植毛はおすすめ?薄毛治療の選択肢と知っておきたい基礎知識

はじめに

薄毛やAGA(男性型脱毛症)に悩む方にとって、植毛は根本的な解決策として注目されている治療法です。しかし、「植毛って本当に効果があるの?」「どんな方法があるの?」「費用はどのくらいかかる?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

本記事では、植毛の基礎知識から手術方法、費用、術後のケアまで、植毛を検討されている方が知っておくべき情報を詳しく解説します。

植毛とは何か

植毛とは、薄毛が気になる部分に毛髪を移植する外科的治療法です。主に「自毛植毛」と「人工毛植毛」の2種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。

自毛植毛の仕組み

自毛植毛は、後頭部や側頭部などのAGAの影響を受けにくい部位から健康な毛髪を採取し、薄毛が進行している部位に移植する方法です。移植される単位は「グラフト(株)」と呼ばれ、1つのグラフトには通常1〜3本(平均2本)の毛髪が含まれています。

AGAによる薄毛は、男性ホルモンの影響を受けやすい前頭部や頭頂部に集中して発生します。一方、後頭部や側頭部の毛髪は男性ホルモンの影響を受けにくい性質を持っているため、これらの部位から採取した毛髪を移植することで、移植後も半永久的に髪が生え続けることが期待できます。

人工毛植毛との違い

人工毛植毛は、ナイロンやポリエステルなどの合成繊維で作られた人工毛を頭皮に植え込む方法です。即効性があり、ドナー部位の制限がないというメリットがある一方で、日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」では推奨度D(行うべきではない)とされています。

人工毛植毛が推奨されない理由として、炎症や感染症のリスク、拒絶反応の可能性、低い定着率などが挙げられます。実際、海外では人工毛植毛を禁止している国もあります。そのため、現在の主流は自毛植毛となっており、本記事でも主に自毛植毛について解説していきます。

日本皮膚科学会のガイドラインにおける植毛の評価

日本皮膚科学会が2017年に発表した「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」は、AGA治療の標準的な指針として広く認識されています。このガイドラインでは、科学的根拠に基づいて各治療法の推奨度を5段階(A、B、C1、C2、D)で評価しています。

自毛植毛は推奨度B(行うよう勧める)と評価されており、フィナステリドやデュタステリドの内服、ミノキシジル外用で十分な効果が得られない場合に推奨される治療法とされています。ガイドラインでは、自毛植毛について「適切に行われれば高い効果が期待でき、移植された毛髪は半永久的に生え続ける」と記載されています。

この評価は、多くの臨床試験や研究結果に基づいたものであり、自毛植毛の有効性と安全性が科学的に裏付けられていることを示しています。

自毛植毛の手術方法

自毛植毛には主に「FUT法」と「FUE法」という2つの手術方法があります。それぞれに特徴があり、患者様の状態や希望に応じて適切な方法が選択されます。

FUT法(Follicular Unit Transplantation)

FUT法は、後頭部から帯状に頭皮を切り取り、その中から毛包を1つずつ採取して移植する方法です。別名「ストリップ法」とも呼ばれます。

FUT法のメリット

• 一度に多くのグラフトを採取できる(2,000〜3,000株程度)
• 顕微鏡下で丁寧に株分けするため、毛根を傷つけにくく高い生着率が期待できる
• FUE法と比較して費用が比較的リーズナブル
• 手術時間が短い
• 生涯で採取できる総グラフト数が多い(5,000〜7,000株程度)

FUT法のデメリット

• 後頭部に線状の傷跡が残る
• 術後の痛みがFUE法より強い傾向がある
• 回復期間がやや長い(1〜2週間程度)
• 短髪にした際に傷跡が目立つ可能性がある

FUT法は、広範囲の薄毛改善を希望する方や、複数回の植毛を検討している方、長髪のヘアスタイルを維持する予定の方に適しています。

FUE法(Follicular Unit Extraction)

FUE法は、専用のパンチ器具を使用して毛包を1本ずつ直接くり抜いて採取する方法です。2001年にバーンスタイン医師とラスマン医師によって発表され、現在広く普及している手術方法です。

FUE法のメリット

• メスを使用しないため、線状の傷跡が残らない
• 術後の痛みが少ない
• 回復が早い(翌日から洗髪可能)
• 短髪でも傷跡が目立ちにくい(約1mm程度の点状の傷)
• 頭皮が硬い方でも採取可能

FUE法のデメリット

• FUT法と比較して費用が高い傾向がある
• 手術時間が長くなる(特に大量移植の場合)
• 一度に採取できるグラフト数に限界がある(2,000〜2,500株程度)
• 広範囲から採取するため、バリカンで刈り上げる範囲が広い

FUE法は、傷跡を目立たせたくない方、短髪を希望する方、比較的狭い範囲の植毛を希望する方に適しています。

最新の植毛技術

近年では、FUE法をさらに進化させた技術も登場しています。例えば、刈り上げを必要としない「ノンシェーブン植毛」や、より精密な採取を可能にする電動FUEなど、患者様の負担を軽減し、より自然な仕上がりを実現する技術が開発されています。

植毛がおすすめの方

植毛は以下のような方に特におすすめの治療法です。

薬物療法で効果が得られなかった方

フィナステリドやミノキシジルなどのAGA治療薬を一定期間使用しても十分な効果が得られなかった方にとって、植毛は有効な選択肢となります。日本皮膚科学会のガイドラインでも、内服薬や外用薬で効果が不十分な場合に植毛が推奨されています。

生え際やM字部分の後退が気になる方

生え際やM字部分の薄毛は、薬物療法だけでは改善が難しい場合があります。植毛であれば、ピンポイントで毛髪を増やすことができ、自然なヘアラインを作り出すことが可能です。

頭頂部の薄毛が進行している方

つむじ周辺や頭頂部の薄毛が進行している方も、植毛によって効果的に改善できます。広範囲の薄毛にはFUT法が適している場合が多いです。

長期的な効果を求める方

植毛は一度定着すれば半永久的に髪が生え続けるため、継続的な治療が不要です。長期的なコストパフォーマンスを重視する方には特におすすめです。

自然な仕上がりを希望する方

自分の髪を使用するため、移植後の髪は自然な質感や色味を持ち、周囲の髪となじみやすいです。かつらやウィッグとは異なり、通常のヘアスタイリングやカラーリングも可能です。

植毛のメリット

半永久的な効果

植毛の最大のメリットは、一度定着した髪が半永久的に生え続けることです。移植された毛髪は、元々のドナー部位の性質を保持しているため、AGAの影響を受けにくく、長期にわたって髪を維持できます。

メンテナンスが不要

薬物療法では継続的な服用が必要であり、治療をやめると再び薄毛が進行します。一方、植毛は基本的に一度の手術で完了し、その後の特別なメンテナンスは必要ありません。

自然な仕上がり

自分の髪を使用するため、移植後の髪は色味や質感が周囲の髪と完全に一致します。現代の植毛技術では、毛髪の生える角度や方向まで考慮して移植するため、極めて自然な仕上がりが期待できます。

拒絶反応のリスクがない

自分の細胞を使用するため、拒絶反応やアレルギーのリスクがほとんどありません。人工毛植毛で懸念される炎症や感染症のリスクも大幅に低減されます。

長期的なコストパフォーマンス

初期費用は高額に感じられるかもしれませんが、薬物療法やウィッグなどのランニングコストと比較すると、10年、20年というスパンで考えた場合、植毛の方が経済的である場合が多いです。

植毛のデメリットと注意点

初期費用が高額

植毛は外科手術であり、高度な技術と設備を必要とするため、初期費用が高額になります。一般的に50万円〜150万円程度、広範囲の場合は200万円以上かかることもあります。

外科手術に伴うリスク

植毛は外科手術であるため、以下のようなリスクが伴います。

• 術後の痛みや腫れ
• 感染症のリスク(適切なケアで大幅に低減可能)
• 一時的な出血
• 傷跡の残存(特にFUT法)

ダウンタイムが必要

手術後は一定期間のダウンタイムが必要です。個人差はありますが、一般的に以下のような制限があります。

• 術後2週間程度は激しい運動を控える
• 1週間程度は頭皮への刺激を避ける
• かさぶたが形成され、2週間程度で自然に取れる

生着しない可能性

移植した毛髪のすべてが生着するわけではなく、一般的に90〜95%程度の生着率とされています。技術の高いクリニックで適切な術後ケアを行うことで、生着率を高めることができます。

ショックロスの可能性

手術後、移植部位周辺の既存の毛髪が一時的に抜け落ちる「ショックロス」という現象が起こることがあります。これは一時的なものであり、通常4〜6ヶ月程度で元に戻りますが、精神的なストレスとなる場合があります。

ドナー部位の制限

自毛植毛では、採取できる毛髪の量に限界があります。後頭部や側頭部のドナー部位が十分でない場合、希望する範囲をカバーできない可能性があります。

植毛の費用について

植毛の費用は、クリニックや手術方法、移植するグラフト数によって大きく異なります。

費用の計算方法

一般的に、植毛の費用は以下の式で計算されます。

基本治療費 + (1グラフトあたりの費用 × グラフト数) = 総費用

基本治療費は20〜30万円程度、1グラフトあたりの費用は660〜2,200円程度が相場です。

部位別の費用相場

生え際・M字部分(初期)

• 必要グラフト数:400〜600株
• 費用相場:40〜60万円

生え際・M字部分(進行)

• 必要グラフト数:800〜1,000株
• 費用相場:80〜120万円

頭頂部・つむじ

• 必要グラフト数:500〜1,000株
• 費用相場:60〜100万円

前頭部〜頭頂部

• 必要グラフト数:1,000株以上
• 費用相場:120万円以上

広範囲

• 必要グラフト数:2,000〜3,000株
• 費用相場:200〜350万円

費用を抑える方法

早期治療の開始 薄毛の範囲が狭いうちに治療を始めることで、必要なグラフト数が少なく済み、費用を抑えることができます。

モニター制度の活用 多くのクリニックでは、症例写真や体験談の掲載を条件に、20〜50%程度の割引が受けられるモニター制度を設けています。

メディカルローンの利用 医療ローンを利用することで、初期の経済的負担を分散させることができます。多くのクリニックで分割払いに対応しています。

他の治療法との費用比較

10年間のトータルコストで比較すると、以下のようになります。

• 自毛植毛:100〜150万円(1回)
• 内服薬:120〜180万円(月1〜1.5万円×120ヶ月)
• ウィッグ:200〜300万円(メンテナンス含む)

長期的に見ると、植毛は決して高額とは言えないことがわかります。

術後のケアとダウンタイム

植毛手術後の適切なケアは、移植した毛髪の定着率を高めるために非常に重要です。

ダウンタイムの期間

ダウンタイムとは、手術後から通常の生活に戻れるまでの回復期間を指します。

FUE法の場合

• 術後1〜2日程度で日常生活が可能
• 翌日から洗髪可能
• 1週間程度で仕事復帰可能(職種による)

FUT法の場合

• 術後1〜2週間程度
• 痛みがやや強く、回復に時間がかかる
• 2週間程度で通常の生活に戻れる

ダウンタイム中の症状

腫れやむくみ 術後2〜3日目をピークに、額や目の周りに腫れやむくみが現れることがあります。これは麻酔液が重力によって下に降りてくるためで、通常1週間程度で自然に治まります。

かさぶた 移植部位には小さなかさぶたが形成されます。これは正常な治癒過程であり、1〜2週間程度で自然に剥がれ落ちます。無理に剥がすと生着率が低下するため、自然に取れるのを待つことが重要です。

痛み 術後2〜3日目が痛みのピークで、その後徐々に軽減します。処方された鎮痛薬で十分にコントロール可能です。

かゆみ 傷の治癒過程で頭皮にかゆみが生じることがあります。かいてしまうと移植した毛根に悪影響を及ぼすため、我慢することが大切です。

術後の過ごし方

当日

• 洗髪は控える
• 患部に触れない
• 激しい運動は避ける
• 飲酒・喫煙は控える

翌日から1週間

• 優しく洗髪を開始(低刺激シャンプーを使用)
• シャワーは直接患部に当てない
• かさぶたを無理に取らない
• 激しい運動は控える(軽いウォーキングは可)
• 帽子をかぶる際は締め付けない

1週間から2週間

• 整髪料の使用が可能になる
• 軽い運動が可能(ジョギングなど)
• かさぶたが徐々に取れ始める

2週間以降

• ほぼ通常の生活が可能
• サッカーなど接触スポーツは1ヶ月後から
• ヘディングなど頭部への直接的な刺激は1ヶ月以上控える

1〜3ヶ月

• 移植した髪が一時的に抜け落ちる(一時的脱毛)
• これは正常な現象で、毛根は定着している

3〜6ヶ月

• 新しい髪が生え始める
• 移植部位の変化が実感できるようになる

6〜12ヶ月

• 髪が成長し、ボリュームが増す
• 約9割のグラフトが成長期に入る

12〜24ヶ月

• 完成形に近づく
• 本来の毛髪の太さになる

術後の注意点

頭皮への刺激を避ける 術後2週間は特に重要な時期です。移植した毛髪がまだ定着していないため、以下のような刺激を避ける必要があります。

• 患部をかいたり触ったりしない
• 帽子やヘルメットの締め付けを避ける
• 枕への強い圧迫を避ける(ネックピローの使用が推奨される)

血行を促進する行為を控える

• 飲酒
• 激しい運動
• 長時間の入浴やサウナ
• 喫煙(血行を阻害し、生着率を下げる)

直射日光を避ける 紫外線は頭皮にダメージを与え、生着率を下げる可能性があります。外出時は帽子をかぶるなどの対策が必要です。

定期的な診察を受ける 術後の経過観察のため、クリニックでの定期診察を受けることが重要です。不安なことがあれば、早めに医師に相談しましょう。

クリニック選びのポイント

植毛の成功は、クリニック選びに大きく左右されます。以下のポイントを参考に、信頼できるクリニックを選びましょう。

医師の経験と実績

植毛は高度な技術を要する外科手術です。年間の施術件数や症例写真の公開など、豊富な経験と実績を持つ医師がいるクリニックを選びましょう。

カウンセリングの充実度

初回カウンセリングで、以下の点をしっかり確認できるクリニックを選びましょう。

• 治療方法の詳細な説明
• 費用の明確な提示
• メリットだけでなくデメリットやリスクの説明
• 患者の希望や不安に寄り添った対応

アフターケア体制

術後のフォロー体制が整っているクリニックを選ぶことが重要です。

• 定期的な診察の実施
• 24時間相談可能な窓口の有無
• 術後のトラブルへの対応

費用の透明性

基本治療費やグラフトあたりの費用が明確に提示されているクリニックを選びましょう。追加費用の有無についても事前に確認することが大切です。

衛生管理

医療機関として適切な衛生管理がなされているか、設備が整っているかも重要なポイントです。

口コミや評判

実際に治療を受けた方の口コミや評判も参考になります。ただし、個人差があることを考慮に入れて判断しましょう。

よくある質問

Q4: 女性も植毛できますか?

もちろん可能です。女性の薄毛は広範囲に広がる傾向があるため、全体的な密度を高める治療が行われます。女性の場合、200〜400株程度の植毛で改善が見られることが多いです。

Q5: 植毛は保険適用されますか?

基本的に保険適用外(自由診療)となります。ただし、事故や火傷、自己免疫疾患などによる脱毛の場合は、一部保険が適用される可能性があるため、医師に相談しましょう。

Q6: 植毛後、元の髪も抜けますか?

移植した毛髪は半永久的に生え続けますが、元々生えていた他の部分の髪はAGAの影響を受ける可能性があります。そのため、植毛後も薬物療法を併用することを勧められる場合があります。

Q7: 植毛の傷跡は残りますか?

FUT法では後頭部に線状の傷跡が残りますが、髪で隠すことが可能です。FUE法では小さな点状の傷が残りますが、ほとんど目立ちません。

Q8: 一度の手術でどのくらい植毛できますか?

FUT法では2,000〜3,000株程度、FUE法では2,000株程度が一般的な上限です。広範囲の薄毛の場合は、複数回に分けて手術を行うこともあります。

Q9: 植毛後、いつから仕事に復帰できますか?

職種にもよりますが、デスクワークであれば翌日から復帰可能な場合もあります。肉体労働や接客業の場合は、2週間程度の休暇を取ることが推奨されます。

Q10: 植毛の効果はいつ実感できますか?

移植した髪は一度抜け落ちた後、3〜4ヶ月程度で再び生え始めます。効果を実感できるのは術後6ヶ月頃からで、完成形になるのは12〜24ヶ月程度かかります。

まとめ

植毛は、薄毛治療の選択肢の中でも根本的な解決が期待できる治療法です。特に自毛植毛は、日本皮膚科学会のガイドラインでも推奨度Bと評価されており、科学的根拠に基づいた有効性が認められています。

FUT法とFUE法という2つの主要な手術方法があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。患者様の薄毛の状態、希望するヘアスタイル、ライフスタイル、予算などを総合的に考慮して、最適な方法を選択することが重要です。

植毛の初期費用は高額に感じられるかもしれませんが、一度定着すれば半永久的に髪が生え続け、メンテナンスも基本的に不要です。長期的なコストパフォーマンスで考えると、継続的な治療が必要な薬物療法やウィッグと比較して、経済的である場合も多いです。

ただし、植毛は外科手術であり、術後のダウンタイムや適切なケアが必要です。また、すべてのグラフトが生着するわけではなく、一時的なショックロスなどのリスクもあります。これらのメリット・デメリットを十分に理解した上で、信頼できるクリニックで治療を受けることが重要です。

参考文献

1. 日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」 https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf

監修者医師

高桑　康太 医師

略歴

• 2009年　東京大学医学部医学科卒業
• 2009年　東京逓信病院勤務
• 2012年　東京警察病院勤務
• 2012年　東京大学医学部附属病院勤務
• 2019年　当院治療責任者就任

佐藤　昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

• 2010年　筑波大学医学専門学群医学類卒業
• 2012年　東京大学医学部付属病院勤務
• 2012年　東京逓信病院勤務
• 2013年　独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
• 2015年　国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務