する効果があります。血流がよくなることで血液の粘稠度が下がり、血栓ができにくくなります。

運動は週に3〜5回、1回30分程度を目安に行いましょう。激しい運動は脱水を招くことがあるため、運動中はこまめに水分補給を行うことが大切です。

運動習慣は肥満の解消にもつながります。肥満は睡眠時無呼吸症候群やストレス多血症のリスク要因となるため、適正体重を維持することが多血症の予防・改善に役立ちます。

食事に気をつける

ヘマトクリット値が高い場合、食事面でも注意が必要です。

鉄分を多く含む食材(ほうれん草、レバー、牛肉、しじみなど)は、赤血球の産生を促進する可能性があるため、過剰摂取は避けましょう。鉄分のサプリメントを服用している場合は、医師に相談のうえで中止を検討してください。

揚げ物や脂っこい肉料理など脂質の多い食事は、血液をドロドロにしやすいため控えめにしましょう。プリン体を多く含む食品(ビールの酵母、レバー、干物など)やアルコールも血液の粘稠度を高める可能性があるため、摂取量に注意が必要です。

バランスの良い食事を心がけ、野菜や果物、魚などを積極的に摂取しましょう。これらの食材に含まれる栄養素は、血管の健康維持に役立ちます。

ストレス管理を心がける

慢性的なストレスはストレス多血症の原因となります。自分なりのストレス解消法を見つけ、定期的にリフレッシュすることが大切です。

十分な睡眠を確保することも重要です。睡眠不足はストレスの原因となるだけでなく、体の回復機能を低下させます。毎日同じ時間に就寝・起床する習慣をつけ、質の良い睡眠を心がけましょう。

いびきがひどい、睡眠中に呼吸が止まっていると指摘された、日中の眠気がひどいといった症状がある場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。早めに医療機関を受診して検査を受けることをおすすめします。

入浴時の注意点

入浴は脱水の原因になりやすいため、入浴前に水分を摂取してから入るようにしましょう。長時間の入浴や熱すぎるお湯への入浴は避け、適度な温度と時間を心がけてください。

真性多血症の方で入浴後のかゆみがある場合は、お湯の温度をぬるめにし、体を洗うときは皮膚を強くこすらず優しく洗うようにすると症状が軽減することがあります。

11. 病院を受診する目安

ヘマトクリット値が高いと指摘された場合、どのタイミングで病院を受診すべきでしょうか。以下に目安をまとめます。

健康診断で「要受診」「要精密検査」「要再検査」と判定された場合は、必ず医療機関を受診しましょう。特に初めてヘマトクリット値の異常を指摘された場合は、原因を特定するための検査が必要です。

以下のような症状がある場合は、早めに受診することをおすすめします。

頭痛やめまいが続く場合、顔や手足が赤くなっている場合、疲労感や息切れがある場合、入浴後にかゆみがある場合、高血圧を指摘されている場合、これらの症状は多血症に伴って現れることがあり、適切な治療が必要なサインである可能性があります。

以下のような症状が現れた場合は、すぐに救急外来を受診するか、救急車を呼んでください。

突然の激しい頭痛、手足のしびれや麻痺、ろれつが回らない、意識がもうろうとする、これらは脳梗塞や脳出血の症状である可能性があります。

胸を締め付けられるような痛み、呼吸困難、冷や汗、これらは心筋梗塞や肺塞栓症の症状である可能性があります。

多血症は放置すると血栓症のリスクが高まるため、早期発見・早期治療が重要です。健康診断で異常を指摘された場合は、自己判断で様子を見るのではなく、まずは医療機関で相談するようにしましょう。

12. まとめ

ヘマトクリット値が高いということは、血液中の赤血球の割合が多く、血液が濃い状態であることを意味します。この状態は「多血症」と呼ばれ、原因によって相対的多血症、二次性多血症、真性多血症に分類されます。

相対的多血症は脱水やストレスによって起こる見かけ上の多血であり、水分補給や生活習慣の改善で改善することが多いです。二次性多血症は喫煙や睡眠時無呼吸症候群などが原因で起こり、原因疾患の治療によって改善が期待できます。真性多血症は骨髄の遺伝子異常によって起こる血液疾患であり、瀉血療法や薬物療法による治療が必要です。

多血症を放置すると、血液の粘稠度が高まり、脳梗塞や心筋梗塞といった重篤な血栓症を引き起こすリスクがあります。健康診断でヘマトクリット値の異常を指摘された場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、適切な検査を受けることが大切です。

日常生活では、十分な水分摂取、禁煙、適度な運動、バランスの良い食事、ストレス管理を心がけることで、多血症の予防・改善につなげることができます。気になる症状がある場合や、健康診断で再検査を勧められた場合は、お早めにご相談ください。


参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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